今回は変な文章がありますが、これはこれから使う(予定の)台詞+ダミーです。
お遊びですが、一部重要な伏線であったりしますのでご容赦下さい。
「……暇、ね」
昨日倒れて、少しだけ体力が戻った所で保健室から自室に帰ってきて、そして今は自室静養中なのだけど。
全快ではないが少しだけ回復した分、暇を持て余していたりする。
何かをしてもいいのだけど、ここで先走ってまた倒れた……なんて事態になってはギャグにもならないし。
「ただいま、香奈枝。お客さんよー」
と、タイミングよくフランチェスカが帰ってきてくれた。時間を見ると、ちょうど放課後だ。そしてお客さんは――。
「かなみー、元気になったかな~~?」
「お、おじゃま、します」
本音さんと更識さんだった。手には、何やら紙の箱を持っている。
「お見舞い、だって。私はちょっと用事があるから、出てくるわね」
そしてフランチェスカは言うが早いかいなくなってしまい、後には私達三人が残された。
「……気分は、どう?」
「結構良いわ。さっき保健室から先生が来てくれたけど、明日にはもう復帰できそうだ、って言ってた」
更識さんは、どういうわけか昨日よりもずっと親しく応じてくれている。……何かあったのかしら。
「かなみー、これはどう~~?」
そして布仏さんはお見舞いの品を私に渡している。普通なら果物が多いのだろうけど、今回はお菓子だ。
私も甘い物は好きなので、それはそれでありがたいのだけど……渡されようとしたものを見た途端、少し硬直した。
「し、シュークリーム……」
「シュークリーム、苦手なの……?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと、過去にトラウマがあってね……」
……思い出しただけで、少し吐き気がしてきたわ。
「じゃあじゃあ~~。こっちはどうかなー?」
「そ、それはいいから。それより、今日は大丈夫なの?」
「この後、すぐに戻る。……ただ、その前に貴女に話があったから」
そういうと、更識さんは何かの図面を取り出した。
「打鉄弐式……こっきん?」
「それは、黒金(くろがね)って読むの。……打鉄弐式・黒金」
それは、打鉄弐式の図面だった。以前に見せられた完成予想図とは異なり、打鉄の物理シールドを装備してある。
これなら、耐久性はかなり上昇している筈だ。更に量子化した物理シールドも仕込んであるから、防御性能はかなり高いだろう。
武装は、8連装ミサイルポッドと小口径荷電粒子砲。基本的に遠距離タイプであり、近接攻撃力等はかなり犠牲になっている。
戦術としては距離を保ち、ミサイルと荷電粒子砲での遠距離攻撃と防御に重点を置きながら戦っていく機体だ。
他にも色々なメリットとデメリットがあるけれど、更識さんに以前見せてもらったプランとの最大の違いは。
「これなら、打鉄のパーツを流用できる。……クラス対抗戦にも、間に合う」
「……いいの?」
私は、思わず確認した。図面の隅っこにあったサインから、それが『誰が書いた図面か』解ったから。
「……大丈夫。機体のシステムさえ確立できれば、また違うタイプの機体にする事も出来るから問題は無い。
今回は、クラス対抗戦で勝ちに行く事を優先させる。それに本音や黛先輩にも手伝ってもらえる事になったから。
私『達』だけで組み立てられる余裕はある。――ううん、間に合わせてみせる」
あらまあ。私がここで休んでいる間に、何があったんだろう? 凄くハッキリとした喋り方だけど。
「……これは、私のプランじゃなく。別の人がくれたプランだけど。使いこなすのは、私だから」
……本当にふっきれたみたいね。
「……何があったの?」
あの時は、不本意だけど約束だから手伝ってもいいって感じだったのに、僅かな時間でここまで変化するなんて。
あの時のオルコットさんほどじゃないけど、かなりの変心ぶりだと思う。
「私も、ヒーローになりたいから」
……説明を受けた筈なのに、更に意味が解らなくなった。……あれ、何か既知感があるような?
「自分の力を出し尽くして。自分に与えられた力を、使いこなせるようになりたいから。……貴女にも教えられた」
補足(?)で少しは理解できたけど。……最後の方が聞き取りづらくて少しわからなかった。
「吹っ切れた、の?」
「……まだそうだと言い切れない所もあるけど、選んだのは私だから。――それと」
そして、更識さんはそこで言葉を切って、私をじっと見つめ。
「貴方の力、必要だから。――早く体調を戻して、戻ってきて」
はっきりと、そう言ってくれた。
「……ふふ」
二人の退室後、僅かながらだけど達成感を感じた私は、ベッドに横になる。
話をして少し疲れた身体が求めるままに、睡眠に入り。何かを考える間もなく、私は夢の中へと落ちていくのだった……。
「モッピー知ってるよ。モッピーが出れば、絶対に勝てるんだって」
「玉子の甘味とバニラエッセンスの甘味が交じり合い……うーまーいーよー!!」
「ふふふふふふふふふふ。今こそ『深遠なる宇宙の力の導かれるままの混沌の狭間』の目覚めの時……」
「この私が修正しようというのだよ、世界中の人類を」
「たまたま動かしたISだけど、専用機になりました……ってアニメじゃないのよ!」
「今年は、とことん常識やぶりの年になる運命なのね」
「おはようございます、マスター」
「胡瓜とトマトが、勝利の鍵だ!!」
「――コアナンバー001『白騎士』の初期化を開始する」
「俺の知っている『織斑一夏』はいないということか……?」
「ISコアは、塩だったという事か」
「砕けろぉぉぉ!! サイレント・ゼフィルスゥゥゥゥ!!」
「……何なのよ、今の夢は」
ベッドで、私は寝ぼけ眼を摩っていた。わけの解らない単語が飛交っていたような夢。
一時間半くらいの睡眠は目覚めが少し悪く、どんな言葉が飛交ったのかさえ思い出せない。
「あー、もう食事時間かあ。……お腹すいたわね」
一応、寮内であれば歩けるくらいの元気はあるので。パジャマの上からカーディガンを羽織って、私は食堂へと向かう事にした。
「……マジできついな、これは」
俺は、一人だけの部屋で青息吐息だった。実戦機動はライアン、火砲関係は赤堀+春井、剣関係は戸塚(妹)といったように。
クラスメート達からそれぞれの得意分野を教わっているのだが、とにかくこれがきつい。
自衛隊でやった事が基礎中の基礎ならば、今のクラスメート達から習うのは応用。
専用機を持っていないとはいえ、皆は俺よりも知識面ではずっと上。ライアンは代表候補生なので、搭乗時間すら俺を上回る。
「覚える事も多いしなぁ」
実戦関係だけでなく、都築・加納のブラックホールコンビ(※情報を何でも集める事が由来)が集めてくる他クラスの情報もある。
それを聞く限りでは、織斑も二組の凰とかいう中国の代表候補生も、かなりの強敵らしい。
「俺も、まだまだなんだよなあ。凰って女子にはもちろん、織斑にも追いついてないだろうし……」
この上、現在製作中らしい四組代表――日本の代表候補生らしい――まで専用機で来たら、絶対に勝てそうにないぞ。
「安芸野君も、だいぶ動きが良くなっているとは思うのですが?」
「そうだね。数ヶ月にしては、上出来だと思うよ?」
「……で、お前らは何でしれっと俺の部屋にいるんだよ?」
ウェーブのかかった長く赤味を帯びた髪を優雅に揺らす、見た目はお嬢様みたいな――しかし結構きわどいミニスカートの都築。
短くまとめられた黒髪と色気の無いジーンズだが、快活そうな雰囲気と宝塚系の雰囲気を併せ持つ加納。
対照的な髪と私服、雰囲気を持つブラックホールコンビが、いつの間にか俺の部屋に潜り込んでいた。
「お前ら、ノックも無しっていうのは失礼じゃないのか?」
「失礼な。先ほど、ノックはしましたよ?」
「そうそう、指先でね?」
「……出来れば、俺の耳に聞こえるくらいの音でノックをしてくれ」
時々、この二人は俺の部屋に突然やって来る。ドアはオートロックでは無いので、鍵を閉め忘れていると中まで入ってくる。
「まあまあ、気にしないで下さい。私達は、別にスパイというわけではありませんので」
「そうそう、そもそも私達は男に興味は無いし」
……そんな事をあっさりと言われた俺は、どう反応を返せばいいんだろうか。兎に角、常識外れの二人だった。
――いや、違うな。『二人』じゃない、一年三組はどうも変わった人材が多いような気がする。たとえば。
「やっぱり実弾は良いですね。あの硝煙……反動……排出される薬莢……ああ」
仙道という女子が、そんな事を言ったのがきっかけで。
「実弾よりもビームでしょう! 正義の光が、一直線に敵を討つ! 超長射程のビームが敵集団を薙ぎ払うなんて、最高です!」
と赤堀が返し。
「それなら剣の方が良いわよ! 剣で星すらも斬る、とか最高じゃない!」
戸塚(妹)が割り込んできた。っていうか、星すら斬る剣って……。
「強さだけじゃあ駄目だよ。謀(はかりごと)も戦いの常識。相手の土俵に上がらず、こちらのペースに巻き込まないと」
これは加納の言葉だが。これをきっかけに議論がヒートアップし、クラス代表の俺はそれの纏めに右往左往したのだった。
案外、ライアンがクラス代表を俺に譲ったのもこのクラスの特異性が起因してるんじゃあないだろうか?
転入初日に先生が『少々アクのある生徒もいるけど、基本的には皆良い子』と言っていたが。
いるけど、ではなくてアクの強い連中しかいないじゃないか、と言いたい。悪い奴はいないから、嘘じゃないんだろうけど。
「どうしたのです、安芸野君?」
「い、いや、何でもない。あれ、都築の読んでるそれって……」
「月刊ISワールドニュースの最新号ですよ」
「ああ、もう出たのかそれ」
月刊ISワールドニュース。ISに関する情報を世界各地から集めて発行する専門誌で、この学園でも購入する生徒がいる。
とはいえこの学園の二年生レベル以上の知識が必要なので、一般では殆ど買う人はいないらしい。
自衛隊にいた頃に麻里さんや安奈さんが読んでいたので見せてもらった事はあるが、何がなんだかさっぱりだった。
来年にはこんな事も解るようにならないといけないのか、と少しブルーになったのを覚えている。
「じゃあ俺、そろそろ飯にするから。お前らはどうするんだ?」
「ああ、そういえば忘れていましたが。仙道さんと歩堂さんが一緒にどうかと言っていましたね」
「というわけで、安芸野君も一緒に良いよね?」
「……ああ」
まあ、何だかんだで色々な美少女達と食事というのはありがたく。俺は、食堂に向かうのだった。
「……ふう」
食堂に向かう途中で、俺は溜息をついた。原因は、さっき出会ったフランチェスカとの会話。
彼女によると宇月さんはもう大丈夫らしいが、まったく、無理のしすぎなんだよなあ……。
「――逆に俺は、もう少し無理しないといけないのかな」
ふと、そんな事を思った。――原因は、今日の放課後。
『さて、織斑。白式を展開しろ』
『は、はい!』
千冬姉の直接の指導、という緊張する事態。いつもの白ジャージに竹刀を持っているだけで、迫力が数段違う。
『今日は、瞬時加速を教える。本来ならばもっと後の方で教える技術なのだが、既に使いこなせる段階に来たようだからな。
――さて、瞬時加速の原理は覚えているな?』
『は、はい。一度放出したエネルギーを、もう一度IS本体に戻して爆発的加速を得る事です』
ここで覚えていない、なんて言った日には明日の朝日は拝めないので、予習済みだ。
『よし。では白式に、そのためのプログラムはあるな?』
『はい』
そちらも俺の意思で実行できるであろう事が既に確認済みで、あとは実際にそれを行うだけだ。
『では、実際にやってみろ。お前に解りそうなイメージとしては、そうだな。足を踏ん張り、一気に力を解き放つような感じだ』
『……』
言われたとおりのイメージを思い浮かべる。……いけえっ!
『おわっ!』
何とか成功したものの、その加速力は俺の想像以上で。アリーナのバリアにぶつかりそうになるのを、何とか止められた。
ISの防護機能が働いているにも拘らず、今までに体験した事の無いレベルの凄いGが来る。
『それが瞬時加速時のGだ。それに慣れなければ、瞬時加速を使いこなす事など出来んぞ』
『……これが、か』
『まだまだ経験の浅いお前では難しいだろうが、使いこなせば、今のお前でも凰とも少しはマシに戦えるだろう。
――では私の指導は以上だ。後は任せるぞ、オルコット』
『はい!』
そして千冬姉は去り、それからセシリアと共に瞬時加速の使用訓練をした。……何とか、使えるようにはなったと思うんだが。
「実戦で使えるかどうかは、解らないよな……」
今日は機体の空きがなくてセシリア一人だったが、本番では三人。鈴と安芸野と、更識さんを相手にする事になる。
タイミングを間違えば、自滅だとも言われたし。……ふう。
「よう、織斑。今日は一人か?」
「ああ、安芸野じゃないか」
と、偶然にも安芸野がやってきた。気がつけばもう食堂で、あっちは四人の女子を連れてきている。
「おお、織斑君だ!」
「ふーん、初めてみたけどまあまあイケメンかな?」
「後で写真をお願いします。いえ、けっして売ったりはしませんので」
「……」
「織斑、一緒にどうだ?」
「――そうだな」
はしゃぐ女子、値踏みするような女子、写真をねだる女子、我関せずの女子。色々な反応を返してくる。
今日はセシリアも箒もいないので、この五人と一緒に食事にしようか。クラス対抗戦で戦う仲だけど、食事くらいはいいか。
「美味いなあ、これ……」
「あれ、織斑君と……男子生徒?」
俺が出し巻き卵定食を味わっていると、聞きなれた声がした。
ああ、そうか。宇月さんはまだ会った事なかったな。というか彼女の場合、忙しくてそれどころじゃなかったか。
「ん、一組の女子か?」
「ああ、そうだ。安芸野、彼女は俺のクラスメートで……」
「宇月香奈枝よ。よろしく」
「……宇月、香奈枝? ……カナちゃん、か?」
宇月さんの言葉を聞いた瞬間、安芸野は変な事を言い出した。
「え?」
「おや? そっちの女子は安芸野君の知り合いなの?」
「え、そうなの!? 確かその子、織斑君と同じ中学で、彼のIS起動の第一発見者の……!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私は貴方の事なんて、知らないわよ?」
宇月さんは混乱した声をあげている。周りもざわめいているが……。
「……じゃあ、ちょっと聞きたいんだが。君は、△▼県の×◎市に来た事があるか? 盆と正月の辺りに」
「え? あ、う、うん。そこに、父さんの実家があるから盆と正月に行ってたけど……な、何でそれを!」
「やっぱりか! 俺だよ、タカ坊だ!!」
「え? あ、え? えええええっ! た、タカ坊!」
宇月さんが驚いているって事は、やっぱり知り合いなのか。
「で、でも苗字が違うわよ……! たしか、苗字は」
「ああ、俺の母親、三年前に再婚したんだよ。それで苗字が変わったんだ」
「そ、そういえば母子家庭だっけ……」
「――なあ、積もる話があるみたいだけど、俺の部屋か宇月さんの部屋にでも行って話さないか? ここだと……」
「そ、そうね。そうしましょう」
今は幸い人が少ないが、壁に耳有り障子に目有りって言うからな。ただでさえ目立つ男子が二人、なんだし。
「安芸野君、後で情報提供をお願いしますよ」
「大ニュースだよ、これは!」
さっき自己紹介してきた三組の女子のうち、二人が異様に盛り上がってるしなぁ……。
そして自室で二人の話を聞くと、それは中々に意外な真相だった。
宇月さんが小学校の頃の夏休みや冬休みに遊びに行った、父方の実家がある町。それが安芸野がかつて住んでいた町だったらしい。
その後安芸野は、母親の再婚と同時に別の町に引越し、今年の春にISを動かしてしまい、今に至る……らしいのだが。
「へー。つまり、俺と箒や鈴みたいなパターンか」
「……ちょっと違うけど、昔知り合ったという意味では近いかしら。織斑君達ほど長い間、思い出を共有したわけじゃないけどね」
「しっかし驚いたぜ。まさかカナちゃんまでIS絡みの道に進んでたなんてな」
「……それはこちらの台詞よ。まさかタカ坊がISを動かせるなんて、ね」
安芸野は嬉しそうに。宇月さんは意外すぎる再会に驚きと呆れが混じった笑みを浮かべている。
その会話は、俺と箒が……あるいは鈴と再会した時のような感じで、何処か懐かしさを感じてしまう。
「そういえば、彼女は元気? ほら。貴方と仲の良かったくんちゃん……一場久遠は?」
「ああ、久遠か……」
久遠? 誰だろうか。ひょっとして、安芸野の恋人か何かか?
「いや、な。あいつ、中学に入学した直後に転校していったんだよ。エアメールとかはしてたんだけどな」
「エアメール? え、あの娘、外国に行ったの?」
「ああ、アメリカに渡ったんだ。最近は俺も忙しくて、エアメールさえ遅れないけどな」
……アメリカ、かあ。それは遠いな。そういえば俺も、箒に一度手紙を出したけど返って来なかったっけ。
鈴は中国の住所を伝えてこなかったから、そもそも出せなかったし。
「それにしても、二人目の男と宇月が知り合いだとは……縁とは、何処で交じり合うか解らないものだな」
部屋に戻っていた箒の言葉に、全員が頷く。俺達もそうだ、箒や鈴と再会できるなんて、数ヶ月前まで予想だにしなかった。
「それで、彼女とはどうなのよ? まだ付き合ってるの?」
「え? つ、付き合う? ……何で?」
「え? い、いやだって、いつか来た久遠の手紙に『タカ坊と付き合うことになった』って……」
「な、何だそれ! っていうか、久遠が! 俺達、そんな関係じゃないぞ!」
「え?」
どういう事だろうか、宇月さんと安芸野の会話が噛みあっていない。
「……ごめん、そろそろ戻るわ。フランチェスカも帰ってくる頃だろうし」
「……悪かったな、部屋を借りて。俺も戻るわ」
言うが早いか、宇月さんはそのまま部屋に戻っていく。そして、安芸野も自室に戻っていき。
「一夏、私は夕飯を取ってくるが。お前はどうする?」
「ちょっと勉強しておく。今日も難しかったからな……」
「そうか。では、な」
箒も食事に向かい。俺は、ノートと教科書を開くのだった。
「はい、もしもし――」
『今日の報告だよ~~』
「……本音。いくら姉妹とはいえ、自分の名前を名乗ってから用件を言いなさい」
『てひひー、ごめんねー』
生徒会室では、電話を受け取った布仏虚が渋い顔をしていた。しかし、その妹・本音は何処吹く風とばかりに受け流す。
「黛さん達に協力をお願いして明日から手伝ってもらえるようになった、とまで聞いたのだけど。今日はどうだったの?」
『今日はねー。見直したスラスターデータの打ち込みとー、資材室からパーツを取ってくるのと~~。成型もやったねー』
「そう。じゃあ、明日から本格的な作業に入るのね。――それで、簪お嬢様の様子はどうなの?」
『んー、かんちゃんは【今は】一生懸命に走り出してるよー』
「……今は?」
『かなみーやいっしーの影響で、少しだけ吹っ切れてるけどー。……まだまだ、だよー』
「……それも当然ね。ある意味では、問題の先送りにしかなっていないものね」
現在の更識簪の心理は、危うい物だった。打鉄弐式を自力で開発する、という夢を捨てたわけではないのに姉の図面を採用する。
それを『自分で使いこなせれば良い』と理由付けたものの、根底にある姉へのコンプレックスは消えてはいないからだ。
悪い言い方をすれば、宇月香奈枝の努力(とそのダウン)や本音・石坂悠の言葉から生じた雰囲気に乗じているだけとも言える。
香奈枝は『吹っ切った』と判断しているそれは、もしも何かがあれば、あっさりと瓦解するであろう代物だった。
「本音。お嬢様を、しっかりと守ってさしあげるのよ」
『当然だよー。かなみーには、負けていられないよ~~』
「……」
布仏虚は、意外そうな表情で妹の声を聞いていた。当人は気付いていないだろうが、その声に珍しい感情を感じたのである。
(ああ、なるほど。……この子にも、嫉妬があったのね)
短期間で簪に近づいた香奈枝に、幼なじみの自分の場所を侵食されたような気分を受けたのだろう、と推測する中。
「じゃあ、そろそろ切るわね。お休みなさい」
『お休み~~』
「ただいま」
通話を終える同時に、主である更識楯無が戻ってきた。今はクラス対抗戦の会議で、この部屋を離れていたのだ。
「お帰りなさいませ、会長。どうでしたか?」
「ん、これで対抗戦の準備は二割は終わったわね。後は――」
「打鉄弐式の件ですが」
「……どうしたの?」
飄々としたその態度が、妹の話題を持ち出した途端に崩れる。
「今の所、問題は無いようです。会長もご存知の黛薫子さんが、明日から手伝うそうですが」
「そ、そう。薫子ちゃんなら安心ね、うん」
そういうと、わざとらしく自分の席に座って事務処理を始めるのだった。その話題は、昨日聞いている筈なのに。
(本音だけに任せておくのではなく、私自身も動くべきなのでしょうか)
虚としては、自分達が仕えるべき存在である更識姉妹の不仲には関わる気は無かった。そもそもこれは、憎しみから生じた物ではない。
むしろ、双方の相手に対する意識しすぎが原因なのだから。
「……どうしたの、虚ちゃん。考え事?」
「ええ、少し。――でも、今は仕事を優先させましょう」
「そう、ね」
そして夜の生徒会室に事務処理をこなす音だけが響き。……会話は殆ど無いまま、その日は終わるのだった。
(……どういうこと、なのよ?)
明日の予習をしている香奈枝の頭からは、先ほどの意外すぎる再会が離れなかった。更に。
(久遠……嘘をついたの?)
会う事はなくなったとはいえ、手紙のやり取りをある時機まで続けていた友達。一場久遠とは、そんな間柄だった。
――そして、かつて彼女の安芸野将隆への告白を後押ししたのが、香奈枝であるのだが。
「……ふう」
「それにしても香奈枝が安芸野君とも知り合いだったなんてねー。これでクラス代表四人全員と知り合いじゃないの」
そういうのはフランチェスカだった。彼女は嫉妬するでもなく、驚くでもなく。ただ楽しげにルームメイトを見る。
「香奈枝はひょっとして、凄い星の下に生まれてきたんじゃないの?」
「違うわよ。そんな人間じゃないわ」
やや呆れて返事をするが。凄い星、という単語である事を思い出していた。
(……そう。あの時の白い天使のような人じゃないとね)
それは、昔見た光景だった。天使のように神々しく、夜空を舞うその存在。それは星のひとつが地上に舞い降りたようで。
夢でも幻でもないそれを、今ではISであったのだと信じている。そして多くの少女が願うように、ISへの道を進み始めた。
そしてISについて学ぶうち、それ自身よりも、あんなISを自分の手で作りたいと思うようになった。何故なら――。
(綺麗だった、わよね)
芸術品とも通じる、ある種の美しさを持つIS。彼女はそれを、自分の見た『天使』に感じた。
まだ小学生の頃の事だから、美化してそう感じるのかもしれないが。
(そういえばあれって、白騎士の流れを組む機体だったのかな)
白騎士。10年前に世界を変えた、最初のIS。白騎士事件の画像は一部ではあるが公開されており、彼女も当然それを見た事がある。
彼女の見た白い天使と似たような箇所は多いのだが、明らかに違う部分もあった。色々あるが、何といっても。
(普通のISよりも少し小さかったし、ね。小型化したのかしら)
そのサイズが、まるで違っていた。記憶の齟齬などもあるかもしれないが、少なくとも彼女自身はそれを白騎士だとは思っていない。
だからそれは、打鉄と打鉄弐式のような関係にある機体なのではないか。それが、今の彼女が白い天使に持つ推測であった。
「白騎士、かあ……」
「え、白騎士がどうかしたの?」
「え? あ、ううん、何でもないわ」
「ふーん。白騎士っていえばさ、やっぱり織斑先生なのかなあ?」
「さあ、ねえ? その確率は一番高い、とは思うけど。まさか聞けないしね。もしも聞いたら、凄い事になりそうだし……」
「……」
「……フランチェスカ?」
……。その後、少し前のトラウマがフラッシュバックしたルームメイトを必死で正気に還そうとする香奈枝の姿があったという。
そして予習も終えて就寝となるのだが、思い浮かぶのは白い天使の事。
(……まあ、二度と会うことも無いだろうし、今は白い天使よりも打鉄弐式だものね)
そう思考を打ち切り、眠りへと入った。――だが、彼女の予想は間違いである事を、その時の彼女は知る由も無かったのである。
説明しておきますと、この時の簪の状況は、原作では191ページまでの簪に似た状況です。
一夏と楯無の会話から、一夏から貰ったデータの出所が実は姉であると発覚し、簪が落ち込む前あたりに該当します。
さて、落ち込むイベントがどうなるのか! それの再起イベントは! それは……どうなるんでしょうね。