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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第18話-往還-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/25 22:31
・ 2001年9月16日AM7:56 横浜基地 香月ラボ


「教えてください先生! 一体、オルタネイティヴⅣって何なんですか!?」
「うっさいわねぇ、出て行けって言ってんでしょう!!」

 その日ケイイチが武と夕呼の怒号を聞いたのは、開き始めたラボの扉からだった。 ドアが完全に開き、ケイイチの目に飛び込んできたのは、夕呼がぶちまけたであろう書類が散らばっている床。 そして机を挟んで対峙する、切羽詰った表情の武と夕呼の姿だった。
 2人を止めようとするケイイチだったが、床の上に散らばる書類、その中の一枚に書かれた数式が偶然にも彼の目に留まる。

「この数式、どこかで見覚えがあるぞ・・・!」

 その一言に、一触即発だった二人の視線がケイイチに注がれる。 そしてデスクを飛び越えた夕呼が、親の仇を見付けた様な形相で彼の胸倉に掴み掛かった。

「ちょっとそれどういう事!? その数式はあたしだけが知っている理論の一部なのよ!!」
「ちょ・・・博士、首絞めてます首・・・!」

 二人の押し問答を他所に、武はケイイチが見つけた書類の数式を眺める。 そしてそれは、彼にも見覚えのあるものだった。

「俺も知ってる・・・ この数式、元の世界の夕呼先生が書いていた奴じゃないか!?」

 武の呟きも夕呼は勿論見逃さず、ケイイチを掴んだまま詰め寄り、もう一方の手で武の胸倉を掴む。

「メガネだけじゃなくてアンタまで・・・! 知っているのなら教えなさい! さあ! 早く!! 今すぐに!!!」
「無理無理無理・・・! あの時も朧気に長めていただけで、よく覚えてないんですよ~!」
「・・・っ! そうよね。 御免なさい、つい取り乱しちゃったわ・・・」

 武の一言で我に返った夕呼は、慌てて2人の胸倉を掴んでいた手を離す。 そして散らばった書類を集めて机に戻ると、武とケイイチにある話を語り始めた。

「早速だけどアンタ達、ちょっと“おつかい”に行って貰おうかしら?」

 ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる夕呼に、武とケイイチの顔が恐怖で引き攣る。 そして彼女から言い渡された“おつかい”の内容は、案の定とんでもない物だった。


マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#18 往還


・ AM12:15 横浜基地 食堂


「副司令からの特別任務?」
「ああ。 何でも夕呼先・・・副司令が探していた物が、苗村さんやケイイチさん達が住む世界、電脳暦世界にあるらしいんだ」

 突然の武の報告に元207メンバーが驚く中、誰よりも早く千鶴が事の詳細を問い質す。 他のメンバーも昼食を口に運びながらも、武の話に耳を傾けていた。 そして、この話題に一番首を突っ込みたがっていた美琴が会話に加わる。

「戦術機よりも凄い兵器を作れる世界だからね~、ボクも向こうの世界に行ってみたいな~」
「あのなぁ美琴、俺は旅行や遠足で行くわけじゃないんだぞ」

 楽観的な事を言う美琴に対し、ため息を吐きながら答える武。 武にとっても電脳暦世界に身を寄せた時間はあまり長いものではなく、ほぼ未開の世界といっても過言ではない。
 そこへ戻って夕呼の研究を完成させるカギを見付けろと言うのだから、彼女から頼まれた“おつかい”がどれ程難しいのかは想像にし難い。 向こうに行ったらどのように行動しようかと武が色々と考えている中、合成親子丼を載せた盆を持つケイイチが近付き声を掛ける。

「そう心配しなくて良いよ白銀君、あっちは僕らのホームグラウンドだから」
「ケイイチさん!」
「それに僕もタイミング良く、向こうの世界に用があるしね。 あ、敬礼は別にいらないよ」

 武の声でケイイチに気付いた千鶴や冥夜達が彼に向かって敬礼するも、ケイイチはそれをやさしく咎める。 彼も夕呼と同じく、身内での堅苦しい礼儀事は嫌いらしい。
 そして武の隣の席に座りながら、ケイイチが今回夕呼から言い渡された“おつかい”について皆に説明を始める。

「香月博士が言うには僕が住む電脳暦の世界に、オルタネイティヴⅣを完成させるカギが存在しているらしい。 今回は僕と白金君で向こうに赴き、それを手に入れて戻ってくるのが今回の特別任務の内容さ」
「という事は、サギサワ大尉にとっては里帰りみたいなものですね」
「そうだね涼宮君。 さっきも言ったけど、僕も『プロジェクト・バルジャーノン』を進めるべく、一旦電脳暦世界に帰ろうと思っていた所さ」
「例の新型戦術機開発プロジェクトですね?」

 茜に続いて晴子の問いかけに、ケイイチと武は力強く頷く。 BETAと切羽詰った戦争をしているこの世界では、本格的に計画を進めるにはどうしても時間と人員が足りない。 そこで電脳暦世界でも協力者を募り、進んだ技術を取り入れて開発を行おうとケイイチは考えているのだ。
VRというオーバーテクノロジー由来の異質な兵器が生み出されてから10年弱、その間に世代交代が3回も行われている程の開発スピードだ。 それを利用しない手はないと、ケイイチの話を聞き終えた207の乙女達は思っていた。

「とにかく、俺とケイイチさんが居ない間、ケンカとかしないでくれよ~?」
「合点承知。 ただし、榊の態度次第・・・」
「な、なんですって~~~!!?」
「ケ・・・ケンカはだめですよケンカは! 武さんもさっき言ってたじゃないですかー!」

 慧と千鶴が発端となって、騒がしくなる食堂の一角。 案の定2人の言い争いに巻き込まれる武だったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。  電脳暦世界へと旅立つ事になれば、直接彼女達の顔が見れるのはしばらく出来なくなってしまうからだ。
 だから武は、こんな状況でも皆とのふれあいを大切にしたかった。 純夏が居ない寂しさを紛らわすように。

「あんたたち! これ以上騒ぐってんなら外でやりな! 他の人達が迷惑してるじゃないか!!」
「「はい・・・」」

 結局慧は晴子に、千鶴は茜に止められ、とどめとして京塚のおばちゃんによる一喝により幕を閉じたのだった。


・ AM11:08横浜基地 HSST打ち上げカタパルト


『打ち上げシークエンス最終フェイズに移行。 マイザーナブラは、射出位置で待機してください』
「了解」

 管制官に促され、武とケイイチを乗せたマイザーナブラがスラッシャー形態のまま、空の彼方へと続く道の入口に足を進める。 無敵の性能を誇るVRでも地球の重力圏を突破するのは難業であり、横浜基地にあるHSST用の打ち上げカタパルトと、ナブラ本体に装着された追加ブースターを用いて宇宙に飛び立つ事になった。 出発までまだ時間がある事を利用して、ケイイチが後部座席に座る武に話しかける。

「207組の皆には、もう挨拶は済ませたかい?」
「ええ、俺の居ない間は、伊隅大尉達が面倒を見てくれるそうです」
「それは良かった。 苗村君や菫君も居るから、僕らが帰る頃には見違えるほどに成長してるだろうね」

 武が不在の間、207組の面倒はA-01の先輩達と菫や孝弘といったメンバー達が見ることになった。 XMシリーズの更なる熟成や、“プロジェクト・バルジャーノン”による新型機開発に向けて、彼女達はより厳しい訓練を受ける事だろう。
 しかし、彼女達なら乗り越えられると武は信じていた。 関わった世界や時間は違えど、武にとってはかけがえの無い仲間達なのだから。

『カタパルト準備完了、後はそちらの判断で射出可能です。 では、旅の無事を祈ります!』
「・・・だそうだよ。 それじゃ白銀君、博士の“おつかい”に行こうか!」
「はい!」

 電磁レールに稲妻が走り、マイザーナブラの機体が最大限加速された状態で空へ打ち上げられる。 そしてブースターが点火し、白い尾を引きながら武とケイイチは蒼穹の彼方へと舞い上がる。 その光景を207の乙女達は基地舎の屋上から、マイザーの機影が見えなくなるまで見送っていた。

「(武、必ず帰ってくるのだぞ・・・!)」


・ PM1:48 横浜港 特装艦フィルノート


「(先日起きたクーデターの首謀者は死亡・・・な訳ないわね。 椿め、体の良い部下を手に入れたみたいじゃない・・・)」

 一度は廃墟と化し、微々たるものだが復興の手が加えられている横浜港。 そこに停泊するフィルノート艦内の一室でデータを漁っている菫は、自分の親戚が取った行動に思わず苦笑する。 彼女は『罪を憎んで、人を憎まず』をモットーとし、どのような手段を用いてもより良い人材を掻き集める人間だ。
 この世界で反逆者の烙印を押され、なおかつ人型兵器の扱いに長けた武人である沙霧は、彼女にとっては絶好の標的に違いなかっただろう。 彼女が再びこの世界の地を踏むかどうかは定かではないが、何か事を起こす事は間違いないと菫は思った。

「さて、大尉が出掛けている内に仕上げないと・・・」

 そう呟いて資料のウインドウを閉じた菫は、別のデータとそれをまとめる報告書が書かれたワープロソフトを立ち上げる。 そこには欧州戦線で収集されたBETAに関するデータと、ケイイチと共に独自にまとめた考察が書かれていた。
“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という諺の通り、ケイイチは武と共に旅立つ直前、夕呼のオルタネイティヴ計画と平行して、独自にBETAの調査を行う事を菫に任せていたのだ。
 電脳暦の人類が出会った、ダイモンに継ぐ新たな異質の存在であるBETA。 異世界の地球に突如として襲い掛かり、人類を圧倒しその勢力を更に増大させつつある脅威の敵。 どちらの世界の人間達も奴らを排除する事に躍起になり、その本質については一部の人間を除いて少しも探ろうともしないのだ。

-奴らは一体何者なのか?
-どのような理由で地球にやってきたのか?
-なぜ人類を生命体と認めないのか?

 過去のオルタネイティヴ計画の結果から得た答えは、必ずしも全てではない。 だから菫は、その答えを更に突き詰める事を重視することにしたのだ。 レポートを書き進めようとしたその時、部屋の端末に連絡が入る。 それは、艦の外で番をする警備兵からだった。

『霜月少尉、少尉に面会したいと横浜基地の衛士が来ていますが。 如何いたしますか?』

 報告の後、はるばるフィルノートを訪れた衛士の姿が映し出される。 三編みで纏められた髪型と顔に掛かる大きなメガネから、菫はそれが誰なのか直ぐにわかった。

「分かったわ、私の部屋に案内して」



「ごめんなさいね。 せっかく挨拶に来てくれたのに、お茶の一つも出せないなんて」
「いいえ、私の方こそ、突然押しかけたようなものですから」

 門前払いされるどころか、アッサリと艦内への入場を許可された事に疑問を抱く千鶴。 だがそれも目の前で微笑む菫を見て、無駄な事だったと気付かされた。 武が不在の間、207組の面倒を見ることになった菫に対してせめて挨拶はするべきだと思い、単身千鶴は彼女の元を訪れている。
 どのように切り出したら良いのか千鶴が迷っていたその時、菫の方から彼女に話しかけてきた。

「あなたのお父さん、無事に救出されたそうね」
「えっ、ええ・・・ 一時はどうなる事かと思いました」
「帝国の世情が落ち着いたら、もう一度会ってみたら? きっと喜ぶ筈よ」
「はい・・・」

 俯きながら答える千鶴に、父親との仲が悪いなと菫は悟る。 だがどの程度の仲であろうと、親子という絆は決して断ち切ることは出来ない。 ましてや真に千鶴の事を考えてくれるのは、他ならぬ肉親なのだから。
 部屋に篭り始めた陰湿な雰囲気を取り払うべく、菫は話題を変えて自分の研究について話す事にした。

「ねえ榊さん、BETAってどういう敵なのかは、もう座学で聞いた?」
「はい。 各種BETAの画像と基本データ、対策などは伊隅大尉から教わりました」
「そう。 じゃあ見せても大丈夫ね・・・」

 そう呟いた菫は、急に今までお留守にしていた端末を操作する。 モニターには何処かの戦場で撮ったのだろうか、土煙を巻き起こしながら大地を突き進むBETA群の映像。
 更には目と鼻の距離にまで接近した各種BETAの画像が数点、モニターに表示される。

「これは・・・!」
「欧州で私達の世界から来た軍と、この世界の欧州国連軍が共同作戦を行っているのは知ってるでしょう?」
「BETAの勢力拡大を防ぐために、過去最大級の間引きが行われていると聞いています。 もしかしてこれは・・・」
「察しが良いわね榊さん。 この映像と画像は、そこから送られてきた物なの」

 しかし何時見ても、つくづくBETAは醜悪な姿をしていると千鶴は思う。 みちるの座学で初めてBETAの姿形を見せられた時は、彼女も他のメンバー同様吐き気を催す程の嫌悪感を味わったのだ。

「見れば見るほど気持ち悪いわね、とても生き物とは思えないわ」
「ええ。 こんな奴らが、沢山の命を奪ったかと思うと・・・!」
「でも、もしコレが本当に生き物じゃないとしたら?」

 そう問いかける菫の、決して誇張でも冗談でもないという気迫に、自分は来てはいけない所に来てしまったのかと思い、千鶴は息を呑む。

「ここからは私が思いついただけの戯言を話すから、余り真に受けないでね?」
「はい・・・」

 そう軽口を叩く菫だったが、千鶴は気楽に利く余裕など無かった。 それまでのBETAに対する常識を覆す概念、果ては禁断の領域へ踏み込んでしまった錯覚さえ感じてしまうと思ったからだ。
そんな不安を千鶴が抱えている中、菫の考察が語られる。

「結論から言わせてもらうわ。 BETAは、あれは生命体と呼べる代物じゃない」
「BETAが・・・生命体じゃない!?」

 菫の言葉に、千鶴は思わず耳を疑う。 ただがむしゃらに人を喰らい、我が物顔で地球の大地を蠢くBETAが生命体ではない? 今まで聞いた常識を打ち破る答えについて千鶴が質問をしようとするが、逆に菫の方から彼女に問いかけてくる。

「榊さん、“自動人形(オートマタ)”って聞いた事がある?」
「いいえ、始めて聞く言葉です」
「簡単に言うと大昔に作られたからくり人形ね、予め与えられた命令や機能で仕事を行う機械の事よ」
「まさか霜月さん、BETAはまさか・・・!」
「貴方の思った通りよ。 私は、BETAが『異星人が作り上げた作業機械』に見えて仕方ないの」

 核心に至った千鶴の顔を見て、菫は静かに頷く。 言われて見れば確かにそうだ。 仮に菫が提唱する通りBETAは異星人が創造した“機械”であるのなら、外見や感情、生殖機能と言った物は邪魔以外の何者でもない。
 必要なのはあらゆる環境に耐えうるボディと、与えられた命令をただ実行する位の知性で十分なのだ。

-要撃級の頑強な腕部と突撃級の突進は、硬い岩石を砕くため。
-要塞級の溶解液と光線種のレーザーは、要撃級と突撃級では破壊出来ない岩盤に対処するため。
-そして無数に存在する小型種は、大型種には出来ない精密な作業を行うため。

 ハイヴの周辺一帯は地形が変わることや、長大かつ広大なハイヴ地下坑道を作り上げてしまうBETAの外見を見ると、グロテスクの一言では語れない要素が次々に出てくる。
 胸糞悪いが、あの外見をある種の“機能美”だと言えなくも無いと千鶴は思った。

「霜月さん、これを誰かに見せた事は?」
「そうね・・・しいて言うなら、私にこのレポートを作らせたサギサワ大尉くらいかしら?」

 菫の言葉を信じるのなら、このレポートはケイイチ以外誰にも見せていない。 ならばこの世界でこれを見たのは、自分が初めてということになると千鶴は悟る。

「香月副司令にも、コレを見せるつもりですか?」
「そこまで気付いているのなら話が早いわ。 榊さん、このレポートを横浜基地へ持ち帰ってくれるかしら?」

 突然の菫の頼みに、千鶴はゴクリと喉元を鳴らす。 この世界の対BETA戦略を根本から揺るがすかもしれない彼女の文章を手土産に、横浜基地へと戻れというのだ。

「何も横浜で見せびらかせと言ってる訳じゃないわ。 それに、私のレポートを真に受ける人間なんて、この世界ではごく限られているしね」
「それはそうですけど・・・」

 そう楽観的に話す菫に対し、やはり千鶴は一抹の不安を拭えない。 結局、彼女は菫からデータやレポート書類を渡され、横浜基地へ帰って行ったのだった。


・ AM8:48 横浜基地


「榊。 もう挨拶は済ませたのか?」
「伊隅大尉に、神宮司中尉?」

 横浜基地に戻り、夕呼のラボへと続く廊下を歩いている千鶴に声が掛かる。 彼女が声のした後ろを振り向くと、そこにはまりもとみちるの姿があった。

「珍しいわね、榊が夕呼に用があるなんて。 それで、その手に抱えてる書類は?」
「あっ、これは・・・」

 まりもに菫からの手土産を指摘され、返答に困る千鶴。 不審に思ったまりもは、おもむろに彼女からそれを取り上げてみちると共に目を通す。

「(これは・・・!)」
「(馬鹿な、こんな事があってたまるか!)」

 みちるもそうだが、まりもに至っては長年にわたってBETAとの実戦を積み重ねてきた衛士だ。 それまで抱いていたBETAという宇宙人が、単なる有機型の作業機械に過ぎないという菫の仮説に、2人は間違い無く大きなショックだろうと、血相を変えながらレポートを読む2人を眺めながら千鶴は思った。 そして一通り読み終えたみちるが、何時になく真剣な眼差しをしながら口を開く。

「榊、これから副司令にそのレポートを渡しに行くのか?」
「ええ。 それが霜月少尉との約束ですから」
「なら私達も同行しよう。 これを読んだ夕呼が、どんな状態になるのは予想が付くからね・・・」

 そう話すまりもが深刻な表情を見せた事に、千鶴はただならぬ危機感を覚える。 2人でもかなり驚いた菫のレポートを、長年BETAを研究してるであろう夕呼が読んだらどのような反応が返ってくるのか想像が付かないからだ。
 とはいえまりもとみちるの2人が同行する事になり、自分だけ標的にならなくて済んだと思いながら、千鶴たちは夕呼が居るラボへと向かった。


・ 横浜基地 B19フロア 香月ラボ


「(まったく・・・ あのメガネにして、この部下ありなのかしら?)」

 千鶴達が戦々恐々とした面持ちで見守る中、顔の血管が浮き出そうな表情をしながら、夕呼が菫のレポートを読み漁っている。 『BETAそのものが地球外生命体ではなく、宇宙人に作られた作業機械』という菫の仮説を読んだ彼女が見せた反応は、千鶴達が予想していたものとは裏腹に穏やかな物だった。
 寧ろ夕呼は、こうした発想が出来る異世界の人間に少なからず関心を抱いていた。 月の遺跡からそれこそ魔法のような技術を手にし、つい最近までダイモンと呼ばれる“遺跡に巣食う亡霊”という存在と戦っていたのだから思いつかない訳が無いと思っていた。

「それで榊、書いた当人は補足とかアンタに言ってなかった?」
「現状ではその仮説が実証できる証拠が不十分であり、もし自分の仮説が本当なら今後の戦略にも影響が出るかもしれないと、霜月少尉は言っていました」

 千鶴の伝言通り、もし菫の仮説が正しいと証明された場合、対BETA戦略そのものを変えなくてはならない。 『プロジェクト・バルジャーノン』も、そうなった場合に必要な兵器の開発を行うための計画なのかもしれないのだ。

「ご苦労様、もう下がって良いわ。 後ろであたしを慰める用意をしていた2人もね」

 そう夕呼に言われ、結局出る幕が無かったまりもとみちるがビクリと肩を震わせる。 そして何事も起こることなく安堵する千鶴と共に、夕呼のラボを後にする。 3人に手を振りながら見送った後、夕呼はもう一度菫が作ったレポートにもう一度目を通し始めた。

「とりあえず、今は白銀達が帰って来るのを待つしかないわね・・・」

 事を起こすのは、人類の希望となるカギが手に入ってから。 菫のレポートを読み漁り続けながら、夕呼はそう呟いていた。


2001年9月17日:武とケイイチ、電脳暦世界へ無事に帰還した事がA-01にフィルノートの菫経由で伝えられる。 また、18日未明には実証試験機、F-4J+『銀鶏』がロールアウト。 神宮司まりも臨時中尉の乗機としての運用が決定する。

同日 電脳暦世界:イギリス、戦術機の設計を流用した第4世代VRのリバースコンバートに成功。 機体名は旧世紀に同海軍で運用されていた戦闘機から、『ヴィクセン』と命名される。 今後、異世界にて実戦テストを行う予定。


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