「……」
僅かに赤い目で、更識簪は授業を受けていた。といえ、授業は今更聞かずともわかる為に授業には集中していない。
普段ならば打鉄弐式のプログラムに集中する所なのだが。どうしても、昨日の一件が集中を妨げていた。
(どうして……私は……)
次々と浮かび上がる自己嫌悪が、彼女の思考を蝕む。そんな中、クラスメートの声が聞こえてきた。
「やっぱり……かな?」
「専用機じゃないと……」
「早く作ってくれれば……」
「だいたい一人で……」
少し途切れ途切れだが、内容は理解できた。――それが、よりいっそう彼女の心を苛む。
(……もう、いい。周りが何と言おうと、関係ない……)
彼女は心を閉ざし、自分の殻に閉じこもる。それはやむを得ない反応であったが。同時に、悪い兆候でもあった。
そして次の休み時間。更に彼女の心を苛む噂が飛び込んでくる。それは。
『一組の生徒二人が、夜の生徒会室に呼び出された』
というものだった。
放課後。あたしは、第二アリーナでクラスメイト三人と共に訓練をしていた。
「歩くのは、感覚よ感覚!! ――そうっ! 授業で言ってた感じ!!」
借りられたのは打鉄二機、ラファール・リヴァイヴ一機。
とはいえ、クラスメイト達は専用機持ちでは無いわけだから基本操縦に慣れることから始めている。……そしてその後は。
「行くわよ、凰さん!!」
「当てて見せるからね!!」
私と、模擬戦も出来るようになった二人相手での模擬戦だった。皆のレベルアップにも繋がるし、ちょうどいい。
今回はバトルロイヤルだから、複数の敵から狙われると言う訓練にもなるし。一石二鳥、というやつだ。
クラスメイトの皆からすれば、入試以来の実戦というので緊張してるみたい。何でわざわざ、と言う人もいたけど。
何せ無理矢理クラス代表を譲ってもらったわけだから、この位はしないと罰があたりそうだし。
「甘いっ!」
「ううう……」
「くうううう……当てることも出来ないなんて」
あたしは自分の前方と後方、打鉄二機による同時の斬りかかりを避けた。当たったら当然、掠めてもアウト。
これは一夏対策だった。現役時代の世界最強の千冬さんと同じワンオフアビリティー・零落白夜。
クラス代表決定戦を見ていた女子によると、一撃で敵ISのシールドエネルギーを削り尽くしたらしいし。
「じゃあ、次の攻撃準備は良い? 攻撃方法は、任せるわ。あたしは、避ける事に専念するから。心配しないで」
あたしのIS・甲龍の最大の特徴である『龍咆』も近接戦闘武器である『双天牙月』も、クラスメート相手には使えない。
威力が高いし、射撃訓練ならアリーナ施設で充分だし。……勿論、こんな事は口に出来ないけど。
「じゃあ凰さん、次は私が加わりましょうか?」
そして、リヴァイヴを纏うクラスメイトのファティマ・チャコンが前に出る。
――今日ISを借りられた最後の一人であり、あたしの前のクラス代表。そしてアルゼンチンの代表候補生の娘だった。
「それじゃ、行くよ!」
「ええ、良いわよ!」
彼女は代表候補生でもあるから、他のクラスメイトのように動作指導なんていらない。――久しぶりに、真剣勝負が出来そうだった。
「……ありがとね。助かったわ」
指導兼複数の敵からの攻撃回避訓練が終わり。あたしは皆に礼を言っていた。代表候補生からすれば大した訓練じゃないけど。
そうじゃない二人は、けっこうしんどそうだ。
『良いって。……ここだけの話、クラス代表には選ばれたけど、結構プレッシャーだったんだ。私は、代表候補生でも専用機は無いし』
ファティマとIS同士の通信――プライベート・チャネルで会話をしたけど、これは人には聞かせられない会話だろう。
いくら代表候補生同士なら専用機の有無はやはり大きいとはいえ。こんな事を人前で話したら、かなりやばい。
……まあ、ファティマの言ってる事も当然なのよね。アルゼンチンが悪いわけじゃないけどさ。
聞いた話だと、アルゼンチンは中国ほど多くISを所持してないから。彼女まで専用機をまわせなかったようだけど。
「デザートパス、絶対にとってよね」
「任せときなさい!!」
まあ、それは関係ないことで。あたしは、クラスメイトに勝利を誓うのだった。
「こんにちわ、更識さん」
「……」
私達が来ても、更識さんは振り向く事すらせずに打鉄弐式にかかりきりだった。さて、どうやって話を切り出そうかな……。
「……それで、何処まで頼まれたの?」
なんて思っていたら、向こうから来た。私が生徒会室に行ったのは、朝には一組で噂になってたし。四組まで伝わったのだろう。
「全部よ。貴方の機体、何とか形にしてくれって言われた」
「そう……え?」
あっさり口にされるとは思わなかったのか、尋ねた方が目を丸くしている。
「いいお姉さんね。……私は一人っ子だから、貴女や布仏さんが少し羨ましいわ」
織斑先生レベルになったら、流石に勘弁だけど。
「……」
姉を褒められた途端、更識さんは目をそらす。……多分、こういう事を言われ慣れているのだろう。
「まあ、貴女は貴女だから気にしなくても良いと思うけど」
以前、篠ノ之さんが篠ノ之博士の妹だと皆にわかった時の感じで言ってみるけど。
「……」
多分、これも布仏さん辺りが言っているのか。あまり反応は無かった。
「ところで、提案があるんだけど」
「……」
「私達にも、手伝わせて。貴女一人じゃ、クラス別対抗戦には絶対に間に合いそうもないから」
「……必要ない。本音も、貴女も。ISを最初から作る事については殆ど知らないだろうし……」
予想通り、痛い所を突かれたけど。
「でも、一人よりは三人の方がいいわよ。会長だって、虚先輩や黛先輩に手伝ってもらっていたんでしょう?」
「……」
それは知っていたらしく、返事がない。ただ無言でプログラムを組んでいた。
「……何が出来るというの? 荷物運びくらいなら、させてもいいけど」
思いっきり棘のある言葉。――だけど、それを待っていたのよ。
「ええ、今は荷物運びくらいしか出来ないわ。だから、今夜から虚先輩に特別授業を受ける事にしたの。
最初は駄目でも、ある程度まで叩き込んでもらうつもりよ。ちなみに、織斑先生達にも許可はとってあるわ」
今朝先生にこの件について話をしたら『やってみろ、ただし無茶はするな』の一言だけが返事だった。
だけど、その目は決して厳しくなかったのが印象的だった。
「え……?」
これは予想外だったのか、更識さんはその妹――布仏さんを見る。まあ彼女はいつもどおりだから、暖簾に腕押しだけど。
「虚先輩に合格をもらえたら。私達も参加させて欲しいの」
「解った。……虚さんに合格をもらえたら、ね」
その言葉には『クラス対抗戦までに合格をもらえる筈が無い』というニュアンスがあった。
まあ、確かにあと数週間で協力が可能な段階までレベルアップできるのかと言われると……でも、やるしかない。
「それじゃあ、今日はこれで。これから特別授業だから、失礼するわね」
「ばいばい、かんちゃーん」
私達が整備室を出るときも。彼女は振り向かず、無言だった。
「はーい?」
その日。俺が箒と一緒に勉強をしていると、ノックが響いた。セシリアか、宇月さんか?
「どちら様――え?」
だが。扉を開けると、そこにいたのは一人の男子生徒だった。俺より少し低めの背丈で、ややがっしりとした体格。
「おま……君が、織斑一夏か。テレビとかで顔は知ってたけど、直に見るのは初めてだな」
「え……。そ、それじゃあ……?」
少し緊張しているようだが……。俺も、ようやくその存在に思い当たる。
「ああ、初めまして。俺は安芸野将隆。……二人目の、ISが操縦できる男だよ。本日付で、このIS学園に編入してきた」
「……そうか。こっちこそ、初めまして。織斑一夏だ」
「ああ、二人しかいない男子同士、仲良く――っておい。何で俺の手をがっしり掴む?」
「安芸野……IS学園に、よくぞ来てくれた!!」
俺は、目の前の男・安芸野の存在がこの上なくありがたかった。学園内に俺一人だった男子。
だがこれからは、俺一人じゃ無いんだ!! 一組じゃないのが残念だが、それは我儘って奴だろう。
「……お、お前もしかしてそっちの気ありか?」
そっち? 何の事だろうか。
「き、貴様らっ!! 何をしている!?」
と、箒が慌てた様子で飛び出してきた。机に座って復習してたのに、何でそこまで慌てるんだ?
「お、女の子?」
「そう、篠ノ之箒。俺のルームメイトで幼なじみだよ」
「へえ。こんな可愛い娘がルームメイトだったのかよ。しかも幼馴染み。羨ましいぜ」
「な、ななっ!?」
「可愛い幼なじみがルームメイトで、色々と『助かってる』んじゃないのか?」
何でニヤニヤしながら言うんだ? まあ、見ず知らずの女子じゃなくて箒で助かったのは事実だよな。
「そうだな」
「……」
あれ、何で箒は真っ赤になってフリーズしてるんだろうか。
「なあ、俺の言った意味……いや、いいわ。解ってないだろうから」
何がだろうか。いや、本当に助かってるんだぞ?
せっかくなので、茶でもどうかと言うことで安芸野を部屋に招いた。あっちは微妙な表情だったが。
やっぱり学園に来たばかりで緊張してるんだろうか?
「さっき箒の事を言っていたけど。お前はルームメイトいないのか?」
「いないんだよ。まあ聞いた話だと、男同士の俺とお前とを同室、って案もあったらしいんだけどな。
転入してくる前に既に俺が三組のクラス代表になってるらしくて。
だったらクラス対抗戦が終わるまでは俺とお前とを離しておいたほうが公平だ、って事らしいな」
なるほど。確かに一組と三組のクラス代表が同室というのは不味いな。……鈴の事も、そう言えば問題にならなかったかもしれない。
「茶だ。生憎、菓子は無いが」
「お、ありがとな、箒」
「ご馳走になる。――それじゃ、いただきます」
箒の入れてくれた茶を飲む。……うん、美味いな。
「……」
「何だよ、俺と箒をジッと見て」
「いや。何か夫婦みたいだなと思って」
……その言葉と同時に、湯飲みを落とす音がした。
「ほ、箒? 大丈夫か? 怪我は?」
「だ、大丈夫だ。ゆ、湯飲みもわ、割れてはいないぞ」
そうか。……にしても、珍しいな。
「ああ、やっぱりそういう事か……」
何がだよ?
「なあ織斑。お前、好きな娘とかいるのか?」
何故か部屋から連れ出され。そして自販機の近くのソファーに座って何をするかと思えば……恋話か?
そう言うのは、男同士でする話じゃ無いような気がする。アイドルとかモデルの写真集を取り囲んで、とかならまだしも。
「なんでそんな事聞くんだ?」
「だってよ。ここの女子のレベル、かなり高いぜ?」
「まあそうだな。倍率が一万倍って試験を受かってここに来るんだし。文武両道じゃなきゃ、やっていけないだろう」
だから、ここを受験する為の専門コースを備えた中学があるわけで、殆どの生徒はそういう中学の出身者らしい。
一般中学から合格した宇月さんのようなケースは、とても珍しいらしい。
「……そうじゃなくて、可愛い娘が多いって事だよ。外人も多いし」
「まあ、日本人だけじゃないのは確かだな」
金髪や碧眼、褐色や銀髪などなど……こういう光景は、一般の高校じゃ珍しいだろうなあ。
一組も過半数は日本人だが、セシリアやフランチェスカのように海外出身者も多いし。
「お前……いや、まあそれもそうなるか。織斑先生みたいな美人が姉じゃあ、しょうがないよな」
「どういう意味だ?」
悪口……じゃないようだが。
「人間ってのはな、自分の周りが『普通』だって考えるもんなんだよ。で、お前の女性の基準は母親と、姉である織斑先生だろうが」
「……」
箒、あるいは鈴……あいつらも入るけど、やはり一番身近といえば千冬姉だろう。……母親は、いないけどな。
「つまり、織斑先生のレベルが『普通』になってるんだよ。……あれだけの美人、そうそういないぞ?」
「いや、確かに千冬姉は美人だとおもうけほごっ!?」
……理不尽だ。何故、美人だと言ったのに叩かれなければならない。
「学校内では織斑先生、だ。忘れたか、馬鹿者」
「……」
どうやら拳骨を落とされたらしい。安芸野が、目を丸くしている。
「安芸野。お前はここに来たばかりだから、色々と解らない事もあるだろう。
ここにいる織斑は、お前よりも一月分IS学園について詳しい。施設、授業形態、その他の学園に関する事……。
何か疑問があれば、こいつに聞くのもいいだろう。それと、女子への対応は……まあ、騒ぎを起こさん程度にな」
「は、はい!」
まるで軍隊みたいな敬礼をする安芸野。……ビビッてるな、こいつ。
「それと、女性の美醜を公共の場で口に出すな。今の世の中は、それだけで厄介な事になるからな」
そういうと、千冬姉は去っていった。……その時になってようやく気付いたが、いつもより、少しだけ痛くなかった。
ああは言ったけど、美人と言うなら別に女性側も嫌がるわけじゃない。……実は、照れてたりしたのかな?
「……織斑、あの先生っていつもあんな感じなのか? さっき入寮の挨拶した時も、あんな感じだったんだが」
「まあ、そうだな」
「あの先生って一組の担任でもあるんだよな。……俺、三組でよかったわ。世界最強の女性だけあって、威圧感もハンパないな。
プレッシャーとか感じないのか? 俺なら、威圧感で授業どころじゃなさそうだぜ」
「プレッシャー……はないわけじゃないけど。でも千冬姉が俺を今まで育てて、守ってくれたんだぜ?」
いや、正確に言うと今もそうか。過去形じゃないな。守って『くれている』だ。
「育てて?」
――あ。
「……まあいいか。それにしても、守ってくれてた、か」
「ああ。だから俺も、千冬姉を守れるくらいにはなりたいんだ」
藍越学園に進学して、卒業後は就職して自立して。千冬姉の世話にならずに生きていく、というのが二月までの目標だった。
だけど、何の偶然なのかISを動かして。この学園に入学し、そして専用機まで貰った以上、俺はこの道で生きていくしかない。
セシリアと戦った次の日に彼女が言っていたように、日本代表になるのか。あるいはもっと別の道があるのか。
――それも、探していかないといけないけどな。とりあえず今は、クラスの皆の為にクラス対抗戦で勝つ事が目標だ。
「お姉さんを守る、か」
「ああ、そうだ。まあ、俺はまだその一歩目も踏み出してないだろうけどな」
「……織斑、結構格好いいじゃん」
思わず出た一言を安芸野はスルーしてくれて、そして傍から見ると結構熱いやりとりになってしまった。男同士だからだろうか?
「なるほど、なあ。お前の目標は、お姉さんを守れるくらい強くなる事か」
「まあ、な」
途方も無く高い目標だし、何より『本来俺が求めていた』道じゃない。――だけど、今はこの道を歩くしかないんだ。
「でもよ。あの先生、お前に守ってもらわなくても大丈夫な気がするんだけど?」
……いや、それを言わないでくれ。俺も時々、そう考えないわけじゃないんだから!!
「あっ!! あれよ、もう一人の男子生徒って!!」
「しかも織斑君と一緒にいる!! 者どもーー! かかれーーーっ!!」
「いっ!?」
「な、何だっ!?」
やはりというべきか、とうとうというべきか。俺と安芸野は女子に見つかってしまった。
安芸野転入の話はもう知っているだろうからか、集団で来ている。
入学二日目……暮桜誤解騒動や箒との一戦があった日のような感じだ。
「ねえねえ、貴方が二人目の男性IS操縦者?」
「結構フツメンだねー。でも、親しみやすそうでいいかもっ! 私の名前はね……」
「何処から来たの? 趣味は? 家族は? 恋人はー?」
「メルアド交換しようよー!! あ、織斑君も一緒にさ!!」
……あっという間に俺達は女子の渦に巻き込まれた。タレントの気分だが、生憎と俺はそれを喜ぶタイプじゃない。
安芸野も困惑しているようで、何も答えられないようだった。――あ゛。
「貴様ら、何を騒いでいる。消灯時刻はまだだが、騒いでいいと言った覚えは無いぞ」
「お、織斑先生……」
「二人目の男性IS操縦者・安芸野は、明日付で三組に正式に転入する。
それまでは、こいつに対して寮内での接触は禁ずる。――異論はあるか? 無いなら、解散だ」
静かだが迫力ある言葉に、女子軍団の盛り上がりも一瞬で霧散し。そして、あっという間に女子の壁は消滅するのだった。
「先ほどの私の言葉、理解できたか? お前達は、騒動の種なのだからな。これ以上、ここで騒ぎを起こすなよ」
「はい。嫌っていうほど理解できました」
放心した感じで去って行く安芸野。――心なしか、背中がすすけているような気がした。
「さて織斑、お前も帰れ。これ以上騒ぎを起こさず、クラス対抗戦に向けて勉強しておけ」
「は、はい」
俺も解放され。こうして、この騒ぎは収まったのだった。
「あら……一夏さん♪ こんばんわ」
「お、セシリアか。こんばんわ」
何という幸運でしょう。入浴を済ませ、部屋に戻る途中で一夏さんと出会えるなんて。……あら?
「少し、お疲れのようですけど。どうしましたの?」
「あー、解るか?」
困ったような、照れたような表情の一夏さん。そ、その表情も素敵で……お、おほん。
「セシリアはもう知ってるか? 例の、二人目の男子。今日来たらしいんだけど、さっき会ったんだよ」
「まあ、そうでしたの。ですが、何故それでお疲れになるんですの?」
「いや、部屋の外で会話してたら女子に囲まれてさ。千冬姉が鶴の一声で散らしてくれたけど、大変だった……」
たしかに一夏さんは、女性に囲まれて騒がれるのはあまり好まないご様子。
ですが。紳士たる者、そういった時の対応も身につけませんと。いざという時に困るのは、一夏さんご自身なのだから。
「セシリアは気にならなかったのか? 二人目の男子が来たって、皆が騒いでるけど」
「まあ、専用機持ちであるという事と三組の代表になったというのは少しだけ気になりますが。それよりも、彼女の方が大敵でしょう?」
「――鈴か」
ええ。中国の代表候補生にして、専用機持ち。わずか一年足らずでその地位を得たというのは、このわたくしよりも短期間。
一夏さんの参加するクラス別対抗戦、織斑先生も仰っていたように最大の敵は間違いなく彼女。
――そしてわたくしにとっても。二つの意味で強敵だった。同じ第三世代IS保持者として、同じ人を好きになっている同性としても。
そ、それにしても、お、幼なじみというだけではなく専用機持ちだなんて……。
わたくしのアドバンテージを無効化したばかりか、篠ノ之さんのアドバンテージも持っているという事になる。
篠ノ之さんにはまだ同室という点があるのに、わたくしには後はクラスメートという位しかない。彼女は、間違いなく大敵。
「……負けられませんわ」
「そうだな。……俺も、負けられないな」
図らずも、同じ言葉を選んでしまった。それが指す対象への思いは違えど、負けられない。その思いは、同じだっただろう。
「~~~~♪」
「その口笛、クラシックか? 何か、聞いた事ある気がするけど……」
「ヴァヴァルディ『四季』の『春』ですわ。一夏さんも、クラシックを嗜まれますの?」
「あー、いや。音楽の教科書に乗ってたんだろうな、それ。だから聞き覚えがあったんだよ」
「なるほど、名曲ですものね。それも当然ですわ」
わたくしと一夏さんは、部屋まで共に歩いていた。近くに用事がありますので、と口実を作って出来た二人きりの時間。
出来ればこのまま、何処か誰もいない場所で最良の一時を過ごしたかったのだけど。もう夜も遅いですし……。
……わ、わたくしとしては朝を迎えても構いませんが? い、一夏さんが望むのであれば……。
「セシリア? おーい?」
「は、はいっ!? な、何ですの?」
「いや。セシリアも代表候補生だろ? 鈴の情報、何か知らないかなと思ってさ」
あ、ああ。なるほど。そういう事……。もう転入して一週間経ちますし、本国では新しい情報を得ているかもしれないけれど。
「敵を知り、己を知らば……って言うからな。セシリアとの戦いも、情報が無かったら負けてただろうし」
……。ああ、この人は謙遜する人なのだなと思う。ブルー・ティアーズを初見で回避し続けたのはそのお陰なのだろうけど。
打鉄を借りたり、ブルー・ティアーズ回避のための訓練を受けたり。自分自身の努力もあるのでしょうに。
「で。何か、新しい情報を知らないか? 機密事項だろうし、普通じゃあ調べられないんだよな」
以前、彼女が転入してきた次の日辺りにも聞かれたのだけど。残念ながら、役に立つ情報は無かった。そして……
「……。残念ですが、本国に聞いてみないとありませんわ」
中国の新世代ISにも、特殊兵器の搭載がある事は知っている。ただ、中国の情報漏洩への対策は凄まじく。
それがどんな兵器なのか、などに関しては欧州連合でもあまり情報は無い。
ここに送ってきた以上は、明かしても構わないと判断したのだろうけど、出来るならば早く情報を入手したいのは同じ。
「まあ、他にも伝手はありますので調べてみますわ。対抗戦までには、何かつかめると思います」
これがリーグ戦やトーナメントであれば、戦っていくうちに情報も集められるが。今回のクラス対抗戦は、バトルロイヤル。
つまり、一戦で決着が付く。中国のISの秘密が解った時には既に実戦、では準備にはならない。
「ありがとうな、セシリア。今度何か、お礼するよ」
……その正直な笑顔は、とても素敵だった。ああ、何という至福の時。このままずっと――
「い、一夏! な、何故オルコットと一緒にいるのだ!!」
「いや、ばったり会ってさ。箒こそ、何でドアの前で待ってたんだ?」
「ぐ、偶然だ! 偶然外に出たところにお前が帰ってきただけだ!!」
至福の時は、あえなく潰えた。……嘘ばっかり。本当は、一夏さんの帰りを待っていた筈なのに。
「では、一夏さん。ご依頼、確かに承りましたわ」
「あ、ああ。お休み、セシリア」
私は踵を返すと、自分の部屋に戻っていく。後ろで何か騒いでいましたけど――今は、それどころではない。
そして恋心を一時(いっとき)しまいこみ、中国のISの情報を得る為に動き出した。
「一夏。オルコットへの依頼とは何だ?」
「いや、鈴の情報を聞いたんだ。そしたら、集めてくれるってさ。セシリアもイギリスの代表候補生だし。
中国のISの情報や鈴の腕前の情報を集めやすいだろうと思ったんだけどな」
「……そ、そうか。そうだな」
オルコットへの依頼。少し気になった私は、一夏に訪ねてみたが。やはり、問題のある事ではなかった。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず、だな。うん、それも当然だ。オルコットとの戦いの時も、そうだったしな」
「そうだよな。ただ、今回は俺の方も手札は読まれてるんだよなあ……」
どうしたもんかな、と続ける一夏。……私は、何もいえなかった。最近では、知識の方もオルコットに偏りつつある。
私が出来るのは授業の予習と復習くらいだ。一夏に教えられる事は、もう剣の道しかなくなりつつある……。
「……」
私に、ISを開発できるような頭脳があれば。オルコットのような、専用機があれば。もっと、一夏の役に立てるのに。もっと……。
「無いものねだり、だな……」
「え、何が無いものねだりなんだ?」
「何でもない。――さて、予習と復習を再開するぞ。安芸野が来て、中断していたからな」
私は慌てて表情を取り繕うと、部屋へと入る。……一夏は何か不自然な物を感じたようだが、何も言わなかった。
ようやく安芸野将隆はIS学園に入学できました。しかしここから彼にも苦労が色々と待っています。
何せ○○○○○○○○○○の○○と○○○○。○○○○が○○を、○○を○○して○○してしまい。
将隆は○○○○○○○○に○○○○、という流れになっているので。
そして更に九月になれば、○○○○に○○○○ある○○○○○○で○○○○○○の○○○○○○○○○○を
○○○○○○○○○○○○、という展開も待っていますので.
……うん、伏字多すぎで意味解らないですね。ちなみに○には漢字か平仮名・片仮名が一文字づつ入ります。