アニメ二期決定おめでとう! これでいよいよ動くミステリアス・レイディや打鉄弐式を見られますね!!
これでISのSSもまた盛り上がるといいですね。あの人とかあの人とかのSSの再開もあるといいなあ。
「安芸野。入るぞ」
ノックの音がしたので時計を見ると。最近、やたらと多くなった織斑先生の訪問の時間だった。
寮長と寮生という関係ではあるが、俺とあの先生には本来あまり繋がりは無い。では何故多くなったのか、といえば。
「今日は何処に潜んでました?」
「更衣室の換気扇の中だ」
その言葉と共に、顔面に殴られた痕をつけたルームメイト・クラウスが放り投げられた。
イケメンが台無しだが、多分すぐに復活するので問題ない。一夏の中学時代の友人にも、似たような復活の早い奴がいたらしいが。
「これで、風呂場覗きは何回目でしたっけ?」
「ブローンが他の連中と共に転入してきた日から数えた日数よりは多いな」
何故学園で過ごしてきた日々よりも風呂場覗きの回数が多いのかというと。休日は複数回も覗き(未遂)をやらかしたからだ。
前の日曜日には、一年生寮と二年生寮の大浴場……そして最後は教員寮に侵入した。……最後のは、お前自殺する気かと本気で思ったな。
まあ全て未然に防がれている為、女子には発覚していないらしい。……そうでなければどうなっていたのかは、想像すると怖いが。
「安芸野。こいつを止められないか?」
「いや何度も言ってますけど、こういう時だけゴキブリ並みの生命力と素早さを発揮するんですよ」
当人曰く『いざという時にしか使えないんだ』らしいが。
この生命力と素早さがいつも発揮できれば、ゴウの駆るオムニポテンスにボロ負けする事も無かったんじゃないだろうかと思う。
「やむをえんな。――安芸野。お前の御影、ブローンを押さえるのに使え」
「……い、良いんですかそれ」
「構わん」
おいおい、言い切ったよこの人。覗きを阻止する為にIS展開っていうのもアレな理由だが。
「それにしても、何で覗きなんぞやらかすんですかね……」
「将隆。それは、そこに美少女達のエデンの園があるからだ!! 男たるもの、覗きをやるのは当然だろう!!」
「勝手に男子代表の立場に立つな」
おお、復活した……けど、織斑先生の拳骨一発でまた沈んだ。……懲りない奴だな。
「では安芸野、コイツは任せるぞ」
「はい」
再び気絶中のクラウスを置いて、先生は去っていく。ふう。シャルルがルームメイトの一夏が、少しだけ羨ましいぜ。
「あら織斑先生」
「ハッセ先生。どうした、君が寮に来るとは珍しいな?」
「少々、後輩と親睦を深めたいと思いまして。先生こそ、どうなさったんです? 少し、お疲れのようですが」
「ああ。お前の従姉弟がまた更衣室に潜り込んだ。今、部屋に送還した所だ」
「あらあら。クラウス君、またですか」
「ああ。普段なら、簀巻きにして放り出す所だがな……確か『ブローンの好き勝手にさせて下さい』だったか」
「ええ。ご迷惑をおかけしますが、そのようにしていただきたいのです」
正確には『拘束の不可』なども含む、かなり細々とした命令だった。
男子IS操縦者でもないクラウス一人に対し、異様なまでの奇妙な対応に千冬の視線も鋭くなる。
「恐らくはドールに関わる事だろうが……。お前もどういう理由かは知らん、と言っていたな?」
「ええ。ドクトル・ズーヘからは何も聞いてはいません」
「そう、か」
その言葉に、千冬は嘘は感じなかった。――が、その視線は更に鋭くなる。
「で、お前は何処を見ている?」
「いえいえ、別に変な所は見ていませんよ?」
「そうか。実は最近、胸がきついのだが」
「なんと!? それはいけませんね、しかしまだ大きくなるとは……。今見た限りでは、そんなに変化は――あ」
「相変わらずだな。ハッセ」
いつの間にか握り締められた拳が、生徒時代と同じ呼ばれ方をしたゲルトの脳天に振り下ろされた。
「あ、相変わらず痛い……た、確かこれはパワー・ハラスメントに当たると思うのですが……」
「人の胸を『何百回注意されようとも』凝視するような輩には相応の対応だ。お前も、変わっていないな」
「いえいえ、それほどでも」
「……褒めてはいないぞ」
ゲルト・ハッセは優秀な人物であり、現在はドール開発にも携わっているのだが……一つ、悪い性癖があった。
いわゆる『女性好きの女性』であり、その上、セクハラ紛いの事をやらかすタイプだったのである。
ちなみに、ブラックホールコンビとは『同類の臭いを嗅ぎつけた』為に、今や親友の如く仲が良かったりするのだが。
「まあ心配はしていないが、無理強いだけはやめろ。もしもそういう行為を行った場合、ドイツに強制送還するからな」
「杞憂ですよ。無理強いした所で、心は奪えませんからね」
この辺りは、クラウス同様に最低限のモラルはあるのだった。
「そうか。だが今のお前は教師だ。お前がそうでなくても相手がそう捉える可能性はある。気をつけろよ」
「ええ。……しかし先生も、胸はさて置き、変わられましたね。まあ、私が先生から教わっていたのはごく僅かな期間ですが」
「変わった……?」
「どちらかと言うと、口よりも態度や『言わなくても解れ』といった感じだった織斑先生から……
相手が自分の意に反した捉え方をする事への注意を聞くとは思いませんでした」
「……少々、苦い経験があったのでな」
「ほう。織斑先生は相変わらずブラコンだと聞いていますし、弟さんですか? ……あれ?」
言葉を言い終えた瞬間、ゲルトの視界から千冬が消えていた。その直後、彼女の頭部が万力もかくや、な圧力を受ける。
「お、織斑先生!? い、痛いんですが!?」
「心配するな、破裂はしないように力加減はしている。……で、誰が私をブラコンだと言っていた?」
「そ、それは……機密事項という事で」
「そうかそうか。では、もう少し続けようか」
「で、出来ればもう少しその胸の感触を強くしていただけると嬉しいのですが……」
「ほう、随分と余裕があるようだな。では――強くしてやろう」
「~~~~!?」
翌日、二日酔いの時のように頭を抱えて一年三組副担任補佐が自室で蹲っている姿と。
生身での格闘訓練を一晩中受けたらしい一年一組副担任が、武道場で半死半生の姿で転がっている姿が目撃されたという。
「おはよう、織斑君!」
「おはよう」
今朝はいつもより早く目が覚めたので、食堂にもいつもよりもかなり早く来ていたのだが。
朝食の和風定食(大盛り)を食べている俺の元に、元気な声と落ち着いた声が届いた。振り向くと、そこにはやっぱり。
「おう、宇月さんとフランチェスカか。おはよう」
「おはよう……って、デュノア君はどうしたの?」
「シャルルは、何か用事があるって先に出て行ったぞ」
何か最近、シャルルが余所余所しくなったような気がするんだよなあ。
昨日の放課後、図書館で偶然ゴウと一緒になった時も、シャルルはあいつと喋ってた方が多かったし。
まあ、あいつもフランス国籍らしいから、話があうのかもしれないが……。ちょっと寂しいよな。
「何かやったんじゃないの、織斑君?」
「いや、何も心当たりは無いんだが……」
「例えば、シャワーを覗いちゃったりとか?」
いや待て。俺が何かやったと思ってる宇月さんも酷いが、何で男子のシャワーを覗くんだよフランチェスカ。
まあ、確かにシャルルは俺と着替えたりするのを少し嫌がっているような風ではあったから。全くの見当違いじゃないが。
「違うみたいだけどな」
「そう。……そういえば、織斑ガールズは?」
「何だそれ?」
「篠ノ之さんとオルコットさんと凰さんでしょう?」
「香奈枝、正解!」
いや、即答されても……。今日は時間が早かったから、一人で食べに来たんだが……。お。
「箒、セシリア、鈴。おはよう」
「お、おはよう一夏、もう食堂に来ていたのか」
「一夏さん、今日はお早いのですね」
「おはよっ! ……まったく。たまには誘いに来なさいよね」
幼馴染みコンビとセシリアが現れた!!
「……あんた、何か下らない事考えてるでしょ?」
「何でだ!!」
「あんたとの『付き合い』が何年になると思ってるのよ。それくらい解るわよ」
「!」
「そういえば、一夏さん。今日はわたくしの訓練に『付き合って』貰えるのですよね?」
「ああ、一応第二アリーナとれたけど……」
「!!」
あれ、何か箒が赤くなってるぞ? うーん。高揚する事でもあったから、紅葉してるのか? ……なんてな。
「また下らない事考えてるでしょ」
朝一からきついぞ、鈴。どうせなら――。
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
「おはよー!」
そうそう、こんな感じで――って、あれ?
「一場とロブ……?」
鈴がいったように。そこにいたのは、最近俺達の隣人となった転入生――ロバート・クロトーと一場久遠さんだった。
「――織斑君。ここ、よろしいですか?」
「おう、構わないぜ」
今朝の俺が座っているのはカウンター席だったが、一場さんがそこの右隣に来た……と思いきや。
「ではわたくしは、ここに……」
「ちょっと、そこはあたしの席よ!!」
俺の左隣の席を、セシリアと鈴が争いだした。な、何なんだ? そもそもまだ食事を取ってきてないだろ、お前ら。
「あのねえ、二人とも。――子供の前よ?」
「!」
「!!」
宇月さんの呆れた声に、我に返ったのかセシリアも鈴も左隣の席から離れた。
ちなみに宇月さんとフランチェスカは、今の騒ぎの間に朝食をとってきたらしくサンドイッチやサラダを持っている。
「じゃあ香奈枝、揉めそうだし貴女が織斑君の左隣に座ったら?」
「ちょ……! まあ、さっきみたいに揉めるよりも良いわね」
何を言うの、と言いたそうな表情の宇月さんだが……諦めた様子で俺の左隣に座った。あれ。俺、嫌がられてるのか?
「イチ兄、両手に華だね!!」
「ろ、ロブ!!」
「ロブ……余計な事を、言わない」
……突然、意外な発言が飛び出した。まあ、確かに両側が女子だから両手に華っていうのは間違いじゃないが。
「……危なかったわ。あの三人に聞かれてたら、大変な事になってた」
しかし、何で宇月さんは危険を探るように周囲を見渡してるんだろう? 大変な事って、どういう事だろうか? ……ん?
「どうしたのです、ロブ。織斑君を見つめていますが、彼に何か?」
「うーん。イチ兄って、誰が恋人なの?」
「へ?」
「ぶっ!」
「わお、クロトー君ったら大胆な質問」
「ロブ……そういう事は、聞いてはいけません」
いきなり爆弾発言が飛び出した。……いやいや。
「俺は、恋人なんていないぞ?」
「そうなの?」
「けほっ、けほっ……ロブ、それ以上は言わないで。最近、ようやく減ってきたんだから」
減ってきたって、何がだろうか? 体重……とかいったら、以前の屋上の二の舞になりそうだから止めておこう。
「どうしたのだ、宇月。食事を喉に詰まらせたのか?」
「ちょっと、大丈夫? まだ時間あるんだし、落ち着いて食べなさいよね」
「水を持ってきましょうか?」
と、三人が戻ってきた。……なあ。宇月さんへの態度が、俺に対する態度よりも優しくないか、お前ら?
「へえ。一緒に遊んだ仲、か」
「なるほど、な……」
食事が済んで、お茶やコーヒーを飲む中で。宇月さんや一場さん達の過去の話が出た。
鈴は聞いていたらしいが、俺や箒は初耳だ。ここにはいない将隆の話も出て、盛り上がったが……。
「そういえば、織斑君と篠ノ之さんも幼馴染みだと聞きましたが」
「まあな」
「確か、同じ道場に通っていたと聞きましたが。ということは、二人は同門ということですか?」
「そうだな。千冬さんも含め、三人で私の父の教えを受けたものだ……」
箒が懐かしそうな顔で、昔を回想している。……そういえば、そうだったな。
「ほう。では織斑先生の剣術の基礎は篠ノ之流にある……というのは本当だったのですね」
「そうだろうな。……もっとも、ISにそのまま使える技術では無いだろうから、かなりの試行錯誤があったんだろうけど」
その辺りまでは知らないが、今の俺は白式頼りだからなあ。最近だと、少しは上達した……つもりなんだが。
「……ねえ一場。何かアンタ、やけに絡むわね?」
「偶々、ですよ。……心配しなくても、私は凰さんのライバルにはなりませんよ」
「なななななな、何言ってんのよ! い、意味が解らないわね!?」
鈴、何でそこまで動揺するんだ? 箒やセシリアも心なしか、顔が赤いし……。しかし、ライバルか。……あ。
「でも、ある意味ライバルなんだよな?」
「え?」
「なななななな、何言ってるのよ一夏!!」
「いやだって、一場さんはアメリカの代表候補生なんだろ? じゃあ、中国の代表候補生である鈴のライバルじゃないか」
「へ? あ、う、うん、まあ、そーなるかな!?」
「……そ、そういう事ですの」
何故か鈴は(あと、箒とセシリアも)ホッとした表情になっているが。あれ、違ったのか?
「それはさておき。――そういえば今まで詳しく聞いた事無かったけど、一場。あんた、何でアメリカの代表候補生なの?」
「凰さん……?」
「……どういう意味ですか?」
宇月さんや一場さんが、目つきが少し鋭くなった鈴の言葉に首をかしげる。……その様子は、やっぱりどこか似ていた。
「出来すぎじゃない。安芸野の知り合いが、代表候補生だなんて」
「……凰さんと織斑君も同じではないですか?」
「生憎と、あたしが代表候補生になったのは一夏の事が解るより前よ。……でも、あんたは違うんじゃないの?」
「……偶然、ですよ」
……何か、二組同士で険しい視線がぶつかっているようだ。おいおい、仲良くしろよ?
「さてと、ロブ。そろそろ行きますか」
「う、うん……」
雰囲気を察して少し大人しくなっていたクロトーを、少し強引に連れて行く。それは、どう見ても普通の態度ではなかった。
「おい鈴、どうしたんだよ。いつものお前らしくないぞ?」
「そうね。……凰さん。久遠やロブの幼馴染みとして、ちょっと今のは引っかかるんだけど」
「……登校しながら話すわ」
そういうと、鈴はトレイを返しにいった。引っかかる物を感じながらも、俺達はそれについていくのだった。
「……はっきり言うわね。実は昨日、本国から連絡があったの」
「連絡?」
寮から校舎への道を、少し外れたベンチで。俺や箒、セシリアや宇月さんが鈴の話を聞いていた。
フランチェスカは『ちょっと危険そうな話だから、聞かないでおくわね』と言って先に登校している。
「……最近転入した連中のうち、あたしのクラスに来た女子には注意しろ。そう言われたのよ」
「それって……久遠の事、よね?」
「ええ。あの子が代表候補生に任命されたのは、つい最近。それも、IS学園受験に失敗したのに――らしいのよ」
「ええええっ!?」
「では……何故ですの?」
「一つには、ロブがISを動かしたからってのもあるらしいわ。あの子と親しい一場を、世話役にするためなんでしょうね」
一つは、って事は他にもあるのか?
「で、もう一つ……。あの子は、安芸野と親しいからよ」
「!」
そうだ。将隆と一場さんは、幼馴染みらしい。じゃあ、まさか?
「安芸野を……男性操縦者をアメリカに引っ張る為の手先……。本国では、そう判断してるらしいわ」
「何だよ、それ……!!」
「あくまでこれは、中国の見方よ。……まあさっきのは、ちょっと言ってみただけだったんだけど」
何か、いきなり嫌な話になった。それじゃあ、将隆と一場さんが幼馴染みである事を利用しているんじゃないか!!
「あたしも、本気にはしてなかったけど。一場が、妙に一夏に絡むのを見てちょっと……ね」
「それでもだな……!」
「空気悪くして、ごめん。……後で一場には、あたしから謝っておくわ」
そういうと鈴は、足早に立ち去った。……しかし俺達は、暫くは動けなかった。
「……まさか、このような話になるとはな」
「そうね……」
「……ただ、ありえない話では無いと思いますわ」
どこか気が重い。今から一日の授業が始まるって言うのに、こんな気分じゃ……ん? ……ん!?
「あはははははははははははっ!?」
「お、織斑君!?」
「一夏さん?」
「一夏、何を笑って……なっ!?」
箒の驚きで気付いたが。俺の体を擽る、箒でもセシリアでも宇月さんでも無い手があった。俺達が気付くと、その手は離れ。
そしてまるでISの武装を展開するように『天真爛漫』と書かれた扇が俺達の視界に入ってくる。その人物は――。
「あ、貴女は……!!」
「更識会長!? な、何でこんなところに……」
IS学園生徒会長、更識楯無先輩。クラス対抗戦では俺達を助けてくれた人だった。
「いやー、ちょっと香奈枝ちゃんに届け物だったんだけどね? 何かくらーい雰囲気だったから、それを解してあげようと思って」
「だからって、擽る事は――」
「織斑君、それ以上この人に言っても無駄よ」
何故か宇月さんが、千冬姉の説教でも喰らった後のような疲れた表情で俺の言葉を止めた。……何か、実感が篭ってるな。
「……更識先輩。先ほどの鈴の話を、聞いたのですか?」
「まあ、ね。話の成り行き上、出て来れなかったから」
箒の問いかけにも、自然に答える。……ちょっとだけ、態度が硬くなるが。
「まあ、何かあったら生徒会室を訪ねてきても良いわよ? 香奈枝ちゃんみたいに、ね」
宇月さんみたいに? はて、どういう意味だろうか。
「……あ」
非常にやばい事に、今、予鈴がなった。……まずい、今日のHRは千冬姉だ!!
「ま、まずいぞこれは!!」
「た、大変ですわっ!!」
「わ、私はまだ死にたくないのにっ!!」
箒やセシリア、宇月さんも冷静さを失っている。くそ、どうすれば――ん?
「な、何ですかコレ。特殊事情による遅刻理由説明書……?」
「生徒会長特権、かしらね。まあ、私が足止めしちゃったのも事実だし。これを出せば、先生にも怒られないわよ」
「「「「本当ですか!?」」」」
俺達四人の意思と声が、その瞬間一つになった。更識先輩の差し出した書類、それは地獄で蜘蛛の糸を見つけた気分だった。
目の前の先輩が、その笑顔と合わせて女神か仏のように見える。……そういえばのほほんさんとも親しいらしいな、うん。
「じゃあ私もこれで。あ、香奈枝ちゃん。これは虚ちゃんからの預かり物。――それじゃーね♪」
そのまま、更識先輩はあっという間に去っていった。……うん、嵐みたいな人だったな。
「それにしても、わざわざ生徒会長が届け物とは……そんなに重要なものなのか?」
「さあ。あの人、凄くフットワークが軽い人みたいだし……。以前にも、似たような事があったわ」
「そうなんですの?」
「おい、それよりも急ごうぜ!!」
少し、気になったが。授業に急ぐ事を最優先にするべきである俺達は、全力疾走で教室に向かった。
……先輩に貰った書類を提出した結果、千冬姉の懲罰は免れたが。何だったんだろうな?
「はあ……」
授業の間の休み時間。私は一人、黄昏ていた。思い出すのは、今朝の事。
「どうしたの、篠ノ之さん。溜息吐いてるけど……」
「宇月か。……いや、別に大した事では無いのだが」
「そういえば今朝、いきなり赤くなって。凰さんやオルコットさんと取り合いもしなかったし……何かあったの?」
「な、何でもないぞ」
その原因については、たとえ宇月といえども話す事は出来ない。……うう、今思い出しても顔が赤くなるぞ。
『付き合い』『付き合って』などの単語だけで、あの事を思い出してしまうなど……。
「ねえ香奈枝、ちょっと……」
「どうしたの?」
「いや、良いからちょっと……」
何やら気まずそうな顔をしたレオーネが、宇月を呼んで何かを囁いた。その途端、表情が急変する。
「な、何でそんな事になってるの……?」
「さ、さあ……。か、彼女にも言うべきかな?」
「……し、仕方がないわよ、それ」
「?」
あの二人は、何故私を見てあんなに動揺しているのだろうか? 何か、あったのか?
「あのね、篠ノ之さん。落ち着いて聞いて欲しいの。いや、たった今フランチェスカから聞いたんだけど……」
「いや香奈枝、ここじゃまずいでしょ」
「そ、そうね」
何がなんだか解らないうちに、私は二人に外へと連れ出された。何なのだ、一体?
「な、何だとぉぉぉぉぉぉ!?」
「声が大きいっ!!」
校舎の外れに連れてこられた私は、とんでもない情報を聞かされた。
「な、何故だ……何故そうなっている……」
「私にもよく解らないんだけど。何で『今度の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と付き合える』なんて噂が流れてるのかしら」
「そ、そもそもそれは私と一夏だけの約束だ! 他の者は関係ないだろう!!」
「その通りなんだけど、噂って、尾鰭が付く物だからね……」
私が以前、部屋を変わる際に一夏に言った『学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらう』という言葉。
それがどういう経緯を辿ったのか、私以外の人間にも適応されるような話になっている。……いや、待て。
「わ、私の一件とは関係ないのでは無いか?」
「そう思いたい気持ちも解らないでは無いけど……多分、篠ノ之さんの噂が捻じ曲がった結果だと思うわ」
「そ、そうなのか、レオーネ……」
宇月は元々の話もレオーネから聞いたようだが、やはり部屋の扉を閉めずに言ったのが原因だっただろうか?
愚かしい事に、それに気がついたのは数日後だった。何という事だ……。
「まさか、一夏はそれを知っているのか?」
「いや、それは無いと思うけど……それよりも、どうするの?」
「それは……優勝するしかないんじゃない?」
「そ、そうだな!!」
私が優勝すれば問題ない!! 優勝……すれ……ば……。
「……どうしたの? 何か、顔色が悪いけど」
「嫌な事でも思い出した?」
「いや、何でもない」
その時、私は思い出していた。宇月にも、他の皆にも。一夏にさえ話していない、私の……過去を。
「そう、ですか。第一段階は成功しましたか」
昼休みの生徒会室では。更識楯無と、仕事をこなす布仏虚。そして呼び出された布仏本音の姿があった。
「うん、まあね。……本音ちゃん。何かあの三人に変わった様子はあった?」
「何も~~。いつものようにおりむーは鈍感だし、しののんはツンデレだし、かなみーは苦労してましたー」
「三番目に何かツッコミを入れないといけないような気がするけど。まあ、とりあえずはOKね」
「では、同時進行で『あの事』も行うのですね?」
「……うん」
虚の発言の途端、三人の様子が変わった。楯無は少し口ごもり、虚は態度をやや硬化させ。本音すら、やや案じる表情になる。
――そして楯無が次の授業の関係上、姉妹よりも先に去っていく。
「お姉ちゃん、大丈夫なのかなー?」
「……大丈夫、よ。きっと」
「でもでもー、かんちゃんとお嬢様が、もしも……」
「本音。それ以上は言っては駄目よ。貴女の言わんとする所も解るけど……。いつかは、通らなければならない道なんだから」
本音を窘める虚。だかそれは、虚が自分自身に言い聞かせているようにも感じ取れるのだった。
「そういえば『彼女達』はどうなの?」
「でゅっちーは、少しおりむーと距離を置いてる~~。らーぽんは、相変わらず~~」
「シャルル・デュノアが、織斑君と距離を……? それは、どうして?」
「んー……」
暫く、本音は思い出すような表情になった後。
「解んなーい」
曇りなき笑顔で、そういいきった。――同時に、虚のこめかみが動き。
「……本音、後で出す予定だったおやつと紅茶は抜きね」
「酷いよ~~!? お姉ちゃんの鬼ー。あくまー。織斑先生ー」
「仕事をきちんと完結させて、初めて報酬を得る。――当然の事よ」
「ぶーー」
「およしなさい、みっともないから」
ぷっくりと頬を膨らませる妹と、それをたしなめつつも苦笑する姉。それは、仲睦まじい姉妹の光景だった。
それが、自分達が仕える家の姉妹にも訪れる事を願うも。同時刻、それを木っ端微塵に打ち砕く者が蠢き出していたのだった。
「へえ。石坂さんは、剣道をやっていたのかい?」
「は、はひっ! た、嗜む程度ですが……」
その頃、保健室では。ゴウが、更識簪のルームメイト……石坂悠と二人きりで話していた。
保険教諭は、薬品を取りにいくため少しの間だけ席を外している。その時間を狙った行動だった。
(ど、ど、どういう事でしょうか!! これは、その、いわゆる大チャンスという奴!? ま、まさかあんな事から……)
先ほど、やや急いでいた悠がゴウとぶつかったのだが。足を挫いた彼女を、ゴウが運んでいったのである。
「……ということは、学年別トーナメントには打鉄で出るのかい?」
「い、いえ。今の所は出場は考えては……」
「そうかい? でも、何があるか解らないから。準備はしておいた方がいいと思うよ。ええと、日本語では何ていったかな……」
「そ、備えあれば憂いなし、ですか?」
「そう。それだね」
学年別トーナメント。任意参加のイベントであるそれが強制参加に変わる事を、ゴウは知っていた。
ほんの僅かではあるが、自分のアドバンテージを他者に晒した事になるのだが。
(匂わす程度なら、この雑魚に漏らしても問題は無い……しかし、予想以上にチョロイな)
眼前の、頬を赤く染めた少女を見てゴウは内心呆れていた。香奈枝同様に共学の中学出身でありながら、男子に対して異様に弱い。
少女漫画をなぞったようなシチュエーションに落とし込むだけで、自分のルームメイトに決闘を申し込んだ事を忘れているようだった。
「おっと、そろそろ昼休みが終わるね……。先生には、俺から伝えておくよ」
「す、すいません」
「良いんだよ。俺がぶつかったのが原因なんだからね」
故意である事を、微塵も感じさせずに保健室を去るゴウ。――そこへ、四組女子数人が現れる。
「あ、ゴウ君! 石坂さんとぶつかったって聞いたけど、大丈夫だったの?」
「ああ。俺の方は、大丈夫だよ。彼女はもう少しかかるみたいで……申し訳ないなあ」
「しょうがないよ、こういう事もあるから。それより、早くアリーナに行こう!!」
「ああ、そうだな。ありがとう」
本性を隠し、その魔手を次々と伸ばしていくゴウ。……その邪なる謀は、次々と成功していた。そして。
(さあて、次は――いよいよ、本命ヒロインの一人に伸ばすとするかな)
歪んだ笑みを、僅かに浮かべながら。転生を経験した少年は、走り出すのだった。
話が……進まない。何度目だろうこれを言うのは。
早くシャワーシーンだとかお風呂場シーン(誰の、かは説明不要ですよね?)を書きたいのに。
……でも今の流れだと、シャワーシーンまであと数話。風呂場までは更にかかりそう。
臨海学校は、更識姉妹がテレビ画面に出るよりは、確実に後になりそうですね……。
(以下愚痴)
八巻を読んだのですが……やべえええええええ! どうしよう!! 状態です。
……大きく予定を変更する事になるかもしれません。うあああああああああ。