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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 最終話-終結-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8776c573 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/01 02:33
・ 2001年12月24日 AM6:27地球 衛星軌道上

『先行した米軍部隊は、全機無事降下成功。 突入口の確保に入りました!』
『各地域の前線は現在も維持を継続中!』

 青く美しく輝く地球を眺めることが出来る、絶景スポットたる衛星軌道上。 そこに集結したHSSTの艦隊の中に、作戦の切り札たる凄乃皇五型、そして再突入仕様のスプーキーを纏ったカイゼルと武御刀の姿があった。
 作戦は第2段階へ移行し、先行して降下した米軍部隊は無人戦術機を展開させ、ハイヴ突入口の確保を始めている。 オリジナルハイヴ周辺のマップに表示された米軍機のマーカー、それらが向かう最初の目標こそ、”SW115”と呼ばれるオリジナルハイヴへの入り口である。
 衛星から中継される映像からは、ロールアウトしたばかりのFB-22A”ストライク・ラプター”、そして無人化されたF-15であるUAF-15”グレイ・イーグル”が次々と降下地点のBETAを屠る姿が見える。 有人機では不可能な速度でグレイ・イーグルのエレメントが要塞級に肉薄し、携行型の電磁投射砲で的確に急所を撃ち抜き無力化する。
 またストライク・ラプターも高周波振動長刀を手に、要撃級の一団に向けて吶喊。 斬り捨てた要撃級の赤黒い体液が機体に掛かり、名前の如く返り血に濡れながら得物をついばむ猛禽類のように思える。 たとえG弾を使わなくとも、自分たちにはこのような強大な力を持っていると、世界に見せ付けているかのようだった。
 だが、この作戦の主役は彼らではなく、他ならぬ自分達。 『主役は遅れてやってくる』とは、よく言ったものだなとカイゼルの管制ユニット内で武が思っていると、みちるから通信が入る。

「地上の梅雨払いがもうすぐ完了する。 貴様ら、覚悟は出来ているな!」
「大丈夫ですよ大尉。 遙と一緒にアイツに会うま・・・」
「速瀬、そういった話題は作戦中に口にするな。 戯れた事を抜かしていると・・・死ぬぞ」
「りょ・・・ 了解!」

 戦いの前に恋話をした者には確実に死が訪れる。 前に菫から言い聞かされた事を思い出しながら、みちるは作戦に集中するよう水月を諭す。 一方の水月も只ならぬみちるの気迫に押され、粛々と復唱を返した。 これから地獄の一丁目に向かおうとしているのに、浮いた話などしていられない。 それにこの作戦に生き残らなければ、孝之に二度と会うことができないのだから。
 グリップを握る力を強め、何時もの突撃前衛長らしい表情を取り戻す水月。 そして想い人を奪い合う宿敵にして親友の声が、強化装備のインカムに聞こえてくる。

『HQよりヴァルキリーズ、SW115周辺のBETA掃討完了。 直ちに降下を開始せよ』
『全艦減速開始! これよりオリジナルハイヴへ降下する!』

 14人の戦乙女を内包した再突入カーゴ、それらを積載したHSSTの軍勢がオリジナルハイヴ目掛けて降下する。 直前に降下した艦隊によるAL弾やALコロイド弾による爆撃によりレーザー照射には万全の策を施しているが、それでも撃墜されないと言う保証は何処にも無い。 HSSTが撃墜されてしまえば、積載されている機体も仲良くお空のお星様になってしまうだろう。
 だが降下中のHSSTには、それを凌ぐべくある秘策が用意されていた。 先陣を切るHSSTのクルーが、低出力レーザー照射を受けていることを報告する。

『重光線級の照射を感知! 此方を狙っています!』
『全艦、ALミスト展開! 彼女達を送り届けるまで持ち堪えるんだ!』

 艦隊指揮官の指示と共に、大気圏を突入するHSSTが艦の各所から煙のような物を発生させる。 光線属種のレーザーを減衰させるALコロイド、それをHSSTの表面から散布することで、少しでもレーザー照射に耐えられるようにしているのだ。 ヴァルキリーズをオリジナルハイヴへ送り届ける為に、一秒でも長く照射に耐えてくれれば良い。 クルー達の精一杯の願いに答えてくれたのか、一回目の照射で撃沈されるHSSTは1隻も無かった。
 カーゴをパージする予定高度へ徐々に近付くが、無常にもレーザー照射の第2波を告げる警報が鳴り響く。

『第2照射来ます! 目標は・・・我々ではありません!』
『まさか凄乃皇か!?』

 第5戦隊旗艦を務めるシャイローの艦長が気付いた時には、凄乃皇は重光線級のレーザーの集中砲火を受けていた。 レーザーはラザフォードフィールドで防げるので直接的な被害は無いが、照射を受けた分だけ純夏とML機関に負荷が掛かってしまう。
 これから突入するオリジナルハイヴ内では何が起こるか予測できず、それゆえ攻略の要である純夏を消耗させる訳には行かない。
 何か策を思いついた武と冥夜が、網膜に映る通信ウインドウを通じて互いに頷き合った。

「行くぜ冥夜!!」
「承知した!」

 2機を包むスプーキーのロケットモーターが火を噴き、武と冥夜の二人が艦隊に先んじて降下する。 二人が先に降下し、スプーキーに搭載された兵装を持って重光線級を殲滅するつもりなのだ。 その真意を察したみちるの声が、二人に向けて叫んだ。

「白銀! 御剣! SW115だ、突入に遅れるなよ!!」
「人類を・・・頼むぞ!!」
「駆逐艦乗りの意地と誇りに掛けて、皆を降下させてみせる! だから行けぃ、シルバー・スレイヤー!!」
「フランスを・・・ユーラシアを取り戻してくれ!!」
『了解!! 艦長達も、武運と祝福を・・・!』

 ノイズ交じりに聞こえるみちる、そして艦隊クルー達の激励に復唱し、武と冥夜の機体が地球へと降下する。 未来と言う名の贈り物を皆に託すため、武の最後の戦いが始まった。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#Final 終結


・ 同時刻 インド洋沖 特装艦”フィルノート”

『先行突入した米国軍部隊は、順調に”い号目標”へ向け進行中!』
『SW115周辺の重光線級が降下艦隊にレーザー照射中!』

 泥流のように流れるオペレーター達の戦況報告、そして遥か彼方のインドの大地から見える閃光と煙。 定位リバースコンバート(FRC)カタパルトに固定されたテムジン747『霧積』、そのコクピットに座る菫は静かに出撃の時を待っていた。
 澄み切った地球の海を思わせる国連軍のカラーリング、所謂”UNブルー”に色塗られた機体の右腕にはテムジンの系譜たる装備である”スライプナーMk6”が。 兵装担架システムを再現した背部のフレキシブルアームには携行型電磁突撃砲を、そして左腕にはスライプナーとの合体機能をもつ多目的シールド”マイティ・スプライト”が用意されている。
 本来は747Hのような重装備を施しておきたい所だが、ハイヴ攻略の必勝法が何よりスピードだと言うことを考慮すると、これくらいの装備が妥当だろうと菫は判断したのだ。 それに武達には、純夏が駆る凄乃皇五型という動く要塞がある。 自分達の同行も蛇足ではないかと感じ溜息を漏らす菫の耳に、隣のFRCカタパルトで同じく待機しているケイイチから声が掛かる。

「緊張しているのかい?」
「いえ、私達が出なくても勝てるような気がして・・・」
「そんな事言って良いのかい? 君は白銀君が元の世界に帰るまで、最後の瞬間まで見届けるんだろう? それに僕らはヴァルキリーズと同行して、オリジナルハイヴの状況をリアルタイムで中継する役割があるしね」
 偵察型VRとして生み出されたバイパー系列、その系譜として開発された第3世代型VR”マイザー”。 それをケイイチ自ら改造した”マイザー∇(ナブラ)”を通じて、横浜基地に居る夕呼の元へハイヴ内の情報を直接送ろうというのだ。 ケイイチがVRに乗っての出撃は、9.11クーデター以来となる。 生きて帰れる保証の無いこの任務を申し出たのもケイイチだったし、何より彼は菫と同じく武の行く末を見届けたかったのだ。
 武の事を考えている事は彼女と同じか、そうケイイチが思っていたその時、オペレーターから新たな報告が舞い込む。

『重光線級、凄乃皇にレーザー照射を集中!』
『ブレイブ01、ブレイブ02、急速に地上へと降下していきます!』

 間違いない。武と冥夜の二人が先に地上へ降下し、凄乃皇と純夏を消耗させる重光線級を殲滅するつもりだ。 二つの流星が地上へと降り注ぐ姿を目撃した菫が、シュバルツ艦長に向けて叫んだ。

「艦長! 発進許可を!」
「許可する。 必ず生きて帰って来るがよい!」

 MSBSが起動し、背中のVコンバーターが甲高く唸りを上げる。 オペレーター達が唱える発進シークエンスが、まるで魔法の呪文のように聞こえた。
 そしてオールグリーンのコールと共に、ケイイチと菫が呪文の締めというべき言葉を口にする。

「ライネックス1、マイザーナブラ、出るよ!」
「ガントレット1、テムジン『霧積』、行きます!」

 転送座標は、オリジナルハイヴ突入口であるSW115。 発進の合図と共に、FRCカタパルトに形成されたゲートへ飛び込んで行った。


・ AM6:40 オリジナルハイヴ SW115周辺

「邪魔だぁーーっ!!」

 荒野の果てまで響かんばかりの雄叫びと共に、武を乗せたカイゼルを内包したスプーキーが突き抜けんばかりの勢いで戦場を飛翔する。 側面に展開された4門のGAU-8が轟音と共に弾幕を張り、進路上に存在するBETAを大小関係なく粉砕して行く。 目指すは降下中の艦隊及び凄乃皇を狙う重光線級、監視衛星から得たデータリンクに導かれるがまま、武はスプーキーに更に加速を命じるべくフットペダルを踏み込む。
 武の闘志に反応するかように、スプーキーのロケットモーターに更に燃料が注ぎ込まれ、軽い衝撃と共にスプーキーが更なる速度域へと到達する。 それは戦術機の跳躍ユニットでは成しうる事が出来ない領域、音の速度を越えようとしていた。 最早止められる者等誰も居ない武の視界に、上空に向けてレーザーを照射する重光線級の姿が見える。
 それを見た武は音声コマンドを起動し、スプーキーに眠る新たな装備を呼び覚ます呪文を唱えた。

「アベンジャー、ワイドモードに変更! レールキャノン、展開!」

 武の音声入力に呼応して4門のGAU-8を保持するアームが動き、扇状に展開して広範囲のBETAを掃討する。 そして後部ユニットから2門の電磁投射砲の砲身がせり出し、カイゼルの頭部を挟み込むような形で展開する。 99型のそれを遥かに上回る砲身長を誇る電磁投射砲は、広い射角を持つGAU-8とは対照的に前方に存在する目標しか射撃出来ない。 だが武はレーザー照射に夢中になっている進路上の重光線級に向けて、躊躇い無くトリガーを引いた。
 砲口から迸る閃光と電撃、そして小型種を軽く吹き飛ばすほどの衝撃が戦場を駆け抜ける。 長大なレールと膨大なエネルギー投入により、極限まで加速された砲弾が重光線級の硬い表皮を嘲笑うかのように引き千切り、射線上に存在する他の重光線級も纏めて薙ぎ払った。 一発、また一発撃つ度に天空へ伸びるレーザーの数が減り、緩いカーブを描きながら連射することで広範囲に展開していた重光線級を一気に減少させる。
 分離された再突入カーゴが地表へ降り注ぎ始める中、武と同様に重光線級の殲滅に当たっていた冥夜の声が彼の耳に入る。

「タケル! 私の方は片付けてきたぞ」
「冥夜か、俺の方ももう直ぐカタが付く、突入口の確保を頼む!」
「了解した! タケルも急ぐのだぞ!」

 推進剤と残弾が心許無くなったスプーキーと分離し、プラズマジェットの噴射炎を輝かせながら冥夜の武御刀がSW115へ向かう。 一方の武は残弾を全て用いて最後の重光線級の集団を潰した後、スプーキーを纏ったままSW115へと向かった。
 遥か上空から降り注ぐ再突入カーゴの破片に注意しながらカイゼルを疾駆させていると、センサーに2つの空間反応を検知する警告が鳴り響く。

「(この反応は、サギサワ大尉と菫さんか!)」

 そう武が悟った時には、太陽の如く輝く光球が空中に出現し、一瞬の閃光と共に2対のVRらしき機影がカイゼルの前に姿を現す。 レーダーに『FRIEND』と表示された機体は、まごうことなくケイイチのマイザーナブラと菫のテムジン『霧積』であった。 武が作ったであろう景色眺めながら、二人が武に声をかける。

「今頃来てすまないね。 君一人でこれだけのBETAを平らげるなんて、やはり英雄はこうでなくっちゃ!」
「流石白銀君ね。 もう直ぐ皆も降りてくる頃だし、SW115へ行きましょ!」
「はいっ!」

 ケイイチと菫を引きつれ、SW115へ近づく武だったが、突如として周囲が薄暗くなる。 まだカーゴの破片が残っていたのかと肝を冷やす武だったが、その不安も聞きなれた声と共に消え失せた。 武達の周囲に現れた影、それは上空から無事降下してきた凄乃皇による物だったからである。

「タケルちゃ~~~ん!!」
「純夏! それに皆!」
「よくやった白銀! 貴様と御剣のお陰で、全機無事に地上へ降下したぞ!」

 純夏の呼ぶ声と同時に、みちるが誰一人欠ける事無く地上へ降りたという報告が武の耳に入る。 ここまでにおいて全員の無事に安堵する武だったが、みちるの次なる指示を耳にし意識を改めた。

「行くぞ! SW115より、全機オリジナルハイヴに突入する!!」
『了解!』

 戦いは、また始まったばかりだ。 スプーキーを分離し、身軽になった事を喜ぶかのようにカイゼルが喀什の空を舞う。 この世界の運命を託された武とヴァルキリーズが、あ号標的が待つオリジナルハイヴへと突入した。


・ AM7:28  国連軍横浜基地 中央司令室

「ヴァルキリーズ全機、SW115よりオリジナルハイヴ突入確認!」
「ピアティフ中尉、サギサワ大尉との直通回線はどう?」
「データリンクは今のところ良好です、映像をサブモニターに回します」

 数多くのオペレーター達がひしめく中央司令室、そこでは夕呼や遙、そしてラダビノットを初めとする横浜基地のトップ達がモニターに映るヴァルキリーズの戦いを見守っていた。 佐渡島の戦いで密かにリーディングによって手に入れていたハイヴのマッピングデータを頼りに、武とヴァルキリーズの衛士達は怒涛の勢いで”あ号標的”への最短ルートを突き進んでいる。
 順調過ぎる、唯一つの不安が夕呼の心に絡み付いていた。 既に中階層に到達したヴァルキリーズを前に、BETAのリーダーであるあ号標的が何らかの対処を打たない筈は無い。 それに夕呼が気に掛けていたのは電脳暦世界の連中だ。 前線で戦う将兵はともかく、軌道上に待機している艦隊が怖いほどの沈黙を保っている。 唯一向こうの国連から派遣されてきた”パルスター”と”ブレイジングスター”が、積極的にVR隊の増援を各地に転送しているくらいだ。

「さぁて、クリスマスのプレゼントは、誰に手渡されるのかしらね・・・」

  やはりケイイチが残した書き置き通り、最悪の事態が起こってしまうのか。 そう思いながらモニターの墨に表示された日付を眺めた後、誰にも聞こえないような声で呟いた。


・ オリジナルハイヴ内  第1隔壁周辺

「鎧衣! ”門級”の開放作業は進んでいるか!」
「今開閉剤を注入しています! 完全に開放するまで、後180秒です!」
「よし! 珠瀬と朝倉は鎧衣をカバー、残りの物は凄乃皇を全力で死守しろ!」

 美琴の報告と全員の復唱を聞き終えた後、みちるも凄乃皇を守るべく不知火参型を跳躍させて移動する。 オリジナルハイヴに突入し、”あ号標的”に続く横坑に設けられている”門級”と呼称された隔壁を前に、ヴァルキリーズがそこを突破しようと奮戦していた。
 凄乃皇のML機関に引き寄せられた大量のBETAが、皆が来た道を辿って次々とヴァルキリーズへ襲い掛かる。 ヴァルキリーズ各機に搭載された火砲、そして凄乃皇五型の全身に搭載された近接防御用のパルスレーザー砲が迫り来るBETAの群れを迎撃するが、それでも追い付かないほどの物量が凄乃皇やヴァルキリーズを飲み込もうとしていた。

「皆、射線上から離れて!」
「っ! 全機、凄乃皇の射線上から退避しろ!」

 純夏の呼びかけと同時に、凄乃皇五型の両腕に装備された5連装荷電粒子砲が動き、10の砲門が後ろから津波の様に押し寄せるBETAへ向けられる。 純夏のコールと共に、粒子加速器から生み出された荷電粒子の濁流が一斉に放たれ、佐渡島の時と同じように無数のBETAを根こそぎ吹き飛ばしてしまった。

「まだまだぁ~~~!!」

 純夏の雄叫びと共に砲撃は止まる所を知らず、1門ずつ連射される荷電粒子砲の応酬がBETAを次々と飲み込んで行く。 そして運良く其れを逃れた固体も、ヴァルキリーズの制圧射撃により瞬く間に無残な肉片へと化して行った。
 そして壬姫と直美の護衛を受けて隔壁の開放作業に入っていた美琴が、隔壁完全開放の報告を皆に伝える。

「3・・2・・1・・・ 伊隅大尉! 隔壁開放完了しました!」
「よし! 鑑、今の内に隔壁を通過しろ! 鎧衣は続けて隔壁の破壊準備だ!」
『了解っ!!』

 純夏たちの復唱の後、ML機関とメガドライヴの力を借りた凄乃皇五型の巨体が音も無く浮き上がり、完全開放した隔壁へと一目散に向かう。 そして閉塞剤を注入するよう機材とS-11をセットし、美琴の晴嵐が殿を任せられた武と冥夜と共に閉まり始める隔壁を通過した。
 隔壁が閉まり終えた直後に聞こえて来るS-11の炸裂音を聞きながら、武が激励の言葉を送る。

「やったな美琴! タイマーセットも完璧なタイミングじゃないか!」
「そんな褒めないでよ~、照れちゃうじゃないか~」
「だがそなたのお陰で、横坑から来るBETAを食い止められたのだ。 もっと胸を張るがよい」
「いやいや、張るほどボクに胸なんて~」

 武と冥夜のおだてに乗ってしまったが故に、うっかり墓穴を掘るような発言をしたことに気付いた美琴の顔面が青ざめる。 その一部始終を目の当たりにした皆が笑い声を上げ、あのみちるも口元を緩ませていた。
 初めて目に見えた自分の成果に美琴のテンションが最高潮に達していたその時、機体に高精度センサーを装備する千鶴と梼子が、新たなBETAの来訪を皆に告げる。

「前方に新たなBETAの集団を確認! 」
「凄乃皇の荷電粒子砲掃射後、突撃前衛は近接戦闘で掃討に入れ! 出来る限り弾薬を節約するんだ!」
『了解!!』

 再び凄乃皇の腕部荷電粒子砲から光が迸り、BETAの大群を灰燼へ帰す。 そして水月、光、慧の3人が残存しているBETAを長刀で次々と斬り捨てていく。 

「グズグズしてると、速瀬中尉達に片付けられちゃうわよ白銀君!」
「はいっ! 行くぜ冥夜!」
「承知!」

 菫の声に導かれるように、カイゼルと武御刀がテムジン『霧積』に誘われ水月達と共にBETAを狩り始める。 三人の機体は共通して弾切れを心配することの無い光学兵器をそれぞれ装備し、その長所を生かすべく射撃を主体とした戦闘を繰り広げていた。
 ビームに穿たれ、もんどりうって沈黙する突撃級を見た水月が、冷やかすように武達に語りかける。

「あ~あ、あんた達だけそんなハイテクな武器使えるなんて、ホント羨ましいわ~!」
「僻まないでくださいよ速瀬中尉、私達の機体の方が低コストですから副司令達も喜んでますって!」
「・・・数が多けりゃ結局変わらない」

 慧と光になだめられてフンッと鼻息を荒げつつも、水月は目の前に居る要撃級を長刀で切り伏せる。 高周波振動長刀の切れ味に惚れ惚れしながら、水月が二人に指示を飛ばした。

「仕方ないわねぇ、なら性能の違いが戦力の決定的差じゃない事を、白銀達に見せ付けてやろうじゃない!!」
「了解っ!」
「・・・右に同じ」

 水月の指示に応え、彼女と共に颯爽とBETAの群れに飛び込む慧と光。 そして彼女達が作り上げた血の絨毯に沿って、凄乃皇が幽雅に通過して行く。
 あ号標的が鎮座する大広間(メインホール)、それに繋がる第1隔壁まで目前に迫っていた。


『ああ! ジャン・ルイがやられた!!』
『落ち着けジーン、君が指揮を引き継ぐんだ!』
『くそっ!毎度毎度数が多すぎるぜ!』
『ならプランBで行こうぜ』
『で、そのプランBってのは?』
『あぁ? そんなもんねぇよ! 行くぜ!!』

 戦乙女に導かれ、凄乃皇の巨体がハイヴの奥深くを進む。 00ユニットとしての力により最早世界中のネットワークを意のままに操れる純夏は、ネットワークを通じて自分達と共に戦う戦士達の声を聞いていた。
 自分達の故郷を取り戻そうとする者、死んだ仲間の仇を打とうとする者、残された家族を守るために戦う者。 その理由はまさしく十人十色であるが、こうして人類が一つにまとまって戦っている事を知り、一時的だが武の望む世界が出来上がっていることに純夏は嬉しく思った。
 武が去った後も、この状態が続いてくれる事を純夏が願っていると、遂に二つ目の隔壁の前にヴァルキリーズと凄乃皇が到達する。

「出番だ鎧衣! 一つ目の隔壁より手早く空けてしまえ!」
「了解!」

 みちるの指示に復唱した美琴の晴嵐が、開閉剤の詰まったドロップタンクを背負って隔壁を制御する門級BETAの脳へと開放剤の注入を開始する。 同時に壬姫と直美が展開し、美琴を守るべく弾幕を抜けて来たBETAを片っ端から撃破する。 並外れた射撃技能をもつ二人だが、壬姫の技能は恐るべき芸当を見せ付けていた。
 壬姫の晴嵐の頭部に設けられた、超高精度スコープが要撃級の尾にある歯茎までクッキリと映し出す。 壬姫のか細い指がトリガーを引き、河城技研から供与されたレーザーライフルのマズルから閃光が煌めく。 開発者の名を取って『唐沢1型』と命名されたレーザーライフルから放たれた高密度の光子が、スコープに入った要撃級を一撃の下に射抜いた。
 唐沢1型から役目を終えたエネルギーカートリッジが即座に排莢され、リロードを確認した壬姫が次の目標を見定める。 狙いを定める速さと精度は、世界最高峰と呼ぶに相応しいレベルであった。 まとめて2体を葬るのは当たり前、直美が4体撃破すれば、壬姫はその倍を上回る。
 そのインチキまがいの技量の秘密を探ろうと、直美は壬姫に問いかけた。

「珠瀬さん、何でそんなに早く狙撃できるの?」
「う~ん、秘密です!」
「ああ、そう・・・」

 即答で拒否された直美は装備する120ミリ電磁速射砲をバーストに切り替え、その憂さを晴らすように小刻みにBETAを撃ち払う。 これも彼女がもつ才能だろうなと納得したところで、美琴の報告が舞い込んできた。

「此方鎧衣! 隔壁の完全開放を確認!」
「今だ鑑、早く突破し・・・っ!?」

 みちるが純夏にそう伝えようとした瞬間。 突如として横坑全体、いやハイヴそのものが蠢いているかのような強烈な振動がヴァルキリーズを襲う。 そして隔壁前の内壁が突如決壊したかと思うと、濛々と上がる土煙の奥に見たくも無いあのBETAの姿があった。

「母艦級!?」
「来ると思っていたが、こんな所で現れてくれるとはな!!」

 あ号標的の命を受け、武達を排除するべく送られた母艦級BETA”メガワーム”。 隔壁にも似た開口部がゆっくりと開き、そこから要塞級を含む大量のBETAが放出される。
 既に凄乃皇は主砲のチャージに入っており、腕部の荷電粒子砲はもう使用出来ない。 他に使用出来る武器と言えば、機体各所に配置してあるS-11弾頭ミサイル位だ。 だが其れを使うとなれば、強烈な爆風でヴァルキリーズの皆を巻き込んでしまう。 今の自分に何も出来ないのか純夏が思考を張り巡らせていたその時、再び衝撃と共に横坑の壁が崩れた。
 母艦級とは異なるBETAの増援が、擬装横坑から現れたのかと誰もが思った。 だが同時に聞こえてくる声に、武は聞き覚えがあった。

「ヴァルキリーズ、ここは我らに任せてもらおう!」
「先行した米軍機、それにこの声は・・・ウォーケン少佐!」

 濃緑色に塗られた機体の右肩に見える、米国軍所属を現す国籍マーク。 そして従来の戦術機と一線を凌駕する、鋭利かつマッシブなシルエット。 ”い号標的”に向かった筈の米軍部隊を指揮するウォーケンが駆るFB-22A”ストライクラプター”が、吹き飛ぶ破片と共に颯爽と武達の前に現れる。 突然の助っ人の出現に、半信半疑のままみちるがウォーケンに尋ねる。

「ウォーケン少佐! どうして貴方がここに!?”い号目標”の制圧はどうなったんです!?」
「何、探検していたらちょっと道に迷ってね」

 そう応えるウォーケン機に随伴している無人型F-15”グレイ・イーグル”が彼の命を受け、有人機を遥かに上回る機動で母艦級から放出されるBETAの群れに突っ込む。
 2機のグレイ・イーグルが両手に持つ電磁突撃砲が金切り音を奏でる度に、凄乃皇とヴァルキリーズに迫るBETAがこれまた凄い勢いで肉片へと仕立てて行く。 そして片方のグレイ・イーグルの支援を受けながら、1機のグレイ・イーグルがBETAの群れに吶喊。 両腕に内蔵されたモーターブレードで、次々にBETAを切り刻んで行く。
 思いもよらぬ救援が現れてくれた事に対し、皆の歓声が通信に溢れる。 そして攻撃を無人機に任せたまま、ウォーケンが皆に状況を伝える。

「”い号目標”は制圧済みだ。 これは行き掛けの駄賃だよ」
「そうですか、救援感謝します!」
「そう思っているのなら前へ進め! そして生きてまた会おう!」

 そう告げた後にフッと笑いかけるウォーケンに対し、武達は感謝の言葉をそれぞれ継げて隔壁を突破する。 ヴァルキリーズの全員が通過した直後に、閉塞剤が注入され続けた隔壁が遂に閉鎖される。 其れを確認したウォーケンは、愛機が装備する120ミリ電磁速射砲で門級の脳を破壊しBETA達の追撃を防ぐ。
 後に残されたのは、破壊されるか命令が変更されるまでBETAを狩り尽くそうとするグレイ・イーグルのエレメント。 そしてウォーケンのストライク・ラプターと、その相手であるBETAの軍勢だけだった。

「さあ、もう少しだけ私に付き合ってもらうぞ、ケダモノ共・・・!!」

 覚悟を決めたかのように呟いたウォーケンのラプターが速射砲を構え、跳躍ユニットとメガドライヴを唸らせBETAの軍勢に向けて突撃して行った。


・ AM7:53 オリジナルハイヴ最深部 大広間手前横坑

「全機、最後の補給完了!」
「よし! 大広間へ前進する!」
『了解!!』

 何度行われたか分からないみちるの指示とヴァルキリーズの復唱が通信に木霊し、ヴァルキリーズの機体と凄乃皇が”あ号標的”へと向かう。 その中で武は、今まで自分の身の周りに起こった出来事を振り返っていた。
 ”元の世界”での平和な暮らし、”前の世界”で培った知識と技能、そして”電脳暦世界”と”2度目の世界”で出会った仲間たちと純夏との再開。
 それらの出来事が全て昨日や一昨日に起こった出来事のようにも思え、その全てがあるからこそ今こうしてカイゼルのコクピットに乗り最後の決戦に臨んでいる。

「(なんていうか、最後まで夕呼先生にガキ臭い所を見せちまったな・・・)」

 自分が夕呼に青臭さを振り返り、武は思わず苦笑する。 凄乃皇の主砲チャージは90%に達し、あと少しでチャージを完了する。 最大出力による凄乃皇の主砲をあ号標的にお見舞いし、その直上にある主縦坑から脱出する。 其れが夕呼が発案した、『オペレーション・レイフォース』の幕引きだった。
 前に進むにつれて、ハイヴ壁面が放つ光が強さが増して行く。 そして一際巨大な大広間の中心に、地球上のBETAの頂点である、重頭脳級BETA”あ号標的”の姿が見える。 そして向こうも武達の存在を確認したのか、玉座に当たる部分から大量の触手を持って歓迎する。
 凄乃皇目掛けて迫り来る触手の姿は、まるで日本神話における八岐大蛇の様にも見えた。

「伊隅大尉!」
「全機、凄乃皇を絶対死守だ! あの触手を凄乃皇が喰らったらひとたまりも無いぞ!」
『了解っ!!』

 G元素を生成しそれを使用するBETAの事だ、恐らくあの触手はラザフォードフィールドをも貫通するに違いない。 何時もの自分らしくない常識に捕らわれぬ発想に笑みを浮かべながら、みちるは皆と共に迫り来る触手を電磁速射砲で迎撃する。

「全く、最後まで油断が出来ないわね!」
「仕方ないさ。 ダイモンの兵器もかなり手強かったと、チーフの記録にあったしね!」

 凄乃皇の傍で迎撃を行っているケイイチが言ったその時、カイゼルと武御刀が前に躍り出て、楽しむかのように触手を切り裂いて行く。
 その光景を見た菫には、武と冥夜の二人がBETAと舞踏を踊っているかのように見えていた。 一度しか見ることの出来ない壮大な舞踏、それをこの目に焼き付けるべく菫も前に出てあ号標的の触手を迎撃する。
 そして誰もが待ち構えていた言葉が、純夏の口から紡がれる。

「主砲、フルチャージ完了!」
「遠慮は要らん、ぶちかませ鑑!」
「っ!? あれは!? 大尉・・・!」

 凄乃皇が今まさに主砲を発射しようとしたその時、晴子があ号標的の玉座部分にエネルギーが集中している事に気付く。 みちるに報告しようと口を開いたその時には既に手遅れだった。 次に武が目にしたのは、あ号標的から放たれた一条のレーザーが、ラザフォードフィールドを解除していた凄乃皇の前面を貫く光景だった。
 行き場を失ったエネルギーが暴走し、凄乃皇の自慢の武器である荷電粒子砲の片方が爆発により喪失する。

「何っ!? レーザーだと!! 鑑、大丈夫か!」
「平気です! ただ荷電粒子砲のチャージをやり直す必要があります!」
「あ号標的以外にBETAの反応あり、奴の内部から出現してきます!」

 鑑に続いて梼子の報告どおり、あ号標的の内部に正体不明のBETAの存在が確認できる。 どうやらアイツが凄乃皇を怯ませたレーザーを放った張本人だろう。 生物の出産における破水と同じように反応炉と同じ青く光る液体があ号標的から溢れ、そこから現れた新種のBETAの姿に、みちるがおもわず呟く。

「アレは、まるで戦術機ではないか・・・!」

 みちるの言葉は、其れを見たヴァルキリーズ全員の感想を体現していた。 人型のシルエットを持つ全身は鎧の様に突撃級や要撃級の装甲殻で覆われ、腕に相当する部分にブレードを兼ねているであろう放熱板とレーザー照射膜。 そして装甲殻の継ぎ目からは、戦術機の物であろう機械の部品が露出していた。
 おそらく従来のBETAの機能を集約させ、人類側の兵器情報を取り込んだことであ号自ら作り上げた物なのだろう。 今までのBETAの能力から見れば、底知れぬ力を秘めている事は明らかであった。 マイザーナブラによって映像が夕呼の元へと送られ、即座に彼女が”化身級(アバター)”と命名する。 

「白銀、鑑の凄乃皇がもう一度荷電粒子砲のチャージを行う。 其れまで奴を・・・”化身級”を食い止められるか?」

 部下の命を預かる隊長だが、時として無謀な命令を部下に下す事もある。 そして目の前に居る新種のBETAを相手にしろと武に命令するみちるは、自分が今ヴァルキリーズの長であると言う状況を激しく呪った。
 だがそんな彼女に反し、武は笑ってそれに答える。

「要するに、純夏を全力で守れってことでしょう?」
「そういう事だ、行け白銀!!」
「了解!!」

 カイゼルの電磁推進ユニットが、メガドライヴが何時に無く甲高い唸りを上げる。 そしてあ号の触手が飛び交う中、カイゼルが化身級に向けて吶喊した。

「珠瀬ぇ! 白銀を全力でサポートだ!あいつに近づく触手を全て落とせ!!」
「了解!」

 武の勇姿に、みちるも指揮に熱くなる余り、まるで怒鳴るように壬姫に武の支援を命じる。 そして彼女達はカイゼルと凄乃皇に迫る触手を撃ち落す最中、とても口で説明出来ない光景を目の当たりにした。
 あえてその戦いを例えるなら、『美しく、そして余りにも悲しい』と皆は言うだろう。 カイゼルと化身級は互いに致命的となる攻撃を繰り出し、それらを紙一重で回避し合う。
 カイゼルの機体は幾度と無く化身級が放つレーザーを回避した事で塗装が変色し、全身が銀色に輝いているようだった。 この戦いが永遠に続くかと思われたその時、再び鑑からチャージ完了の連絡が入る。

「お待たせ! 改めて、凄乃皇の主砲を撃つよ!!」

 純夏の報告、それは武に唯一の隙を作るのに十分だった。 闘士級のような化身級のマニピュレーターが、カイゼルの左腕をいとも容易くもぎ取る。

「タケルちゃん!」
「なにやってんだ純夏! 俺にかまわずアイツを撃て!」
「でも・・・!」

 悲痛の声を上げる純夏に反し、武は自分が怖いほどに冷静だったことを自覚していた。 武の体から溢れるパラポジトロニウム光、武がこの世界に居られるタイムリミットが、この時になって遂に訪れてしまったのだ。 このチャンスを逃して消えてしまったら、皆がどうなるのか分からない。
 光はますます強くなり、ついにはカイゼルの機体からも発せられるようになった。 そしてその光を見た瞬間、純夏は全てを理解した。
 半ば目じりに涙を浮かべる純夏に、武は最後の願いを純夏に言う。

「頼むよ純夏、最後の最後くらい、俺のわがままを聞いてくれよ・・・!」
「・・・うんっ!」

 大切な人をこんな形で送り出すのは、正直純夏は忍びなく思っていた。 だが、このような結末も決着も、他ならぬ彼が決めたこと。 トリガーを引くタイミングは彼が教えてくれる。 主砲のグリップを強く握り締め、純夏は銀色に輝くカイゼルを見定めた。

「さあ・・・行くぜあ号標的! これがお前に見せる、俺の最後の大技だ!!」

 化身級との硬直を解いた武のカイゼルがスマートガン、そして機体全てのリミッターを解除する。 荒れ狂うプラズマ炎がカイゼルの跳躍ユニットから噴出し、メガドライヴに蓄積された慣性エネルギーを全て放出して吶喊する。 スマートガンの刀身は化身級の胴体を貫くが、カイゼルは勢いを止めず、そのままあ号標的へと突き進む。

「うおおおおおおおっ!!」

 銀色の光の中、武は力の限り叫ぶ。 メガドライヴのホイールが放電するほどに回転し、跳躍ユニットのノズルは赤熱化し己をも焼き尽くそうとする。 だが、武とカイゼルは化身級を刺したまま、あ号標的目掛けて一筋の槍となって突き進んでいた。 自らを滅ぼす存在に、一矢報いろうと化身級が最後の足掻きに出る。
 カイゼルのコクピットを射抜くべく、腕部のレーザー照射膜に光が溢れる。

「そうはさせるもんですか!!」
「タケルの行く道を、邪魔させはしない!!」

 だがその足掻きも、冥夜の武御刀と菫の狙撃により両腕を喪失した。 パラポジトロニウム光の輝きは最高潮に達し、迫り来る触手もまるでラザフォードフィールドのように弾き飛ばしてしまった。
 スマートガンの切っ先があ号標的の玉座に突き刺さったその時、武は力の限り叫んだ。

「撃てぇぇぇぇっ!! 純夏ぁぁぁぁぁっ!!」
「うわあああああっ!!」

 武の最後の願いに応えるべく、咆哮を上げながら純夏は主砲のトリガーを引く。 腕部の其れとは比較にならない濃密な荷電粒子の濁流があ号標的を包み、その存在を消滅させて行く。
 そしてその中には、止めを刺された化身急と、白銀の光に包まれているカイゼルの姿があった。

「ざまあみやがれBETAめ。 人類を・・・無礼るな!」

 崩れ去るあ号と化身級の姿を見届けながら、中指を立ててそう呟く武。 そして彼の意識は、閃光の中へと消えて行った・・・


2001年12月24日:ヴァルキリーズ、オリジナルハイヴ最深部に存在する”あ号標的”の破壊成功。 この世界の人類に未来と言う名のクリスマスプレゼントを手に入れた。  ヴァルキリーズ、白銀中尉を除き当日中に全員帰還。
 米軍部隊、G元素生成プラントである”い号標的”制圧成功。 ヴァルキリーズと共にオリジナルハイヴを脱出し、高純度のG元素を採取し帰還する。





・ 2002年 1月14日 AM6:24 横浜基地郊外


 G弾により植生を失いながらも、横浜基地の郊外にある丘に力強く聳え立つ一本の木。 かつて『ここで告白した恋人たちは必ず結ばれる』という伝説があるこの丘で、国連軍の制服と着た純夏は今なお荒廃した廃墟が広がる横浜の町を眺めていた。
 『オペレーション・レイフォース』の成功により、世界情勢は大きく変革した。 夕呼達の予想通り、オリジナルハイヴを破壊しBETAの情報ネットワークを寸断したことで、各地のBETA対処能力が非常に緩慢になったのだ。 そして米軍が回収した高純度のG元素により、人工島 『アトランティス』でメガドライヴを初めとするG元素応用兵器が大量生産されることが決まり、いずれ行われる大陸奪還の原動力となるに違いないだろう。
 『人類の勝利』という言葉がいよいよ現実味を帯びてきたことを感じている中、純夏の後ろから聞きなれた仲間の声が聞こえて来る。

「あ、こんな所にいた!」
「一人でどうしたのだ? 皆、そなたの事を探していたぞ」

 純夏が振り向くと、同じく国連軍の制服姿の冥夜と菫の姿。 オリジナルハイヴ攻略の立役者として、横浜基地のエースたるヴァルキリーズは世界中から賞賛の声を浴びる事となった。 当然全世界のマスコミがこのネタを逃すはずも無く横浜基地へ殺到し、大量の報道陣と機材車両が正門へ押し寄せる様は、さながらBETAの襲撃かと門番コンビが見間違えるほどだったと言う。
 あ号標的をこの世から消滅させた純夏の凄乃皇五型も、修復作業と更なる強化改修が全力で行われている。 無論、みちる達が搭乗した不知火参型や晴嵐は帝国軍の次期主力機候補として、メガドライヴといった機材や量産の為の予算調達が帝国で行われていると言う。
 全ての事柄が順風満帆で進んでいる中、丘に佇んでいる純夏の顔はどこか寂しげだった。 心当たりを知る冥夜が、彼女にそっと尋ねる。

「・・・タケルの事か?」
「うん。 タケルちゃん、ちゃんと元の世界に返れたのかなって・・・」

 冥夜が問いかけると同時に一際強く冷たい風が3人の間を通り、顔に掛かった髪を手のひらでどかしながら純夏は答える。
 あ号標的を撃破した後、純夏はカイゼルの残骸を早急に回収してオリジナルハイヴより脱出。 横浜基地に帰還した後、機体は夕呼の手により徹底的に調査された。 驚くべき事に、あの荷電粒子砲の直撃を食らっても、化身級にもぎ取られた左腕以外、カイゼルは傷一つ付いていなかったのだ。
 恐らく武が消える直前に機体から発せられたパラポジトロニウム光と、リミッター解除によるメガドライヴの慣性エネルギー放出により、ダメージを免れたと言うことなのだろう。

『まったく、アイツは最後の時まで特別だったようね・・・』

 奇想天外なカイゼルの解析結果を目の当たりにし、苦笑を浮かべながら言った夕呼の姿を純夏は思い出す。 そして誰もが予想したとおり、開かれたコクピットに武の姿は居なかった。 武の存在は正しくこの世界から消滅し、その残滓は虚数空間に拡散して、本来あるべき世界へと回帰していく。 だが武の予想とは反して、彼が関わった自称と記憶は人々から消えることは無かった。
 理由は分からない、ただ皆の脳裏に武との出会いと別れの全てが残っている。 これも彼が成しえた奇跡なのかと思いながら、菫の口が開く。

「カイゼルは、あの後どうなるの?」
「今のところは90番格納庫に置いておくと、夕呼先生が言っていました」
「そう。 でもあのまま放置しておくほど、香月博士は甘くないわね」

 化身級の戦いの末、装甲が剥げ落ちて銀色に輝くカイゼルは今も、まるで墓標のようにハンガーに固定されている。 だがあの夕呼の事、いずれは修復して運用するだろう。 その時は武の後継者たる衛士が、あのコクピットシートに座るに違いない。 
 オリジナルハイヴを潰しても、依然としてユーラシア大陸には無数のBETAがひしめいている。 その戦いの中で、自分達が何処まで生きられるのかは分からない。 それでも人類の剣たる戦術機を操る衛士として、未来の為に戦い続けてみせる。 彼が残した贈り物を、最後まで守り抜くために。

「またね、タケルちゃん・・・」

 再び強い風が吹き荒ぶ中、純夏は武との別れの言葉を紡ぐ。 居るはずも無い武の返事が、風に乗せて聞こえたような気がした。











・ 何処かの確立時空より 柊町市街地

「はぁ、今日はエライ一日だったな~」
「タケルちゃん、散々な扱いだったもんね」

 白陵柊学園からの帰り道、今日の出来事を振り返り溜め息を付く武の隣を、彼の幼なじみである純夏がその隣を歩く。 朝起きたら謎の女の子二人が寝て早々純夏に殴られ、その二人とロシアからの転校生が自分達のクラスの一員になったり、保険医の夕呼から”恋愛原子核”と認定され、帰りに立ち寄ったゲームセンターで茜のお姉さんとその彼氏達とバルジャーノン勝負を繰り広げたりと、それは目が回りそうなほど忙しい一日を繰り広げたのだった。
 ぶつぶつと愚痴を漏らし続ける武に微笑みながら、純夏は朝から気になっていた事を尋ねる。

「そういえば武ちゃん、夢を見たって言ってたけど、どんな夢を見たの?」
「あー、そういや見たっけな~」

 純夏の突入で目を覚ますまで、武はある夢を見ていた。 そこで数多くの仲間達と出会い、バルジャーノンに出てくるようなロボットに乗って戦い、地球を侵略する異形の生命体と戦い勝利する夢。 それは余りにも鮮明の様で曖昧で、現実のようで幻想が入り混じったかのような、そんな夢だった。
 こんな内容の夢を話したら、純夏は大笑いしてただの作り話だよと否定するだろうか? でも、話さずには居られない。 武は少し考えるそぶりを見せた後、純夏にその夢の話を隅から隅まで話す事にした。

- かくして、神話の英雄は語り紡ぐ・・・ -

「うーん、何処から話せばいいのかな~」

-それは・・・ -

「う~む、どうしようかな~?」
「えー、もったいぶってないでよタケルちゃ~ん!」

- とてもおおきな、とてもたいせつな・・・ -

「も~、早く話してよ~!」
「わかったわかった! まずは・・・」

- あいとゆうきのおとぎばなしを・・・ -

[完]


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