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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] くっ付いたり、繋がれたり
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/18 07:59

「セシリア・オルコットさん。少し宜しいかな?」
 わたくしがボーデヴィッヒさんとの模擬戦で追った怪我の治療を終え、自室に戻る途中。
最近良く聞く声に振り向くと……そこにいたのは、デュノアさんを伴ったドイッチさんだった。
アリーナに行くといっていたのだけれど、その帰りに来たという事……?f
「ご、ゴウ? 大丈夫なの? またさっきみたいに――」
「心配するな、シャルル。あんな事は『ここでは』言わないさ」
 そういって相手を安心させるドイッチさん。それにしても、今のデュノアさんはまるで……女性のようでしたわね?
そういえば、数日前に本国から連絡が来ていたけれど……。デュノア社は不自然なほど平静だという事だった。
普通に考えれば、御曹司がISを動かせるとわかれば社を挙げてのキャンペーンなどをしても不思議ではないのに。
後発の、カコ・アガピ……ドイッチさんの所属するグループの方が、活性化していた。
わたくしはオルコット家当主でもあるため、欧州主要企業の動きは政府と実家の両面から入ってくるけれど。
そのどちらもが、同じ動きを伝えてきていた。……いけない。その当事者であるお二人の前では、隠さなければ。
「そうですの。ところで、何のお話ですか?」
「ああ。知っての通り、俺はフランス国籍を持つ欧州連合所属の人間だ。それで、今日の一件についてなんだが。
欧州連合の構成国家である、イギリスとドイツの代表候補生が不仲……というのはあまり宜しくないのでね」
「和解の仲介役を担う、と仰りたいんですの?」
「聡明な事で、助かる」
 非の打ち所の無い礼をし、私に賞賛の言葉を向けるドイッチさん。その態度には、嘘はないようにも見える。
「それで、彼女との仲介なのだが――」


「なるほど、お話は確かに承りましたわ。……ですが、これだけで仲介というわけではないでしょう?」
「ああ。今度、ボーデヴィッヒさん、凰さんと共に一席設けようかと思っている。
まあ、具体的にはまだ固まっていない話だ。トーナメントもあるし、実現は難しいかもしれないが」
「……」
 ドイッチさんの提案。それは確かに筋の通った物だった。だけど、筋が通るだけで話が上手くいくわけは無い。
「あの方の行動と発言を鑑みれば、あまり実現可能な物とは思えませんが……貴方にも、助けていただいた義理がありますわね。
わたくしとしては、その顔を潰す気はありませんわ」
「ありがとう。では、これで失礼を――」
「ちょっと、お待ちくださいな」
 笑顔で去ろうとするドイッチさんを呼び止める。彼は、何かあるのかという疑問を浮かべていたけれど、私の呼びかけたのは。
「デュノアさん。少しお話があるのですが、よろしいかしら?」
「ぼ、僕に?」
「何……?」
「少し、貴方からもお話を伺いたいんですの。――よろしいかしら?」
「う……うん、じゃあゴウも――」
「出来れば、一対一で話をしたいのですが」
 ……そして彼らは、少し不思議そうな顔をしながらもわたくしの提案を受け入れた。……さて、と。


「あの……何かあるの、オルコットさん?」
 部屋の中に入ったデュノアさんの一言目はそれだった。彼からすれば当然だろうけれど。
「あの仲介案に、少し引っかかる点があるだけですわ。言っていることは、嘘ではないかもしれませんが」
 確かに、欧州連合が今回の事態を憂うのは当然だろう。――だが、遅すぎる。もしそれが本当なら。
もっと早く、私達とあの方との仲を取り持とうとするはずだ。やはり、あれは口実……?
「で、でもゴウは、決して悪い人じゃないと思うよ?」
「……」
 デュノアさんは、ごく自然にそう言うけれど。私の脳裏からは、どうしてもあの方への警戒心が消えない。
言葉に出来ないもどかしさが募る。一夏さんや安芸野さんと共に、助けてもらった事には感謝するべきなのだろうけれど。
あの織斑先生への一言も、どうも気にかかる。……解らない。判断材料が、少なすぎる。
「あ、あの。まだ何かあるのかな?」
「――いいえ。手間を取らせて、申し訳ありませんでしたわね」
「ううん、平気だよ」
 そう笑顔で言い切るデュノアさんの顔には嘘はなかったけれど。どこか、中性的な雰囲気が醸し出されていた。
ドイッチさんの事も引っかかるけれど、この方も……?
「一夏には、少し遅れるかもって言ったけど……これなら、間に合っちゃうかもね。じゃあ、僕はこれで」
「そうだな」
「ええ、御機嫌よう」
 去り行く二人を見送る中。わたくしは、実家――オルコット家への通信を決めていた。
出来れば極秘裏に行いたいこの一件、やはり織斑先生に談話室辺りの貸し出しを申し込まなければ――。
「あら、オルコットさん。こんばんわ」
「ゴールドマンさん?」
 私を呼んだのは、鈴さんの友人のゴールドマンさんだった。……あら?
以前も、このようなシチュエーションがあったような……?
「何かあったの? さっき、ゴウ君とデュノア君を見かけたけど、ひょっとしてオルコットさんの所に来ていたの?
ボーデヴィッヒさんが、オルコットさんや鈴と揉めたって聞いたけど……その関係?」
「いいえ、少しトラブルが発生しただけですわ」
 野次馬根性を見せるゴールドマンさんを嗜める。あまり、口外したい事でもないし。
「そう? 結構仲よさそうにしているように見えたけど……違うのかな?」
「……」
 ゴールドマンさんは、悪意無く言っているのだろうけれど。聞く方からすれば、決して耳障りのよい話題ではなかった。
「へえ、やっぱりそうなんだ?」
「……まったく。友達想いもCase by caseですわよ?」
「それはそうだけど。でもあの織斑君よりは、ゴウ君の方が恋人としては良いと思うけどなー?」
 一夏さんよりは、ドイッチさんが良い……。それは、ゴールドマンさんの主観ではあるだろうけれど。
私には、納得できかねるものだった。……というか、この方。妙にドイッチさんの肩を持っているような?
そもそも彼女は鈴さんの友人。もしも一夏さんよりもドイッチさんの方が良いと思うなら、そちらを薦めるべきでは……?
「貴女は――」
「あ、エリス!! ここにいたんだ?」
 その時、別の女子がゴールドマンさんを呼びに来た。彼女は確か、鈴さん達の友人で……神月さん、でしたかしら?
「恵都子、どうしたの?」
「アナルダとティナが、お風呂に行こうって言ってるんだけど。エリスもどうかな、って思って。
連絡したんだけど、出てくれないからどうしたんだろうって思って来てみたんだけど……取り込み中だった?」
「ううん、用事は済んだから。――じゃあオルコットさん、またね」
 そういうと、ゴールドマンさんは僅かに足早に去っていった。……何だろうか。
先ほどまで感じていたもどかしさが、更に膨らんだような感触を覚えた。
「あ、オルコットさん」
「あら、鷹月さん? それに、箒さんも……」
「セシリア。もしもまだなら、これから夕食を共にしないか?」
「ええ……そうですわね。ご一緒しますわ」
 ドイッチさんやゴールドマンさんの事は一先ず頭の隅に置き、食堂に向かう。
そこでは、わたくし達が来る少し前に起こった布仏さんと三組の方の争いをレオーネさんが仲裁した話などを聞き。
もどかしさは、いつの間にか思い起こす事も無く埋もれていってしまっていた……。




『あの人はちょっと捉え所がないけど、少なくとも頼れる人だとは思うわ』
『んー。それはきっと、おりむー達の為になると思うよー。やってみた方が良いと思うなー』
『たっちゃん? うん、凄く頑張りやさんだし良い娘よ。……え? そうなの? じゃあ、渡りに船って奴ね』

 生徒会長の楯無先輩が俺達の部屋に来(て水人形を残していっ)た翌日、俺達は彼女の事を知ってそうな人に聞いて回った。
貰った回答は、宇月さん、のほほんさん、黛先輩の言葉だ。皆、やった方が良いという感じの言葉。
……ただ気になるのは、三人ともが最後には「関わるなら、振り回されないように気をつけてね」と続いていた事だが。
「うーん。何でだろうな?」
「そんなに振り回す人なのかな?」
 対抗戦で助けに来てくれた時は、ランスを振り回してたけどな。そこまで我侭な人にも見えなかったが……。
「織斑君、シャルル。――少し良いかな?」
「あ、ゴウ」
「……どうしたんだ?」
 そんな事を考えていた俺達を、まるで待ち構えていたかのようにゴウが現れた。
「いや。更識会長の情報を集めていると聞いたのだが。何かあったのか?」
「……いや、ちょっとな。どんな人なのかと思って」
「うん、そうだよ。ゴウは何か知ってるの?」
「悪い事は言わない。――深入りは、その辺りで止めておくんだな」
 ……即座に否定の、そして思いがけないほど強い言葉が返ってきた。俺は勿論、シャルルも驚いているようだ。
「その理由は何だ?」
「あの人は、公には言えない家柄の出身と聞いている。――君達を、体よく利用するかもしれないからな」
「利用……?」
 何だコイツ。何か、嫌な空気がある……。シャルルや皆の話では、そんなに悪い奴って感じじゃなかった。
あの時も、セシリアや鈴を助けるのに協力してくれたし。だが、千冬姉へのあの言葉。
そして、今のも何か……言葉に出来ない違和感のような物がある。
「少なくとも、俺は彼女に近づくのは反対だよ」
 それだけをいうと、ゴウは去っていく。……その態度は、どこか不自然だった。
「一体、何だ――」
「織斑君、やっほー!!」
「デュノア君、こんにちわ!」
 姦しい声と共に近づく、金髪三人・黒髪一人の女子集団がいた。あれ、この子達は。
「えっと、確か鈴の友人で二組の……フォルトナーさん、ゴールドマンさん、神月さん。
それと、鈴のルームメイトもやっている、ハミルトンさん、だったよな?」
「ええ、ご名答。……それにしても鈴も間が悪いわね」
 ハミルトンさんが頷くが。そういえば、鈴がいないな。どうしたんだろう?
「仕方が無いよ。中国政府から呼び出しを受けたみたいだしさあ」
「呼び出しって……まさか、あいつとの戦いの事なのか?」
「多分、ね。まあ鈴は『しょーがないわよ』って言ってたけど」
 ……中国政府の、鈴への呼び出し。それは、どう考えても良い方向の話ではないだろう。……くそっ!
「それよりも、さっきゴウ君と何を話していたの? 更識、とか聞こえたけど四組の更識さんのこと?」
「いや、えーーと。……生徒会長をしている、二年の方の更識さんだよ。ちょっと、関わる事になるかもしれないんだけど」
「更識先輩、かあ。何か、怖い噂もあるようだけど」
「噂?」
 何やら、ゴールドマンさんが顰め面になる。何か知っているのか?
「うん、結構ヤバイ家の出身だとか……あるいは、人を利用することなんて屁にも思わないとか……」
「そうだっけ? 結構、皆からの人気も高い先輩だと思ってたんだけど……」
「私も、聞いただけだから何ともいえないけど……」
「でもエリスの言っている事が本当なら、織斑君、シャルル君。やめておいた方がいいかもよ?」
「う、うーん……」
 鈴の友人達の間では、なにやら物々しい方に話が行っているようだ。
シャルルも、そう言われて賛同も否定も出来ずに戸惑っている。……何か、意外な展開だった。


 それから鈴の友人達と別れ、俺達は自室に戻ってきた。……問題は、先輩の申し出を受けるのかどうかという事。
「ゴウや二組の女子はああ言ってるけど……どうする?」
「確かに更識先輩は少し変わった人かもしれないけど、俺達の事を考えてくれてはいる……と思う」
 それに、一つ確かなのは。
「宇月さんやのほほんさんや黛先輩は、直接会って、自分の言葉で言ってる。なら、そっちの方が信用できるだろ」
 ゴウも二組の女子達も、伝聞だった。なら、直接会った人間の方が信用できるだろう。
「……そうだね。僕も、一夏の意見に賛成だよ。ゴウには、少し悪いかもしれないけど」
 そうか。シャルルはゴウと少し親しいようだから、苦しい立場だっただろうけど。
「まあ、大丈夫だろ。よく考えてみれば、千冬姉が許してるんだから心配ないさ」
「……結局一夏はそこに行き着くんだね」
 あれ、励ましたつもりのシャルルが呆れたような目で俺を見ているぞ。何故だろう?
「そういえば、先輩は何時ごろ来るんだろうな?」
「昨日と同じ時間、じゃないのかな?」
 どうなんだろうか。その辺りは聞いてなかったけど。
「ふむふむ。それじゃあ、今から来ちゃいましょうか」
 ……え?
「「うわああああああああああああああ!?」」
「あはは、驚いた? 楯無おねーさん登場~~♪」
 いつの間にか、更識会長が来ていた。びっくりする俺達を、面白そうに見ている。
「ど、どうしてここに――」
「ん? 返事を聞くのが楽しみだったから、少し早めに来ちゃったの」
 その手に『扇客伴来』と書かれた扇を手に、可愛らしく言う先輩だが。
千客万来を捩ったであろう文字どおり、とんでもない驚きを伴っての登場だった。
「さ・て・と。さっそくだけど、お返事を聞かせてくれないかな?」
「……更識先輩。――俺とシャルルの事、お願いします!」
「お願いします」
 俺とシャルルが、頭を下げる。そのまま、先輩はじっと……おそらくは俺達を見据えていたのだろうが。
「うん、心得たわ。こちらこそよろしくね。織斑君、デュノア君」
 扇を一度鳴らすと、手を差し出してきた。


「じゃあ、さっそく剣道場に向かいましょうか。織斑君には馴染みの深い場所かな?」
「け、剣道場?」
 剣道部でお世話になる時に使用している、あそこか?
「あら、もう忘れたの? 昨日の夜に『ISを使った訓練じゃなくて肉体的な訓練だけなんだけど』って言ったわよ?」
「それはそうですけど……いや、グラウンドとかだろうかと思っていたから」
「ああ、そういう事ね。まあ、それはそれで良いんだけど。今日は許可が下りなかったのよね」
 なるほど。
「ああ、そうだ。二人とも、私に師事するのよね?」
「はい、そうですけど?」
「じゃあ、私の事は『更識先輩』じゃなくて別の呼び方の方がいいわね」
「日本では、そうなんですか?」
「そうよ。――じゃあ、たっちゃんで良いわね?」
「ちょっと待ってください!」
 何処に、師事する相手をそんな呼び方で呼ぶ奴がいるんですか!!
「あはは、ナイスツッコミ。……少しは緊張は解けたかな?」
「!?」
「織斑君、結構緊張してたわよ。そんなんじゃ、訓練をしても身体を痛めちゃうじゃない」
 じゃあ、今のは……?
「まあ、更識先輩じゃ他人行儀だし。楯無さん、とでも呼んでくれたら嬉しいな?」
「解りました。――楯無さん」
「はい、楯無さん」
「よろしい」
 円満解決、と書かれた扇を広げ。楯無さんは、にこりと微笑んだ。


「それじゃあ、少し柔軟をしてから始めましょうか」
 夜の、少しひんやりとした剣道場。普段と同じ場所である筈のそこが、何処か違って見えた。
そんな中、窓から差し込む月光に照らされた楯無さんは非常に美しく。
その内面を忘れてしまうほどに美人に見えた。
「あらら? ――織斑君ったら、私に見とれちゃった? それじゃあ、誘惑しちゃおうかな~~?」
「えええええ!? い、一夏を!?」
「なあ!?」
 何でいきなりそんな事を言い出すんですか!? ……いや、見とれていたっていうのは間違いじゃないかもしれないけど。
「あはは、デュノア君ったら、慌てなくても大丈夫よ。私も、こんな状況で織斑君を誘惑したりはしないから。
――あ、ひょっとしたら織斑君が襲ってくるかもしれないけどね?」
「い、一夏!?」
「ちょっと待て! 俺はそんなことしないぞ!?」
「あーらショック。私って、そんなに魅力がないのかしら?」
 そう言うわりには笑っている会長は、制服の胸の部分を、腕で持ち上げるようなポーズをとった。
こ、これは……。シャルルを上回り、セシリアやフランチェスカ……いや、箒クラスの大きさがあるような……。
「あれー、何処を見ているのかなぁ?」
「……一夏?」
 楯無さんのからかうような声と、聞いた事のないほど冷たいシャルルの声がした。
「そ、それより早く始めましょう!!」
「ふふ、そうね。それじゃあ、さっそくやりましょうか」
 そういうと、照明もついて道場全体も明るくなった中で楯無さんは制服を脱いで――っておい!?
「い、一夏、あっちむいて!!」
「お、おう!」
 シャルルに向こうを向かされ、俺は慌てて楯無さんとは反対側を向く。な、何なんだぁ、一体!?
「……あれ?」
「もう、二人とも慌てんぼうなんだから。――下に着ているに決まってるじゃない?」
 シャルルの呆気にとられた声に振り向くと、そこにはISスーツ姿の楯無さんがいた。……あ、そうか。
こんな所で脱ぐくらいだから、スーツを着ているに決まってるじゃないか。……あー、びっくりしたぜ。
「あれ、がっかりしたかな?」
「……いいえ、別に」
 何となく解ってきた。この人、こういうからかいが大好きなんだろう。宇月さん達が言っていた警告も理解できた。
「そう、やっぱり慣れてるのねぇ。そういえば入学初日、バスタオル姿の篠ノ之箒ちゃんとばったり対面したって聞いたけど。
あの娘もスタイル良かったし、特におっぱいなんて大きいものねえ」
「な、何でそれを!?」
「……」
 な、なぜか解らないがシャルルの視線が冷たくなっている。な、何なんだーー!?
「え、ええと。それより、その姿でやるんですか? ど、胴着とかの方が良いんじゃないですか?」
「そうね。まあ、貴方がそっちの方が良いならそれでも良いんだけど……でも、こっちの方がお得よ?」
 得?
「だって、私のボディーラインがはっきり解るじゃない?」
「ぶっ!!」
「あはは。それじゃあ始めましょうか?」
「は、はい!」
 さっきから調子を狂わせられ続けている俺は、特訓に意識を向ける。これは撤退じゃない、後ろへの前進だ。うん。




「じゃ、まずは私と織斑君の組み手から始めましょうか」
 ISスーツ姿に着替えて、少し身体をほぐす……日本語でいう『柔軟体操』を終えた僕達に。
いきなり、楯無さんがそんな事を言い出した。組み手って……模擬戦にあたる練習の事だよね?
「い、いきなり組み手ですか?」
「まあ、最初に実力をはっきりとさせておこうとしただけよ。――ああ、一つ言っておくけど」
 ……?
「私、今日の放課後にボーデヴィッヒちゃんと組み手をして勝ってるから。その事を頭に入れておいてね?」
 ええ!?
「た、楯無さんがあいつと!?」
「ええ。それじゃあデュノア君。――開始の合図、お願いね?」
「は、はい! は――始めっ!」
 楯無さんの気配に完全に押された僕の声と共に。一夏と楯無さんの組み手が始まった。……あれ?
「え?」
「はい、まずは一本ね」
 ……い、今何が起こったの? 始め、って僕が言った次の瞬間。一夏が、仰向けに倒されていた。
頭はぶつけていないみたいだけど、一夏も何が起こったのか解らないって表情をしている。
「手をとられて……足払いをくらって、それでバランスを崩して後ろに倒されたのか、俺……?」
 一夏が自分のやられた事を復唱しているけれど、まだ実感が無いようだった。
一方の楯無さんは、一夏からは離れて『一休憩』と書かれた扇を広げている。
「さ、て。どうするかな? まだ続ける? それとも、少しメニューを変えようかな?」
「……続行を、お願いします」
「うん、良い返事ね。――それじゃあ、ルールを決めておきましょうか?」
 え? それって、最初に言うべき事なんじゃ――。
「織斑君がギブアップするか、あるいは私が今の織斑君みたいに倒されるか。どちらかのみで、勝敗を決しましょうか」
 そ、そんなルール有りなの!? それじゃ、まるで一夏が――。
「……」
 でも、一夏は何も言わなかった。多分、楯無さんと自分との実力差を考えているんだろう。
そして、今のルールで勝負が成り立つくらいに二人の実力差がある。そう、考えているんだろうと思った。


「……はい、これで四本目ね」
 二人の戦いが続く中、僕も少しだけ目が慣れてきた。今の戦いは、楯無さんが一夏の右手を取ろうとしたところから始まり。
一夏がそれを反撃の糸口とするべくあえて前進したところで、楯無さんがカウンターを叩き込んだ。
確か、東洋の武術の技で『掌打』とか言うらしい一撃。三回目の決め手だったとして、楯無さんが説明をしてくれたけれど。
その掌打で動きを止められた一夏が、バランスを崩され今度はうつぶせに倒され。そして首筋を後ろから押さえられて終わりだった。
「ま、まだまだ!! もう一度、お願いします!!」
「頑張るわね、さっすが男の子。――それじゃあ五本目、良いかしら?」
「はい。――始め!」
「……」
「……」
 今度は、一夏も楯無さんも動かなかった。今までの四回は、全て楯無さんから攻めていたけど……?
「ふーむ、守りが堅くなったわねえ。焦らしプレイかしら」
「……」
 楯無さんの『口撃』にも一夏は動じない。……二回目とか、酷かったからね。

『あら一夏君。おねーさんの胸がそんなに気になるのかしら?』
『い!?』
『だって、じーーーっと胸を見ているじゃない。……エッチねえ』
『ち、ちちち、違います!!』
『――隙有り』
『へ?』
 そのまま側頭部と首筋への一撃、だったからね。……うん、あれは見てて少し辛かったよ。

「――っ!」
 そんな事を思い出していると、今度は一夏が動いた。今までに無い、速さ。
それに楯無さんも戸惑ったのか、腕を取られて――え?
「がはっ!」
 前のめりに一夏が畳に叩きつけられる。どうやら、腕をとられてもバランスを崩さずに返したようだけど。
一夏もその衝撃に耐え、楯無さんの脹脛の辺りを掴んだ。そのままバランスを崩させて倒してしまえば一夏の勝ち――だったけれど。
「はい、残念でした」
 楯無さんはまるでブリッジのような体勢で、それも取られたはずの足と手だけでバランスを保つ。
背中を畳に接していない以上、倒されたとはいえない状況。
そして圧倒的優位な体勢のはずの一夏が、それ以上相手のバランスを崩す事が出来ない。
ブリッジをしたままなのに、脚を抑えられて倒れない人なんて……初めて見た。
「ほら、おねーさんの美脚をいつまでも堪能してちゃ駄目よ?」
「うわ!」
 一夏がしっかり抑えていた筈の足首を抜き取り、そのまま手だけで倒立――逆立ち状態になる。
そして慌てて立ち上がった一夏の顎に、その体勢から蹴りが放たれた。た、確かあれは、南米の武術の技法だったっけ?
「カポエラ、かよ……」
 一夏が、僕が思い出せなかった武術の名前を呟きながら倒れる。……五本目も、楯無さんの勝ちだった。


「ふう。五本終わった所だし、ここで一休憩入れましょうか」
「ま、待ってください、俺はまだギブアップは……」
「えい」
「~~~~~~!?」
 楯無さんが一夏のお腹を突いただけで、起き上がろうとした一夏が崩れ落ちた。そ、そんなに痛かったの?
「そろそろ休まないと、身体を壊すわよ。デュノア君の方も、見るのに疲れたでしょ?」
「……はい。一夏、僕と一緒に休もう」
「……解った」
 二本目が終わった直後、僕は『私達の試合、しっかりと見ておいてね?』と言われた。
――そう。これは一夏だけの訓練じゃなく。僕の訓練も兼ね備えていたんだ。
「くそ……全然勝負にならなかったな」
「大丈夫、一夏?」
 見たところ、残るような怪我はなさそうだったけど。それでも、やっぱり心配だった。
「あらあら。仲が良いのね。おねーさん、嫉妬しちゃうかも」
「あ、あの……ここまでやる必要、あるんですか?」
「そうねえ。必要はあるとおもうわよ。――貴女も、代表候補生扱いになっているなら訓練は受けたのよね?」
「……!」
 僕の、灰色の二年間の中での訓練。その中には、ISとはあまり関係ない肉体訓練もあった。
その時の事は――正直、あまり思い出したくない。ただの女の子だった僕にも容赦の無かった、あの訓練は……。
「シャルル、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ!!」
 自分も体が痛いのに、僕のことを案じてくれる一夏に笑顔を向ける。
そんな僕らに、楯無さんは『恋の予感』と書かれた扇子を向けてきた。……こ、こ、恋!?
「さて、と。そろそろ再開しましょうか」
「はい!」
 一夏が楯無さんの方を向くギリギリのタイミングで扇子は閉じられて、文字は見えなくなったけど。
もしも今の文字を一夏が見たらどんな反応を示すんだろうか。……そう考えたら、物凄くドキドキした。
「……あれ?」
 やっぱり、僕は……。




「あの子よ、ほら……ドイツの代表候補生」
「英国と中国の代表候補生相手に、一対二で勝ったのよね……」
「でも、あの戦い方はかなり怖かったよ……」
 何やら有象無象どもが騒いでいるが、私には何の意味も無い。中国と英国の代表候補生を打ち倒してから、周りがざわめいている。
ただそれだけだ。英国・中国からの政府への文句も、今の所はないようだ。――まあ、あの二人が無能だっただけの話だ。
それに文句をつければ、自国の代表候補生の力量の低さの宣伝にしかならないのだから当然だろう。
実際、初手のレールガン発射は『あえて避けやすいように』撃ったのだが、それにも気付いていなかったようだしな。
「だが……あいつは、やはり別格だったな」
 更識楯無。この学園の生徒会長という役職に就く、ロシア国家代表。そして日本の暗部・更識家の人間。
教官の前で私に恥をかかせた、忌々しき女だが……その実力は、否定できない。
「……しかし、今のままでは勝てない。情報収集の必要性ありか」
 あの戦い方は、今まで私の見知った格闘技とは大きく違っていた。情報は、いかなる状況でも重要な要素だが。
それを欠いて再戦したとしても、恥の上塗りをしてしまう危険性もある。それだけは、絶対に避けなければならん。
「せめて、奴と同門でもいれば情報収集にはなるのだが――ああ、そうだ」
 いたじゃないか。あの女と同じ更識の名を持つ、代表候補生が……。


「日本の代表候補生、更識簪だな?」
「!?」
 私の探し当てた目の前の女は、更識簪――日本の代表候補生で、あの女の妹だった。
自室の前で待ち構えていたが、見事に網にかかったな。一体どれほどの者か、と思っていたのだが……。
「わ、私に何の用事……?」
 私に向けるその態度は、あの女とはまったく違っている。怯えているのか? ……これが教官の後継者の候補だと?
「ありえんな」
「え?」
 私にとっては、他の国は勿論、自国の代表候補生などもどうでも良かったが。
日本の代表候補生――つまりは教官の後継者を争っている、という点に置いては少々関心を向けるべきものがあった。
また、自らの手で専用機を作り上げる道を選択し、模擬戦に投入出来るレベルにまで完成させたとも聞いた。
その難事をやり遂げた、という点においては凡百の候補生とは違う空気かと思っていたのだが……。
目の前の女は、何やら映像ディスクを抱えている。モンド・グロッソの記録映像か何かかと思えば……日本のアニメ番組のそれだった。
私の副官の女があんなものや、似たような絵の描かれた妙に薄い本を持っていたから見覚えがあったが。
「教官とはまるで違うな」
 織斑教官の凛々しさも力強さも持ち合わせていない、ただの女。代表候補生ならまだしも、国家代表には程遠いだろう。
「……教官、っていうのは織斑先生の事らしいけど。……私は、織斑先生を目指そうとは思っていないから」
「何?」
 聞き捨てならない言葉を発する目の前の女。これが、日本以外の国であるのならばともかく。
「日本の代表候補生のくせに、教官を目指していないだと? ――ああそうか、諦めたのか?」
「……ある意味ではそうだけれど、少し違う」
 違う、だと? そういえばこの女のIS・打鉄の後継機はミサイルや荷電粒子砲を主体とした遠距離攻撃型だと聞いた。
それ自体は別にどうという事も無い。――いや、そもそも、そんな事はどうでもいい。
「更識簪、私と戦え。ああ、ISを使わずに、徒手空拳でだ。トーナメントに参加できなくなるような真似はしない」
「……? ど、どうして?」
「必要性を感じたからだ。――来てもらうぞ」
「い、嫌!」
 私の伸ばした手を、払い落とした。……僅かな痛みが走るが、それよりも私は自身の推測の正しさを確認する。
「やはり、な」
 速度や技量は大きく違えど。あの女に通じる部分があった。ならば、このまま――。
「あ、あの~~。ボーデヴィッヒさん、ここで何をやっているんですか?」
「山田先生……」
 だが、ここでも邪魔が入った。――山田真耶。元日本代表候補生であり、織斑教官の補佐である副担任を務める人物。
一応『先生』と付けて呼んではいるものの。私にとっては、少々対応が難しい存在でもあった。
 私も倒したあの二人を、ノーマルのリヴァイヴで翻弄し勝利した力量は紛れも無く本物だろう。
だが、通常の授業中では失言やミスをして教官に指摘される事もあり。何処か頼りなさそうな雰囲気を漂わせ。
何より、生徒に優しく呼びかけるような態度はまるで生徒に媚をうっているようにも見える。
その身体は上半身と下半身のバランスが悪く、ISならともかく生身での戦闘ならばあの女にも敗れそうな体格だった。
「あ、あの。更識さんと何か話していたようですけど。どうしたんですか?」
「……何でもありません。少し誘いをかけたのですが、断られただけです」
 だが、流石にこの場で争うのは避けるべきだろう。そう判断した私は、それだけを告げるとその場より去る事を選択した。
「あ、あのボーデヴィッヒさん? え、えっと……あ、あの。更識さん、何があったんですか?」
「え、ええと……」
 追いかけてきたのならば厄介だったが。予想通り、そこまではしないようだった。……まあいい、いずれまた機会もあるだろう。




「織斑先生、よろしいでしょうか? 学年別トーナメントの申し込み用紙の提出に来ました」
「ああ、宇月か。見せてみろ」
 全ての授業が終わった後。職員室にトーナメントの申し込みに来た私は、織斑先生に書類を渡す。
フランチェスカは所用でいないから、少しだけ緊張する。……相手が相手だから、というのもあるけど。
「ふむ。お前はやはり、レオーネとタッグを組むのか」
「はい。私が格闘型、彼女が射撃型なのでちょうど良いと思いました」
「そうか。……ところで、例のトラブルは聞いたか? お前は、巻き込まれていないな?」
「昨日の一件ですよね? はい、大丈夫です」
 第4アリーナで昨日、ボーデヴィッヒさんとオルコットさんと凰さんと男子達との間でトラブルがあったと聞いたけれど。
フランチェスカは『ま、まさか今日、そんな事があったなんて!!』と驚いていたっけ。
それにしてもトラブルがあると『巻き込まれていないか』を聞かれるのは私くらいだろう。……乾いた笑いが出そうだわ。
「――ふむ、書類に不備はないな。よろしい、確かに受理した」
「ありがとうございます。では、失礼しました」
「宇月。……今はとりあえず、学年別トーナメントに向けてしっかりと腕を磨け。
いくら整備士志望だとはいえ、ISには実際に動かす経験も必要だからな」
「は、はい!」
 さて、さっさと退散しよう――と思っていたら。意外な言葉を投げかけられた。
……そして実はそれは、以前に虚先輩や黛先輩にも言われた事がある。
『自動車整備の人が自動車を運転する感覚を身につけておいて、悪い事は無い』って事らしいけれど。
たとえば専用機持ちの中には、自分の感覚で整備を頼む人もいる。私の知り合いだと、凰さんがそうらしい。
その感覚を理解する為にも、整備の人間にもある程度の操縦技能が必要なのだとか言われた。
「それで、お前はどう戦うのだ?」
「どう、ですか?」
 一応、打鉄を希望しているけど……武装だとかは、あまり考えていない。
というか、私じゃ下手に武装を追加しても使いこなせないだろうし。まあ、この辺りも考えて……
「昨日、クラス代表達に配らせたプリントを見たか?」
「あ、見ました。まだ操縦技術がおぼつかない人間に対して追加授業、でしたよね?」
「比較的時間に余裕のある教師が見る事になるだろう。レオーネとも相談し、必要と判断したのならば参加しろ」
「はい、ありがとうございました」
 一礼し、今度こそ退室する。……あー。緊張した。だけど。
「せっかく整備課補助に選ばれたのに……」
 この間、黛先輩や虚先輩の合格を貰って学年トーナメント用の整備課補助に選ばれた私だけど。
トーナメントに参加する以上、そういった方面への勉強&実習は一時中断だった。
私が、今更訓練をしなくてもISを乗りこなせるくらいの熟練者ならともかく……。
「このままじゃまずいわよね」
 私は、ISの実動面はクラスでも下位レベル。基本的な動き方は出来るけど、今まで殆ど借り出しもしてこなかったし。
さっき先生の言っていた追加授業を受けても、どこまで戦えるのかってレベルだ。それに。
「追加授業、かあ。でも、何処まで教えてもらえるんだろう?」
 ISの数が限られている以上、出来る事には限界がある。それならいっそ。
「整備の事みたいに、誰かに教えてもらう、っていうのも手だけど……」
 任意参加なら参加していない人に協力してもらう、というのもありえたのだけど、今年は全員強制参加だし……。
「……先輩達を頼ろうかしら」
 でも黛先輩も虚先輩も、整備課の人だし……。他の先輩達を紹介してもらっても、その先輩達も忙しいだろうし……。
それに先生から聞いた話だと、整備課はトーナメント参加を免除されるらしいけど、その分の準備などがあるし。
私や本音さんのような整備課志望の生徒は抜け道的に不参加を許可して欲しい、と思わないでもなかった。
……まあ本音さんは、優勝商品にデザートパス(一年分)を貰う為に努力するつもりらしく、物凄く意気込んでいたけど。
「それに、タッグトーナメントっていうのがまた厄介よね」
 シングルならば、何もせずにそのまま出場して一回戦で敗北して先輩達の手伝い――なんて事も出来たけど。
フランチェスカとタッグを組んだ以上、私の努力が彼女の成績にも響いてしまう。
勿論、今までISを実際に動かす方にはあまり関心を向けなかった私が、今から努力しても勝てるとは限らないけれど。
実技成績は落第しなければ良い、程度に考えてきたのがここに来て裏目に出た。
「どうした物かなあ……」
 そうなると頼れそうな人は……整備課以外の生徒で、特に訓練を積まなくても問題ないくらいのレベルの人、か。
でも、そんな都合の良い条件の人がいるわけ……いや、いる事はいるけど。

『うふふ。おねーさんにお任せ♪』

 ……止めておこう。実力がつく前に、潰れちゃいそうだし。そもそも、頼めるような立場じゃないし。
「それにしても、何でこのタイミングで変更があったんだろう……?」
 確か『今回の学年別トーナメントではより実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする』だっけ。
さっき先生に提出した申し込み用紙にあった変更理由だけど。……私にとっては、恨み言の一つも言いたくなる変更だった。


「おやおや、そこにいるのは宇月さんではありませんか?」
「おー。ここで会えるとは嬉しいね」
 そこに現れたのは、三組のブラックホールコンビ・都築さんと加納さんだった。
二人とも挨拶はしたけれど、すぐに視線を下へと向ける。その手元では、しきりに端末を動かしているけど……。
「二人とも、情報収集でもしていたの?」
「おや、察しが良いですね。今、確定したタッグの情報を収集していたのですよ」
「専用機持ちと組みたい人は、もしも希望が叶わなければ改めて相手を探さないといけないからね。こういう情報も要るんだよ」
「なるほど、ね」
 たとえばフランチェスカと組みたい人がいたとしても、彼女は私とタッグを組んだわけだから無理だ。
その場合、フランチェスカ以外の誰かを速やかに探さなければならないけど……そういう情報があれば、少しは楽だろう。
何といっても、フランチェスカに確認をしに行く時間が省略されるのだから。
「ところで宇月さん。貴女は、誰かとタッグを既に組んだのですか?」
「教えて欲しいなあ。対価は用意するよ?」
「いや、別にそんなのは要らないけど……私の組んだ相手は、ルームメイトのフランチェスカ・レオーネよ?」
「ふむ、なるほど。――予想通りですね」
「じゃあ、トーナメント絡み以外で聞きたい事は無いかな? 君には、情報提供してもらったお礼が溜まっているんだよね?」
「まあ、提供できない情報もありますが。たとえばトーナメントの変更理由などは、私達もまだ掴んでいませんし」
 お礼……。ああ、そういえば以前にも、この二人には織斑君や凰さんといったクラス代表達の情報を提供した事がある。
その時は、整備室の情報だとかを教えてもらった事もあるけど。私が何も教えてもらわなかった時もあったし。
「また、溜めておいて。いつか欲しい情報があったら、聞いてみるから」
「むむむ……仕方がありませんね。では、次の機会にまたお話を聞くとしましょうか」
「いつでも私達の部屋を訪ねてきて良いからね! じゃあ!」
 そういうと、二人は走り去っていく。うーん、黛先輩並のバイタリティーを感じるわ。


「あ、香奈枝。提出してきてくれた? ごめんなさい、香奈枝も忙しいのに……」
「良いのよ、せっかくISが借りられたんだから。貴重な時間、無駄にしたら駄目よ」
 部屋に戻ると、フランチェスカがもう戻っていた。どうやら貸し出しを終えたようだけど。
「やっぱり皆、ピリピリしてたわね。少しでも慣れようと、必死だったわ」
「そうでしょうね」
 はあ。私も、一回でも多く貸し出しを経験しないと……。
「まったく、どうしてこうなったのかしらね……」
 あ、いけない。思わず愚痴が出てしまった。
「ああ、トーナメントの変更理由? 噂だと――クラス対抗戦の騒ぎも関係してる、っていう話だよ」
「!」
 何気なく言ったフランチェスカの言葉だったけど……私は、自分の体が僅かに硬直するのを止められなかった。
忘れていた、あるいは忘れてしまいたかったのかもしれないけれど。私も見た、クラス対抗戦の乱入者。
あれが、今回の変更にも関係しているって事なのだろうか。もしも、また乱入者が来たらあの時の四人のように……。
その時にISを纏っている人が戦う。そんな必要が出てくるって事なんだろうか。
「か、香奈枝。大丈夫? ごめん、対抗戦の事を言っちゃったから……」
「う、ううん。大丈夫よ」
 心配そうなフランチェスカに、笑顔で返す。……だけど、その心の澱みは中々消えてくれなかった。




「ふーむ、補習授業、かあ」
 昨日の騒ぎの後、各クラス代表が寮内で配って回る事になったらしいけれど。
我が二組のクラス代表にして友人の凰鈴音は負傷中のため、私――ファティマ・チャコンが代役となった。
「それにしても、誰と組むかなあ?」
 私は、代表候補生ということもあって『パートナーを選べる立場』だった。
専用機はないけれど、一場さん・クロトー君との模擬戦で善戦した事が皆からの評価をアップさせたらしい。
そういう意味では、あの戦いは私にとっても大きなプラスだったのだろう。……勝っていれば、もっとよかったんだけど。
「あれ? ティナに恵都子じゃないの、どうしたの?」
「うん、倍率調べに行っていたの」
「倍率?」
 そんなの、どうやって……ああ。
「三組の、ブラックホールコンビの所ね?」
「そう。今の所、鈴の名前を書いたのは10人位みたいだよ」
「10人、か」
 鈴自身は、間違いなく織斑君と組みたかっただろうけど。
倍率としては『高いけど、諦めるレベルじゃない』といった所だろう。
「ファティマはどうするの? もう提出した?」
「専用機持ちとの申請を出すのも手なんだけどね。――ここは、狙わないでおくわ」
「え。本気なの?」
「ええ。……覚えてる? 一組にデュノア君達が転入して来た日、山田先生が鈴とオルコットさんに勝ったのを」
「それは覚えているけど……。でもあれは、山田先生だからできた事だよ?」
「そうね。今の私でも、あんな芸当は不可能だわ。――でもね、恵都子。私達のような専用機を持っていない人間が有利な点もあるのよ」
「有利な点?」
 そう。専用機持ちには無い利点。それを活かせば、番狂わせも夢じゃない。
「その為にはまず、徹底的な自己分析と相手の機体情報が必要だけどね」
 鈴やオルコットさん、織斑君の機体状況は結構把握しているつもりだけど……。
デュノア君やボーデヴィッヒさん、ゴウ君はよく解らない部分が多い。ブローン君はドールだから、まるで解らない。
安芸野君や更識さんも、対抗戦の時とは少し変わっているとかいう噂をブラックホールコンビが教えてくれたし。
「まあ、つまりは。日本語でいう、敵を知り……己を知らば百戦すれど危うい! って奴よ」
「――ファティマ、それ最後が違う。百戦すれど危うからず(=負けない)って事よ」
 あ、あれ? 違ったっけ? 日本語って難しいわ。
前に『唐変木』と『朴念仁』を間違えた時にも、恵都子に指摘されたし……。



「……」
 どうしてこうなった。私――篠ノ之箒の心境を一言で表すなら、この一言が最適だった。本来、任意参加であったトーナメント。
だが専用機持ちも含めて全員が参加することになり、しかもタッグトーナメントとなった。
その優勝した者には、学園内に限り、ではあるが願いをかなえるとの事。……こうなると、事情はまるで変わってしまう。
厄介な事に、専用機もちのセシリアや鈴も一夏に好意を抱いている。その優勝の望みは、おそらくは一夏絡みになる。
「はあ……」
 一体、誰と組んだら良いのだろうか。一瞬、宇月の名前も思い浮かばないではなかったが、彼女はレオーネと既に組んだ。
私のルームメイトの鷹月静寐は、誰とは明かさなかったが専用機持ちとのタッグ要望書を出したようだ。
……私も、一夏とのタッグ要望書を出すべきか? 倍率は高いであろうが、一夏と組める可能性も無いわけでは無い。
しかし、何故突然変更になったのだろうか。いくら考えても、推論の糸口さえ見えてこない。
……いや、そんな事はどうせ解らないか。学園には学園の考えがある。ただそれだけだろう。……。…………。
「篠ノ之さん? 何か変だよ? 考え事かい?」
「!」
 いかん。今の私は、剣道場で竹刀を振るう身。余計な雑念は捨てて、集中しなければ!!
「まあ、しょうがないかもね。織斑君と、どうすればタッグを組めるかを考えていたんでしょ?」
「なあっ!? な、何を言うのですか!?」
 悪戯っ子のような笑みを浮かべた九重先輩の声に、思わず声を荒げた。い、いかんいかん。
今の今、雑念は捨てて集中しなければと考えていたのに……!
「まあ、今回の場合は特殊だから? 希望があるなら、それを書いて提出するしかないんじゃないかな?」
「そうだねー。大好きな織斑一夏と組みたいです、って書いてアピールすれば、あるいは――」
「そそそ、そんな事を書いていいわけはないでしょう!!」
 私をからかって楽しんでいる九重先輩に声を荒げるが、馬耳東風……。まるでこたえていなかった。ぐぬぬ……。
「うーん。織斑君がいないと篠ノ之さんも素直でいいねえ」
「え?」
 素直?
「だって『大好きな織斑君と組みたい』っていう事を否定しなかったじゃない。
普段なら、絶対に『そそそそそ、そんな事はない!!』って『大好き』を否定しそうなのに」
「!」
 引っかかった。それを自覚した時には、既に遅く。私は、部員達から常にからかわれながらその日の練習を終えた。


「うううう……」
 タッグトーナメント申し込み・専用機希望者専用の用紙の前で、私は唸っていた。
用紙の中の『希望する専用機持ちの氏名欄』に、どうしても一夏の名前が書けない。どうしても、今日の一件を思い出してしまう。
「え、ええい、これで構わん!!」
 結局『専用機持ちの誰か』と不特定の記入をし、そのまま布団にもぐりこむ。……はあ。これで、一夏と組む事は出来ないだろう。

「例を挙げると『一組の誰か』よりは『○○さん』って書いた方がペアになりやすいって事ですね」

 あの時、山田先生がそんな事を言っていたしな。……はあ。


 ――そんな私の気持ちとは関係なく、学年別トーナメントのタッグのうち……専用機持ちを含めたタッグが発表される時が来た。
専用機持ちを望みつつも果たせなかった面々が、新しい相手を探す時間の為にこちらだけを先行発表する――という理由だが。
一夏はデュノアと――男子同士、専用機同士というタッグになった。それを目にした時には、目の前が少し暗くなった。
そして同時に、予め決まっていた一場とクロトー以外の専用機持ちのタッグの相手も決定していた。
セシリアの相手は、私のルームメイトの鷹月静寐。鈴の相手は、彼女のルームメイトだと聞いた事のあるティナ・ハミルトン。
三組の安芸野の相手は、私はあまりよく知らない……赤堀唯という三組の女子。
四組の更識の相手は、打鉄弐式の建造を少し手伝ったという話の四組の女子、マルグリット・ドレ。
ドイッチは、その更識のルームメイトで彼女の行方を宇月に電話してきた事もあるという女子、石坂悠。
そして一組の最後の専用機持ち、ボーデヴィッヒとペアを組むのは――私だった。


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