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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 無理に、無理と無理とを重ねて
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/30 08:27

「大丈夫かよ、二人とも……」
「無理はしないでね……」
 第一試合に向かう私達を、午後からの試合予定である織斑君とデュノア君が、心配そうに見送ってくれる。
私達がボーデヴィッヒさん・篠ノ之さんと当たると聞き、心配になってきてくれたらしい。
ちなみに二人はDブロックの為、彼女達とは四回戦まで当たらない事が確定している。
「香奈枝、私達はどこまでやれるかしらね?」
「……せめて、AICは出させて見せるわ」
 正直な話、私にも意地がある。勝てるなんて思ってないけど、何も出来ずに惨敗――なんてのは御免だ。
「フランチェスカの方は、大丈夫?」
「ええ。篠ノ之さんの情報も頭に入れてるしね」
 ちなみにフランチェスカはラファール・リヴァイヴだけど、かなり銃器を多めに量子変換(インストール)してある。
そして相手――篠ノ之さんの使うISは私と同じく打鉄だろう。
そして彼女自身の言葉と、私自身が彼女の打鉄を整備した経験からその仕様も予想できる。
私が、操縦補助器具をそのまま載せたノーマル仕様――ただし、武器はいくつか特殊な物を入れた――に対し。
篠ノ之さんはそれらを拡張領域から排除して剣戟補助器具を代わりに量子変換した剣戟特化仕様。
……つまり、操縦者の力量だけじゃなくて機体性能だけ考えても、接近戦だと100%勝てない。
「ねえ、この武装も量子変換しておく?」
「そうね。それと、まさか一回戦から当たるとは思わなかったから、今から聞いておくわ」
 これでも『もしも専用機と当たったら』とは考えていないわけではなかったけど。
やっぱり易々とアイディアは浮かんでこず、ボーデヴィッヒさん・篠ノ之さんとのケースは、今朝ようやく思いついたのだった。
一回戦を勝ち上がれたら聞けばいいかな……と思っていたら、よりにもよって初戦の相手になってしまったので今『聞く』しかない。


『どうしたのよ、宇月。こんな時に電話なんて、あんたらしくないわね?』
 生徒用端末を使い、凰さんに電話する。オルコットさんでも良いのだけど、彼女は別アリーナで第一試合なので止めておいた。
「じつは凰さん。聞きづらい事を聞きたいの」
『……何よ、話してみなさい』
「じつは――」


『――って事なんだけど。これでいい?』
「うん、参考になったわ」
『良いのよ、あんたにはいっつも世話になってるし。――あんたの初戦の相手、箒とアイツなんでしょ?
じゃ、せいぜい怪我しないようにね』
「ええ、凰さん、ありがとうね」
 聞くべき事を聞き、何とかプランに一筋の光明が見えた……ような気がする。勿論、これを上手く実行できればの話だけど。
「あ、香奈枝。ちょっと良い? AICの破り方なんだけど」
「え?」
 ……何か今、さらっと凄く重要な事を言わなかった?
「ついさっき、本国から連絡があったの。――あのね、よく聞いて。AICは――」
 ……。さっきは神様を恨んだけど。その分のお返しが来ているんじゃないか、ってくらいナイスタイミングだった。
そういえば以前、オルコットさんの情報を集めていた時もフランチェスカが助けてくれたっけ?
確か、イグニッションプランのライバル国であるイギリスの第三世代機、ブルー・ティアーズの情報もくれたっけ。
「……って事なの。じゃあ香奈枝、そろそろ準備を始めようか?」
「ええ。やっぱり切り札は黛プラン、それと――これね」
 黛プラン。それは以前、篠ノ之さんから受けていた剣道訓練を休んでまで教えてもらった『裏技』だった。
そして私は、自分の打鉄に自身で選んだ装備を量子変換し始めるのだった。


「宇月、レオーネ……。まさか、お前達が初戦の相手だとは……」
「仕方ないわ、組み合わせは偶然だもの。……全力で、戦いましょう」
「そうそう! 私達を、甘く見ないでよ!」
「まずは貴様らが獲物か。まあいい、AICは使うまでもない、つまらない試合ではあるが……
飛びまわる小蝿を自分で叩き潰せる機会を得られたのだ。良い組み合わせだな」
 アリーナに飛び出た二機の打鉄と一機のリヴァイヴ。そして黒いIS、シュヴァルツェア・レーゲン。
ちなみに試合開始位置は、相手から一定距離を取れば自由。固まってスタートするのも、離れてスタートするのも自由だ。
私とフランチェスカはお互いに少し離れた距離をとって滞空し、相手のペアはそれよりも更に離れた距離で滞空している。
『一回戦第一試合。――始め!!』
 そして。私にとって、ある意味で入学してから最大の試練は始まった。


「……行くわよ!」
 私は、開始早々突っ込んでいく。……さあ、どう出るの?
「突撃を選択したか。――よし、あのラファール・リヴァイヴはお前が倒せ。こちらの打鉄は、私が潰す」
「宇月を、お前が?」
「弱い者から潰す。――戦争の基本だ」
「力量差は見抜かれてる、か」
 ボーデヴィッヒさんが、私に向かってくる。篠ノ之さんも納得したわけではなさそうだったけど、フランチェスカに向かっていった。
このパターンで取るべき戦術は、プランA。ガード重視の打鉄の私が、ボーデヴィッヒさんの攻撃を耐えていく。
そして火器を多く搭載したリヴァイヴのフランチェスカに、篠ノ之さんを撃破してもらい。
その後に2対1で戦うと言う作戦だった。……実際、この根本のアイディアをくれたフランチェスカは銃器系の扱いに長けている。
距離を取れば、剣戟特化の打鉄相手にはかなり有利に戦えるだろう。
申し訳ないんだけど、篠ノ之さんの動き方だとかは全てフランチェスカに教えてある。……これも、直接当たった不運よね。
僅かだけど、シールドエネルギー設定――篠ノ之さんは専用機がパートナーだから80%から開始――と共にアドバンテージになってくれるだろう。



「ううっ!!」
 だけど、間合いと機動が読みにくいワイヤーブレード6本が私に防ぎきれるわけはなかった。
絡みとられることだけは何とか防いでいたけど、先端の刃が次々と命中し、シールドが削られる。
「口だけだな、雑魚!」
 完全に自分の優位を確信し、ボーデヴィッヒさんが笑っている。……そろそろ、かな?
「おや、距離を取るか。――ふふ」
 このままじゃ削り倒されてしまうのは自明の理なので、距離を取る。……でも、この打鉄に遠距離武装は殆ど無い。
というか、ブレード以外の武器は『切り札』の類だけだ。
「さあ、まずは貴様を血祭りにあげてくれる!!」
 二本のワイヤーブレードが迫ってくる。……そこ!!
「ええいっ!! ハイパーセンサー、機能拡大!!」
 黛プランの一つ……一時的にハイパーセンサーの機能を拡大させるシステムを起動させた。
剣道訓練で篠ノ之さんの剣の速さを見続けていた分だけ慣れたのか、速いワイヤーブレードの動きも捉えられる。
そして私の狙いは、ワイヤーブレード……の、波打つワイヤー!!
「何っ!?」
「あ、当たった……!」
 自分で言うのも何だけど。剣道訓練の成果か、打鉄のブレード『葵』で奇跡的にワイヤー二本を切り裂く事に成功した。
本体から引き裂かれたブレードとワイヤーが、重力に従い地面に落ちる。
「き、貴様……!」
 本体には何の損傷もないので、シールドエネルギーの損失もゼロ。
でも、当人曰く『小蝿』にやられたとなっては彼女も冷静ではいられない。――よし、ブレード収納!
「ならば、本気でいかせてもらうぞ!!」
 そして、残る四本のワイヤーブレードが射出される。方向からすると、狙っているのは私の四肢だろう。
「なら、こうするだけ!!」
「突撃だと!? だが!!」
 相対するボーデヴィッヒさんから見て左寄りに突撃したため、右足と右腕が拘束される。――けど、左腕は無事。
「ええいっ!!」
「!?」
 ブレード『葵』を左腕に再展開し、右腕と右足の拘束を解く。遅れて、左腕と右足が拘束されるけど――。
「遅かったわね!!」
「ば、馬鹿な!?」
 それらのワイヤーも、全部切り裂けた。……実はコレ、アイディア元はクラス対抗戦の時の織斑君。
彼が、安芸野君の『岩戸』から延びてきた鎮腕に、わざと片腕を掴ませたように。
片腕だけをつかませれば、もう一方の腕でブレードを操ってワイヤーを切断できるんじゃないか。そう考えたのだけど。
「でも、ここまで上手くいくなんて……奇跡ね!」
「ば、馬鹿な……貴様などに、このワイヤーブレードを全損されるとは!!」
 かなりの距離があるけど、ハイパーセンサーで彼女の驚愕がはっきりと解った。……これには、黛先輩のお陰もあった。

『ねえ、香奈枝ちゃん。ボーデヴィッヒちゃん対策を思いついたんだけど。聞く?』
『は、はい。是非、お願いします』
『じゃあ、彼女のISで一番厄介なのって、何だと思う?』
『え? やっぱり、あのAICって停止能力じゃないんですか?』
『うん、それも厄介だと思うんだけど。実は、ワイヤーブレードの方が射程や応用などからすると厄介なのよ』
『そうなんですか?』
『そう。でもあのワイヤーブレード、ある分析によると、複数を操作するのは、かなり難しいらしいのよ』
『でも、五本くらいを同時に操っていたような気がするんですけど』
『それなんだけどね。あれって、自動操作に切り替えてるんじゃないかしら?』
『え!? そうなんですか!?』
『セシリアちゃんのブルー・ティアーズもそうだけど。
ああいう武器を同時に扱うのって、凄く難しいからね。その可能性は、あると思うの』
『そ、そういえばフランチェスカも、ブルー・ティアーズに関してそんな事を言っていたような……』

 そんな会話があって。そして、オルコットさん&凰さんと戦った時と、今。ワイヤーの動き方が、ほぼ同じだった。
だからこそ、剣道初心者でワイヤーブレード初体験の私にも切り裂く事が出来たのだと思う。あ。……フランチェスカは?
「……うん、まだ距離を取れてるわね」
 篠ノ之さんの距離――刀を振るう範囲に近づけさせていない。これなら――。
「余所見か? ――だから甘いというのだ!!」
「!」
 瞬時加速で接近してきたボーデヴィッヒさんが、思いっきり私を蹴る。とっさに物理シールドを展開したけど、かなり痛い。
「私を倒すには、まだまだ足りないわよ!」
「舐めるな、雑魚が!!」
 ちょっと挑発をしてみる。……物凄くドキドキして、怖かったけど。歯を食いしばって、私は次の作戦へと移行した。


「これで決めてやる!!」
「まだまだっ!!」
 私はプラズマブレードで切り刻まれた物理シールドを捨て、新しいシールドを展開させた。――さっきから、この繰り返し。
「ちっ……貴様、何枚の物理シールドを量子変換している!!」
「そんな事、貴女に言う義理は無いわね!!」
 ちなみに、正解は20枚。……ただそのうち、もう12枚が破壊されちゃったけど。
「ワイヤーブレードを切り落とした後は反撃もせず、ただ亀のように首を竦めているだけとは!!」
「生憎だったわね。――亀はずっと昔から姿を変えずに生きているくらい歴史が長いのよ?」
 今、私はボーデヴィッヒさんの手首に備え付けられているプラズマ手刀の嵐を耐えていた。フランチェスカ、まだなの!?
「うざったい、小蝿が!! ワイヤーブレードさえあれば、貴様など……!」
「ワイヤー系の武器も、推進装置の付いたブレード部分を落とせばただの紐、ってね!!」
 ワイヤーブレード。先輩の言っていたとおり、これはある意味ではAICよりも厄介だと思う。先端に刃をつけて襲ってくるワイヤー6本。
普通なら、私なんてあっという間に捕まってしまうだろうけど――それの無効化のヒントがあった。それは、久遠やロブが初めて戦った時。
ファティマ・チャコンさんは久遠が使っていたあの武器に対し、先端部ではなく、ワイヤー部分を狙撃する事で武器を無効化しようとした。
そう――この系統の武器は、先端部に推進力がありワイヤー部分は言ってみればただのワイヤーだ。
また、そうしなければ。ワイヤー全部にエネルギーを回そうとすれば、エネルギーが幾らあっても足りない。
――つまり、先端部を本体から切り離せればワイヤーブレードは無効化できるわけだ。


 それと――さっき凰さんに聞いた、二対一の変則マッチの事。
あの時、一本のワイヤーブレードを破壊されたボーデヴィッヒさんは、それからを『五本』で戦った。
さらに付け加えれば、一本を破壊された時に同時に射出していた二本目を戻し、五本にしてから戦った。
……つまり、ワイヤーブレードは意外と破壊されやすい武器だという事だ。
同時に襲ってきたら、意外と厄介だけど……落ち着けば、私にも出来るくらいのレベルだった。
これが先輩の言っていた自動操作――多分、敵の捕縛用のプログラムか何か――なんだろう。
この『ワイヤー部分を破壊されると使えなくなる』という弱点を克服したのがオルコットさんのブルー・ティアーズであるらしい。

「これでも、専用機対策はバッチリと考えてきているのよ!!」
 今朝まで……ううん、数十分前までかかったけどね!!
「だが、所詮は付け焼刃……む!?」
 ボーデヴィッヒさんが、私の更に後方を見て表情を変える。そして、観客からの大きなどよめき。
あ、もしかしたら、フランチェスカが篠ノ之さんを――。
「……あれ?」
 後ろを見ると、フランチェスカのリヴァイヴが篠ノ之さんの打鉄に切り伏せられていた。
辺りには、フランチェスカが量子変換した火器が使われずに散らばっている。……こ、これって。
「ごめん、香奈枝……。この娘、私達が考えていたよりもはるかに強かったわ」
「……すまんな。私もセシリア達を相手に、鍛えられたんだ」
 ああ、私達って馬鹿だったわ。だって篠ノ之さんは、織斑君たちと打鉄で訓練をしていたんだった。
そう。第二世代の打鉄で、第三世代の専用機と。今まで彼女が見てきた第三世代の、専用機の動きと比べれば、私達の動きなんて……。
彼女を専用機持ちではないからと舐めていた事、それが私達の敗因だ。
「残念だったな、イタリアの女は私に触れることさえ出来なかったようだ。やはり次にやる時は、イタリア抜きでやるのが間違いないな」
 私が降伏すると思ったのか、でも隙は見せずに攻撃を中断するボーデヴィッヒさん。
ああ、第三次世界大戦が起こった時の同盟ギャグね。うん。日本を巻き込まないで欲しいけど。
第一次世界大戦の飛行機や戦車。第二次世界大戦の空母や原爆のように、第三次世界大戦はISを使う事になるのかしらね。
第四次大戦は、舌出し写真で有名な天才科学者によると、棒と石って話だけど。……って、現実逃避している場合じゃない。
「宇月、降参しろ。こうなった以上、お前一人では勝てん」
 篠ノ之さんが、ブレードを構えながらそう言う。そのとおりだ。私だけじゃ、篠ノ之さん一人にも『勝てない』だろう。でも。
「ボーデヴィッヒさん。篠ノ之さん抜きで、もう一勝負しない?」
「お、おい、宇月!?」
「何……? ……そうか。そういう事か」
 意表をつかれたボーデヴィッヒさんだったが。一瞬後、まるで肉食獣のような笑みを浮かべた。……少しだけ、織斑先生に似ていた。
「貴様の狙いは、私の動きをあの男に少しでも覚えさせる事か。……ふん。下らんな」
 読まれてる、か。
「だがこのままでは私も暴れたりんな。安心しろ。強制解除までには至らせないが、恐怖は存分に味わってもらうぞ」
「お、おいボーデヴィッヒ!」
「余興だ、邪魔をするな。それにこいつ自身が望んでいるんだ。私に直接倒して欲しいとな」
「そういう事、これは私達の決闘なの。……お願い」
「……無茶はするなよ」
 決闘、と言う言葉に心動かされたのか篠ノ之さんが離れてくれた。……でもね。これ自体、とんでもない無茶なのよ。


 そして篠ノ之さんが離れ。ボーデヴィッヒさんの攻撃が始まった。
「貴様が戦いを続ける狙いは、AICだろう? だが、貴様には使う必要も無い。
このプラズマブレードだけで、打鉄など切り刻めるのだからな!」
 余裕なのか、傲慢なのか。意外と口数は多かった。でも、そのプラズマブレードはさっきまでよりも厄介な物になっている。
物理シールドも残り少なく、更にシールドエネルギーもどんどん削られていってるし……。
「うっ!」
 そして、プラズマブレードには『葵』で鍔競り合う事も出来ない。……いやだって、一瞬で溶けちゃうし?
「そらそら、プラズマブレードだけに気を取られているとこうなるぞ!!」
「あうっ!!」
 再び蹴りを叩き込まれ、吹き飛ばされる。
……正確には、操縦者補助プログラムが発動して衝撃を逃がす為にわざと後ろに飛んだのだけど。
「さて……そろそろ後悔しているのではないか? 最終通告だ、降伏すればここで止めてやるぞ?」
「あ、生憎とまだまだ戦う気はあるわよ。……こんな事じゃ、織斑先生の生徒として情けないしね」
 わざと織斑先生の名前を出す。……怒るかな、と思ったら、意外なことに彼女は驚いた表情をしていた。
「なるほど、あの男よりも気概はあるな。――だが、悲しすぎるほどに実力不足だな!!」
 彼女が、衝撃を逃す為のアイゼンを接地させている。これは、全力でのレールガン発射準備だろうと予測が出た。
でも、実力不足ですって? そんな事、誰よりも私自身が解ってるわよ!
「打鉄……。力を貸してね」
 我ながら似合ってないと思うけど、私は自分の纏うISに話しかけながら突撃した。
レールガンに捉えられないよう、ジグザグに……反復横とびの要領で近づいていく。
「日本人特有の、バンザイアタックか。……無駄だ」
 移動予測をしたのか、私の移動する場所に砲身を向け始める……だったら!!
「スピードアップ!!」
「瞬時加速……ではないか。ブースターを追加展開したようだな」
 ボーデヴィッヒさんの推測どおり。今まで使っていなかったブースターを着火させた。でも、まだ終わりじゃない!!
「補助プログラム、クイックデリート!!」
「なに!?」
 操縦者補助プログラムを、即座に消した。これも、黛先輩から教わった『裏技』の一つ。
コンピュータは、余分なプログラムを消せば処理が早くなる。――ISも同じだ。
「やるな。……だが、ハエが幾ら速くなろうと、猛禽には追いつけまい?」
「!」
 レールガン発射体勢から瞬時加速を発動させ、瞬時に私に近づいてくる。
それは、あの時の凰さんやオルコットさんと同じ立場――だけど、一つ違う点がある。それは……私が予想済みという事!!
「今だ! スティンガー!」
 ブレード『葵』を捨てて、近接格闘武器・スティンガーを展開させる。
地対空ミサイルでも『スティンガー』というのはあるけれど、これは爪を付けた手甲のような物。
この爪は飛び出す機能も備えており、剣も振るえないような密接距離で使う武器だ。この上位武器が、有名な『楯殺し』なんだけど。
「発想はまあまあだが。私が、そう易々とお前の策に陥ると思ったか?」
「嘘……」
 瞬時加速の終了と同時に、AICの発動をしていた。……それにより、私の奥の手の一つであったスティンガーは止められていた。
「攻撃を仕掛ける段階での被弾は、通常での被弾よりも受ける衝撃が大きい……。
いわゆるカウンターという奴だが、そんな事は常識だ。あの男ならいざ知らず、この私がその事を見落としていると思ったのか?
……だが、私にAICを使わせた事は褒めてやろう。小蝿から、小鳥に昇格させてやろうか」
「!」
 そして致命的なタイミングで呆けていた私に、プラズマブレードよりも早く、レールガンが発射された。
あの時とは違い、バレル内での加速が出来る状況。つまり……あの時凰さんの食らった一発よりも、威力は上。
そんな一発が、私の頭の横を掠めていった。
「……ほう。発射される瞬間に、弾道からほんの僅かだけ離れたか」
 少し感心した様子のボーデヴィッヒさんだったけど、今のは100%偶然だった。
篠ノ之さんの剣道訓練で攻撃される事への耐性が出来ていなかったら、今のは間違いなく命中していただろう。
「う……」
 正直、怖かった。命中しても絶対防御とシールドバリアーで防いでくれてはいただろうけど、やっぱり怖かった。
……もう、このままギブアップしようか。そんな事を、考えてしまった。
「香奈枝、大丈夫!?」
 ……! だけど、フランチェスカの声が私の戦意を再燃させてくれた。そうだ、この戦いは私一人の戦いじゃない。
ここで負けたら、フランチェスカだって低評価になってしまう。……まだ、まだ負けられない!!
「落ちろ!!」
 プラズマブレードをかざして来るボーデヴィッヒさんに対し、私は『葵』を拾って攻撃する。
それごと攻撃するつもりなのか、プラズマブレードの攻撃の軌道の先に『葵』が来るけど……。私は、それを下に向けた。
「な!?」
 そして『葵』を、地面に突き刺し、反動で思いっきりジャンプした。こんな使い方をしてくると思わなかったのか、反応が遅れる。
「刀を、棒高跳びの棒のように使うとは……!!」
 篠ノ之さんの声を拾ったが、不機嫌そう。……まあ、当然だけど。
「ええい、小ざかしいマネを!! だが、対空攻撃なら――なっ!!」
 即座に残り少ない物理シールドを展開させた私は、相手に対してそれを投げつけた。
シールドを投げつける、という発想はなかったのか、虚を突かれたボーデヴィッヒさんの隙を突き、私は『目的地』に向かう。それは――。
「なるほど……僚機の銃器を使用する算段か。中々に賢しいな」
 フランチェスカが地面に『散らばらせた』銃器のある場所だった。当然『使用許諾』は得ているので私でも使える武器。
……ただ、ここで予想外だったのは。操縦者補助プログラムを消した分、打鉄が扱いにくくなっていて。
そして私が移動を焦るあまり、僅かにバランスを崩した事が影響して……ゴロゴロと転がりながら目的地に着いたということだった。
「無様な……」
 うん、言われなくても無様なのは解ってる。……だけど。
「レッドパレットは……あった!」
 最優先武器である、51口径アサルトライフル・レッドパレットを見つけて手に取る。何故これが最優先なのかというと……。
「あれは……プログラムブロック!?」
 ライフルのマガジンがあるべき場所に、プログラムをインストールしてある器具――プログラムブロックがあるからだ。
それは、銃器使用補佐プログラム。素人の私が銃器を使うには、欠かせないプログラムだった。
……本当なら最初からインストールしておきたかったんだけど、他との容量の兼ね合いで泣く泣くこういう形にした。
更に言うなら、さっき操縦者補助プログラムを消した理由には、このプログラムをインストールする容量を空ける為というのもある。
ちなみにこういう時のため、フランチェスカは『負ける時は、ありったけの銃器を展開してから負けるわね』と言ってくれていた。
できれば、そうなって欲しくはなかったけど……負けた瞬間、量子変換した状態の武器は使えなくなるので仕方がない。
「戦場でのプログラムインストールによる換装も、ISの強みの一つ……。そういう事、か」
 銃器使用補佐プログラムを新しくインストールして、銃器を使用する。
私の狙いをそう読んだであろうボーデヴィッヒさんが、レールガンの発射準備に入ってきた。
でも織斑君がクラス代表決定戦でやっていたように、プログラムインストールを行ないながら戦闘をやれないわけじゃない。
だから私は――プリグラムブロックを挿入し、レッドパレット(弾無し)を捨てて銃器を二本拾うと、再び距離を詰めに入った。
「……至近距離からの射撃攻撃を狙っているのか? わざわざ不得手な戦術を選ぶか」
 そう。打鉄は、元々がガード・接近戦重視のIS。いくらフランチェスカのリヴァイブから火器を貰っているとはいえ。
レールガンを持っている相手に射撃で勝てるはずも無い。……でもね。
「ならば……その前に切り刻むだけだ!!」
 連射の出来ないレールガンを諦め、プラズマブレードを展開し、私の攻撃を迎撃せんとするボーデヴィッヒさん。……引っかかった!!
「いけえ!!」
「ただのアサルトライフル二丁での攻撃など、私には――な、何!?」
 近づいていく私がフランチェスカから貰った銃器を向けたボーデヴィッヒさんの表情が、一変する。
何故なら、アサルトライフルから――ワイヤーが射出されたから。
「そ、その武器は一体……! まさかそれは、ワイヤーウィップなのか!?」
「ご名答!」
 久遠もあの時の戦いで使ったワイヤーウィップ。それを、アサルトライフルに擬装したのだった。
銃身に見せかけた部分の中にワイヤーを詰め、グリップは鞭の取っ手であり操作地点。
もちろんこれは、ワイヤーウィップを使ってくると思わせないための奇策。そして、それで相手の二の腕部分の両方を縛り上げる。
これで、手首に備え付けられているプラズマブレードは封じたも同然だった。二の腕を縛られた状態で、手首にある武器が使えるわけもない。
「こ、こんな馬鹿な!!」
「これで、出せる……おいで、最後の切り札!!」
 初心者用の、武器のイメージを具体的に叫ぶやり方で呼び出す。……こうしないと、早く呼び出せないからだけど。
「ふん、どんな火器を呼び出そうとこのシュヴァルツェア・レーゲンに……なっ!?」
「あいにくと『火器』じゃないのよね?」
 私が呼び出したのはドイツ製の大型地雷、その名もアイゼン・シュトルム(鉄の嵐)付きの物理シールドだった。
対人地雷・クレイモアと同系であるこの武器の特徴は、扇形の一定範囲内の空間にベアリング弾をばら撒く事。
本来ならワイヤーなどに引っかかったら発動するのだけど、これは違う発動設定にしてある。これこそ黛プランの最終兵器。
「!!」
 彼女は、必死でAICを発動しようとしていた。レールガンじゃ近すぎるし、プロセスを省略しても瞬時の発射は無理。
プラズマブレードでは、リーチが届かないわけじゃないけど暴発の可能性もある。
逃走するには、フランチェスカから貰った偽装ワイヤーウィップを切り裂かないと駄目。
そして、二本のワイヤーウィップを上手く使えば……実質的に一本になっているプラズマブレードの有効範囲からは逃れられる。
だから、これを即座にどうこうする為には、AICしかなかった。――そして、物理シールドがピクリとも動かなくなる。
「ふん……甘かったな。まさかアイゼン・シュトルムを使ってくるとは思わなかったが……」
 アイゼン・シュトルムを止められたと思って軽口を叩くボーデヴィッヒさん。――だけど、私の仕掛けた罠はまだ終わっていない。
「……ばーん」
「す、スタングラネード!?」
 私の発声に合わせ、声紋認識にしておいた閃光弾がボーデヴィッヒさんの意識を逸らす。
一瞬だけだけど、AICを解除するには充分。そう、AICの弱点は――。

『AICは――集中力を削がれると解除される、らしいわ』
『集中力を削ぐ? ……えっと、それってどういう事?』
『つまり、AICを発動し続けるにはその目標に集中し続けないと駄目って事よ』
『そ、そうなんだ……』

 目標に集中している時に、それを削がれたら解除されてしまうという事だった。さっきフランチェスカに届けられた情報。
本当に、神様の存在を信じたくなるレベルで幸運だったといえる。……まあ、それはさておき。
あらかじめ『スタングラネードの発動に少し遅れて、連動して起動するようにセットしていた』アイゼン・シュトルムが爆発する。
「ぐあああああああああっ!?」
 至近距離からの数百ものベアリング弾の直撃。シールドバリアーが削られ、攻撃も止まる。
「――いまだ!!」
 ワイヤーウィップを捨て、物理ブレード『葵』を展開する。今が、攻撃チャンス! ……の筈だった。
「……!」
 眼帯で片目を覆っているボーデヴィッヒさん。その隠されていない右の赤い瞳が、まるで炎のように猛った――と思った瞬間。
私の動きが、葵を振りかざした状態で停止した。
「え、AIC……」
「その通りだ……。では、私の番だな」
 動きを止めた私に、まだ縛られたままで動かせない手首からのプラズマブレードで『突いて』きた。
弾を全て吐き出したアイゼン・シュトルム付きの楯が融解し、そのまま打鉄を襲う。その時には、動かせるようになったけど。
AICで回避を『遅らされていた』私は、その攻撃を回避する事は出来なかった。
「うぐ……!!」
「まだまだ!!」
 レールガンの砲口がこちらを向く。……やばい、と思った瞬間には弾丸が発射されていた。
プラズマブレードの攻撃中に、プロセスを一部省略していた砲撃。反射的に、葵を射線上に翳してしまう。
その葵が弾丸が命中して中ほどから砕けた分、ほんの僅かだけど威力は落ちただろう。
そもそも、威力がさっき偶然避けられたそれよりも低かっただろうけど……命中したら、強烈なダメージを受けるのには変わりなかった。
「あああああああっ!!」
「まさか、ここまでの損害を受けるとはな……。まあ、いい。これで終わりだ!」
 両手を繋がれたままのプラズマブレードで私を切り裂こうとするボーデヴィッヒさん。
その姿は、まるで両手で剣を握り締めて振り下ろそうとしている剣豪のようにも見える。
そして、私が最後に拡張領域に残っていた物理シールドを全部展開するのとブレードが振られるのが同タイミングになった。
「ちっ……破壊したのは、楯だけか」
「いや、十分でしょ……」
 何とか、フランチェスカの武器が転がっている場所までの時間が稼げたけど。代償に、物理シールドは溶かされていた。
防御範囲を広げる為に全部を展開したけど、少し遅れたら……確実にシールドバリアゼロになっていただろう。
「まあ、プログラムインストールは終わったけどね」
 銃器使用補佐プログラムのインストール終了を知らせる空間ディスプレイが表示されていた。……まあ、今更だ。
「貴様を近づけさせると何をするか解らん……このまま遠距離でしとめさせてもらうぞ!!」
 レールガンをこちらに向け、近づけさせまいとするボーデヴィッヒさん。……こうなると、どうしようも出来ない。
フランチェスカの銃器はまだ残っているけど、いずれも中距離用。
遠距離用は、篠ノ之さんを近づけさせないために使い切ってしまったようだった。
つまり私は、レールガンが狙う中を中距離まで詰めないといけないわけで……。
せめて、弾除けに物理シールドが二枚くらいあればいいけど、もう量子変換した分は使い果たしてるし……。
「……いや、あるわね」
 これを使っていいものかどうか、少し悩んだけど……。ここまで来たら、やれる事は全てやりたかった。



(……まだ、来ないか)
 レールガンをいつでも発射できるように発射待機状態にしながら、ラウラは相手を見据えていた。
ちなみに、部分展開の逆――二の腕部分の装甲を部分収納する事により空間を作り出し、ワイヤーウィップを解く事に成功している。
「いっけええええ!!」
「……!」
 そして香奈枝が、物理シールド二枚をかざしながら接近してきた。
その打鉄からは、打鉄のもっとも大きな外見的特徴――肩部の物理シールドが消えている。
香奈枝は非固定浮遊部位であったそれを手持ちに切り替え、それを前に向けて物理シールドとして使っていた。
「所詮は、悪あがきだ!!」
 冷静にレールガンの狙いを定め、物理シールドごと吹き飛ばす……はずだった。
だが、レールガンの着弾した瞬間――。香奈枝の姿がその射線から消えていた。残っていたのは、物理シールドのみ。
「レールガンは、発射されたら避けられないくらい早いけど……砲口の角度から、読み取る事くらいはできる!」
「ちっ……!」
 ライフルを慣れない手つきで撃ちながら、おぼつかない足取りで突撃してくる敵にラウラはプラズマブレードでの迎撃を選択した。
――そして。シュヴァルツェア・レーゲンと打鉄が交差する。
「……流石に、ここまで、かな」
 突貫し、シュヴァルツェア・レーゲンの後ろへと抜けた打鉄がガクリと膝をついた。その手から、弾を撃ちつくしたライフルが落ちる。
既に彼女には武器はなく。強いて言うなら、打鉄の機体そのものを使った格闘戦しかない。
肩部の物理シールドは無く、他にもあちこちの装甲が消失し、シールドエネルギーは既に僅かしか残っておらず。つまり、手詰まりだった。
「余興は終わりだ――っ!?」
「え……」
 その時。打鉄が、ブレードをシュヴァルツィア・レーゲンの前に突き出していたのだった。香奈枝ではなく、箒が。
「貴様、何故邪魔をする!」
「もう充分だろう。――宇月、今度こそ降参しろ。……もう、十分だろう?」
「……うん、ありがとう篠ノ之さん。――ギブアップよ」
『そこまで! 勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒!!』
 そうアナウンスが告げられ、一回戦第一試合は終わった。予想以上の健闘に、まばらながら拍手が起こる。
まばらなのは、意外すぎる展開に呆けている者。自身ならどうしたか、を考えている者。あるいは――。
(雑魚は雑魚なりに、か。負けてしまっては意味がないが、シュヴァルツェア・レーゲンのデータ収集には役立ったな)
 香奈枝達を見下している、二色の髪の少年のような存在があるからだった。
「さ、行きましょ香奈枝」
「ええ」
「……」
 そして、去っていく打鉄とラファール・リヴァイヴを苦々しげに見送るラウラ。その表情は、勝者が浮かべる物ではなかった。
 

「お疲れ様、二人とも。凄い戦いっぷりだったね」
「まったく、宇月さんも無茶苦茶するなあ。見ていて、こっちがひやひやしたぜ」
「上手く戦術に嵌ってくれたからよ。……それと織斑君、貴方だけには言われたくないわそれ」
「でも、香奈枝ちゃんも本当に無茶したわね」
「まあ、それは――って、黛先輩?」
 アリーナピットでは、一夏とシャルル、更に新聞部副部長の黛薫子が二人を待っていた。
一夏とシャルルは開始前にも声をかけて来たが、薫子は今、整備で忙しい筈である。それなのにやって来た彼女に、香奈枝は目を丸くする。
「あの、先輩はどうしてここに?」
「うん、例のプランを何処までやれたかを見に来たの」
「あ……そ、そうだった。先輩、ありがとうございました。教わった事のおかげで、何とかここまで奮戦できました」
「気にする事ないって。ああ、それと試合に負けた直後に少し言い辛い事なんだけど――香奈枝ちゃん、私達を手伝えそう?」
「は、はい。試合報告書を提出したら、すぐにでもお手伝いに行きます」
「そう。じゃあ、お願いね。今年は人手が足りなくて、本当に大変なのよー」
 いつものように明るく笑う薫子だが。僅かに疲れの色が見えるのが、香奈枝にはわかった。だからこそ、彼女は明るく言い放つ。
「はい。これからが、私のトーナメント二回戦の始まりですね!!」
「頑張ってね、香奈枝。皆の応援は、私が貴女の分もやっておくから」
 この展開を予想していたフランチェスカも、笑顔で言う。そんな中、着信があったのか軽快な音楽が鳴り響いた。
「おーーっと呼び出しだ! じゃあ香奈枝ちゃん、また後でね!!」
 疾風のように走り出す薫子を見送る一年生達。彼女がここにやってきた事はごくごく自然であり。
一夏や香奈枝は勿論、シャルルやフランチェスカさえも疑問には思っていなかった。――しかし。
「はい、もしもし――ああ、たっちゃん」
『やっほー、薫子ちゃん。――どうだった?』
「やっぱり、香奈枝ちゃん達は負けちゃったわ。それでも『たっちゃんが協力して構築してくれたプラン』で頑張ったみたい。
たっちゃんの予想通り、ワイヤーブレードも自動操作だったみたいだし……」
『そう、ありがとう。ごめんなさい、ややこしい事に巻き込んで』
「良いって。じゃあ、またね」
『ええ』
 黛薫子が授けた『黛プラン』に更識楯無が関わっている事など、四人は夢にも思わないのだった。




 ――そして今、黛薫子とは入れ違いに、新しい客人がまた二人やって来た。
「あ、宇月さん! 大丈夫でしたの!?」
「二人とも、お疲れ様」
「あれ、オルコットさんと鷹月さん? 貴女達も第一試合じゃなかったっけ?」
「既に終えてきましたわ。それよりも、たいそうな無茶をなさったそうですね」
「まあ、ね。……でもアレは、偶然に偶然が重なっただけの結果よ」
 もしも篠ノ之箒が申し出を無視してパートナーと共に戦ってきたら、香奈枝は奥の手を出す暇もなく、あっさりと負けていただろう。
また、ワイヤーブレードだけではなくAICを最初から使われていたら。……確実に、1分以内に瞬殺されていただろう。
これが、後に教師陣によって下されたこの戦いの分析の一部だった。
「あれはあくまで『一人を相手にするとき』用だから。
……というか、私VSボーデヴィッヒさん&篠ノ之さんなんて、予想しても瞬殺以外結果が思い浮かばなかったしね」
「そうそう。まあ、彼女の性格からいって私達みたいな一般生徒にAICは最初から使ってこないだろうと思ってたけど……。
当たってよかったわ」
「そうなのか……」
「そうよ。敵を知り、己を知らば――って奴。専用機持ちは、全員が注目されているんだからね」
「僕達も、注意しないといけないかな」
「ええ。――それに、良い情報も手に入りそうですわね」
 それに、からを小声で呟くセシリア。実は彼女は、この戦いの精密な情報を欲していた。
とあるイギリス人生徒に、この戦いでシュヴァルツェア・レーゲンの動作データを全て入手するように要請していたのである。
「それにしても、この子にも無理をさせたわね……。私が、ちゃんと責任を持って整備してあげないと……あれ?」
 自らが使っていた打鉄を、礼をいうように撫でる香奈枝。その視線の先に、彼女は見慣れたポニーテールを見たような気がしていた。




 宇月達がいるピットまでやって来た私だが、入れないでいた。……いや、彼女や一夏達が拒む筈も無いのだが。
それでも、私の方から入っていく勇気は出なかった。そもそも、何を言うつもりだったのかと我ながら思うが。
「……しかし強いな、彼女は」
 刀をあのように使うと言うのには少々引っかかりを覚えたが。だが、私にすら劣る技量でしかないのに。
技量も機体もはるかに上であるボーデヴィッヒに、一対一で立ち向かった気概は大した物だった。
……私に同じ事が出来るだろうか。力に溺れ、人を傷つけてきた私に。
「どうした、篠ノ之。一回戦を突破したくせに、何をしけた顔をしている」
「織斑先生?」
 何故か、千冬さんがいた。……ああ、宇月やレオーネを見舞うのか。
「篠ノ之。すまんが一つ、頼まれてくれるか」
「え?」
 そう思っていると、意外な申し出がきた。そして、千冬さんの用事とは――。


「ボーデヴィッヒ。伝言だ」
 私がボーデヴィッヒが向かったと聞かされた整備室に入った時、ボーデヴィッヒは損傷したISの修復を一人で行っていた。
整備課の上級生に手伝ってもらう事も出来る筈だが、こいつ自身の性格と能力からすれば納得できる。
「伝言、だと? ふん。どうせあの男辺りからだろう? 聞く気にもなれんな」
「違う。織斑先生からだ。色々とお忙しいようなのでな、私が承った」
「き、教官が私に!? な、何と仰られたのだ!! 早く言え!!」
 ……こいつも、ここまで感情を露わにするのか。驚きを覚えつつも、私は口を開く。
「……。専用機持ちなら、私の教え子ならもっと上手く戦えたはずだ、とな。……少しだが、失望されていたようだったぞ」
「し、失望……だと?」
 噂では、こいつはドイツの冷水などと言われているらしいが。そのときの表情は、困惑と……そして、恐怖に彩られていた。
自身が敬い、慕う、千冬さんからの失望。それがどれほどの衝撃であったのか。私には解りようも無い。
「確かに、伝えたぞ」
 まだ硬直しているボーデヴィッヒを尻目に、私は整備室を出た。……かける言葉も、なかったからだ。


「しかし……これで良かったのか?」
 廊下を歩いていても、先ほど伝えた言葉に違和感がある。
あの人が本当に失望したわけではない事など、二人の関係を完全には知らない私にも解る。だがあの人は、あえて言った。
自機の武器であるAICを最初から使わず、宇月の舞台にうかうかと乗ってしまったあいつの傲慢を抑える為か?
……だが、それも何か違う気がする。そもそも、何故私に伝言をさせたのだろうか? 時間がなかったから、のかもしれないが。
「……それにしても、鏡を見ているような気分だな」
 あれは、昔の私だった。力に溺れ、周囲を傷つける。それでいながら、自分では気付きもしない。――っ!?
「まさか、私に伝えさせたのはその為……か?」
 千冬さんの真意は解らないが。……私は、自らの身体をギュッと抱きしめた。それは……。




「……」
 私の頭の中は、さきほど篠ノ之束の妹から伝えられた伝言で埋め尽くされていた。教官が、私に……失望された、だと?
「ば、馬鹿な……。い、いや、今日の戦いぶりではありえん事ではない……!!」
 整備に関してはともかく、操縦に関しては素人レベルである相手の戯言に付き合いそのペースに巻き込まれたまま。
己のISにかなりの損傷を受け、本来ならば一分もかからずに撃破できる相手に対し、それさえ出来ずに試合終了。
その上、使わないと予定していた筈のAICまで使う事になった。
レーゲンの損傷は、一日も経たずに修理できるレベルとはいえ、シールドエネルギーが半減の設定であったとはいえ。
これが、ISを預かる『モノ』としてどれほど愚かであるか。国家代表候補生として、どれだけ不甲斐ないことであるか。
……何より、教官がどう思われるかなど言うまでも無い。……くっ!
「私は、極東に来て腑抜けきっていたようだな……」
 よかろう。ならば奴と当たるまで。いや、奴すらも完膚なきまでに叩き潰す。
――そう、教官がモンド・グロッソで相手を圧倒していたように。あの時の、この眼に焼きつけた映像のように。
「もうシュヴァルツィア・レーゲンには毛筋ほどの傷もつけさせん。……そうすれば、取り戻せるんだ」
 教官も私を見直し、本国に帰ってきてくれるだろう。……そうだ、これこそ私の望みだったのだ。取り戻したかったのだ、私は。
気に食わない事だが奴の言ったことは当たっていた、ということか。……まったく、愚かだ。
「見ていろ、織斑一夏……!」
 憎悪、と言う感情を向けるただ一人の対象。私は貴様から教官を取り戻す……。絶対に、だ。


 正直、かなり香奈枝が無理すぎるほど踏ん張る話でした。相当なご都合主義が入ってますね、これ。
実力差を考えれば、瞬殺でも良かったんですが――。最後のラウラを書きたかったので、こんな展開になりました。
次からはマジラウラです。必要とあらばAICも越界の瞳も使ってきます。……あれ、主人公達のハードル上げてないかこれ?(汗)


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