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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] DayAfter#2
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/06/01 08:28
・ 2002年 4月某日 AM9:34 国連軍ユーコン基地 第1演習場


 冷たく澄んだ空気が漂うユーコンの大地、横浜基地のそれと似て非なる配置がされた鉄筋コンクリート製のビルの影に、1機の戦術機が身を潜めている。 機体は往年の乗用車を思わせる白と黒のツートンに色塗られ、各所に配置された青色のセンサーが得た景色と情報が、管制ブロックに座る衛士にリアルタイムで送られる。
 BETAとの戦いで颯爽と前線に飛び出し、人類が持つ最強の刃として戦場に君臨する戦術機が、何故自らその身を隠すような体勢でいるのか。 それにはただ一つの理由があった。

「チッ、94サードなら良い所までいけると思ったんだがな・・・!」

 網膜に投影される索敵データを睨みつけながら、横浜基地のヴァルキリーズのそれと同じ仕様に生まれ変わった不知火参型を駆るユウヤ・ブリッジスが、舌打ちと共に小声で愚痴を漏らす。 米軍時代から慣れ親しんだ、対人相手の模擬戦闘。 だが今回のそれは何処か可笑しい内容であり、そして現在自分が置かれている状況に対して、そう言わざるを得なかった。
 接敵警報、どうやら向こうが先に自分を見つけたらしい。 レーダーに表示される赤い点が、戦術機のそれとは比べ物にならない速度で接近してくる。 ユウヤはフットペダルを踏み、不知火参型を動かそうとしたその時、管制ユニットに激しい衝撃が走る。

「ぐあっ!?」

 網膜に映される外部映像にノイズが走り、警告音と共にシステムが即座に被害箇所を伝えてくる。
 先手を取られた事を悟ったユウヤは即座に回避行動を取る。 そして再び接敵警報が鳴ると同時に、JIVESで生み出された仮想の弾丸がユウヤの不知火に飛来してきた。

「(遊んでいるつもりかよ、この野郎・・・!)」

 制限高度ギリギリまで飛翔して回避しながら、発射源へと突撃砲を向けるユウヤ。 その銃口の先には、異世界で生み出された人型機動兵器の1機、RVR-20-A”アファームド・ザ・ジャガー タイプA”の姿があった。
 そう。 今回の模擬戦におけるユウヤの相手、それは他ならぬバーチャロイドだったのである。


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう Day After
after#2 調停


 事の発端は、ユーコン基地に駐留する電脳暦世界の企業、それらと契約しているVRパイロット達からの要望からだった。

『我々と君等の親睦を深めるため、メガドライヴ搭載型戦術機との模擬戦を申し込みたいのだが、如何かな?』

 横浜基地が生み出したメガドライヴとマスターシステムにより、戦術機はVRと同様の機動性能とそれを制御しうる操縦方法を手に入れたオルタネイティヴ世界の人類。 そんな彼等に対し、ユーコンに身を置く電脳暦世界の人々は驚愕すると同時に嫉妬の感情を抱いていたのだ。
 ムーンゲートのオーバーテクノロジー等に一切依存せずに、奴等は戦術機という人型兵器を生み出した。 そして挙句に果てに、VRに近づこうとするという神経を逆撫でする様な真似を行っている。
 こんな事は認めない。 BETAという共通の敵がありながら互いをすり減らしあっているお前達に、我々に追いつく事自体おこがましい。 最強なのは我々が生み出したVRだ、それ以外の何がある。 その努力も希望も、ここで微塵に砕いてくれる・・・!
 そうした私怨に近い形で、彼等はユーコン基地に模擬戦を挑んできたのだ。 異世界との外交を悪化させたくない故に無下に断ることも出来ず、ユーコン基地司令部はハイヴ制圧実績を持つアルゴス小隊を参加させることにしたのだ。
 そして案の定ユウヤが劣勢のまま、模擬戦が現在進行形で進んでいるのだ。 上空から放たれる不知火参型の銃撃を、アファームドJAは持ち前の機動力で難なく回避する。

「どうしたぁ? いくら強化しても、デク人形の戦術機さんはそれが限界ですかぁ~?」

 オープン回線から聞こえて来る、こちらを嘲笑するアファームドJAのパイロットの声。 まるで弱い物いじめを行ういじめっ子のような口調に、流石のユウヤも眉間にシワを寄せ不快感をあらわにする。 だが奴の言う通り、メガドライヴを搭載した戦術機でも、VRとの絶対的な性能差はどうしても埋める事が出来ない。
 それでもユウヤは唯依やアルゴス小隊の皆から授かった戦闘技術、そしてエヴェンスクハイヴ攻略戦での経験を総動員させ、ここまで一度の被弾無く立ち回って来れた。
 回避した先に突撃砲の銃口を向け、再度ユウヤは36ミリのトリガーを引く。 だが結果は先程と変わらず、アファームド系列特有の地上機動力で容易に回避されてしまう。 対して相手は反撃するそぶりも見せず、完全にユウヤを舐め切った態度を見せている。
 この時唯依や武達と出会う前のユウヤだったら、その挑発に乗って惨敗する未来が待ち受けているだろう。 だが今のユウヤは違う。 相手の動きを一瞬たりとも見逃さず、反撃の時を粘り強く待っているのだ。 そのチャンスは、VRの性能に自惚れから生まれる隙にある。

「(だったら・・・!)」

 プラズマジェット式の跳躍ユニットから青白い噴射炎を吐き出し、不知火参型の機体が前に躍り出る。 アファームド系列の弱点は、空中機動性能が余り高くは無い。 先程から奴が跳躍を躊躇っているのはそれが理由かもしれないとユウヤは見抜いたのだ。 ならばそのシチュエーションに奴を持ち込ませ、必殺の一撃を叩き込めば勝機はある。 ユウヤは装備している全ての突撃砲で36ミリを浴びせかけるように撃ち、アファームドJAが上空に逃げる時を狙う。

「今だっ!!」

 回避先がビルに阻まれたアファームドJAがジャンプしたのを見た瞬間、ユウヤは右の兵装担架システムから長刀を取り出し、一気に距離を詰めて斬りかかる。 予想通りアファームドJAの空中機動性は鈍く、攻撃のチャンスは今しかない。 だがその切っ先が届こうとしたその時、空中で振り向いたアファームドのセンサーがユウヤを嘲笑うかのごとく鈍く光った。

「くっ・・・!?」

 アファームドJAは左腕に収納されていたターミナス・マチェットを左手に持ち、掬い上げるような斬り払いで不知火参型の一撃を一蹴したのだ。  マチェットをかろうじて長刀で受け止めたものの、弾かれた反動で不知火参型の機体が瓦礫と土煙を立てて演習場の地に伏せる。 管制ブロック内に衝撃が走ると共に鳴り響く警告音、表示されたステータスは機体の各部が赤く表示されている。 そしてユウヤの目には、コチラにガンランチャーの銃口を向けるアファームドJAの姿があった。

「さっきのはヒヤッとしたが、所詮はデク人形だな! これからじっくり嬲ってやるよ」

 最早これまで、このまま奴に一矢報いる事も出来ずに敗北するのか。 ユウヤの心中に諦めの文字が浮かび上がってきたその時、太陽のそれではない閃光が差し込んだかと思うと、アファームドJAのパイロットが驚愕した声を上げる。

「こ、この光は・・・?」
「て、定位リバースコンバート・・・!?」

 VRを母艦から発進させると同時に、瞬時に戦場へと転送する電脳暦世界の技術。 その光景が今まさに目の前で行われている事に、ユウヤもまた驚愕していた。 このような状況で一体誰がやって来るのだろうか、そしてその者は自らの味方に回るのかそれとも敵なのか。
 上空に浮かぶ光球から一段と激しい閃光が瞬いた後、転送されたVRの姿がユウヤ達の前に姿を現す。 そしてインカムから聞こえてくる声に、ユウヤは聞き覚えがあった。

『諦めるにはまだ早いわよ、ユーコンのトップガンさん!』

 網膜ディスプレイに表示される通信ウインドウ、そこにはテムジン747H/T82『翔鶴』に乗る霜月菫が静かに微笑む姿が映っていた。


・AM10:17 ユーコン基地 管制室


「一体、あの機体は・・・?」

 演習中に突如発生した不明機の乱入、その事態にユーコン基地の管制室は蜂の巣を突く大騒ぎとなっていた。 その渦中でユウヤを見守っていた唯依は、結果的にユウヤを救った不明機体についてこの場にいる者達の感想を体現するかの如く呟く。
 管制室の大型モニターに映る機体の外観は、かつて自分が初陣で乗った戦術機、82式”瑞鶴”のそれと瓜二つの重厚なシルエットをしていると気付く。 だが先程の登場の仕方も含め、それが戦術機ではない異世界の兵器、VRであることは明らかだ。 そして、このような改造を施し、それを乗りこなす者達を唯依は知っていた。 専属オペレーターの一人であるニイラム・ラワヌナンドが、唯依に新たな情報を知らせる。

「篁中尉、横浜基地からデータが転送されてきました」
「横浜基地から?」
「はい。 あの不明機が現れた直後にです。 サブモニターにデータ表示します」

 そう唯依に告げたラワヌナンドがキーボードを叩くと、それは紛れも無くユウヤを助けた機体のワイヤーフレームと各種データが、管制室のモニターの一角を埋め尽くすように表示される。

-MBV-747H/TYPE82 テムジン747H/T82『翔鶴』-

 モニターに表示される機体名とスペックに目を通しながら、唯依は747Hと呼ばれるテムジン747の重装備型を元に、瑞鶴を模したアーマーを装着していると確証する。
 747H本来の装備に加えて、本来ナイフシースが設けられている腕部には、ソ連軍機が装備するモーターブレードを模したであろう近接武器が。 さらに左右の肩部ユニット側面には87式突撃砲がそれぞれマウントされており、此方側の技術も含めて徹底的に火力と防御力を増強されているようだ。

「もしかすると、あの機体に乗っているのは・・・!」

 そう唯依が呟いた瞬間、テムジン747H/T82『翔鶴』が今までユウヤをいたぶっていたアファームドJAに、クラウド・スラップMk1の銃口を向ける。 そして彼が受けた痛みをそのまま返すかのように、迸るエネルギー弾がアファームドJAへ放たれた。


「な・・・何の真似だ!?」

 定位リバースコンバートまで用いて戦術機を庇う様に乱入し、更に自分に攻撃を仕掛けてきたテムジン。 対するアファームドJAのパイロットは反射的に回避を成功し、殺気に満ちた視線で睨みつけながら吼えた。 そして彼は、自分に銃口を向け続けるテムジンの姿を、ユウヤを追い詰めた時とは一転した鋭い目つきで観察する。
 この世界のデク人形もとい戦術機を模したアーマーを着装し、それを染めるのは地球を思わせる青き国連カラー。 そして国連軍VRパイロットのエースにのみ許された、肩部アーマーを彩る青紫色のパーソナルカラーが目に入った瞬間、アファームドJAのパイロットは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

「まさか、テメェは・・・」

 最後まで言い終えることを許さないかのように、再びテムジン747H/T82『翔鶴』が持つクラウド・スラップMk1から閃光が迸る。 だがそれは先程とは違ってシミュレーターが生み出した幻像であり、アファームドJAのパイロットはそれ容易に回避。
 追撃から逃れるために障害物となる廃ビルの陰へと移動し、背中合わせの状態で身を隠す。

「(間違いねぇ、あいつは・・・!)」

 荒い息遣いがコクピットに響き渡り、今まで参加したどの戦いよりも比べ物にならないプレッシャーが彼を襲う。 接敵警報。 廃ビルの合間を縫うように、奴が急速接近してくるのをセンサーが検知する。
 機体の左手に握られたターミナス・マチェットの刀身が鈍く光り、アファームドJAが迎撃の構えを見せる。 距離計が2ケタを切った瞬間、アファームドJAのパイロットは覚悟を決めた。

「おらあっ!!」

 アファームドJAが通路方向へと急転回し、その勢いを加えてマチェットを水平に振る。 予想通り、その眼前には菫が駆るテムジン747H/T82『翔鶴』の姿。 乾坤一擲の思いで振られたマチェットの刃は、アファームドJAのパイロットの予想ならテムジンの胸部装甲に食い込んでいる筈だった。 だがその手ごたえは感じられず、それどころか目前にいたはずのテムジンの姿が忽然と消えていたのだ。
 そして次の瞬間、情報からの接近警報が、アファームドJAのコクピットに鳴り渡る。

「はああっ!!」
「しまった・・・!」

 クラウド・スラップMk1を構成する二つの銃身の間に仮想の刃が形成され、落下速度に乗じた猛烈な勢いで菫はそれを振り下ろす。 仮想の刃がアファームドJAの機体を抉るようにヒットし、致命傷判定を喰らったアファームドJAの機体はその場に膝を付く体勢で機能を停止した。
 余りにも唐突な、なんとも呆気無い模擬戦の終わりに、戦いを見ていた誰もが言葉を失っていた。 そしてアファームドJAのパイロットはコクピットの中で、自分を負かした菫の負の通り名を呪詛を掛ける様に口にした。

「畜生、よりにもよって何でお前が現れるんだ。 ”横浜のニオイスミレ”め・・・!」


・ PM12:04 ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー


 菫の乱入により今回の模擬戦は無効となり、ハンガーに帰還した不知火参型の管制ブロックからなんともいえない表情をしたユウヤが、キャットウォークに乗り移る。 下では今まで彼の戦いを見守っていたアルゴス小隊メンバーの顔が見え、その中には唯依の姿もあった。
 ハンガーを取り巻く喧騒の中、唯依は不知火参型の隣にある予備機用ハンガーに固定された、テムジン747H/T82『翔鶴』の機体を見上げていた。

「(なるほど、やはりこの機体は・・・)」

 基地管制室のモニターで見た時もそうだったが、このテムジンは斯衛軍の82式戦術機『瑞鶴』に瓜二つなシルエットをしていると唯依は感じていた。 異世界の人型兵器たるVRのスマートさとはいささか不釣合いな印象を持つが、これも異世界に身を置く彼女なりのやり方なのだろう。
 コクピットハッチが開き、衛士強化服とは全く異なるデザインをしたパイロットスーツを身に纏った人物が、唯依達の前に姿を現す。 そしてVRの頭部を模したHMDヘルメットを脱ぐと、長い髪と共に菫の顔があった。 ヘルメットを持つ反対の手で髪をさっとかき分けた後、菫は隣のキャットウォークで此方を眺めているユウヤを見る。 対するユウヤは、なぜ彼女がここに居るのだという驚きの顔を見せている。
 ハンガーを包む喧騒に負けないくらいの声量で、キャットウォーク越しにユウヤは菫に問いかけた。

「霜月少尉、何故アンタがここに!?」
「弱い物虐めは見過ごせない性格なの。 それに今の階級は中尉ですから、呼び方に気を付けないと・・・」

 そう菫に言われてユウヤがキャットウォークの下を見ると、眉間にシワを寄せて此方を睨む唯依の姿。 規律云々にうるさい彼女に見られてしまったが最後、後で口うるさい説教が待っている事にユウヤは冷や汗を垂らした。

「それじゃ、詳しい話は後でね。 ブリッジス少尉」

 そう告げた菫を載せたキャットゥオークがグンと動き始め、アルゴス小隊の皆が待つ下へと降りて行く。 そしてユウヤもため息をつきながら、整備員に下ろしてもらうよう頼んだ。


・ PM2:07 ユーコン基地 アルゴス小隊ブリーフィングルーム


「まず初めに、ブリッジス少尉の模擬戦闘に水を差すような事をして、この場でお詫びします」

 ブリーフィングが始まると同時に、菫の口から出たのはユウヤらアルゴス小隊に対する謝罪の言葉だった。 確かにあの模擬戦からユウヤやユーコン基地のメンツを守ったとはいえ、要らぬ混乱を生んでしまったのは確かだからだ。 しかし、誰も菫を責める者はいない。 武の存在をきっかけとして出会った彼女とアルゴス小隊の間には、既に深い絆が出来上がっていたからだ。
 それに仲間の危機を救うのは、戦友として当然の事。 最後尾に座るヴァレリオが、軽口を交えながら菫に返事をする。

「いやぁ~、麗しの霜月中尉がこのユーコンに再び来るのは大歓迎ですけどねぇ~!」

 そう継げたヴァレリオが感じるのは、ツララが勢い良く落ちるかの如き冷たく鋭い視線。 それを感じる方をそっと見ると、ジトッとした目で睨み付けるステラとタリサの姿。 小言で謝る彼を他所に、イブラヒムが本題を切り出した。

「しかし霜月中尉、今回あなたがここに来たのはブリッジス少尉を助けるために、わざわざ横浜基地から駆けつけて来た訳ではあるまい?」
「はい。 今回私がこのユーコンに再び来た理由は、大きく二つあります」

 そうして菫は、このユーコンの地を再び踏む事になった理由と経緯を話し始めた。
 1つ目は『ユーコン基地に駐留する、企業連所属のVR部隊の監視及び矯正』である。 BETAの地球侵略の中枢たるオリジナルハイヴ攻略に成功した後、世界各地に分布するハイヴ及びBETAの活動が急激に落ち込んでいた。 当然世界各国はユーラシアの奪還に向けて、戦力の建て直しや新たなる新戦力の開発に乗り出す事になる。 そしてそれらは、この後方基地にして最前線であるユーコンで行われる事になるのだが、そこには従来には無い勢力が駐留していたのだ。

「それがユウヤと戦った、企業連の部隊って訳か。 リルフォートで聞いた話だと、”傭兵”って奴等なんですよね?」
「ええ。 マナンダル少尉の言う通り、企業連のVRパイロット達は私がいる電脳暦世界、そこに存在する企業と契約した傭兵で構成されています」

 どの国家の軍隊に所属せず、直接依頼人やPMCと呼ばれる民間軍事企業に雇われ、依頼人からの任務を遂行する。 それが傭兵と呼ばれる、金と戦いに飢えた戦士達である。
 こと菫が暮らしていた電脳暦世界においては、傭兵という存在は珍しくは無い。 そもそもダイモンとMARZの戦いが終結する以前の電脳暦世界は、”国家”という概念は無く、巨大企業が世界を支配していた。 各企業が企業軍を保有しそれに所属する人間達は、旧時代の定義なら全員傭兵と当てはめる事が出来るのだ。
 だがダイモンの駆逐を節目に地球圏では再び主権国家が蘇り、電脳暦世界は大きな変革を迎える事となった。 ”国”という概念が蘇った事で、その国と民を守る”国軍”という存在が再び結成されたのである。

「つまり、霜月中尉が仰る傭兵というのは・・・」
「ええ、現行の電脳暦世界における傭兵とは、依然として各企業に所属し続けている兵士の事を指します」

 隣に立つ唯依の問いに、菫は頷きながらそれに答える。 あの時ユウヤと戦ったアファームドJAのパイロットも、そうして企業と契約してこの世界にやってきた者の一人なのだ。 そして菫は傭兵が持つ、最大のデメリットを説明する。

「皆さんのように国家に属している軍人とは違い、傭兵は報酬の為に任務を遂行します。 そして残念な事に、時として彼らは報酬や破壊的衝動を求めるが故に凶行に走る事も少なくありません」

 忠義も信念も無く、任務遂行と引き換えにもたらされる多額の報酬を目当てに、あるいは破壊と殺戮の飢えを満たすべく、傭兵達は国際法を逸脱した犯罪を行う事も珍しくは無い。 加えて彼らを制御する義務がある企業も、半ば彼らを使い捨ての道具と見なして放置するケースもあるという。
 そうした蛮行を制するべく、電脳暦世界に蘇った国連は菫のようなVRパイロットを集結させ、世界情勢の安定化に向けて行動を開始しているのだ。 その任務は、このオルタネイティヴ世界においても変わる事は無いのである。

「皆さんも既に理解している通り、メガドライヴの搭載を持ってしても戦術機とVRの性能差は十分に埋められません。 そして、VRに対抗する兵器は同じVRのみ。 彼らの増長を防ぐ事が、ユーコンを訪れた理由の一つです」

 そう告げて、唯依に負けない程の凛とした顔を見せる菫を見て、ユウヤの脳裏にかつてユーコンの窮地を救った武の顔が蘇る。 そして彼女も同じ、武という存在に魅入られた者なのだと悟った。 菫の話が終わった事を確認した唯依が、意地悪そうな表情でユウヤに語りかける。

「丁度良いじゃないかブリッジス少尉。 VRとの戦い方を、彼女から優しく手解きしてもらう絶好の機会だぞ」
「そうだぞユウヤ。 今度またアイツにふっかけられても、性能が全てじゃないって事を見せ付けてやれよ!」
「あ~あ。 美人二人に色々とレクチャーとは、そっちの方でもトップガンですか。 羨ましいですなぁ~」

 唯依に続いてまくし立てるタリサとヴァレリオに対し、苦笑いで応えるユウヤ。 そんな彼らを眺め微笑んだ後、菫はもう一つの理由を話すべく口を開いた。

「もう一つの理由ですが、こちらは篁中尉とブリッジス少尉の二人に後でお話します」
「私と少尉にですか?」
「はい。 なので私がここで皆さんに語れるのはここまでです」

 そうユウヤ達に告げた後、菫は懐から取り出した一枚の紙切れを唯依に手渡す。 そして彼女の耳に、菫はそっと囁いた。

「それじゃ始めましょうか。 ”特訓”を・・・」


・ 二日後 AM9:37 ユーコン基地 第二演習場


 第一演習場に隣接する第二演習場。 演習に使う頻度は第一演習場でないにせよ、ここでも人類の未来をになう戦術機と衛士を養う立派な土壌の一つなのだ。 市街地を模したコンクリート製の障害物の間を、欧州連合軍所属の戦術機F-5E”トーネードADV”2機がGWS-9突撃砲を構えながら前進する。
 欧州戦線で開発された第3世代機F-2000”タイフーン”の雛形にもなった第1世代機F-5”フリーダムファイター”の近代化改修を施し、第2世代機相当のスペックを持つのがこのトーネードADVであり、このユーコン基地でも欧州連合軍の部隊が更なる発展を目指そうと運用されている。
 戦術機編成の最小単位であるエレメントの隊形で、足並みをそろえて障害物の隙間を移動する最中、ダガー2のコールを持つトーネードADVが敵機接近を察知する。

『うわっ! 回りこまれた!?』
『焦るなダガー2、近接戦くらい対処して見せろ! いざという時は俺が援護する!』

 戸惑うダガー2を諭しながら、後方に居る同僚のダガー1はレーダーや戦域情報を手早く確認する。 相手は異世界の国連軍が運用するVRが2機。 ただし今回は戦術機と同等のスペックに制限した上で挑んでいるという。 機体スペックが同じなら、最後は乗り手の腕がものを言う。 ダガー1は機体姿勢を低くして身を隠し、前方のダガー2に仕掛けてくる敵を狙い撃つ構えを取る。
 接近警報と同時に聞こえてきた、甲高い射撃音。 標的とされたダガー2が主脚によるステップを駆使し、反射的に上方から飛来してきた攻撃を回避した。 第一世代機特有の無骨な頭部モジュールが、攻撃を仕掛けてきた敵機の姿を睨む。

『敵機画像照合・・・第二世代型VR、MBV-707J”テムジン707J”と判明!』
『気をつけろダガー2、ヤツの相方が近くにいる!』

 ダガー2に忠告を送りながら、ダガー1も姿を晒した敵機を食い入るように視線を向ける。  背中に搭載されたマインドブースターを輝かせながら空中を跳ぶ機体は、国連所属機を表すUNブルーを基調に、かつてオラトリオ・タングラムと呼ばれた戦いで生み出された当時のカラーパターンに身を包んでいる。
 -見世物-としての戦争の為に生み出された人型兵器であるVR、その始祖であるテムジンの名を受け継ぐ直系の機体。 欧州戦術機の始祖であるF-5の直系機を操る衛士としては、これほど因果且つ相応しい相手はいない。 我ながら感慨深いなと思いながら、近接戦を仕掛けるダガー2を支援するべく、ダガー1は突撃砲の照準を定める。

『おらあっ!!』

 着地間際のタイミングを狙い、ダガー2は腕部に装備されたブレードを展開して、猫が爪で引っ掻くように斬りかかる。 対するテムジン707は右手に握る主武装”スライプナーMk4”を構え、刃にも槍にもなるその銃身でブレードを受け止めた。 その直後、テムジン707のパイロットから音声のみで通信が入る。

「軽い軽い! そんなネコパンチみたいな近接で、俺は倒せないぜ衛士さんよぉ!」
『な・・・何を~!』

 相手の煽りにまんまと嵌り、右に左とブレードの連打を繰り出すダガー2。 そんな彼を見かねてダガー1が支援しようにも、両者の距離が密着しすぎて誤射してしまう状況だ。

『距離を開けろダガー2! むざむざやられに行く気か!?』
「その通りだぜ、片割れさん!」
『っ!?』

 突然通信に飛び込んでくる声と、同時に管制ブロック内に鳴り響くアラート。 どうやらテムジン707は自分達を引きつける囮役を演じ、彼の僚機であるもう1機は自分を狙っていたのだと悟る。 アラートが知らせた方向をダガー1が視線を向けると、テムジンによく似たVRがこちら目掛けて急接近する様子が見えた。
 跳躍ユニットのノズルからロケットモーターの炎が噴出し、瞬間的な加速で敵VRの突撃を回避する。 そしてセンサーが捕らえた機影から、敵機の詳細が網膜ディスプレイの情報欄に記載された。 MBV-04-10/80adv”テン・エイティアドバンス”、人類初のVRであるMBV-04-G”テムジン”の簡易量産型として開発されたテン・エイティの近代化改修機である。
 改修が成されたとはいえ、性能は現行のVRより大幅に劣る旧式機で挑むとは、よほど自分の技量に自信があるのだろうか。 ダガー2の様子を視界に入れながら、ダガー1の口が開く。

『お前が俺の相手か・・・?』
「そういう事、お手柔らかに頼むぜ!」

 そう言いながらニードル2のコールを持つテン・エイティのパイロットは、主武装のCGS-typeb2/eの銃口をダガー1に向ける。 そして挨拶とばかりに、最大出力でのみ放つ事ができるレーザーを見舞った。


・ ユーコン基地 管制室


「ダガーチーム各機、耐久値65%以下に到達。 ニードルチームもほぼ同等の値です」
「う~ん、一進一退か・・・」
 オペレーターを務めるフェーべの報告に菫は眉間にシワを作りながら、モニターに映し出される模擬戦を眺める。 『各チームの機体に耐久値を定め、0%になれば行動不能』という特殊条件による模擬戦闘。 開始して数十分経過したが、未だに決着に至る様子は見られない。
 これもVRの戦闘力を戦術機と同じスペックに制限した上での結果だが、何よりも双方のパイロットの技量により、互角といえる戦況を実現している。 機体を操る人間が加わる事で真の性能を構成するとはいえ、やはりVRの性能がオーバーテクノロジーに依存しているのだと菫は思い知らされる。
 そして、それと似たような物を感じていたのは隣にいる唯依も同様だった。

「どうやら中尉の世界における衛士の技量も、相当のものですね」
「ええ。 我々は”世界の平和”の為、負けは許されませんから」

 負けは許されない。 その言葉を聞いた唯依は、彼女も自分同様に大切な何かを背負いながら戦っているのだと悟る。 そして今演習場で激戦を繰り広げているニードルチームのパイロット達、ダガーチームの衛士達も、自分達と同じ”守りたいもの”があるから戦っているのだろう。

「お前にも、そういうものがあるのか? ユウヤ・・・」
「ん? 何か言いましたか篁中尉?」
「い・・・いえ!? 別に何も・・・」

 呟きをしっかり聞かれてしまい赤面する唯依に、菫はクスクスと口に手を当てて笑う。 モニターに映し出される残り時間は、あと十数秒に達していた。


・ 翌日 PM9:02 ユーコン基地 アルゴス小隊ブリーフィングルーム


「ではお願いします、霜月中尉」
「はい。 私がユーコンを訪れた理由、それはこのデータを篁中尉達に届ける事です」

 唯依の言葉を合図に始まった、ユウヤ、唯依、そして菫による3人だけの秘密会議。 菫が操作するモニターには、1機の戦術機らしい人型兵器のワイヤーフレームが映し出される。 その画像を見て、最初に声をあげたのは唯依だった。

「霜月中尉、この機体は・・・!」
「篁中尉の思っているとおりです。 この機体はNTSF-X”震電弐型”。 日本帝国軍の次期主力戦術機となる、第4世代戦術機です」

 菫の口から知らされる事実に、ユウヤは勿論唯依も驚きを隠せない。 現在ヴァルキリーズやユウヤが乗る不知火参型は、メガドライヴという特殊装備に無理をして改修を施した機体であり、性能の限界が見えてくるのは明らかだった。 そこでメガドライヴ搭載を前提に開発されたのが冥夜が乗る武御刀だったが、此方は冥夜専用の調整がなされているので、他の衛士が操るのは到底不可能な機体になってしまった。
 ならば、量産を前提とした武御刀を開発すればいい。 その結論に達した帝国軍上層部は、横浜基地と共同で新たな第4世代戦術機”震電弐型”の開発を決定したのだ。 しかし、門外不出であるはずのデータが、何故菫を通じて自分達の下に送られたのか。 その疑問を感じたユウヤが、菫に質問する。

「霜月中尉、そんな大切なデータを、何故あなたが持っているんです?」
「帝国の幹部の人が先行公開として、このデータを横浜に持ってきたのよ。 そして香月副司令が、このデータを篁中尉に届けるようにと私に託したって訳」
「それじゃあ・・・」

 瞳が輝く唯依に、菫は無言で頷く。 この瞬間、国連軍アルゴス小隊が”XFJ計画”に続いて、この震電弐型の開発計画の主任部隊に任命されたのだ。 寝耳に水の出来事に開いた口が塞がらないユウヤに、菫が語りかける。

「これは私から個人的な頼みなんだけど・・・ ブリッジス少尉、あなたに震電弐型の開発衛士をお願いしたいの」
「俺・・・いや自分にですか!?」
「ええ。 日米の技術を結集して生まれた不知火弐型を手がけたあなたなら、必ずこの未知の機体も乗りこなせるわ」

 そう願う菫の脳裏に浮かぶのは、この世界を守って去った武の姿。 何処までも馬鹿で、何処までも無鉄砲で、だけどこの世界を救うという純粋な願いの元に戦った一人の男。 そして今、彼の後継者に成りうる素質を持つ衛士の一人が、目の前にいる。 自分がユウヤに言っていることはもはや願いではなく、命令や強制にも等しい者なのかもしれない。 それでも、二度とないチャンスを逃すわけには行かないのだ。
 そんな菫の思いを汲み取ったのか、ユウヤは首を縦に振りながら答えを言う。

「光栄だ中尉、また94サードみたいな機体に乗れるかと思うと楽しみだ!」
「では、彼の監修は私以外にはありませんよね?」

 ユウヤに続いて何時もらしくない口調で答える唯依に、菫は微笑む。 正式な発表は後日に行われるだろうが、これからどのような苦難が二人を待ち受けていようとも乗り越えられると菫は思った。

「だから・・・人類の夜明けを迎えるために、共に戦っていきましょう!」
「はいっ!」
「おう!」

 誓いの言葉とともに差し出される菫の手に、唯依とユウヤ、合わせて3人の手が重なる。 異なる国、異なる世界の垣根を越えて生まれた絆の先に、果たしてどのような結末が待っているのか。 その物語は、また別の機会で語る事にしよう。


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