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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] それぞれの運命を変えていく
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/02 15:34

2013/11/18 46話を、文章の流れに齟齬が生じていた箇所があった為、誤字・脱字以外で少々修正しました。


 夜の生徒会室では、布仏姉妹がダンボールを運んでいた。女の細腕では運べないのではないか、というほど大きな物。
事実、姉妹が整備にも重要な『効率のよい物の運び方』を学んでいなければ運べないであろう重さだった。
「会長。これが本日分の書類です」
「んーー、どっこいしょーーー」
「うわあ、凄い量ね」
 その段ボール箱いっぱいに詰め込まれた封筒。それらは全て、ある事への抗議文書だった。差出人は――。
「これが剣道部以外からの部活動・同好会からの苦情です。織斑君が、実質的な剣道部員となった事への苦情のようですが」
「へえ。デュノア君、ゴウ君、安芸野君、ブローン君を部活に入れてくれ……ねえ。クロトー君まで入れて欲しいなんて……」
「そもそも、それらは生徒会を介さなくても良い筈なのですが」
「まあ、男子『四人』を誰か一人でも自分の所に入れたいんでしょうね。一応、勧誘は自由なんだけど……
無理やりに引っ張ると後で揉めるから、生徒会のお達しという形を取りたいのでしょうね。
織斑君の場合は、それまでに剣道部で何度も訓練をしていたから反論がやり辛いんでしょうけど」
「ええ。特に二・三年生は男子と触れ合う機会もほぼ無いのですし。部活という足がかりが欲しいのでしょうね」
 ダンボールの中から数枚を取り出し、流し見だけでその真意を当てる楯無。それに虚も同意する。
「だからこそ、その発散機会として紹介イベントを設けたんだけどねえ。逆効果だったかしら」
「どうやら、それで逆に火がついたようですね」
「ガス抜きが不十分だったわね。――あ」
「うわー、会長が悪人顔になってるー」
「……ふふ。いい事思いついちゃった。この苦情に関しては、とりあえず棚上げにしておいて。
ちょっとだけ、これを利用させてもらうから」
「承知しました。……ですが会長。ほどほどに、お願いします」
 虚は、諦観と苦笑の混じった表情になる。彼女には解っていたのだ。
楯無がこういう表情をする時は、大抵が他人を巻き込む騒ぎになるであろう事を。


「それとこちらは、欧州連合からの手続きに関する書類です」
「――ふうん。なるほど、ねえ。ドールの搬入時期について……かあ」
「あれー、早くなるのかなー? ぶーろーやくんくんのだけじゃ無いって事ー?」
「そうなりますね。――さあ、二人とも。お茶が入りましたよ」
 学園理事長さえ認める、布仏虚のお茶。それを楽しみとする二人が、書状からカップに視線を移した。
お茶菓子は無く、純粋にお茶だけを味わう為に淹れられたお茶。その香気が、生徒会室に広がる。
それを口に含めば、水と茶葉から最良のやり方で作られた味が広がり舌を楽しませ。
喉に流し込めばまるで自らの意思で下るように胃へと落ち、そこから身体全体を温めていく。
「うん、やっぱり良いわね虚ちゃんのお茶は」
「お褒め頂き、光栄です」
「美味しいよー。これならせっしーだって納得できるよー。あの時のお茶も、美味しかったけどねー」
 幸せそうな布仏本音だが。その言葉に出た『あの時』という単語に、楯無が僅かに頬を引きつらせた。
カップを持つ手も僅かに震え、お茶に波紋が立つ。極僅かではあったが、幼なじみ達の目は誤魔化せなかった。
「あの時――。ああ、織斑君達の部屋でお茶会をやったのだったわね。本音も参加したのだったかしら」
「うん。せっしーのお菓子とか、とっても美味しかったよー。かんちゃんも、喜んでたしー」
「……そう、なんだ。そういえば、織斑君が『あの後』に簪ちゃんと出会ったって聞いたんだけど。本当なの?」
「ええ、本当のようですね」
「……確か、白式で抱きかかえて寮に戻ったんだったわよね? あの後で織斑君は織斑先生に叱られたみたいだけど」
「でも、かんちゃんは大丈夫でしたあ」
「そ、そうなんだ。ふーーーーん、良かったわね」
 いつもより豪奢な扇(時価七桁)で口元を隠す楯無だが、その扇には『泰然目若』とあった。
……正しくは泰然『自』若であることはいうまでもない。そんな一学年下の主君に、虚は微笑ましささえ覚える。
「お嬢様。織斑君達に嫉妬しているのでしたら、早く次の手を打たれたほうが良いかと思います」
「し、嫉妬なんてしていないわよ? こ、この私が嫉妬するとでも思ったの?」
「はい。目と自を間違えるなど、お嬢様らしからぬミスですし」
「珍しいよね~~」
「~~~~!!」
 慌ててその扇を隠す生徒会長。香奈枝が見れば、保健室で目を診てもらおうと思うほどに彼女らしからぬ姿だった。
「虚ちゃん。……策という物は次の次を考えて練らなければ駄目な物であり、一手一手が次へと繋がる物よ。
一つの失敗を取り返そうと、焦りに任せて行動しては駄目。そして、それと同時並行してやらなければならない事もある。
全ての行動を俯瞰的に考えた上で、次の手を打たなければ駄目なの。つまり、私が言いたいのは――」
「織斑君達のように接していいかまだ解らないから、簪様のことは待ってくれ、という事ですね」
 年上の従者に一刀両断された楯無は、扇に『完敗』と記して机に突っ伏した。意外と、余裕がある……と虚は判断する。
「さあ、書類処理はお任せしますよ。私達は、まだまだ雑事が残っていますから」
「えーー。まだ仕事があるのー?」
「……本音。三日間お菓子抜きと、関西の名店『時雨光臨堂』のお饅頭。どっちが良い?」
「頑張るよーー」
「……」
 完全に妹をコントロールしている姉。自分達はこういう風になれないのか、書類を処理しながらそう考える楯無だが。
その明晰な頭脳をもってしても、答えは出ないのだった。



 
「一夏、今日の放課後、ちょっと良いかな? 学園施設で、行って見たい所があるんだけど」
「おう、良いぜ」
 学園施設の案内か。俺もまだ全部は覚えていないけれど、見て回るのも良いな。
「い、一夏さん! それよりも、わたくしと放課後の一時を楽しみましょう!!」
「一夏ぁ! 飲茶しましょうよ!! 焼売も餃子も、饅頭もあるわよ!!」
「い、一夏。ちょっと、用事があるのだ。つ、つ、つ、つ、付き合え!!」
 そのとたん、女子三人組が、まるで割り込むように突撃してきた。な、何だぁ?
妙にアグレッシブになっているような気がする。どうしたんだろう?
「あー、悪い。俺はシャルルと学園施設を回るから、また今度――な」
「な……!」
「ちょ、ちょっと!! あたし達の誘いを断るの!?」
「し、紳士とは言えませんわよ!! も、もしや妖しい関係という噂は……!!」
 何故か異様にショックを受けているようだ。ところで、セシリアの言った妖しい関係って……何だ?


「……ごめんね一夏。皆に誘われたのに、断る形になっちゃって」
 整備室に向かう途中、シャルルがそんな事を言い出した。え、何でシャルルが謝るんだよ。
「気にするなよ、シャルルの方が先約だったし。それに、千冬姉にも言われたんだ。シャルルを出来るだけフォローしてやれって」
「フォロー?」
「ああ。出来るだけ、シャルルの事は守ってやるぜ!」
「う、うん。……ありがとう、いち」
「あ――!! 織斑君とデュノア君だ!!」
「え、え、え!? 何でここに!?」
「嘘、今日はファンデーションのノリが悪いのにーー!!」
 整備室の中から出てきた女子が俺達を見つけ、一瞬にして騒ぎ始めた。……やべえ。
「デュノア君、織斑君、こんにちわ!!」
「今日はどうしてここに? ひょっとして、白式やリヴァイヴの整備?」
「今夜暇? だったら二年生の寮の食堂で一緒に食事しない!?」
 まるで獲物に食らいつくピラニアのように女子が群がってきて、あっという間に俺達の周りは囲まれてしまった。
リボンの色からすれば、二年生や三年生ばかり……って当たり前か。
のほほんさんや宇月さんは兎も角、一年生はこの辺りにはあまり近づかないらしいし。
「ほらほら皆さん、いけませんよ。あまりがっついては、困惑させてしまうだけです」
 そこへ、金髪の女性が現れた。ただ、金髪でもセシリアやシャルとは違い黒い瞳をしている。えっと、確か三組の……。
「クラウスの従姉弟の、ゲルト・ハッセ先生……でしたよね」
「ええ、その通りです。二人にはクラウスが、お世話になっています」
「いいえ、僕の方こそ助けられてます」
「そうなのですか。それにしても、二人はどうしてここに?」
「いえ、ちょっと学園施設を見学しているだけなんです。大した事じゃあ……」
「では、よろしければ見学していきませんか? 皆も、君たちに興味があるようですし」
 その途端、先輩達が「賛成ーー!!」「さすがハッセ先生!!」「見ていってよ、織斑君、デュノア君!!」などと言い出す。
……とてもじゃないが、このまま失礼しますなんて言い出せるムードじゃなかった。


「へえ……ISの整備っていうのも、大変なんだな」
 宇月さんやのほほんさんからほんの少しだけ聞いていたが。整備というのは、とても大変そうだった。
パーツを接合させたり取り外したり。プログラムを組んだり、部品を運んできたり。
皆がひっきりなしに動いて、打ち込んで、真剣な表情でネジを止めたりドライバーやレンチを取り替えたり。
授業で整備を少しだけやった事はあるが、その時やった事なんて初歩中の初歩だったのが俺にもわかった。
「そうね。ここにあるのは一般生徒用の量産機だけど、これが専用機になったらもっと大変ですよ?
デュノア君は、その辺りは知っているのではないかしら?」
「え、ええ。ほんの少しですけど……」
「そうなのですか。――ところで、デュノア社はドールについてどう考えているのですか?」
「え……?」
「は、ハッセ先生。シャルルが困ってるんで、それは聞かないでくれませんか?」
 絶句して視線が泳ぎだしたシャルルの前に立ち、ハッセ先生の質問をさえぎる。
先生相手に失礼だけど、やっぱりその質問を答えさせるわけにはいかないだろうし。
「冗談ですよ。すみません、変な質問をしてしまって」
「い、いいえ、大丈夫ですから」
「そうですか。それにしても織斑君は、フォローが早かったですね。貴方は唐変木だと聞いていたのですが……」
「別に、大した事じゃないですけど……」
 というか、誰だろうか俺を唐変木だと言ったのは。クラウスなんだろうか?
「……あの噂は、まさか本当なのでしょうか?」
 噂?
「ええええええっ!? う、噂ってまさか……!」
「IS学園で出会った日本の少年とフランスの貴公子! 同室となった二人は友情を芽生えさせて、そして……!」
「やっぱり織デュノなの!?」
「何言ってるのよ、デュノ織に決まってるでしょ?」
「いやいや、ここは一シャルよ!!」
「一シャルと織デュノって、どう違うの……?」
 何か先輩達の一部がヒートアップしてきたぞ、おい。どうなってるんだろうか?
というか織デュノとかデュノ織とか一シャルとか、何の事だ? 俺達絡みだとは思うんだが、さっぱり意味が解らないぞ。




「あの、皆さん。僕と一夏は、そんなんじゃないですよ?」
 先輩達の考えている事が、何となく、だけど理解できた僕はそれを否定する。
やっぱり、変な誤解をされたら一夏も迷惑だろうし。……ただでさえ嘘を隠してもらっているのに、濡れ衣まで着せられないし。
「そ、そうなの!?」
「えー。そうなんだ?」
「残念だなあ……」
 皆、動く真剣そうに僕に詰め寄ってくる。しばらくすると、納得してくれたのか静かになったけど……。
――ちょっと想像してみる。一夏、と恋人かあ。……。…………。
「……ああ言ったけれど、一夏と……」
「ん? 何か言ったか?」
「な、何でもないよ!? あ、あはははははは……」
「……? そうか。ところでどうする? そろそろ、行くか?」
「う、うん! そうだね」
 僕は頭に浮かんだ思いをかき消すように首を振り、まるで逃げるように整備室を去った。
一夏も変に思っただろうし、ハッセ先生や先輩達も怪訝そうな目を向けていたけど……。


「で、ここが部室棟だな。まあ、俺もここのシャワーを使った事があるんだが……」
「い、一夏!? な、何故ここにいるんだ?」
 到着した部室棟を解説している一夏の言葉に合わせるように、ドアが開いて篠ノ之さんが現れた。
袴と白い剣道用の……胴着、だっけ? それをまるで体の一部のように着こなしている。
それにしても、日本人にしては本当に胸が大きいと思う。一夏も、大きい方が好きなのかな? ……あれ?
「いや、シャルルと歩いていてここに来ただけだ。箒も、部活が終わったのか?」
「そ、そうだ!! ――こ、こ、ここであったのも何かの縁だ、私も一緒に――」
「いや、俺達はこの後、IS開発室を見て終わりにするつもりだから、別に付き合わなくても良いぞ?
ここからじゃ寮とは別方向だし、夕食の時間だってあるだろ?」
 ……一夏って、さっきハッセ先生が言っていたように唐変木だよね。
篠ノ之さんは少しでも一夏と同じ時間を過ごしたいからそう言っているんだろうけど、全然気付いていないし……。
「わ、私と歩くのが嫌だというのか!?」
「何でそうなるんだよ!」
「な、ならばもういい!! 好きなだけ歩いていろ!!」
 そう言うと、篠ノ之さんは走り去っていく。あああ、一夏ってば……。
「何で怒るんだろう? ――悪いなシャルル、変な事に巻き込んで」
 全然気付いてないなあ。……ふう。少しだけ彼女が不憫になるよ。まあ、彼女だけじゃないけれど。
「今のは、一夏も悪いと思うよ。あれが僕だったとしても、怒ってるよ」
「そ、そうなのか? でも『僕だったとしても』ってどういう意味だ?」
「……え? え……っと、それは……」
 思いがけず出た自分の言葉を一夏に指摘され、僕は言葉を失った。……どうしよう。
あの一件以来、一夏の存在が僕の中でどんどん大きくなっていっているみたいだ。
ただのルームメイトだったはずなのに、男の子として意識し始めているみたいだ。今までは、そんな事は考えたこともなかったのに。
――でも、許されるわけは無い。僕は、一夏達に助けられっぱなしなのに。恋人だなんて……。
「おーいシャルル、どうしたんだ?」
「……? ……! うわあああああああああああああ!?」
 気がつくと、僕の顔を覗き込んでいた。まるで、キスしようとしているような距離。
「悪い、驚かせたか? 熱でもあるのかと思ったんだが」
「あ、え? あ、あはは、だ、大丈夫……だよ?」
 ね、熱はないよ? 凄く――ドキドキしたけど。
「それなら良いけど……そういえば前に、箒も同じような反応を見せたな」
「篠ノ之さんが?」
「ああ。何かぼーっとしてたから、熱でもあるのかと思ってな。最初は額同士をくっ付けちゃって驚かせたっけ。
二回目はちゃんと手で測ったんだが、それでも慌ててたし」
 一夏に好意を持っている篠ノ之さんと同じ、か。……僕の中では、やっぱり芽生え始めているのだろうか。……一夏への、恋心が。




「安芸野さん。ちょっと宜しいかしら?」
「オルコット? 俺に用事とは、珍しいな」
「ええ。少しお話がありますの。よろしいかしら?」
「お話、か」
 自室に尋ねてきた客人を、珍しい目で見る将隆。彼女が彼の部屋に来たのは初めてなのだから、当然だが。
「5分くらいなら。この後、クラスメートと勉強が入ってるから、手短に頼む」
「承知しましたわ。あら、お一人ですのね?」
「ああ、クラウスの奴はちょっと席を外してるんだ。――紅茶がないんで、ジュースで良いか?」
「お構いなく」
 セシリアが客人用の椅子――三組生徒が訪ねてくる事が多いので、クラウスが買った物――に腰掛け。
意外な組み合わせの会話が始まった。


「そ、それでですね。お聞きしたいのは、一夏さんとデュノアさんの事なのですが」
「……その二人に関して、俺に何を言えと言うんだ? 同じクラスの君の方が、ずっと詳しいと思うんだが」
「あの二人と同じ、男子の視点が必要ですの」
「そうか。しかし、何で俺なんだ?」
「やはり男子生徒の中で一夏さんの次に入ってきたのは貴方ですし、他の方はちょっと……」
 特徴的なロールを指で弄くり、それだけを言うと口篭るセシリア。そんな態度に、将隆もやや訝るが。
「そうなのか?」
「ええ。特に貴方と同室のあの方とは、少々ご相手は遠慮したいですわ」
「いや、クラウスだって悪い奴……じゃないとは言い切れないかもしれないが、アレで一応……いや、やっぱりアウトか?
でもまあ、最低限のマナーはわきまえて……いや、それにしてはヤバい橋を渡ってるし……」
「……どちらですの」
「まあ、極悪人じゃないぞ?」
 フォローなのかそうでないのか解らない回答だったが、それもやむなし、だった。
(……そ、それよりも。時間が無いということですし、早く聞くべき事を聞いてしまいましょう。
安芸野さんは、一夏さん以外では一番信用が置ける方のようですし。あの時も、決して逃げませんでしたし……)
 セシリアにとって、一夏の次に話しかけやすい男性は将隆だった。クラス対抗戦の乱入者と共に戦ったという事もあるが。
クラウスは、セシリアから見れば『何かと女子に話しかける、軽い男(※ただし、自身には近づいてこない)』であり。
ゴウは『何かとこちらに近づくが、何処か警戒心を持ってしまう男性』であり。
最年少のロブにいたっては、そもそも関わる回数が少ない。故に、将隆が二番目となるのだった。
「そ、それで、ですね。……い、一夏さんとデュノアさんは、貴方から見てどうですの?」
「は?」
「で、ですからその、何と言うのでしょうか、ええと……」
 視線をそらし、中々明確に聞きたい事を口にしないセシリア。その態度で、将隆も彼女の言いたいことを理解した。
「俺にはよく解らないけどな。少なくとも、一部で噂されているような妖しい関係とかじゃないぞ」
「ほ、本当ですのね?」
「ああ。断言していい」
「ま、間違いありませんのね?」
「ああ。男同士のカップル、なんて事には絶対にならない」
「ふう……。第三者からの視点も同一であるのならば、安堵してもよさそうですわね」
 嘘ではないが、真実ではない言い方にセシリアも安堵する。
それはイギリスの貴族の顔でも、代表候補生の顔でもなく、年相応の女の子の表情だった。
(しかしまるで、探偵みたいだな……って、彼女はイギリス人だっけか。って事は)
 そんな彼女に、将隆は某イギリス人作家が生んだ世界一の名探偵を連想したが。
思考パターンがだんだん一夏と似てきているのだが、幸か不幸か当人は気づいていなかった。


「しかし君らも、もう少し引いた方が良いんじゃないのか?」
「ど、どういう事ですの?」
「いやな。傍から見てると、一夏が閉口している部分もあるんじゃないかと思うだけだ。……ぁ」
 言い終えて、不味い事を言ったかと後悔した将隆だが。セシリアの顔は、さえなかった。
「安芸野さん。貴方の仰られる事も、一理あると思いますわ。
ですが、あの中で一夏さんと過ごした時間が一番短いのはわたくしですし……」
「……あー、そうか。そうだよな」
「たとえば一夏さんの考えている事が、お二人は言わずとも解る事がありますのに。
わたくしはまだそこまで達してはおりませんし……」
 残る二人が共に幼なじみであるのに対し、セシリアは今年の四月に一夏と出会った。
色々と思い出深い出来事はあったのだが。それでも、ライバルに対するコンプレックスが存在していたのだった。
布仏本音の一件で一夏が考えたくだらないギャグに、唯一反応できなかった事も尾をひいているようである。
(それなら残りの二人は、自分の居場所が取られそうで怖くてあそこまでアグレッシブになってるのか? 俺だと――)
 自分だと、と考えた時点で、わりと洒落にならない想像になってしまった将隆はそれを慌てて排除する。
そんな自身をやや不思議そうに見るセシリアに対し、将隆は慌てて話題をそらす。
「し、しかし、信じられないな」
「何がですの?」
「いや、聞いた話だが。オルコットは、入学したばっかりの頃は一夏とえらい剣幕で喧嘩したって聞いたんだが。
とてもじゃないが、今からじゃあ想像も出来ないって思っただけだ」
「そうですわね、それも当然だと思いますわ。……私の思い込みを突き崩してくださったのが、一夏さんですから」
 入学当初の事、そしてクラス代表決定戦の事を思い返し、かすかに微笑むセシリア。
その表情には思いだした過去への恥じらいと、それを突き崩してくれた一夏と出会えた喜びがありありと表れており。
その美しさは、金髪美少女にはクラスメート達で慣れている筈の将隆すらドキリとさせるほどの魅力を持っていた。


「では、ごきげんよう。ご意見、ありがとうございました」
「ああ、役立ったのなら俺も嬉しいよ。じゃあ」
 笑顔で手を振りながら去るセシリアを見送る将隆。そのまま踵を返し、自室に戻ろうとして―― 
「――将隆君」
「あれ、ゴウか。どうしたんだ?」
 まるで入れ替わるように、男性操縦者の一人・ゴウと出会った。
自分とゴウはそれほど親しいわけでもないが、不仲というわけでもない。そんな感覚を彼は有していた故に反応も普通の物だが。
「いや。どうやら君の部屋にセシリア・オルコットさんが来ていたようだが。
ただイギリス代表候補生の彼女が、何故、君の部屋に来てまで話しかけていたのかと気になってね」
「別に、大した事を聞かれたわけじゃない。――ちょっとお前には話せないことだな」
「ほう。……俺には言えない事かい?」
「別に、わざわざ喋る事じゃないって事だが」
(流石に、言えないだろ……。こいつはシャルルの正体を知ってるらしいが、なあ)
 これがもし、男装少女関連の事であれば将隆はゴウにも話したかもしれないが。
セシリアの恋愛絡みとあっては、そう易々と教えるわけには行かなかった……が。
「……調子に乗るなよ、イレギュラー」
 その途端、空気が一変した。
「は?」
「忠告しておこう。――彼女『達』には近づかない事だ、不相応という奴だからな」
「どういう意味だ? ……お前、そっちが本性か?」
 ゴウの口調と目つきも一変する。将隆は合同授業などで彼の人柄を知ったつもりでいたが。
それが、表層的なものだったと否応無しに気付かされる。
「織斑一夏ならともかく、突然変異であるお前やあのガキに『主役』は務まらない。せいぜい、今を楽しむ事だな」
「……」
 好き勝手に言われた将隆だが、怒り等よりも、まず困惑がその顔に現れた。
目の前の相手が、何を言っているのかよく解らない。自分への敵意はあるようだが、その理由がわからなかった。
「――まあ、今のお前には理解できなくても仕方がないだろう。遅くとも、今年の秋には理解するだろうが、な」
「……何なんだ、一体?」
 そしてゴウは、現われた時と同じく唐突に去る。後に残されたのは、困惑する一人の少年のみ。
その将隆には、相手が自分には想像も出来ない悪意を持っている事など知る由もなかった。




「……」
「宇月さん、何か良い事でもあったの? 顔が綻んでるけど」
「うん、少し……ね」
 相川さんに指摘されたとおり、私にとって昨日はとても良い事があった日だった。
――そして私は、それが起こった夜の一幕を回想する。


 昨日の午後九時。私は黛先輩達や虚先輩達に見守られ、リヴァイヴの整備をしていた。
コアありで、データは三年の田先輩。既にアリーナの使用時間は終了している為、織斑先生に許可を貰っての特別講習。
……これらだけで普通の整備の訓練じゃないのは解っていた。そして、緊張の時間が終わって整備終了となり。
『これならば、良いでしょうね』
『そうですねえ。うん、香奈枝ちゃん。貴女を、学年トーナメント用の整備課補助に正式に任命します!』
『……え?』
 緊張がまだ続いていたせいで、少し理解するのが遅れたけれど。黛先輩の言葉が、少しづつ脳裏に染み渡っていき。
『……本当ですか? わ、私で大丈夫ですか?』
『ええ。整備課補助の事は、話したわよね?』
『はい』
 整備課補助。それは、一年生限定の単語だった。一年生の整備課志望者の中で数人を選び、二・三年生の補助に当てる。
学年別トーナメントのような行事に協力し、経験と実績を積ませるのが目的だ。
いうなれば、整備課にとってのエリートコース、選抜コースとでも言うべきもの……って以前、先輩達が言っていた。
『よしっ……!』
 私はその時、ひそかにガッツポーズをした。……少しだけ、夢に近づけた気がしたから。
あの時にみた、白い天使のようなものを自分の力で作り上げる。そのゴールに、少しだけ前進できたからだ。
『これで五人目確定、ですねー』
『ええ。今年はやや早いですが、優秀な娘が多くて助かりますねえ』
『……その中にあの子を入れていいものかどうか、悩むのだけど』
『いや、あの娘も結構頑張ってるじゃないですか?』
 ……五人? フィー先輩の言葉に出てきた単語は、少しだけ引っかかる。
『あの。残る三人って、どんな娘なんですか?』
 私と同じく、整備課補助に選ばれたという三人の事が気になって尋ねてみる。
私が五人目ならば残りは四人なのだけど、虚先輩の言葉からして間違いなく彼女――本音さんが入っているからだ。
『私も、一人しか知らないけど……三組の、戸塚留美(とつか るみ)っていう娘よ』
『成績を見た限りでは、かなりの優秀な生徒のようです。言うなれば、貴女のライバルになりうる一人ですね』
『……』
 先輩達の言葉に、私は初めて『ライバル』という存在を意識した。
本音さんは、その雰囲気と、何かと一緒に行動した経験からかライバルだという意識はあまりなかったけれど。
この学園にきて、初めてそういう存在を意識した……のかもしれなかった。


「よし、全員揃っているな? では、HRを始めるぞ」
 おっと、いけない。いつの間にか織斑先生達が来ていた。回想に耽っていても、ちゃんと反応できないと大変な事になるし。
……これって、環境に適応しているって言うのかしら?
「さて、まずは今度行われる、学年別個人トーナメントについてだが。変更点があったので伝達する」
「変更点、ですか?」
「ああ。まず、参加形式が任意参加から強制参加に変更された。つまり、この学園に在籍する生徒は基本的に全員参加となる。
そしてもう一点。本来ならば個人トーナメント形式だったが、二人一組での参加に変更になった」
 その日のHRは、そんな一言から始まった。皆の目の色が変わる中、告げられたのは――かなり大きな変更点だった。
つまり今度のトーナメントは。任意参加の個人戦から、強制参加のタッグマッチへと装いを変えたということになる。
……あれ? 強制参加って事は、私も出なくちゃ駄目って事? ……うわ、どうしよう。
「静かにしろ。まだ話はあるぞ」
 その途端、変更にざわめいていたクラスが一瞬で静かになる。……まあ、当然だけど。
「さて。学年別トーナメントに関して、くだらん噂が流れているのは殆どの者が知っているな?」
 その言葉に、クラスの殆どが固まった。織斑君辺りは、何の事か解ってないだろうけど。
「内容に関してはここでは問わない。……だが、それを私が許すと思うか? それをよく考えた上で噂を流すべきだったな」
 その時、教室の気温が五度は下がったような気がした。私は噂はどうでもいいのだけど、先生に喋った張本人なので少し心苦しい。
「え、何なんだよ噂って?」
「人の意志を無視した、下らん噂だ。まあ、モチベーションを高める一因にはなっているようだし、我々も鬼では無い」
 思わず『え? 織斑先生は鬼じゃなかったんですか?』と思ってしまい、慌ててソレを打ち消した。……だって、睨まれたし。
「今年は色々と面白い人材も多い。よって、今回のトーナメントには特別ルールを設けることにした。
各学年のトーナメント優勝者の全員。つまりは三ペア六名の希望を、学園内に限り叶えてやる」
 え?
≪えええええええええええええええええええっ!?≫
 その時、一年生の――いや、学園すら揺るがすような大音響が響いた。……皆、同じなのだろう。




「先生。そ、それって何でも良いんですか?」
「それは、流石に問題があるような気がするのだが……」
「学園内に限り、そしてあまり無法かつ他の生徒の権利を損なわない範囲での事だが。
例えば専用機が欲しい、と言っても『学園側から』与えてやる事は出来ない。
ここにあるのは教員用と生徒の訓練用だけだから。……まあ、優勝すれば自動的に世界中から注目を浴びるから必要は無いわよ」
 喧騒する三組の空気を切り裂いたのは、ライアンとニーニョ……アメリカとスペインの代表候補生コンビだった。
しかし新野先生は、事も無げに言い放つ。……マジか。
「せんせーい。たとえば、苺のデザート『三年間』食べ放題とかでもOKですかー?」
 こう聞いたのは苺好きのアウトーリ。いかにも彼女らしい質問だが、そういえば期間はいつまでなんだ?
「その場合、三年間は無理だね。来年――君達が二年生に進級するまでが期限だ。
他の願望に関しても、期間は最大でその学年が終了するまで。三年生ならば、卒業までとなるかな」
「なるほどー。燃えてきた~~!!」
 そういうわけか。……それにしても。
「千冬お姉様と同室、千冬お姉様と同室、千冬お姉様と同室……」
「銃弾使いたい放題、銃弾使いたい放題、銃弾使いたい放題……」
「ISマ改造許可、ISマ改造許可、ISマ改造許可……」
「ネット制限解放、ネット制限解放、ネット制限解放……」
「風呂場へのカメラ持ち込み許可、風呂場へのカメラ持ち込み許可、風呂場へのカメラ持ち込み許可……」
 欲望が駄々漏れなクラスメート達。それが許されるわけないだろ、というのもある。もっとも、一番やばいのは……。
「ハーレムのチャンスがこんなに早く回ってくるとは……本国に言って、最強装備をまわしてもらわねば!!
よし、今日から特訓の日々だ!! 見せてやるぜ、ドイツ男子の底力ぁぁぁぁ!!」
 言ってる事は(最初を除けば)まともだが、明らかにイケメンが台無しな表情のクラウスだろう。
うん、警察に連絡したくなった。いや、ここだと警備員か? まあ、どっちにせよ危険人物なのは間違いないが。
「よし将隆、男同士で頑張ろうぜ。女尊男卑の世の中に、男同士の力を見せてやろう!!」
「え?」
 と思ったら、いきなりがっしりと手を掴まれた。こ、こいつ、俺とペアを狙ってたのか!?
いや、確かに俺はこのクラスで唯一、ISの専用機を持っている人間だが。ここまであからさまだと、もはや何もいえない。
「ああ、ちょっと待ったブローン君。実は……」




「専用機持ちについてだが。――勝手にペアを作る事を禁じる」
「「「……え?」」」
 一組の専用機持ち三人の声が、同調した。一人は全く気にしていないので、同調していない。
……誰なのかは、言うまでもない事だけれど、流石にこれは抗議をせざるを得ない。
「ど、どういう事ですの! わ、わたくしは……!!」
「話を最後まで聞け、オルコット。お前たちにはタッグを希望する相手を用紙に書いて提出してもらう。
専用機持ちとのタッグを希望する者も、同様だ。希望者多数の場合、ランダムによる抽選とする」
 え?
「せ、先生! それではわたくし達、専用機持ちの選択の自由はどうなりますの!?」
「クロトーに関しては、お目付け役である一場に一任する。他の者に関しては、今言ったとおりランダムだ」
 ……つまり、希望する自由はあっても決定の自由はないという事?
「例えばオルコット、お前の名前を誰かが書く。だがそれは、おまえ自身の希望と一致しない限りはタッグを組めないという事だ」
「先生。例えばAさんがBさんを希望して、BさんがCさんを希望して、CさんがAさんを希望したらどうなるんですか?」
「三竦みか。その場合、三名の内の誰かの希望がランダムで選ばれる事になる」
 デュノアさんの的確な質問への回答も含めて考えると、あくまでランダムらしい。くうう……な、何という事!!
「さて――織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ。希望者の名前を今すぐ書け」
「え、もうかよ!?」
「専用機持ちに関しては、話し合いは認めん。凰、安芸野、更識、ドイッチに関しても今書かせている。
ただし、先ほど言ったように二組のクロトーのみは同じ組の一場とのペアが確定している。
この二名の名前を書いた者は無効となるので、注意しておけ」
「先生。今、三組のブローン君の名前がなかったんですけど……」
「ああ、そうだった。三組のクラウス・ブローンに関しては、ドールが専用機である為に例外だ」
 という事は、鈴さんもわたくしと同じ条件……。
「――教官、質問があります」
「何だ、ボーデヴィッヒ」
「タッグマッチという事ですが、私は単独での参加を希望したいのですが。この学年から選抜されるパートナーなど不要です」
「――馬鹿者。お前は、いつでも自分が認められるレベルのパートナーと組めるとでも思っているのか?
自分よりも力量の劣る者へのサポート技術も身に付けろ。私は、常に自分一人だけで戦え……などと教えた覚えは無いぞ。
それと、私の事は先生と呼べと言ったはずだが? お前がそういう言い方が癖になっているのも理解できるが、修正しろ」
「……了解しました」
 あまりにも自己中心的な質問に、織斑先生は怒る――かと思ったら、意外にも平静に対応する。
馬鹿者、とは口にしたけれど、その顔にも怒りとは別種の感情が浮んでいた。……私にも解るほど、明確に。
「先生、私も質問があります」
「何だ、レオーネ」
「私達が専用機持ちの皆とペア希望を出す場合なんですけど。○○さん、とかじゃなくて。
『専用機持ちの誰か』とか『一組の専用機持ち』みたいに、不特定の人物を示唆するような書き方だったらどうするんですか?
それと『○○さんか、あるいは△△さん」みたいに二人以上の名前が書いてあった場合はどうなるんです?」
「ふむ。まず不特定の人物の場合だが、その場合も、有効ではある。だが特定個人を欠いた場合よりは劣る。
二人以上の人物が書いてあった場合は、無効票となる」
「例を挙げると『一組の誰か』よりは『○○さん』って書いた方がペアになりやすいって事ですね」
 レオーネさんの質問に山田先生も補足し、皆が納得の表情になる。
そして私達四人は用紙を渡されて、それに記入する。私の希望する相手は勿論……。
「ふむ。なるほど、な。……では他の者も専用機持ちとのペアを希望する場合、それを明後日までに提出する事。
他の生徒と組む場合は、五日後までに両名の氏名を記入の上で提出しろ。どちらも、期限後の提出は認めん。
なお提出しなかった者や無効票となった者は、残った者同士でランダムに組まされる事になるのでそのつもりでいろ。
心変わりした場合や不明な点がある場合は、担任または副担任まで申し出ること。――以上だ!!」
 そしてわたくし達四人の用紙を回収し終え、HRは終了した。
その直後に授業が始まったけれど、やはりクラス中が何処か落ち着かない雰囲気に包まれていた……。




「……」
 一夏や他の専用機持ち達も同じ用紙を書かされているであろう中。あたしはまだ、考え中だった。
希望する相手は、言うまでもなく一夏。……あいつがあたしを選んでくれないかな、とも思ったけど止めた。
あの唐変木には、そんな期待はするだけ無駄だ。同じ男子って事で、デュノアや安芸野辺りの名前を書きそうな気がする。
 まあ単純に力量だけを考えれば、一夏以外の専用機持ち――たとえば一組のセシリア辺りを狙うのが良いだろう。
他の連中はまだ未知数だけど……あのゴウ、とかは男子は強そうだ。四組の更識や三組のもう一人の男子を倒したらしいし。
それに、さっき先生が言った『希望を叶える』っていうのも加味しないとね。例えば、一夏と同室……なんてのも可能だろう。
今はデュノアと同室だけど、箒という前例があるし、学園内に限られる事だから不可能じゃないはずだ。
デュノアは……仲が良いっていう話のドイッチと同じ部屋にすれば、それほど問題は起きないだろうし。
本当は一夏を二組に引っ張りたいんだけど、それは『あの人』が許してくれるとは到底思えないし。
「……でも、パートナーが何を願うかも大事よね」
 たとえばセシリア辺りは実力もあるだろうけど、あたしと願い事が重なりそうなのでそういう意味ではアウトだ。
とはいえ、優勝しないと元も子もないわけだし……。
「……」
 そして、さっきからあたしを見るクラス中の視線が痛い。一場やロブにも専用機が来て、注目度が高まった。
だけどあの二人でペアを組むことが既に決まっているらしいので、このクラスの専用機持ちは結局あたし一人だけ。
「……はあ。しょうがない、かあ」
 あたしは用紙に『二組の生徒』と書き。そして提出するのだった。


「ねえ鈴、誰の名前を書いたの?」
「あたしの名前? それともアナルダ?」
 最初の授業が終わった途端、皆が集まってきた。まあ、解らないではないけどさあ……。
「秘密よ。まあ、あたしも二組のクラス代表だから【二組の生徒】を書いたけど」
「えー、誰よ?」
「教えてよー」
 今、正解を言ったんだけどね。まあ、実際ティナやアナルダやエリスや恵都子……友人の誰の名前を書いても角が立つし。
複数の名前を書いていたら駄目だっていわれてたから、仕方がないし……。
二組唯一の専用機持ちで注目の的であるあたしは、ああ書くしかなかったんだけど。
――いや、正確に言うと一人だけ『二組の生徒』で注目を集める娘がいたっけ。
「ねえファティマ、私と組もうよ!!」
「チャコンさん、私と組んでくれませんか?」
 アルゼンチンの代表候補生、ファティマ・チャコン。彼女も、何人かの生徒からタッグを申し込まれていた。
一場やロブとの戦いでは負けてしまったとはいえ、あれは結構、皆の評価を上げたようだ。
……ん? ひょっとして千冬さんがあの二人の相手にファティマを指名したのって、まさか……?
そしてクラスを眺めれば、色々とトーナメントに向けての話し合いが進んでいた。
「フーン……。コラリーはデュノア君に望みを託すわけデスカ?」
「うん、やっぱり確率は低くても彼って強いし。同じフランス人だから、少しは打ち解けられやすいだろうしね。モイラは?」
「私は、一年生で最強の『あの人』カナ?」
「あの人、ねえ……モイラっていっつも本心は隠すよね。その喋り方だって、わざとだし」
「さて、どうでしょうネ? まあ、私はルール無用の女ですノデ。ルームメイトであるコラリーであっても、容赦しませンヨ?」
「あはは、お手柔らかにね」
 ……。
「ねえ美優はどうするの?」
「一応、専用機持ちとのタッグ希望は出すけど……駄目なら駄目で、別の手を考えるしかないよ。
先輩が専用機に普通のリヴァイヴや打鉄に勝つ事だって、不可能じゃないって言ってたし」
「前向きねえ。私は、出来れば篠ノ之さんとか三組の戸塚さんと戦いたいんだけど」
「え、どうして?」
「あの二人、去年の剣道の全国大会の覇者とベスト4だもの。打鉄で、あの二人と剣の勝負が出来たら最高ね。
特に戸塚さんには準々決勝で敗れたから、その時の借りを倍返し――とまではいかなくても返したいし」
「ああ、なるほど。……お互い、全力を尽くしあえると良いわね」
 あっちでは、フランス出身のコラリー・トローとイギリス出身のモイラ・パークが何か話し合っている。
他にも、夢はISで宇宙進出だって言ってた、クラス一の頑張り屋タイプの真田美優(さなだ みゆう)。
そして剣道部所属の西木香穂(にしき かほ)が互いに抱負を語り合っていた。
……皆、それぞれ思う所はあるんだろうけど。あたしも、それは同じ。首を洗って待っていなさいよ、一夏!


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