極寒の辺境の地に、鉄の嵐が吹き荒れていた。
何者も寄せ付けぬ装甲に身を纏い、照準に入る全てに破壊と死をもたらす重火器を携えた武のスプーキーが、韋駄天をも凌駕しよう速度でユーコン基地中心部に躍り出る。
新旧入り混じるテロリスト達の戦術機が、彼を撃墜せんと己が持つ火砲を次々に撃ち放つ。 だがスプーキーに施された装甲はそれらを容易く弾き返し、側面に搭載されたGAU-8『アベンジャー』の掃射でテロリスト機が徐々にその数を減らして行く。
カイゼルに搭載されたマスターシステムの処理速度が、高速下での的確な射撃を実現しているのだ。 そしてそれを操る武が、視界に入る新たな敵機へ向けて躊躇う事無くトリガーを引く。
「これで、13機目・・・!」
ユウヤと亦菲を襲っていた時から数えていた、テロリスト機の撃破カウントを唱える武。 アベンジャーから放たれた36ミリ弾の雨がテロリストのF-4に降り注ぎ、タングステンで作られた弾頭が第1世代機の重厚な装甲を嘲笑うかのように貫く。
弾丸の雨に曝され無残な姿へ変貌したF-4は、武が通り過ぎると同時にガクリと膝を落とし、7そのままうつ伏せに倒れる。 彼等に対する感傷や憐れみを抱く暇も無く、武は新たな獲物を捕捉しトリガーを引き続けていた。
『なんて火力と速度だ、だが・・・!』
武の一方的な蹂躙に、攻撃を受けた当初はうろたえていたテロリスト達。 だが彼が操るスプーキーの弱点を見抜いた中隊のリーダーが、即座に部下達にそれを伝える。
『奴の進行方向へ火線を集中させろ! あの図体だ、そう簡単に小回りは出来ない!』
超長距離巡航と最高速度を重視した、SR-71“ブラックバード”の跳躍ユニット。 他の跳躍ユニットと比べ、旋回性能と即応性に劣るそれをスプーキーのメインスラスターとしているため、おのずと直線的な機動になってしまう。
リーダーの指示を聞いたテロリスト達の戦術機が、即座に武のスプーキーへ集中砲火を浴びせる。 36ミリ弾が装甲のスキマへノックするようになり、120ミリ弾の炸裂がカイゼルのコクピットを揺らす。 自慢だったスプーキーの装甲には弾痕が目立ち始め、これ以上の被弾は航行にも支障が出てしまう。
このまま弾薬に引火して、カイゼルもろとも木っ端微塵になるのは御免だ。 武は音声認識をオンにして、コマンドを強化装備のインカムに言霊のように唱える。
「スプーキー緊急パージ! パージ後は機体の保護を最優先に、安全圏まで全速離脱!」
武の音声コマンドを認識した電子音が鳴り響き、カイゼルを固定するロックが次々に解除される。 スプーキーの前面を覆っていた装甲ユニットが炸裂音と共に強制排除され、リアクティブ・アーマーを全身に装着したカイゼルの姿が露出した。
『撃て撃てっ!! 我々の邪魔をした報いを受けろ!』
装甲を脱ぎ捨てた本体の姿を見て、我先にと武を仕留めようとするテロリスト達。 だが再びスプーキーからマイクロミサイルが一斉に放たれ、空中で炸裂するよう設定されたミサイルの爆炎がそれを阻む。
そしてその煙の中から、スマートガンを構える武のカイゼルが颯爽と現れた。
「これ以上、お前達の好きにさせてたまるかぁ!!」
荷電粒子の刃を身に纏ったスマートガンが、武の叫びと共にテロリストが駆るF-16に渾身の力で振り下ろされる。 そしてその一撃が、反撃の狼煙となった。
マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#31 日食(第二夜)
・ 2001年11月7日 AM7:16 アラスカ 国連軍ユーコン基地中心部
氷雪に包まれたアラスカの大地。 Vコンバーターのそれに似て非なるメガドライヴの駆動音が鳴り響き、カイゼルの機動により巻上げられた氷雪がパウダースノーとなって、戦いの場に似合わぬ幻想的な光景を作り上げる。
スプーキーからパージした直後に斬り伏せたF-16を皮切りに、武のカイゼルは単機で次々とテロリスト達の戦術機を血祭りに上げていく。
「あれが佐渡島の戦いを勝利に導いた、“シルバー・スレイヤー”の戦いなのか・・・」
36ミリ弾がしきりに自機をかすめ飛ぶ銃撃戦の中、JAS-39“グリペン”に乗る欧州軍から派遣された若き衛士が、武の戦いを目撃してポツリと言葉を漏らす。
異世界より来訪した旅人。 BETAを駆逐し、人類を勝利に導くとされる救世主。 そして日本帝国で行われた、佐渡島ハイヴ攻略作戦では異世界の人型兵器と共に数多の要塞級を葬り、人類の切り札とされるXG-70を守り抜いた英雄。
それだけの偉業を成し遂げた人間が今目の前に存在している事に、グリペンの衛士は憧れと同時に、武に対する恐怖と言う感情が生まれていた。 オープン回線からは、武の叫びが聞こえて来る。
「だりゃあああああっ!!」
入り組んだビル街の四方八方から、カイゼル目掛けて銃撃を加えながら肉薄してくるテロリスト機。
マニピュレータに持つ短刀を突き立て突進するF-5に対し、カイゼルはスマートガンの速射形態であるザッパー・モードで応戦。 小刻みに発射されるパルスビームで全身を穿たれたF-5は、突進時の体勢とスピードのまま地面にスライディングをして沈黙する。
それと同時にレーダーに映る赤い光点が2つ、武のカイゼルを挟み込むように移動を開始する。 機体照合。 F-16“ファイティング・ファルコン”と、MiG-29OVT“ラストーチカ”。
もう見飽きたF-16はともかく、ミグの方は何かと真新しい風格を見せていることに武は気付く。
「まさか奴ら、機体を強奪したのか!?」
「クソッ! 何て事をしやがる・・・」
先程のグリペンの衛士ではない、中東連合に所属するF-14Ex“スーパートムキャット”の衛士2人がその機体を確認して叫ぶ。 そして彼らの言うとおり、あのミグ29は東欧州社会主義同盟所属のグラーフ実験小隊が所有・運用している戦術機だった。
おそらくテロの決行と同時に、闇討ちなり何なりで本来の衛士達から奪い取ったのだろう。 手段をも選ばないテロリスト達に対し、武の中にある怒りのボルテージがみるみる上昇する。
『ヒャッハー!! 流石の英雄も、俺達のコンビネーションには適うまい!』
小型軽量の共通点を持つF-16とミグ29の特性、それを最大限生かした高速機動による対人撹乱戦術。 一体多数の戦闘経験が無い衛士ならば、対処の仕様も無く翻弄された挙句撃破されるだろう。 だが武の戦闘能力は、テロリスト2人の予想の桁を大きく超えていた。
大型の搬送車両が楽に通れる幅を持つ道路、そこが武の息の根を止める処刑場。 互いの突撃砲でカイゼルをそこに移動させ、道路の両端にF-16とミグがタイミングを伺う。
『このまま死ねぇ! シルバー・スレイヤー!!』
奪ったミグ29に乗るテロリストの叫びと同時に、2機の戦術機がそれこそ弾丸のようにカイゼルに吶喊する。 だが武は諦めが付いたのか、その場をピクリとも動こうとしないではないか。 恐らく2人のテロリスト達の脳裏には、勝利の二文字が浮かび上がっていた事だろう。
F-16が最後の加速に入ろうとしたその時、被弾により幾つかのリアクティブ・アーマーが剥離したカイゼルの右腕がゆっくりと動いた。
『ひっ・・・!』
銃口を向けられている事にF-16のテロリストが気付いた時には、もう手遅れだった。 スマートガンから放たれた高エネルギー弾が、確実にF-16の右大腿部を射抜く。
果てしなき破壊のエネルギーを与えられた荷電粒子の噴流はF-16の大腿部の装甲を貫通したばかりか、その後ろにある跳躍ユニットをも貫いていた。 跳躍ユニットに蓄えられていた燃料が狂ったかのように膨張燃焼し、爆発音が周囲に轟く。
爆発の衝撃でバランスを崩したF-16は肩部装甲をビルに引っ掛け、数回の高速スピンを披露したまま地面に口づけを交わす事になった。 フィギュアスケートに出てそれを披露していれば、確実に高得点間違い無しだっただろう。
『よくも相棒を・・・!!』
相方が撃破された事に激昂するテロリストが、ミグ29の両腕部に内蔵されたモーターブレードを展開し、武のカイゼルに背後から迫る。 相手は後方、先程のように振り向いてF-16のようにした射撃が行える事は不可能。
今度こそやられる。 その場に居合わせたユーコンの将兵の誰もが思ったその時、戦術機の常識を疑う光景が彼らの前で展開される。
『ミンチになって死ねやぁ!!』
「誰がなるかぁ!!」
カイゼルの右足が一歩下がったかと思うと、腰の跳躍ユニットが前後逆の方向を向く。 電磁推進が最大出力で作動し、放出されるブラストの反動を利用してカイゼルがその場で時計回りに1回転。 そしてモーターブレードを振り下ろそうとしたミグの頭部には、カイゼルの左マニピュレータが食い込み、そしてそのまま殴り飛ばしたのだ。
カイゼルの拳でミグのフレームが悲鳴を上げる音。 雨細工の様に砕け散った、頭部センサーのカバーや金属片が地面に落ちる音。 標的に届く事の無かった、モーターブレードの駆動音。 そして殴り飛ばされたミグが地面に打ち付けられた衝撃が辺りに響き渡る。
「馬鹿な、戦術機が直接パンチしただと・・・!?」
「しかも超新地旋回って、化け物か奴は・・・?」
一瞬訪れた静寂に割り込むように、統一中華戦線所属の殲撃10型とF-CK-1“経国”に乗る衛士2人が、負けず劣らずのコンビネーションで呟き合う。 BETAとの近接戦闘を生業とする同国の戦術機でも、機体に装着されたブレードベーンを用いない、文字通りの意味で肉弾戦を行う事はまず有り得ない。
精密機械の塊である戦術機の中でも、特にデリケートなマニピュレータそのものを武器として用いるなど、イレギュラー以外の何者でもない。 だが、武のカイゼルはさも普通であるかのようにそれをやってのけた。
目撃したユーコンの衛士達の血肉が沸きあがろうとしたその時、カイゼルのコクピットに3たび警報が鳴り響く。
「ブレイブ1、後ろだ!!」
「しまった・・・!?」
グリペンの衛士の声が耳に届いたと同時に、武は戦術機の死角と言える後方危険円錐域(ウェラフル・コーン)に、敵機の進入を許してしまった事に気付く。
戦場では最後まで油断をするなというみちるの教えを失念した事に恥じながら、武が被弾を覚悟したその時だった。 突如として放たれた36ミリ弾が、武を狙っていた敵機を撃破したのだ。
放たれた先には、無限大をかたどったエンブレムを付けた、漆黒のF-22の姿があった。
「黒いラプター・・・ 米軍か!?」
それを見付けた武が言うと同時に、同様の機体がコウモリのように俊敏な動きでテロリスト達を次々に狩って行く。 そして武の危機を救ったラプターの衛士が、彼に話しかけてくる。
「自分は米軍第65戦闘教導部隊“インフィニティーズ”所属、レオン・クゼ少尉です。 異世界から来訪した英雄、白銀武中尉とお見受けしますが?」
「ええ。 少尉のお陰で助かりました、ありがとうございます!」
「いえいえ。 佐渡島の英雄の力になれた事、とても光栄ですよ」
そう言って微笑むレオンを見て、武に張ってあった緊張の糸がようやく緩む。 そしてインフィニティーズによる掃討が終わりかけた頃、武の後を追っていたユウヤと亦菲の2人が彼の元に合流した。
2001年11月7日:ユーコン基地を占拠していた、テロリストの首謀者が突如として逃亡。 以降は各施設を占拠するテロリストらの掃討戦に移行し、同日中に全ての基地施設の奪還に成功する。
翌日8日:武、試製99型電磁投射砲を擁するアルゴス試験小隊と合流。 帝国斯衛軍から派遣されていた篁唯依中尉らの奮闘により、同兵装が安全であった事を確認する。 同日午前中に、武の補佐としてケイイチが同基地を来訪する。
・ 2001年11月8日 AM5:57国連軍ユーコン基地 アルゴス小隊戦術機ハンガー
「テロリスト鎮圧、大活躍だったそうじゃないか白銀君。 僕も間近で見たかったなぁ・・・」
「いやぁ、結果的に夕呼先生の頼みが後になったので、完璧とは言いがたいですけどね」
「それでもこの大規模な基地で、911クーデターと同程度の被害に抑えられたんだ。 自分の持つ力を、もう少し誇っても良いんじゃないかな?」
そう武に告げたケイイチが、ハンガーに並ぶ鋼鉄の巨人達を眺める。 広大なハンガーの内部で武と彼の元に合流したケイイチは、2人きりのデブリーフィングを行っていた。
ケイイチの瞳に映るのは、日米の技術の粋が詰まった2機の不知火弐型を初めとするアルゴス小隊の戦術機。 そしてその傍らには彼らが守り通した99型電磁投射砲が、防護シートに身を包んで厳重に保管されていた。
目的は成し遂げたものの、未だにその達成感を得ていない武。 シートに包まれた投射砲を彼が眺めていたその時、ハンガーの扉が少しだけ開き、隙間から誰かが問い掛けて来る。
「あの~サギサワ大尉、そろそろ時間ですけど・・・?」
「ああ、そうだったね。 ローウェル軍曹、皆をここに入れてもらえるかい?」
そうケイイチに言われた男が、了解と返答したと同時にハンガーのゲートを一気に開放する。 開いた扉の外に微かに明るくなり始めた空が広がり、その下にはアルゴス小隊の衛士達の姿があった。
見合った全員が互いに敬礼を交わす中、扉を開いたヴィンセント・ローウェルと武が最初の挨拶を交わす。
「改めまして国連軍横浜基地所属、白銀武中尉です。 横浜基地の香月副司令の命により、試製99型電磁投射砲の安全確保に参りました!」
「国連軍ユーコン基地、アルゴス試験小隊所属、ヴィンセント・ローウェル軍曹です。 同隊一同を代表して、白銀中尉らにお礼申し上げます!」
先程の戦闘を物ともしない生き生きとした彼らの目線に、武はこのユーコン基地が別の意味での最前線なのだと知る。 そしてヴィンセントに続いて、褐色の肌をした中東系の男がケイイチに向けて口を開いた。
「アルゴス実験小隊を預かる、イブラヒム・ドゥールです。 白銀中尉の活躍により、我々も最小限の被害で済みました。 改めて礼を言います」
「僕らも予想外でした。 白銀君が出会った衛士が、電磁投射砲を運用していた隊だったとは」
「これ以上の立ち話は疲れるでしょう。 基地の歓楽街に案内します、話の続きはそこで・・・」
イブラヒムを初めとするアルゴス小隊の面々と共に、移動を開始する武とケイイチ。 戦いの傷跡が残るユーコン基地のオアシスにて、朝食を兼ねた交流の続きが行われる事となった。
「じゃあ篁中尉は、電磁投射砲を任されて帝国から派遣された訳ですね?」
「ええ。 日米共同で行われている戦術機開発計画“XFJ計画”、その一環としてという形ですが」
テロリスト達との戦いから幸いにも被害が抑えられた、ユーコン基地の大食堂。 一日の活力を付けるべく多くの将兵達が訪れる場所とは異なる個室で、テーブルに座る武の問いに唯依が答える。
ユーコンの危機を救った白銀の姿を見ようと、将兵達がBETAの如く殺到する事を考慮したイブラヒムが、各国軍の高官やVIPをもてなすこの場所へ案内したのだ。
そして武とケイイチは、夕呼の技術提供により帝国軍が試作した、試製99型電磁投射砲がアルゴス試験小隊に持ち込まれた経緯を知る。
そもそもの始まりは、武がこの世界に来た5月まで遡る。 世界各国が共同で行う、次世代戦術機開発計画『プロミネンス計画』。 その一環として日本が考案した次期主力戦術機開発計画『XFJ計画』遂行の為、テストパイロットとして抜擢されたユウヤと、メカニックマンであるヴィンセントがユーコン基地を訪れていた。
日米のハーフの生まれによる経験から、日本にコンプレックスを持っていた当初のユウヤ。 そこから発生した、日本側の開発主任である唯依との確執。 対BETA戦術の違いから来る、戦術機操縦の違和感。 そして一種のライバル関係といえる、ソ連軍衛士との対立。
あらゆる試練がユウヤに襲い掛かるも、その経験の中でアルゴス小隊メンバーとの絆を深め合い、XFJ計画の結晶と言える不知火弐型が完成に近付いて行った。 唯依の話がひと段落付いた所で、すかさずタリサの口が開く。
「それを決定付けたのが、8月にカムチャッカで行われた投射砲の実戦テストさ。 あの時のユウヤは、本当にカッコよかったねぇ」
「ああ。 何処かのちんちくりんとは違ってな~」
「何だとVG・・・っ!?」
ヴァレリオの一言を聞いて、歯をむき出して唸るタリサ。 そこを今まで静観していたステラ・ブルーメルが母国スウェーデンに降る氷雪が如き視線を送り、2人を牽制する。 その様子を見た武は、どうやら彼女が2人の暴走を食い止める役目をしている事に気付く。 世界中から選りすぐりの衛士が集まるユーコン基地ならではの光景を堪能しながら、武は唯依の話の続きを聞いた。
そうして行われた、99型電磁投射砲の実戦テスト。 ユウヤの初の対BETA戦でもあった1回目の戦闘では、ほぼ完璧と言えるほどの記録とインパクトを関係者に与えていた。
大小の区別無くBETAを粉砕して見せた電磁投射砲と、そしてそれを見事操ったユウヤの射撃。 何時しか唯依は不知火弐型の衛士である彼がXFJ計画の要である事を認め、そしてユウヤもあれだけ嫌っていた戦術機による近接格闘戦を取り入れるようになった。 この遠征が終われば、皆は“戦友”という固い絆で結ばれる。 誰もが悟っていたその時、突発的なBETAの上陸が始まった。
BETAの上陸を許した責任を擦り付け合う、ソ連軍の将校達。 指示を請うことも出来ないまま、その場の判断で応戦する兵士達。 混乱に陥るカムチャッカの前線基地で、ユウヤ達アルゴス小隊は電磁投射砲と共に脱出を試みる。
「とはいえあんなデカブツだ、そう簡単に運べる物じゃない。 そうした俺達の脱出を支援してくれたのが、護衛として随伴していたソ連軍のジャール大隊だった」
「口は悪かったけど、いい奴らだったな・・・」
そう呟くように言うユウヤとタリサの脳裏に映るは、自分達の護衛に付いたジャール大隊の女隊長の姿。 一人の戦士として、そして隊の母親でもあった彼女の戦いは、ユウヤ達の心に強く刻まれたと言う。
そうして大体の経緯を語り終えたところで、タリサとヴィンセントが武達に今後の予定を聞こうとする。
「ところで、中尉達は何時までここに? まさか、直ぐに帰っちゃう訳無いですよねぇ~?」
「そうですよ。 世界中の戦術機が集まるこのユーコン基地、見て行かないと損ですって!」
「ケイイチさん、どうします?」
夕呼の命であった99型電磁投射砲の安全は確保した武が、それ以降の行動は特に言われてはいない。 このまま2人のおだてに乗って、ユーコン基地にしばらくいようかと武が思っていた時、ケイイチが一枚のデータディスクをイブラヒムが座るテーブルの前に差し出す。
「そうですね。 私も香月副司令から、直々の指令を下されていることですし・・・」
「大尉、このディスクは?」
「現在世界中に配布されているXM2、その追加パッチが入ったインストールディスクです。 横浜からの手土産ですので、今後の活動に役立ててください。 そして・・・」
突然贈られてきたプレゼントにイブラヒム達が驚くのを見て、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるケイイチ。 そして彼はアルゴス小隊の皆や武に、夕呼から託されたその目的を口にした。
「単刀直入に言います。 香月副司令が遂行するオルタネイティヴⅣに、貴方達アルゴス小隊の力を貸して欲しい!」
次回に続く・・・
-あとがき-
『市街地の真ん中で、2号機が暴走レイバーをどつき回しています。 その割には効果は無いようですが・・・ あ、今蹴りを入れました。 続いてドロップキック! 何とかしてください・・・!』
TEの残りの単行本が出ないかと待ちながら職を探す準備をする麦穂です。 今回は引き続いてアラスカ編その2、テロの終息とアルゴス小隊との合流です。
戦闘パートの部分は、脳汁垂れ流し状態で一気に書き上げました。 やはりどんなロボでも最終的には、拳と拳の肉弾戦になると思うのですよ。