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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 人の百過想迷
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/11 08:12
・ギリギリ二月中に二回目の投稿が出来ました……。
・タイトルは「ひとのひゃっかそうめい」と読みます。正しくは『百家争鳴』であり、受験生は覚えてはいけません。
・もう一つ『受験生が覚えてはいけない』要素があります。国語辞書を引きましょう。


「皆さん、お茶が入りましたよ」
 職員室で学年別トーナメントの準備に忙しい中。一年三組副担任補佐、ゲルト・ハッセの声と共に教師達は仕事を一時中断した。
元々生徒であった彼女は、既に学園の空気にも馴染んで――いや、戻っていると言うべきか。
「ふう。私の方はそろそろ片付きそうですが、新野先生は如何ですか?」
「私はもう少しかかりそうですね」
「これが終わったら、来賓の方々への対応にも入らなければなりませんね」
 そんな会話が飛び交う中、一年一組副担任・山田麻耶が自分の湯飲みを取りに来た。そして……。
「ふう……。ハッセ先生のお茶、美味しいですね」
 一息つく。しかしそれだけであるにも関わらず、ハッセの目が麻耶へと釘付けになった。
「ふむ……。やはり巨大ですね」
「きょだ……っ!?」
 その言葉を言い続けられてきた彼女は、その指し示す物が何であるのかを悟った。
彼女は普通に湯飲みを両手で取り、普通に口へと近づけ、普通に啜っていただけなのだが。
その近づいた手に当たった胸が柔らかそうに潰れ、その大きさが普通ではない事をあらわしていたのだった。
「は、ハッセ先生! せ、セクハラですよ!!」
 慌てて湯飲みを置き、胸を手で隠す。……もっとも、逆に手で強調されていたが。
「いえ、その胸は人類の至宝です。ぜひとも、もっと見せて欲しいと願ってやみません。そうすれば天国へ――」
「ほう、天国か。――では、私の手で送ってやるとしようか」
 そんな声と共に、ゲルト・ハッセの意識は途絶えた。一年一組担任、織斑千冬の出席簿による制裁である。
周りの教師達も既に見慣れた光景なのか、特にリアクションもなかった。
「山田先生。これはトーナメント開催期間中の警備状況についてだ。目を通しておいて下さい」
「は、はい! わかりました。それと、こっちが当日までの搬入物資のリストです」
「ご苦労。アリーナ準備が一段落ついたので、私もこちらに加わりましょう」
 そして、しばしの休息は終わりまた準備が始まる。生徒達も、トーナメントに向けての戦いを始めているが。
教員達もまた、自分の戦いを始めているのだった。


 数時間後、ようやく仕事が一段落着いた。そして始まるのは、文字通り姦しい話。
「それにしても、今年は忙しいですね。例年なら、専用機は多くても三機ほどしかないのに……」
「今年は、ドールの専用機も含めれば十機を越しますからね……」
「ですが、それだけに金星を得る機会も増えるというものです。専用機といえど、絶対無敵ではないのですからね」
「ええ。二年生と三年生のほうは、どうなんでしょうか?」
「二年生は、生徒会長の更識楯無をどう攻略するか――にかかっていますね。
彼女は優勝候補筆頭ですが、他の生徒達も黙って彼女に優勝させるつもりではないようですよ」
「三年生は、これまでの集大成ですからね。専用機は一機だけですし、激戦が予想されますよ」
 話題は学年別トーナメントに限定されていたが、教え子の奮闘を期待する教師達の興奮度は高い。
疲れているはずだが、その疲れを微塵も感じさせない。
「山田先生。そういえば貴方はブルー・ティアーズと甲龍をリヴァイヴ一機で翻弄したそうですが」
「え? あ、は、はい。デュノアさんとボーデヴィッヒさんが転入してきた日の事ですよね」
 お茶と菓子を楽しんでいた麻耶は、自分に話題が向いたのを悟って慌てて気を取り直す。
眼鏡を指で挙げるその様子は、制服を着て生徒の中に紛れ込めば(特定部位の大きさを除けば)見分けがつかないほど若々しかった。
「あの時は、オルコットさんと凰さんの連携の悪さを突いただけですよ。私も、もう候補生を辞めて長いですし……」
「そう、謙遜する事はあるまい。あの二人の連携の悪さはともかく、それを突けたのは君の実力だ」
「お、織斑先生……」
 世界最強――モンド・グロッソ優勝、ブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬の褒め言葉に顔を真っ赤にする麻耶。
ここで終われば、いい話だったのだが。
「そうですよ。山田先生はもっと自分に自信を持つべきです。もっと胸を張って、その大きさを誇示するべきです」
「ハッセ……前半分は私も同意するが、後半分が蛇足だったな」
 懲りずに胸ネタ発言をする元教え子に、制裁を加える千冬。苦笑や無関心の中。麻耶は、またしても顔を真っ赤にするのだった。




「ここが、特殊訓練室か」
 私は学園内の施設の一つ、特殊訓練室を訪ねていた。ここで『も』真剣を使った訓練が出来ると聞き、それを試しに来たのだが。
「予約で一杯か……」
 学年別トーナメントが近い事もあり、施設は満杯だった。待っている人間も多く、これでは……。
「仕方があるまい。いつもどおり、剣道場の隣で行なうとしようか」
 剣道場の隣の一角でも、真剣の稽古は許可されていた。流石に真剣での勝負は禁止されているが、居合いなどならば可能だ。
一夏との事でからかわれる事も考え、あそこは避けたかったのだが……背に腹は変えられないからな。
「ん? あれはセシリアと……鷹月か? ――な!?」
 ふと視線を移した個人使用用の一室――防弾仕様の強化ガラスの中で、セシリアが鷹月に拳銃を向けていた。
セシリアは、ブルーティアーズを展開――ただし、主力武器であるあのライフルは無し――しているのに対して、鷹月は生身。
ISスーツとヘルメット、そして腕や足にも防具らしき物をつけているが……。
「な、何故セシリアが鷹月を……いや、待てよ? あの姿、どこかで……! そうだ! 一夏だ!!」
 四月の最初に、一夏とセシリアが戦う事になった頃の事。回避する事を身体に刻み込む為、そして体力づくりもかねて。
レオーネのモデルガンを、私・宇月・レオーネの三人で一夏に向けて撃った事があった。
その時の一夏の姿が、今の鷹月と重なって見えたのだ。ということは、鷹月もあの頃の一夏と同じく……?
『あら……箒さん?』
『どうしたの、篠ノ之さん。偵察?』
「いや、利用しようとして来たのだがあいにくと使えず。今から帰るところに、お前達が目に入ったのだ」
 あちらも私に気付いたのか、銃撃をやめてセシリアと鷹月が部屋から話しかけてくる。
二人とも汗まみれで、特に鷹月は真夏のような汗をかいている。
「しかし、少々不本意ですわね。このような姿を、このわたくし――セシリア・オルコットがさらしてしまうなど」
 セシリアのほうは汗まみれな姿を知人にさらしたくなかったのか、タオルで顔を隠している。……な、何かすまん。
「と、ところで何をしていたのだ? 回避訓練か?」
「いや篠ノ之さん。私は織斑先生じゃないんだから、生身で銃弾を回避するなんて出来ないって」
 ……千冬さんなら、本当に出来そうだな。
「ためしにこれ、触ってみて」
「こ、これは……実弾なのか!?」
 鷹月に渡された弾丸の、その重さや熱さ。それは紛れもない、実弾の重さだった。
「し、しかし、何故実弾を使った訓練をするのだ?」
「鷹月さんが、自分には射撃に対する訓練が足りていないと仰いまして……。
でしたら、このわたくしの射撃攻撃を受ければ、回避や防御の訓練になると思いましたの」
「……なるほどな」
 セシリアのIS・ブルーティアーズは射撃攻撃に長けたISで、セシリアも射撃の腕前は大したものだ。
そのセシリアの射撃に慣れてしまえば、並大抵の射撃など苦ともしないだろう。
「あれ、メールが届いてる……へえ」
 と、鷹月が傍においてあった生徒用端末を開いて何かを見ている。……ん? 何故私とセシリアを見るんだ?
「二人とも。何か織斑君とデュノア君が、秘密の訓練を受けているんじゃないかって噂が流れているみたいよ」
「なに!?」
「何ですって!?」
 聞き捨てならない話に、私もセシリアも一気に関心をそちらに向ける。結局、それが事実なのか。
事実だとすれば、誰が指導しているのかは解らなかったが。今度、一夏の奴を問い詰めるか……?


「ところで、篠ノ之さんは宇月さんと訓練をしているって聞いたんだけど……本当なの?」
「まあ、そうですの?」
「あ、ああ」
 汗を拭き、一時休憩している二人と話していると、話題が私達の方に向いてきた。もう知られていたのか。
まあ、隠しているわけではないし、他の剣道部員もいる場所での訓練であったし、話が広まっても不思議ではないが。
「私も、知り合いの先輩に頼んで少し訓練しているんだけど……大丈夫なの?」
「まあ、宇月は努力家だが。いかんせん、時間が足りないからな……」
 何処まで教え込めるのか、というのもある。
「そういえば、鷹月はどのような訓練をしているのだ?」
 鷹月と先輩が話しているのは見た事がないが。セシリアが射撃関連と言う事は、それ以外なのだろうか?
「――秘密よ」
 口元に指を当て、可愛らしく返答が来る。セシリアへと視線を向けてみるが、彼女も曖昧に微笑むだけ。
「残念ですが、わたくしはその訓練を受ける事は知っていても内容までは聞いていませんわよ?」
「そうなのか?」
「ごめんね。その先輩との約束で『相棒にも話さないで』って言われてるの」
「ええ。そういう事ですわ。――あら、もう休憩時間が終わりそうですわね。では鷹月さん、もう一度行きますわよ?」
「お願いします」
 そして二人が部屋へと戻っていく。その他の部屋も見てみれば、熱意あふれる生徒達でいっぱいだった。
――それぞれ、どのような願いがあるのかは分からないが。一生懸命であるのは分かった。


「あれ、篠ノ之さんじゃない。こんにちわ」
「レオーネ……。お前とも、ここで会うとは」
 訓練室を出ると、待ち構えていたようにレオーネと出会う。彼女も、ここに用事なのか?
「ここにくるなんて、珍しいわね。どうしたの?」
「少しばかり、利用してみようと思ったのだが駄目だったのだ。レオーネは、今から利用するのか?」
「うん。――あ、そうだ。香奈枝が貴女から剣道を習ってるって聞いたんだけど」
「ああ、そうだ」
 ちなみに今日は宇月が『最初から休んでごめんなさい! でも、どうしても先輩達のスケジュールが今日しかなくて……。
機体の設定の向上に関する必要不可欠な事を学ばないといけないから、休ませて!』と頭を下げられたので休みとなった。
「篠ノ之さんも知っていると思うけど。あの子は少し目を離すとすぐに無理をするタイプだから、気をつけてあげてね」
「ああ、それは重々承知している。気をつけよう」
 以前、私達の眼前で倒れてしまったからな。
あの時は、後頭部から倒れこむ宇月を支えようとした一夏が間に合ったからよかったものの、そうでなければと考えると肝が冷える。
「ところで話は変わるんだけど。――篠ノ之さん、あの申し込み用紙にはなんて書いたの?」
「申し込み用紙か? 私は『専用機持ちの誰か』と書いただけだ」
 正直、この時点で専用機持ちと組める可能性は無いと思っていたのだが。ボーデヴィッヒの名前を書いた生徒はいなかったのだろうか?
「ふうん。やっぱり、彼女達の言っていた通りかー」
 彼女達?
「こんにちわ、篠ノ之さん」
「相変わらず大きいね!」
「お、お前たちか」
 音もなく現れたのは、三組の情報通の二人組――都築と加納の二人だった。同じ剣道部員の戸塚でさえ忘れていた私だが……。
この二人の事は、嫌でも覚えざるをえなかった。この二人が私と出会うと、常に話題が胸の方へと向かう。
酷い時など、胸を揉もうと手を伸ばしてきたくらいだ。……勿論、篠ノ之流を修めた私はそんな不埒な真似はさせなかったが。
「何の用事だ」
「つれないなあ。今日は、貴方の助けになろうと思ってきたのに」
「そうですよ」
 助け? ……どういう事だろうか?
「いやね、一部で『篠ノ之箒が専用機持ちと組めたのは、姉の七光りがあったからだ』なんて噂が流れているらしいのよ」
「な、何だと!?」
 レオーネの言葉に、思わずくってかかってしまう。彼女が悪いわけではないのだが、どうしても聞き流せない話だったからだ。
「まあ、そこで私達の出番と言う事です」
「ボーデヴィッヒさんの名前を書いた人が、誰もいない事。
そして『専用機持ちの誰か』と書いた人もいない事を証明し、それを噂として流してあげますよ」
「な、何? 何だそれは? そのような必要があるのか?」
 何となく、意味が解ったが。その必要性がわからなかった。
「いやいや、それは甘い見通しだよ? 噂って言うのはどんな所から流れるかわからない物だ」
「だからこそ、そういった噂を消すためにも正確な『自分の望む』噂を流すというのも重要なのです」
「そ、そういう物なのか?」
「そういう物だよ。まあ篠ノ之さん、私達に任せておいてくれ」
「その一部の心無い噂、見事に消してあげましょう」
 ……まるで狐狸に化かされたような感覚だったが、結局その二人に願い出ることにした。
――あまり、私にとって触れられたくない話題に触れてしまうような噂が流れるのは勘弁願いたいからだった。




「――あら、鈴さん。ご友人と一緒とは珍しいですわね」
「まあ、ね。セシリアこそどうしたのよ?」
 わたくしが校舎の一角の階段を三階から下りていくと、逆に一階から階段を上ってくる鈴さんと友人の方々と出会う。
その中の一人――金髪の彼女が、ティナ・ハミルトンさん。鈴さんのルームメイトで友人であり。
そして、タッグトーナメントを共に戦う相手。一般生徒だと聞いているけれど、どれほどの力量を持っているのか……?
「わたくしは、本国との通信ですわ。ブルー・ティアーズのデータ提供なども含めて、色々ありますし。
鈴さんこそ、ご友人との友情を深めるのも良いですが……」
「お生憎さま。甲龍だって今までの甲龍じゃないのよ。甘く見ると、火傷するかもよ?」
 不敵に笑う鈴さん。彼女は、こういう風に冷静な時はきわめて厄介なタイプだ。急所を突かなければ、倒せないタイプ。たとえば――。
「お、セシリアと鈴達か」
「こ、こんにちわ」
「あ! 織斑君とデュノア君だ!」
「い、一夏!?」
 鈴さん達と私の中間地点――つまりは二階から、一夏さんとデュノアさんが現れる。
今までの雰囲気はたちまち霧散し、鈴さんも、そして私も恋する乙女へと変わる。
「一夏さん、少しお付き合いいただけません事?」
「一夏! ちょっと話があるから来なさいよ!!」
 ほぼ同時に、一夏さんを誘うわたくし達。お互いが相手をにらみつける……日本語で言う『竜虎相搏つ』という状況だろうか。
「デュノア君! アサルトカノン・ガルムの使い方を教えて!」
「私は ブラッド・スライサーの使い方!」
「じゃあ私はレイン・オブ・サタディ! トーナメントで使う予定なんだ!」
「え? え? ええ!?」
 その時、駆け上がってくる突風のように、デュノアさんを階上へと押していく人達がいた。
それは、鈴さんの友人達。思わぬ展開に、呆気にとられるけど……それが良くなかった。
「一夏! ちょっと話があるから、こっちに来なさいよ!」
「え? お、おい鈴待てよ! 俺は――」
「まったく。朴念仁の織斑君にも困ったものね」
 一人だけ残されたゴールドマンさんが、そんな呟きを残した時には既に遅く。
気が付けば、一夏さんと鈴さんはいなくなっていた。や、やられた……。いたのは、竜と虎だけではなかったのだった。


「はあ。今日は鈴さんのご友人に一本取られましたわ」
「は、ははは。でも、凄いパワフルだったよ……」
 あれからまもなく、デュノアさんは解放され。向かう方向が一緒だったため、わたくしも共に歩いている。
……ただ、デュノアさんとも話がないわけではない。むしろ今日、聞かねばならない事が出来た。
「デュノアさん。不躾な質問かもしれませんが、よろしいかしら?」
「うん、何かな?」
 花が咲いたような明るい笑みを浮かべるデュノアさん。……確かに、女子からの人気が高いのも頷ける笑みだけど。
「貴方は一夏さんとドイッチさん。どちらを信用していますの?」
「……え?」
 それが、一瞬で困ったような表情になった。それも当然だろう。
わたくしでいえば箒さんと鈴さんのどちらが信用できるか、と問われているようなものだから。
「あ、あの、それってどういう意味なのかな?」
「いいえ。あの時、ドイッチさんが織斑先生に対して向けた言葉――覚えておいででしょう?」
「あ……!」
 デュノアさんも思い出したようで、顔が曇った。
「あの時、ドイツのあの方がわたくしや鈴さんに向けた暴虐。その原因を、織斑先生の指導不足だといったドイッチさん。
それが、一夏さんにとって許せる事だとは思えないのです。……もしも、これが原因で仲違いになれば。
おそらく、貴方が一番つらい立場――双方の間で板ばさみになると思いまして」
「う……」
 先ほどの笑顔が嘘のような苦しそうな表情を浮かべるデュノアさん。――そんな彼の顔を見ると、良心が少し痛む。
こんな事を口にしたのは……先ほど本国との通信の際に、あちらからの通告があったから。
男子転入生、シャルル・デュノアには注意しろ、という警告。
その理由は幾つかあるものの、その内の一つは彼の素性がはっきりしない為らしい。少なくとも、正妻の息子ではないらしいけれど。


「そ、それよりも一夏の唐変木にも困ったよね! 絶対凰さんの思いに気づいてないし!」
 あからさま過ぎる話題逸らしに、少しばかり警戒を緩める。この方は、何か妨害工作や諜報活動を仕掛けるとは思えない。
そんな人材である事が明白だったからだ。こんな風にあからさまに話題を逸らすような人は、向いていないだろう。
「そうですわね。まあ、それも一夏さんなのですから仕方がありませんわ」
 確かにそのとおり。日本語では唐変木――他者の気持ち、特に異性からの愛情に関してだけ鈍い――というらしい一夏さんの性格。
箒さんや鈴さん曰く、昔からそうであるらしい。……でも、もしもそうでないのなら。
既にあの二人のうちどちらかと付き合っていたのかもしれないと考えると、痛し痒しだろう。
「……あら? あの時のゴールドマンさんの言葉、おかしくありませんでした?」
 その時わたくしは、些細なミスに気付いた。それは、ゴールドマンさんの言葉。
「え? 何かおかしなことがあったっけ?」
「いえ、ほんの僅かな単語のミスなのですが……」
 社交の場などでは、わずかな言葉の違いを見極めるように育てられる。
ほんのわずかな言葉の違いが、大きな違いとなって受け取られる事もあるからだけど、
「――あ、そうか。オルコットさん、よく気付いたね」
「偶然ですわ。まあ、ゴールドマンさんも日本語が母語というわけではありませんし。しかたのないことでしょう」
 そこで分岐点にきたわたくしたちは、分かれたけれど。少なくともデュノアさんは『敵』ではない。そう感じていた――。



 ――思えば、一時期は俺を避けているような気もしたシャルルだが。それはもはや杞憂だった。
「あ、シャル。それ取ってくれるか?」
「うん」
 こんな感じで、コミュニケーションが取れるようになった。とはいっても、俺が何かしたわけじゃない。
シャルルの洞察力と優しさによるものだろう。
「そういえば、さっきは鈴の友人達が凄くアタックしてたけど……大丈夫だったか?」
「うん、聞くことを聞いたらすぐに離してくれたから、大丈夫だったよ。
……一夏こそ、凰さんと二人っきりで何を話したの?」
「いや、別に二人っきりってわけじゃなかったぞ?
すぐ下に神楽さんとか四十院さんがいて、話しかけてきたからな」
「そ、そうなんだ」
 はて、なにやらシャルルが哀れむような表情になっている。誰を哀れんでいるんだろうか。
「じゃあ、すぐにお風呂に入るの?」
「私は、少し時間がかかると思うけど……」
「じゃあ、大浴場前で待ち合わせましょうか」
 その時、俺達の後ろを通り過ぎていった女子達からそんな会話が聞こえてきた。……はあ。
「女子は大浴場を利用できて羨ましいなあ……って考えてたでしょ?」
「い!?」
 しょうがないなあ、一夏は……とでも言いたげな笑顔のシャルルに、少し恥ずかしくなった。俺って、そんなに解り易いか?
「しゃ、シャルルはどうなんだ? 大浴場を使ってみたいって思った事はないのか?」
「僕は、そういう意味での不自由を感じたことはないね。フランスでも、シャワーが多かったし……」
 やっぱりヨーロッパの人はそうなんだろうか。でも、古代ローマには公衆浴場があったって授業で習ったような気もするし。
そういえばフランチェスカは、結構風呂好きになったらしいな。よく宇月さんと一緒に入ってるし、箒がいた時は誘いに来たこともあったし。
「まあ、一口にヨーロッパって言っても、人それぞれだよ」
 う、読まれていたようだ。
「一般的なケースで言えば。俺達ヨーロッパ出身者は、熱い風呂に入るのは好まないがな」
「あ、ゴウ。こんばんわ」
「こんばんわ、シャルル」
 気がつけば、ゴウが俺たちのそばに来ていた。そのてには夕食のお盆があるが……その大皿の上には大盛りのスパゲッティとステーキ。
隣には小山のように盛られたご飯。野菜サラダなどはなく、飲み物もコーラだ。たぶん、ダイエットコーラじゃない。
ずいぶんと栄養バランスの悪い食事だな。こういうものばかり食べていると、年をとった時に一気に反動が来るのに。
「あれ、一夏。どうかした?」
「いや、別に」
 それと……ゴウに対しては、以前千冬姉に言っていた言葉に、引っかかる物がないわけじゃないけど。
食事の場にそういう空気を持ち込むのは良くないし、自重しよう。俺はこれでも、空気の読める男だ。
「……悪いけど、全然読んでないと思うよ」
 即座にシャルルのツッコミが入った。な、何でだ?
「……ほう。ずいぶんと仲良くなったものだね」
「うん。ルームメイトだし、一緒に学年別トーナメントを戦うわけだし」
「そういえば確か、そっちは四組の石坂さんとタッグを組む事になったんだっけ?」
「ああ。俺は、彼女と組む事になった」
「その人って確か、更識さんのルームメイトだよな?」
 以前に俺がアリーナで更識さんに出会った時に、宇月さんに対して彼女の事で電話をしてきたらしい。結構、いい娘だよな。
「……ああ、その通りだ。熱心でいい娘だよ、彼女は」
 どうやらゴウも、同じような感覚らしかった。


「ふう……ご馳走様。じゃあ一夏、ゴウ。僕は先に行っているから」
 ラタトゥイユ(フランスの、野菜の煮込み料理)を食べていたシャルルが、先に席を立つ。
正体は女子である彼女が、俺達男子よりも食が細いのは当たり前なのだが、周りからは『デュノア君って小食なんだね』等と聞こえてきた。
ちなみにシャルルだけ先に行かせたのは、少しでも男の視線がない状況で自室で過ごさせたかったからだ。
こうした方がいい……って、楯無さんも言っていたし。やっぱり、ストレスとか溜まってしまうかも知れないしな。
「……織斑君」
「ん、何だ?」
 シャルルのことを考えていると、ゴウが笑みを浮かべている。な、何だ?
「君は既に姉譲りのワンオフアビリティー・零落白夜を身につけているようだが……。それ一本で勝てるとは思わないことだ」
 何……? 少し身構えたが、千冬姉に暴言を吐いたときとは少し違う。これは……。
「たとえ君たちが専用機持ち同士で組もうとも、俺は勝つ自信はある。――トーナメントで戦い、それを証明してみせよう」
 牽制、なのか? ……まあ、俺だってわざわざ負けるために大会に出ようなんて考えていないが。
「おや。どうやら、君にお似合いの人が来たようだよ」
 見ると、箒がうどんを持って小走りでこちらに近づいていくのが見えた。何やら焦っているようにも見える。
「い、一夏。し、少々出遅れたが同席しても構わないな!?」
「お、おう」
「じゃあ、お邪魔虫は去るとしよう。――ごゆっくり」
 何か鬼気迫る勢いに見え始めた箒に、反射的に頷いてしまう。ゴウはそんな俺達に笑みを見せると、去っていった。
「……一夏。ドイッチと何かあったのか?」
「いや、別に。そういえば、変な事を言われたけど」
「変な事?」
「いや、お前がこっちに来るのを見て『俺にお似合いの人が来た』とか言われた」
「ぬわああああにっ!?」
 お、おい。何でそんなに驚いて、しかも顔を真っ赤にするんだよ? 意味が解らないぞ?




「しっかし、まさかいきなり来るとは思いませんでした」
 深夜の整備室の一角で、御影を展開している前には。自衛隊にいた頃お世話になった御影の整備担当、岩元安奈さんがいた。
というかいきなり呼び出しをくらって、何かと思えばこの人がいたもんだから物凄く驚かされた。
「脚部ブレードに、追加ブースターですか」
「ああ。IS部品の製造では中々の技術レベルを持つ『みつるぎ』の製品だ。悪い物ではないぞ」
 本日の用件は、御影への新武装・新機能の量子変換(インストール)らしい。
そしてこれが御影の担当者の名刺だ、と渡された名刺には『巻紙礼子』とあった。写真もあったが、中々の美人だ。
「さて、と。量子変換が終了するまで、少しばかりためさせてもらおうか。――君が、どれだけ勉学に励んでいるのかをね」
 ……目が笑っていない笑顔で言い放つ安奈さんに、織斑先生と同質の気配を感じたのは決して間違いじゃないと思った。


「よし。まあまあ、勉強はしているようだな」
「あ、ありがとうございます……」
 量子変換が終了するまでの間、俺はかなりの難問を出し続けられていた。終わった時は、まさに青息吐息。
スラスターの出力バランスやPIC操作の基礎知識、更には特殊装甲の種類を諳んじるなど問題も多岐であり。
クラスメート達に勉強の時に助けてもらっていなかったら、絶対に無理なレベルだった。
「そういえば、この学園にも何名か男子生徒が入ってきたと聞いたが。どうだね?」
「まあ、色々と個性豊かな奴らですよ」
 俺の幼なじみで、既に専用機も受け取っているロブ。実は女子なのに男子のふりをしているシャルル。
そして、何か今ひとつよく解らない――ゴウ。どいつもこいつも個性的だ。そして、誰より個性的なのは――。
「やあ、将隆君!!」
 俺のルームメイトの変人・クラウスがやって来た。……何か、気持ち悪いほど丁寧なんだが。
「何の用事だ?」
「いや。君の、御影を担当する学園OGの整備の方が来られたと聞いてね。ルームメイトとして、挨拶をしに来ただけだよ」
「ほう、君がルームメイトなのか」
「はい。私はクラウス・ブローン。ドールの試験運用者として、このIS学園に在籍する者です」
「ドール……か」
 ドールの開発で色々とあり、友人である麻里さんが消息不明な安奈さんにとっては、その言葉は重たそうだった。
「貴女の事は安芸野君から聞いていました。常に言葉での説明を忘れない、才色兼備の女性であると」
「ほう。しかしこの学園の生徒は、多かれ少なかれ才色兼備だろう? 誰にでも言っているのではないかね?」
「いえいえ。しかし、この学園を卒業してもその道にとどまり続けるのは困難……。ましてや、男性操縦者の専用機。
その重大かつ貴重な機体の整備を任されているとなれば、その優秀さは言わずとも解りますよ」
 ……歯の浮くような台詞だが、クラウスは意外とこういうことをさらりと言ったりする。
そして褒める事は確かに多いんだが、その褒め言葉のバリエーションが多彩で決して同じ言葉を使い回さないようだ。
例えば、人知れず近寄る事を得意とし、気がつけば後ろにいたりする都築と加納のブラックホールコンビ。
まだクラウスが二人を苗字で呼んでいた頃、この接近能力を何か凄い言葉で喩えていたな。確か……。
都築には『都築さんはまるで夜道で歩く時に寄り添う月のように近づくんだね。貴女の傍に、寄り添いたい』と言って。
加納には『加納さんは、性別の境を越えて軽々と近づいてくる。まるで、風のように自由な女性だね』と言っていたっけか。


「ほう。ゲルト・ハッセ君が戻っていたのか」
「ゲルト姉をご存知なんですか?」
「対面した事はないがね。中々の才女だと聞いている。君の従姉弟だとは思わなかったが……」
 数分後。クラウスはあっさり馬脚を出し、すっかり元通りの口調に戻っていた。そっちの方が、自然だが。
「へえ。貴女はトーナメントには出場しなかったんですね?」
「まあ、私は整備課志望だったからな」
 トーナメント、という単語を耳にした時、ある事を思い出した。
「そういえばクラウス。お前、トーナメントを戦う相手は決まったのか?」
 前に見たときは、手当たり次第声をかけては断られていたが。早く決めないと、大変な事になるんだが。
「ああ、俺が組むのはニナ・サバラ・ニーニョさんだ」
「え?」
 ちょ、ちょっと待て! うちのクラスの、スペイン代表候補生のニーニョか?
「よく組めたな……」
「ふっふっふ。この俺の黄金の右腕が、運命を引き寄せたのさ」
 格好つけるクラウスだが、何となく俺はわかった。
「くじか何かで決めたのか?」
「まあな。倍率は8倍だったが、見事に引き当てたぜ」
 ……まあ、それは凄いなと素直に言っておこうか。
「――ほう。君は引きが強いのか?」
「ええ。まあ、運は強い方だと思いますが。何せドールの試験運用者に選ばれ、このIS学園に来られたのですから」
 そういえば、そんな事を口にしていたような……。というか、安奈さんが口を挟むなんて珍しいな。
「そういえば岩元さん。ぜひともお付き合い願いたい場所があるのですが」
「残念だが、暇がなくてね。そういう用事には、応えかねるんだが」
「ではもしも俺が優勝したら、という事ではどうでしょうか?」
 断られるのは予測済みなのか、クラウスが即座に次の手を打つ。いやいや、そんな事じゃ……。
「そうだな。ブローン君がもしも優勝したら、私がデートしてあげても良いかな」
 冗談めかして言う安奈さん。ちょっと、そんな事を言ったら……。
「よっしゃあああああああああああああ!! 燃えてきたぜええええ!!」
 一気にヒートアップするクラウス。……ふと思ったんだが、こいつが優勝したらどんな要求を学校に突きつけるんだ?
何か物凄く不安になってきたんだが。まあ、やばそうな願いになったら織斑先生辺りが出てくるだろうけど。
「では俺は、これにて失礼する。もはや、一分一秒たりとも無駄には出来ないからな!!」
 言うが早いか、クラウスは全速力で走り去る。……本当、何処からあのバイタリティーが出てくるんだ?
「中々、愉快な男子だったね」
「愉快というか、たまに何でアレが俺のルームメイトなのかと考える事もあります」
「おや、辛辣だな。意外だったね、君にそんな一面があるとは思わなかった」
 まあ、あいつを抑える為に御影を展開して物理的に押さえ込んだり。口論して、織斑先生の雷をくらったり。
あるいは、あいつの行動が原因でシャルルの正体を知る事になったり。……色々あったからなあ。
「それにしても、本気ですか? あいつが優勝したら、あいつとデートするなんて」
「ははは、流石にドールでISの専用機に勝てるとは思っていないさ。だが――あの気迫は、見ていて面白かったよ」
 まあ、あれでクラウスは嫌がられていない。とんでもない発言は多いが、今では「またブローン君か」って感じで受け流されている。
たとえば、さっきの例で褒められたブラックホールコンビは、褒め言葉を聞いたときはまんざらでもない様子だったが。
つい先日、それを応用したような褒め方で一組のオルコットに近づいていくのを見た事があった。
聞いてみると普通に『ブローン君の教えを受けて、少々学んだのです』と答えたよな。
「安芸野君、ここにいたんだ?」
「え? あ、赤堀?」
 まるで木の陰から顔をのぞかせる兎のように出現したのは、俺がトーナメントを共に戦う相手――赤堀だった。
「どうしたんだよ、赤堀?」
「ブラックホールコンビの二人から、御影の整備担当者が来てるって聞いて……挨拶をしようと思って」
 なるほど、クラウスと同じか。――こっちは純粋に、挨拶だけど。
「初めまして! 私は一年三組、赤堀唯といいます。安芸野君のタッグパートナーとして、一緒に戦う事になりました!」
「おや、元気な子だな。――私は、岩元安奈。御影の整備を担当している者だ。よろしく」
 ハキハキとした元気のいい挨拶をする赤堀に、安奈さんも肩書きとかは抜きで挨拶をする。
赤堀のこの元気のよさと物怖じしない態度は、本当に真っ直ぐで好感が持てるな。
「こちらこそ、よろしくおねがいします。ところで岩元さんは、どんなロボットアニメが好きですか?」
「……は?」
 おお、安奈さんの目が丸くなっているな。これはこれでレアな光景だ。




「受諾。――クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」
『ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ』
「どうしたのですか、隊長。何か問題でも?」
 IS学園を離れ、アジアを越えたはるかかなた、ドイツの地にある特殊部隊・シュヴァルツェ・ハーゼ、通称黒ウサギ隊の訓練施設。
その一角で、ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機であるシュヴァルツェア・ツヴァイク。
それを預かる部隊の副隊長、クラリッサ・ハルフォーフは不思議そうな顔をしていた。
個人秘匿通信(プライベート・チャネル)の相手は、自分の直属の上司。現在はIS学園にいる彼女と通信をした経験がないわけではない。
だが彼女が定例の事務的な報告以外での接触を求めてきた事など、クラリッサの記憶には、存在していなかった。
困惑と、僅かな期待を込めて用件を聞くのだが。
『日本のIS代表候補生――更識簪の、実家の情報を求める』
「更識簪の……実家? 何故、ですか?」
『命令だ』
 それが何を意味するのか解らないクラリッサではない。更識簪の実家――すなわち、日本の暗部である更識家の調査。
そんな場所への諜報活動の命令に、思わず聞き返してしまうが、ラウラはまるで答えになっていない答えしか返さない。
名目上の理由さえない、明らかに私情による命令。いくら軍隊とはいえ、本来の命令権を逸脱した行為ではないか。
――そうクラリッサが考えるのも無理はないほどの行為だった。
『すみやかに情報を収集し、私に伝達しろ。期限は、七月になるまで。――以上だ』
 一方的な通達だけで通信は終了した。そのやり方は、少し前に彼女にゴウの情報を求めた織斑千冬よりも酷い。
千冬はこれがあまりクラリッサ側にとって宜しくない事を自覚しており、きちんとその事をわびた。
しかしラウラは一方的に要請を伝えただけであり、クラリッサへのフォローなど皆無である。
また、単純に情報収集の難易度という点から見ても、この二つは明らかに違っていた。
ドイツも注視し、隣国であるフランスから集めればいいゴウの情報収集。
それに対して、全く新しい情報を遠く日本から収集しなければならない更識家の情報収集。
どちらがドイツ(というか黒ウサギ隊)にとって困難であるかは明らかだった。



「どうしたんですか、副隊長」
「また隊長が何かやったんですか?」
「あの人、IS学園に行っても変わっていないんですね……」
 クラリッサやラウラと同じく、眼帯をした少女達――シュヴァルツェ・ハーゼに所属する隊員が集まってくる。
全員が肉眼へのIS用補佐ナノマシン移植処理を受けている為、そして部隊の誇りでもある眼帯という共通点の為。
十代女子(一部、二十代)によって構成された部隊員は非常に仲が良く、強い絆が築き上げられていた。――隊長の、ラウラを除き。
「織斑教官以外、本当に眼中にない人だからね……」
「何か中国や英国の代表候補生と一悶着あったって聞きました。上層部が、両国から凄くいやみを言われたとか……」
「――そこまでにしておけ。どんな人物であれ、我々シュヴァルツェ・ハーゼの隊長である事には変わりはない。
色々と思う所もあるのだろうが、それ以上言ってはいけない。もしかしたら、学園で変わってくるかもしれないのだからな」
 副隊長であり、部隊の最年長者として実質的な纏め役でもあるクラリッサの言葉に姦しい面々も黙る。
――実はラウラの日本行きが決まった際、クラリッサは密かに期待していた。ラウラが唯一認め、慕う織斑千冬。
彼女ならば、ラウラの『歪み』を矯正してくれるのではないかと思っていた。今の所、その望みはかなってはいないようではあったが。
「でも……大丈夫なんでしょうか、隊長は」
「心配は要らない。あそこには織斑教官もいらっしゃるのだ。――そう、あえてこう言おう」
 声に含まれる興奮の度合いを高め、クラリッサは高々と自分の端末を掲げた。それに映し出されたのは――。
「この『まじかるアップル』の主人公、日ノ本サクラのように宣言しよう。――絶対に、大丈夫だと!!」
 太陽の飾りのついたステッキを持ち、フリルの多くついたドレスを纏う、十歳前後の少女の写真だった。
普通の場所であれば唖然とされるか、冷ややかな目で見られるだけだが、ここはシュヴァルツェ・ハーゼ。
「副隊長! 格好いいです!」
「お姉さま~~!」
 既に副隊長の布教(せんのう)を受けている隊員達も、盛り上がる。
全く余談ではあるが、ラウラを送るついでにクラリッサも送ろうという提案がドイツ上層部の中でなかったわけではない。
だが専用機を持つ二人を同時に国外へ出すというのもリスクが大き過ぎると判断されて、泣く泣く却下されたという。



 IS学園より遠く離れた日本のとある場所に、小さな庵があった。そこにいるのは、二人の男性だけ。
一人は着物を見事に着こなしておりこの庵にも合致していたが、もう一人は着物を着慣れていない雰囲気が漂っていた。
「――どうぞ」
「いただきます」
 男の手によっていれられた茶が、ゆっくりと啜られていく。差し出した男は、やや緊張した雰囲気の中。
そして差し出された男が茶をすする音だけが、静かな庵に響いていく。
「ご馳走様です」
「……どうですか?」
「――かなり上達されましたね。これならば、もう十分でしょう」
「そ、そうですか! 助かりますよ。これで家でも美味しいお茶を楽しめます」
 重々しい黒茶碗を返し、礼を言った男性――元IS日本代表専属メンタルトレーナー、海原裕は微笑んだ。
対面する、着物を着こなしている男性は裕の『受け持ち』の一人でもあるのだが。
色々あって、茶道の手ほどきを受けていたのである。
「では、次からは礼法も細かく仕込むとしましょう。本来、そちらも平行して行わなければなりませんが……。
私自身が我流ですし、あくまで茶を楽しむのが本道です。それでよろしいかな?」
「ええ、お願いします」
 教えられずとも知っている作法にのっとり礼をする裕。一見、裕の方が男性から茶道を学んでいるだけにも見えるが。
これも裕の『受け持ち』に対する対応の一つなのだった。


「……楽しくやっているのでしょうか?」
 茶道具も片付け、時間も差し迫っていく中。男性が、その口を重々しく開く。主語のない問いだが、裕には言わずとも解っている。
「ええ。やはり、あの時の選択は良かったと思います。これが、その資料です」
 そういって、裕が持参した鞄の中から資料を取り出す。それは、男性にとってかけがえのない『便り』だった。
「確か貴方はお知り合いでしたね。こちらも、ご覧になりますか?」
「いいえ、これだけで十分です」
 別の資料を見せようとする裕を制し、男性は最初の資料を穴が開くほど眺める。
「できれば、貴方方もこのような笑顔を浮かべていただきたい物ですが――」
「それは不相応な望みというものです。ただ、少しでも救われたのなら親としてこれ以上の望みはない……それだけです」
 巌のような頑なな態度を崩さない男性に、裕も笑みを浮かべつつも内心では冷や汗を浮かべていた。
彼の得意とする、自分のペースに無意識のうちに相手を誘導するやり方。それが通じない相手だからだ。
「ところで――。まだ、分かりませんか?」
「ええ、まだ。手がかりがない、というわけではないのですが。文字通り、雲を掴むような状態です」
 また主語のない会話であったが、お互いに何を言いたいかは解っていた。それは、三年前から続くお決まりの会話だったが。
少しづつ、男性が消耗していくのが裕にも解った。しかし彼らは、この会話を続けざるをえない。何故なら――。
「もう時間ですな……。では、また来週にお目にかかりましょう。さようなら、海原さん」
「ええ。……いつかきっと、貴方も貴方がいるべき場所に戻れる日も来るでしょう。貴方には――何の罪もないのですから」
 裕はそういい残し、庵を去る。しかし残された男性は、じっと目を閉じたまま答えず。
「海原さん。――罪ならあるのですよ。私が無骨者ゆえに起こった、最悪の過ちが。
……そう。私の過ちが、全てを変えてしまった。――お前は何処にいるのだろうな」
 男性は、その庵の片隅に置かれた写真立てに入った、彼とその家族とで撮った写真へと視線を写す。
だが当然、写真立てからは何の返事も返ってこない。世界で『最初』である彼は、ただそこに佇み続けるのだった。



 最初に言っておきますが、ラストの『裕が会っていた人物』はメインキャラ数人に深い関係のある人物です。
本来の出番は七月頭の予定だったのですが、あるSSに刺激されて、出してしまいました。さて……誰でしょうか?


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