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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 大・逆・転!
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/19 07:59
「……大金星一つゲット、ってね」
「えへへ~。これでイチゴデザート食べ放題への第一歩だ~~」
 シャルルを撃破し、喜び合う二人。そんな二人を、俺は半ば呆然としながら見ていた。
「もうこれは駄目だね~~」
 さっきまで俺達を攻撃していたブラッド・スライサーが地面に落ちる。
それは、刃の部分がボロボロになっていた。それだけ、彼女の放つ攻撃が激しかったからだろう。……え?
「ろ、ロミ!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよー。もう少し、だもんねー」
 アウトーリさんの打鉄が倒れかかり、白式のハイパーセンサーが、疲労が濃く残る彼女の顔を映す。
その姿が、何故かクラス対抗戦前の頃の宇月さんとダブった。
……彼女も、あの頃の宇月さんと同じような努力を積んできたのだろうか。……それなのに、俺は。
「くそっ!」
 彼女達を一般生徒だからと舐めていた。だからこそ、あの猛攻に押されっぱなしだった。
でもこうなった以上、俺一人で彼女達に勝つしかない。
「だけど、どうする……?」
 あの二人のコンビネーションは、かなり高い。一方の攻撃には必ずもう一方が反応し、間合いを敵に渡さない。
「一夏、ごめん……油断してたよ」
「シャルル……」
 無念そうな表情で、シャルルがアリーナ内の非戦闘地域――アリーナのバリアーに守られた、安全域へと向かう。
ピットに戻る事も出来るが、俺の戦いを見守ってくれるのだろうか。
「……俺に残ってるのは、3分の1ちょっとのエネルギーだけ。それだけで、シャルルを撃破した二人と戦う、か」
 俺は、自身の状況を省みていた。普通の生徒だから、大丈夫。そんな事を試合開始前に言っていた自分に腹が立っていた。
だけど、そんな事をしていても何も変わらない。勿論、このまま無策で突っ込んでいっても負けるだけだろう。
「せめて、あの二人の連携を崩せれば……な」
 だが、あの二人の連携は間違いなく俺とシャルルのそれさえ上回る。事実、さっきまでシャルルでさえ攻めきれなかったんだからな。
「一方を攻撃すれば、もう一方が確実にフォローにくるからな……。くそ、瞬時加速でも二人同時には無理だろうし……」
 ……待てよ? なら……。ひょっとすれば……。……よし!
「やってやるさ……!」
 昨日の夜の絶対防御の拡大だって、上手くいったんだ。
千冬姉より受け継いだ武器・雪片弐型を持っている以上。このまま、ズルズルと負けられないからな!!




「すすすすす、凄いですよあの二人! まさかデュノア君を撃墜するなんて、思いませんでした!!」
 モニタールームでは、山田麻耶が興奮のあまり仕事から手を離しかけていた。
その動かした手で無自覚に強調されてしまう胸に、一部教師から恍惚の視線が向けられているが、当人は気付いていない。
「……砂漠の逃げ水も、雪崩の前に押し流されたか」
「ええ。これであとは織斑君一人、ですね。――このままいけば大金星ですが。織斑先生、どう見ます?」
「確かに織斑が圧倒的不利な立場におかれたのは間違いないでしょう。――このままだと、負けるでしょうね」
「え、えええ!?」
 話題の二人の担任である智子と、今現在ピンチである一夏の実姉である千冬の発言に、今度は別の意味で落ち着かなくなる麻耶。
そんな彼女に、千冬は苦笑いを漏らしながらコーヒーカップを取り出した。
「コーヒーでも飲んで落ち着け、山田君。糖分が足りないから落ち着かないんじゃないのか?」
 副担任を落ち着かせようと、コーヒーサーバーからコーヒーを注ぎ、カップに砂糖を入れようとする担任。一見はそんな構図だったが。
「……あ、あの織斑先生。それは塩ですけど?」
 それを聞いた千冬の腕が、塩の瓶の蓋を開けたところで止まった。なお、砂糖はその隣にあった。
「……何故、塩がこんなところにあるんだ?」
「ああ、すいません。それは、私の私物です。さっき、自炊用に買っておいた塩を瓶に移し変えて、其処に置き忘れたんです」
「新野先生……。こまりますね、公私混同は」
「でも、織斑先生も弟さんの事がやっぱり心配だから、そんなミスをしちゃったんですよね? 昨日だって――」
「……南無阿弥陀仏」
 雉も鳴かずば撃たれまい。そんな諺を体現したような発言をした麻耶に、新野智子が念仏を唱えた。……何故なら。
「……」
「あ、あの、お、織斑先生? な、何をなさっているんでしょうか?」
 千冬が一度止めた腕をそのまま動かし、コーヒーに塩を入れてかき回し始めたからだった。
明らかに味に影響のある大量の塩、それを無言のままでかき回す姿は明らかにいつもと雰囲気が違う。
そして千冬は麻耶の疑問にも答えず、ただひたすらに。全て溶けよと言わんばかりにかき回す。
そして暫く経って完成した、完全に大量の塩が溶け込んだコーヒー――それを、麻耶に差し出した。
「山田先生、どうぞ」
「で、でもそれって塩入り……」
「いいから、塩の入ったコーヒーも試してみるといい。ダイエット効果もあるらしいぞ?」
「で、でもそのお塩は新野先生のものですし、新野先生が――って、いない!?」
 既に、新野智子は退席していた。他の教師達も一心不乱にモニターを見つめていて、助け舟を出す気はないらしい。
「さあ、私の淹れたコーヒーだ。一夏ほど美味くはないだろうが、飲んでみてくれ」
「い、いただきます……」
「熱いので、一気に飲むといい。さあ、グイッと『逝』け」
 ……なお、結果は山田麻耶の名誉の為に述べないが。この惨劇は、教員の間でのみ語られる秘密の一つとなったという。


 シャルルが安全域に退避して。一夏が、雪片弐型を握り締めたままピクリとも動かなくなっていた。
そんな一夏に、シャルルを撃破した少女達は怪訝そうな視線を向ける。
「うーん。仕掛けてこないけど、まさか、諦めたのかな~~?」
「だとしたら、ラッキーだけど。……それはなさそうよ?」
 現在のシールドエネルギーの残留値は、一夏が37%・真美が87%・ロミーナが41%。シャルルは撃墜されてしまったので0%。
判定勝敗の基準値となるシールドエネルギー平均値は、一夏・シャルルペアが18.5%、真美・ロミーナペアが64%だった。
つまり、このまま逃げ続ければほぼ間違いなく真美・ロミーナペアの勝ちであるが。
「確か、五倍だっけ?」
「ブラックホールコンビの二人は、そー言ってたね~~」
 零落白夜。自分のシールドエネルギーを消費する事で相手のシールドバリアーやエネルギー攻撃を無効化する、白式の能力。
消費したシールドエネルギーの五倍のエネルギーを削り取れるこの能力。
それを駆使されれば、一夏一人で二人を落とす事も不可能ではなかった。――そして、一夏は僅かに動くが。
「雪片弐型を、通常モードのまま……ね」
「そうなるよね~~。それで、命中の瞬間だけ零落白夜にするんだろうね~~」
 二人が、また集中を高めあう。――この時彼女達は、既に奇策や裏技の半分以上を使い果たしていた。
だが、ここまでやったのに負けるわけにはいかない。
「それじゃ、行くよ~~」
「ええ」
 通常の飛行速度で近づくロミーナ。右手にレッドパレット、左手にシールドを構えて牽制射撃の準備に入る真美。
瞬時加速で真美狙いに来ても、防御シールドで直撃を防ぎ、ロミーナとの挟み撃ちで攻撃する。そんなつもりだったのだが。
「むむ~~。逃げるか~~」
「まあ、やりあうよりは良しとしたのだろうけど。――甘いわよ?」
 一夏は、珍しくも後退した。そんな態度に、生徒達からもざわめきが漏れる。
「織斑君、どうしたんだろう?」
「まさか、諦めちゃったのかな?」
「あいつに限って、それはないような気がするが……」
「そうね、安芸野君の言うとおりだわ。織斑君の狙いは――」
 三組生徒達のその言葉に合わせるように、一夏がある地点で止まった。そこは先ほど、ロミーナの『雪崩』攻撃をシャルルが受けていた場所。
そこには、雪崩の攻撃を受けてボロボロになった物理シールドが捨てられていた。
「なるほど、それ狙いか~~」
「せめてパートナーの物理シールドでも使おう、って事なんでしょうけど――甘いわよ!!」
 真美が、シールドとレッドパレットを収納し、その代わりに両手にアサルトカノン・ガルムを持つ。
そこから発射されるのは、一発一発の破壊力を重視したISアーマー用徹甲弾。
「これに落とされるか、ロミに切り刻まれるか。選びなさい!!」
 徹甲弾が連射される中。一夏が楯を持ち『地上に降り立ったまま』瞬時加速で移動した。その移動先は――春井真美の直下。
「あいつ――リヴァイヴカスタムを先に狙ったの!?」
「だ、だけどあれじゃあ……!!」
「連続瞬時加速でならばともかく、あれでは読まれてしまいますわよ!?」
「織斑君……焦った?」
 鈴が、ティナが、セシリアが、静寐が。そして観客の多くが一夏の悪手だと判断した。
そして真美も、ガルムを直下に向け、目論見どおりにいった事への笑みを漏らす。
「それは狙い通り――って、あれ?」
「私狙い~~?」
 そして徹甲弾を発射するが、それは命中しなかった。
何故なら、一夏がそこから急上昇して攻撃したのは――真美の援護に向かおうと動いていた、ロミーナだった。
「でも~~それも予想通り~~」
 だが、彼女もスフィダンテ――代表候補生レベルの力量と認定された者。――即座に得意技である連続突き『雪崩』での迎撃を選ぶ。
その攻撃速度ならば、突撃してくる一夏を十分に打ち負かせる……筈だった。
「楯なんて、突き破るよーー」
 一夏が自身の正面に向けてくる楯を、即座に攻撃対象にする。――そして攻撃が命中する直前、一夏はその楯に脚を当て。
自らは『ほんの僅かだけ』瞬時加速し、その反動を加えて蹴った。
「ふえ!?」
 その蹴りの威力は、大した物ではない。だが、ロミーナの想定した以上の速度と威力とを伴い、剣と激突した楯。
その威力ある突きの反動も、当然ながら想定以上のものとなって彼女に襲い掛かった。衝撃の大きさは、速度の二乗。
瞬時加速ではない急上昇と『雪崩』との速度差からいって、停止した物を撥ねる車だった筈の『雪崩』が。
運転中の車同士の正面衝突のような衝撃を、ロミーナに与える事になってしまった。
「う、嘘!? ――あっ!」
 その衝撃と、積み重なった疲労と、ほんの僅かな油断。それが、少女の手からブラッド・スライサーを取り落とさせた。
「け、剣はまだあるよ……っ!?」
 一組の癒し系・布仏本音と似た目が、大きく開かれた。次なる剣を展開しようとした矢先。
すぐさま再接近した一夏の雪片弐型が、打鉄の腕部装甲の隙間――手首を打っていた。零落百夜ではないので、シールドは無効化できないが。
「あ、あれは!?」
「籠手を打ったか!!」
 戸塚舞が、そして箒が、観客の中の剣道経験者全員が理解したとおり。剣道における、籠手を打つのと同じだった。
装甲の隙間を打ったため、シールドバリアーの減少も大きく。更に――せっかく展開した剣を、またも取り落としてしまう。
「――捕まえたぜ!!」
「あわわわわわ!?」
「さっき、君がシャルルに言った弱点を、そのまま返す。君も……両手を封じられると何も出来ないだろ!?」
「……!」
 そして素手になった打鉄を、白式が捉えた。――それは、先ほど一夏自身が真美にやられていた物と同じポーズ。
「ううう~~!!」
「ろ、ロミ!!」
 後ろ手につかまれ、空中で足掻くロミーナ。そんなパートナーを救出せんと、即射性の高いライフルを構え接近する真美だが。
――次のアクションも、一夏が先手を取った。
「俺と一緒に、落ちてもらうぜ!!」
「え、えええええ~~!?」
 瞬時加速。本来は上空や左右前後に向けて行なうであろうそれを、地面に向けて行なった。――結果。
「ぐううううっ!!」
「あぐううううううう~~~~!!」
 白式と打鉄が、地面に激突した。特にダメージが大きいのは、下敷きになった打鉄。更に――。
「悪いな!! ――零落白夜、発動!!」
「きゃうううう~~!?」
 白き輝きが発生し、背中から突き刺さって打鉄のシールドエネルギーを削っていく。
「ううう~~~~!!」
 地面と一夏とに挟まれた彼女は、逃げる事は出来ない。元々今までの激戦で削られていた分、耐え切れず。
あえなく、シールドエネルギーをゼロにされてしまった。
「ろ、ロミ……!」
 あっという間に頼りになる前衛を失い、愕然とする真美。
そして先ほどシャルルの撃破に沸き立ったアリーナも別の意味で沸き立っていた。
「す、凄いね織斑君……。まさか、ロミの為に作戦を考えていたのかな?」
「いや、一夏は、偶々やったら上手くいった――って感じだと思うぞ。クラス対抗戦のとき、俺の岩戸も、二回目で破られたけど。
あいつ、たまたま収納(クローズ)と展開(オープン)を併用したら上手くいった……とか言っていたぜ」
「ブリュンヒルデの血……なのでしょうか?」
「さあな。都築のいうようにそうなのかもしれないが……どっちにせよ、これでまた勝負は一夏達の方に天秤が傾いたな」
 一進一退の攻防が繰り広げられる、名勝負。のちにこのトーナメントのベストバウトの一つに挙げられる事になるこの試合。
まだまだ、その結末は解らなかった。




「……凄いね、一夏は」
 アリーナの安全域で、撃墜扱いになったリヴァイヴを展開したまま。僕は、感心していた。
あのスフィダンテに認定されたアウトーリさんを、あんな形で打ち破るなんて思わなかった。
本来なら、撃破された僕はピットに戻るべきなんだろうけど。やっぱり一夏が心配だから、ここでの応援を選んだ。
「うーー。負けちゃったよーー」
 半ば涙目になりながら、アウトーリさんがやって来た。……彼女には、本当に苦しめられた。
あの『雪崩』という連続突きと、ヴァルカン・マルテッロ。正直、意外すぎる実力者だった。
「お疲れ様。アウトーリさん。これで後は、春井さんと一夏だけだね」
 シールドエネルギーに差はあるけど、勝機は出てきただろう。なんたって、一夏は一対一でオルコットさんと勝負してきた。
春井さんも確かにかなりの射撃の腕だろうけど、一対一なら……。
「んふふー。真美を甘く見ない方がいいよー」
「……え?」
 だけど。アウトーリさんは、パートナーの勝利を信じている目だった。




「まさかロミがやられる、なんてね。――だったら、これよ!!」
 春井真美が次の手として選択した武器。半分に割った大きなボールのようなものが先端部についた、杖のような武器だった。
「格闘武器……?」
 一夏も入学以来多くの武器を見てきたが。そのどれとも似ていない、奇妙な武器であった。
事実、アリーナの観客達も半分ほどは正体が解らず困惑する。そして、理解できた者は――それぞれ、感心や動揺を顔に浮かべた。
「一夏さん、逃げてぇ! それは――」
 セシリアの声を掻き消すように。振り下ろされた杖の先端部から、無数のベアリング弾が広範囲発射された。
 真美が展開したのは、一見は格闘武器に見えるが、その正体はまるで違う代物。
イギリス製の『珍』兵器の一つ。鉄の豪雨(アイアン・ダウンプーア)といわれる、広範囲用射撃兵器だった。
「う、うおっ!?」
 上空から雨霰のように降り注ぐベアリング弾の範囲から、何とか逃げ出す。
先ほどの『雪崩』との衝突でボロボロになった楯が地上に落ちていたが、ベアリング弾の雨でとうとう砕けてしまった。
「ロミがいる間は、怖くて使えなかったけど……今なら自由に使えるわ!! この攻撃は、避けられないわよ!!」
 この武器は、宇月香奈枝が一回戦で使った『鉄の暴風』と同じベアリング弾を、半球状の部位からばら撒く兵器である。
半球状であるこの武器を二つ同時に使用すれば、ほぼ全方向への攻撃が可能になる。
しかし必要な量子変換領域の大きさや、攻撃範囲が広すぎるゆえに生じてしまうパートナーを巻き込む恐れ。
それらが原因で、タッグバトルとなった今回の学年別トーナメントでは、あまり使われない筈の武器――だったが。
「一対一になった今なら、どんどん使えるからね!!」
「うおっ!!」
 ベアリング弾を全て吐き出したブロックが排除され、その内側から新しいベアリング弾の層が突き上げられてくる。
この武器は、幾つかのベアリング弾の層が重なっている武器であり。絶え間なく降り注ぐ鉄の豪雨に、近づけない。
瞬時加速を使っても、加速がついた状態で攻撃を受けてしまえば被害はかえって大きくなる為だ。
「さあさあ、鉄の豪雨は、まだまだあるわよ!」
「くそっ!」
 結局。一夏は瞬時加速を使う隙を窺いながら、ベアリング弾の攻撃をしてくる相手から離れるしかなかった。
それでも、少しづつシールドエネルギーは削られていく……。
「一夏! 攻めていかないと駄目だよ!!」
「お、おう!」
 安全域からのシャルルの応援が飛ぶが、その機会が窺えない。エネルギー減少を気にする一夏にも、苦悩が見え始める。
(くそ、半球を二つ合わせて球状にしているのかよ……いや、待てよ?)
 一夏が何かに気付くと同時に、ベアリング弾の雨がようやく終わった。杖から放たれるベアリング弾が途絶え、新しく展開もしない。
「……今だ!」
 弾切れと見たか、一夏が瞬時加速の準備に入る。――だが、真美は笑っていた。
「ごめんね!」
 弾切れかと思われていた鉄の豪雨から、再びベアリング弾が発射された。向かってくる一夏に、加速のついたダメージを与える……筈だったが。
「え?」
「半球を二つ合わせれば、球になる。……だけど、その武器は合わせられないよな! 自分を巻き込まない為に!!」
 一夏が瞬時加速で向かったのは、またしても真美の直下だった。――そう。鉄の暴風は、半球状の部位から弾を放つ武器であるが。
二つを同時使用したとしても、使用者が存在するスペースにまでは攻撃するはずもない。穴が、存在したのだ。
「貰ったぜ!!」
 再び瞬時加速を使用し、昇竜のようにラファール・リヴァイヴカスタムに襲いかかる白式。だが――。
「見破った――と思った先が地獄への入り口よ!!」
 真美が、笑いを浮かべたまま『鉄の豪雨』を握り締めた。その杖の柄、その先端部が外れ、中から出てきたのは――。
「銃口!?」
「二年の整備課の先輩――野々村先輩に作ってもらった仕込み銃を受けなさい!!」
 杖の柄に偽造されていた銃口から、レッドパレットに使用されるものと同じ弾丸が放たれた。
通常ならば、さほどダメージを与えられる攻撃ではないが。瞬時加速中は、その加速状態ゆえに受けるダメージも大きい。
瞬時加速をしてくる一夏への、カウンターとして使用した仕込み銃の弾丸は、一夏に襲い掛かり――地面に命中した。
「……え?」
 真美が、一瞬呆けた。まるで、幻のように自身の視界から一夏が消え。そして避けられた弾丸が、その下の地面に命中したのだ。
「真美ーー右だよーー!!」
 ロミーナの悲鳴と共に、真美も気付いた。――零落白夜を発動させた一夏が、すぐ隣にいる事に。
「騙しあいは――俺の勝ちだ!!」
 零落白夜の光刃が、リヴァイヴカスタムに襲いかかる。
シールドエネルギーが嘘のように消えていくが――真美も、そのままやられはしなかった。
「クロウならっ!!」
 IS用ハンドガンの一種・クロウ――米国産の武器で、その長所は早い発射速度と使い勝手のよさ――を展開し、白式を撃つ。
同時に、スラスターを全開にし、一夏から離れた。
「くそっ……しとめ切れなかったか」
「……こっちこそ。完全に引っ掛けたつもりだったのに、あんな形で避けられるなんて思わなかったわ」
「あれ、解ったのか?」
「ええ。――瞬時加速の、連続使用でしょう?」
「ああ。ぶっつけ本番だったけどな」
 瞬時加速の連続使用。これを極めれば、連装瞬時加速(リボルバー・イグニッションブースト)といわれるようになる技術。
一夏は、それを『知らないままに』真似したのだった。まず、真美の直下から一度目の瞬時加速をして直下に回りこんだ。
だが、彼女も瞬時加速で近づく自分への対策を何か練っているであろうと予測して。
――鉄の豪雨に仕込まれた銃を認識すると同時に、彼女の右へと『もう一度』瞬時加速したのだった。
彼女の意識が直下に集中しすぎていた故に、まるで一夏が消えたようにも見えたのだが。一夏も、ただでは済んでいなかった。
(くっそ、無理しすぎたな……)
(あと少しでも零落白夜をくらっていたら……逆転負けだったわね)
 瞬時加速の連続使用は、元々、代表候補生レベルでさえ上手く扱えるとは限らない技術である。
ISでさえ消しきれないGの連続が、操縦者への大きな負担となり。一夏の顔に、脂汗を浮かばせる一因となったのだった。
それだけの代償を払った結果、リヴァイヴカスタムのシールドエネルギーを大きく削る事は出来たのだが。もう一度は出来そうには無かった。
真美の方からしても、二度とやって欲しくない事ではあったが。
「試合時間は……残り、五分か」
「試合時間……五分もあるのね」
 図らずも、同じように時間を気にしだしたが、一夏は五分『しかない』と感じ。真美は五分『もある』と感じる。
それぞれに、対照的でありながら同質の焦りが生まれてくる中。
「俺は――攻めていくしかない!!」
 まず動いたのは、一夏だった。真美はこのまま何も起きなければ勝てるのに対し、一夏は真美を倒さなければ意味がない。
既にシールドエネルギーも二割を切っており、勝負に出た。
「でもそれは、目論見どおりよ!!」
 リヴァイヴカスタムが、銃器を構え――逃げに入った。機動性に優れるリヴァイヴを、更なる性能向上を目指しカスタムを施した機体。
操縦者補助システムを取り除いた代わりに、基本性能を向上させた機体――それがリヴァイヴカスタム。その動き方は。
「あの動き……まるで、出鱈目だわ」
「瞬時加速を警戒して、移動予測をさせない為……か?」
 まるで法則性のない出鱈目な動きだった。上昇するかと思えば急下降。右に行くかと思えば左に、前進するかと思えば斜めに。
5メートルほど移動したかと思えば、空中で反復横とびのような左右移動をする。
全て、瞬時加速で距離を詰められないようにする為の移動だった。しかし、銃口はしっかりと白式に向けられている。
「く……」
 攻撃を先に仕掛けたはずの一夏だが、攻める方向を決めかねていた。こういうタイプとの交戦経験が、彼には少ない。
しいて言えば子機を持つブルー・ティアーズとのそれが近いが、真美の動きはセシリアと比べても異質だった。
射撃武器を使う者にとって必要な、位置取り。それも、彼女は上手いのだ。
「……」
 だが、真美にとってもこれは負担の大きい物だった。ISの自動操作と自身の移動方法を混ぜ合わせたランダム移動。
だが、一歩間違えば一夏に移動先を読まれてしまう。そうなれば瞬時加速→零落白夜のコンボをくらいかねない。
(このまま、逃げ切ってみせる!)
(このまま、終われるかよ!!)
 似たような、しかし対極的な焦りを押さえつつも。攻撃を伺い、それを食らうまいとする二人。……そして。
(こうなったら――被弾覚悟で突っ込んでやる!!)
 まず、一夏が先手を選んだ。真美の移動先を予測し、そこへと瞬時加速で突撃する。
(動いた!!)
 だが真美は、最後のレイン・オブ・サタディから散弾を放つ。シールドエネルギーを削る為、というよりは動きを牽制する為の一撃。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
 それに一夏が動じず、自分のほうに近づいてくるのをハイパーセンサーで捉えた時。真美は、最後の切り札を使う準備をした。
一夏の構える雪片弐型の間合い、それがどんどん近づいてくる。――そして。
「……パージ!」
 すると、リヴァイヴカスタムの装甲が次々と剥がれ落ちた。更識簪が、クラス対抗戦の乱入者二号――ケントルムにやったのと同じ。
装甲パージによる、機動性の上昇である。逃げるリヴァイヴカスタム、追う白式。そのレースに、僅かながら優位に立つため――だった。
しかし、これが最後の切り札ではない。――パージされた装甲の中から、渦巻き模様の書かれたクラッカーが出現したのだった。
「これが私達の最後の切り札! ――レンジ・パニッカー!」
 そのクラッカーを投擲すると同時に、強烈な放電がある。これこそ、間合いの困惑者――レンジ・パニッカーだった。
「!?」
 その放電が終わると同時に。リヴァイヴカスタムを捉えていた筈の白式のモニターが、一瞬だけ乱れた。
ごくごく僅かな時間ではあるが、ハイパーセンサーが飽和するほどの情報量を叩き込んでセンサーを無効化するもの。
それにより、間合いが狂わされてしまう物。ゆえに、古賀水蓮特製のこのクラッカーは……レンジ・パニッカーと呼ばれるのだった。
「落ちてぇぇぇっ!!」
 止まった瞬間。後退しつつ、銃器を乱射する。そのまま、白式のシールドエネルギーがどんどん削られていくのを確認した。
「こなくそおおおおおおおっ!!」
 だが、一夏はまだ前進を続けていた。その手に握る雪片弐型から零落白夜の光刃を生じ、それを振りかぶってくる。
「近づけさせないっ!」
「倒してみせる!!」
 二人の視線が交じり合い、ついに零落白夜の光刃が再び真美に向けられた。――そして。
「「!」」
 零落白夜の光刃が、僅かに――届かなかった。先ほどパージした装甲の分、リヴァイヴの反応速度が僅かに上昇し。
その上昇した分だけ、回避反応が良くなっていたのだ。
(勝った……試合終了よ!!)
 これで、白式のシールドエネルギーは零落白夜によりゼロになる。春井真美は、勝利を確信した――が。
「伸びろーーっ!」
「零落白夜が……伸びた!?」
 一夏の必死の声に合わせるように。今まで強大なエネルギーを固めた剣、であった零落白夜が変化した。
細く、長くなったその刃は日本刀のようで。間合いを取り違えたリヴァイヴ・カスタムを貫いていた。
そしてその直後、白式のエネルギーがゼロになり零落白夜は終了する。
「……届いた、か?」
『――そこまで! 勝者、織斑・デュノアペア!!』
 その宣告と同時に映し出されたモニターには、シールドエネルギーの減少していく様子が秒単位で表されており。
零コンマ何秒差かで、リヴァイヴカスタムのエネルギーが先に削りつくされていた。
「くうっ……」
 そして、春井真美が力を落とした様子で地上へと降り立った。そこへ、ロミーナがやってくる。 
「ごめん、ロミ……あと少し、あと少し耐え切れたら大金星だったのに……」
「しょうが、ないよー……あとは、皆に任せよー……くー」
 フラフラな二人――というか、ロミーナは居眠りをしている――が、肩を貸しあいながら退場していった。
そんな彼女たちに向けられた拍手は、勝者である一夏・シャルルペア以上だったという。




「危なかったね、一夏」
「……ああ」
 ピットに戻った俺は、ようやく安堵の息をついた。後もう少し『何か』が失敗していたら、俺達の負けだった。
それは、俺達自身が一番よく知っている。そして、リヴァイヴと白式とを共に解除し。
「シャルル。……俺を一発引っぱたいてくれ」
「え? ど、どうしたの一夏?」
「勝負はいつも真剣にやる事。それを忘れていたからだ」
 俺は、シャルルへと頬を差し出した。彼女達を舐めていた事。それが、何よりも俺達の苦闘の原因だった。
「でも、それは僕もお互い様だよ。僕も、少し彼女達を甘く見ていた所があると思う。だからこそ、あそこまで苦戦したんだと思うし」
「シャルル……」
 これが箒だったら『よし……歯を食いしばれ!』と殴ってくるだろう。それはそれで良いんだけど。
シャルルらしい、あくまで自分への反省を忘れない一言だった。
「――織斑、デュノア、いるな」
「織斑先生……。どうしたんですか? 僕達に、何か?」
「用事があるのは、織斑の方だ。――どれ」
 いきなりピットに入ってきた千冬姉。何をするのか、と思ったら俺のわき腹を指でなぞった。……!?
「い、痛え――!?」
「ふむ、やはり骨にひびが入っているな。すぐに医療室に向かえ」
 わき腹から、かなりの激痛が走る。ひ、ひび?
「先ほどの、瞬時加速の連発によるものだろうな」
「で、でも織斑先生。骨にひびが入っているなら、一夏を運ぶのに救護班の人を呼ばないと……」
「正論だが、お前が担いでいく方が早いだろう。――デュノア、ISの展開を許す。織斑を運べ」
「え? あ、は、はい!!」
 千冬姉の指示を受け入れると、シャルルは自らのISを展開してピットを出てアリーナ内の医療室に向かった。
リヴァイヴにもダメージが残っているが、人間一人を抱え上げる位ならば何の支障もないだろう……けど。
「な、何か恥ずかしいな。……シャルルに担がれるなんて」
 男が女を担ぎ上げるならともかく、逆というのは……っと、そんな事言ったら不味いか。
「良いんだよ、一夏はけが人なんだから。――じゃあ今度、僕を抱っこしてくれる?」
「お、おう!」
 何か嬉しそうなシャルルだが。まあ今現在は俺が担がれているんだから、そのお返しとして担ぎ返すのもありだな……と思っていた。


「織斑君、お疲れ様でした。……あら。デュノア君は、一緒じゃないんですか?」
「どうも、山田先生。シャルルは、ちょっとトイレに行ってるんです」
 一時間くらいして、治療も終わった頃に山田先生がやって来た。シャルルは現在、アリーナのトイレを使用している。
今の時期のアリーナは、来賓の男性用に幾つかのトイレを男性用にしているので。男装しているシャルルでも、普通に使えるのだ。
「と、トイレだったんですね、あはは」
 妙に恥ずかしがる山田先生。いや、別にトイレってだけですから、恥ずかしがるような事でもないような気がするんですが。
「そ、それよりも、織斑君。織斑先生から聞きましたが、怪我は大丈夫ですか?」
「活性化治療を受けましたから、平気です。激しい運動をしたりしなければ、明日には完治しているって言われました」
「そうですか、良かったです。――でも織斑君、無茶は駄目ですよ? 無茶をしすぎて怪我をしたら、皆が心配します」
「はい……」
 今回の骨にひびの原因は、あの瞬時加速の連続使用らしかった。試合終了してすぐまではアドレナリンで痛みを感じなかったが。
さっき千冬姉になぞられ、ここにきて治療を受けるまでは無茶苦茶痛かった。
子供に言いきかせるような口調の山田先生にも、俺を案じている事が解るだけに、反論の言葉もなかった。
「……ふふ。でも織斑先生、試合が終わるとすぐにピットに向かったんですよ。やっぱり、心配だからでしょうね。――はっ!?」
 何か、凄く警戒している表情だったが……しばらく周りを見回していたと思うと、安堵の表情になった。
「ふう、大丈夫でしたね。それにしても……ふふ」
 ――あれ?
「……あの、山田先生。何か良い事でもあったんですか?」
 どちらかというとぶっきらぼうな千冬姉とは違い、山田先生は笑っている事が多い。困っている顔や、泣きそうな顔も多いんだが……
今の先生の顔は、物凄く嬉しそうな顔だ。シャルル達が転入してきた時、みたいな感じか?
「解っちゃいますか? ……そうですね。さっきフランシィ先生から貰った映像、織斑君には特別に見せちゃいましょうか」
「俺には?」
 はて、何だろうかと思い山田先生の差し出した、端末に映し出された物に視線を向けると。

『ご苦労、ボーデヴィッヒ。侵入者の全ての迎撃を確認した』
『は、はい! こ、この程度の任務などお茶の子さいさいです!!』

 暗いので、多分夜だろうけど。千冬姉(声だけ)と会話する、ドイツのアイツが映っていた。
これって何だ、と画面の端の日付を見ると。……! これ、昨夜の侵入者の一件なのか!!
『ほう、そんな言い回しをよく知っていたな?』
『はっ、以前教官が言っていたのを聞いた事がありましたので……』
『そうだったか、よく覚えていたな』
『い、いいえ。教官の言葉は、どれであれ忘れる事など出来ません!』
 その端末に映し出される、いつもとは全く違うアイツの声とその表情は、まるで別人のように晴れやかだった。
ふと、視聴している俺と視線が合う――つまり、この映像の撮影媒体と視線が合うと、途端に顔を冷静に保とうとするが。
口元が緩んでいるのが、俺にもわかった。な、何でいうか凄く意外だ。喩えるなら、顔のにやけた千冬姉ってレベルだ。
「こ、これがあいつですか?」
「はい。凄く可愛らしかったですよ」
 それは年相応の女の子のそれで。今までのあいつとは違う一面だった。
以前、俺達が楯無先輩から受けている訓練の場所に現れたあいつの所に、千冬姉がやってきた時ともまた少し違う一面だった。
「本当なら、侵入者の一件と関わるから見せちゃいけないんですけど……。織斑君はあの一件に参加していましたから、特別です」
「はあ。……でもこれ、アイツに無断で勝手に見せちゃっていいんですかね? 何か、これを知ったら怒りそうな気が……」
「……はう!?」
 全く気付いていなかったのか、山田先生が声を震わせた。
「や、やっぱり生徒さんに見せちゃったのは不味いでしょうか? でも、私はボーデヴィッヒさんの可愛らしい一面を皆さんに……。
いやいや、でもやっぱり本人の許可なしだと、肖像権にも関わってくるかもしれないですし……。
私も昔、代表候補生時代にコラージュを作られましたけど、やっぱり嫌だったですし……」
 困惑・思慮・回顧など百面相の山田先生はあたふたしていたが。身体を揺らせるたびに、その十代女子にはない膨らみが揺れて、目の毒だった。
「――何を見てるの、一夏?」
「しゃ、シャルル?」
「でゅでゅでゅ、デュノア君!?」
 いつの間にか、シャルルが戻ってきていた。何故か、じとっとした視線を俺達に向けている。
「そんなに慌てて。一夏、何を見ていたの?」
「いや、何でもないぞ?」
 昨夜の事は、シャルルにも内緒なのでいう事は出来ない。生徒では、楯無さんか鈴、あいつ以外には公言するなと千冬姉に言われたし。
「そそそそそそそそそ、そうですよ! 何でもありませんよ、デュノア君!!」
 ……山田先生。その言い方だと、何もない方が不自然に思えるくらい『何かありましたよ』と言ってるような物です。
「……そう、ですか」
 シャルルは何やらふくれっ面だった。はて、何か気に入らない事でもあったんだろうか?
「じゃ、じゃあ私はこれで失礼しますね」
「……僕だって、山田先生や篠ノ之さんやオルコットさん、布仏さんには負けてるけど、宇月さんや凰さんには勝ってるのに」
 俺にすら解る位にあからさまに慌てふためいて去っていく山田先生。そして何やら、頬を膨らませて謎の言葉を吐くシャルル。
うーん、何の事だろう。シャルルが山田先生・箒・セシリア・のほほんさんに負け。宇月さんや鈴に勝っている事……?
 ……身長か? 確かにシャルルは、箒よりは低いし鈴よりは高い。山田先生やセシリアとは……同じくらいか?
のほほんさんは……鈴と同じくらいだから、シャルルだと勝っていると思うんだけどな?
それに宇月さんはセシリアと同じくらいだから、シャルルが明確に勝っているとは言えない気がするんだが。




「さってと。ティナ、あたし達も明日は三回戦だから、そろそろ準備しましょうよ」
「そうね。それにしても、さっきまでは試合の興奮で忘れられていたけど。……まだ気が重いわ」
 まださっきの――デュノアと一夏VS三組生徒の試合の余韻が納まらない中、あたしとティナは寮へと向かった。
まあ、ティナが気が重いのも理解できる。あたしだって正直な話、少しブルーだ。何故なら……。
「まさか、二回戦でエリスとアナルダに当たるなんてね……」
 一夏の試合の前――今日の別アリーナの第一試合で、あたしとティナは二回戦を戦った。その試合は当然勝った。
だけど、その相手は――あたし達の友人、エリス・ゴールドマンとアナルダ・フォルトナーのペアだったのだ。
「あーあ、勝ち進めば当たるのは仕方がないけど。まさか二回戦で、なんてね」
「仕方ないでしょ、ティナ。それよりも、次の相手のことを考えないとね」
 一夏みたいに、一般生徒に苦戦するのだけは避けないといけない。……中国からの来賓は当然ながら明日の試合も見に来るだろうし。
「さ、行くわよティナ!」
「ま、待ってよ鈴! せめて夕飯のサーロインステーキセットは落ちついて食べさせてよ~! パインサラダは諦めるからさ」
 何なのよそのパインサラダって?
「それに明日は、本国からママも来るんだし!! 少しでも良い所、見せたいしさ!!」
「悠長ね、ティナ……」
「大丈夫だって。明日の相手も、代表候補生や専用機持ちじゃないんだしさ。何も怖くないって!!」
 笑顔で言うティナ。まあ、今日の二人や宇月みたいな滅茶苦茶やるのがそんなにいるとは思わないけどさ。
「それに鈴だって、明日の試合の後に織斑君に酢豚をご馳走する約束したんでしょ?」
「うぐ……」
 してやったり、の表情になるティナ。う、うるさいわね。偶々今日の昼食時に出会った時、あたしの食べていた中華定食に酢豚があって。
話の展開がそっちの方向に進んで、結果的に、し・か・た・な・く。そう、しかたなく、ご馳走してやる事になっただけなんだからね!!
「と、とにかく、明日の準備をしないとね!!」
「酢豚の?」
「試合のよ!!」
 まだからかってくるティナを振り切るように、あたしは走り出した。……頭の中は、酢豚の事と試合で勝つことだけで。


 だから、あたしは。いや、あたし達は考えもしていなかった。あたしとティナに、翌日待っていた運命について――。
 



蛇足:キャラクターの身長に関して(※香奈枝と本音以外はアニメ版設定)

 一夏 :172
 箒  :160
セシリア:156
香奈枝 :156
麻耶  :155
シャル :154
本音  :一夏とは身長差20センチ以上(MF版2巻35P、OL版2巻29Pより)
鈴   :150



 皆様にお知らせします。今回のお話について『サーロインステーキ』『パインサラダ』『マクロス』で検索をしないで下さい。
『家族との再会を予告』『戦いの後の約束』『もう何も怖くない』で検索をしてもいけません。
大丈夫ですから、絶対にしてはいけません。絶対にしてはいけませんよ。……お願いだからしないで下さいね。


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