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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第30話-日食(第一夜)-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/12 10:55
・ 2001年11月6日 PM10:58 柊町 特装艦フィルノート VRカタパルトデッキ




「システム起動完了。 カイゼル、スプーキー共にコンディション、オールグリーン!」

 銑鉄作戦における影の功労者たる、フィルノートのカタパルト。 そこにはケイイチが作った拡張兵装システム『スプーキー』を装着したカイゼルが固定されており、管制ユニットに座る武が発進準備を終えた事を管制室に伝える。
 何故彼がフィルノートに移動して、カイゼルと共に出撃しようとしているのか。 それを説明するには90番ハンガーに武と純夏が呼ばれ、ケイイチの端末に夕呼の連絡が入った時まで遡る必要がある。


-約1時間前 横浜基地最深部 90番ハンガー-


「アラスカの国連軍基地が、テロリストの襲撃を受けている!?」
『そうよ。 アタシの元にもついさっきその連絡が来てね、こうしてアンタ達に連絡を入れたって訳』

夕呼からの知らせに声を上げて驚く武は勿論の事、ケイイチも眉間にシワを寄せる。 テロリストに選挙されたと言うアラスカ州ユーコン基地は、BETAに対抗しうる新型戦術機を開発する為に、世界各国の衛士達がその垣根を越えて集っている一大拠点だ。
電脳暦世界で行われている戦術機開発計画『メタル・マッドネス』に対抗心を燃やし、この世界を訪れた電脳暦世界の企業達と共同で、追い付け追い越せのペースで戦術機開発を行っていた矢先の襲撃。
 ケイイチと同様に不機嫌そうな顔を見せる夕呼が、ユーコン基地を襲ったテロリストについて語る。

「先刻出した声明から、ユーコンを占拠した連中はキリスト教恭順派と難民開放戦線と判明したわ。 奪取した機体だけでなく持ち前の戦術機を用いている事からも、大きな組織がバックに付いているわね」

米国にも欧州やユーラシアから、BETAとの戦火から逃れて来た難民達が苦しい生活を続けている。 そうした者達に焚き付けて戦力を提供し、ユーコンを襲わせた者がいるというのだ。 G弾を信奉する米国やオルタネイティヴⅤ派が糸を引いていると夕呼は予測していたが、生憎現在の段階ではそれを立証する証拠が探せない。
ただ一つだけ間違いないのは、この日本から離れた辺境の地で、再び人類同士の争いが行われているという事だ。 一通りの概要を聞いた後、武は夕呼にその対応を尋ねる。

「それで夕呼先生、俺達にどうしろと? ここまで話を聞かせておいて、まさか放置しろとは言わないでしょう?」
「そうね。 向こうには凄乃皇参型に搭載された、電磁投射砲の試作型が置いてあるのよ」

 凄乃皇参型に搭載され、G元素を構成材料として使用している120ミリ電磁投射砲。 夕呼の話ではその試作機とも言える、“99型電磁投射砲”がユーコン基地にあると言うのだ。
 夕呼の技術協力により帝国軍が戦術機用の兵装として試作したそれは、8月にカムチャッカ地方で行われた実戦テストで、それを運用したユーコン基地の部隊が華々しい戦果を上げた。
 その強力な火力を、帝国以外の国が欲しがらない筈は無い。 何より夕呼は自分の手がけた研究成果を、どさくさに紛れて誰かに横取りされるのが大嫌いなのだ。

「白銀、アンタは今からサギサワ大尉が開発した追加兵装『スプーキー』を装着したカイゼルで現地に急行。 ユーコン基地の試験部隊を救援し、電磁投射砲を確保しなさい。
 ついでに、テロリストも一掃しちゃって構わないわ」
「い、今からですか!?」

端末の向こうで驚きの声を上げる武に対し、当然だろうと夕呼がフンと顎をしゃくり促す。 幸い武がいるの場所は、彼の愛機であるカイゼルが格納されている90番ハンガー。
 強化装備に着替えてフィルノートに移動するまで手間が掛かるが、スプーキーの巡航速度で十分取り戻せる。 そうと決まれば善は急げと、ケイイチが武と純夏の2人に今後の算段を伝える。

「僕は出発の準備をさせるよう、フィルノートに伝えに行く。 鏡君は白銀君の準備の手伝ってくれ!」
「アイアイサー! さあタケルちゃん、脱いだ脱いだ~!」

 純夏によるハンガーでのストリップを辛うじて回避した武は、整備スタッフから手渡された予備の強化装備を手にし、純夏が使用している特設の更衣室へと向った。


「(純夏、あんな所で着替えていたんだな・・・)」

 ケイイチから貰ったマニュアルで微細なセッティングを続けながら、武は純夏が案内してくれた彼女専用の更衣室での着替えを思い出す。 更衣室の中は床と天井に粗末な換気口と、ロッカーがあるだけの非常に殺風景な風景。 だがその空間には純夏が使った事を物語る、支給品のシャンプーの甘い香りが立ち込めていた。
 例えその身体が機械であっても、恋人の前ではいつも綺麗でありたいという純夏の気持ちを武が改めて実感していると、夕呼とケイイチから連絡が入る。

『どう白銀、5000キロの長旅の準備は出来たかしら?』
「あっ、はいっ! セッティングは完了、後は先生のGOサインが出れば・・・!」
『それは結構。 後でサギサワ大尉も向わせるから、思う存分暴れてらっしゃい! あ、本来の目的は忘れちゃ駄目よ』
「了解!」

 事実上のGOサインが夕呼から出された事を確認し、武はフィルノートの管制室に発進シークエンスの開始を伝える。 カイゼルを打ち出すエネルギーが甲高い音を立てながら充填され、リニアカタパルトのレールに先走りした放電が走る。
 発進タイミングの譲渡が武に移されたその時、艦長のクーゲベルクが武に激励の言葉を掛ける。

『我々に出来る事はここまでだ、健闘を祈っているぞ。 白銀中尉』
「了解! ブレイブ1、白銀武・・・行きます!」

 スプーキーと一体化したカイゼルの機体がレールの上で加速し、電磁投射砲の弾丸よろしく横浜の空へ飛び出す。 そして射出速度を維持したまま長距離巡航ブースターが作動し、窮地に陥るユーコン基地へ向け、長い長い飛行機雲を引きながら飛び去って行った。


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#30 日食(第一夜)


・ 2001年11月7日 AM5:59 アラスカ州ユーコン基地


「連中、急に大人しくなったな。 アタシ達を追い掛けるのは諦めたのか?」
「さあな。 ヤケになって飛び出した俺らを狩ろうと待ってるか、シラミ潰しに探してんじゃねえのか?」

 横浜のそれと比べて、一段と寒さが厳しいアラスカの大地。 戦術機ハンガーとしても機能する大型資材置き場の中で、アルゴス試験小隊所属のタリサ・マナンダルと彼女の同僚であるヴァレリオ・ジアコーザが、互いの愛機の中で言葉を交わす。
 テロ集団はユーコン基地の中枢部を奇襲に近い形で襲撃し、指揮系統の頂点を制圧された事で末端の将兵達は大混乱に陥ってしまった。
 タリサとヴァレリオの2人も多分に漏れず、テロリスト達が操る戦術機部隊の攻撃をやっとの思いで振り切り、この格納庫に身を潜めているのだ。

「しかし、襲撃を受けたのが演習前で助かったな。 こうやってスクランブルが出来なければ、俺らは今頃・・・」
「そうやって、過ぎた事をウジウジ言う奴は嫌いだよVG。 大切なのはこの状況をどうやって切り抜けるか、そうじゃないの?」
「そうだったなタリサ。 こんな弱音を吐くなんて、俺らしくないな」

 しんみりとしたヴァレリオの答えを聞いた後、タリサは格納庫の外に広がる吹雪を獲物を探す狼が如く睨み付ける。 熱源探知による発見を避ける為に彼女の乗機であるXFJ-01b“不知火弐型  試験2号機”と、ヴァレリオのF-15/ACTV“アクティヴ・イーグル”は共にジェネレーター出力は最小限に抑えている。 加えて吹雪による視界の悪さも相まって、2人は今まで追っ手の発見から逃れていられるのだ。
 だがこの吹雪も何時までも続く筈は無く、装備している武装もスクランブル時に流されるがまま持ち出し、追っ手を振り切る際に弾薬の半分を使用した突撃砲がそれぞれ一丁。 それが尽きた場合に残された武器と言ったら、不知火弐型の両腕とアクティヴの両膝にある短刀くらいしかない。  アラスカから脱出するにしても、搭載された分の燃料では途中で海へ墜落するのが関の山だ。
 この時期におけるアラスカでは、日の出まで後3時間程度。 このまま隠れた末にテロ集団に発見されるか、闇夜に紛れて見方と合流し、窮地を脱するかのどちらかしかない。
 自分達の前に掲示された選択肢を前に、ようやく調子を取り戻したヴァレリオが口を開く。

「よしっ! そろそろ、ユウヤ達を探しに行くか!」
「ああ! ずっと逃げ隠れしていたなんて知ったら、アイツに笑われそうだしね。 行くよVG!」

 タリサの不知火弐型が左マニピュレータで格納庫の巨大な扉を開き、続いてヴァレリオのアクティヴ・イーグルもピークに達した風雪の前にその機体を晒す。 そして2機は主足による歩行で、一途ユーコン基地へと戻って行った。


・ 同時刻 アラスカ アリューシャン列島空域


 時速1000キロに達しようとする速度で航行する、鋼鉄のゆりかご。 対レーザー加工が施されたハニカム装甲に包まれたカイゼルの中で、仮眠から目覚めた武が自動操縦を維持した状態でシステムチェックを行っていた。
 半自動操縦に切り替えてスプーキーを操りながら、ユーコン基地救援作戦を立案した夕呼の手腕と計算高さに武は舌を巻く。

「流石夕呼先生だ、到達予測時間の誤差範囲内に到着している」

 彼が今までオートパイロットで航行している間に睡眠導入剤で強制的に眠りに付いたのも、カイゼルの衛士である武がアラスカまでの移動に要らぬ体力の消耗を抑えるためだ。
 既に機体はアラスカの入り口であるアリューシャン列島を通過、あと数十分でテロリスト達が占領するユーコン基地へ突入する。 武はFCSコンソールを開き、スプーキーに搭載されている兵装を再度確認する。
多数の敵戦術機との交戦を予見して、スプーキーの側面ユニットには夕呼が調達したGAU-8『アベンジャー』36ミリガトリングガンシステムが。 そしてエンジンユニットと一体になっている後部のコンテナミサイルユニットには、ケイイチが用意したマイクロミサイル弾等がたんまりと搭載されていた。

「ははは・・・ ここまで来ると、何と戦っているか忘れちゃいそうだな」

 ハイヴの単機制圧も可能ではないかと思わせるほどのスプーキーの重武装ぶりに、それをチョイスした夕呼とケイイチに、武は乾いた笑い声を上げながら恐怖を感じる。 だが武はこのスプーキーが、平行世界との接触により加速した狂気の産物だと思いたく無かった。 それを認めてしまえば純夏が乗る凄乃皇や、自分が乗るカイゼルも同等の存在になってしまうからだ。
 これ以上霞や純夏のような、倫理や生命の尊厳を無視した存在を生み出したくない思いで夕呼やケイイチに協力していた筈だったのに、結果的に武は双方の世界の技術力を暴走させようとしているのだ。 そして自分は、その持て余した力の一つを人類に向けようとしている。

「俺がやっている事は、本当に正しいのか・・・?」

 そうコクピットの中で呟く武が新たな葛藤に苦しんでいる内に、匍匐飛行で疾走する機体はユーコン基地の圏内に進入していた。 遠くにはテロ集団との戦いによるものだろうか、いくつかの爆発と空へ伸びて行く曳光弾の軌跡、そして基地施設を照らす炎と煙が確認出来る。
 それを見た武の脳裏に、自分の帰りを待ってくれている純夏の顔が浮かぶ。

「(そうだよな。 またウジウジして帰ったら、純夏に笑われちまう・・・)」

 何時までも取れない自分の青臭さに、武は苦笑いを浮かべる。 ここを訪れた目的は電磁投射砲の安全確保と、ユーコン基地を守るためにテロリスト達と戦っている将兵達の救援。 奴らが己の持つ正義と力を振りかざすのならば、自分も自分が持つ正義と信念を貫き通して戦わなくては成らない。 難民の身を案じて行動を起こした彼らの心情は理解出来ても、それを訴える為に行ったのはテロと言う名の暴力。
 それは沙霧が起こした9.11クーデターと同じく、武の正義が絶対に許さない行動だった。

「(だからもう少しだけ、俺の我儘に付き会ってくれ。 カイゼル・・・!)」

 フットペダルを押し込み、スプーキーのメインエンジンが一段と強く唸る。 二つの世界が生み出した申し子と共に、武は戦火燻るユーコン基地へと突入した。


・ AM7:08 ユーコン基地 第2演習区 市街地戦闘エリア


「ハウンド1よりハウンド全機へ。 ユーコンの負け犬共はこの演習区域に潜入した、これから奴らを燻り出すぞ」

 主脚で微速前進を続けながら通信で指示を出した直後、了解の復唱が一斉に返った事にハウンド1の口元が思わず緩む。 小型軽量かつ低コストな第2世代型戦術機であるF-16“ファイティング・ファルコン”の2個小隊という、極めて変則的な編成で行動する彼らハウンド隊の衛士達は、このユーコン基地の所属ではない。
 逆に言えばユーコンの将兵達からは、彼らは招かれざる客、つまりはイレギュラーと認識されている。 そう。 このユーコン基地を襲っているテロリスト集団の一部隊、それがハウンド隊の正体だった。
 そして今、手負いの状態であるユーコンの衛士達が駆る戦術機部隊を、市街地戦を想定したこのエリアに追い詰めている最中なのだ。 F-16のマニピュレータが、手にするWS-16C突撃砲の銃口を廃ビル街の通りへと向ける。 周囲には対人戦闘のセオリーであるECMが展開され、レーダーの情報を鵜呑みにする事は出来ない。 頼れるのは阻害されながらも僚機から伝達されるデータリンクからの情報、そして己が持つ衛士としてのカンやセンスだ。
 4つ目の交差点に差し掛かったその時、遂に僚機がここへ逃げ果せたユーコン基地所属の機体を捉える。

『ハウンド3からハウンド1。 ユーコンの負け犬を発見しました、現在交戦中です!』
「ハウンド3、牽制して追い込め。 ハウンド4と8はサイドを抑えろ、退路を封じて纏めて仕留め・・・!」

 そう部下に命じた瞬間、ハウンド4がいる場所で銃声と爆発が鳴り響く。 そしてその場所からもうもうと上がる黒煙を見たハウンド1は、ハウンド4が撃破された事を瞬時に悟った。 包囲に先んじて味方がやられた事に、回線がどよめきの声一色に染まる。

『隊長! ハウンド4が!?』
「手負いの犬ほど凶暴と言う事か。 全機突入、ハウンド4の仇を取れ!」
『了解っ!!』

 部下達の復唱と共に、ハウンド1は匍匐飛行を開始。 2小隊分の跳躍ユニットから噴き出す噴射ガスと高速移動による衝撃波により、辺りは轟音と舞い上がった土煙に包まれる。 そしてハウンド4がいた場所から、1機の戦術機が噴射跳躍によりその姿を見せる。
 純白のカラーリングが施された94式 “不知火”、戦術機の開発や強化改装を手掛けるユーコンにおいて改造された機体なのだろうか、オリジナルとは異なるパーツが機体各所に見られる。 奴がハウンド4を血祭りに上げた張本人に違いない。 ハウンド4の無念は、貴様の命で償ってもらおう。 怒りと復讐心を弾丸に込めながら、ハウンド1はWS-16Cの狙いを定め、36ミリのトリガーを引く。

「ハウンド2と3は俺に続け! あの白い奴を仕留める!」
『了解!』

 チェーンガン特有の駆動音と共に吐き出された弾丸に対し、白い不知火は肩口に装備されているスラスターを噴射して軽やかに回避。 背部マウントに装備する突撃砲がグンと作動し、自律射撃で反撃してくる。 だがあの白い不知火と対峙しているのは自分だけではなく、撃破されたハウンド4を除く3機のF-16が奴を追い詰めている。

「孤立させてしまえば、数で上回る我々には勝てまい!」

 いくら強化された機体と言えど、衛士のスタミナを切らした上で徒党を組んで襲いかかれば流石のエースとて対処は出来ないだろう。 Bチームは白い不知火とこのエリアに逃げ込んだ、別の機体の追撃に向かわせている。 ハウンド2と3が牽制射撃を浴びせる中、十二分に狙いを付けたハウンド1が放った120ミリ弾が不知火の背中に命中。
 五月蠅く弾を吐き続けていた背中の突撃砲が爆発し、バランスを欠いた白い不知火の機体が高度を下げ、廃ビルが一段と群がるポイントへと不時着して行く。 だが、ハウンド1はそれで攻撃を終えた訳ではなかった。

「止めを刺すぞ! 奴が落ちた地点へ一気に跳躍する!」

 必ず奴に引導を渡してやる、ハウンド1のF-16が跳躍ユニットを唸らせ飛翔し、ハウンド2と3もそれに続く。 墜落かそれに近い状態で着地をしたならば、もうまともに戦える事は出来ない。
 そして武装も突撃砲を失い、残るはナイフシースにある短刀位だ。 もはや、奴が自分達に勝てる要因は残っていない。 かつて“ヴァイパー”と非公式の愛称通り、自分達のF-16の毒牙に奴はかかるのだ。 白い不知火がいるポイントまで最後の跳躍をしようとしたその時、突如としてロックオン警報がハウンド1が座る管制ブロック内に響き渡る。

「何だ、新手か!?」
『隊長! 正面から多数の熱源! ミサイルです!!』

 部下の声と同時にレーダーを見ると、自機の前方がBETAと対峙した如く無数の熱源反応に覆われている。 そして高速に飛翔するそれは、広域制圧用に開発されたマイクロミサイル。 弾頭に鈍く光るシーカーが見つめるのは、間違いなく自分達だという事をハウンド1は悟った。
 迎撃を行っても、BETAのように無数に襲いかかるミサイルをすべて落とす事は出来ない。  そして、機動回避も既に手遅れだった。

「くっそおおおおおおっ!!!」

 成す術も無く悲鳴を上げる部下達と共に、ハウンド1のF-16は降り注ぐミサイルが咲かせる爆炎の中に消えていった。


「しまった、あの不知火まで巻き添えにした!?」

 眼前に広がる光景を前に、スプーキーを減速させる武はトリガーを引いた事を今更になって後悔する。 武が個の演習場に差し掛かったその時、ユーコンの所属らしい白い不知火が撃墜されて行く様を目撃した武は、反射的にそれを取り囲もうとしている3機のF-16目掛け、スプーキー後部に装備された『ヘッジホッグ』多目的誘導弾システムのマイクロミサイルを放ってしまったのだ。
 助けるつもりが逆に止めを刺してしまった事に顔を青ざめる武に、ノイズ混じりに通信が入って来る。

『オ・・・オイ、勝手に人を殺すんじゃねえよ・・・』
「その声は・・・!」

 ビル街を覆っていた煙が晴れると、そこには墜落した筈の白い不知火が健在であるとその姿を武に見せ付ける。 傍らには武のスプーキーから放たれたマイクロミサイルの洗礼を受けたF-16が3機、どれも致命的なダメージを負った状態で地に伏している。
 それでも中の衛士達が生存していたのは、彼らが悪運強い運気の持ち主なのだろう。 そう武が思っていると、通信ウインドウに不知火の衛士の顔が映る。 ディスプレイに映る彼の顔は東洋人のそれ、だが外見で彼が日本人であると安易に断定する事は出来ない。
 本当にユーコン基地の衛士かどうか武が尋ねようとしたその時、逆にその衛士がデータを転送と同時に身元を口にし始めた。

『救援感謝する。 俺はアルゴス試験小隊所属、ユウヤ・ブリッジス少尉だ。 そちらの所属は?』
「自分は国連軍横浜基地特殊部隊A-01所属、白銀武中尉です。 同基地の香月副司令の命により、救援に来ました!」
『シロガネって・・・ 中尉、 アンタはまさか!?』

 武が自己紹介を返すと、通信ウインドウに映るユウヤの顔色が、急に変化する。 それは人気絶頂の芸能人のプライベート姿を目撃してしまったかのような、憧れや驚きの類の感情が含まれていた。
 データリンクとIFFが2人の機体間で成立し、武から送られてきたデータを確認したユウヤが再び驚きの声を上げる。

「こいつは凄いサプライズだぜ。 “シルバー・スレイヤー”が、俺達を助けに来たとは!」
「へっ? シルバー、なんだって?」

 所謂“通り名”と呼ばれる言葉がユウヤの口から出た事に、それを耳にした武の思考が一瞬停止する。 カイゼル単機で次々に要塞級を屠る、銑鉄作戦における武の勇姿。 その映像は夕呼の手によって世界中に配信され、それを見た数多くの衛士達に通り名を付けられてしまったのだ。
 自分達の影響力が既に世界へと広まっている事を、武はアラスカの地において始めて実感する。

「ブリッジス少尉、現状説明をお願い出来ますか?」
「はっ! ・・・と言っても、自分の知る限りの情報だけですが」

 まだ周辺に、テロリスト機が潜伏しているかもしれない。 廃ビル街の直ぐ上を低速で飛ぶ武と共に演習場を移動しながら、ユウヤは現在のユーコン基地の状況を武に話し始めた。

「テロリストの襲撃を受けた時、自分は演習前の準備をしていたため、そのままスクランブル発進しました。
 自分が所属するアルゴス試験小隊のメンバーも出撃したのですが、奴らの猛攻と混乱により散り散りに・・・」
「この演習場までは少尉一人で?」
「いえ、統一中華戦線の崔亦菲中尉と同行していました。 彼女も俺と同じように、奴らの追撃を受けている筈です」

 ユウヤと同じく次世代の戦術機開発に意欲を持つ衛士が、先程の彼と同じ状態に陥っている。 それを知った武は、マイクロミサイルの残弾を確認しながらユウヤに告げる。

「分かりました、俺が先行してその人を助けます。 ブリッジス少尉は補佐を!」
「了解! 佐渡の英雄と、肩を並べて戦えるとは光栄ですよ!」

 満身創痍でありながらも勇ましく答えるユウヤに笑顔で頷いた武は、緊急加速用のロケットモーターを点火。 排ガスの尾をなびかせる武のスプーキーが、ユウヤの不知火弐型と共に演習場を疾風の如き速度で飛んだ。


『何だぁ、あのデカブツは!? まるで空飛ぶ棺桶だぜ!』
『ハウンド5より小隊各機、目標変更だ。 ハウンド1の仇を討つぞ!』

 ユウヤを襲っていたハウンド隊の片割れを率いるハウンド5が、急速に接近して来る大型未確認機の接近を察知する。 手負いのユーコン所属機の追撃を止めたかと思うと、一同に彼らの迎撃へ向かう。
 それを目の当たりにしたバオフェン実験小隊の隊長、崔亦菲は土壇場で目標を変えた彼らの態度に怒りを露にする。

「(あいつら、散々弄んでおいて・・・!)」

 あぐらを掻くような体勢で転倒したまま、まるで蜘蛛の目のようなデザインをするJ-10“殲撃10型”の頭部装甲ラウンドセンサーが、跳躍するF-16を睨み付ける。 そして手にする82式戦術突撃砲のトリガーを引こうとした亦菲だったが、微かに残っていた平常心がそれを静止させた。
 多勢に無勢と言う、テロリストとの一方的なまでの戦闘を辛うじて乗り切った彼女の機体は、ユウヤの不知火弐型以上に機体のダメージが深刻だった。 特に突撃砲を持つ右腕部が被弾損傷し、照準精度が急激に落ちている。

「畜生・・・っ!」

 このまま反撃を行っても奴等に止めを刺されるだけ。 そう悟った亦菲が、悔しさで唇を噛み締めながらテロリスト機が去って行くのを見届けていたその時だった。

『馬鹿な!? 棺桶が速くて硬いなんて、聞いた事な・・・うあああっ!!』
『アベンジャーが、こっちを向いた・・・ひいいいいっ!!?』

 オープン回線から濁流のように聞こえてくる悲鳴、そしてほぼ同時に消失する敵機のマーカー。 網膜に淡々と表示される情報に戦慄した亦菲は勿論だが、“それ”と遭遇したテロリスト達も自分達に何が起こったのか直ぐには理解できなかっただろう。
 接敵と同時。 それが4機のF-16が不明機と交戦出来た時間であり、撃破されるまでの時間だった。 奴らの断末魔の声からその機体は、圧倒的な火力と速度を持っていると断片的ながら理解出来た。

「何だ、あれ・・・?」

 推進ユニットから重低音を奏でながら、武のスプーキーが殲撃を高速でフライパス。 その姿を見た瞬間、管制ユニットの空気が重たくなったかのような息苦しさを亦菲は感じる。 120ミリでも貫徹する見込みがなさそうな装甲版に塗られたカラーリングから、あれはどうやら国連軍所属らしい。
 本当にあれを味方と信じていいか彼女が困惑していたその時、ユウヤの不知火弐型が亦菲の前に着地し、同時に彼から通信が入る。

「無事か、崔中尉! 周辺の敵はあらかた片付けた!」
「ユウヤ!? それにあのデカブツは一体・・・?」
「白銀武中尉だ! 佐渡島の英雄が、俺達を助けに来てくれた!」

 差し伸べられた不知火のマニピュレータをしっかり掴み、殲撃の機体を起こしながら亦菲はユウヤが告げた朗報に耳を疑う。 異世界の軍勢と共に現われ、この世界の対BETA戦闘に革命をもたらし、銑鉄作戦を成功に導いた英雄。 その男が今、自分達を救おうとはるばる日本から来訪してきたというのだ。
 普通ならタダのデマだろうと軽くあしらう所だったが、目の前を飛び去っていったあの機体が武の機体だと気付いた亦菲は、ユウヤの言う事が本当である事を悟った。
 ユウヤに守られながら、機体のステータスをチェック行う亦菲の口が開く。

「へぇ、それは凄い話じゃない?」
「でしょう? 中尉、まだ機体は動きますよね?」

 そうユウヤに問われた亦菲は、勿論とはにかみ笑いで答える。 ステータスチェックの結果、右腕のアクチュエータ以外、思っていた以上の損傷はしていない。 それに、ろくに銃が使えないのなら近接戦闘で勝負すれば良いだけの話だ。
 近接戦闘を重視しているが故の殲撃のタフさに改めて感心しながら、亦菲は背部担架システムから77式長刀を殲撃の手に装備させ、快活な声でユウヤに言った。

「行くよユウヤ! もたもたしてると、手柄を皆持って行かれちゃうよ!」
「了解っ!」

 武の突入により、ユーコン基地の各所で燻り続ける煙から新たな爆発が轟き始める。 武の後を追い、はぐれた仲間達の無事を祈りながら、ユウヤと亦菲の2人は演習場を後にした。



2001年11月6日夜:白銀武、テロ組織による襲撃を受けているユーコン基地救援のため、横浜基地より緊急発進。 翌日早朝に同基地に到着し、現地部隊と協力して電磁投射砲の捜索とテロ部隊の掃討を開始。



-あとがき-
『やっぱ戦闘は、白兵でねえとなぁ!!』「ほざけよ!!」

 花粉が飛び始めてペースが落ちそうな麦穂です。 今回はアラスカ編その一、横浜からはるばる飛んできた武とユウヤとの遭遇のお話です。
 実はオルタ本編プレイより先にTEを読んでいた事もあり、一番書きたかった話でもあります(と言っても連載分が追えなくなった今は、単行本待ちですが・・・)。


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