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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] ぶつかったり、触れ合ったり
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/07/19 14:29

2014年初投稿です。今年は……とりあえず原作3巻を終わらせられるよう頑張ります。



「やあやあやあ! 貴女がラウラ・ボーデヴィッヒちゃんだね。初めまして、私は二年の黛薫子っていうんだけど」
(何だ、この女は)
 ……ラウラがアリーナから戻る途中。ドイツからの補給物資を受け取る為に立ち寄った施設で、黛薫子と出くわした。
「ちょ、ちょっと! 無言で立ち去らないでよ!!」
「――何の用事だ」
「あら、つれないなあ。孤高のドイツ代表候補生に、ちょっとインタビューを……」
「必要は無い」
 そういい捨てると、立ち去ろうとする――が、眼前に既に薫子が回ってきていた。僅かにその目が細められる。
「ほう……私の邪魔をする気か?」
「うーん、少しだけ話を聞かせてくれたら良いんだけど?」
「――あら。ラウラちゃんと薫子ちゃんじゃないの、珍しい組み合わせね?」
「あれ。たっちゃん?」
「……ロシア国家代表、更識楯無か」
「んー。出来れば生徒会長・更識楯無って言って欲しかったなー」
 以前、香奈枝やフランチェスカに向けたような威圧的な視線を薫子にぶつけようとしたラウラだが。
まるでそれを見計らったような楯無の出現に、気勢を削がれる。
ロシアの現役の国家代表でもある彼女は、この学園の生徒では数少ないラウラの警戒対象であったからだ。
「何の用事だ。この女と関わる事柄か?」
「んー、薫子ちゃんとは友達だから無関係というわけでもないけど。少しばかり、後輩を指導しようかなーと思って」
(……指導、だと?)
(おー、たっちゃんってばさっそく引き込んでるわねー)
 この時既に楯無のペースに嵌っているのだが、ラウラはそれに気付けない。
そしてそれを唯一第三者としてみていた薫子は、一歩引いてそれを注視していた。
「貴女は、ここで溶け込もうとは思わないのかしら?」
「溶け込む、だと? 私にそんな必要は無い。以上だ」
「――あら。織斑先生の教え子とも思えない回答ね?」
「……どういう意味だ」
「えっと、確か“人は人の中で生きていくしかない。望む望まざるに関わらず、人間は集団の中で生きなければならない。
それを放棄するというのなら、まず人である事をやめる事だな”だったかしら?
これは去年、織斑先生が言っていた言葉なんだけどね?」
「何? ……教官が、そんな言葉を口にしただと?」
 一言で打ち切ろうとしたラウラだが、千冬の言葉と言われてはそうもいかなかった。
だが、彼女にそれを認められるはずは無かった。
「ええ。私は嘘もつくけど、これは嘘じゃないわ」
「私は、更識の女の言葉を鵜呑みにするほど愚かではない」
「あれ、私ってば信用ない?」
「私が知らないとでも思ったのか? 日本の【更識家】の事を……」
「――へえ。流石はドイツの【黒ウサギ】って所かしら」
「ほう、このような極東の国にまで我がドイツの部隊の名が轟いていたとはな」
 互いに視線が鋭くなり、剣呑な雰囲気が漂い始める。薫子も、更に一歩引いていた。
「このIS学園を舐めるなら。せめて、学園最強になってからにして欲しいわねぇ?」
「学園最強、だと?」
「そう、今の貴女じゃ私や他の二・三年の専用機持ち二人は勿論、上位レベルの生徒にさえ勝てないでしょうね」
(……ほう。私とシュバルツェア・レーゲンの力を過小評価しているというのか?)
「それとも、停止結界なしじゃ戦えない……とか?」
「!」
 ラウラの表情が一変した。それはどちらかというと、考えを読まれた驚きの方が大きかったが。
「面白い。そこまで言うのならば、ロシア国家代表に相手をしてもらおうか?」
「ええ。代表候補生と国家代表の違い、教えてあげましょうね」
「あ、あらら、ここで始めちゃうの?」
 ちょっと予想外の展開に、薫子が更に一歩引いた。――同時に、ある教師を呼び出す端末操作を実行する。
「日本語では常時戦場……だったか? ここは一般施設や市街地ではないのだからな」
「うーん、非常時以外はそれはだめよ。……織斑先生にも怒られちゃうし」
「――む」
 酷薄な笑みを浮かべていたラウラだったが、その言葉に動作も笑いも止まる。だが――。
「でもまあ、ルールっていうのは時に破らなければならない場合もあるのだし。それもありかもね?」
「貴様という女は……徹頭徹尾食わせ者のようだな」
「うん、よく言われるわ」
 相手が水のヴェールを一部展開し、それに対してラウラもワイヤーブレードを射出し――
次の瞬間、それを叩き落された。そこにいるのは、黒髪の学園最強の教師。
「馬鹿か貴様らは。こんな場所で、貴様らの本気を出そうとするな」
「き、教官!?」
「織斑先生!? ……ひょっとして」
「ごめんねたっちゃん。先生に許可を貰いに行った時に、あらかじめ、何か起こりそうなら呼ぶように言われていたの」
 二人の間に、千冬がいた。ワイヤーブレードを叩き落したのは、その手に握られた出席簿である。
「で、どうしてお前らはISを展開している?」
「話すと長くなるんですけど……少しだけ、やらせてもらえませんか?」
「うわあ、たっちゃんが本気だわ」
 ふざけた雰囲気などかけらもない生徒会長の答え。
普段の千冬ならば問答無用で断る所だったが、答える代わりにもう一人への生徒へと視線を向ける。
「ボーデヴィッヒ。お前は、どうなのだ?」
「……許可をいただけるのならば、お願いします」
 やる気を見せる二人の生徒をかわるがわる見据える千冬。少し経って、その口からため息が漏れた。
「お前達がそこまで言うのならば、許可しよう。――ただし、二つ条件がある」
「条件?」
「教官、それは一体何でしょうか?」
「一つは、ISや武器を使わない生身の決闘である事。そしてもう一つは、その試合の審判を……私にやらせろという事だ。
それと黛。お前に記録係を頼む」
「はいはい、この黛薫子にお任せあれ!」
「了解♪」
「その条件で、構いません」
 全員の同意が得られた事で、千冬は生徒達を引き連れていく。
世界最強、国家代表、代表候補生、整備課ホープといずれも只者ではない集まりが目的地に着いたのは十分後だった。




 無人の武道場で、私は相手である更識楯無を見据えていた。教官の申し出には驚いたが、問題は無い。
むしろ、教官に見ていただけるのなら好都合でさえある。程よい緊張感さえ生まれてきた。
 ……だが、目の前の女はこの学園の有象無象とは異なり口先だけでは無い。ロシアの国家代表であるのは、紛れもない事実。
少々気になるのは、何故、日本の暗部がロシアの代表になれたのかという事だが。
日本とロシアの関係強化は、日本の同盟国であるアメリカにとって宜しくない事態となる筈だというのに……。
「準備はいいか?」
「いつでもOKですよ」
「私も、戦闘準備は整いました」
「記録準備もOKですよ」
「よし。ではルール説明だが。決着は一方の降伏か戦闘中断宣言、あるいは私の判断によってつくものとする。
補足しておくが、相手以外への施設や他者への不用意な攻撃は、試合放棄として敗北とみなす。――始めろ!!」
 教官の声と共に、明らかに相手の気配が変わる。……なるほど。これが、現役のロシア代表か。


「――」
「……」
 しばし睨みあうが、私も相手も互いに動かなかった。
相手の出方をうかがっている部分もあるが、そもそも軍隊格闘術は後攻め中心のもの。故に、このまま暫くは膠着状態が続くか……?
「ふーむ。――まずは後輩のお手並み拝見、といきましょうか?」
「!」
 そんな中、ふざけた口調で更識が動いた。理想的な体重移動とバランス感覚を元とする、隙のない移動。
その手が、即座に私の首元を掴み。そして同時に私の手がその掴もうとする手を捉えようとして――解かれた。
「ちっ……指の一本は貰えると思ったが、甘かったか」
「おねーさんを甘く見ちゃだめよ? 手解きくらい、簡単よ」
 手解き……日本の武術の、掴み取りに対する解除方法だったな。……しかしこの女、戦ってみてもやはり異質だ。
教官が全てを巻き込む大嵐だとすれば、眼前の女は気配のつかみ所がない蜃気楼や霧だ。だが――蜃気楼や霧であれ。
攻撃の時には、今のように気配を出さなければならない。銃器や暗器等ならば別だが、この試合は徒手空拳。
教官がチェックをなされた為、その心配は『一応は』ないだろう。
「それにしても、さすがの反応速度ねえ。普通の代表候補生なら、今ので終わってるかもよ?」
「私を、凡百の候補生と一緒にしてもらっては困るな」
「ふうん。まあ、五十歩百歩かもしれないけれどね?」
「そうか。ならばそうではないと身をもって知ってもらうとしよう」
 さて――今の動きを見る限り、私の知る中でも最上位の能力だろう。勿論、教官は別格だが。
相手の方が身長やリーチでは上。だがその分、懐に入ればこちらが優位。
今まで数多くの相手と訓練をつんできたが、その大半が私よりも大柄な相手だったのでむしろ慣れてはいる。
「ふーむ。じゃあさっきよりも少しグレードアップするわよ?」
「たっちゃん、グレードアップって?」
「さっきのは威力偵察、って所かな。それじゃあ今度は――私の攻撃を見せようかしらね?」
 記録係に軽い口調で答えながら――拳を握り締め、相手が動いた。
「さて……まずはボクシングで言う所の、フリッカーって所かしらね?」
 フリッカー……手首や肘、肩の動き方を少々変則的にした、殴り方。
だが相手のそれは、まるで人間の関節の動きを無視したような動きだった。まるで鞭のように腕が撓り、襲ってくる。
「あらら、凄いわね」
 だが、私にとっては捌けないレベルではない。むしろ、長いリーチである分踏み込めるのだが――。
「っ!」
 左膝が動いた、と思った瞬間にそれが顎部を捉える寸前だった。
かろうじて避けたものの、今度は膝から下が跳ね上がり、私の顎を捉える。
「ぐあっ!!」
 膝蹴りを避けた分、その跳ね蹴りをまともにくらってしまった。……久しぶりだな、ここまで直撃を食らうのは。
「ふふふ、まずは一撃と。……ところで、まだ眼帯は外さないのかしら?」
「……ほう。そこまで知っているとは、な」
 目の前の女は、どうやら私の左目の事も知っているようだった。眼帯に隠された左目。
私にとっては力であると共に、忌まわしき過去の象徴でもあるこれを知っているのか……。
「ボーデヴィッヒ。ISや道具は使うなとは言ったが、自分の肉体が持つ能力まで使用制限した覚えはない。
――黛。今から見る物は、まだ口外禁止だ」
「――了解しました」
「はいはい」
 教官の言葉と共に、私は眼帯を拭いさる。――そして、この国にやって来て初めて。私は、左目をあらわにした。
「右目は赤なのに、左目は金色……!?」
 記録係の女が騒いでいるこれは……ヴォーダン・オージェといわれる擬似再現されたハイパーセンサー。
脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした肉眼へのナノマシン移植処理。
あるいは、それを処置された瞳自体の事をも越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)と言うのだが。
「へえ、それが。――それじゃあお姉さんも本気で行くわよ?」
 そう言った瞬間、相手の姿が消えた。――いや、違う!!
「背後へ回って即、攻撃か。だが今の私ならば捉えられる!!」
 背後に回り、手刀を首筋に叩き込もうとした相手の手を捕らえて捻じ折り――その服を握り潰した。
「な、に……がはっ!?」
 骨を折る気ではあったが、今の力で皮膚や骨ごと握りつぶせる筈もない。……どうやら服だけを脱いで、私にその服を掴ませ。
そして自分は振り向いた私の背後に回って攻撃したのだとわかった時には手刀を三発、左膝蹴りを一発受けた後だった。
「うわあ、たっちゃん容赦ないわ……」
「大丈夫、ラウラちゃん?」
「ふっ……この程度で倒れるほど、柔な鍛え方はしていないのでな」
 余裕の声の相手に対し、私は既に数発の打撃を受けてはいたが。だが、まだ戦える力は十分にあった。
「うーん、一回しか使えない脱皮の技だけど。上手く決まってよかったわー」
 制服の下に着ていたのであろうISスーツ姿になった更識は、胸元から『トラ・トラ・トラ』と書かれた紙を出していた。
それは確か、ハワイ・真珠湾への奇襲攻撃を成功させた旧日本軍の暗号。つまり、奇襲成功といいたいわけか。
「何処までも、ふざけた女だな……」
「やーん、お気に召さなかった? それじゃあ――ちょっと痛くしちゃうわよ?」
 ……! 気配が、変わった!!
「後輩の傲慢な鼻っ柱を圧し折るのも、先輩の役目よねえ?」
 そんな事をつぶやきながら、連撃を叩き込んでくる。ボクシングなどのラッシュとも近いだろうが、根本的に違うのは。
全てが急所狙いの一撃であり、時折脚での攻撃も狙っているであろう事だ。
「くっ……!」
 耐え切れないほどの攻撃ではないが、とにかく速い。こちらが反撃しようとした瞬間、その隙を突かれて終わりだろう。
「だが……!!」
 この程度の攻撃で敗れるわけにはいかない。教官の見ている前で、そのような無様な真似は許されない!!
「はああああああっ!!」
 攻撃を仕掛けてくる速度、角度、威力……それら全てを見極める。
この目に込められた力。教官が指し示してくださったこの力、今こそ!!
「見えた!!」
 繰り出される拳に向かって自分から飛び込む。本来の距離よりも前で命中した一撃は、強烈ではあったが。
腕が伸びきっていなかった事、そして左腕を楯代わりに使用したことで本来の威力が削がれていた。
「!!」
 目の前の女が、顔色を変えるのが解った。――だが遅い、今更どんな手も打ちようがあるまい!!
「……がっ!?」
「足には激痛のツボ、って奴よ。東洋の神秘、味わいなさい」
「がは……」
 そう思った次の瞬間、まるで稲妻のような激痛が足から全身を貫いた。
それにより、ほんの一瞬だけだった。一瞬だけ、気が逸れた。だが、あの女にはそれで十分だったようで。
「はい、ほい、はいっと」
 奴の喉に叩き込もうとした手刀を叩(はた)き落とされ、逆に私の喉と側頭部を手刀で揺らされた。
……それを認識したのを最後に、私の意識は闇へと落ちた。


「う……」
 私は、現状が把握できなかった。どうやら仰向けで倒れているようで、目の前には教官の顔がある。
私が、唯一敬意を持つ人。憧れた人。……ん?
「どうして……こんなに近いのだ?」
 私と教官の身長差は、頭半分ほど。そして私は仰向けで倒れている。ならばもっと遠くに教官の顔が見える筈なのに。
ほんの僅かな距離の先になにやら山があり、その向こうに教官の顔があり、そして頭部の下には畳とは違う感触がある。これは……
「……ああ、理解できた。これはクラリッサの言っていた膝枕、という奴……かっ!?」
 現実を理解した瞬間、私は電気ショックでも受けたように跳ね上がった。
「おい、少しは落ち着け。まだ寝ていろ」
「し、し、しかし!! き、きょう、教官に膝枕など――」
「私が自分からしただけだ。別にお前が慌てる必要はない」
「で、ですが!!」
「それよりも、敗因分析でも始めたらどうだ?」
「……!」
 その言葉が、混乱していた私の心を一瞬で凍りつかせた。そうだ、私は負けたんだ。……あの女に。
「まあ、あいつはああ見えても国家代表だ。いかにお前といえど、少々分が悪い相手だぞ」
「で、ですが……!」
「一度の敗北など、気にするな。――では、何故お前が更識に負けたのだと思う?」
「……私の、判断ミスです。あの時、好機を得たばかりに攻勢に出たのが――」
 あの時、攻撃を受け続けた事で焦りがあった。だからこそ、無理やり攻勢に出るような選択をして。そして……。
「それは違う。私でも、同じ判断をしただろう」
「え……?」
 意外な言葉に、一瞬忘我する。判断ミスでは、ない……?
「私でも、お前と同じ判断をしただろう。肉を切らせて骨を絶つ――というのだがな」
「では、私の敗因は……」
「直接的には、攻撃の隙を突かれて足を踏まれて指で指圧をされて。
そしてその激痛で、動きを硬直させてしまったのが決め手と言えなくもないが。それも、敗因では無い」
「……?」
 解らない。教官のお言葉は、何が目的なのだ?
「お前が更識の攻撃を読み取った所までは良い。だがお前――あのときの更識の表情を見たか?」
「……はい」
 明らかに、顔色を変えていた。だからこそ、好機と見て攻め込んだのだが――まさかっ!?
「あ、あれがフェイクだった……と?」
「自分の危機を、危機ではないと見せかける為に平静を保ったり。
あるいは逆に危機ではないのに危機だと見せかける程度の事は、更識には容易い。お前の見たそれも、偽物だったのだろう」
「……くっ!」
 教官の前で、何という無様な事を……!
「で、どうだ? あいつと戦ってみた感想は」
「……」
 感想、と言われても……何も出てこない。自らの無様さを罵りたい気持ちはあるが、それを教官に向けるわけにもいかない。
「――なあ、ボーデヴィッヒ。お前も、もう少しここで学んでみてはどうだ」
「私が……ですか」
 普段なら、いかに教官のお言葉といえど断るのだが。
今の状況下では『この学園で私が学べる事などありません』などとは言えなかった。
「……まあ、ゆっくりと考えてみろ。お前も、可愛い所があるようだしな」
「は?」
 あの。言っている意味が、よく解らないのですが……?
「ほら、これだ」
「……!? な、何だこれはぁ!?」
 教官が何かを取り出し、私に手渡ししてくるが……それは気絶中の私が、教官に膝枕をされている写真だった。
それはともかく、その横には『天使の寝顔を見守る戦女神』などという、教官ではない筆跡で書かれた紙がくっ付いている。
ふざけたタイトルのような物の下には、同じ筆跡で『焼き増し、有料で請け負います』とあった。
「ふ、ふざけるな……誰が焼き増しなど頼むものか!!」
 私は、激情のままに写真を引きちぎ……ろうとして、教官に写真を奪われた。き、教官!?
「何か勘違いをしているようだが、これは、私が黛から貰った物だ。――お前が欲しいなら、黛から貰え」
「は、はい……」
 やや怒りの表情を向けられ、思わず竦む。そういえば教官は、写真というものを奇妙なほどに重視していたな。
私が受けた修練でも、私を含むメンバーを一堂に集めて写真を撮った事があった。その時に、確か仰った言葉は……

『過去に、傍に誰がいたのか覚えておけ』

 だったか。あの時は何の事だか解らなかったのだが、今はよく意味が解る。
教官がドイツより去ってから、その時に撮った写真……そして特別に二人で撮った写真が、とても大事な物だったから。
軍人、特にパイロットには『お守り』と称して個々人で色々な物体をありがたがる習慣があるが、それも今では理解できる。
「おいボーデヴィッヒ、どうした?」
「……っ!」
 いかん、思考に没頭するあまり、教官に訝しがられたようだ。
「な、何でもありません」
「そうか。立てるか?」
「既に体調は回復しました。……申し訳ありません」
「何故謝る?」
「私の私闘に教官のお手を煩わせた事と……敗れた事です」
「――ふう。何か勘違いをしているようだが。まず、先ほどの一件は私が許可を出したのだからお前が謝る必要はない。
そして敗れた事も、別に謝る必要はない。膝枕も、私が勝手にやっただけだ」
 いくらそう教官が言ってくださっても、私自身の心が晴れない。一国の国家代表とはいえ、この学園の生徒に……!
「では。これから更に修練を積みたいと思いますので――失礼します」
 私は射撃の実戦訓練を積むべく、特殊訓練室に向かう。
真剣・ナイフ・小型銃器・手榴弾……果ては迫撃砲も使用可能なこの訓練室は、私にとっては最適の部屋だった。
そして、既に意識はその部屋での訓練に向けられていた。――だからこそ、聞こえなかった。

「やはり更識では、駄目だったか」

 という教官のお言葉が。



「それにしても、ゴウの奴も言うもんだな。あの『ブリュンヒルデ』に対して、あそこまで言うなんて」
「ああ」
 ボーデヴィッヒVSオルコット&凰の戦闘の騒ぎの後。部屋に戻ってクラウスが開口一番に口にしたのが、それだった。
「何かあったのか?」
「いや。……ちょっと、な。大した事じゃないんだ。――というか、上手く説明できない」
「……?」
 クラウスは、訝しげに俺を見ている。まあ、当然だろうが。ゴウに対する、この不信感。
いつものあいつとはまるで違う態度や言動。実際に体験した俺でさえまだ戸惑っているのに、他人に説明できるわけも無い。
「――あれ、何だこれ?」
 ふと端末を見てみると、担任の新野先生からのメッセージが入っていた。職員室まで来てくれ、との事だが。
「……悪いクラウス、ちょっと俺、出てくる」
「そうか。――あまり、気に病むなよ?」
「ああ、ありがとう」
 気遣ってくれるクラウスを置いて、部屋を出るのは少し心苦しかったが。……この空気が変わるのは、少しだけありがたかった。


「おい、何をしてたんだ? 今ごろ戻ってくるなんて……えらく遅かったな?」
「いや、クラス別に配布物があってな。これもクラス代表の役目らしいが」
 新野先生の用事とは、クラス全員への配布物だった。作成の遅れで今になったらしいが。
「配布物?」
「学年別トーナメントの追加ルールだそうだ。専用機持ちへのハンデだとか、勝敗の決着方法だとか、色々あるみたいだ」
「へえ。それで、寮内の三組の生徒全員に配ってたのか?」
「ああ、いない奴はルームメイトに頼んだ。それもいない部屋の奴は、後で配る事にした」
「そうか、じゃあ俺も少し手伝ってやるよ」
「へ? いいよ、残りはあと少しだし……」
「手伝わせろよ。お前、まだ少し気分が晴れてないみたいだし。……それとも、説明してくれるか?」
 ……。どうも俺の顔は、正直すぎるほどに晴れていない心情を表しているようだ。
何せ、今まで配布物を配っていく中で12人に『安芸野君、何かあったの?』と心配されたし。
「ありがとう、でも……気持ちだけ貰っておく。俺自身も、まだ説明できる段階じゃないんだ」
「……そうか。まあ、説明できないならそれでもいいさ。じゃあ、これを貸してやるよ」
 そして取り出してきたのは、二冊の文庫本だった。
その表紙や背表紙は黒を基調とし、漫画やライトノベルとかとはまるで違う色彩の本だった……が。
「……おい、何だコレは?」
「いや、溜まってるんだろうと思ってな。俺のお勧めだ。日本でもっとも有名な特殊小説会社『フレンチ書院』の作品。
伝説の学園小説『英語教師K子・上下巻セット文庫版』を進呈しよ――」
「……」
 俺は、クラウスから受け取った二冊の小説をゴミ箱に向けて投げた。
バスケットボールは授業でしかやった事はなかったが。自分でも驚くほど、小説がその中に入っていった。
「あああああああああああ!! てめえ、何しやがる!! 
あれは1990年代の貴重品で、何年も探してようやくゲットしたんだぞ!? 400ユーロ(日本円で約4万)もしたっていうのに!!」
「お前こそ何を渡してくるんだ!! というか、何故さっきまでの話でこう繋がるんだよ!?」
「お前が元気がなかったから、きっと色々と溜まっているであろうと判断し、解消の道具を渡しただけだが?」
「お前は、その何でもかんでもエロ方面に持っていく思考を何とかしやがれ!!」
「何を言っている!! 俺達の年頃なら何事にもエロがあって当然だろう!! いやむしろ、エロしかない!!」
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 傍から見れば、この上なくアホな言い争いだっただろうが。
……結局、騒ぎを聞きつけてやってきた織斑先生の雷が落ちるまでこれは続いたのだった。




「いやー、まさか織斑君と二人きりで食事をするとは思わなかったわね」
「そうだなあ。だいたい、箒とか宇月さん……最近だと、シャルルが一緒だったし」
 本日の夕食の相手は、フランチェスカと二人きりだった。
シャルルとも宇月さんとも、他の皆ともタイミングが合わなかったからだが、こういうのは入学してから初めてだな。
「それにしても、フランチェスカってペースが変わらないよな?」
「え、そう?」
「ああ。箒とかだと、俺と二人で食事をしてたらいきなり赤くなったり怒ったりするし……」
「いや、だからそれは……ううん、言っちゃ駄目ね」
 何か言いかけたフランチェスカが、言葉を止めた。はて、何を言おうとしたんだろうか?
「あれ? ――あそこで何か騒いでるわね?」
「え? 何だって?」
 フランチェスカの指摘に振り向くと……あれ?
「ねー。少し分けてよーー」
「駄目だよーー。一粒たりとも渡せないよーー」
 何か、似たような口調の二人が争っている。一人は俺達一組の癒し系、のほほんさん。そしてもう一人は――。
「あれ、ロミ?」
「あ、フランチェスカーー。この娘、何とかしてよーー」
 肩口まである金髪の、三組の女子。確か、アウトーリさん……だっけ? どうしたんだ?


「二人とも。一体、何があったんだ?」
「んー。布仏さんが、私のイチゴパフェを半分、分けてってしつこいんだよー」
「布仏さん、意地汚いわよそれは……」
 のほほんさんよ。それじゃあ癒し系じゃなく、卑しい系になってしまうぞ。
「だってだってー。昨日は、私がイチゴシェイクを半分あげたんだよーー」
 なるほど。アウトーリさんは、のほほんさんに借りがあり。のほほんさんはそれを返す事を求めているわけか。
「それにーー。あれが本日最後のパフェだったんだよー」
 そういえば、のほほんさんはよくデザートを食べているな。彼女の摂取カロリーが気になるが……。
以前、シャルルが転入して来た日の昼食時みたいになりそうなので、指摘はしない。
「駄目だよー。イチゴは一粒たりとも渡さないよーー。それに、最後のイチゴなんだからーー」
「最後って……」
 今日は最後ってだけであり、別に明日も食べられるじゃないか。イチゴの季節はもう終わりかけてるけど……。
「ロミ、少し分けてあげたら? 最後って言っても、今日だけでしょ?」
「んー? 違うよー。トーナメント終了まで、私はイチゴを食べないんだよー」
「……へ?」
 おお、フランチェスカが目を丸くしている。珍しいな。
「嘘おおおおおっ!?」
 そして更に珍しくも、フランチェスカが絶叫した。周りの人間も、何事かとこちらに視線を向けるほど大きな声。
「ど、どうしたんだよフランチェスカ?」
「ご、ごめんなさい。ろ、ロミがイチゴを食べない? ……ど、どういう事なのそれ!?」
「んー、内緒だよーー」
「あ、ありえないわよそれ。絶対にありえない。喩えるなら……そうね。
織斑君が唐変木じゃなくなったり、篠ノ之さんが自分の気持ちに素直になるくらいありえないわ」
「んー、それは確かにありえなさそうだねー。よく解るよー」
 ……なんで比喩の対象が俺達二人なんだろうか? そしてのほほんさん。何で『よく解る』んだ?
「……布仏さん、今回は退いてくれない? ――私が、実家から送ってもらったジェラートあげるから」
「んー、しょうがないなー。じゃあ、れおっちの顔を立てて今日は退くよー」
「ごめんねー。また今度、イチゴ以外のデザートをあげるからー」
「んー、楽しみにしておくよー」
 何とか仲直りしたようだった。よかったな。


「それにしても驚いたわ……。まさか期間限定とはいえ、ロミがイチゴを食べないなんて」
「そんなに驚くところなのか、それ?」
 食後のお茶とコーヒーを楽しんでいたが。まだフランチェスカはさっきの事に驚いていた。
「ええ。それにしても、願掛けなのかしらね?」
「願掛け?」
「あ……ほ、ほら、香奈枝から聞いたんだけど。日本では好きな物を絶つ事で願いをかなえるやり方があるんでしょ?」
 ああ、なるほど。聞いた事があるな。
「それだけ、学年別トーナメントにむけて必死って事なのかしら」
「そう……なのかな」
 学年別トーナメント、か。優勝者には何でも願いがかなうらしいけどなあ。


「お、シャルル。今帰ってきたのか」
「あ、一夏。レオーネさんと食事だったの?」
「ああ、先に食べた。シャルルは……」
「僕も簡単に済ませたよ」
 自室――1025室へと戻ると、そこにはちょうどシャルルが戻ってきた所だった。これなら、待っていればよかったな。
シャルルに『遅くなるかもしれないから、先に済ませておいて』と言われたのに。
「そうか。じゃあ、一緒に宿題でもするか?」
「そうだね」
「……」
 あれ? 隣の部屋の鍵を開けようとしていたフランチェスカが、何か面白そうに俺達を見ているぞ?
「何か二人とも、恋人みたいなやりとりだね?」
「こ、こ、恋人!?」
「お、おいおいフランチェスカ。そんな馬鹿な事、あるわけないじゃないかー。はははは」
 フランチェスカは、勿論冗談で言っているんだろうけど。
シャルルが女子である事を隠さないといけない俺にとってはヤバイ一言だった。……少し演技過剰だったか?
「……馬鹿な事?」
「あはは、ごめんね。――でも、仲良くなって良かったと思うよ」
 フランチェスカは、笑顔で言い切ると隣の部屋に入った。……ああ、一時期シャルルとあまり話せなかったからなあ。
俺もそれで相談を…………って、あれ? 俺、フランチェスカにこの事を言ったっけ?
「思い出せないな……って、どうしたんだシャルル? 何かふくれっ面をしてるけど」
「え? ……そ、そんな事ないよ? ――え?」
 まるで何かを誤魔化すように、慌てて鍵を開けてシャルルは部屋の中に入った。……そして、何故かそこで固まる。
「どうしたんだ、シャル……る!?」
「お帰りなさい~~」
 部屋を覗き込むと、俺も固まった。何故なら無人だった筈の俺達の部屋に、人がいたからだ。
その事にも当然驚いたが、俺達を更に驚かせたのはそれが泥棒とか強盗とかいうわけではなく。
「あ、貴女は――」
「さ、更識会長?」
 それが、シャルルも俺も見知った人物だったからだ。だ、だけど何で俺達の部屋にこの人がいるんだ?
「あら。香奈枝ちゃんからマスターキーの存在を聞いた事無いかな?」
 そういえば以前、そんな話を聞いた事があるような……。
「って、そんな事よりも。何で貴女が、俺達の部屋にいるんですか?」
「うーん、ちょっと貴方達を――特に、織斑君を鍛えてあげようかなと思って。
ああ、織斑先生の承諾は得てるから問題はないわよ?」
「そ、そうなんですか? ――そ、それよりも、何故僕達のいない部屋に侵入するような真似をしたんですか?」
「うーん、私の趣味?」
 趣味かよ!?
「というのは冗談で」
 冗談かよ!?
「まあ、それはさておき。貴方達が巻き込まれた、今日のトラブルの中心にいた彼女。
――ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんの事についてはどう思うのかな? お姉さんに聞かせてくれる?」
「どうって……」
「彼女の力量は、一年生でもトップレベル。何せセシリアちゃんと鈴音ちゃんを、1対2で倒した。
多少やりすぎた部分はあったけど、実力差があったっていうのは――解ってるわよね?」
「……ええ」
 あいつは、確かに強い。それは認める。
「そこで、君達を私が鍛えあげればそんな彼女にも立ち向かえるようになる! っていう事なのよ。
これでも私、ロシアの国家代表だし。貴方達の役には立つと思うんだけど?」
「……はあ」
 確かに、この人の実力が高い事は知っている。クラス対抗戦で、ほんの僅かだけど見せてもらったし。
ただ、何かいきなりすぎて話が頭に入ってこない。
「――それに秘密を守る人よ、私は」
「「!?」」
 秘密。シャルルに扇を突きつけて発せられたその言葉に、俺達は一瞬で固まった。こ、この人は……!
「単刀直入に言うわね。私も、シャルル君の秘密を『知っている』一人よ」
「……そう、なんですか」
「だからこそ、訓練が出来るわけでもあるんだけど。――ああ、そうだ。一応いっておくけど、この事は他の生徒には秘密ね?」
「え?」
「えこ贔屓って思われるのは嫌でしょう?」
「それは確かに嫌ですけど。じゃあ、どうすれば――」
「そうねえ。深夜の秘密特訓、なんてどう? 虚ちゃんが、本音ちゃんや香奈枝ちゃんにやってあげていたようにね」
 深夜特訓?
「そうそう。まあ、ISを使った訓練じゃなくて肉体的な訓練だけなんだけど。少し鍛えなおすだけでも、だいぶ違うと思うわよ?」
 ……鍛えなおす、か。どんな事をやるのかは解らないけど、今のままであいつに勝てるのか……と言われると。
「勝てる、とは言えないよな……」
「だよねえ?」
「どわあああああっ!?」
 漏らした独り言に呼応して、俺の顔を覗き込んで来る更識先輩。その赤い瞳に、俺の顔が映っていた。
まるで笑う猫のような表情だが、やっぱり凄く美人で……。
「……一夏?」
「はっ!?」
 シャルルの声で我に返る。その時には、先輩の顔は離れていたが……あれ、気のせいかシャルルの声が冷たかったような?
「あ、あの先輩。少し、考えさせてくれませんか?」
「そうねえ。まあいきなり話を持ちかけられて、はいそうします、と即答するのも難しいでしょうし。
でも時間もあまり無いし……じゃあ明日『今度はちゃんと』来るから、返事を聞かせてね?」
 そういうと、先輩は形を崩してドロドロに溶けていき……って、ええええええええええええええ!?
「な、何だこりゃ!?」
「こ、これって一体……」
『あはははははははは! 引っかかったわね、二人とも。今のは水人形だったのだー♪』
 いつの間にか置かれていたレコーダーから更識先輩の声がして。そして、後には呆然とする俺達が残された。
ちなみに、水に濡れていた筈の床には水滴一粒たりとも落ちていなかった。……な、何なんだろうか。
「ど、どうしようか、一夏……。あ、あの人、大丈夫なのかな?」
「そ、そうだな……それなら、聞いてみたらいいんじゃないかな?」
「聞く?」
「ああ」
 確かに俺達は、あの人についてほとんど知らない。……だけど、知っていそうな人を何人か知ってるからな。


 

「そうか。織斑達に接触した、か」
「はい。二人とも、可愛いくらいに慌ててくれました」
 寮長室では、千冬と楯無が座布団に座しながら話をしていた。話題は、楯無の一夏・シャルルへの協力。
「それで、あの部屋はどうだった?」
「問題はないようですね。盗聴器、その他は存在しませんでした」
 楯無の1025室への無断入室。それは、部屋の調査も兼ねていたのだった。
今まで調査がなかったわけではないが、楯無が協力する為に改めて……という事で千冬も許可を出したのである。
ただし、調査後に本人は部屋の外の上空にISを展開し、ステルス・マントを纏って待機して。
そこからアクア・ナノマシンで作った水人形を作り上げて部屋に残したのは、紛れもなく楯無の趣味ではあるが。
「ただ、一つ問題が」
「問題?」
「織斑君なんですけど。あの年頃なら絶対にあるはずの、エッチな本とか映像ディスクが一つも見あたらなかったのが不自然――」
「……更識。その口を塞ぐか、私の拳を代金に受け取って喋り続けるか選べ」
「じょ、冗談ですってば。あはは……」
 流石に千冬相手では楯無も分が悪く。そのまま、報告も終わった為に立ち上がる。
その動作に隙はなく、ラウラを下したのも当然である事を表していた。




☆補足

○ステルス・マント
 8巻で登場した(多分)迷彩用の道具。クアッド・ファランクスパッケージのリヴァイヴ(山田真耶)を隠した。
ファング・クエイク特殊部隊仕様のセンサーを騙した事からもかなりの高性能だと思われる。
作中設定的には御影のステルス機能よりは下だが、他のISなどでも使えるのが強み。

話が進まない。これで原作5巻の話も一部入ってくるので、ますます……。何処をカットしよう……。





☆没ネタ

「うーん……それにしても、まだまだ不足しているわねえ」
「不足……?」
 私――ラウラ・ボーデヴィッヒ――と対峙しているロシアの国家代表の女が、そんな事を言い出した。
「何の話だ!」
「あら、聞こえちゃった? ――胸の話よ」
 私の繰り出した拳を容易く避けながら、全く関係ない話を始める女。……何のつもりだ?
「一組の生徒でいうと、セシリア・オルコットちゃんとかフランチェスカ・レオーネちゃんとかと比べると……。
あまりにも発育不足よねえ? イギリス人とイタリア人とドイツ人で、そんなに発育の差があるとも思えないし」
 イギリスの代表候補生と、あの時の整備課志望の女の後ろで震えていたイタリアの女か。……はっ、くだらん。
「私なんて、日本人でもここまで大きくなったのにー」
 まるで胸を突き出すような姿勢をとる女。一見隙だらけのようだが、実際には隙はない。手を出せば、確実に反撃を食らう。
その胸は……日本人の胸囲平均値が年々上昇しているというが、その平均値よりもかなり上のサイズであるようだ。――しかし。
「ふん。胸など大きくなって何になるというのだ。その分のエネルギーや栄養素を吸い取られるだけの、無用の長物だ」
「へえ。無用の長物、ね。じゃあ胸の大きい女はくだらない女なのかしら」
「ああ、くだらないな。胸が大きい女など、せいぜい(諜報系専門用語)で役立つくらいだろう?」
 挑発の意味を込めて相手に言葉をぶつける――が、相手はまるでこちらが罠にかかった時のような笑みを浮かべた。
「へーー。そんな事を言っていいのかな?」
「……?」
「織斑先生の胸も、結構大きいと思うんだけど。……さっきあなた、何て言ったっけ?」
「……!?」
 無様極まりないが、私の動きが止まった。教官の胸囲――それは小さい、と言われるレベルではない。
そ、そうだ。教官よりも大きな人間がいない訳ではないし、その胸が大きいと決まったわけでは……! ――駄目だ。
私の所属部隊であるシュヴァルツェア・ハーゼの一員のある女が以前『教官の胸は日本人にしては大きい』と言っていた。
そしてそれを教官自身が聞いて『別に大きくても良い事等ないぞ? 肩は凝る、服のサイズが限定される、動くとゆれる……。
私より大きい日本人は、知り合いにもいるが、同じような事を口にしていたぞ』などと口にしたこともあった。
……つまり教官は、自分の胸が大きいと判断している。――ど、どう答えればいいのだ!?
「ボーデヴィッヒ。先ほどの発言は、一度だけ聞き流してやる。……今は試合中だからな」
「は、はい!」
「あらあら、優しいのね」
 相手のペースに完全に嵌っていた事を恥じながら。私は、再び相手の隙を窺い始めた……。


 千冬の胸のサイズってどの位なんでしょうかね。SSによっては箒とセシリアの中間地点の場合もあるし、箒以上の場合もあるし。
このSS中では、サイズは真耶>>千冬>>楯無>箒>セシリア>シャル>>>簪>鈴>ラウラって感じでしょうか。
オリキャラだと香奈枝はシャルと簪の間、フランチェスカがセシリア並です。これに関しての意見を募集します(本気)


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