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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 明けない夜はない
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/18 08:33
祝! 更識楯無&簪の声優決定・OP&ED決定・ゲーム化決定・新エピソード「一夏の思い出」発売決定!!
最近ますますISという作品が動き出していて楽しみですね。……おいていかれないようにがんばりたいです。




「ねえクー姉。何で昨日、途中で帰ったの?」
「……少し、用事があったからですよ。何度目ですか、その質問は」
 1024号室では、ロブが久遠に質問を続けていた。だが、返ってくる答えは同じ。
「そんな事は考えなくてもいいのです。それよりもロブ、貴方は――だれですか、こんな朝早くから」
 ノックの音に言葉をさえぎられ、ドアへと向かう。無視しても良いが、今の彼女は微妙な位置にいる。
その現状では、相手が誰であれ少しでも自分達にマイナス感情を抱かれないようにしなければならない。
渋い顔で、ドアに向かうしかなかったが。
「――どちら様ですか?」
「安芸野……将隆だ」
「安芸野、君? ……少し待ってください、今開けます」
 意外すぎる訪問者に、そんな事も忘れて開けてしまう久遠。
……そこにいたのは、紛れもなく二人目の男性IS操縦者で。そして二人の昔馴染みの、安芸野将隆だった。
「よう、久遠、ロブ。おはよう」
「おはようございます。どうしたのですか。こんな朝に……というか、この部屋に貴方が訪ねて来るなんて、初めてですよね?」
「ちょっと、な。俺も色々あるんだよ――っと」
「マサ兄、おはよう!! 遊ぼう!」
「よし。じゃあ、久しぶりにトランプでもするか? まあ、今から学校だから放課後にな。二人だとやりづらいし、久遠もやろうぜ」
 無邪気に飛び掛ってくる弟分に、将隆の表情も緩む。だが久遠は、それを喜べない。
「……安芸野君、困りますね。昔馴染みだとはいえ、ロブは――」
「ロブは、まだガキだろ。そりゃあ、世界でも五人しかいないISを動かせる適性を持ってる男だけどな」
「ですから――」
「だからといって、遊んじゃいけないなんて事はないだろ。俺達はいるけど、いきなり日本までつれてこられたんだしな」
「……変わりましたね、安芸野君も」
「そうか? まあ、三組の連中って一筋縄ではいかない連中ばっかりでな。油断するとすぐに巻き込まれるんだ。
この間なんて、ステーキと焼肉の違いからクラス中が二分されて大変だったんだぞ……」
「なんでそうなったの、マサ兄?」
「ああ、発端はな――」


「んじゃあ、俺はここで。久遠、ロブ、またな」
「ばいばい、マサ兄!」
「では、また」
 何だかんだで会話をしつつ教室にやってきた三人だが、将隆のみはクラスが違うので別れる。
数少ない男子生徒達と一緒である事、そしてロブと将隆が人目も憚らずに話している事で注目を浴びていた為。
久遠は、ようやくこの時間が終了することに安堵し……自らも気づかないレベルで、残念に思っていた。
「――久遠」
「……な、何ですか?」
 だからこそ、その返事にはタイムラグが生じる。何事も無かったように受け流そう、そう思った瞬間。
「俺もロブも、何でISを動かせるのかわからないけど、何の偶然か知らないが、また会えたんだ。――仲良くやろうぜ」
 自分に優しく話しかける正隆を見て、久遠はやけぼっくいに火が付くのを感じた。
――そして、そんな光景を目撃したファティマ・チャコンにより久遠が二組女子の話題の中心に上るまで、あと1分足らずだった。




「――ああ、俺だ。頼んでおいたモノは出来たのか?」
『ああ。とっくに済んでいるよ』
「奴らには、気づかれたのか?」
『いいや。金を握らせたら、二つ返事だったさ』
「そうか、ではこちらも準備を進めよう」
 自室で秘匿回線を使い喋っている男子生徒――オベド・岸空理・カム・ドイッチ。ちなみに使用しているのは、フランス語である。
相手はフランスのIS企業であり、ゴウのIS・オムニポテンスの製造に関わったレゾン・レーブのアジア支部長。
ゴウよりもかなり年配の人物なのだが、敬語はない。
『大丈夫なのか? 上手く釣りあげられそうなのか』
「心配は無用だ。たとえるなら、何処にも居場所がなくて尻尾を振る犬だからな」
 そういうと、この学園の誰も知らない笑みを漏らす。ふと『奴ら』と形容した存在を思い出したが。
(やっぱりこの世界の連中は何処も無能だな。まあ、こんな下らない世界なんだ、当たり前か)
 ――ふと、机に置いたチェス板に目を落とす。そのチェス板では、黒の王が白の騎士に次手で刈り取られる位置にいた。
「まずは一人目が網に入る。……さて、次はどうするかだな」
『二人目以降は、あまり上手くいっていないと聞いたが?』
「大丈夫だ。少々てこずるが、所詮は頭にバニラエッセンスがつまっているような親無しの貴族の小娘。
それと人工合成された遺伝子で作られた(視覚障害者への酷すぎる差別用語のため、掲載不可)モドキだからな」
『……そうか。モブでいいから、数人ほど活きのいいのをこっちにくれ。アレにも、人間がいるんだ』
「ああ。心当たりはないわけじゃない、当たってみる。甘言を使えば食いつく雑魚もいるだろう」
『そうか。では――』
「ちょっと待て、来客だ。――中断するぞ」
 通信を中断し、ドアを開ける。誰か、という誰何の声はない。ゴウには、解っていたからだ。
「やあ、シャルル」
「ゴウ、こんにちわ。――また、シャワーを使っても良いかな?」
「ああ。朝は洗面や歯磨きなどもあるから、ゆっくりと使うのは難しいだろうからね。――存分に使うといい」
 それはシャルル・デュノア……彼の『獲物』の一人だった。完全に、彼への警戒を解いている。
「そうだ。――昨日、君用のシャンプーをあちらから送ってもらったから使うといい」
「え? ……だ、大丈夫だったの?」
「"プレゼントをしたい同級生がいる"と言っただけだ。……嘘はついていないだろう?」
「ふふ、そうだね。……ゴウって、結構悪い人なのかな?」
「さて、ね」
「……じゃあ、ありがたくこのシャンプーを使わさせてもらうね」
「ああ」
 笑顔でシャワー室に入るシャルル。……だが、同じく笑顔だったゴウは扉が閉ざされると共にその笑顔を消す。
「……俺だ。……“シャル”がシャワーを使いにきた」
『ほう。じゃあいつもどおり、送ってくれよ』
「ああ」
 そういうと、ゴウは端末を操作して『今現在の』シャワー室のシーンを映し出す。
……そこに映る人物は、そんな事など夢にも思っていない。自らの秘密を文字通り脱ぎ、そのすべてを曝け出している。
『じゃあ、こちらに呼び寄せた後は……こいつの出番か』
「ああ。学園から連れ出せば、後はこちらの物だ。フラグは潰しておくから、そうそう発覚はないだろう。
最悪の場合、夏休みまでに引っ張り込めればいい。騒いだなら、この画像で脅せばいい」
『あとは適当に事故死報道でも流せばいいか。欧州連合には、正式に正体を伝えておけばいい。
そうすればデュノア社は転落、レゾン・レーブが後釜に座るってわけだ』
「そういう事だな。骨の髄まで、役に立ってもらおう」
『……やれやれ、哀れなもんだな。気がつけば絹の檻の中、とは』
「どうせ妾の子供だ。生まれが生まれなんだから、元々ロクな人生を送る予定じゃなかったさ。
せいぜい、そのIS操縦者としての力量を活かさせてもらうとしよう」
『後は、ベッドの上で――だな。ぐふふふふふふふふ……』
 フランス語が解らない者にさえ嫌悪感をもたらすであろう哂いをもらすレゾン・レーブのアジア支部長。
だが、それと同種であろうモノをゴウも浮かべていた。
(偽造戸籍も作り上げて“シャル”を囲う準備も出来た。この為に待ったんだからな)
 本来ならば、もっと早く――IS学園に来る前に確保したかったのだが。
ゴウ自身の影響力がまだまだ小さかったことや、何故“シャル”なのかを理解させられずにいたために無理だった。
ただの『デュノア社の社長の子供』を強引に得ようとするメリットが無かった為、グループレベルでは動けなかったのだ。
――だが、今は違う。フランスの国家代表候補生レベルの腕の持ち主であり、ラピッド・スイッチを15歳で取得している操縦者。
それが白日の下にさらされたため、カコ・アガピのグループ上層部でも“シャル”を得る事が重要視された。
だからこそ今、その姦計が発動しつつあったのだった。そして、後は釣りあげるだけ。
信頼を得て、夏休み中にフランスに帰国させ。そして、IS学園を『休学』させて秘密裏に囲う。
問題は、学園が何処まで“シャル”の実情をつかんでいるのかという事だったが。
「あんなクソサマーに惚れても、どうせ不幸だ。ならば俺が得た方が、幸せだからな」
 まだシャワーを浴びている映像を見つつ、先ほどと同じ笑いを浮かべる。
「さて、トーナメント前までには仕留めたい所だがな。――チェックメイト、だ」
 そういうと、先ほど見たチェス盤の白の騎士を動かし、黒の王を盤から落とす。そして登校の準備を始めるが――。
自身の手が、チェックメイト(完全捕獲状態)ではなくチェック(次手で取れるが、防がれる可能性のある状態)である事には。
黒の僧正が、白の騎士を刈り取る事により無効とされる事には気づかないままだった。




「……よし、今日は余裕を持っていけそうね」
 整備室へ急いでいた私は、時計を確認して一息つく。放課後の訓練を始めて結構な期間になるけど、移動時間は重要だ。
何でもそうなんだけど、時間を守るっていう事は重要だし……う、以前授業に遅刻して叩かれた頭が痛い。
「ちょっとそこの貴女、いいかしら? 貴女が宇月香奈枝――よね?」
「え?」
 振り向くと。そこにいたのは、セミロングの髪を持つ先輩だった。リボンの色から察するに、三年生。
外側に撥ねた髪の毛と、リスみたいに人懐っこそうな表情をしているけど……見覚えは無い。
「篠ノ之箒、っていう娘について聞きたいんだけど。良いかしら?」
「篠ノ之さん、ですか?」
「そう。貴女は彼女の隣室だったし、色々と親しいって聞いたんだけど」
 今なら、同室の鷹月さんの方が親しいような気もするのだけど……。でも、何で篠ノ之さん?
「彼女、織斑君と訓練をしているって聞いたんだけど。ISを借りられない日は、何をしてるの?」
「剣道をやってるみたいですよ。入部したとか聞きましたけど」
「そう。博士から、何か貰ってたとかいう事は無いの?」
「……私の知る限りでは、ありえません」
 関係ない、と言った以上は多分、そんな事はないだろう。それにしてもこの先輩、何か妙に敵愾心があるような……?
「貴女は、どうなの? ずるいとか、思わなかった?」
「ずるい、ですか?」
 え、何で?
「専用機持ちでもないのに、彼と親しくしている彼女が……ずるいとか思わなかった?」
 ああ、そういう意味ですか。
「いえ、別に。そもそも私だって、織斑君達と仲良くしたいけど出来ない娘から見たら……
『中学の同級生だからってずるい』って思われてるかもしれませんし」
 流石にこんな事を言われたことはないけれど。まあ、少なくとも篠ノ之さんに対してそういう感情を持つわけはない。
というか、むしろ離れたい。最近は、デュノア君のお陰でとても助かってるけど……。
「へえ。流石は『織斑一夏グループのストッパー』ね……って、どうしたのよ? 芸人みたいにこけたりして」
「……」
 あの話は、どうやら三年生にも伝わっているらしかった。……人の噂も七十五日っていうけど、早く消えてほしい。
「別に、ストッパーってわけじゃないんですけど。それと先輩、どうしてそんな事を私に聞いたんですか?」
「え?」
「いえ。織斑君のことやデュノア君の事ならともかく。何で、元ルームメイトの篠ノ之さんの事を聞くのかなあ、って」
「……それ、言う必要があるの?」
 不味い事を聞いてしまったのか、先輩の目が細くなる。……でも、恐怖なんてない。
これでも、織斑先生の怒りや更識会長の(偽)殺気を受けているから、この位は平気。……あれ、何か涙が出てきそう。
「……ふうん。アンヌが言っていた通り、肝の据わった娘ね」
「え? 何か言われましたか?」
「いえ、別に。――ごめんなさいね、変な事を聞いて」
 表情を戻した先輩は、そういうと去っていく。……何だったんだろう? そういえば、名前も聞きそびれちゃったし。
「……あ! いけない、いそがないと!!」
 気がつけば、けっこうギリギリの時間だった。そして私は、その先輩のことはすぐに忘れてしまった。


「ふう……こんにちわ、黛先ぱ……い?」
 準備を整えて整備室に着くと、そこにいたのは黛先輩……と虚先輩だった。
「どうしたんですか、虚先輩。また何か……」
「ええ。今日は、宇月さんの現時点での腕前を見ようと思ってきました。
黛さんの指導で、どれだけ腕を磨いたのか。――検分させてもらいます」
 その時の虚先輩の表情は、とても厳しかった。傍らの黛先輩も、似たような表情。
「じゃあ香奈枝ちゃん。とりあえず、九重先輩のデータを使ってセッティングをしてみて」
「――はい!」
 私は、いつものように打鉄(コア無し)の整備に入った。……緊張はあるけれど、ここで無様な姿は見せられない!!


「まずは、全体像を把握して……セッティングの概要図を作って」
 今までに何度か見た九重先輩のデータだけど、今のが最新版。ややレベルアップしているようで、反応速度が違う。
そうなれば、セッティングも変わってくるから……。
「強度は……この位じゃないと、危険かも。ネジは……8番! それと、スラスター取り付け角度は……」
 いつもやっているように、やる。……ただそれだけなのだけど、そう簡単にはいかない。
先輩達の視線と、少しでも良い所を見せたいという意地(あるいは、虚栄心)がある。……落ち着け、私。
「……!」
 いつもは普通に取り扱っていたはずの潤滑油が指に付いたままで、それが原因で取り付けるはずだったネジが外れる。
だけど、ここでパニックになるのが一番駄目。冷静に、冷静に……!!
「……次は、装甲のカット!」
 飛び散る火花をスキンメット(ISのスキンバリアを元にした、頭部用のヘルメット+マスク)で完全に防ぐけど。
僅かなずれが許されない緊張で、手が震える。……!
「……出来ましたっ!」
 速度を落としかねない思考を無理やりに追い払い、セッティングを終える。……先輩たちの視線が、機体に向き。
「なるほど。この時期の一年生としては、十分ですね。これならば、大丈夫でしょう」
「ええ。学年トーナメント用の整備課補助候補生にエントリーしても良いと思うんですよ」
「整備課、補助候補生?」
 ……何でしょうかそれは?
「簡単に言うと、学年別トーナメントでの整備補助の募集です。私達整備課と共に、トーナメント参加者の機体整備を行います」
「まあ、香奈枝ちゃんは今でも実質整備課の補助メンバーみたいなものだけど。それを公式にやる、って所かしらね」
「そんなのがあったんですか……?」
「ええ。整備に関心の高い生徒に、一年の内から経験を積ませるためのシステムです」
「前にも聞いたけど、誰かの専門整備に付く気はないんでしょう? だったら、皆の整備を手伝って欲しいのよ」
「……」
 何となくだけど、先輩達が言いたい内容は理解できた。そしてそれは、私にとって絶対にプラスになるという事も。
「その整備課補助候補生の話……詳しく聞かせて下さい」
 私は、笑顔を浮かべる先輩達に、はっきりと宣言した。……何か嫌な予感もしたけど、それはスルーして。




「何なんだろうな、一体」
 俺が放課後、久しぶりに将隆達と訓練をしようとすると、千冬姉からの呼び出しがあって断らざるをえなくなった。
アリーナの予約を蹴ってまでしなければならない用事って、何だろうか?
「――失礼します」
「来たか、織斑。そこの談話室で客人が待っている、さっさと入れ」
「はい」
 職員室に入るや否や、そんな声。……誰なんだ? せっかく男同士の交流を深めようと思ったのに。
「失礼します」
「やあ。久しぶりだね、織斑一夏君」
 ……だけど、そんな考えは中で待っていた人を見た瞬間に吹き飛んだ。
「海原さん……う、海原さんですか!? お、お久しぶりです!」
 そこにいたのは、元IS日本代表専属メンタルトレーナー……つまり千冬姉を支えていたスタッフの一人で。
以前にも会った心理療法士――海原裕さんだった。あの時のようににこやかに笑い、お茶を啜っている。
「うんうん、元気そうで何よりだ。それにしても、大きくなったね。
成長期だから、当然かもしれないが。もう、丸二年……三年前くらいになるのかな?」
「そう、ですね」
「やっぱりそうか、若いというのは羨ましいね。――そういえば、今年の春は大変だったようだね。
私もニュースを見た時は、よもやと思ったよ。自分と知り合った少年が、世界中でニュースになっているんだからね」
「あ、あはは……。そ、それよりも。あの時は、お世話になりました」
「私は何もしていないさ。答えは元々、君の中にあった。私はただ、それを少し口にしただけだよ」
 その笑い方は、春の日差しのように暖かい。……あの時と、同じ笑みだった。
「あの、海原さん。千冬姉とは、もう会ったんですか?」
「ああ。相変わらず、弟思いのようだね」
 え……?
「そ、そうですか? いっつも叱られてばっかりですけど」
「ははは。厳しいのも相変わらず、か。――そういえば、どうだね。IS学園にはもう慣れたかい?」
「え、ええ。幼馴染み二人とか、中学からの同級生とかもいますし。最近は、男性操縦者も来てくれたし。かなり楽になりました」
「それは良かった。何でもそうだが、少数派というのは居心地が悪いものだからね。
特にこの辺りは、IS学園が近い事もあってか女尊男卑が結構大きい地域のようだし……」
「……そうなんですか?」
「ああ。地元の人間だと、案外と気付かないかもしれないが……結構大きいと思うよ?」
 そういうものだろうか。灯台下暗し、って奴か? 新聞じゃあいわないから、解らないだけだろうか?
「そういえば、先ほど食堂で洋食ランチを食べてみたのだが……いや、信じられないほど美味かったね。
いつもあんな美味しい物を食べているとは、ここの学生や職員がうらやましいよ。いつもあんな美味しい物を食べているのかい?」
 え、洋食ランチ? ああ、セシリアやシャルルのようなヨーロッパ出身者からの人気が結構高いメニューだな。
「ええ。俺のお勧めは、日替わりランチなんですけど……」
「ほうほう。それはどのようなメニューなんだい?」
 子供のように身を乗り出し、話を始める海原さん。……そんな姿に、三年前のことを思い出していた。




『初めまして、織斑一夏君。私は海原裕という者だ。よろしく』
『……あの、すいません。千冬姉から「ここに行け」としか聞いていないんですけど』
 それは、一夏の家の近くの公民館での会話だった。病院などでないのは、一夏のストレスを考えての事だが。
『なあに、大した事じゃないさ。――少し、モンド・グロッソの話をしてくれと頼まれただけだよ』
『!』
『ああ、名刺を渡し忘れていたね。――どうぞ』
『え、あ、どうも……。えっと、IS日本代表、専属メンタルトレーナー……え!? って、事は』
『ああ、君のお姉さんのサポートをしている者の一人だよ。……さて、と。まずは此方から話そうかな』
 互いの第一印象は『暗い影を背負ってはいるが、まだまだ大丈夫な少年』と『凄く落ち着いた中年の男性』だったが。
織斑一夏と海原裕は、そうして出会ったのだった。


『さて、一応、はっきりと言っておくが――。私も一応、あの一件については知っている』
『そう、ですか。じゃあ、あの事について……カウンセリングでもするんですね』
『いいや、別にそういうわけじゃない』
『え?』
『別に、話をしたくなければそれで良いさ。ただ、君のお姉さんが君の事を心配して相談に来たからこういう機会を設けた。
話してくれるのは構わないが、無理にとは言わない。何だったら、日本代表としての君のお姉さんの話を、私がしてもいい』
『ち、千冬姉の?』
 意外な展開に、一夏は少し身を乗り出した。――すでに、裕のペースに嵌っているとも気づかず。
『ああ。たとえば、そうだな――私はIS自体の事については門外漢だが、彼女の動きは美しいと思ったんだが。
君は、どう思ったんだ? 多くの人は絶賛するが、弟からの意見というのを聞いてみたいんだ』
『俺は……凄い、と思いました』
『そうか。しかし、人は見かけによらないとは彼女のことを言うんだろうなあ』
『え?』
『いや、女性スタッフのうわさなんだが……。私生活は、何とも、その……』
『あ、ああ……解ります。この間も、自分の下着をネットに入れてなくて、生地が痛んだ事がありましたし……』
 しみじみと事件を回想する一夏。……だが、それを聞いた相手の反応は違っていた。
『……そこまで酷かったのかい』
『え、ええ。……あの、日本代表としての千冬姉ってどうなんですか?』
(話を変えたね。……まあ、無理もないが)
 自分のペースにどんどん持ち込む裕だが、相手にそれを気取らせず。笑顔を絶やさぬまま、会話を続けていった。


『そうか。……やはり、怖かったのかい?』
『怖さよりも……情けなかったです』
『情けない? それは、どういうことだい?』
 気が付けば、一夏は第二回モンド・グロッソの事を自分から話していた。それは、彼の味わった最底辺の気持ち。
『俺は、千冬姉を守りたかったのに――それが』
『千冬さんを、か……? ――それは無理じゃないかな?』
『え?』
『いや。だって、彼女の力量は本気で人間離れしているぞ? 仮に私と彼女が一緒にいて、暴漢に囲まれたとしても。
私が一人倒すか倒されるかの間に、彼女が残る全員を、息も切らさず倒していそうだ』
『……そ、それはそうかもしれませんけど』
 はっきりと言い切られ、その言葉に納得し。倒れて呻いている男達の中心で、息も切らさず平然としている姉。
そんな姿を想像してしまい、一夏も顔を引き攣らせた。
『あ、今のはオフレコで頼むね? ……万が一彼女の耳に入ったら、本気で命が危ういから』
『は、はい』
 余談ではあるが、この後『変な事を喋らなかっただろうな?』と問い詰められた一夏はあっさりと白状『させられて』しまい。
裕が当人曰く【人生で四番目にピンチ】に陥ったりもした。
『まあ、それはさて置き。確かにIS操縦者でもある彼女を力で守ろうとするなんて無理だ。
だけど、力で守る事だけが全てじゃないはずだろう?』
『?』
『例えば私は、彼女の精神面をサポートしている。まあ、何処まで貢献できているのかは自分で言える事では無いけどね。
他にも暮桜の整備担当の人もいれば、彼女のトレーニングをサポートする人間もいる。その他にも、多くの人間がいるが。
皆……ISに乗るわけではないが、彼女を支えている。守っている、ともいえるだろう。――勿論、今の君もだ」
『お、俺もですか?』
『君の存在。それこそが、彼女がISに乗る理由なんだろうと私は思うよ。家の事は、たいてい一人で出来ると聞いているんだが』
『い、一応は』
『上出来じゃないか。私が君と同じ頃は、味噌汁一つ作れなかったぞ。
豆腐と油揚げの味噌汁を作ろうと思って、最初に味噌と油揚げと豆腐を同時に入れたのも、今となっては良い思い出だ』
『そ、そうなんですか……』
 冗談なのか本当なのか、対応に困る一夏。ちなみに、紛れもない事実である。
『守るべき者を得た時、人は強くなる……昔、そんな言い回しを聞いた事があるが。彼女は、まさにそうなんじゃないかな』
『……でも、俺は。千冬姉に頼ってばっかりで』
『ふむ、私としてはそこが気になるんだが。……千冬さんを頼って、何が悪いんだ?』
『え?』
『たとえば君が、一人立ち【出来る】にも関わらず千冬さんに頼っていたとすれば、それは批判されても仕方がないだろう。
だが君は、まだ未成年だ。誰かの庇護を必要とする年齢だろう』
『でも、俺は……!』
『――自惚れるなよ、織斑君。人は一人だけで何も出来るようには出来ていない。ましてや、君の年頃なら当然だ』
『……』
 やや強い口調に、一夏もうなだれる。もっとも、裕自身がそれを打ち消すが。
『それはさておき。確か千冬さんは、君を一人で守っていたと聞いているが……。その恩を返そう、という事かな?』
『は、はい』
『じゃあ、今はしっかりと勉強するなり、何かに熱中するなり、友達と遊ぶなり。楽しい学生生活を送る事だよ。
私は君にとって何が最善の道なのか、決める事は出来ない。君の未来に、どんな可能性があるのかは解らないしね。
――だが、君が今、一日一日を楽しく過ごす事が、彼女にとって最も喜ばしい事なんだと考えている。
それは、間違いじゃないと思うのだが……どうだろう?』
『……』
 流石に、はい、と言い切る事は出来なかったが。それは、間違いだと言う事もできなかった。
『まあ、その気概はいい事だよ。少なくとも、ただ他人に頼る事しかしない輩よりはマシだ。
そういえば君は、将来についてどう思っているんだ?』
『将来、ですか?』
『ああ。特殊な職業や、就業するのが極めて難しい職業なら、今のうちから学んでいた方がいいからね。何か、あるのかい?』
『……特には。一人立ちしたい、とは思ってましたけど。これ、とは決めてなかったです』
『なるほど、ね。まあ私がこの道を選んだのも、高校で心理学に興味を持ってからだ。今の君なら、それが普通だろう』
『やっぱり、今から進路とかを決めていた方が良いんですか?』
『まあ、決める事が悪いとは言わないが。だからといって、急ぐ必要もないさ』
『……』
『おや、どうかしたのかい?』
『いいえ。――千冬姉は、そんな選択の機会もなかったんだろうと思って』
 自分を育てるために、必死で生きてきた千冬のことを思い。拳を握り締め、歯を食いしばる。――だが。
『なら、彼女の分まで君が楽しく学生生活を過ごせばいい。――繰り返しになるが、それが、彼女の望みだろうからね』
『……』
 ちなみに、これが原因で、早く働いて自立したい→高校行かずに働こう、という方向に一夏の考えが向いてしまうのだが。
流石の裕も、これまでは予想外だった。


『どう、でしたか』
『ああ、あれなら大丈夫だよ。――貴女がドイツに行っても、きっと、やっていけるだろう』
『そう、ですか』
 面談が終わった裕を待っていたのは、弟の事で珍しいほど弱さを外に出している千冬だった。
むしろケアが必要なのは、彼女――というのが裕の判断である。
『……日本政府の方でも陰ながら護衛をつけるといってきているし、まあ問題はないだろう』
『本来なら、ドイツに連れて行こうかと思ったのですが……』
『それは止めた方が賢明だろう。引越し全般がそうだが、見知らぬ国への移住ともなればストレスも増大する。
あちらに永住するつもりならともかく、今の段階ではお勧めできないな。
調査によれば仲の良い友人もいるようだし、一人暮らしの方が、状況が悪化するリスクは低いと私は判断するよ。
学校などには、きちんと話をしておかなければならないだろうが……』
 だが、そうも言っていられない事情があった。――千冬が、ドイツに行く事になったのだ。
『出来れば、貴方のような人に一夏を預けられればよかったんですが……』
『すまない。日本代表のメンタルトレーナーを辞めても、仕事が詰まっていてね、私の家がこの辺りなら、それもよかったんだが』
『確か、海原さんのお住まいは九州でしたか』
『ああ。ドイツよりは良いかもしれないが、見知らぬ場所に連れて行くという意味ではそれほど差はないからね……。
私自身は単身赴任なんだが、そんな私に、よその子を預かれるほど時間の余裕はないし……』
 ちなみに、当時はまだ中華料理屋をやっていた鈴の家などに預ける事も千冬は考えたが。
万が一『二度目』があったときのリスクを考え、それらの選択肢は選ばなかった。
『では、ありがとうございました』
『いやいや。――そういえば、一つ思い出したことがあるんだが。
私の知り合いの用務員さんが、優秀な教師を探しているんだ。とても特殊な学校なんだけどね」
『教師、ですか』
『ああ。具体的には、自在に空を舞う機械を纏う競技で、世界最強になった女性を探しているんだが』
『……そうですか。では、ドイツに貰ったビールを飲み干したら考えてみましょう』
『よろしく頼むよ』
 その言葉を最後に、二人は別れた。千冬はドイツへ向かう準備のために。裕は、次の仕事のために。
二人が再び顔を合わせるのは、それから一年以上後になってのことだった。


「なるほど、ねえ。フランスからの男子というのは代表候補生で、デュノア社の御曹司だったのかい。
でもまだ、一般公開はされていないみたいだね?」
「はい。情報公開なんたらとかで……あ。そういえば、シャルル自身はあまり家の事には触れて欲しくないみたいなんですけど」
「ほう。何かあるのかもしれないね。それにしても、この写真……貴公子って感じの子だね」
「確かにそうですねー」
 一夏と裕は、シャルルの話題で盛り上がっていた。これも、裕がさりげなく誘導したのだが。
「俺よりも後から解った筈なのに、凄い優秀で。俺にトレーニングをしてくれるくらいなんですよ」
「それは助かるだろうね。君は、知識等はゼロの状態で入学したと聞いているし……」
「ええ。入った直後は、大変でした」
(私の方でも、一夏君がISを動かせるとわかっていたら、別のやり方もあったんだがね……)
 それは、裕の密やかな悔恨であった。勿論、神ならぬ身の裕に一夏がISを動かせるなど解るはずもないが。
「まあ、参考書を電話帳と間違えて捨てた俺が悪いんですけどね」
「うん、その通りだね」
 それはそれとして、一夏のミスは一刀両断する裕であった。


「おっと、もうこんな時間だな。……名残惜しいが、そろそろ終わりにしようか。何か、話しておきたい事は無いかい?」
「いいえ。じゃあ、俺はこれで失礼します。ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ。久しぶりに若人と話せて楽しかったよ」
 にこやかな笑みを浮かべる裕に見送られ、一夏は談話室を出た。……その瞬間、裕の顔が引き締まる。
「やれやれ、彼は相変わらず真っ直ぐだね。……好ましいが、危うい」
 両手の指をフル稼働し、一夏に対する自己分析と会話内容を自分の電子端末に打ち込んでいく。……次の客人もあるために。
「――失礼します」
「どうぞ」
 入力を終えた直後、一人の女子が室内に入ってきた。真っ直ぐに伸びた背筋、リボンで纏められたポニーテールが特徴的な女生徒。
「……お久しぶりです。海原さん」
「こんにちは、数ヶ月ぶりだね。――篠ノ之箒さん」
 その姿を認めた瞬間、裕の目が僅かに細くなったが。それに箒は気付かないままだった。



「へえ……国際IS機関のエージェント"閑雲"の海原さんでも、解りませんか」
「まあ、そうですね。織斑君と箒さんはともかく。千冬さんも、そんなに馬脚を出しはしなかったからね」
 その数時間後。生徒会室では『お近づき』の為と称して更識楯無と海原裕の茶会が設けられていた。
紅茶の芳しい香りが漂い、場を和ませる。――もっとも、話の内容は和む等という物とは程遠かったが。
「ああ……そういえば更識さんは、安芸野将隆君の事はご存知ですか? 今回は、会う時間が取れませんでしたが……」
「あら、彼とも縁があったのですか?」
「ええ、数度話をしただけですが。貴女は、彼との面識は――」
「ほんの少し、ですね。……それよりも、海原さんはIS学園に来られる気はないのですか?
貴方のような人がいてくれると、助かるのですけど」
 IS学園には、カウンセラーの登用も考えられていたが……。今はまだ、未着任の状態だった。
心理的に大きな影響を与えるカウンセラーの投入は『人材の進路誘導』にもなりかねない、という意見が某国から出た。
そして現状では、アラスカ協定参加国の全てを納得させる適任者を見つけられずにいるのだった。
そんな中『ブリュンヒルデ』織斑千冬の専属だったという肩書きと、国際機関の所属である裕は、適任……だったのだが。
「ははは、そうも言っていられないのが現状です。……エージェントとしての任務と、心理療法士としての仕事もあるので」
「そうですか。でも聞く所によると、最愛の奥さん――確か海原勇未(いさみ)さんでしたかしら? 
その人との時間はあると聞きましたけど。そちらを少々――」
「ふ……」
 その言葉を聴いた瞬間、裕の雰囲気が一変した。反射的に、楯無の視線も険しくなるが――。
「私は、妻へは“最愛”などという言葉では言い表せないほどの感情を持っている。もちろん、それでも間違いではないが。
『最』も『愛』す、というのは確かに適切な言葉ではあるし、もしも妻がいなくなったら、などと想像するだけで恐怖だ。
妻がいなくなるくらいなら、明日世界が滅んでも別に構わない。というか、妻がいなくなるなら滅べ世界とさえ思う。
妻こそは、私の太陽であり月であり大地であり海であり大気だ。なければ生きていけない、というか死ぬ。
つい三日前も休日を無理やり作って、愛の時間を28時間連続で過ごし、そこで勇未パワーを補充したからこそ、今生きている。
出来れば勇未からのメールや電話を聞きつつ仕事をしたいところなんだが、流石にIS学園では不味いから自重しているんだ。
出来れば勇未の為に、国の税金を惜しみなく使って作ったというIS学園の設備を余す所なく伝えたいが、それも自重している。
仕方がないから、この後、帰りに@クルーズでスペシャルクッキーセットを買って帰る事にしているんだ。
勇未はあのクッキーセットが大好物で、この間も買って帰ったら喜んで食べてくれたよ。
普段はキリッとした刀剣のような雰囲気さえ持つ勇未が、あの時だけは子供のような無邪気な笑顔を見せてくれるんだ。
そのギャップが、また可愛らしい。いや、ギャップという言葉ではあれを指し示すには語彙が足りないな。
二つの表情は共に勇未の本質であり、一面なのだから。そもそも――」
「あのー。そろそろストップしていただけるとうれしいんですけどー?」
 あまりにも豹変した口調と喋る量に閉口し、扇子を一際大きく音を立てて閉ざし、相手の言葉をさえぎる。
何かに憑りつかれたように喋り続けていた裕の口が、ようやく止まった。その顔は、興奮のためにやや紅い。
「これは失礼しました。私の癖でね、妻の事となると口が止まらなくなるんです。
一応、時と場合によっては自重しているのだが……。申し訳ない」
「いえいえ。それにしても、そこまで愛されるなんて……幸せですね。まるで、別人のようでしたよ」
「ふむ。しかしそういう君も、いざ人を好きになったら案外とそうなるかもしれないよ?」
「私が、ですか? ふふ、どうでしょうか」
 扇子を閉じたまま、霧のような笑みを浮かべる楯無。
この言葉を数ヵ月後、予想だにしない感情と共に思い返す事になるのだが。それは彼女自身、今は思いもよらぬ事だった。



 ……本当なら今回こそシャワーシーンを書くはずでした。しかし……うん、本当に話が進まない。
次こそは、シャワーシーンを書きます! ……多分。
裕と原作キャラのシーンはもう少し短くしよう……と思っていたはずなのに。気が付けばここまで長くなっていた。
これでも箒との会話をカットしたのに……解せぬ。


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