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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第36話-神威-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:21e62beb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/07 15:06
2001年11月15日 AM11:27 旧ノルウェー H08 ロヴァニエミハイヴ勢力圏内


『全部隊、所定の配置完了。 観測済みのBETA群は依然前進中』
強化装備のインカムに届く、HQの淡々とした報告。 それは霧の中を進む国連欧州軍のEF-2000“タイフーン”擁するウインド中隊、その1機に乗る新米女性衛士の耳にも届く。
 出撃前に受けた後催眠暗示をもってしても、今回が初陣となる彼女の不安と恐怖は到底拭い去ることはできない。 30年以上に渡って地球の大地と人類を文字通り食いつぶして来たBETAが、この白い闇の向こうから襲いかかって来るのだ。
 体温調節が行われているはずなのに、全身から出る汗でまとわりついて仕方ない。 そんな妙な感覚に戸惑っていたその時、先頭を進む中隊長から声が掛る。

「どうしたルーキー? もうじきBETAと戦えるからって我慢出来ないってか?」
「ち・・・違います!」

セクハラまがいの中隊長の言葉に、彼女は頬を赤らめながら反論する。 その初々しさと生真面目な回答に、周りの先任衛士達の笑い声が響いた。 だがこの発言も、自分の緊張を解すための千人達の配慮である事に気付き、彼女は今までの緊張から脱する事が出来た。

「しかし隊長、例の連中は信用できるんでしょうか?
「司令部が信じたからこその今回の作戦だ。 それに、目の前で困っている人を見過ごせないのが、人間ってもんだろ?

 後衛のポジションにいる部下の一人が投げかけた質問は、隊の誰もが思っている事を体現した物だった。 今回の作戦は表面上では、北欧エリアにおける大規模な間引き作戦。 だがその実態は先の銑鉄作戦と同じ、異世界の軍隊と協力して行われる第2のハイヴ攻略作戦なのだ。
 それに備えて以前から行われていた、官民問わず水面下で行われていた異世界同士の交流。 そして銑鉄作戦の成功と各地で計画されている反攻作戦の先駆者として、彼らは後戻りできない質に赴こうとしているのだ。
 事前の交流を得ているとはいえ、異世界の人々と完全に打ち解けた訳ではない。 不要か邪魔と判断されたら、BETAもろとも攻撃の対象に入るのでは? そうした疑念がウインド中隊の衛士達の奥底に風呂のカビのようにこびり付いていた。

『おいおい衛士さんよぅ、少しは俺達を信用しても良いんじゃないのか?』
『そこの中隊長さんの言うとおりだぜ。 俺達もこんな異界の荒野で、ゲテモノ共の腹の中に納まるのは真っ平ゴメンだ』

 だがそんな彼らの心境とは裏腹に、中隊の後ろを追従する2機の第3世代VR、VOX A-300 ボックス“エイジ”と、VOX D-102 ボックス“ダニー” に乗るパイロット達から声がかかる。 2人は電脳歴世界の欧州より派遣されて来たシンフォニー大隊に所属しており、今回の作戦ではこの様に」戦術機一個中隊につき2機随伴して行動しているのだ。
 どうやら自分が抱いていた心配は無駄のようだったな。 彼らの言い分を聞いたウインド中隊の隊長は、ほっと胸を撫で下ろす。 無数のBETAが蔓延るこの世界の戦場では、何が起こるか分からない。 故に無敵の性能を誇るVRと言えど、その性能を過信する事は出来ないのだ。
 そして彼らが得るであろう富と名声も、この戦いを生き延びて初めて得る事が出来る。 だからVOX2機のパイロット達も、決して楽観してこの戦いに臨んでいるわけではないのだ。
 自らが持つ全ての力と能力を尽くして生き残り、必ずこの戦いに勝利する。 そんな空気がウインド中隊に漂っていたその時、HQから新たな報告が届く。

『展開中の全部隊へ。 砲兵隊と同時に、新型ミサイルによる事前攻撃を行う。 データリンク上に表示される射線上に入らぬよう注意せよ』

報告から程無くして、砲兵隊操る自走砲の方向が後ろから響き渡る。 同時にウインド中隊の衛士達の網膜には報告にあった新型ミサイルの軌道が表示される。 おそらくは地上スレスレを滑空するタイプのものだろうか、中隊長は部下達に軌道に入らないよう気を配りながら、隊列を維持するよう命じる。

「「来たっ!」」

 最後尾を進むウインド12の衛士と片方のVRパイロットが叫んだ瞬間、後方から空気を切り裂く砲弾が飛来する音。 それと同時に黒く塗られた巡航ミサイルが、ウインド中隊を目にも止まらぬ速さで追い抜く。

「まるでコックローチだぜ・・・」

 BETAという餌に向かっているかのような巡航ミサイルの挙動、それを見たウインド4の衛士が偶然にも自分達を追い越したミサイルの名称を呟く。 そして砲兵部隊が放った砲弾を撃ち落とすレーザーの閃光が上空に迸り、超低空を巡航する第一波が先陣を突き進む突撃級の群れに正面から突き刺さる。
並の砲弾以上の速度と、超硬質の徹甲弾頭の直撃をもらった個体はその頑強な装甲殻が粉々に砕け散る。 また一部のミサイルはクラスター弾が詰まったコンテナを切り離し、放出された子弾が突撃級の後ろに続く要撃級や小型種に降り注ぐ。 その光景は、まるでゴキブリが死する前に卵嚢を排出するそれそのものだった。 第一波の巡航ミサイルの着弾後も、光線種の迎撃能力を上回る砲撃を砲兵隊が彼らの頭上を通り越す中、シンフォニー大隊司令部から2機のVR宛てに指示が送られる。

『コックローチの第一波散布が完了。 展開中のシンフォニー各機は第2波攻撃を開始、小型種BETAの浸透を阻止せよ』
「だってよ、どうする相棒?」
「そりゃあ決まってるぜ。 俺の機体に詰まったこいつを、あいつらに御馳走してやるのさ!」

指令を聞いた2人の掛け合いが終わると同時に、ボックス“ダニー”の両肩に備わるミサイルランチャーが勢い良く開き、その中に装填された巨大なミサイルがこれまた勢いよく放たれる。
 砲兵隊の地道な活躍によりレーザーの洗礼を受ける事のなかったそれがBETA小型種が密集する地点まで飛翔したかと思うと、内部に詰まったクラスター弾頭がポップコーンよろしく飛び散り、小型種のみならず要撃級までも紅蓮の炎と無数の破片を受け、次々に巨大な骸と化して行く。
 たったの2発でこれから戦うBETAの量を大幅に削減したミサイルの名称が、そのまま『ポップコーン』だという事実をウインド中隊の衛士が知るのは、もう少し先の事であった。 そしてウインド中隊の隊長が、部下達に陣形の確認を伝える。

「全機、フォーメーション“ウォー・ヘッド2”で前進! 随伴するシンフォニー隊の支援を受けつつ、我々は一路ロヴァニエミハイヴへ向かう!」
『了解っ!!』
「では行くぞ! ゲットレディ・・・」
『ゴォーッ!!!』

 ウインド隊の衛士とシンフォニー隊のVRパイロット双方の咆哮と共に、12機の鋼鉄の騎士と2機の電脳騎兵がBETAが跋扈する戦場へと突入する。
 そして彼らの行動開始と同時に、史上2度目となる異世界共同のハイヴ攻略作戦、『オペレーション・メタルスラッグ』が開始された。


2001年11月15日  銑鉄作戦の教訓を元に、H08 ロヴァニエミハイヴ攻略を目的とした『オペレーション・メタルスラッグ』開始。 両世界の技術による最新兵器が惜しげも無く投入され、VRと戦術機の部隊連携により同日中にハイヴ反応炉の破壊に成功。

11月16日 香月夕呼、『因果律量子論に基づいたG弾が並行世界に及ぼす影響』という仮説を秘密裏に国連に提示。 電脳歴世界の火星に出現したハイヴの事例を前面に押し出し、G弾の使用禁止及び解体と凄乃皇とメガドライヴの原料となるG元素の確保に乗り出す。


マブラヴ -壊れかけたドアの向こう-
#36 神威


 2001年11月18日 AM10:43 国連軍横浜基地 データベースルーム


「新型機の名称は“武御刀”に決定か。 まったく、対抗意識むき出しなネーミングね・・・」

オペレーション・メタルスラッグの成功で再び基地が活気付いている中、申し訳程度の照明が点灯する横浜基地の電算室一角で、新型機の名前を知った菫が皮肉ったように呟く。
 横浜に帰って早々、夕呼の口から語られた電脳歴世界での戦術機開発。 それを聞いた菫は一目散に電算室に掛け込み、自分達が得た実戦データを今まで貪るように整理検証していたのだ。
 機体を作るだけの機材、資源、技術は電脳歴世界には十分に揃っている。 後はそのノウハウと情報さえあればカイゼルのような機体を作る事が出来る。 そして付けられたばかりの名前から、帝国の武御雷を参考に作る事は明白だ。
 この世界を訪れた頃からの記憶と経験を総動員させながら、菫はキーボードを突撃砲の発射速度が如く叩き続ける。

「(求めるのはカイゼルのような究極の汎用性、それを最大限引き出す武装を考えないと・・・!)」

30年に渡るBETAとの戦いの中で、戦術機の武装は確かに合理的かつ利便性に富んだ物が生み出されている。 だが自分の乗るテムジンが持つスライプナーや、カイゼルのスマートガンのような一つであらゆる戦いが出来る戦術機用の武器が、今の今まで開発されていないのだ。 それは『万能は無能である』という一種の呪いのような概念が、この世界の技術者達に定着していたからだった。
だが菫は思う。 戦車のように大地を駆け、戦闘機のように大空を舞う。 兵器に纏わる一般常識からすれば、戦術機やVRのような人型機動兵器こそがそれから逸脱した“不完全”な兵器なのではという事に。  そしてその不完全さを少しでも取り払うべく、パイロット達や技術者達が己の全てをかけて戦っている事に。
 VRパイロットであり、技術者の上司を持つ自分もそんな彼らの力になれる筈だ。 その一心で画面中の資料に目を通していたその時、菫は武御刀に相応しい逸材を見付ける。

「・・・BWS-3 グレートソード?」

モニターに煌々と表示される型式番号を、無意識の内に呟く菫。 モニターに映るのは戦術機の身の丈程もある、巨大な剣の姿。 それは欧州戦線で開発された近接戦闘用武器の中でも、所謂“キワモノ”と呼ばれる代物であった。
帝国軍機が用いる74式長刀は明らかに“斬る”というイメージだが、このBWS-3の場合はその巨体さからくる重量を生かして、斧のように対象を”叩き割る”意味合いが強い。 加えてメインのグリップのほかに両側にサブグリップを設ける事で、“突き”に特化した使用も可能だ。
 この武装は英国軍に採用され、熟練衛士が用いれば要塞級を撃破できる真価を秘めている事から、『要塞級殺し(フォートスレイヤー)』の愛称で呼ばれ、突撃前衛の装備として親しまれて来た。
 だがそのサイズから来る扱いの難しさとEF-2000の配備による戦術の転換、つまり射撃と固定近接武装による高機動戦闘が主軸となった事で、現在は同武器の生産は行われていない。 だが前線で戦う熟練衛士達からの評判は衰える事は無く、現在でも使い続けている部隊があると言う。
 アーカイブから見つけた映像資料を眺めている内に、菫はこの大剣が自分が見知った武器とよく似ている事に気付く。

「これ、射撃機能があれば707や747のスライプナーと同じになるのかしら?」

 BWS-3を構え、突撃を敢行する英軍のF-5E“トーネードIDS”の記録映像を眺めていた菫が、無意識の内に感想を呟く。
 1機のF-5Eが握るBWS-3の切っ先が要撃級へ水平に食いこみ、そのまま横方向へ力任せに薙ぎ払う。 続けざまに要塞級の衝角を巧みに回避して大きく跳躍したもう1機のF-5Eが、振り下ろしたBWS-3の刃でその醜い頭部を一撃の元に両断する。
 その光景が菫には、唯一の手持ち武装であるスライプナーで戦うテムジン707と747の姿と被って見えてしまったのだ。 そして菫はアーカイブを掘り進むうちに、欧州戦線が運用する独特の戦術機用武器の存在とその概念を知る事になる。
ユーラシア内陸部に数多くのハイヴが存在する欧州での戦いでは、海軍による支援砲撃は射程距離に限界がある。 一方の陸軍も機甲部隊では迅速に展開する戦術機に付いていけず、また過去の戦いでその戦力が疲弊していた。
そこで欧州の各国軍隊は、戦術機に重火器を装備させて展開速度と火力の充実を図る“オール・TSFドクトリン”という概念が生み出されていた。 画面に映し出された軽機関銃のようなデザインをしているMk57支援砲も、その申し子と言うべき代物である。

「これよ・・・これならいけるわ!

 武御刀の為にあるかのような概念を見付けられた事に、菫は嬉しさと興奮、そして自信の脳内から溢れ出すアイデアを抑えられずにはいられなかった。 即座に彼女は自身が持つ端末を立ち上げ、BETAの物量に負けない位のアイデアをメモ帳アプリに書き留めて行く。 そしてアプリあらかたまとめた菫は端末を脇に携え、一路夕呼がいるB19フロアのラボへ向かった。


同時刻 横浜基地 シミュレータールーム


「(敵機確認、12時方向、タイプ97改、突撃前衛装備2機・・・)」

 網膜に投影される情報を声に出さず復唱し、強化装備姿の霞が愛機に命じるようにフットペダルを踏み込む。 霞機の接近に気付いた2機の晴嵐が、廃ビル街から身を乗り出して応戦。 舐めるように掃射される36ミリの嵐を、霞が操るエンジェリオはその間を縫うように回避する。
 両肩に備えるイナーシャル・フローター、G元素をエンジェリオの機体が軽やかに空中へ舞う。
 右手に持つ88ミリガンポッドの銃口が、標的となった1機の晴嵐に向けられ、霞は何の躊躇いも無くそのトリガーを引く。 極めて短い感覚で放たれる大量の荷電粒子の弾丸を浴びた晴嵐が、全身の装甲を無残に穿たれた姿を晒しした直後に爆散。 そして霞はもう1機の晴嵐にも掃射を行い、同じ運命を辿らせる。
 わずか数秒で2機の晴嵐を瞬殺した霞は、まだビル街の奥に潜む敵機を討つべく前進を開始する。 進軍速度を上げようとしたその時、新たな敵機がレーダーの光点として表示。 強襲掃討と迎撃後衛、4機の晴嵐が各々の突撃砲をエンジェリオに放つ。

「フローター能力限定解除。 ソニックブレード起動」

 霞の口から紡がれる音声コマンドを認識したエンジェリオが、ガンポッドを腰部マウントへ格納すると同時に両腕に折り畳まれていたソニックブレードを展開。 イナーシャル・フローターの材料に練りこまれたG元素の触媒がエネルギー供給により活性化し、青い燐光を放ちながらその出力を増してゆく。 そして一際眩い輝きが放たれ、エンジェリオがブレードを突き立て吶喊を敢行した。
 フローターから発生する微弱なラザフォードフィールド、その恩恵を最大限に受けた機動を駆使して霞は銃撃掻い潜り間合いを詰める。 そして肉眼では捉えられぬ速度で振動するハイパーカーボン製の刃が、先頭にいる晴嵐に突き刺さった。
 慣性ブロックが収まる部位に直撃。 鮮血のように吹き出る火花を浴びるエンジェリオの頭部センサーが、歓喜しているかのように怪しく輝く。 そして右腕のブレードに晴嵐を突き刺したまま2番目に近い晴嵐を睨み付け、頭部に搭載されているパルスレーザー砲を放ち撃破する。
 その一方的と言うに相応しい戦いを、始終見届けている者達がいた。

「エンジェリオ、敵部隊の半数を撃破。 損害はほぼゼロのまま、想定より早いペースで続行中です」

 シミュレータールームの管制室に、一切の感情がこもらない機械のような遙の報告が響く。 その隣に立つ夕呼はそれを聞きながら、モニターに移るエンジェリオの姿を無言で見つめていた。 他者の精神を読み取る異能の力、オルタネイティヴ3の過程で生み出された”生ける人形”。 あれが霞本来の姿なのだろうかと、現行の保護者である夕呼は思う。
 彼女の乗機であるエンジェリオ開発の際に、オルタネイティヴ3で運用されていた特殊偵察機、F-14AL3『マインドシーカー』のデータを参考にしている。 そして現在のソ連では、霞の姉妹の生き残りが衛士として戦場に赴いていると聞く。

「(霞を出撃させると聞いたら、アイツは何て言うかしらね・・・)」

 霞が持つ潜在能力と、カイゼルと並ぶ性能を持つエンジェリオを持ってすれば、華々しい戦果を叩き出す事は間違いないだろう。  だが彼女の実戦投入を武は許すのだろうか、分かりきった答えに夕呼は遙に見られぬよう苦笑する。 そう夕呼が考えている合間にも、霞が操るエンジェリオが後衛の晴嵐へ襲い掛かる。 そうして白き天使の舞踏は、全機撃破まで続いた。


・ 2001年11月17日 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「これがフィルノート経由で向こう側から送られて来た、『武御刀』の機体概要です」
「ご苦労様ピアティフ中尉、下がって良いわよ」

 ピアティフから渡された一枚の封筒を受け取った夕呼がそう告げ、ピアティフは軽い敬礼をした後に部屋を立ち去る。 エアー式の気密扉が閉じられたのを確認した夕呼は即座に封筒の封を切り、その中身を確認する。 中には数枚の書類と、そのほかのデータが納められているだろう光学ディスクが入っていた。

「(まったく、書類を封筒に入れて送ってくるなんて、変な所でローテクね・・・)」

 これも超情報化社会である電脳暦世界における情報漏洩防止策なのだろうか、そんな事を思いながら夕呼は封筒から取り出した書類に目を通し始める。
 『極秘』と判が押された表紙を捲った一枚目には、まだ仮の段階であろう機体のシルエットが描かれている。 なるほど名前が名前だけに、やはりそれは武御雷と瓜二つだった。 所詮は模倣かと思いながら、次のページに目を通した夕呼の目付きが豹変する。

「っ・・・! 奴ら正気なの・・・!?」

 何処までも自分達の常識を逸脱している異世界の技術に悪態を吐きながら、夕呼は残りの書類を読み進める。 2枚目は各部位の詳細図となっており、そこには戦術機というには過剰すぎる武装の数々が表記されていた。
 腕部に内蔵された即応展開型高周波ブレードや、武御雷のそれを発展させたクローマニピュレーター、さらには脚部からつま先に至るまでハイパーカーボン製のブレードエッジが備わっている。 全身凶器に相応しい近接兵装を身に着けている武御刀だったが、夕呼を驚愕させた要因はそれだけではなかったのだ。
 胸部両脇に内蔵された近接防御用パルスビーム砲、状況や目的に合わせさまざまなオプションを搭載可能な肩部モジュール、 そして夕呼をもっとも驚かせたのは、頭部モジュールに小型の荷電粒子砲を内蔵している事だった。 しかもご丁寧に、口を象った開閉システムまで備わっている。
 元来、光学を始めとする各種センサー、通信や情報処理を司る機材が満載している戦術機の頭部モジュールに、武装を施すという概念はご法度に近いものだった。 武装を搭載するスペースの確保や、動作時における精度の低下がその理由である。
 いくら対電磁シールドが施されていようと、荷電粒子砲をそんな部位に配置した電脳暦世界の技術者達に夕呼は呆れる気力すらなかった。

「まあ、荷電粒子砲にしたってアタシ達のとは違うだろうし。 今更驚く必要も無かったわね・・・」

 異世界との技術力の差は、すでに知っている筈なのに。 夕呼は先程の自分に対して苦笑せざるを得ない。 他にも武御刀には、駆動部分には電磁伸縮炭素帯の概念を推し進め、人間の筋肉を模した『電磁伸縮炭素筋(カーボニック・マッスル・アクチュエーター)』を採用。  そしてカイゼル、エンジェリオに搭載されている魔法の機関『メガドライヴ』。
 菫が考案している専用武装と併せ、この超攻撃的な戦術機をヴァルキリーズの誰が扱えるのか。 今の夕呼の思考はただ一点に絞られていた。

「さて、面倒事は増える前に処理しないとね」

 そう呟きながら書類と別に納められたデータディスクをデスクのパソコンにセットし、夕呼は武御刀の更なるデータの閲覧を始める。 残された時間はそう多くは無いかもしれない、そう思いながら夕呼は自身の指を疾風の如き速さでキーボードを叩き続けた。

2001年11月18日:電脳暦世界、01式全領域型戦術機『武御刀』のスケルトン完成。 引き続き内装品および兵装開発に着手。
 同日、各戦線で行われた間引き戦闘とオペレーション・メタルスラッグで蒐集された情報から、人類の戦闘行動に対するBETAの対処能力が一定基準の範疇で行われることが判明。 基準の詳細及びVRに対する対処行動については現在調査中。
国連欧州軍、ユーラシア奪還に向けて大西洋上にギガフロート『アトランティス』の建造を、電脳暦世界の協力を得て行うと発表。

-あとがき-
「記憶喪失ぅ!? アンタバカの癖に、何ややこしい症状に見舞われてるの!? バカの癖に!」
「やめろジミー! バカはバカなりに、バカな悩み抱えてんだ!!」
 お久しぶりの麦穂です。 今回の36話は北欧に存在するロヴァニエミハイヴ攻略戦冒頭、シミュレーターによる霞の対戦術機戦、そして徐々に明らかになる武御刀の全容です。
固定兵装が充実している武御刀ですが、それらをオミットさせることで武御雷のような高機動近接戦も可能となっています。



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