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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 戦いの前に、しておく事は
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/11 08:40
※前書き
 今回、実際の天災に『よく似た』自然災害の『事後に起こった事件』の描写があります。
 東北……特に福島県沿岸部に思慕のある方は、何らかの不快感を受ける可能性があります。ご注意ください。
 本日(2014/03/11)に投稿した事からも、お察しください。


「なーんか、スッキリしないなあ」
 私は、一週間前の土曜日を思い出していた。先週、篠ノ之さんと私は剣道場で会う約束をした。
それが土曜日になったわけなんだけど。

『待たせたな、戸塚。それで、私に用事とは何だ?』
『単刀直入に言うわね。クラス対抗戦の日の事なんだけど――』
『……すまん、それを言う事は出来ない』
『で、出来ない?』
『あの日のことは一切口外禁止だと織斑先生から申し渡されている。故に、話す事はできない』
『ほ、本当なの?』
 本人は気付いていないみたいだけど、言う事が出来ない……というだけで、それだけやばいっていう事が解る。
――それで、私はそれ以上の追及を諦めた。ここまでの所要時間、一分足らず。あれだけ引っ張っておいて、この結末である。

「はあ。何かスッキリしないなー」
「どうしたのよ、舞姉(まいねえ)? スッキリしないなんて繰り返して、どうしたの?」
 ――あ、うっかりしてた。今は、ルームメイトで双子の妹(←ここ、凄く重要)であり。
そして今度のトーナメントを共に戦う留美と勉強中だった。勉強しているのは、IS整備に関する基礎知識。
留美は整備課補助候補生にも選ばれるほど関心が強い為、私が習う方である。
「ごめんごめん、ちょっと他の事を考えてた。えっと、何の話だっけ?」
「結局舞姉は、打鉄でトーナメントに臨むことにしたのよね。それで、どんな武装を選ぶのって話よ。
申し込み期限はまだだけど、特殊武器なら今から押さえておかないと間に合わないかもしれないし」
「あー……特に特殊武器を使う予定はないわねー。ギリギリまで剣戟特化でいいと思うけど」
「そう? なら、その方向で整備するわね」
 私たち一年生の一般生徒の機体整備は、突き詰めれば『どれだけ操縦補助器具で使っている容量を削れるか』である。
量子変換の容量は無限ではなく、操縦補助の容量を削ればそれだけ多くの武器やその他の器具を量子変換できる。
パソコンでいうなら、無駄なOSを削除して容量を空けて使いやすくするような物。
だけど補助器具を削ればその分動かしづらくなるし、自分の力量以上の機体を設定しても使いこなせないだろう。
だから自分の力量を見極めて、その限界ギリギリまでで整備をするのが基本。……だと留美は言っていた。
本当、相方が整備に詳しいと助かる。まあ、操縦技術は私の方が上だから互いに補完できて良いんじゃないかと思ってるけど。
「ところで、特殊訓練室は取っておいてくれたのよね? 私、少し銃器を扱う訓練をしておきたいし」
「うん、正午から予約が取れた。だから、早めにご飯を済ませておかないとね」
「そうね。じゃあ、軽くサンドイッチでも摘まんでいく?」
「うん、それで良いと思う」
 私達にとっては受験以来となる、初めての、授業と自習以外でのIS搭乗の経験。しかも、生徒や教師だけでなく外部の人も見に来る。
模擬戦は放課後の訓練でやった事があるし、安芸野君――御影ともあるけど、不安がないといえば嘘になる。
まあ、双子の妹と一緒なら、その不安もやわらいでいくと思う。……そういう事にしておこう。
「――あ、来たかな?」
 その時、ドアを叩く音がして。来客の素性を予想していた私は、特に警戒する事もなくドアを開け――。
「やあ、こんにちわ」
「いらっしゃい、ゴウ君」
「お邪魔するよ」
 トーナメントについてアドバイスをくれるという約束になっていた、ゴウ君を招きいれたのだった。


「へえ。こういう機動方法もあるんだ」
「これなら、私達でも使いこなせそうね」
 私達姉妹は、ゴウ君のアドバイスを受けていた。欧州連合所属パイロットから習ったという裏技。
ちょっとしたスラスターバランスの変更や、武装の組み合わせ。それだけで勝ち残れる、という話だったけど。
「そうか。もし君達の役に立てたのなら、これほど嬉しい事は無い」
 にこり、と微笑むゴウ君。この微笑だけで、気絶しかけた人がいるっていう話だったけど――。まあ、納得だ。
「確か留美さんの方は、整備課補助候補生にも選ばれていたと聞いたのだが。残念だったね。
トーナメントに参加させられる以上、整備の勉強をする時間が減ってしまう事になるのだし」
 ――正直、私もそれは同感だった。留美のような、最初から整備課を目指す生徒。
それには例外として、トーナメントへの不参加を許可してもらいたいと思った。
まあ、私としては双子の妹と組めたわけだから、ある意味ではラッキーなんだけど。
「それは仕方ない事よ。それに、私よりも大変な目にあっている生徒はいるし」
「大変な目?」
「ああ、宇月さんね」
 一年生の中で大変な目にあっている生徒=一組の宇月香奈枝さんというのは、もはや一年生の常識になりつつある。
彼女も留美同様に、整備課を目指す生徒。四組の更識さんの機体建造にも関わっていたし、留美が密かにライバル視していた。
本人は口にはしなかったけど、私にはバレバレである。
「そちらの方は、どうだい?」
「あ、私? ええ、まあ準備は順調よ。あとは、何処まで実戦でやれるか――だけど」
 いくら練習や準備を重ねても、実際に本番で力を出し切れなければ意味が無い。
受験の時でも、そうやって合格できなかった友達がいたし……。
「そうか。お互いに、頑張ろうね」
 善良な笑みを浮かべるゴウ君。それは、まあ……その。格好よい、とは思った。




「シャルルと出会って、もう一ヶ月か……。何か凄い長かったような気がするけど、まだ一ヶ月なんだな」
「そうだね」
 日曜日。この日を僕達は、コンビネーションの打ち合わせに当てていた。色々な状況への対処を考えていたら、もう正午。
そして食堂に向かう途中、一夏がそんな事を言い出した。僕が転入してきたのが五月末だったから、たしかに約一ヶ月になる。
「僕にとっても、本当に色々な事だらけだったよ。――ゴウや一夏達に正体がばれたり、庇ってもらったり。
本当に皆、こんな僕に良くしてくれる……」
「本当は、もっと何かした方が良いと思うんだけどなあ」
「でも、クラウスに言われたんでしょ?」
「ああ。学園サイドがこの一件を知っている以上、俺達の方で勝手に動くのは止めた方が良いらしいからな。
学園側が何かをしてくれるつもりだったのに、俺達の行動でそれが駄目になる事があるから……だっけ?」
「うん」
 でも、本当に大丈夫なのか、それを信じきることが出来ない自分も心の何処かにいる。
勿論、僕の事はどうなって良いけど。一夏達に迷惑がかかるようなら――。
「まあ、心配するなよ。千冬姉だって、シャルルを見捨てるような事はしないだろ」
「ふふ。一夏って、結構楽観的なのかな?」
「そうか?」
「――僕たちの年頃だと、それ位が普通なのかもしれないね。ゴウやクラウスみたいに、頭の回る方が少数派なんじゃないかな?」
「……少数派、か。そうだと言われればそうかもしれないけどなあ」
 何か納得し切れていないような表情で一夏は首をかしげている。
――でもね、一夏。そういう風に君が楽観的でいてくれるから、僕の気持ちが楽になっているのかもしれないよ?
「どうしたんだよシャルル、俺の顔をじーーっとみて」
「ふふ、じゃあ当ててみたら?」
「――そうだな。……ずばり、今日の昼食は何を食べるんだろう!! とかか?」
 楽観的、じゃなくて何も考えていない……ってわけじゃないよね、これ?


「……あ」
「お」
「……」
 食堂に向かう途中、偶然ボーデヴィッヒさんと鉢合わせした。……何も言わずに去るのかな、と思っていたら。
「――教官の、足手まといが」
 去り際に、捨て台詞を残していく。……ちょっと、待ってよ。
「ボーデヴィッヒさん。――織斑先生なら、そんな態度はとらないんじゃないかな?」
「何……?」
「シャルル?」
 第三者である僕が反応したことに、ボーデヴィッヒさんも一夏も目をむく。……というか、僕自身が驚いている。
本当は、こんな事を言おうとは思っていなかったのに。反射的に、口にしてしまっていたから。
「何のつもりだ、フランスの男」
「ううん。ただ、織斑先生は一夏の事を『足手まとい』だとか考えていないと思ったから。そう言っただけだよ」
「ぐ……!」
 こうなったら仕方が無いので、反論すると――意外な事に、ボーデヴィッヒさんが沈黙する。でも、もう一つ意外なのは。
「……」
 一夏が、何故か苦い表情になっていた事だった。そういえば、一夏は……。

『貴様に無くとも私にはある。――貴様は、教官に相応しくない』
『……!?』
『貴様がいなければ、教官が大会二連覇の偉業を為し得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない』
『そういうことかよ……』

 以前、ボーデヴィッヒさんにレールガンを撃たれた時。そんな事を彼女に言われていた。
織斑先生の二連覇。それは第二回モンド・グロッソの事だろうけど……。一夏は、もしかして……。


「さて、と。飯も食ったし、部屋に戻るか」
「そうだね。もう少し、コンビネーションプレイについて考えておきたいし」
「そうだな」
 食事中は少し口数が少なかったけど。そう答えたのは、もう、いつもの一夏だった。……聞いてみようかな?
「――そういえば一夏。……聞いても、良いかな?」
「ん? 何をだ? 俺の得意料理とかか? ああ、千冬姉の情報は駄目だぞ?」
「そこじゃないよ。――あの、ね。ボーデヴィッヒさん関係の事なんだけど。昔、何があったの?」
「!」
 初日の事といい、さっきの事といい、どうも一夏とボーデヴィッヒさんには何かある。キーワードは、やっぱり織斑先生。
「悪い、シャルル。それだけは、話せない」
 一夏には珍しい、完全な拒絶だった。……それは、その内容がそれだけ一夏にとって重大なことだという証明。
「ううん、僕のほうこそ、ごめん。好奇心で、こんな事を聞いちゃって――」
 どうしてこんな事を聞いたのか、後悔する。一夏にはお世話になっているのに、どうして――。
「いや、俺の方こそ……。でもシャルルも、結構言うんだな」
「言う?」
「ドイツのアイツに、結構反論してたじゃないか。さっきも、この前も」
「ああ……」

『この「学年」にいる者達のような有象無象など、斬り捨てる――教官ならば、そう言うだろうに。まったく――』
『へえ。いつから「学園」じゃなくて「学年」になったの?』
『!?』
『確か噂だと、君はこの学園自体を認めていない――みたいな空気だったらしいけど。どうしてかな?』

 あの、教室での事だね。……あれも、不思議だった。楯無さんから、彼女が組み手で負けた事を聞いてはいたけど。
あんな事を言うつもりなんて無かった。なのに、あの時もさっきも、気付けば口を開いていた。……どうしてだろう?
「ひょっとして、俺を庇ってくれたのか? ――ありがとうな」
 ……一夏が、僕の頭の上に手を置いてくれた。それを理解したのは、置かれて数秒たってからだった。
「うわあああああああっ!?」
「い!?」
 思わず、大きな声を出してしまう。幸い、周囲には誰もいなかったから変に思われることは……あ。
「ご、ごめんね一夏。変な声出しちゃって」
「い、いや、俺こそ、つい。悪かった」
 お互い謝りながら、部屋に戻る。……そしてしばらく、僕のドキドキはおさまってはくれなかった。




「ドイッチの奴は、衝撃砲で蹴散らすしかないわね……」
「ゴウ君のパートナーの石坂悠って娘は剣道経験があるみたいだから、織斑君や篠ノ之さんと同じなのかな?」
「多分、ね」
 あたしとティナは、休日の今日、自室でトーナメントの要注意人物――ほぼ専用機持ち――の対策を練っていた。
特にあのゴウ……っていう奴。千冬さんに偉そうに言っていたのが、どうも気に食わない。
あいつもあたし達を助けてくれたからあまり言いたくなかったけど、流石に千冬さんに責任を負わせるのは間違いだ。
あいつとの和解を言い出すくらいなら、とっととあいつの首根っこを引っ掴んで連れてでも来ればいい。
「でも、ゴウ君って強いみたいだよ。更識さんを殆ど相手にしなかったみたいだし」
「高機動タイプって、普通は扱うのが難しいんだけどね……」
 日本の代表候補生でもあるクラス代表の更識を一蹴したわけだから、かなりの実力者なんだろう。
……ったく、男性操縦者って、なんであそこまで強いのが多いのよ。
一夏は零落白夜、デュノアは高速切り替え、安芸野は高性能ステルス、ロブは高速補給機付き。
負ける気はないけど、一人くらい弱っちいのがいてもいいんじゃないかと思う。
……ま、まあ一夏の奴はまだまだだし!! あたしが見ていないと弱いままだから、あたしも見てあげようとしているんだし!!
「鈴、あたしも足手まといにならないように頑張るから――。一緒に、優勝を目指そうね!!」
「当然!!」


「ティナー、鈴ー。入ってもいいー?」
「あ、恵都子。うん、良いわよー」
 ドアの向こうから恵都子の声がして、あたし達は広げていた資料を閉じる。
まあ、友人といえどタッグトーナメントを戦う相手である以上はあまり隙は見せられない。
恵都子は――あたし以外では唯一の二組の代表候補生、あのファティマと組んでいるからだ。
突撃・近接戦闘を得意とする恵都子と、機動・射撃戦を得意とするファティマ。
ちょうど互いの苦手分野をカバーしている、ある意味で理想的な組み合わせ。
「どうしたのよ、恵都子?」
「うん、ちょっと晩ご飯を一緒にどうかなってだけ。――戦う間柄でも、この位は良いでしょ?」
「ええ、勿論よ。ティナも、良い?」
「反対するわけないじゃない」


 ……とまあ、そんなこんなで一緒に食堂に向かったわけだけど。――そこにいたのは。
「シャルル、これ食べてみろよ」
「うわあ……変わった味だね。何これ?」
「がんもどき、って言うんだ。鳥の雁に似せて作ったものなんだけどな……」
 パートナーになったデュノアと、イチャイチャ(?)する一夏だった。
「おう、鈴。それにハミルトンさんと神月さんも一緒か」
「こんにちわ」
 あっちも気付いたみたいでで挨拶をしてくるけど。……あたしは、ちょっと口を挟まずにはいられなかった。


「あんたら、ちょっと仲良すぎるんじゃないの?」
「え? そうか? 普通だろ?」
「ど、どうなんだろう……?」
 一夏は不思議そうにあたしを見るけど、デュノアは微妙に目を逸らす。何、この雰囲気。これじゃまるで――。
「……鈴、ドンマイ。男は世の中に一人だけじゃないから」
「あ、あはははははははは」
 ティナはあたしを慰めに入り、恵都子は視線を逸らす。……うん、よし解った。
「一夏? ――ちょっと死なない程度に殺していい?」
「は?」
「ちょ、鈴! 落ち着いて!!」
「幾らなんでも、場外乱闘はまずいって!! ……だってそこに、戦女神(ブリュンヒルデ)がいるわよ」
 戦女神。小声で囁かれたその単語を理解した瞬間、あたしの激昂も、一瞬で霧散する。
「……恵都子、ナイス」
「あ、千冬姉も晩飯か?」
 ティナがそっと親指を立て、一夏が笑顔になった事からも解るように――。そこに、千冬さんがいたのだった。


「どうした、いつも姦しい連中にしては珍しく黙りこくっているな」
「い、いや、そうは言いましても……」
「やっぱり……ねえ?」
 どういうつもりなのか、千冬さんと食事をする事になったあたし達。一夏とデュノアは、既に部屋に戻っている。
そしてティナと恵都子は両方とも『鈴、何とかしてよ!!』という視線をあたしにむけてくる。
そ、そりゃあ、この中で千冬さんとの付き合いが一番長いのはあたしだけど……。ど、どうしろっていうのよ!!
「で、凰。調子はどうだ?」
「は、はひっ!? え、ええっと、じゅ、順調です!!」
「そうか。甲龍の様子はどうだ? ボーデヴィッヒにやられて、不調などは出なかったか?」
「だ、大丈夫ですっ!!」
 いきなり話しかけられたので緊張して、少し噛んだ。……大好きなラーメンを啜ってみるけど、味がしない。
「ハミルトンは凰と、そして神月はチャコンとのペアが確定したのだったな? 準備は進んでいるか?」
「は、はい! さっきも鈴と、部屋で話し合ってました!!」
「わ、私も得意分野を磨く為に、この後で特殊訓練室に夜間使用の予約を取りました!!」
 ティナや恵都子も、そうとう緊張しているらしい。
……ティナはハンバーガーにケチャップを塗りたくってるし、恵都子はうどんにかけた七味唐辛子で表面が真っ赤だ。
セシリアの料理レベルに落ちたそれを普通に食べている事からして、多分、あたし同様に味覚が働いていないみたいだし。
「そうか。――まあ、しっかりと励めよ」
 結局、会話はそれっきりで、あたし達は急いで夕食を食べ終えると食堂から去った。あー、緊張した。
「ほ、本当にびっくりしたわ……」
「お、織斑先生に話しかけられるとか、予想外すぎ……」
 ティナや恵都子も、緊張がまだ解けず。あたし達が平静に戻ったのは、翌朝になってからだった。




「更識。――今日も、特訓か」
「はい。今日も、彼らを可愛がってあげます」
 消灯時間以後の無断外出者などを見回っていた千冬は、更識楯無と出会った。
口調は軽いが、その物腰には隙は無く、視線は真剣なものである。
「確か、組み手をやっていると聞いたが」
「ええ、簡単な手解きです。今の彼らじゃあ、勝ち残れないかもしれないと思っていますので」
「やはり、織斑か?」
「はい」
 即答だった。しかし千冬も予想していたのか、反応は特にない。
「ところで――貴様のもう一つの狙い、デュノアにも近づく事は果たせたのか?」
「……」
 一方。気付かれているとは思わなかった楯無は、ほんの僅かであるが表情を動かした。
「あらら。気付かれちゃってました?」
「私は織斑に近づくことは許可したが、デュノアには許可しなかった。――お前なら、織斑一人だけを鍛えるのも可能だっただろう。
なのにそれをしなかったという事は、デュノアにも近づこうとしていたという事だ」
「ご明察、ですね」
 同じ単語が書かれた扇子を広げながら、口元を隠す楯無。そのまま、探るような目を教師に向けるが。
「更識。――デュノアへの干渉は、奴が嫌がっていない限りは許可する」
「はい、ありがとうございます」
 正式な了解を得た途端、その目が綻ぶ。――もっとも、正式な了解が無くてもやるのが更識楯無であるが。
「ところで、彼女の方はやっぱり駄目ですか?」
「……ああ。どうにも、な」
 主語の無い会話だが、互いにそれは理解していた。――その『対象』がどうすれば変わるのか。
世界最強と、最強の生徒にも、その答えは未だに見つからないのだった。




「少し、良いかな?」
「え、ゴウ?」
「お前、どうして――」
 俺達が、楯無さんとの深夜特訓に向かう途中。まるで『予め解っていたように待っていた』ゴウと出会う。
……何なんだ? 前にも『君には負けないぞ』的な事を言ってきた事はあったが。
「織斑君。少し、良いかな?」
「何だ? ……手短にしてくれるか?」
「ああ、長引かせるつもりは無いさ。……少しだけ、二人で話をしたいんだが」
「え……一夏とゴウが、二人だけで?」
「……シャルル、先に行っていてくれ」
「う、うん」
 シャルルが先に行くのを確認し、俺達は人気のない場所に移る。……話って、何だろうか?


「織斑君。――君は、人を殺す覚悟があるのか?」
「こ、殺す覚悟?」
 口を開いたかと思えば、物騒な話題から始まったが。何の意図があるんだ?
「たとえば、君が快楽殺人者――人殺しが大好きな人間と遭遇したとする。そいつを見逃せば、誰かが死ぬ『かもしれない』としよう」
 か、快楽殺人者? 何か意味がわからない喩えだが、そんな奴がいて、俺の前に現れるとしたら――。
「そりゃ、取り押さえるなり通報なりするだろ?」
「ところがそいつは、遠隔操作で起爆する、爆弾のスイッチを持っていた。そのリモコンは――。
そうだな、篠ノ之箒でも凰鈴音でもいいが、君の見知った誰かが死ぬ爆弾のスイッチだとしよう」
 な!?
「君が取り押さえるなり通報なりしようとすれば、即座にスイッチが押される。
もしもそんな事態に遭遇したら……どうする? そいつを取り押さえるのか?」
「そ、それは――」
 見逃せば、誰かが死ぬ『かもしれない』が、取り押さえようとしたら箒や鈴が死ぬ。残酷な、二者択一。
『かもしれない』である以上、絶対じゃない。だけど、もしも見逃して誰かが死んだりすれば――。
「答えられないか。――即断即決で無ければ、使い物にならないのにな」
「……」
「入学して三ヶ月。多少『変わっている』筈なのに、やはり変化は無しか。織斑先生の指導も、大した事は無いな」
「待てよ。俺だって、ISを纏ってもう三ヶ月だ。零落白夜だって使いこなせるようになったし――」
「それが甘い、と言うんだよ。それは単に、白式の力だろう?」
「そ、それは、そうだけど……」
 ちょっとゴウの文脈が変な気もしたが、千冬姉の事をまた言われては黙っていられなかった。だが、言い負ける。
「ISは所詮、ただの兵器だ。ISに頼りすぎて己の力量を過信した時、危険になるのは君だけじゃなく、君の周りにいる人間だぞ。
君は『守りたい』だとか口にするが、それじゃあ誰も守れない。出来るのは織斑先生の猿真似くらいだ」
 ――その言葉を聞くと同時に、怒りや戸惑いよりも先にある言葉が思い浮かんだ。それは――
「……刀は振るう物。振られるようでは、剣術とは言わない。人を殺す力を持つ刀、それを何のために振るうのかを考える事。それが、強さ」
「はあ?」
「少なくとも、俺はそう考えている。――刀も兵器も、ISだって同じだってな」
「織斑先生の発言のコピーか。……やはり君じゃあ、シャルル『達』は任せられないな」
 ゴウは、そう言いきると去っていく。何かよく解らなかったが……あれ?
「俺、あいつの前で『守りたい』とか言ったっけ? それに、刀は振るう物、って言うのも知ってたみたいだし」
 将隆には言った記憶があるが、あいつには無い。シャルル絡み……か? でも『その単語を使った覚え』が無いような……。
まあ、いいか。俺から聞いたんじゃなくて、将隆から聞いたのかもしれないし。
千冬姉の発言も、何処かでインタビューか何かで発言したんだろう。俺の知る限りそんなの無い筈だし、他の皆からも聞いた事は無いけど。


「強い……」
「……参り、ました」
「お粗末さまでした」
 本日の組み手、九戦目が終わった。勝敗は言うまでも無く零勝九敗。そして畳に仰向けに倒れる俺と、それを見下ろす楯無さん。
最初、手合わせした時から解っていた事だが……この人、素手でもかなり強い。
対抗戦の乱入者を一人で抑えていたのは、IS操縦者としての力量だけじゃない。この人自身が、強いんだ。
「ふむ、だいぶ力をつけてきたんじゃないかしら? 少しは動けるようになってきたでしょう?」
「そう、です、かね」
 息が切れて、喋るのが途切れ途切れな俺に対し、いつもと同じく扇子を広げている楯無さん。
とてもじゃないが、差が埋まっているようには見えない。
「ふふ。――えい」
「っ!?」
 右足の裏――畳の上なので、当然ながら裸足――を指でなぞられる。くすぐったい、変な感覚が俺の体の中を走る。
そのむず痒さに、上半身が跳ね起きた。
「な、なんなん、ですか……?」
「うん、体力はついてるわね。だって、以前なら今の事をされても起き上がる力なんて無かったでしょ?」
「あ……」
 確かに、その通りだ。……体力はついているんだろうか?
「試合時間をフルに戦う為には、まず体力がないと駄目だからね」
「それは、そうですけど……」
「はい、一夏これ」
「お、サンキュ」
 そんな事を言っていると、シャルルがタオルを持ってきてくれた。目に入りそうな汗を拭い、一息つく。
「うーん、本当に貴女って気が聞くわねえ。――あ、そうだ。今回の一件の私へのお礼に、生徒会を手伝ってみない?」
「……え?」
 楯無さんにもタオルを差し出そうとしたシャルルが硬直する。い、いきなり、何を言い出すんだこの人は!?
「だって、私も自分の時間を割いて訓練しているんだし。お礼を受け取っても良いと思うんだけどな?」
「え、えっと、それはそうですけど……」
 どうしたものだろうか。シャルルは明らかに困ってるし。言わないわけにはいかないか……。
「あの、今突然そんな事を言われてもシャルルも困ると思うんで……」
「そうね。今の話は、聞かなかったことにしておいて。ね?」
「は、はあ……」
 あれ、あっさりと引き下がったな。
「うーん、でも……。私が教えたくらいだし、君達には優勝してもらわないとねー?」
「ゆ、優勝ですか……」
 目指さないわけじゃなかったが、こうやって口にされるとプレッシャーがある。
「ほらほら、しっかりしないと駄目でしょ? 頑張れ、男の子!」
 パン、と軽く肩を叩かれる。……結局俺は、この人のペースに巻き込まれっぱなしだった。


「あの、一つ聞いても良いですか?」
「うん、何でも良いわよ?」
「ここって、男子が着替える場所ですよね?」
「うん、彼女と交代で着替えるようにしたから、今は男子が着替える場所ね」
「……じゃあ、何で貴女がここに入ってくるんですか?」
 特訓が終わり、シャルルが着替えたので俺も着替えていると。何故かそこに、楯無さんが入ってきた。
俺はというと、上半身裸である。もしも逆なら、悲鳴をあげられてもおかしくない状況。
「ちょっと、お話よ♪」
 貴女もですか……と言っても無駄なんだろうなあ。きっと。
「はいはい、どうぞ」
「むー、お姉さんに対して扱いがぞんざい過ぎない、それ?」
 可愛らしく唇を突き出す楯無さん。いや、貴女の相手をするのも疲れるんですよ。
「織斑先生には物凄く丁寧で気を使ってるのにー。私にもそうして欲しいなー」
「いや、実の姉とそうじゃない人じゃ違って突然でしょ」
「ぶーぶー。このシスコンー」
 子供っぽい口調の楯無さんだが、目が明らかに笑っている。……はあ。また、からかいか。
「じゃあ、質問だけど。――織斑君」
「な、何ですか?」
 いきなり耳元まで近寄られ、少しどきどきする。……当たっている膨らみとか、その香りとかで。
「貴方が第二回モンド・グロッソの決勝戦前に誘拐されたのは、どうしてだと思う?」
「え……?」
 だけど、そんなのは言葉の内容を理解した瞬間に一気に吹き飛んだ。ど、どうして、それを……!?
「不思議そうね。――まあ、そういう事を知る事が出来る家柄だって事かしら? ああ、織斑先生に聞いても良いわよ?」
 先輩の家柄って何だろうか。ゴウから聞いた『人には言えない家柄』なんだろうか。
でも、千冬姉に聞いてもいいって事は……いや。それはともかく。
「……それは、千冬姉を決勝戦に出場させない為にでしょう?」
「そうね。――それも正解」
 それ『も』って……?
「貴女は、何か他の理由を知っているんですか?」
「……教えて欲しかったら、優勝してみなさい。そしたら、私の知っている事を少し教えてあげる」
 それは、凄く真剣な目で。仮に興味が無くても、断れないような視線だった。


「――まさか、貴様達が更識楯無の訓練を受けているとはな」
「!」
 道場の前。そこにいたのは、ドイツのあいつ――ラウラ・ボーデヴィッヒだった。俺達を尾行していた……のか?
「あらボーデヴィッヒちゃん。私にリベンジかしら? それとも師事のお願い、とか?」
「あいにく、どちらでもない。……今は、な」
 俺に向けるのとは少し違う敵意を、楯無さんに向けている。……確かこの二人、組み手をして楯無さんが勝ったと聞いたけど。
「……そう。それじゃあ、負けてもめげないボーデヴィッヒちゃんにはプレゼントを用意しようかしら?」
「はあ!?」
「た、楯無さん?」
「何のつもりだ?」
 一年一組所属の三人が、そろって驚く。まあ、当然だが。
「もしも優勝できたら、織斑先生の秘蔵写真をご進呈~~♪ なんて、どう?」
「何、教官の!?」
「秘蔵写真だって!?」
「……なんで、一夏まで反応してるの?」
 いや、だってシャルル、千冬姉の秘蔵写真だぞ!? だったら弟として――。
「薄々気付いていたけど、一夏ってやっぱり……」
「さあボーデヴィッヒちゃん。どうするかなー?」
「……ふ、ふん。秘蔵写真がどうしたというのだ。教官の写真など、私は既に何枚も持っているからな!」
 明らかに無理をしているような表情で、あいつは楯無さんからそっぽを向く。……こいつ、こんな表情もするんだな。


「――ほう、秘蔵写真か。私にも見せてくれるか、更識?」
「んげ」
「き、教官!? ――ぐおっ!?」
 夜の闇を切り裂いて、その声がした途端。楯無さんは苦い物でも飲んだような表情になり、あいつは出席簿で叩かれた。
「ボーデヴィッヒ。更識・織斑・デュノアに関しては夜間外出届が提出されていたが、お前からは提出されていないのだが?」
「も、もうしわけ、ありません……」
「では、すぐさま寮に戻れ。私の仕事を増やしたいのなら、このままでも良いが……」
「い、いいえ! すぐに帰還します!!」
 敬礼をしたあいつは、あっという間に走り去っていった。……千冬姉には、あんな態度も見せるんだな。


「……まさか、尾行されていたなんて思わなかったね」
「ああ」
 部屋に戻って、互いにシャワーを浴びて後は寝るだけ――となった俺達だが。何となく眠れず、そんな会話が広がっていた。
「大丈夫なのかな?」
「よく解らないけど、あいつはこれを言いふらしたりするタイプじゃないだろ」
 まあ、そうなったら正直に皆には言うだけだが。……!
「正直、か」
 ――そうだ。楯無さんとの特訓は正直には言えても。皆にも、目の前のシャルルにも正直に言えないことがあったんだっだ。


「珍しいねー。おりむーが生徒会長に用事なんてー」
 次の日の昼。俺は、のほほんさんの案内で生徒会室に向かっていた。彼女も生徒会役員だと知った時は、驚いたもんだが……。
「はい、ここだよー。それじゃあ、ごゆっくりー」
 重厚な開き戸のある、生徒会室。予め、のほほんさんに頼んでいるので『あの人』はここにいるはずだ。
「――失礼します」
「どうぞ」
 最近聞く機会が増えた声の返事が来て、俺はドアを開ける。――そこには。
「ようこそ、生徒会室へ。――織斑一夏君」
 重厚な机の前に立ち『歓迎』と書かれた扇を広げた、楯無さんがいた。


「それにしても、おねーさん驚いたわ。まさか、織斑君から生徒会室でデートしたいなんて――」
「……あの。のほほんさんには今朝『何処かで生徒会長と会いたいけど、何とかならないか?』って聞いた筈なんですが」
 そうしたら「任せて、おりむー」と返事を返されて。で、今に至るんだが。
「あら、年頃の男女が密室で二人で出会うって言ったらデートじゃないの?」
「何でですか!!」
「ふふ、私としてはデートのお誘いでも良かったんだけどね。――それで、どうしたのかしら?」
「……あの。少し相談してもいいですか?」
「伺いましょう。じゃあ、立ったままもおかしいからそこに腰掛けて。お茶でも――」
「いえ、いいです」
「そう。――じゃあ、どうぞ」
 真剣な目になり、俺もソファーに腰掛ける。――そして、昨日から考えていた事を彼女に話し始めた。


「……貴女は、千冬姉の棄権の事は知っているんですよね?」
「ええ」
 俺の問いに、楯無さんは『裏事情』と書かれた扇子で口元を隠す。……毎回思うが、どうやって文字を変えているんだろう?
「じゃあ、俺の誘拐の事も知ってますよね?」
「ええ。……どうしたの、変な質問をして。昨日、言ったわよね?」
「はい。実は、その……それを、シャルルや他の親しい連中には話すべきだと思いますか?」
「……ほう。何かあったのかしら?」
「少しだけ、ですけど。シャルルが心配してくれたのに、俺は本当のことを言わなかったのが……心苦しくて」
「そうねえ。――どんな親しい関係であっても、隠し事の一つや二つはあっても良いと思うの。
だけど、貴方が話したいと思うのなら。あるいは話すべきだと思うのなら、シャルル君や皆にも話すべきだと思うわ。そ・れ・と」
 口元を隠していた扇子がそこから離れると、悪戯っ子っぽい笑みが浮かんでいて。
「貴女が誰に、そして何処まで話すのかは解らないけれど。――きっと、貴方の過去に起こった出来事をちゃんと受け止めてくれると思うわよ?」
「はい……そうですね」
 ただの変わった人かと思ってたんだけど。やっぱり生徒会長なだけあってか、ちゃんとした人だった。
「――。それと、ゴウ君との会話は良いの?」
「え!?」
 驚いて彼女を見ると、扇の文字が『誘導成功』になっていた。……って事は。
「引っかかったわね。君も『彼女』と同じであっさりと引っかかるわねー。まあ、無理も無いけど」
 はて、彼女とは誰だろうか? まあ、それはいいとして。
「何で、ゴウだって思ったんですか?」
 何かあったのは洞察力で解ったとしても、相手が誰なのかなんて解るんだろうか?
「コア・ネットワークって知ってるわよね? ――じつはこれ、大雑把な互いの位置が解るように出来ているのよ」
 ああ、そういえばセシリアからそんな事を聞いたような気がする。
「少し調べてみたら、君とゴウ君が一緒の場所にいたみたいだから。ひょっとしたら、と思ったんだけど」
「なるほど……」
「というのは冗談で、単純にシャルル君経由で君達が二人きりで話をしたって、君の着替え中に聞いただけなんだけどね?」
 何だそりゃああ!?
「それで、どんな事を話したのかな? おねーさんに、相談してみなさい」
 『年上の威厳』と書かれた扇子を口元にやり、胸を張る楯無さん。……揺れた胸は意識の外に置き、俺は説明を始めた。


「――って会話だったんですけど」
「ふうん、なるほど、ねえ。殺す覚悟――か」
 話し終わった瞬間、楯無さんの目が思いっきり細められた。
瞑想しているようにも見えたが、すぐにいつものこの人に戻ると、端末を取り出す。
とはいっても生徒用の端末とは明らかに違う端末なので、個人用か――あるいは国家から別に支給されているやつなんだろうか?
「ほい、でた。――ちょっとこれを見てくれるかな?」
「……? はい」
 一体何を、と思って画面を覗き込むと――そこには、メッセージが書かれた画像があった。

【ISがあって、本当に良かった】
【ISのお陰で、大事故にならずに済みました。ありがとうございます】
【ISサイコー! ○○さんは女神!!】
【頑張って電気を送り続けます!!】

「……これは、何なんですか?」
 ISと書いてあるが、転校生なんかに渡す寄せ書きのようなもの……だろうか。
中心に円の書かれた色紙に、放射状にメッセージを書くアレ。ただ、何ていうか……殴り書き、って感じだ。
ゆっくり書く暇がなかったのか? 電気を送り続けるだとか事故だとか、学生生活とはあまり関係ないフレーズが入ってるし。
「貴方は覚えているかしら。……X年前の大地震の事を」
 X年前の地震? ……ああ、あの■◆県の山間部が震源だったあの大地震か。俺は、あまり覚えていないけど。
「その時、■◆県にある原子力発電所で事故が発生してね。あやうく炉心融解までいきかけたの」
「炉心融解って……やばくないですか?」
「やばいわねー、無茶苦茶やばい。あの時もしも対処が間に合わなかったら、と思うと私でもゾッとするわ」
 口調は軽いが、楯無さんの顔は真剣そのものだった。原発に関する知識なんてない俺にも、事の重大さがわかる。
「炉心融解っていうのは簡単に言うと、熱くなった原子炉を冷やしきれなくて炉心その物が熔けちゃって。
燃料棒だとか、中にあった物が流れ出ちゃう事なんだけど。じゃあ、問題。
通常では原子炉は水で冷やすのだけど、この時は地震でその冷却システムが壊れていました。どうしたと思う?」
「冷却システムが壊れてたなら……そりゃあ、システムを修理するか、どこかから冷やす為の物を持ってくるんじゃないですか?」
「ええ、実際に行われたのは前者の方。―そして、それをやったのがISだったのよ」
「え!?」
 よく考えれば、話の展開からして当然なのだが。ISが『そういう事』にも使われたとは思わなかった俺は、驚くしかなかった。
「元々宇宙活動用として作られていたISは、通常状態でも原子炉の放射線被害レベルなら完全にガードしてくれるし。
パワーアシスト機能があるから、重たい瓦礫でも楽に運べたらしいわ。
量子変換技術により、冷却剤や故障した部品の輸送も迅速に行えたし。……それで、事故を最小限に抑えられたの」
「そんな事があったんですか……」
「ええ。ISの能力の高さを証明した一件として、アラスカ条約の制定にも一役かったと言われているくらい重要な出来事よ」
「……でも、全然知られていないですよね?」
 新聞なんかでも騒いでいないし。いくらX年前とはいえ、地震自体は結構大きく報道された筈だ。
その中でそんな事があったのなら、未だに言われてもおかしくないニュースの筈なんだが……。
「ええ。原子力発電所の事故を隠すために、ISの活躍自体も無かった事にされたからね」
「そ、そんな理由で……」
 それって良いのだろうか?
「まあ、情報を隠す事はあまり良い事じゃないかもしれないけど。
ISが世の中に広まったのには、こういう知られざる事件もいっぱいあるのよね」
「そう……なんですか」
「この後の、地震の被災者に対して物資輸送や瓦礫撤去とかに役だった事は大きく報道されたんだけどね。
結局その後、軍事利用やモンド・グロッソが注視されちゃってこういった方面への使用はフェードアウトしちゃってるし」
 ……。
「ISは、確かに兵器かもしれない。だけど、人殺しの道具が本来の姿なんかじゃない。
すくなくとも、この色紙に感謝の気持ちを記した人や地震の時に助けてもらった人達はそう言うと思うわね」
 その時の楯無さんの表情は、俺と一歳しか離れていないにもかかわらず、凄く大人びて見えた。
「あら、私に見蕩れちゃった? 『一夏君』は年上好きだったのかなー?」
「へ? な、何でそうなるんですか!!」
「ふふふ、からかいがいがあるわねー」
 『天意無法』と書かれた扇子を広げて笑う楯無さん。……いやいや、それ正しくは『天衣無縫』ですから!!


「失礼しました……って、どうしたんだ、お前ら?」
「べ、別にどうしたというわけではない!!」
「た、ただ一夏さんが珍しくも生徒会室に自分から向かったとお聞きしましたので……」
「む、迎えに来てやったのよ!!」
「そ、そういう事だよ」
 俺が生徒会室から退室すると。箒、セシリア、鈴。そしてシャルルまでが、その扉の前に待っていた。
「はあ……。まあ、それより教室に戻るか。次は千冬姉の授業だしな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! そもそも、何でここに来てたのよ!!」
「いや、ちょっと生徒会長と話があっただけだけど……」
「え? 一夏、ひょっとして――」
 シャルルが夜の訓練の事だと思ったのか、ちらりと残る三人を見る。ああ、そういうわけじゃないんだが……うお!?。
「あら。一年生の中でも有名人な娘(こ)が揃ってるわね」
 声を聞きつけたのか、楯無さんまで出てきた。それは良いんだが、俺の手をとり抱きついているのは何故だ。
「ああああああああ! な、何しているのよあんた!!」
「こ、これは一体、どういう事ですの!!」
「こ、この不埒者!!」
「……はあ。皆、そんなに怒らなくても良いと思うよ」
 何故か激昂する三人だったが、シャルルの疲れたような声と共に矛を収めた。……助かった。
「ふふ、私と一夏君のお話が気になる?」
「な、名前呼び!?」
 何か鈴がショックを受けているが……。あれ、俺、いつの間に楯無さんから名前で呼ばれてたっけ?
「まあ、貴女達の想像するような話じゃないとだけ教えてあげるわね。――あ」
 何かに気付いたような楯無さんが、扇子で生徒会室のある場所を指差す。その先には時計の投影ディスプレイがあり。
その表示された時刻は――午後の授業開始の五分前。つまり俺達は、生徒会室から教室まで五分で帰らないとならない。
「な、何だってええええ!? さっき見たときは、まだまだ時間あったぞ!?」
「も、戻るぞ一夏!!」
「せ、制裁はごめんですわ!!」
「ど、どうしてこうなるのよおおお!!」
「ど、どうしよう!!」
 阿鼻叫喚の中、その表示された時刻がまき戻っていく。……え?
「ちょっと生徒会長特権で、その時計の時間を弄くってみましたー。もう、冷静に物事を判断しないと駄目よ?」
 ……悪意なんて欠片もなさそうな、楯無さんの言葉。
それによって反論する元気を失った俺達は、教室まで時間内に帰り着く事を優先させたのだった。




 今回の更識楯無の話は、完全なるネタです。
そしてこのネタの発想の源は、一期BD・DVD特典の資料集に掲載された主要キャラクター8人の声優さんのキャストコメント。
その中の、セシリア・オルコット役のゆかなさん&ラウラ・ボーデヴィッヒ役の井上真里奈さん&山田麻耶役の下屋則子さん。
お三方のコメントからです。もしISに乗れるとしたら、やってみたいことはありますか? という質問に対してお三方は

「一人では持てない重たい物をもってあげたい」

「困っている人たちに必要なものを届けたり、助けを必要としている人たちを救出したいです。
本当に、今(※2011年)の日本にあったらいいのに」

「困ってる人がいたら、ISの力を使って手助けをしたいですね」

と答えていました。具体的にどのような人達を指してこう言ったのかは知りませんが、これを読んだ時真っ先に浮かんだのはアレでした。

 ISアニメ一期がまだ放映途中だった2011年3月11日……あの東日本大震災が起こりました。
津波の被害も甚大なものでしたが、その後に起こった福島第一原発の事故により、今なお多くの方が故郷に帰れずにいます。
……もしも、ですが。2011年3月11日の時点でISが現実に存在していれば。もしかしたら原発事故は防げたのかもしれません。

 勿論、こんな事は現実には何の意味もない空想です。仮にISがあっても、当時の大混乱の中では上手く運用できたとも限りません。
――ですが。せめてSSの中だけでもそんな可能性を書いてみたく、今回の一件となりました。
「本当に、今の日本にあったらいいのに」です。

 この作品におけるゴウがそうですが、よく、IS=兵器というオリジナルキャラがいます。
千冬やラウラも劇中で言っていましたし、そういった面もあるのでしょう。
ヘイト系だけではなく、IS=兵器として扱って名作に仕立てあげたSS作家さんも知っています。
ですが……ゆかなさんや井上さん、下屋さんの考えもいいな、と思います。これを読まれた皆さんは、どうお考えですか?


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