安奈さんが来た翌日。俺は、第五アリーナの一角で二人のクラスメートと向き合っていた。
「アウトーリ、ライアン。……行くぞ」
「ええ、いいわ」
「準備完了~~」
「な、何よあれ……」
「あれが……御影の新兵器……」
数分後。俺の前には、シールドエネルギーをゼロにされたライアンとアウトーリがいた。俺の方は、半減だけ。
それだけの消耗で、アメリカの代表候補生と、接近戦では一年生最強レベルの女子生徒に勝利した。その要因は、昨日の新装備。
残る二人の協力者である春井とエーベルトも、唖然とした表情だ。
「ま、まさかここまで完成度が高いとは思わなかったわ……」
「きゅ~~」
ライアンのリヴァイヴは中破、目を回しているアウトーリの方のリヴァイヴも小破している。
……俺は、その光景に二つの自信を得た。織斑の零落白夜に対抗できる手段を得た自信と、それを使いこなせる自信を。
「……マリア。もう、良いんじゃないかしら?」
「そうね、マミ。――安芸野君、貴方を正式にクラス代表として認めるわ」
「へ?」
何を言っているんだ?
「じつはね。もしもクラス対抗戦までに『専用機を使いこなせないレベル』なら、一組みたいにクラス代表を賭けて勝負して。
私が勝ったなら、そのまま対抗戦に出るつもりだったの」
「何だそりゃあ!?」
「そりゃあ、私だって専用機は持ってないけど国家代表候補生だもの。
専用機を持ってるだけの人間に譲れるほど、ISに対する誇りは小さくないわ」
「……」
思わず叫んだが。安奈さんと真理さんの事を聞いてISに関わる事の重さを知ったからだろうか、そりゃそうだと納得した。
それと同時に、ますますクラス代表としての責任の重さを実感する。
「解ったぜ、ライアン。俺は勝つ、織斑にも、二組や四組の女子にも負けない」
「その意気よ。私達は、応援してるからね」
「なら次は私達が相手をしてあげる」
「あの装備、今日使ったばかりだからね。しっかりと、慣れてよ!!」
「頑張ってね~~」
ライアンはしっかりと、春井とエーベルトは元気よく。アウトーリはいつものように間延びした声だったが。
俺はしっかり頷くと、訓練を開始するのだった。
「織斑一夏は第二アリーナ、もう一人の男は第五アリーナ、か……くだらねえ足掻きだ」
ケントルムが、ある場所から今日の報告を受けていた。その整った顔立ちに、歪みが走る。
「三組代表は、何やら新しい装備を使ったとの事ですが」
「どうせ大した事はないだろ。……それで、マルゴーはいつ来るんだ?」
「風雨高まる時、との事です。それと……動きがありました」
「……ほう。また一人、か。まあいいさ、どうせ同じだ」
「四組代表の機体も、完成間近だそうですが」
「どうせ雑魚だ。実戦になればブルっちまう、放っておけ」
幾つかの報告を聞き流すケントルム。それは傲慢であり、報告者は無表情であったが。当人には気配りをする気はない。
「プロークルサートルは、大丈夫なのですか? スコールが気にかけていましたが」
「心配要らねえよ。……お前、ウザいからもう黙れ」
報告者が無言になり、場が沈黙に包まれる。そんな中、ケントルムは。
(命無き土塊【つちくれ】が露払いをしてくれた後、大暴れさせてもらう……。
こんなくだらねえ『インフィニット・ストラトス』のせいで潰えた未来の分……無茶苦茶にしてやるぜ)
自ら乱す事を通報したクラス対抗戦。その日が来るのを、黒いフレームと銀針の懐中時計を弄くりながら待つのであった。
――その胸中に、一人を除いて誰も理由も知らない憎悪を燃やしながら。
「千冬姉?」
今日はセシリア・相川さん・谷本さんと一緒に第二アリーナで訓練だったが、そこに千冬姉がやってきた。
それと一緒に、ボロボロのISのようなものをカートで運んできている。
「何だコレ? 変なISだな……」
「正確にはISではない。スクラップパーツを集めて、人型に仕立てた代物だ。コアの無い、ISの抜け殻のような物だな。
修理不可能、と判断されて処分される予定の物を貰ってきたから、どうしようと問題は無い」
なるほど。よく見ると、リヴァイヴと打鉄のパーツが不規則に交じり合った変な代物だ。
「先生。コレを一体どうしろと仰るんですの?」
「簡単な事だ。――織斑、零落白夜でこれを切り裂いてみろ」
「これを?」
「そうだ。全てのエネルギーを使い切るつもりで、な」
「す、全ての?」
今までは『出来るだけエネルギーを使い過ぎないように』零落白夜を発動させたのに。その逆をやれって事か?
「そうだ。零落白夜をある程度使いこなせるようにはなったと聞いた。
だがその前に、私から話しておくことがある。その為にだ、やれ」
何でそんな事を? ……今ひとつ意味が解らないが、零落白夜を発動させ。そして、スクラップパーツに向けて発動する――!
「なっ!?」
そして全力で零落白夜が発動した瞬間、熱したナイフでバターを切るよりも簡単に、スクラップパーツが斬れた。
そう、斬れたんだ。包丁で肉や野菜や魚を切るように。
「……」
これは破損したスクラップだとはいえ、ISの装甲と同じそれ。そしてそれを、一撃で斬った。
つまり零落白夜は、本物のISでも同じ結果だという事になる。
「零落白夜は、絶対防御を無効化する。とはいえ、物理的攻撃力もある。――つまり、相手に対して直接攻撃を仕掛ける事にもなる」
「で、ですが織斑先生。クラス代表決定戦でも、そして今までの訓練でもこのような事は――」
「当然だ。今のは、このスクラップがエネルギーシールドも絶対防御も無いからこそあっさり切り裂けたのだからな」
「絶対防御やシールドが無いのは解ってるけど。それじゃあ、零落白夜は……」
「そうだ。やりすぎれば、相手を死傷せしめる可能性もあるということだ」
「……!」
思わぬ一言に、絶句した。シールド無効化、というのはそういうことなのか、と。
今まではエネルギーを使わないようにしてきた為、これには気付かなかった。
「し、しかし先生。モンド・グロッソはおろか、噂でさえそのような話など聞いた事がありませんわ」
「私が今言ったのは、あくまで可能性の問題……お前のブルー・ティアーズにおける、偏光制御射撃のような物だ。
事実、私自身がその制御を誤ったことは無い。――だが、織斑はまだこの力を得て一月少々だ。……だからこそ、話した」
セシリアがなおも反論するが、千冬姉の言葉は止まらない。その場の空気が、重く沈んでいく。
「お、織斑先生。それは、相手のシールドをゼロにするタイミングを見極めろ……って事ですか?」
「そうだ、谷本。相手のシールドを超過させるほどの一撃を見舞わせるわけにはいかない。
逆に言えば、お前達が織斑と本気で戦う機会が来れば、そのタイミングをずらす事で勝機が出てくる事になる。覚えておけ」
……え?
「い、いや先生。私達が本気で織斑君と戦う機会なんて……あ」
「学年別個人トーナメント……」
相川さんと谷本さんが、同時に気付いた。……学年別個人トーナメントっていうと、今から約一ヶ月後のイベントだったな。
個人で参加するトーナメント形式の大会で、自由参加らしいけど……。
「今年は専用機持ちが例年に比べて多いが、それだけに金星を得るチャンスも多い。
――クラス対抗戦が終わったら、しっかりと努力しておけよ」
「「は、はい!」」
珍しい千冬姉の言葉に、やや緊張して答える二人。それにしても……。
「タイミング、か……」
「タイミングは重要だぞ。零落白夜に対しては、タイミングこそが防具の有無のような物だからな」
……えっと、どういう意味だ?
「通常の物質ならば、零落白夜の攻撃力を素で受けることになる。言うなれば、裸の状態で真剣によって斬られるようなものだ」
ふむふむ。
「それに対しISは、絶対防御を持つ。最初に受けるのはエネルギーシールドだが、これは無効化される」
それは理解してるけど……。
「次に受けるのが絶対防御。これも無限では無いとはいえ、ほぼ安全を確保できる。
だが、機体維持警告域まで達した場合は消える」
「一応、維持警告域までならないように試合設定のシールドエネルギーとは別個のエネルギー領域もあるんでしたよね?」
「そうだ。それまで消費させるような輩は、明らかに相手への殺意を持った人間だ。基本的にそのような人間は反則負けになる。――が」
谷本さんの補足に頷いた千冬姉は、俺のほうを振り向く。そして――。
「零落白夜は、その領域のエネルギーさえ『無自覚に失わせる事』が出来る。……理解できたか?」
……ちょっと待ってくれ、まだ勉強していない範囲がでてきて少しこんがらがってるんだ。
「では、ISが零落白夜を受けた場合の比喩を行え。先ほど私が言った『裸の状態で真剣によって斬られる』に対し、ISはどうなる」
「ええっと……。ISは、シールドっていう防具をつけているような状態です。だけど、零落白夜はその防具を無視できます」
これは、以前『シールドを無効化する』っていうのが理解できなかった時に教わった喩えだ。
セシリアからだったが、この一言でコレに関しては理解できた。
「次に、絶対防御ですが……これは、防具の下に着る生命維持装置付きの袴だとかです。」
これは宇月さんから聞いた喩えだった。彼女曰く『気絶させても人命尊重』らしい。そのメカニズムはよく解らなかったが。
「では、絶対防御が発動しない場合は?」
「それは……生命維持に問題ない場合、って事です」
「よかろう、復習は充分だな。では、その次はどうなる?」
「次は、えええっと……」
『一夏さん、それはですね――』
「……オルコット。今は口出し無用だぞ」
『!?』
プライベート・チャネルで手助けをしてくれようとしたセシリアだが、千冬姉の前に黙らされた。
……くそう、増援が潰されるのは辛いぜ。というか今、何でセシリアの言おうとしていた事が解ったんだよ。
「……少しは想像力を働かせろ。ISの操縦においては、重要なファクターだぞ」
そうは言われても……。えっと……次は……。……こう、かな?
「次は……皮膚、です。零落白夜が、ISの皮膚――本体を、斬る事になります。
これは当然本体も破損するし、それに更に深く斬られると、ええっと……。臓器にあたる操縦者にも、危害が及びます」
IS本体が皮膚なら、操縦者は臓器。……ちょっとアレな喩えだが、これじゃ駄目だろうか?
皮膚(IS本体)を少し斬ったくらいなら命に別状は無いが、臓器(操縦者)まで至るようだと大怪我。そういう意味なんだけど。
「ふむ、まあそのあたりで良かろう。では、結論として言える事はなんだ?」
「さっき言ったタイミング……つまりは、零落白夜で防具(シールドエネルギー)や袴(絶対防御)を切り裂いた後。
臓器(操縦者)に達する前に、できれば皮膚(IS本体)が斬れるまえに止めるのが大事だって事です」
「……70点だな」
き、厳しいな。でもまあ、70点なら合格ライン――。
「合格ラインは80点だが。……さて、先ほど谷本が言った事を覚えているか?」
じゃなかった。……えっと、谷本さんが言った事? ……試合設定のシールドエネルギーとは別個のエネルギーがある、だっけ?
「それを説明してみろ。これが出来れば、10点足してやる」
なるほど、これを説明できればOKって事か。さっき言った防具(エネルギーシールド)と袴(絶対防御)と。
それと皮膚(IS本体)と臓器(操縦者)以外で喩える……って、そんな物無いぞ?
空気とかか? でも、空気を使った比喩が浮んでこない。ええい、何か無いか……そうだ!!
「た、体毛です!!」
「体毛?」
「体毛が、僅かだけど袴(絶対防御)を支えて、斬られる事を防ぎます!」
どうだ! ……あれ? 千冬姉は頭を抱えている。
「説明は以上か。……そうだな、6点足して76点だ」
「ど、どういう意味だよ! ちゃんと説明できたじゃないか!!」
しかも6点って、何でそんな中途半端な……
「……谷本、相川、オルコット。今の説明を聞いてどう思った」
「ちょ、ちょっと変な喩え……だと思います」
「いやー、もう少しいい言葉がないかなーって思いました」
「一夏さんは必死で考えたのでしょうけど、少々品性が足りませんわ……」
ぐふっ!!
「では篠ノ之、山田先生。そっちはどうだ」
『もう少しマシな喩えがあるだろうに……』
『わ、私は……織斑君が織斑君なりに必死で考えた結果で、良いと思いますよ?』
アリーナ官制室からの通信も、キツイ一言だった。山田先生のフォローも、何とかひねり出したって感じだ。
「内容はギリギリのラインで問題ないが、表現に問題がある。というわけで不快感を感じた4人分、4点を引いた。
比喩というものは相手に理解させなければ意味は無く、不快にさせるようなモノは論外だ。……異議はあるか?」
「ありません……」
とほほ……。せっかく必死で考えたのになあ。
「ところで先生。もしも先生だったら、どう喩えるんですか?」
「あ、私も聞きたいです! 本家本元の、零落白夜の使い手の言葉!!」
谷本さんと相川さんが、意外な事を言い出した。俺にとっても重要なので、落ち込んだ気分を奮い立たせて耳を傾ける。
「私か? ……そうだな。私ならば――まず、シールドエネルギーと絶対防御に関しては織斑と同じだ。次にエネルギー領域だが……。
これは、生地だ。絶対防御を構成する、という意味でな」
ああ、そうか……。そういう風に喩えれば良かったのか……。
「そしてIS本体だが、これには皮膚でもいいが……骨、筋肉も該当する。動きを司り、臓器(操縦者)を守る、という意味でだ。
また動作を行うには骨や筋肉も重要になるからな」
「なるほど……」
「操縦者は、臓器だな。これまで達するようだと重傷だ。つまり、織斑が言ったようにタイミングが重要となる。――以上だ」
「「はいっ! 解りました!!」」
その説明で納得したらしく、二人は元気よく答えた。セシリアも千冬姉の言葉には考える所があるのか、黙考している。
「まあ、織斑。比喩は兎も角、お前がしっかりと使いこなせよ」
「はいっ!」
そして俺も、自ら受け継いだ技の重さを改めて知った。
「一夏。話がある」
そして千冬姉は、俺達の訓練が終わった後にもう一度現れた。珍しい事もあるもんだな……。
「え、あ、は、はい?」
「今は単なる姉弟だ。敬語は必要ない」
「あ、う、うん。そ、それで、どうしたんだよ?」
いきなり名前で呼ばれたので切り替えに戸惑ったけど。何なんだろうか?
「私がかつてお前に教えたことを、覚えているか? 剣術とは、強さとは何だ」
「……刀は振るう物。振られるようでは、剣術とは言わない。人を殺す力を持つ刀、それを何のために振るうのかを考える事。
それが強さ、って話だったよな」
「そうだ、よくスラスラと出てきたな。少しは何の事か考えるのかと思ったぞ」
「おいおい、いくら何でもこれは忘れないって」
あれは、初めて真剣を持った日の事。持ち上げる事さえ必死だった真剣と、厳しく優しい千冬姉の眼差し。それを忘れることなんて無い。
「それで、だ。お前は、何のために戦っている?」
「……今はまだ、はっきりとは定まってない。でも、クラス対抗戦には――クラスの代表として臨む気だよ。
箒の、セシリアの、手伝ってくれた皆の為にも、勝とうと思う」
「ほう。まあ、それなりに固まってはいるようだな」
まあ、な。
「……それにしても、何か千冬姉も変わったよな」
「私とて、変わるさ。……まだまだ手のかかる教え子が多いのでな」
そういうと、千冬姉は去って行く。……その顔は、笑顔だった。
「……なあ、二人とも。その鋭い視線、何とかならないか?」
「私の勝手だ」
「鋭くしているつもりはありませんわ」
自室に戻ってシャワーを浴び、今日の練習相手二人と一緒に夕食……ということで食堂へ向かっていた。
それを聞いた箒・セシリアの機嫌が悪いのは、何でだろうか。……お、あそこにいるのは。
「宇月さんと安芸野、それに更識さんとのほほんさんもいるじゃないか。どうしたんだ?」
「おう、織斑達か。いや、別に理由があるんじゃなく……」
「たまたま、出会ったのよ。今日は私達以外の全員の都合で、更識さんのISを組み立てるのは夕食後にしたの」
なるほど。そういう事だったのか。
「一組と三組、四組のクラス代表が一堂に揃ってるわけだな」
これで鈴が来たら、全員集合か。残念ながら、そうタイミング良くはいかなかったみたいだけど。
「……」
「……」
しかし気のせいか、安芸野と更識さんの視線がキツイ。……俺、何かしたっけ?
「クラス対抗戦、あと少しだな。……何か、緊張してきたぜ」
「まあ、今回の戦いは注目度が高いらしいな。三組でも言ってたぜ」
「確かに。参加するISがどれも最新型ばかりですものね、我が国からも幾人か対抗戦の為に来日するとの事でしたわ」
ちょっと話題を振ってみるが。安芸野は乗ってきたが、更識さんの代わりにセシリアが反応した。
「……なあ。俺、何かしたっけか?」
「別に」
「だってさ。お……姉の仇でも見るような目をしてたぞ?」
『親』という言葉はアレなので、姉にしてみた。千冬姉が殺されるなんて、想像も出来ないけどな。
「!!」
「……姉?」
すると何故か、宇月さんが苦い物でも飲み込んだような表情になった。そして、さっきは無回答だった更識さんが反応する。
「まったく……お前はいつでも千冬さん千冬さん、だな」
「そうかなあ?」
「そうですわ」
「……」
箒の一言に、セシリアが同意する。……ただ、何で宇月さんは頭を抱えてるんだろうか?
「織斑君」
「ん、何だ?」
「貴方には……負けない、から」
……? なんで更識さんは、いきなりそんな事を?
「……んー。そうだねー。おりむーとかんちゃんで、暮桜の継承者を争うんだもんね~~」
……暮桜の継承者? 何処か誤魔化すように聞こえたのほほんさんの声だが、その内容の方が気になった。
「どういう意味だよ、のほほんさん」
「だって、おりむーの白式は零落白夜を使えるしー。かんちゃんの機体は打鉄弐式だしねー」
「……」
「なるほど。打鉄は暮桜のデータを継承して作られたといわれる機体でしたわね」
「打鉄弐式は、暮桜の孫……とでもいうのか。それに対する白式は、さしずめ零落白夜という技を継承した弟子だな」
「白式も倉持技研製だから、親戚の方が合ってるかもしれないけどね。布仏さんの喩えも納得だわ」
……女子は全員納得しているようだが。俺には初耳だった。打鉄って、暮桜――千冬姉の機体と関係があったのか!
「織斑君……。ひょっとして貴方、打鉄を二回も使った事があるのに知らなかったの?」
呆れたような目で見られた。確かに俺は、入試の時とセシリア戦の直前の土曜日深夜……打鉄を二回使った事があるけど。
ここに来てから覚える事が多すぎて、ISの詳しい背後設定まで目を通す余裕がなかったんだよ。
俺は束さんみたいな天才じゃないんだから、頭で覚えられる事には限界があるんだ。
「情けないぞ、おりむー。この位は、覚えておこうよー」
「うぐっ!!」
の、のほほんさんに突っ込まれるとは! 宇月さんや箒達からよりもダメージが大きいぞ!!
「あ、安芸野は――」
「俺、自衛隊で打鉄を使った時に聞いた」
「ぐはっ!」
……どうやら、知らなかったのは俺だけらしかった。……無知への罰が、鞭のように俺を苛む。
「……ま、まあ千冬姉の機体云々は関係ない。俺も、一組の為に戦うだけだからな!」
ちょっとだけ、わざとらしく言ってみた。俺としては、話題変えの意味もあった……が。
「関係、ない……?」
「あ……」
更識さんの反応が奇妙だった。宇月さんも、まるで触れてはいけない場所に触れたような……変な反応だな。
「……織斑君」
「ん、何だ?」
珍しい事に、更識さんから俺に話しかけてきた。……だがその目は、さっきまでよりもかなりきつい。
「負けない、から」
「お、おう」
言葉は同じだが、さっきよりも声もきつくなっていて。そして彼女は、背を向けると早足で去っていった。……あれ?
「……何やら、更識の様子が変だったな?」
「そうですわね。一夏さんの言葉が、何か彼女に不快感を与えたのでしょうか?」
「何かあったのか、織斑?」
「い、いや。心当たりがないんだが……」
「……まあ、彼女は彼女なりに色々とあるんじゃないかしら?」
「……そうだねー」
困惑する俺達だが、宇月さんとのほほんさんは微妙な表情だった。……何かあるのか?
「……関係、ない」
更識簪は、整備室にむかっていた。そんな中思い出すのは、さっきの一言。
『姉の機体云々は関係ない』
自分が悩み、苦しんだ姉との差。それを一夏は、関係無いと言った。
「織斑……一夏」
その名を口にして見る。最初にその名を知った時は、世界の大多数と同じく驚きだけだった。
だが、自身の受け取る筈だった打鉄弐式が彼のIS準備のために遅れる事となり、やや不快な感情を持った。
そしてIS学園に入学し、まもなく自分自身が打鉄弐式を組み立て始めてからも、その噂はたびたび耳にしていた。
自身――日本代表候補生にとっての先輩に当たる、織斑千冬の弟である事。英国代表候補生・セシリアと戦い、引き分けにもちこんだ事。
その理由でもあり、姉と暮桜の単一使用能力・零落白夜を受け継いでいる事。女心が解らない唐変木である事。……多種多様だった。
「……」
姉との差。それは、彼にもあるはずだった。姉弟と姉妹の違いはあるが、偉大な姉を持つ事は変わりが無い。
『姉の仇』と言われた時は、思わずあんな事を言ってしまったが。
「彼は……気にしてないのかな」
それなのに、姉の事は関係ないとあっさりと言い切った。それは彼女から見ても、本心の一言だと思えた。
「……まあ、別にいいか」
だが、簪はそこで思考を打ち切った。一夏がどうであれ、今の時点では『クラス対抗戦の一組代表』でしかない。
もちろん『零落白夜』という切り札を持ち、専用機を約一ヶ月使い続けている以上は、自分にとって強敵なのは間違いないのだが。
敵の事を考える事も大事だとはいえ、彼女が今やるべきは。
「今は、打鉄弐式を少しでも早く作りあげて……使いこなさないと、ね」
協力してくれている人達のためにも。心中でそう続けながら、簪は歩を進めるのだった。
……余談ではあるが、この時に宇月香奈枝は悪寒を覚えたという。その理由は、言うまでもなかった。
「……」
最後のネジを、しっかりと締める。……そして、沈黙の後。
「完成……したわね」
「ええ……」
その場にいた者達に、沈黙が広がり。そして直後。
「よおおおおっし! 完成だぜ!!」
「やりました~」
「ふう……お疲れ様。間に合ってよかったわね」
「つ、疲れました……」
喜びと安堵の声が全員から漏れた。そこにあるのは、ついに完成した打鉄弐式・黒鉄。
打鉄を元にする、遠距離戦闘を重視した機体。……はっきり言って、完成までにここまで色々あるとは思わなかった。
いきなり手伝うように言われたり、いきなり頬を叩かれたり、先輩から個人授業を受ける事になったり、疲れが溜まって倒れたり。
……。今更ながらに、ありえない体験だったんだなあって思う。
「まあ、これであたし達の仕事は終わりだな」
「ええ。後は更識さんがこの機体を使いこなすだけよ」
「が、頑張って……。わ、私、アリーナ、明日取ったから……」
「で、データ収集、少しだけ手伝えそう……」
……そしてこれは、私が関わる事への終わりでもある。先生から言われたのは『更識さんの機体を完成させろ』という事。
織斑君相手にやったようにデータ収集をしたり、篠ノ之さんやオルコットさんがやったような訓練相手は四組生徒の仕事だ。
周さんやドレさん、あるいはルームメイトだという石坂さんが中心になってやる……のかな。
「……あ、あの。今まで、ありがとう……」
そんなことを思っていたら、更識さんがお礼を言いに来た。最初は、視線さえ合わせてもらえない時期があったのに。
「こちらこそ。稀有な体験をさせてもらったし、勉強にもなったわ。
……私は一組だから、クラス別対抗戦で貴女を応援できないけど。しっかりと、打鉄弐式を自分のモノにしてね」
「う、うん……」
「かんちゃん、顔が真っ赤だよー」
「ほ、本音……!」
布仏さんの指摘に、更に顔が赤くなる更識さん。それを見て、皆が笑いに包まれた。
「香奈枝、本当にお疲れ様だったわね」
「こっちこそ。色々と、ごめんなさいね」
自室では、フランチェスカが労ってくれた。彼女にも、迷惑かけたわよね……。
「いいっていいって。それよりも……これっ!」
「何それ……あ! クラス対抗戦の、観戦チケットじゃないの?」
それは、クラス別対抗戦一年生の部の観戦チケットだった。二枚あってA-10、11と書かれてあり、隣同士らしい。
「そう。チケット取っておいたから、これでゆっくりと見られるわよ!」
「ありがとう、フランチェスカ」
本当に、良いルームメイトだわ。……あれ?
「誰かしら? ……え?」
ノックがあったので、織斑君か篠ノ之さんか……と思いドアを開けると。
「宇月さん。ちょっといいかな?」
「どうしたんです、先輩?」
何故か一年生の寮に現れた黛先輩が、申し訳なさそうな表情になる。……嫌な予感。
「実は、ね……かくかくしかじかで」
……予感的中。私は、またしても厄介事に巻き込まれた。ど、どうやって断れば……。
「ふうん。まあ、そういう事じゃ仕方ないんじゃないの? チケットは、別の人にあげるから。気にしなくていいわよ」
「ふ、フランチェスカ?」
悩んでいたら、外堀が埋められた。それを聞いた黛先輩は、笑顔になり。
「それじゃ、宜しくねっ! 私は織斑先生の所に行ってくるから、何かあったら連絡宜しくっ!」
元気よく走り去ってしまった。あのバイタリティは、はっきり言って凄すぎる。
たった一年の差なのに、大人と子供くらいのレベルの違いを感じてしまう。……更識さんも、こんな感じだったのかな。
「ご、ごめんなさいねフランチェスカ。せっかく……」
「良いって。まあ、この借りはデザート奢りで勘弁してあげる」
「ええ。……じゃあ、お風呂行こうか?」
申し訳ない気持ちでいっぱいだけど。……気分を変える為、私達はお風呂に入ることにした。
ようやく完成した打鉄弐式。その事を、もうルームメイトである石坂悠に自室で伝えていた。
(悠自身曰く)不慮の事故で痛めた右手首の怪我があったとはいえ、協力してくれたことには間違いない為だが。
「そうですか。よかったですね、対抗戦までに完成して。私はほとんどお役に立てなくて申し訳ありませんでした」
「そんな事、ない。……貴女にも、お世話になったし」
「いえいえ。後は、貴女がそれを使いこなすだけですね。他のクラス代表も、訓練を積んでいるようですし」
「う、うん……」
使いこなす、という話になると簪の声がトーンダウンする。ここに来て、弱気の部分が首を擡げたようである。
他の三人は対抗戦に向けて訓練を重ねているのに、自分だけがそれを出来ていない事への不安だった。
「まあ、中国代表候補生だという二組代表はさて置き。まだISに触れて数ヶ月の男子二人ならば、勝てるのでは無いですか?」
「……油断は出来ない。特に、織斑一夏には」
「ああ、零落白夜……でしたか。なるほど、確かにそうですね」
そしてそれは、皮肉にも簪の今の目標でもあった。打鉄弐式を使いこなし『先』へと向かう。
『先』とは単一使用技能、そして二次形態移行。それは一夏が既に片方得ている部分でもあった。
「それだけじゃ、ないけどね……」
「え? 何か言いましたか?」
「別に」
自らの言葉を打ち切り、簪はアニメでも見ようかとディスクへと手を伸ばす。……ふと、悠と視線が合った。
「本音も言ってたけど。貴女って、意外と良い人だね」
「ぶっ」
簪としては褒めたつもりだったのだが、相手は野菜ジュースを吹き出してしまった。鼻にまで入ったのか、酷く咳き込んでいる。
大人っぽい、やや背伸びした感すらあるネグリジュにもジュースが付着する。美容と健康の為だが、逆効果になっている。
「だ、大丈夫?」
「え、ええ大丈夫です! ちょ、ちょっと体を拭いてきますっ!! 右手以外ならば、湯をかけても大丈夫ですからねっ!! ……げぐっ!?」
照れた悠が、ドアを開け……ようとして、そのままドアに突っ込んだ。簪は目を丸くし、しばし部屋の中を微妙な空気が包む。
「……大丈夫?」
「だ、だいじょ、うぶです……」
鼻を思い切りぶつけながらもルームメイトのやや呆れたような声に答え、何とか体勢を立て直してドアを閉める。
だがその後も、シャワーの温度設定を間違えた挙句に右手に熱湯、というコントのような真似をしでかすのだった。
「……その件に関しましては、既にお話したとおりですが?」
『ええ。ですがやはりこちらとしては諦められません。セシリア・オルコット、何とかしてクラス対抗戦に出場出来ませんか?』
セシリアに、本国からの連絡が入っていた。談話室にて告げられた話題は、クラス対抗戦のこと。
『貴女がIS学園に送られたのは、BT兵器の実戦データ収集です。中国代表候補生も加わった以上、参加が望ましいのですが』
「今更出たい、などとは言えません。それは我が国の誇りを貶めるものにしかなりませんわ」
ましてや相手は織斑先生なのに、とは伝えなかった。もっともそれは相手も同感らしく、反論は無い。
そもそも、この連絡は事情が変わったのが原因だった。一夏とのクラス代表決定戦に引き分け、彼にクラス代表を譲った。
イギリス政府にとって望ましい物ではなかったが世界最強の弟への『貸し一つ』という形にして納得させた。
――だが中国から鈴がやってきた上に、日本代表候補生である簪の機体に完成の目処がついた。その上、安芸野までやって来た。
第三世代IS同士の対戦、日本のもう一つのISとの戦い。クラス対抗戦は、予想よりもはるかに魅力溢れる実戦の場と化した。
その中で得られるであろう実戦経験は、この上ないものとなる。だからこそ、横紙破りを望んでいるのだが。
『……解りました。ですがこちらとしては、クラス対抗戦のデータ収集が望ましいことをお忘れなく』
そう言うと、連絡は終わった。その連絡用携帯端末の電源を切り、セシリアは溜息をつく。
「今更一夏さんの出番を奪うことなど出来ませんわ。……。…………」
思い出すのは『俺も、一組の為に戦うだけだからな!』と言った時の一夏の姿。
「……素敵でしたわね、一夏さん。一組の……わたくしの為に戦うなんて……」
……かなり都合の良い変換が、彼女の中でなされているようであった。
もちろん『一組』の中にセシリアが含まれているのは間違いないのだが、その時の顔は戻ったルームメイトが回れ右をするほどの物だった。
「……そうか。更識さんの機体、完成したのか」
「さきほど、宇月達が言っていた。これで、クラス別対抗戦に出る専用機四機が全て完成した事になるな」
「そうか……」
「……。一夏、もしや千冬さんに言われた事を考えていたのか?」
一夏は、いつもよりも深刻な表情で考え事をしていた。その原因に思い当たった箒の指摘に、一夏の表情も崩れる。
「そうだよ。……零落白夜が、あそこまで危険だったなんてな」
「そうか。今まで『事故』が起きなかったのは、実は奇跡的な事だったのかもしれんな」
「……ああ。でも、それだけ『世界最強』の技は重いってことだろ。俺も、頑張らないとな」
拳に力を込め、決意する。その表情に僅かに見とれつつも、箒は別の感情を覚えていた。
(……やはり、お前の一番は千冬さんなのか)
姉弟の間柄だとはわかっていても、心がざわめくのは抑えきれない。……と、気がつけば一夏の手が箒の額に当てられていた。
「……へ?」
「うーん、熱は無いみたいだな。……大丈夫か、箒?」
「!!」
入学式の日の、額をくっ付けて熱を測られた事を思い出し。顔は真っ赤になり、思わず一夏を突き飛ばした。
「な、何をしている!!」
「な、何って……。返事が無いし、熱でもあるのかと思っただけだよ。今度はちゃんと手で測ったぞ!?」
「そ、そうか」
心外だ、と言わんばかりの一夏に箒の羞恥心も鎮まる。だが、今度は何を言っていい物か解らない。
(す、すまんと言うべきか。それとも、心配してくれてありがとうと……)
普通に言えば良いだけなのだが、下手に思い悩んでしまって言葉が出てこない。結局出たのは。
「……な、なあ一夏。お前は、剣一本で戦うのか?」
「へ? 何を今更言ってるんだよ。白式には雪片弐型しかないんだし、当然だろ?」
「そ、そのことなのだが一夏。……今度から、古武術を学んでみる気は無いか?」
「古武術?」
意外な一言に、一夏は暫し考え込むが。
「うーん……。今は良いよ。覚える事が多すぎて、パンクしそうだし……」
「そ、そうか……」
必死で言った一言もそこで終わり、そして予習の後はそのまま就寝になる。そして。
「……一夏」
「何だよ?」
「さ、さっきはその、だな。心配、してくれたのか? ……あ、ありが」
「そんなの当たり前だろ? 幼なじみでルームメイトなんだし」
「そ、そうか」
感謝の気持ちを伝えようとしたのだが。その言葉は小さすぎて、結局伝えきれないのだった。
(……私は、駄目だな。あの時は、何とか言い切れたのに……)
以前の、パーティーの日の夜のようにはいかず。もやもやしたまま、箒は床につくのであった。
「ふう……」
あたしは、今ひとつ調子にのれないまま日々を過ごしていた。一夏ともタイミングが合わず、ほとんど話せない。
千冬さんに禁止されたわけでもないのに、どうもあたしの心が臆病になってる。
「……あーあ。タイミングが不味かったのかな」
一人部屋のベッドで寝転がり、千冬さんに言われた事を思い出す。
あたしや三組男子の編入で一夏と女子との同室が長引くなんて、皮肉以外の何物でもないじゃないの。
「……ふう」
そしてもう一つ、あたしの心を悩ませる原因が増えていた。今日の夕方にあった、政府からの連絡。
それは『クラス対抗戦への勝利を願う』との通達だけど、実質は、勝利以外は許さないって言ってるようなもの。
まあ、宇月も絡んでた日本代表のISも完成したらしいし。その上、一夏達までいる以上は対抗戦への注目はかなり高く。
そこで中国のISが大活躍すれば、世界に向けて面子も立つっていうものだから言われる理由は解らないでもない。
「……ん、誰? 開いてるわよ」
来客らしく、声をかけると。ドアの向こうから、ティナとエリスのアメリカ人コンビ、そして神月恵都子がいた。
「やっほ、こんばんわ、鈴」
「時間、いいかしら?」
「いいけど。どうしたのよ?」
この三人がこんな時間に尋ねてくるなんて、珍しい。
「何か元気無さそうだったし、励まそうと思ってさ」
「クラス対抗戦。貴方に頑張ってもらわないといけないからね」
「……ありがと」
その気持ちはありがたく、部屋に招き入れる。……あたし、そこまで落ち込んでたのかなあ。
「で、鈴。やっぱり原因は織斑君なの?」
「……」
恵都子の先制攻撃は、直球だった。そういえばこの娘、回避訓練している時でも真正面から踏み込んだ攻撃が多かったっけ。
「……そうよ。あの唐変木、とことんあたしを無視してくれちゃって」
「え、鈴を無視してるの? 酷ーい!」
「い、いや、無視ってわけじゃないけど、その、ええっと……」
半分冗談だった言葉に反応され、慌ててそれを打ち消す。言葉が、上手く出てこない。ああ、もうっ!
「というか凰さん、単に『織斑君の隣』って居場所取られて拗ねてるだけじゃないの?」
……エリスの言った言葉は、完全にあたしの現状を捉えた言葉だった。反論しようとするけど言葉は出てこない。
それが、紛れもないあたしの本当の気持ちだから。……だから。
「……そうよ、悪い!?」
「うわ、逆ギレしたわよ」
「あーあ、エリスったら。でも鈴、織斑君とはそんなに仲良かったの? 男女で恋人ってわけでもないのに、仲良かったんだ?」
そう質問してきたのは恵都子。まあ、この子は小中と女子校出身らしいからその辺のニュアンスがわからないのかもしれないけど。
「まあ、ね。あたしと一夏と……もう数人の男子と女子でグループ作ってて。よく一緒に遊んだりしてたわ」
「なるほどね。で、その立場が一年いなかっただけで他の女子に盗られてて。お冠、だって事かあ……」
「べ、別に盗られたわけじゃないし……く、クラスが違うからちょっと……その……」
同じクラスだったら、もう少し何とかなったのかもしれない。……言ってもしょうがない事だけど、どうしてもそう考えてしまう。
「だったらさあ、彼女に協力してもらったら?」
……彼女? あいにくと、ティナの指す人物が解らない。
「何て言ったっけ、織斑君や鈴と同じ中学で。彼の隣の部屋で、今は四組の機体に関係してた……」
「ああ、宇月の事? ……ふむ、そうかあ」
今まで考えもしなかったけど、意外と有効な作戦かもしれない。あいつは一夏に好意を持ってないみたいだし、あれで意外と世話好きだ。
中学の頃は一・二年の時に同じクラスでも殆ど話す事はなかった仲だけど。……協力してくれる、かな?
「……あ、鈴が悪巧みしてる」
失礼な。これは作戦よ、作戦。……よしっ。今はあいつも忙しいだろうし、クラス別対抗戦が終わったら話をしてみようかな。
「じゃあね、鈴」
「また明日」
そしてお客が帰り、部屋にはあたしだけが残される。……少しだけ寂しいけど、気分はかなり楽になっていた。
「……じゃ、お休み一夏」
中学の時に撮ったツーショット(仕立ての)写真にそう言って。あたしは、ゆっくりとまぶたを閉じた。
さあ、簪の恋愛フラグ+香奈枝の苦労増加フラグ(しかも2本)が立ちました。彼女に安息の時は訪れるのでしょうか。
そしてケントルムには謎の理由。このキャラも単なるヘイトキャラではないのです。インフィニット・ストラトスに人生を潰された。
それが皆さんにとって共感できる物かどうか、は解りませんが。……まあ、共感できる人は少ないだろうなあ。
それといよいよ次回からクラス対抗戦開始です! IS名物乱入も(多分)あるよ!! ……これでようやくアニメ版5話が終わるなあ。
補足:最後のツーショット仕立ての写真とは『本当は弾や数馬たちも映っているけど、自分と一夏以外の部分を折り曲げた写真』です。
四巻で箒が似たような写真を持っていましたが、鈴も持っているらしいので使いました。