「……ふう」
あたしは、ファティマ達との模擬戦を終えてピットに座っていた。今は模擬戦で消費したシールドエネルギーの補給中。
一夏の奴とは別のアリーナだから、ここにはいない。
そんな中で思うのは、次に待ってる別のクラスメート達との回避訓練ではなく、一昨日の食堂での事だった。
「一夏の馬鹿……」
なんで、あんなポッと出の金髪女を相手にするのよ。なんで、もっとあたしに構ってくれないのよ。
なんで、あたしの味方をしてくれないのよ。なんで、あたしだけ違うクラスなのよ。……いや、最後のは一夏が悪いわけじゃないけどさ。
「……」
本当は、解ってる。あいつから見たら、あのイギリス代表候補生も、あたしも同じなんだって事が。
どっちかだけを相手するよりも、下心無しに皆でにぎやかに過ごす方が好きなんだって事は。
「……はあ」
結局の所。あいつとあたしとは約四年間一緒だったけど『友達』で止まっちゃってる、って事だ。
あいつは唐変木だし、あたしは土壇場で一歩が踏み出せなくて、料理が上手になったら~~って言うのがやっとだった。
……まあ、宇月のヒント付きとはいえあたしの真意に掠ってくれてはいたけれど。
「でも、どう言えばいいんだろ……」
ストレートに『好き』とでも言えばいいのかな。
「どうしたの、鈴?」
「――――っ!?」
「だ、大丈夫? 驚かせちゃった?」
さっきまでの対戦相手の一人――クラスメートのアナルダが心配そうにあたしを見ていた。
い、いけないいけない。考え事の途中で声をかけられた所為か、あたふたとしてしまったわね。
「な、何でもないわよ」
「そう? ならいいけど……」
何とか彼女を納得させると、あたしは距離を取った。そしてアナルダが纏っていたリヴァイヴから降りる時、その胸が弾むのが解る。
……ったく、どいつもこいつも何であんなに大きいのよ。IS学園の入学審査には胸囲もあるわけ!?
ええい、無い物ねだりをしてもしょうがないわ。あたしにはあたしの魅力があるんだから! それを生かせばいいのよ!
「どうしたのよ、鈴? 暗い顔してたと思ったらいきなり立ち上がって。次はあたしとの模擬戦なんだけど、大丈夫?」
……ティナ、心配してくれるのは嬉しいんだけどね。今のあたしにあんたが近づくのは、嫌がらせ以外の何物でもないわ。
とくに前かがみになられると、思わずもぎ取りたくなりそうだから。
「……」
部屋に戻ると、備え付けの姿見が目に留まった。あたしも代表候補生である以上、撮影だとかの経験がある。
その時に着た可愛い服でも持って来て、一夏に見せてみればよかったかな?
持ってこなかったのは、服なんて日本で買えば良い……位しか思ってなかったからというのと。
あたしの性分で、寮生活ならボストンバッグ一つくらいの荷物にしておきたかったからというのがあるけど……失敗したかな。
「あ、そうだ。確か去年の夏に撮った写真が残ってた筈だけど……」
端末を操作すると……あ。出た。やっぱり夏だから、今の季節よりもちょっと薄着だけど。
「これならいいかな……?」
我ながら、結構可愛く取れていると思うけど。……よしっ、これから一夏の奴に見せに行こう。
「別に、写真見せるくらいならあいつだって断ったりしないわよね! モンド・グロッソ本番じゃないんだし、この位なら大丈夫!」
自分に言い聞かせるようにして端末を握り締め、あたしは部屋を出た。
さて、と。あいつも特訓してる筈だし、もう部屋に戻ったかな? それとも……
「難しいな……」
「!」
一夏の声が、通路の先から聞こえ。あたしの足と鼓動が早まる。
「いち――」
「何が難しいというのだ。さっきから言っている通り、くいっという感じだ」
「いやだから、そのくいって感じが解らないんだって!!」
……。飛び出そうとして、それはすぐに収まった。声だけで解る。一夏のもう一人の幼なじみであり、同室の篠ノ之箒がいる。
「くいっという感じは、くいっという感じだ」
「いやそれ、説明になってないぞ……」
「だったら、部屋でもう一度説明してやる! 解るまで寝かさんからな!!」
「おいおい……」
……遠ざかっていく声。それを聞いたあたしは、さっきまでの高揚が完全に消えているのがわかった。
その代わりに浮かんでくるのは、暗い感情。それがヤバいものだと解っていながら。――あたしは、それに身を委ねた。
「……もう一度、言ってみろ」
「何度でも言ってあげるわよ。あんたじゃ、一夏の助けになれない。だからあたしが助けてあげる、って言ってるのよ」
いきなり俺達の部屋を尋ねてきた鈴が、開口一番に言った言葉。それは、自分が俺に勉強を教える、という話だった。
「お前は二組だろう。クラス対抗戦で戦う相手なのだぞ?」
「勉強教えるくらいならいいでしょ? あんたの説明じゃ、一夏は理解できないみたいだし」
……勉強を教えてくれる、というのはありがたかった。俺も箒と一緒に勉強してきたし、安芸野もクラスメート達に教わっているらしい。
それ自体は、問題ないと思う。教わったとしても、発覚するのは俺の知識の無さだけだし。……だけど。
「鈴、お前。……なんでそんなに怒ってるんだ?」
「別にそんな事ないけど?」
いや、あるだろ。まるで毛を逆立ててる猫みたいに見えるぞ。そういう時のお前は、すっげえ怒ってるんだぞ?
「兎に角、自分の部屋に戻れ。……一夏には【私が】ついているのだ」
私が、を強調して言う箒。以前、鈴が部屋換えを言い出した時と同じだ。あの時は宇月さんが鈴を納得させてくれたけど……。
「充分じゃないから言ってるのよ。……ねえ一夏。この娘の説明、解りやすい?」
「……」
「そ、そこで何故黙るのだお前は! 私が教えているというのに!」
いや、だってなあ? 『グワッと斬り込んでズバッと行く』だとか『ひょいっと避けてがーーっと突っ込む』だとか……。
専門的な説明なら、代表候補生であるセシリアの方が知識が豊富だし。剣道ならまだ何とか解るんだが、なあ……。
「語るに落ちた、って奴ね。……じゃあ一夏、あたしの部屋に来なさいよ。マンツーマンで教えてあげるからさ」
「え、ここで良いじゃないか?」
「あんた、教えて貰うのにその相手を呼びつけるわけ? ふつー、自分から来るべきじゃないの?」
それには一理あるが。何か、箒から感じる視線の温度がどんどん下がってるんだよなあ?
「待て。百歩譲って教える事は認めるとしても、何故二人きりで教える必要がある」
「何言ってるのよ、あんただって今までさんざん二人きりだったんでしょ? だったらいいじゃん」
「ぐぬぬ……! な、ならば私もついていくぞ。クラス代表同士がそのような事をしては、八百長を疑われかねんからな」
……そこまで心配する必要があるのか? モンド・グロッソとかなら、そういう心配も必要だろうけど。
「――行くわよ、一夏!」
「ま、待て! まだ話は済んでいない!」
「へ? え? ぎゃっ!?」
気が付けば、俺を連行しようとする鈴に左手首を掴まれ、逃すまいとする箒に右手首を掴まれ。
大岡裁きの子供のように、俺は両腕を引っ張られていた。この状態の二人が、相手に譲るわけは無い。幼なじみ故に、嫌でも解る。
「ちょ、ちょっと待て二人とも、おちつ――」
「止めんか、小娘ども」
「ふぎゃっ!?」
「うぐっ!?」
「あぐっ!?」
……電光石火の如き速さで、出席簿が俺達三人の頭を殴打した。声の主は、言うまでもない。
「……織斑先生。一つ、質問してもいいですか」
「何だ」
意外な事に、一番早く立ち直ったのは鈴だった。千冬姉を苦手な鈴が、珍しいな……?
「なんでこいつらは、男と女なのにまだ同室なんですか。おかしくないですか?」
「――聞きたいか、凰」
「はい。ぜんぜん、納得できませんから」
これまた珍しく、一歩も引かない様子の鈴。……かすかに足は震えてたけどな。
「――本来ならば、少し前に織斑の部屋の準備は出来ていた。予定通りならば、既に織斑と篠ノ之は別室だったのだがな」
「じゃあ、何で――」
「今年は中途半端な時期に転入してきた奴等が大勢いるのでな。そいつらに部屋を宛がうと、織斑を移動させる余裕がなくなったのだ」
「え……?」
鈴の勢いが止まる。……それって、鈴や安芸野の事か? 大勢、って言うからには俺が知らないだけで他にもいたのかな?
「じゃ……じゃあ、俺と箒がまだ同じ部屋なのは?」
「転入生があったから、だな。そいつらが来なければ、お前達はもう少し早く別室になっていただろう」
「……」
鈴はまるで停止画像のように動かなくなっていた。ようやく立ち直った箒も、微妙な表情をしている。
「で、でも! 三組の、安芸野とかいう男子を一夏と一緒の部屋にすれば……!」
「クラス対抗戦が終わる前に、三組代表と一組代表を一緒にはできん。
三組担任の新野先生から、安芸野と織斑は別室にして欲しいと言われたからな」
「そ……そうだった……」
それは安芸野が言っていた事だったけど、鈴も知ってたみたいだな。まあ、俺も何度か他の女子に聞かれたし。
「納得したか? なら、部屋に戻れ。お前もクラス代表だろう、本命だからと油断していると足元を掬われるぞ」
「……」
鈴は、入ってきたときの様子が嘘のように立ち去っていく。……そんなあいつに言葉をかけてやるべきなんだろうか。
放っておいてくれ、って言ったなら放っておくのがいいかもしれないけど……この場合は様子が変だったし……。
「……俺の対応が、まずかったのかな。鈴に力量を読まれるのを恐れて、一緒に訓練とかはしなかったし」
そんな言葉しか出てこなかった。これでも鈴と廊下で会えば挨拶は交わしたし、食事時間が一緒になった時には相席したりもした。
それで、友達としては充分だと思ってた。……でも、あいつにとっては違ったんだろうか?
「そういうわけではないな。あいつは、訓練云々で機嫌を損ねているわけではない。――もっと根源的なことだろうな」
「根源的?」
「まあ、ある意味では子供じみた機嫌の損ね方だがな。――無理もないか」
……? 今の言い方だと、千冬姉は何かを知っているような口ぶりだぞ?
「さて、お前らもあまり騒ぎを起こすなよ? ストッパーがいないからといって、騒ぎを黙認する気は無いからな」
そう言って、千冬姉は帰っていった。……うーん。何なんだろうか。
「一夏」
「ん、何だ?」
「解りづらいのならば、解るまで懇切丁寧に教え込んでやる! さっきも言ったが、今夜は寝かさんぞ!」
……何故か異様に燃える箒を前に。とてもじゃないが、断る気力は湧いてこないのだった。
俺は、IS学園を一望できる位置にある高層ビルの展望レストランにいた。ここが待ち合わせの場所だからだが、客は一人もいない。
スコールによって貸しきり状態になっているからだが……。
「……やれやれ。ようやく実戦、か」
レアのステーキを食いちぎり、笑う。クラス対抗戦は、予定通りならば『アレ』が来る筈だからな。
その後で強襲でもかけるほうが良いだろう。このクソみたいな物語、せいぜい引っ掻き回してやるさ。ただ、気になるのは……。
「三組と四組……それと、バトルロイヤルって事だな」
三組の機体なんぞ『原作』には出てこなかったし、四組の機体は二学期になってからの完成のはずだった。
もう一人の男なんて物も出てきやがるし、少しばかり違うらしい。……まあいいか、どうせ俺は――。
「……ケントルム」
「マルゴーか。お前が使い走りか」
「そうだ。お前の持つISの『例のシステム』は上手くいっているのか?」
「ああ。問題ないぜ」
現れたのは『俺と同じ存在』であるマルゴー(ラテン語で、端)だった。うざってえな。ったく、複数もいらねえっての。
どんな低脳な「神」かはしらねえけどな。どーせ『間違って殺しちゃったから転生させてあげるね』ってパターンか何かだろう。
『最初の予定よりも少し早まったが、クラス対抗戦が初陣ってわけだ。せいぜい暴れさせてもらうぜ』
『あまり暴れすぎるなよ。話を最初から変えすぎると、後で厄介になるぞ』
『何だよ、命令か?』
『忠告だ。俺達の「知識」とて完全ではありえない。篠ノ之束はおろか、スコールにさえ届かないのだからな』
これはプライベート・チャネルでの会話だったが。……へっ、臆病者が。
ドールなんていうISのパクリが出来る位だし、あのキ○ガイ兎だって絶対じゃねえだろ。
「まあ、命令などする気は無いが。せいぜい足元をすくわれんようにな、という事だ」
そういうとマルゴーは去った。……あー。うざかったぜ。
ケントルムのもとから『三人目』であるマルゴーが去っていく。そして『彼』は、思考の海に没頭していた。
(俺達は、この世界に連れてこられたわけだが……何をするべきなんだろうな)
彼は、気がつけばこの世界に転生していた。そしてまるでネット上の創作物のように『力』を与えられたのだが。
(……既にクラス対抗戦の時期に来ているが。スコールからの情報では、二人目の男がIS学園に既に来ていて。
それと、更識簪の機体が既に建造を開始している、と言う話だったな)
それは、彼の知識とは違っていた。だが。
(あの二頭龍の神が言っていた事が確かならば、俺がこの世界に連れてこられた意味は……)
彼が出会った、二頭を持つ龍。自身を神だと名乗るそれは、自分が彼をこの世界に連れてきたのだと言った。その理由とは。
(変わり行く世界を俺自身が変えろ、か。……まあいいか。確かに、この世界は歪んでいるからな)
それは彼自身が実際にこの世界で過ごした末に得た感想だった。たった一人の科学者が産んだ存在が変えた世界。
性別により生じた差を、是正しようとしない世界。歩もうとしない者が中心にある世界。それは、異常だと考えていた。
(それにしてもあの龍神、あのカードゲームアニメの登場キャラの切り札みたいだったな)
天選者特有の思考に没頭し、苦笑するマルゴー。神の意図などわからない。だがそれは、自分自身で決めたことには間違いなかった。
「大丈夫なのかよ、スコール。あんなくだらねえガキどもに任せるよりも、私がアラクネで……」
「いいのよ。あの子達にも実戦経験を積ませてあげないとね」
そしてケントルムとマルゴーを、二人の美女が監視していた。金髪の美女・スコールと、黒髪の美女・オータム。
スコールは楽しげに見ているが、オータムは苦々しげに二人の『天選者である学生』を見守る。
「それよりも『12』からの通信はあったのかしら? それと、ドールの方は?」
「まだみたいだけどな。ったく、面倒な事だぜ。それにドールだって、所詮ISの紛い物だろ?」
「仕方が無いでしょう? それに、ドールからも得られる物はあるのよ? 今はただの『人形』でも『猟犬』の手伝いは出来そうだもの」
聞き分けの悪い妹をたしなめる姉か、あるいは子を諭す母親のような表情のスコール。その言葉は名の通りの『土砂降り』であったが。
「でもよお、アラクネを奪ってから動いてないから体が鈍っちまって……」
「あら。それならいい運動があるわよ? ――ふふふ」
肉食獣のような、しかし優雅さを含む笑みを浮かべてスコールはオータムを押し倒す。……ちなみに、両名とも一糸纏わぬ裸であった。
一方。生徒会室では、夜になっても明かりが煌々と灯っていた。
「アリーナ変更に伴う作業は、あとこれだけです」
「あっちゃあ。まあ、いきなり観客が増えたしねえ。おかげで、見られない生徒もいるらしいし」
「ええ。世界各国から観戦希望が来ていますしね……」
今回のクラス別対抗戦は、例年よりも注目を集める点だらけだった。一組と三組は、男性でありながらISを動かせる二人。
二組と四組も中国と日本の新型IS。そして何より、世界最強と同じ単一使用技能を第一形態から使用できるIS。
本来ならば別の会場であったのだが、警備上の都合・外部観戦者の入れ替え準備などで第二アリーナへと変更された。
そのせいで、事務系の関係者は不眠不休で働かされているという状況だった。
「では、こちらの書類に全てサインをお願いします」
「……。ねえ虚ちゃん、気のせいか私の身長よりも高い紙の山が出来てるんだけど?」
「はい、2m32cmですが。何か? ちなみに重量は――」
「……はいはい、それじゃあやりますか」
書類の山を三分割し、それを処理し始める更識楯無。結局その日、彼女と虚が就寝したのは日付が変わってからだった。
「安芸野。お前に面会だ。すぐに談話室まで来い」
「……」
――そんな台詞と共に、寮長にして一年一組担任の織斑先生が俺の部屋に来たのは食堂に行こうとする前だった。
空腹を我慢して、談話室へと行くと。
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「安奈さん!? な、何で学園に?」
そこにいたのは、予想外すぎる人物だった。な、何でこの人が?
「御影に対するチェックや、君の様子も気になったからね。時間に余裕もある事だし、久々に母校を見るのもいいと思ってね。
それで、変わりは無いかい? クラスの女子とは、仲良くやれているかい?」
安奈さんは、黒のスーツ姿で凄く決まっている。というよりも、この人の私服は見た事がないんだけど。
「ええ、元気です。クラスの女子とは……仲良くはやれてます。結構、振り回されてますけどね」
「それならばいいよ。私もそうだが、ここの女子は男に対する免疫がなくてね。付き合い方がわからない部分があるからな」
……何だろうか。安奈さんは笑顔なんだが、何か違和感がある。まるで、何かを隠してるみたいに……。
「そういえば、真理さんは? ここには来てないんですか?」
「……彼女は、自衛隊を辞めたよ」
「え……?」
一瞬わけが解らなくなったが。安奈さんの表情で、今のが聞き間違いでも何でもない事を悟らされた。
「ドールの事で上から叱責を受けていてね、相当悩んでいたらしい。誰にも相談せず、辞表を提出したよ」
「し、叱責って……どういう意味ですか?」
欧州以外の世界各国の開発者は似たような状況だと思うのだがね、と切り出して説明を始めてくれた。
ISと同じ能力を持つ『ドール』を、欧州連合が開発した事。それが、自衛隊内部の彼女達の位置にも影響している事。
『ISと同じ能力を持つモノ』を目指していたのは自分たちも同じだったのだが、それを先んじられた事で叱責を受けた事。
それの開発にこだわっていた真理さんには、特にショックが大きかったであろう事を。
「そんな……。俺、全然知らなかった……」
「君に変なプレッシャーを与えてもいけないからね、教えない事にしていたのだ。気にすることでは無いよ」
俺の意識の中ではせいぜい『男も空を自由に飛べたらいいな』『四次元ポケットが出来ればいいな』くらいだったんだけど。
二人にとっては、ある意味で人生を左右するくらい大きなことだったのだと気付かされた。
「話は変わるが……御影の事は、黙っていてくれているのか?」
「ええ」
――それは、手伝ってくれているクラスメートにさえ秘密だった。コレを明かすのは、クラス対抗戦などのイベント。
そう言われていた。ステルス機能は自衛隊にいた頃にも使った事はあるので、使い方が解らないって事は無い。
二組の凰も、その機体の特徴を隠しているらしいし、四組の機体も情報は漏らしていない。
織斑の場合、クラス代表決定戦で明かしているので不可能だけどな。
「本来なら、白式のみが相手だと思っていたが――。中国と日本の代表候補生+専用機というオマケまでつくとはな。
君の初戦の相手にしては、少々大きすぎるかと思っていたが」
「……まあ、そうですね」
勝てるのかな俺、と思わなくもない。
「それとすまないが、この後で整備室に来てくれ。御影に、新しい装備が出来たんだ」
「そうなんですか!?」
それは助かる。零落白夜とか、どうやって防ごうとか考えてたし。二組や四組の代表候補生からの攻撃の事も、考えないといけないし。
「これでクラス対抗戦も、少しは楽になるかな」
「そうだな。それにしても、今回はクラス代表全員が専用機もちとはな。IS学園始まって以来じゃないかな?」
「あはは……」
それに関して、クラスメートの新聞部部員にインタビューされたな。結構ちゃんとした会見スタイルで、無茶苦茶緊張したけど。
「私達の頃は、代表候補生が訓練機を駆って行っていた、というのにな……」
「そう……なんですか」
微妙にやばい話題な気もするが、安奈さんから話題を続けてきたので無視するわけにもいかず。辛うじて、答えを返せた。
「安奈とも、クラス代表の機体整備で何日も徹夜をした事があったよ。お陰で、当日は寝過ごしかけたりもしたがね」
「へ、へえ……」
何とか話題を変えようとするが、出てこない。……そういえば女子は、あっさりと話題を変えたりするんだよなあ。
俺には到底無理な話だ。以前食堂で聞いたら、織斑も似たような事を言っていたが。これも性別の違いから来る物なんだろうか……?
「……すまん、少しだけ愚痴を吐いてもいいかな?」
「へ? ――おわっ!?」
そういうと同時に、安奈さんが俺に抱きついてきた。な、な、何を……!?
「……真理とは、この学園にいる頃からの親友だと思っていた。思っていた、んだがな……」
――俺にも、僅かだけど解った。安奈さんが、何に弱っているのか。ドールの事とか、叱責の事とかじゃなく。
親友だと思っていた人が、自分に何も言わずに去り。そして、自分がその心に全く気付けなかったから弱ってる……って事が。
「少しだけ、スッとしたよ。……すまなかったな、変な事をしてしまって」
「い、いいえ」
抱きつかれた時に、スーツ越しとはいえその膨らみの感触がしたのは絶対にばれてはいけないだろうから。
俺は、必死で無表情を装っていた。いつもの安奈さんなら見破るかもしれないが、今の彼女は……どうだろうか。
……。そして、新装備の量子変換は終わった。あとは、俺が使いこなすだけなんだ。
「じゃあ、御影は任せたぞ。新装備に関しては、一応明かしても構わない。ステルス機能の偽装にもなるしな」
そう言って、安奈さんは帰っていった。新装備は、というと、楯を使った『防御システム』だった。
これを使えば、零落白夜を止められる……可能性もあるらしい。これとステルス機能、二つの『使い分け』こそが御影の真骨頂であり。
片方を明かす事により、もう片方を隠すのが偽装……らしいのだが。
「やるっきゃ……ないよな」
ギリギリ間に合った夕食の後、ベッドの上で足を伸ばし、アンクレット状態の御影に視線を向ける。
協力してくれているクラスの為にも勝ちたい、とか思っていたけど。もう一つ、戦う理由が増えた。
「俺が御影を使って織斑に勝てば。……あの人達も元気になってくれるかもな」
元世界最強・織斑千冬の弟であり、その単一使用能力さえ受け継いだ織斑一夏。それに対して、俺は普通の一般人。
ISの経験はどっこいどっこいだし、知識の方は……まあ、殆ど違いは無いだろう。
そんな俺が奴に勝てば。――いや、御影が勝てば。安奈さんや、どこかに去っていった麻里さんにも元気を与えられるのではないか。
ガラにもなく、そんなことを考えた。勿論、勝てるかどうかも解らないし。勝ったとしても、そんなに上手く行くとは限らない。だけど。
「俺は……勝ちたい、な」
「こんばんわ、安芸野君。いいかなー?」
今夜の家庭教師役である戸塚(姉)の声と共に。俺は、そんな言葉を漏らすのだった。
……終わらない。もう一話はかかりそうだ。……なんでこんなに話が進まないんだろう。
そして安芸野に微妙な心境変化フラグ。一夏に欠けている、とよく言われる「目標意識」が定まる……かな?
新装備に関しては、クラス対抗戦本番まで秘密。ただしヒントは今までの話の中に……あるかも。
今回登場のマルゴーはチート・神様転生・IS適性保持の主人公。さてさて……。