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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第8話-開発-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/28 15:00
・ 2001年6月中旬 AM8:54 横浜基地 宿舎


「ん・・・うほぉお゛お゛っ!!? 」
「ひっ・・・」
「あっ! 違うんだ霞、これは・・・」

 点呼ギリギリの時刻に気付き、奇声と共に慌てて飛び起きる武。 そしてそれを見て驚いた少女、社霞が軽い悲鳴を上げる。 それを見た武は彼女を落ち着かせながら、未だにハッキリしない脳を働かせて今日の予定を思い出す。 そうして身支度をしようとする武に、霞がある一言を紡ぐ。

「合格、おめでとう・・・ございます」
「それは皆に言ってくれ。 さあ霞、早いとこ夕呼先生の所へ戻った方がいい、俺もこれから皆の訓練に付き合わないと・・・な」
「はいっ!」
 
 勇気を振り絞って霞が自らの思いを伝えてくれた事に、嬉しさを感じる武。 そして霞が部屋を立ち去った後、時間が迫っている事に気付いた武は手早く着替え、皆が待つ教室へ向けて走り出した。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#8 開発


 戦術歩行戦闘機、英訳の頭文字を取ってTSF、一般には戦術機という略称で呼ばれているそれは、圧倒的な物量を持つBETAに対抗しうる現行人類の主力兵器だ。 戦術機が誕生する以前、BETAとの戦いには航空戦力を中心とした既存の兵器で事足りていたのである。
 しかし、後に光線属種と呼ばれるタイプのBETAが出現。 これにより物量を武器とするBETAを抑えられなくなり、人類はユーラシア大陸の大半をBETAに支配を許す事になる。 そして各地に作り出されたBETAの基地ともいえる建造物“ハイヴ”の内部は、非常に複雑な地下構造をしており、既存の兵器による制圧は不可能と言われていた。
 それに対抗するべく開発中だった宇宙作業用ユニットを原型に、3次元機動と汎用性を追及して開発されたのが戦術機である。 そして横浜基地のシミュレータールームにて、207B分隊の面々がまりもと武の2人がかりによる指導の元、操縦訓練前の座学を行なっていた。

「初期に投入された戦術機パイロット、これを和訳して衛士というが、その大半は航空機パイロットだ。 高い操縦技術を生かしてという理由だったのだが、御剣、彼らの初陣における平均生存率は知っているか?」
「20分程度でしょうか?」
「・・・8分だ」

 質問に答えた冥夜を含めた207メンバー全員が、まりもが告げた残酷な値に言葉を失う。 “前の世界”にて一連の講義は聞いていた武だったが、改めて聞くとBETAとの戦いの厳しさを思い知らせてくれる。

「この数値は当時の人類を震撼させた。 その後、衛士になる者には専門の教育カリキュラムが用意されるようになった。 お前たちがこうして適切な衛士の訓練と教育を受けられるのは、先人たちが積み重ねてきた犠牲と苦労の結晶だと言う事を忘れるなよ」
『はい!』

 まりもの講義に答える、衛士強化服姿の207分隊の面々。 彼らが身につけている99式衛士強化服(訓練生仕様)は、戦術機の機動によって身体に掛るGを軽減させる他、生命維持など様々な機能を持ち合わせたパイロットスーツだ。 性能は申し分ないのだが、何よりその見た目が着用を躊躇する原因だろう。
 特に大部分が半透明の衝撃吸収素材で出来ている女性用のそれは、着用している本人の羞恥心を煽る以外の何者でもなく、電脳暦世界からやって来た孝弘達にはさぞかし目の保養となったと言う。
 当然ながら孝弘はその最中に美雪によって何処かへ連れて行かれ、佑哉は血相を変えてやってきた桜花にみぞおちに一発お見舞いされる目に遭った。 VRに関しては天才的な技術を持つ彼らだったが、人型と言う以外は概念が全く違う今回ばかりは役が回ってこなかったようだ。
 各々酷い目に遭いつつ、PXに非難していた孝弘と佑哉を見つけたケイイチが声をかける。

「いたいた、こんな所で油売っていて良いのかい?」
「ケイイチ君か・・・ 戦術機だっけ? 白銀と違って、アレの操縦は俺たちには関係ないはずだろ?」
「ところがそうでもないみたいだよ~? 騙されたと思って、僕について来てよ」

 そういって微笑むケイイチを見て、孝弘はある種の脅威を感じる。 間違いない。 こうして彼が笑いながら話題を吹っかけてくる時、その裏でトンデモナイ研究や実験の類に協力させられるのは目に見えている。 だが彼らは美雪と桜花に追われている身であり、あろうことかケイイチは『OKサイン出してくれないと、2人に君らの位置を知らせちゃうよ?』と抜かす始末である。

「(どうしても俺達を参加させたいらしいな・・・)」

 脅迫とも聞き取れるケイイチの言葉に悪態付く孝弘ではあったが、廊下の方から自分達を探している声が聞こえてくる。 また彼女達につかまって面倒な事になるのはゴメンだ、そう思った孝弘達はやむなくケイイチの言うとおり、武と207Bの隊員達が訓練を行なっているシミュレータールームへと向かった。


・ 横浜基地 シミュレータールーム


「失礼するよ、神宮司軍曹」
「何だ!今は訓練中だぞ・・・ってサギサワ大尉!?」

 入室してきたケイイチ達とは気付かず、訓練生に対する口調で話しかけてしまったまりも。 慌てて敬礼をするが、とき既に遅し。 だがケイイチはそんな事を気にするそぶりも見せず、前後左右に躍動するシミュレータ機を眺めながら彼女に話しかける。

「それで、今シミュレータを動かしてるのは誰だい?」
「白銀准尉です、自ら訓練生たちの見本になると、先ほどから篭りっぱなしで・・・」

 困り果てた顔でケイイチに言った後、まりもがため息を付きながら武が乗り込んでいるシミュレータを眺める。 彼が操る97式戦術歩行高等練習機『吹雪』が仮想空間の中を舞い、所々に現れるターゲットに対し的確な射撃、時には短刀による近接攻撃で撃破する。 衛士としての技量は勿論の事だが、まりもは武が見せる特異な機動に首を傾げていた。
 光線属種BETAによって無効化された航空戦力の代替物として開発された戦術機であったが、光線属種が放つレーザーの前ではその装甲は無力に等しく、加えて照準が正確無比であった事から戦術機で大空を飛ぶという事は出来ない状態で居るのだ。
 だが目の前に映る武の吹雪はそんなものが始めから存在しないかのように、レーザー照射を受ける危険のある高度を優々と飛び続け、更にターゲットを撃墜してゆく。 未だに武の行動パターンが理解出来ないで居るまりもに、ケイイチが隣から声をかける。

「これが白銀君の戦い方か。 ここに来て始めて彼の動きを見るけど、良い感じじゃないか」
「しかし大尉、あの機動は実戦にはとても向いているとは・・・」
「第二世代以降の戦術機は、機動力によって回避主体の戦闘を行なうと聞いたけど?」

 確かに武の取る機動は、それまでの戦術機動にある範疇からかなり逸脱した物だ。 だがあの柔軟な機動を全ての衛士が行なえたら、戦場で死ぬ衛士の数は激減できるだろう。
 そして白銀がその持ち主だったとしたらと考えたまりもは、ケイイチにある策を伝える。

「確かに。 そう考えると、白銀准尉の機動はこれまでの戦術機動とは異なる、新たな対BETA戦闘の方法を編み出す切り口になりますね」
「僕もそう思っていたところさ。 多分、白銀君本人も薄々感じているだろうしね」

 恐らく今の訓練を終えたら、武は夕呼の所に戦術機の性能向上について話に行くはずだ。 そんなことを予想していたケイイチに、孝弘と佑哉がぞれぞれ口を開く。

「だけどケイイチ君、特別なのは白銀だけじゃないぜ」
「ああ! 他のメンバーも、磨けば光り輝く逸材ばかりだ。 そうですよね?軍曹」
「ええ。 白銀准尉が色々としてくれているお陰で、隊の結束も強くなっているようですしね」

 まりもが微笑んだ先に、武の操縦技術に魅了されている207B分隊の姿。 そしてその一人一人が、それぞれ得意とする分野と技能を持っている。

- 常に沈着冷静、近接戦闘のセンスと勝負に挑む真剣さはメンバー随一の冥夜。 -
- スタンドプレーが過ぎるのが玉にキズだが、その場にあった行動をする彩峰 -
- 様々な状況に対し的確な指揮を出し、最小限の被害で勝利を掴む榊 -
- あがり症持ちだが、それを差し引いても優秀すぎるほどの狙撃技能を持つ珠瀬 -
- 豊富なサバイバル知識と、誰とでも打ち解ける正確の持ち主である美琴 –

 そして“元の世界”では彼女達とクラスメイトの関係で、各々の特徴と扱いに関して熟知している武。 バラバラだった隊員達が手を取り、共に力を合わせて任務を達成する事こそがまりもや孝弘達教官陣と、武が見たかった物がもうすぐ現実になろうとしている。

「ボやっと見てないで、お前たちもシミュレータに搭乗だ! 白銀准尉から、手取り足取り教えてもらえ!」
「「「「了解!」」」」

 武の操縦センスに見とれている冥夜達に、いつもの鬼教官の口調で指示を出すまりも。 モニターには依然として、仮想の大空を優々と舞う武の吹雪があった。


・ PM12:13 横浜基地 食堂


「さぁ~昼だ昼だ! おなか空いたね~!」
「ねえ晴子、講義終わったばかりなのに元気なの?」
「そこら辺をキッチリ分けるのが、あたしの心情だからね。 茜、急がないとカウンターが埋まっちゃうよ?」

 午前中の座学を終えた207A訓練小隊のメンバーである柏木晴子と、彼女に腕を引かれている涼宮茜が、賑やかになりつつある横浜基地の食堂兼PXに訪れる。
 まりもに代わって彼女達の面倒を引き受けた佑哉と桜花の指導が答えたのか、昼食を食べる機満々な柏木に対して一緒にいる茜はかなり意気消沈している。

「おばちゃん、合成オムライス一つ」
「私は合成力うどん定食ね」

 午後の分もあるので今のうちに食べて力を付けておこうとカウンターに向い、京塚のおばちゃんにメニューを注文する2人。 その直後、茜はある変化に気付く。

「ねえ晴子、オムライスって今までのメニューにあったっけ?」
「う~ん、言われて見れば・・・」

だが改めて2人がメニューを見ると、確かに『合成オムライス』と書かれている。 それだけではない。 二人が頼んだメニューに加えて合成ハヤシライス(サラダ付き)、合成レバニラ定食、合成スパゲッティ・ミートソース等、本来一人で食堂を切り盛りしている京塚が作らない、あるいは作れないであろう洋食系のメニューが大幅に増えているではないか。
 出来立ての合成オムライスとうどん定食を持ってきた京塚に、晴子がメニューについて問いかける。

「はいよ! 合成オムライスと合成力うどんお待ち! ケチャップはそこにあるから、自由にかけなよ」
「おばちゃん、何時の間にオムライスなんて作れたの?」
「ああ。 異世界だか何だかしらないけど、こないだ新任の教官さんたちが来ただろ? その子達が色々と教えてくれたのさ」
「えっ? それってまさか、私達の教官をやってる・・・」
「そうそう! 確か美雪ちゃんと桜花ちゃん、そんな名前だったねぇ~」

 そう志津江が口にする名前に、2人は心当たりがあった。 それは他でもない、自分達の教官を務めている女性士官の名前である。 あの2人がここまでの料理スキルを持っていたことに少し驚くも、これも異世界に暮らしていた彼女たちだからこそなのだろうと思っている最中、志津江の声が2人の耳に届く。

「ホラ、いつまでもそこにいると後ろがつっかえちまうだろ?」
「「は・・はいっ!」」

 だが、これで昼の楽しみが増えた事には変わりはない。 次回に頼むメニューを考えながら、茜と晴子はつかの間のランチタイムを満喫したのだった。


・ PM17:22 横浜基地 武の部屋


「う~ん! 今日もお疲れさん、俺の身体~!」

 本日の指導を終え、クタクタに疲れた武が自室のベッドで背筋ををグッと伸ばす。 総合戦技演習に合格し、本格的に衛士として成長していく皆の姿に、武は楽しくて仕方がなかった。
 加えて電脳暦世界の人々も協力的であり、世界各国との関係構築はまだ時間がかかるものの、こちらの方からも十分なバックアップを受けている。

「(このまま上手くいけば、俺達はBETAに勝てるかもしれない・・・!)」

 絶望の一端に見えた、希望という名の輝き。 もうすぐそれを掴み取る事が出来ると思うと、嬉しさのあまり顔もにやけるというものだ。 そんな彼の部屋に、一人の人物が迫る。

「白銀君~? そこに居るか~い?」
「その声は・・・サギサワ大尉ですか?」

 拍子抜けするほどの楽しげな声が、ドアの向こうから届く。 武がドアを開けると、書類が挟まったバインダーを携えたケイイチの姿があった。

「いやぁ~良かった、色々と君に伝えなきゃいけない事があるからね」
「俺に? 一体何です?」

 そう武が聞くと、ケイイチは持っていたバインダーを彼に手渡す。 そしてそれに挟まっていた書類を読み進める武の目付きが真剣になっていくのを見て、ケイイチはニッコリと微笑みを浮かべる。

「サギサワ大尉! これって・・・!」
「うん、207メンバーが乗る戦術機、吹雪のカスタムプランだよ」

 横から入ってくるケイイチの小話をBGM代わりに、武は書類を読み進めていく。 書類にはケイイチの言葉どおり、近日207訓練部隊に配備される97式戦術歩行高等練習機『吹雪』、その隊員達全員のカスタムプランが記載されていた。

「(流石ケイイチさん、皆の戦闘スタイルに最適のカスタマイズを施している)」

 更に詳細なデータに目を通していくうちに、武の鼓動と感情が高まってゆく。 どうやらB分隊の方から先に改造を施すらしく、そのための図面や詳細な兵装のデータが記載されていた。

左腕に装備する短刀の代わりに長刀ホルダーを装着し、最大3本の長刀を装備可能な御剣機。
 各関節部を徹底的に強化し、散弾砲やEU軍の戦術機が使用しているスパイクシールド等肉弾戦装備が施された彩峰機。
 頭部に高精度の情報処理ユニットを搭載し、更にノイズキャンセラーやECMメーカー等電子戦装備が充実している榊機。
 腕部にクライミングアンカーやセンサーボム、マシンピストル型のチェーンガンと大型ナイフ等変則的な戦闘が可能な鎧衣機。
 頭部に高精度センサーを装着し、夕呼の計画から拝借した長距離用電磁速射砲を装備する珠瀬機。

「基本的に、B分隊の機体を改造するんですね?」
「B分隊の子達は皆、君と親しくなっているみたいだからね。 そっちが上手くいけばA分隊の方にも、同様のカスタマイズを施す予定さ」
「ユニットや武装は全部外付けか・・・」
「うん。 イザという時には強制排除して、通常の吹雪になる事も出来る。 故障や破損で使用不可能になった時は、ただの死重量(デッドウェイト)になるからね」

 ケイイチの話に、当然の機能だろうなと武は思う。 生死を掛けた戦場の中で使えない装備をそのまま持っているというのは、どんな我慢大会だよといつの間にか心の中で突っ込んでいた。 そしてそれらの機材や費用は、全部電脳暦側の勢力が受け持つという太っ腹さだ。

「それで夕呼先生達は、このプランにOK出したんですか?」
「『金と材料はアッチ持ち』って話を聞いたら、すかさず司令部が出したらしいよ。 当の博士は、ちょっと不機嫌そうだったけどね」
「その時の先生の顔が目に浮かぶ・・・ん?」

 そう苦笑しながら最後のプリントに目を通した瞬間、戦術機の改造とは別の計画に武は気付く。 一つは跳躍ユニットに関係する何か。 もう一つはそれらとは別の、ソフトウェアに関わる何かだ。
 再び自分を見て微笑むケイイチに、武は内容について質問する。

「サギサワ大尉、これは?」
「一つは電気推進システムを採用した跳躍ユニット、そしてもう一つは戦術機に搭載するOSの開発立案さ」
「お・・・新型OSの開発ですか!?」
「君もうすうす感づいているだろ? 自分の操縦技術では戦術機の能力発揮がアレで限界だって」

 ケイイチの言葉に、武は強く頷く。 “前の世界”ではバルジャーノン仕込みの操縦で皆を驚かせていたし、VRでもそれらから培ってきた操縦テクニックで菫達をアッと言わせた事もあった。 そんな技能の持ち主だからこそ思う。

- 自分の操縦方法を皆が出来る様になれば、生き残れる確立が高まるのではないか・・・ -

「一番手っ取り早い方法はMSBSを乗っける事だけど・・・ 出来ないよなぁ~」
「だから君の行動パターンを元にしたOSを、香月博士と共同で作ろうと思うんだ」
「俺のパターンですか?」

 そうしてケイイチは、武と話を交えながら新OSと跳躍ユニットの要点を練り上げていった。
 まず武が行なう戦術機とVRの操縦には、ある種の共通点が存在していた。 先行入力とコンボ入力、そしてキャンセル動作である。 これらの動作はバルジャーノンにおいて幾多の対戦をこなしてきた武にとって自然と出来ることであり、テレビゲームという概念が存在しないこの世界においてそういった概念が通用しないのは当然だった。
 そして電子工学と機械工学の塊である戦術機にそれらを取り入れれば、それらの動作が実現できるのではないかとケイイチと武は踏んだのだ。

「仮に今の戦術機OSがMSBSVer.3.3相当の物だとすると、君の概念を用いた新OSはVer.5.66クラスの品になるだろうね」
「もしそうなったらスゲェ進歩じゃないですか! あっ、この跳躍ユニットに使われる電磁推進って何です?」

 現場に居る技術屋の仕事の半分は説明なのかなと思いながら、武はケイイチの話を聞く。 もう一つは跳躍ユニットに電気推進システムを取り入れるという計画だ。 電気推進というのはプラスマイナスの電極の間に放電を起こさせ、そこに推進剤を注入し、高温高圧になったそれを後方へ送る事で推力を得るという推進方式だ。
 従来跳躍ユニットに採用されていたのロケット・ジェット混合推進に比べ、小型軽量かつ即応性に優れているという利点がある。 加えて戦術機の直接的な動力源である燃料電池ユニット、その燃料である水素を共用する事で跳躍ユニット分の燃料を積む手間がなくなるのだ。

「僕らの世界じゃ、宇宙用の機器は勿論、大気圏内用のタイプも実用化されているからね。 宇宙用と比べるとちょっと燃費が悪いのが欠点だけど・・・」
「それを使うかどうかは、夕呼先生達の最良に掛っている訳ですね」
「跳躍ユニットはともかく、OSはガチで提案するつもりだよ、君からも博士に売り込みしてくれるかい?」
「勿論です! 俺の力で一人での衛士が生き延びられるのなら、土下座してでも先生に取り入ってもらいますよ!」
「それを聞いて安心したよ。 それじゃあ、これをまとめて司令部に提出しに行くから、これにて失礼するよ」

 そう行って部屋を後にするケイイチに、後で礼を言っておこうと武は思う。 元々OSの件はもう少し後になってから夕呼に話す予定だったのだが、ケイイチの助力もあってかなり早まった。
 何事も、切っ掛けさえあれば物事は加速するのだなと思いながら、武は時間ギリギリの夕食を取る為に部屋を後にした。


6月19日:新OS開発計画承認。 207訓練部隊を同OSの開発部隊に選出。
6月20日:207B分隊、帝国軍より提供された97式『吹雪』搬入直前に伴い、カスタムプランのデータを導入させた仕様でシミュレーター訓練開始。


第9話に続く


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