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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第34話-日食(第五夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:8571ad39 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/30 07:41
・ 電脳暦世界 アメリカ合衆国 国連軍ウェーク島基地上空


 一年中その景色を変える事が無い、常夏の孤島であるウェーク。 宇宙の果てまで透き通っているかのような蒼穹の空を、猛禽の名を与えられた1機の戦術機が悠々と舞う。
 戦域支配戦術機と謳われたF-22“ラプター”、その強化型であるF-22B“ストライク・ラプター”を駆るウォーケンの目には、故郷の世界と何ら変らない地球の海が広がっている。

「(我々の世界も、このようであって欲しいものだが・・・)」

 浜辺に寄せては返す波、そして島の大地を吹き抜ける風。 それらは全て同じ地球の水と空気によって起きている筈なのに、何故あの世界の人類は一つにまとまれないのか。
 その答えを見出す事が出来ないウォーケンは、シートに座したまま苦虫を噛み潰したような苦渋の顔を浮かべる。 そして彼から考察の時間を奪うかのように、管制室から試験開始を告げる通信が舞い込む。

『コントロールセンターよりハンター1へ、これより無人機を発進させる。 指揮権の以降後、直ちにテストを始めてくれ』
「ハンター1了解。 無人機とのデータリンク確立後、JIVESによる実働テストを開始する」

 ウォーケンが返答すると同時に、すぐさまウェーク基地の滑走路から4機の戦術機が大空へと飛び立つ。 洗練された第3世代型戦術機のシルエットをしているが、同じ世代であるウォーケンのストライク・ラプターや欧州開発のそれとはまた違ったシルエットをしていた。
 やや丸みを帯びた装甲に身を包み、全身の彼方此方には近接戦闘用ブレードエッジを装着している。 両手や背部マウントには従来の突撃砲より長砲身な、ライフルタイプの銃火器を装備している。
 そして戦術機の“顔”といえる頭部モジュールは、丸みを帯びた前頭部に神話の怪物“サイクロプス”を思わせる、巨大なメインセンサーが備え付けられていた。

「(あれが本当に、対BETA戦闘の切り札となるのか・・・?)」

 こちらに接近して来る4機の心無き鋼鉄達の人形を前に、ウォーケンは疑問を抱きながら彼らの指揮権を自分へと切り替えるべく、的確かつ迅速にコンソールを叩く。
 MQ-1“プレデター”。 それが今回ウォーケンと共に実働テスト行う事になった、無人戦術機の名前だ。 オルタネイティヴ世界における、30年近くに渡るBETAとの戦い。 その過程で生まれた戦術機という兵器とそのパイロットである衛士は、人類の勝利のためには必要不可欠な存在となった。
 だがその一方で、数多の戦いにより疲弊した人類は戦術機の配備数よりも、それを操縦する衛士の確保に追われる日々が続いた。 加えて従来のカテゴリーに収まらない兵器である戦術機は、その難解な操縦性と劣悪な負荷も相まって極少数の選ばれた人間、つまり“衛士”でしか操縦出来ない。 この2つの事実が戦術機による戦力構築を阻む、最大の要因となっていた。
 銑鉄作戦でXG-70と共に試験投入された、無人戦術機F-108/Kn“レイピアナイト”は、それに対する一つの回答だったのだ。
 『衛士が不足しているのなら、衛士を必要としない戦術機を作れば良い』。 技術という物に何処までも貪欲な技術者達は、そうしてレイピアナイトのコンセプトを推し進めた無人戦術機、プレデターを開発したのだ。
 4機のプレデターが自分の傍で待機していることを確認し、ウォーケンは管制室に言う。

「これよりMQ-1の実働テストを開始する」
『了解した、健闘を祈る』
「ハンター1よりパペット全機、JIVES起動。 全機即応体制」

 用意されたテストプログラムに則り、JIVESの起動をプレデターに命じるウォーケン。 直後、テキストログに4つ『YES MY MASTER』の表示がされた後、無人機側で搭載されているJIVESの起動が完了する。 同時にストライク・ラプター側でもJIVESが作動し、シミュレーターで再現された大小のBETA達が、ウェーク島に次々に上陸する様子がウォーケンの網膜に映りこんだ。
 テスト内容を頭の中で半数をした後、ウォーケンは追随音声コマンドを有効にして2機のプレデターに命令を下す。

「戦闘レンジは中距離をキープ、フォーメーションはエレメントを維持。 滑走路を最終防衛ラインと設定」

 ウォーケンの読み上げる音声コマンドを元に、戦闘準備を整える4機のプレデター達。 そして、コマンドを終えたウォーケンの『行け』という一言と共に、エレメントを組んだプレデター達が行動を開始する。 そしてウォーケンは、銑鉄作戦で繰り広げられたそれと等しい光景を目の当たりにする。

「(っ、何だあの速さは・・・!? )」

 号令と共に、凄まじい勢いで所定のポイントへと急行するプレデター達に、ウォーケンは我が目を疑う。 強化装備を着用していても、間違いなく衛士の身体に致命的な負担を与えるレベルの空中機動を披露しながら、4機のプレデターが所定のポイントへと移動する。
 そして仮想のBETA達を補足したプレデター達が、両手と背部マウントに装備した40ミリ速射砲で次々にそれらを射抜いて行く。 目前に迫る要撃級や、戦車級以下の小型種BETAは例外なく40ミリ弾の一斉射で薙ぎ払われ、突撃級や要塞級といった硬い種に対しては、関節部への集中砲火によりその動きを止める。

「なんという性能だ。 銑鉄作戦のそれ同じ、いやそれ以上か・・・!」

 BETAを全く恐れず戦い続けるプレデターに対し、ウォーケンはそれまで抱いていた無人機への疑念が一気に吹き飛んでしまった。 このプレデターを前面に押し出せば、無駄に衛士を死なすことなくBETAとの戦いを優位に進める事が出来るかもしれないと。
 システムで用意されたBETAの半数を捌き終えたところで、管制室から新たな以来が送られる。

『CPよりハンター1、次は近接戦闘のテストを頼む』
「ハンター1了解。 パペット2と4は、戦闘レンジを近距離に変更。 パペット1と3はその支援に当たれ」

 最初の命令を出した時と返答が返ってきた後、エレメントの片方を務めるパペット2と4が腕部格納式のブレードを展開し、仮想のBETAの群れに突っ込む。 人間以上の反射で要撃級の殴打や突撃級の突進を回避して斬撃を繰り出し、飛び掛ってくる戦車級を横薙ぎに両断し、あるいは頭部に搭載された12.7ミリ機銃を叩き込んで裁断する。
エレメントの片方であるパペット1と3は死角に存在するBETAを的確に排除し、パペット2と4の支援を一糸乱れずに行う。
 こうして4機のプレデターは無人戦術機の可能性を見せ付けるかのような成績を残し、JIVESを用いた初回の実働テストを終了した。

「(彼女が見ていたら、一体何を思うか・・・?)」

 このテストの一部始終を見ているであろうイルマは、この心無き人形を受け入れるだろうか。 無人機に対する複雑な思いを胸に秘めながら、ウォーケンはテストを終えたプレデターを引き連れ基地へと帰還した。


マブラヴ~壊れかけたドアの向こう~
#34 –日食(第五夜)-


・ 2001年11月10日 AM10:21 アラスカ 国連軍ユーコン基地 第2演習場


「うらあっ!!」

 もう何度目になるのか分からない刃のぶつかり合いを通じて、ユウヤと武は自分が操る機体との一体感を感じる。 それは機体に搭載されたXMシリーズ、そしてマスターシステムの恩恵によるものなのか、それとも各々が持つ衛士としての才能なのかは分からない。 だが自分の頭で思い描いた動きが、機体に100%反映されている事だけは紛れもない事実。
 既に撃破判定を受け、機能停止した機体内にいるタリサやヴァレリオ達、そして彼らの機体のセンサーを通じて中継される映像をユーコン基地の将兵達が見守る中、ユウヤと武の決闘が行われていた。

「っ・・・! うおおおっ!!」

 反動を利用し、ユウヤの不知火弐型が右手に構えた74式長刀で突きを繰り出す。 対して武は反射的にカイゼルの上半身を動かし回避。 跳躍ユニットの勢いに任せた弐型の鋭い一撃が、カイゼルの右肩装甲を擦り盛大に火花を散らす。
武を仕留め損ねた、ユウヤは突きを繰り出した勢いのまま直進。 次に訪れるチャンスに備え、カイゼルから一目散に離れて距離を取ろうとする。

「逃がすかっ!」

 武はスマートガンを構え、ユウヤの弐型に向けて数回に渡り3点射撃を放つ。 だが流石のユウヤも早々当たってくれる筈も無い、掠りこそしたものの、有効打は一発たりとも無かった。 やはりここは戦術機の花形、近接戦闘で勝負を決めるしかない。 そう思って追撃を始めた武だったが、不知火弐型の背部マウントからの牽制射撃に阻まれ、近付く事は容易ではない。
 そして間合いを立て直したユウヤが機体を反転させ、カイゼルに長刀の切っ先を突き付けながら武を挑発する。

「どうです? 中尉が欲しがる不知火弐型の力、存分に味わいましたか?」
「ブリッジス少尉こそ、何時までも逃げに徹していたら、俺には勝てませんよ?」

 再び一色触発の状態に陥った事に、停止した戦術機のコクピットで見守るタリサやヴァレリオ達。 その様子はユーコン基地にも配信されており、将兵の誰もがその模擬戦闘、いや決闘に目を奪われていた。
それはユウヤのオフィサーを務める唯依も同じ事だった。
 彼女は武と戦っているユウヤの姿が、かつて演習中に乱入した自分と手合わせした時と同じ状態であるという事に気付いていた。

「(あれがユウヤの本気。 いや、まだその先がある・・・!)」

 2人の決闘が映るモニターを食い入るように見詰める唯依は、ユウヤが持つ衛士の可能性がこんなものではないと悟る。 米軍譲りの射撃技能と、そして日本製戦術機を通じて培った近接戦闘術。 銃と刀という対極の存在である武器と扱い方を、今のユウヤはそれらを完全なる物にしているのだ。
 不知火弐型が跳躍ユニットを出力全開にして突っ込み、袈裟斬りを見舞う。 それをジャンプして上空で逃れるカイゼルを、ユウヤは左手に持つ突撃砲の120ミリで追い立て、そのまま勝負の場は空中へもつれ込む。 ジネラル・エレクトロニクス社製のエンジンノズルからロケットの噴射炎が迸り、弐型に青き空を舞う力を与える。

「中尉のさっきの言葉、そっくり返すぜ!」

 カイゼルの後ろ背目掛け、ユウヤは間隔を空けながら36ミリを放つ。 先程とは正反対の状況に追い込まれた武だったが、カイゼルに搭載されたメガドライヴの力に物を言わせて急上昇。 追われる立場から再び逆転し、ユウヤの頭上を取るポジションとなる。

「ハッ! 上を取られた位で、俺がビビると思ったか!」

 そう武に吐き捨て、ユウヤはスマートガンから放たれる荷電粒子の雨を突き進む。 弐型の肩に搭載されている機動補助スラスターがユウヤの意に従って幾度と無く噴射を行い、不知火の流麗なボディラインと頭部のブレードアンテナ、腕部ナイフシースによる空力特性も相まってイメージ通りの回避機動を実現してくれる。

「ちっ・・・! これならどうだ!」

 弾幕を切り抜けたユウヤに驚きはしたものの、武はスマートガンをブレードモードへ移行。 そのまま長刀を突き出し接近するユウヤの不知火弐型に対し、天狗の団扇で旋風を巻き起こすかの如く、その刃を大きく水平に薙ぐ。
 弐型が繰り出した長刀の先端と接触し、火花と金属音が当たりに響く。

「ぐっ! まだまだぁ!」

 カイゼルに長刀を弾かれた反動で体勢を崩すも、ユウヤは左手の突撃砲のトリガーを引く。 対する武は銃口を見た瞬間回避機動を開始。 発砲と同時にカイゼルが後ろにのけぞり1回転、そして跳躍ユニットから逆噴射で地上へ急降下し、慌ててユウヤがそれを追う。 高度な3次元機動が行える戦術機らしい回避方法に、中継を見た将兵達の歓声がユーコン基地を包み込む。
  一方が刃を振るえばもう一方は銃を撃つ、空中地上を問わずに繰り広げられる鋼の舞踏。 人類の剣である戦術機、それが持つ新たな可能性に誰もが目を奪われ、そして魅了されていたのだ。

「ぐうううっ・・・!」
「おおおっ・・・!」

 地表スレスレで機体を引き起こした2機がそのまま地上を全速で滑走し、押し潰さん程の加速Gに武とユウヤが互いに呻き声を上げながら耐える。 直接網膜投射されているはずなのに、2人の視界に表示されている計器類がぼやけて見えた。
 先ほどまでの激しい近接戦闘と空中機動によって、自覚出来るほどまで体力を消耗していたらしい。 それでも目の前にいる相手を見据えながら、互いに向き合ったカイゼルと不知火弐型がそれぞれの得物を構え対峙する。

『さあVG、いよいよだよ』
『ああ。 次の一撃で、最後になるな・・・』

 眼前で繰り広げられた2人の戦いをずっと見守っていたタリサが呟き、ヴァレリオが頷きながらそれに答える。 互いに向き合い刃を付き付けるユウヤと武、2人のどちらかが仕掛けた時点で決着が付く。 自分たちは雌雄を決するその時を、目を離さずに最後まで見届けなければならない。
 そうタリサとヴァレリオの2人が決意した時、カイゼルと不知火弐型の跳躍ユニットのノズルから、ほぼ同時に噴射炎を発した。

『行ったぞ!』

 タリサが声を上げる間にも、2機の間が猛烈な勢いで狭まって行く。 互いの手に握られる刃が接触し、ギリギリと金属が擦れる音と振動が管制ブロックに伝わる。
もう何度目かもわからない鍔迫り合いに入って数秒、機体異常を知らせる警告音と表示がユウヤの目に飛び込む。
 腕部のアクチュエーターが遂に悲鳴を上げ始め、長刀でスマートガンを受け止める弐型の腕の震えが大きくなって行く。

「ま・・・負けるかああぁぁっ!!」

 雄叫びを放つと同時にユウヤはフットペダルを力の限り踏み込み、跳躍ユニットの推進力によりカイゼルを力ずくで押し出そうとする。

「(この推力は、本当に戦術機か・・・!?)」

 衛士としての意地、そして愛機と共に一太刀を加えてやろうというユウヤの気迫に、武は圧倒されていた。 だが、自分に敗北は許されない。 カイゼルはスサノオと並ぶオルタネイティヴⅣの象徴、それが敗北するとなれば夕呼の計画を阻害する。 それに武の中に宿る衛士としてのプライドが、絶対に負けるなと言い聞かせてくる。
 雑巾に残った水を絞りきるかのように、武もフットペダルを踏み込んだ。

「うおおおおおっ!!」

 唸りを上げてからプラズマ炎を噴出する電磁推進ユニット、弐型の長刀との摩擦により火花を上げるスマートガンの銃身。 純粋な力と力のぶつかり合いを、誰もが息を呑んで見守っている。 そして永遠に続くかと思われた鋼の舞踏が、遂に終焉の時を迎える。
 突如、武の網膜にステータス異常の表示。 同時に左のプラズマ推進が急に咳き込み始め、推力のバランスが崩れる。

「もらったぁー!!」

 この機を逃すかといわんばかりに、ユウヤは跳躍ユニットのリミッターを開放。 力の均衡が崩れ、後手に回ったカイゼルに最後の力を振り絞って長刀を振り下ろす。 だが武も諦めてはいない。 メガドライヴを最大駆動させて体勢を強引に立て直し、スマートガンの切っ先を弐型に向けて突き出した。

「「届けぇーっ!!!」」

 もう交わる事の無い2つの刃が空気を切り裂き、互いの装甲にほぼ同時に到達する。 そしてJIVESによる『アルゴス1及びブレイブ1 管制ユニット直撃 大破』の判定が出た瞬間、今一度ユーコン基地に大きな拍手と歓声が包み込んだ。



・ AM10:38 国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム


「どう伊隅、あんた達が乗る予定の不知火弐型の性能は?」
「機体の方は申し分ありません、そして白銀相手に引き分けに持ち込んだ衛士の腕も確かですね。 条件が同じなら、さぞ見物だったでしょう」

 スクリーンが照らされた薄暗い部屋の中、アラスカでの一騎打ちを見物していたみちるが、夕呼に対し意見を述べる。 ケイイチの用意した回線により、武とユウヤの決闘を終始見ていたヴァルキリーズの先任達。 スクリーンに映し出されたその映像は、数多の戦場を潜り抜けている筈のみちる達をも唸らせるほどの物だった。
 異次元の性能を持つカイゼル相手に、あの不知火弐型は対等と行かないまでも懸命に戦った。 それだけの事実を見せ付けられたら、自分達があの戦術機を新たな搭乗機として選定しない訳が無い。
 そして弐型がヴァルキリーズに導入された暁には、後輩達が乗る晴嵐と同様にメガドライヴを装着し、より強大な力を手にしてBETAと戦えるのだ。 そして向こうの世界では、新たに開発された無人型戦術機のテストが着々と行われているという。
 カイゼルを初めとする超高性能戦術機によるハイヴ攻略と、無人機による戦力の確保及び有人機の補佐。 この2つが夕呼とケイイチが思い描く、戦術機の未来像なのだろうとこの部屋にいる全員が思っていた。 弐型の導入が知らされ一段落した所で、機嫌の良さが顔に一番出ている水月が言う。

「はぁ~、ようやくあの白銀をとっちめる事が出来るわけね!」
「水月、相手を間違ってるよ~」
「そうだぞ速瀬、私達の敵はBETAだ。 そんな事を後輩達に言ったら、大顰蹙を買うぞ?」

 遙と美冴によるダブル突っ込みを喰らい、さらにみちるの頷きが止めを刺す。 梼子がその様子を微笑みながら見ていた。 早くメガドライヴ搭載型の不知火弐型を手に入れ、後輩達に一刻も早く先輩としての示しをつけなければならない。
 この機体が早急に調達できるかどうか、早速みちるが夕呼に問い詰める。

「副司令、肝心の弐型の調達は目処が立っているのですか? 帝国の方も御剣達が向かっている天元山や、銑鉄作戦の後始末が続いている筈ですが・・・」
「伊隅ぃ、アタシを誰だと思っているのよ? 目的の為なら何でも利用する、アタシの性格を知らない訳じゃないでしょう?」

 夕呼に返されたみちるは、改めて彼女の持つコネと情報網の幅広さを認識する。 そして彼女の不敵な笑みを見た瞬間、夕呼が何処で弐型の調達を行うかを即座に理解した。
そう。 夕呼は不知火弐型の生産を、帝国をけしかけて電脳暦世界の日本に委託させようというのだ。
 帝国軍の各種装備の生産拠点を東南アジアに置いているとはいえ、弐型のような新型機の生産にラインを割く余裕は無い。 だが電脳暦世界に存在する日本の協力を得ることが出来たなら、こちら側での生産力を損ねることなく、弐型の調達を行う事が可能となるのだ。
 それに向こう側では無人型戦術機を含む、新たな戦術機開発計画『メタル・マッドネス』が行われており、帝国の技術者達が使者として派遣されている。 自分の野望の為には異世界をも利用する夕呼の方針に、遙達は驚きを隠せない。
 戦術機のスペック追求と無人化による戦力増強、そして純夏による諜報の3段構え。 それはもはやオルタネイティヴ4の範疇を逸脱した、オルタネイティヴ計画の新たなる段階への始まりを意味していた。


・ PM7:48 アラスカ 国連軍ユーコン基地 歓楽街


「やはりここにいたか、ブリッジス少尉」
「お前こそ、随分悪運強かったみたいだな」
「当然だ。 私とイーニァが、あのような俗物共に屈するものか」

 大小様々な飲食店や商店が入り乱れ、リルフォートの愛称で親しまれるユーコン基地の歓楽街。 そこで一人一服しているユウヤに、彼と同じBDUジャケット姿の女が声を掛ける。
 東西冷戦の壁を越えたライバルが無事である事に、クリスカ・ビャーチェノワは普段の冷徹な雰囲気からは想像も出来ない、優しさに満ちた表情を見せた。
 アラスカに着任して早々、互いの自覚無しに出会っていた2人。 そして運命の悪戯なのか、東西を代表する試験衛士としてユウヤは、クリスカと彼女の妹分であるイーニァと幾度と無くその腕を競い合って来た。
 最初に出会った時に感じた、クリスカの殺気と闘志にユウヤは惹かれ、クリスカもまたイーニァが懐く人間であるユウヤに惹かれて行く。 そうしていく中で生まれた絆は、東西冷戦という境界を超えた絆として、ユウヤにとってはアルゴス小隊の仲間達と同じ位に無くては成らない存在だった。 
 何時もならクリスカの隣にいるイーニァがいない事に気付いたユウヤが、彼女の行方をクリスカに聞く。

「ところでイーニァはどうした? まさか置いてきたのか!?」
「違う! 貴様の模擬戦を無理して見たせいで、今は医療施設で眠っているんだ」

 イーニァの事になると途端に態度が豹変するクリスカに、毎度のことながらユウヤは驚かされる。 話によるとテロリストとの戦いで多大な体力を消耗させ、ソ連軍の医療施設で療養していたイーニァだったがユウヤと武の一騎打ちの話を聞いて抜け出し、観戦にふけった末に衰弱して倒れたところを再び担ぎ込まれたのだという。
 彼女をこのような目に合わせたユウヤ達に当初のクリスカは憤りを感じていたものの、同時にイーニァにそこまでの行動をさせる彼らに、彼女はますます興味を抱いていたのもまた事実だった。 そして今目の前に、その激闘を演じた衛士の片方が存在している。
イーニァの傍に居る時間も惜しい、クリスカはせめてもの思いで武に関わる事をユウヤから聞き出そうとする。

「最後にひとつだけ聞かせてくれ、貴様と戦ったあの衛士は何者だ・・・?」
「白銀中尉の事か。 彼は正真正銘、特別な衛士だよ」

 直接刃を交えた筈であるユウヤが、どのような理由をもって武の事を特別だと思ったのか、クリスカは彼の返答をいまいち理解出来ないでいた。
そしてイーニァの元に帰るべく背を向けた彼女に、ユウヤはそれを止める魔法の言葉をポツリと口にする。

「だけど彼と戦って、一つだけ分かったことがあるぜ」
「何だそれは?」
「例え異世界の人間だろうが、大切な何かの為に戦っているってことさ」

 余りにも単純で、それでいて最も純粋な理由。 そう全てを悟ったかのような顔で答えるユウヤを見て、クリスカはそれだけ分かれば十分だと思っていた。 その気持ちは自分もユウヤも、そしてBETAと戦う全ての人々が持っている者なのだから。

「ふっ・・・ 貴様と同じく、つくづく単純そうな奴と見えるな・・・」
「それは俺達も同じだろう? クリスカ・・・」

 向き合って微笑み、目線で別れの挨拶を交わす2人。 そして一人残ったユウヤは武の健闘を称えるように、手にするジョッキを無数の星が瞬く夜空へ仰いだ。


2001年11月10日:電脳暦世界で本格的な無人戦術機、MQ-1“プレデター”の実働テスト成功。 高速データリンクによる遠隔操縦システムの構築と平行し、実戦配備への準備開始。

同日:国連軍ユーコン基地司令部、武の救援によるテロリスト鎮圧の謝礼として、横浜基地へ不知火弐型のデータ提供を行うと発表。
 白銀武とケイイチ・サギサワは、11日明朝を持って横浜基地へ帰還予定。


-あとがき-
「ツバロフ技師長、モビルドールも兵士も扱うのは人間です。 もう少し人間を評価し、人間を愛して欲しいものです」
 どうも麦穂です。 今回をもって遂にアラスカ編完結。 ウォーケンらによる無人戦術機の実働テストと、戦い終わったユウヤとクリスカとの語らいです。 最後の最後で、ようやくクリスカを出せた・・・
  そして今回登場したプレデター。 頭部イメージは実機のノッペリした機首に、でかいカメラレンズが付いている感じです。
 家から投稿しようとすると403エラーが出るのは、これも業者荒らしの影響か・・・


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