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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第17話-信念-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:09844721 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/25 22:29
・ PM22:47 伊豆半島 伊豆スカイライン 亀石峠料金所


「殿下、もう直ぐの辛抱です」
「良いのです白銀、私に構わず・・・!」

 ウォーケンら米軍のサポートの元、ようやく亀石峠までやってきた武達。  しかし悠陽の体調は芳しくなく、これ以上移動を続けていたら精神的にも体力的にも持たないと、武は苦痛の表情を浮かべる悠陽を見ながら感じていた。

「(どうする、このままだと殿下が・・・!)」

 もう少し休憩を延長してもらうよう、ウォーケンに進言してみるか? だがこの戦いを長引かせてしまえば、こうして救援に来てくれている米軍にも被害が出てしまう。
この世界の日本では過去の経緯から何かと反米感情が強いが、そんなことに関係なく彼らには何もないままお引取りしてもらいたいと武は思っていた。

「白銀中尉、殿下の具合はどうだ?」
噂をすればなんとやらで、悠陽の身を案じるウォーケンの声が武の耳に入ってくる。 彼に悠陽の容態を伝えると、網膜ディスプレイに映るウォーケンは直ぐに苦渋の表情を浮かべた。

「そうか・・・ ならばもう少し休憩時間を延長するのはどうかね?」
「お気持ちはありがたいですが、これ以上時間を消費して少佐達に被害を出すわけには・・・」
「いや、ここは殿下の体力の回復を待つのを優先させよう。 その間は我々の威信にかけても、君達を必ず守る」

 その武人としての立ち居振る舞いを見て、少なくともこの人だけは信じてもよさそうだと武は思った。 それと同時に出撃直前に、夕呼が自分に継げた言葉を思い返す。

『今回の任務、最後の最後まで油断しないことね』

 今回の米国の支援行動も、まるで始めから仕組まれていたかのような流れであったことは、武にも理解できた。 ならば最新鋭機を駆るウォーケンの部隊に、そういった輩が居ても可笑しくは無い。
 夕呼の言葉が本当にならないと良いがと願っていたその時、ハンター隊の一人がウォーケンに報告する。

<リーダー、先ほどからオダワラ基地に連絡を入れているのですが、応答がありません>
『懐を突いて追撃に来たか? よし、ヒート隊とスパイク隊を各峠に配置させ、防衛ラインを構築しろと伝えろ』
<了解!>

 冷静に状況を見極め、的確に部下達に指示を出すウォーケン。 指示を受け取ったヒート隊とスパイク隊が、迅速に武達の来た道を戻って行く。 また戦いが始まるのか、どのような理由であれ人類同士が戦うことに武は深い悲しみを覚えた。
 悠陽の容態を案じながらそんな感傷に浸っていると、ケイイチからの通信が入ってきた。

「久しぶりに戦術機に乗った感覚はどうだい? 白銀君」
「特に違和感はありません。 それよりも、殿下の体調が・・・」
「むしろここまで持ってくれたのが凄いよ。 流石、一国を背負うお姫様といった所かな?」
「そういう言い方は・・・ でもこのままだと、確実に殿下の体力が尽きますよ」

 そう告げるケイイチの顔には、いつものような楽観的な雰囲気は無かった。 要人護衛という上、この先何がおきるか分からないという状況に、彼も何時までもヘラヘラしていられないというのだろうか。

「クソッ! せめて今乗っている機体がVRなら、殿下の負担を減らすことが出来るのに・・・!」

 息も絶え絶えな悠陽の前で、思わず本音を漏らす武。 標準で慣性制御が備わっているVRなら、戦術機と同等の機動を行ってもパイロットへの負担は少ない。 もしこの場で乗り換えることが出来るのなら、悠陽にこれ以上の消耗させることなく護送が可能だ。 そんな彼の一言に、ケイイチと孝弘がハッとした顔で声を上げる。

「「そうか、その手があったか!!」」
「えっ・・・!?」


マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#17 信念


「殿下、気分はどうですか?」
「白銀? ここは・・・」

 武の声に促され、朦朧としていた悠陽の意識が現実へ引き戻される。 依然として戦術機のコクピットの中だろうと思っていた彼女だが、未だに虚ろな視界に戦術機のそれとは明らかに異なるレイアウトに気付く。 そんな悠陽に、武が今の状況と今後の手はずを伝える。

「今俺達は吹雪から苗村1尉のVR、『叢雲』のコクピットに居ます。 加速度病の進行は、VRの慣性制御で戦術機より格段に抑えられるはずです」
「乗り換え? これに乗っていた衛士は、それを行う事を許したのですか?」
「ええ。 元々この作戦も、彼らが持ちかけてきたんですよ」

 先ほどのケイイチと孝弘の顔を思い出し、武は声を上げて笑いそうになるのを必死で堪える。 叢雲本来のパイロットである孝弘はケイイチのマイザーナブラに搭乗し、そこから武へのサポートを行うと言う。 無論乗っていた吹雪は自立制御で随伴させ、最悪身代わりに使うと武は説明した。

「そうですか。 米軍側にはこの事を?」
「一応ウォーケン少佐のみに伝えました。 敵に感づかれないように他の隊員たちには、今まで通りの任務をさせるそうです」

 そしてこの機体をどこまで自分のものに出来るか、武はそれが気がかりだった。 孝弘とケイイチのサポートの元、機体セッティングは自分が前に乗っていたテムジンに近い設定にしたが、個人に合わせたカスタマイズが施されているこの機体を完全に操るのは不可能に近い。
後は自分に秘められたパイロットとしてのセンスに掛けるしかないだろう。

『さあ、ランデブーポイントまであと少しだ。 行くぞ!』

 ウォーケンの号令の元、米軍と207小隊は移動を再開した。


『沙霧大尉、伊豆の亀石峠から移動を始めた部隊が確認されました。 また米軍が伊豆の各所で防衛ラインを固めているそうです』
「そうか・・・」

 紅蓮の色で浮かび上がる小田原の街、その中にこの惨状を引き起こした鋼の巨人が立ち尽くす。 はたして自分の行動は本当に正しかったのか、小田原基地を襲撃した後になって沙霧の中に消えかけていた疑念が再び燻り出していた。
 日々激化するBETAとの戦い。 前線と後方、そして司令部や政府との温度差。 消耗し、最低限の生活を強いられ疲弊する国民達。 それらを正すために、皆にその事を知らせるために自分達は立ち上がった。

「(私の成そうとしている事は、本当に正しいのか・・・?)」

 だが実際はどうだ、国内に要らぬ混乱を与えたばかりか米国までも介入させてしまった。 自分達の行動が逆にこの国を陥れている事に、沙霧は今更になってようやく気付き始めていた。 それでも、ここまで付いてきた部下達を裏切るわけには行かない。 沙霧は彼らの忠義に感謝しながら、通信に向かって声を上げる。

「ならその先に殿下が居る! 全機、私に続け!!」

 腰部アーマーに“烈士”のマーキングが塗られた漆黒の戦術機達が、おぼろ月が浮かぶ夜空を舞った。


・ PM23:37 伊豆半島 氷川峠周辺


『熱海峠で網を張っていた米軍部隊が決起軍に突破された! 我々の目論みに気付いたらしい。奴ら、形振り構わずこっちに向かって突っ込んでいるそうだ!』

 まりもから伝えられた情報に、小隊の誰もが肩を震わせる。 多勢を従える米軍部隊に正面から挑み、それを突破した決起軍の精鋭達がこちらに接近中だというのだから当然のことだろう。 ようやく叢雲の操縦感覚を掴みながら、武はこの戦いにどう決着をつけるか悠陽と共に考えていた。
 VRである叢雲の性能ならば沙霧率いる決起軍の戦術機部隊を相手にしても、いとも容易く全滅させられるだろう。 だが、それは悠陽の望みではない事は武も承知していた。

「(このまま戦闘になったとしても、何とかして沙霧大尉を説得に持ち込まないと!)」

 叢雲の性能に物を言わせて取り巻きを一蹴し、悠陽による説得によって沙霧に降伏させるのが武と悠陽の間で決めた作戦だった。 あと少しで氷川峠に到達しようとしたその時、広域レーダーを搭載した吹雪を駆る千鶴が声を上げる。

「決起軍、米軍の防衛ラインを突破! 全速力でこちらに向かっています!」
「全機01を中心に円周防御、敵機が発砲してきた場合は独自に応戦しろ!」

 沙霧らに悟られないよう、まりもの指示通りに武達が乗っていた無人の吹雪を取り囲むフォーメーションを取る。 ウォーケン達も白銀達を護るべく、さらにその外側を囲み鉄壁の守りとする。 そして後方に位置するラプターが敵機の接近に気付いて応戦、チェーンガンの発砲音が伊豆の山中に鳴り響く。

「これ程の力、なぜBETA相手に生かそうとしないのだ!」

 決起軍の予想以上の進撃速度を目の当たりにしたウォーケンは、憤りと共に率直な意見を言葉にする。 BETAという共通の敵を前にして、人類同士で争うなど愚の骨頂だ。
 だが、もし自分が日本人として生まれていたら、切迫した状況でいるこの国の事を憂い、彼らと同じ行動をしていたのかとウォーケンは考えてしまう。

『リーダー! 隊長機らしきシラヌイが・・・!』
「何っ!?」

 それを最後に途切れる部下の通信。 ウォーケンが見たのは、沙霧が駆る不知火が武たち目掛けて吶喊する姿。 自分達の銃撃をあたかも存在しないが如く動き回り、徐々にその距離を縮めて行く。

「なんて奴だ、性能の劣る機体で我らのラプターに追い付くだと・・・!」

 現行最新鋭の戦術機、F-22A“ラプター”は、元々対戦術機戦闘を主眼に置いて開発された機体だ。 敵のレーダーに察知されにくいステルス能力、アフターバーナー無しで音速飛行する事が出来るスーパークルーズ機能など、BETA大戦後における米国による世界支配を見越してのスペックが備わっている。
だがステルスは敵に発見されてしまえば何の役にも立たず、スーパークルーズ機能も護衛という今の状況では使えない。 “戦術支配戦術機”という異名通り、ラプターという戦術機は『攻める』為の機体であって『守る』為の機体ではないのだ。
 いかなるスペックであろうと運用と衛士次第で戦術機の効力は左右されるとウォーケンが悟った時には、全てが遅かった。

「まずい! 207各機、決起軍のシラヌイが一機そっちに行ったぞ!」

 前を行く武達に通信を送った後、ウォーケンは沙霧を追うべく機体を加速させる。 沙霧の不知火は依然として、武達に向かって跳躍ユニットを輝かせながら突き進んでいる。 長刀マウントのロックが外れ、それを左手に装備した沙霧の不知火が207小隊の後方に迫る。 冥夜達207小隊には目も暮れず、沙霧の不知火は無謀にも武の乗る叢雲を狙っていた。

「(嘘だろ!? 俺と殿下がこいつに乗っている事に、もう気付いたのか!)」

 このまま皆を振り切って応戦するべきか? だがそれを行えば同乗している悠陽にまた負担を強いてしまい、皆に要らぬ世話をかける事になると迷っていたその時、凛とした声で悠陽が告げる。

「白銀、迷う必要はありません。 貴方の成したい事、それは私と共に沙霧を止めることでしょう?」
「殿下・・・」
「ならば、恐れず行動しなさい」
「はいっ!」

 悠陽の助言で迷いを振り切った武は、叢雲の機体を力強く跳躍させる。 そして空中で後ろに向き直った後、まりも達に向かって叫んだ。
「俺が奴の相手をする! 皆は指定のポイントまで先に行ってくれ!」

『ちょっ・・・白銀中尉!』
『どういうつもりだタケ・・・白銀中尉!』
『そうだよ中尉、その機体には殿下が乗ってるんだよ!』

 千鶴と冥夜、美琴が武の発した言葉に驚く中、まりもだけは彼の真意を見抜いていた。 戦術機とVR、異界の機械を使いこなす事が出来る今の彼ならば、必ずやり遂げてくれると信じていたからだ。

「了解した。 だが、一つだけ我々と約束しろ」
「何ですか? 神宮司中尉」
「必ず、殿下と共に我々の元に戻れ! いいな!」
「了解っ!」

 皆の願いを体現したとも言えるまりもの言葉に力強く答え、元来た道を戻る武。 そしてまりも達を追いかける沙霧の前に、叢雲の機体が立ち塞がった。

「貴様は・・・!」
「さあ、もうこんな下らない事は終わりにしようぜ! 沙霧大尉!」


 通信と外部スピーカーで呼びかける声に、思わず足を止めた沙霧は目の前に立つ新緑の機体を睨む。 同志達はウォーケンら米軍の足止めを食らい、ここにいるのは沙霧ただ一人。 それでも自分達の邪魔をする者は実力で排除し、悠陽を奪還しなければならない。 長刀を構えながら、沙霧が吼える。

「そこを退け! 貴様ら異世界の人間も、米国の肩を持つというのか!」

 おそらく沙霧は本来のパイロットである孝弘に向けて言ったのだろうが、今叢雲に乗っているのは武と悠陽だ。 だが、異世界の人間という意味では武もそれに含まれる。 彼の問いに対し、武は己の中にある答えを持って沙霧に答えた。

「違う! 俺はあんた達がやっている事を止めたいだけだ! 世界中の人達がBETAと戦っている時に、どうして人類同士で殺し合わなくちゃいけないんだ!!」
「なら貴様に問う! BETAと戦うが為に他国に追従し、その結果日本が大国に隷属する事を認めるのか!」
「それは・・・ぐっ!?」

 武が見せた一瞬の動揺を、沙霧が見逃す筈は無かった。 跳躍ユニットのノズルから眩い噴射炎を輝かせ、間合いを詰めた沙霧の不知火は叢雲めがけて長刀を振り下ろす。 武は反射的に左腕にラック兼シールドで受け止め、激しい火花と閃光が広がる。

「貴様には分かるまい! 人類の奉仕という大儀に溺れ、この国は徐々に腐り始めている! だから我々が逆賊共を討ち、民にその事を知らしめなければならんのだ!」
「だからといって、こんな事をやって良い筈はないでしょう!!」
「どの道我々は後戻り出来ん、邪魔をすると言うのなら・・・!」

 シールドで長刀を押しのけ、反動で沙霧との間合いを取る武。 そう告げた沙霧は長刀を再び構え、武を突破しようとしている。 ここで彼を止めなければ、もう後はない。 悠陽と視線を合わせて互いに頷いた後、武は思いの丈をぶつけた。

「ああそうさ! 所詮俺は異世界から来た人間だ。 あんたの言っている事はまったく理解出来ないし、賛同もしない!」
「何だと・・・! 確たる信念も忠義を尽くす者も無く、貴様は何を信じて戦っている!」
「そんなの決まっている! 俺は・・・俺を信じてくれている仲間のために戦っているんだ!」

 武の声を聞いて、沙霧は後方で足止めをしてくれている同志達の顔を思い浮かべた。 彼らもこの国の内情を憂い、自分を信じてここまで付いて来たのではないか?

「私は・・・」
『ならばその答え、私に預けてくれないでしょうか?』
「その声は、まさか・・・!?」

 疑念に次ぐ疑念に思考が止まりかけた沙霧の耳に、聞き覚えのある声が届く。 そして目の前にいる叢雲のコクピットハッチが開き、そこには武と悠陽の姿があった。 武に支えられながら立つ悠陽は、将軍らしい毅然とした態度で沙霧に話しかける。

「沙霧大尉。 この日本の現状を憂い、それを正すべく行動を起こした事、貴方のその信念と忠義を私は認めます。 ですが・・・」
「その術は外道、全て承知の上です・・・」

 不知火の前部ハッチを開放し、二人の前に姿を見せながら沙霧は悠陽の言葉に答える。 知らなかったとはいえ将軍である悠陽が同乗している叢雲に攻撃を仕掛け、それでいて彼女に直接説得を受けているのだ。 沙霧の表情は平静を保ってはいるが、もう戦闘を行う気は無いように武には見えた。 悠陽の説得の後、沙霧は何かを決意した表情で口を開く。

「殿下、同志達の処遇、どうかよろしくお願いします・・・」
「分かりました。 政威大将軍の名に掛けて、最善を尽くしましょう」

 事実上の降伏宣言を告げながら、悠陽に対し深々と頭を下げる沙霧。 これで人類同士の無意味な戦いは終わる、そう武が安心していたその時だった。

『白銀ぇ! 今すぐその場を離れろ! 早く!!』
「苗村さん!? あれは・・・!」

 インカムから聞こえる、鼓膜を破らんばかりの勢いで叫ぶ孝弘の声。 するとラプ
ターが1機、こちらに向かって急接近して来る。 そしてそれが手にする突撃砲の銃口が自分達に向けられていることに気付き、武の背筋が凍った。

「殿下、ご無礼を!」
「えっ? きゃっ・・・!」

 女の子らしい悲鳴を出す悠陽をコクピット内に引き戻し、彼女を再び膝元に座らせ急いでハッチを閉じる武。 直後、劣化ウラン製の36ミリ砲弾が武の叢雲に、そして沙霧の不知火に降り注ぐ。

「ぐああああっ!!」
「沙霧大尉っ!!」

 銃撃の雨に成す術も無く穿たれる沙霧機を見た悠陽の叫びが、叢雲のコクピットに虚しく響く。 そして同時に、米軍側にもこの事に驚き叫ぶ人物がいた。

『ハンター2! 何故撃った!? 答えろハンター2!!』
「『最後まで油断するな』って、この事だったのかよ!」

 沙霧の生死も分からぬままその場を離れ、まりも達の元へ向かう武の脳裏に、出撃前の夕呼の言葉が蘇った。 自体を混乱に陥れた張本人であるハンター2は、ウォーケンの呼びかけに応答せず、ただ跳躍ユニットのホバリングで空中に静止している。 

『貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!! 返答によっては・・・!』

 返答によっては撃墜する。 そうウォーケンが言おうとしたその時、雷にも似た閃光がハンター2を貫いた。

『テスレフ少尉!』

 ウォーケンが衛士の名前で呼びかけるも、ハンター2が黒煙を吹きながら山中に墜落していく。 そしてハンター2、イルマ・テスレフを仕留めた閃光は、今度は武達に容赦無く襲いかかった。

「(あいつも捨て駒だったのか!? )」
「大丈夫か白銀! こちらは無事、フィルノートに合流出来た」
「神宮司中尉!」

 遥か上空にいる敵からの攻撃を避け続けている中、無事にフィルノートと合流したまりもから通信が入る。 事の次第を伝えた後、

「何っ!? 米軍機が殿下を狙った!?」
「それを行った機体も撃墜されました、今は黒幕と思しき未確認機からの攻撃を受
けつつ、そちらに合流しています」

武の報告を聞いたまりも達に戦慄が走る。 クーデターの混乱に乗じて、米国が極 東における勢力拡大の為にこのような芸当をするとも限らない。 そうでないとしても、現に武と悠陽はBETA以外の敵に襲われていることは事実なのだ。

「こちらからでは敵を補足出来ません、神宮司中尉達の方で分かりますか?」
「榊!上空に向けて最大感度で指向索敵だ!」
「了解!」

 まりもの命令に復唱し、千鶴は自機の肩に装着されたレドームを夜空に向ける。 美雪の八雲と並ぶ探知能力を持つ索敵システムがここぞとばかりにフル稼働し、武を襲う敵の正体を掴む。

「何これ? VRじゃない、戦術機・・・?」

 網膜に映し出される赤外線センサーの画像を睨みながら、千鶴はメガネと並ぶトレードマークである眉毛を歪ませる。 そのシルエットはまるで大根のような大型の跳躍ユニット腰に備え、手にはスナイパーライフルらしき武器を持っていることが分かる。 千鶴にはその機体が、まるで裏切り者、邪魔者を的確に始末する殺し屋に見えた。

「恐らくこうなる事を予測して、今まで隠れていたのか・・・ やってくれるね!」
「どうするケイイチ君、俺の叢雲の武器じゃあの高度まで届かないぞ」

 武と悠陽を乗せた叢雲を狙撃している未確認機は、レーザー照射危険空域ギリギリの高度にいる。 本来のパイロットである孝弘の言う通り、叢雲に搭載されている兵装は中~近距離メインのものばかりであり、空の彼方に居る敵をぶち抜くといったことは到底不可能だ。 だが今の自分達にはそれを行えるジョーカー、それも2枚持っていることに武は気付く。

「珠瀬君、君の力が必要だ」
「わ、私ですか・・・!」
「君の吹雪が装備する電磁狙撃砲なら、白銀君と殿下を襲っている敵を楽々狙撃できる。 早峰君も付いているから、きっと上手くいくよ」
「分かりました、やってみます!」

 状況やターゲットは違えど、遠くの敵を狙い撃つというシチュエーション。 武は“前の世界”で見た、壬姫によるHSSTの狙撃を思い出していた。 体育座りに近い座り方で狙撃体勢を取る八雲から、美雪が壬姫に声を掛ける。

「まだ私達に気付いていない、今のうちに仕留めるわよ! 珠瀬さん!」
「はいっ! 『オーバーウエポン』、作動!」

 魔法の呪文といえる壬姫の声に音声認識システムが作動し、戦術機の駆動音が一段と強くなる。 ケイイチが開発したオーバーウエポンシステムにより、ジェネレーターから発せられた莫大なエネルギーが装備する75ミリ電磁狙撃砲に溜まってゆく。
 チャンスは一回のみ、失敗すればこちらにも攻撃が来る。 千鶴の索敵データに導かれ、MAXチャージと同時に頭部スコープが敵機の姿を捉えた。 皆を、そして武を守りたいという願いと共に、壬姫はトリガーを引く。

「この一発で・・・」
「決めます!」

 銃口から強烈な閃光と稲妻が迸り、電磁的に加速された弾丸が夜の闇を切り裂く。 それと同時に美雪の八雲もビームランチャーを発射。 2つの閃光は寸分の狂いも無く未確認機を一撃の下に貫いた。


23:00 煌武院悠陽無事に国連軍部隊に護送された、収容先の特装艦フィルノートにて降伏の呼びかけを敢行。 この報を聞いた決起軍は即時、帝国軍に対し降伏。 クーデターは終結する。 尚、クーデター首謀者、沙霧尚哉は表向きには戦死と発表。

23:15  フィルノート艦載機、未確認機の残骸を発見。 パイロットは既に死亡しており、調査の目的で回収され、後に横浜基地で調査解析される。


・ 2日後 横浜基地 PM6:30 地下19F 香月ラボ


「はい先生、報告書上がりました・・・」
「遅いわね~ アンタ以外の面子は昨日のうちに出してたわよ?」

 他の207メンバーより一段と厚い報告書を、武は一足遅れでそれを夕呼に提出する。 成り行きから悠陽を同乗し、更にはVRへ乗り換えという前代未聞な事を成し遂げてしまったのだ。 それ故にまとめる報告の量も山ほどあり、時間内に完成せずにこうして深々と頭を下げながら提出する事は仕方の無い事だった。 一段落したところで、武は自分と悠陽を狙った未確認機について夕呼に問いかける。

「そう言えば、たまと早峰さんが落とした機体について、何か分かりましたか?」
「幸いにも、回収した残骸の大半が原形をとどめていたから調査は捗ったわ。 もっとも、あのメガネ君が色々やってくれたお陰だけどね」

 そうして夕呼はプロジェクターとスクリーンを用意し、未確認機に付いての説明を始めた。 映し出されたデータの殆どが、ケイイチが編集したものだった。

「コレがアンタと殿下を襲っていた戦術機よ。 ご丁寧にメガネ君、SR-71“ブラックバード”という名前まで付けちゃったみたいね」

 CG処理で復元された黒い戦術機に付けられたその名前は、武が居た元の世界ではアメリカ軍の超音速偵察機の名前であった事は、尊人から聞いた話から朧気に知っていた。

「最大の特徴はこの馬鹿みたいに大型の跳躍ユニットよ。 機体を構成するチタン合金製の装甲もあって、SR-71は桁違いの機動性と航行能力を持つとされているわ。
 加えて表面にF-22のそれより上質なステルス塗料が塗布されているの。 榊の吹雪が装備する索敵システムがあの時一発で補足出来たのは、正に奇跡に近いわね」
「サギサワ大尉達も気付かなかった訳だ・・・ それで、何処の所属なんです?」
「乗っていた衛士が死んじゃっていたから聞き出しようが無いけど、あたしには心当たりが大有りね・・・」

 苦い表情をしながらため息を付く夕呼を見て、武はこの事件の黒幕は米国内に巣食うオルタネイティヴⅤ派の仕業であると気付く。
 沙霧のクーデターをいち早く察知した連中はそれを利用し、日本が主導して行うオルタネイティヴⅣを阻止するつもりだったのだろう。 それなら悠陽と自分を襲ったハンター2や、このSR-71の事も説明が付く。

「それに、機体は米国のロックウィード社製だって事も、あのメガネ君が解析しちゃったしね~」
「そ、そこまで突き止めちゃったんですかあの人!?」
「『平行世界を渡れるほどの技術レベルを持つ僕らを舐めないで頂きたい!』とムキになっちゃって、まだまだあいつもアンタと同じ子供ね~」

 データを渡された時に言われた台詞を彼の口調を真似して言った後、夕呼は武を見ながらニヤニヤと笑う。 彼女も彼女で、こちらの勢力を伸ばす良い交渉材料が出来たと喜んでいるのだろう。 
無論、向こうも素直に認めようとはしないだろうが、敵に回せば恐ろしい以外の何者でもない交渉能力を持つ夕呼ならば、それ位の障害は切り抜けて見せるだろうと武は思った。

「もう行きなさい。 皆と夕飯、待ち合わせてるんでしょ?」
「はい! 白銀特務中尉、報告書提出完了! 仲間達の夕食へ合流します!」

 もう用済みだと掌をひらひらさせる夕呼に、武はビシッとした態度で挨拶を交わした後に部屋を後にする。 彼の去る姿を、夕呼は羨ましそうな表情で見ていた事に、武は気付くことは無かった。

次回に続く・・・


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