・ PM15:48 神奈川県箱根町 芦ノ湖 箱根関所周辺
「00より各機、関所跡に指揮所の設営を完了した。 以降は白銀中尉の指示に従って、警備任務を開始せよ」
「01了解。 というわけで皆、気を引き締めて行こう!」
『了解!』
美しい紅色や黄色に染まり始めた箱根の山々と湖をバックに、武、冥夜、慧、千鶴、美琴、壬姫、そしてまりもと、207B分隊の面々が塔ヶ島城の周辺警備の為に展開している。 指揮所でまりもが状況の把握と情報収集を行っている間、武達が周辺の警備を行うという流れだ。
見渡す限りの紅が広がっている幻想的な風景に武が魅了されている中、彼に秘匿回線経由で冥夜が話しかける。
「なんだ冥夜か。 秘匿回線まで使って、そうまでして俺に話がしたくなってきたとか?」
「こ、このような時に浮付いた事を申すでない! それよりサギサワ大尉達は何処へ向ったのだ? そなたなら何か知っていると思ってな」
「ああ、サギサワ大尉と苗村さん達なら・・・」
自分の言った軽口に怒る冥夜を見て、武の口元が思わず綻ぶ。 だが何時までもそのような態度をされては困ると、武は冥夜に説明を始めた。
関所前から207小隊と別れた孝弘達は武達がいる場所より北にある、箱根神社の本宮で身を潜めているという。 そしてケイイチはその中間に位置する湖に着水し、武達との中継役を担っている。
2度に渡る厚木での戦いを目の当たりにし、沙霧達がVRの戦闘力に少なからず興味を持った事は確かだろう。 そして将軍家縁の地に足を踏み込んでいるとなれば、彼らにどのような刺激を与えるか分からない。
その為武達を前面に展開させ、何かあった時には孝弘達が彼らの援護に乗り出すことが、出撃直前のブリーフィングで決められていた。
「皆、今回の件と初陣で相当参っている、このまま悪化する事が無いと良いのだが・・・」
「そうだと良いけどな。 この事件、早々に終わらない気がするんだ」
そう語る冥夜の重苦しく寂しげな表情に、只ならぬ雰囲気を感じる武。 そしてこの箱根にて、武にとって2度目となる大きな出会いが待ち受けていた。
マブラヴ 壊れかけたドアの向こう
#15 親縁
・ PM16:04 芦ノ湖沿岸 箱根神社本宮 境内
「厚木の方は大活躍したってのに、俺達は蚊帳の外か~?」
「所詮私達はここでは厄介者ってことよ。 これ以上VRが暴れまわって、この世界の人々がいつまでもニコニコしていられると思う?」
「それはそうだけどよ・・・」
夕暮れの赤に染まりかけている空の下、神社の境内にパイロットスーツ姿の桜花と佑哉の姿があった。 乗機である御巫と震電は近くの茂みに駐機状態で隠してあり、ここに居ない孝弘と美雪はVRで周囲の索敵警備を行なっている。
護身用の89式カービンの安全装置をチェックした後、桜花はまだ準備中でいる佑哉に声をかける。
「ここは苗村君達に任せて、私達は徒歩で湖沿いを見回りましょう」
「あ、待てよ桜花! 置いてくな~!」
そそくさと境内を後にする桜花に気付き、慌てて彼女の後を追いかける佑哉。 ようやく遊歩道を歩く彼女の元まで追い付いた時には、芦ノ湖の湖畔が目の前に迫っていた。
対岸や草木の茂みに気を配りながら、桜花はHMD内蔵ヘルメットに備わっているインカムで武達を呼ぶ。
「リーフ4より207001へ。 リーフ3と共に湖畔を徒歩で警戒中、そっちの様子はどう?」
「こちら白銀。 今は何も無いですね、ローテーションで休憩と警備をやってます」
「そう。 そっちまで歩いていく予定だから、付いたらお茶でも用意してね」
「了解っ! 神宮司中尉にも伝えておきます!」
観光名所なのに、何故こうも気分が優れないのか。 武との通信を終えた桜花は、不快に感じながら遊歩道を歩いて行く。 すると
「なあ桜花、さっきの話の続きなんだけどよ・・・」
「何・・・? まだ同じ事を蒸し返すつもりなの?」
無駄にドスの効いた桜花の声を聞いて、佑哉は彼女がえらく機嫌を損ねている事にようやく気付く。 自分がつくづく鈍感だということに、佑哉は今更になって後悔の念に晒される。
こうなったら彼女のイライラが治まるまで待つしかない、そう思いながら桜花の後を歩いていると唐突に彼女の方から話しかけて来た。
「ねえ佑哉。 今回の出撃、あんたはどう思う?」
「別になんとも思ってねえよ。 今の俺達はこの世界の横浜基地に居候している身で、彼らの要請があれば協力するだけさ」
「一宿一飯の恩義って奴か。 あんたらしいわね」
本当に佑哉は単純な奴だなと思う一方で、桜花は自分達の置かれた立場について考えていた。 仮にクーデター側がここを襲撃したとして、武達を守る為に自分達が行動すれば、日本政府から派遣されたエージェントを危険に晒すかもしれない。 だからと言ってそのタイミングで行動をしなかったら、武達の方に危害が及ぶことになる。
「私達って、もう白銀君達にとって邪魔者なのかな・・・?」
二者択一の選択を迫られた時、自分はそれを即座に選べるのだろうか。 そして自分たちは出撃して本当に正しかったのかと桜花が考えを巡らせていたその時、再び武から連絡が入る。
「01よりリーフ4へ。 俺も遊歩道沿いを散策してみます、そっちで落ち合いましょう」
「分かったわ。 何かあったら直ぐにサギサワ大尉か、神宮司中尉に報告よ。 良いわね?」
「了解!」
関所までの道のりはまだ長い。 桜花は先程までの疑念を振り払い、落ち葉の絨毯が敷き詰められた遊歩道を進んで行った。
「(くそっ! こんな事している場合じゃないのに・・・!)」
国連支給のライフル片手に、武は焦る気持ちを必死で抑えながら遊歩道を早歩きで進んでいた。 人類一丸となってBETAと戦っているこのご時世に、何故クーデター等と言う人間同士の争いが起こってしまうのか、武には全く理解出来ずにいた。
一歩進むたびにガサガサと枯葉を踏む音を立てながら歩く中、武は部隊内に漂う異質な雰囲気の事を思い出していた。
「(冥夜もそうだったけど、何処かみんなの態度がおかしかったな・・・)」
父親の身を案じている千鶴は勿論だが、国連職員である父を持つ壬姫、さらには一見関係していなさそうな冥夜や慧までもそわそわして落ち着きが無い様子だったのだ。
このような事態の影響で彼女達が動揺しているのならそれでいいのだが、理由はそれだけではないらしい。 武がそれを聞こうにも、話題を切り出す糸口が見出せず仕舞いなのだ。 どうやって聞き出そうかと考えている所に、ケイイチから通信が入る。
「白銀君、ちょっと良いかい?」
「何かあったんですか?サギサワ大尉」
「何も無いと言うと嘘になるね。 さっき君と花月君達がいる中間地点、その森の中に生体反応が2つほどあるんだ」
ケイイチがそう知らせた直後、識別不明を表す黄色の光点が2つ表示されたレーダーマップが網膜に映し出される。 詳しい話によると、神社で待機していた美雪の八雲が搭載する広範囲センサーが検出。 データリンクを通じて榊機と情報処理を分担して分析してみたら、そのような結果が出たとケイイチは話す。
周囲は自分達しかいないこのエリアに、侵入者がいる事を知った武はより警戒心を高める。
「迷い込んだ民間人の可能性もあるし、クーデター派の兵士が破壊工作を仕掛けているのかもしれない。 向こうの2人と合流して、見てきてもらえるかい?」
「了解!」
ケイイチの頼みに復唱した後、武は足早に網膜ディスプレイが指し示しているポイントへ向う。 自分を指し示す緑のポインターと徐々に近付き、あと数分で接触する所で武は遊歩道に立つ人らしき物体を見つける。
「(やっぱりいた!) こちら01、遊歩道に不審者を一人発見。 どうぞ」
向こうに気付かれないように茂みに身を潜め、小声で現在の状況をまりも達に報告する。 遊歩道の向こう側から来る佑哉と桜花の連絡を待つ間、武は用意しておいた双眼鏡を用意し、遊歩道に佇む不審者を観察することにした。
「(冥夜!? いや待て、冥夜はさっきまで俺と話していた筈だ。 じゃああの人は・・・?)」
双眼鏡のレンズ越しに見える女性の姿に、武はゴクリと生唾を飲み込む。 不審者とは到底思えぬその優美な佇まい。 湖の水面を悲しげに見つめる瞳。 後頭部で結っているものの、腰まで届くであろう深紫色の頭髪。
何よりその女性は、今部隊で行動を共にする御剣冥夜にそっくりなのだ。 これが噂のドッベルゲンガーかと武が思っていると、その女性にスーツ姿の男が近づき何やら話を始めた。
「これで本当に、帝都での戦闘は収まるのでしょうか? 鎧衣」
「はい。 今頃血眼になって、殿下を探しているでしょう。 後は・・・」
「後は椿さん達が、時間稼ぎをしてくれるかどうかですね・・・」
草木の茂みに隠れながら耳をすませる武は、会話の内容を必死で解読していた。 所々に帝都やクーデター派といった用語が聞こえるのだが、具体的にどのような話題を話しているのか皆目見当がつかない。
合流する前に、身柄を押さえておくかと武が思っていたその時だった。
「何時までも隠れて盗み聞きは良くないな、シロガネタケル」
「げっ! 見付かった!?」
突然こちらに向けて声をかけてくる左近に対し、武はギョッとした表情で彼を見る。 彼女に付き添っている護衛の割にはさっぱりし過ぎな態度。 そして左近が放つ雰囲気に武は心当たりがあった。
観念して姿を現した武に、左近は自慢の帽子をかぶり直しながら答える。
「私の娘が世話になっているね。 いや息子だったかな?」
「やっぱり、あなたは美琴の親父さんか」
「ご名答。 私は帝国情報省所属の鎧衣左近だ。 そしてこちらは日本帝国征夷大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
「えっ・・・」
左近の紹介に対し、仮にも帝国の実質的なトップが、どうしてここに居るのかと武は思わず目を疑った。 そして冥夜と瓜二つの少女がそのような役職についている疑問に対し、武は1つだけ自信を持てて言える答えがあった。
『冥夜にはね、双子のお姉さんがいたんだって。 でもお姉さんが事故でなくなって、それで冥夜が御剣家の当主候補に・・・』
記憶の奥底から蘇る、窓越しで聞いた純夏の言葉。 この世界に存在する人物は、その殆んどが元の世界と同じだ。 そして純夏の話を信じるならば、目の前に立つ征夷大将軍こそが、冥夜の双子の姉という事になる。
果たして冥夜にこの事を伝えるべきか悩んでいる最中、遊歩道の反対側からようやく桜花と佑哉が合流する。
「白銀君~!」
武の元に駆けつける2人もこの状況に気付いたらしく、構えていた銃を下ろして近付いてくる。 そして武が事情を説明した後、空いている手を腰に当てながら桜花やれやれと悟った顔で言う。
「どうやら私達、とてつもない当たりくじを引いちゃったみたいね」
「それとも、とんでもねえハズレくじか?」
「ふふふ・・・ 果たして私達はどちらなんだろうねぇ?」
佑哉に続いて、左近も桜花に相槌を返す。 それを見た悠陽は口元を押さえながら微笑み、武もホッと一安心と肩の力を抜いた。
「祐哉は神社に戻って、苗村君達にこの事を伝えて、私が白銀君と一緒に2人を指揮所に連れて行くわ」
「ああ、俺は頭使うの苦手だからな、頼んだぜ!」
状況を完全に読み取った桜花は、武と後ろにいる祐哉に指示を出す。 元来た道を一人さびしく戻って行く祐哉を後に、武と桜花は左近と悠陽を連れて関所へ向かった。
・ PM16:28箱根関所 指揮所
「では鎧衣課長、現在帝都で起こっている小競り合いは、もうすぐ収まると?」
「ええ。 今頃は決起派と帝国軍、斯衛軍が三つ巴になって各地の離宮へ向かっているはずです」
関所に設置された仮説テントの中でそう訪ねるまりもに、落ち着いた様子で左近が答える。 クーデター派の狙いはここにいる悠陽であり、将軍である彼女の意向が政府に反映されていないという事実に、それを憂いた者達が立ち上がったというのが、今回起きてしまったクーデターの原因でもある。
帝都城の堀を挟んで睨み合っていた決起軍と斯衛軍との間で小規模の小競り合いが始まったのをきっかけに、帝都各地で戦術機や機甲部隊まで用いた戦闘が散発的に行われている。 そのターゲットが悠陽である以上、城に留まっていたら街と民衆にも被害が及ぶ事になる。
そこで悠陽は左近と共に、この箱根にある塔ヶ島城まで脱出したというのだ。 武と桜花がそのやり取りを見守る中、卓上に敷かれた地図を眺めていた左近の口が開く。
「これは殿下の頼みでもあるのでね。 民を戦いに巻き込ませたくないという願いから、私が情報を流したんですよ」
「そうですか、それで殿下自ら囮役を・・・ 鎧衣課長、我々は今後どのように動けばいいのですか?」
国連軍の参加に対し、臨時政府が提示した条件は将軍の絶対な安全の確保。 その目標がここにいる以上、自分達はどの様に動けばいいのかを、彼女を連れてきた左近に聞くというのが筋だというものだ。
左近は『う~ん』とあからさまに考えるような仕草をした後、武達に今後の方針を伝える。
「私はこの後、やらなくてはならない事があるのでね。 神宮司中尉、あなた方は殿下ともに安全な場所へ避難していただきたい」
「鎧衣さん、その場所に心当たりは?」
「いけないなあ白銀君、君は聞けば何でも答えが返ってくると思っているのかい?」
やはり横浜基地へ護送するべきだろうか? だがそうなるとここへ向かっているクーデター部隊や帝国軍、さらにはどさくさ紛れに介入している米軍との戦闘に巻き込まれる危険性がある。
厚木基地も董達による鉄壁の守りが維持されているとはいえ、何時また襲撃を受けるか分からないという状況だ。 候補地がことごとく消され、途方に暮れていた武の脳裏にひとつの明暗が浮かび上がる。
「フィルノート・・・! あそこに行けば!」
確かに江ノ島から部隊を展開させている異世界の艦船なら、沙霧らの追撃にあっても撃退可能な戦力を持っているだろう。
それに、背後で色々と企んでいるであろう米国の思惑通りにさせない効果もある。 武の提案に誰もが賛成かと思っていたその時、今まで後ろで話を聞いていた桜花が割って入る。
「確かにその案には私も賛成するわ。 煌武院殿下、貴女はそれで納得しますか?」
「私は・・・」
初めて桜花を見たときもそうだったが、彼女の顔は帝都城にいる秋月椿によく似ていると悠陽は思った。 髪の長さは2人とも共通しているが、桜花は桜色、椿は緋色と髪の色は明らかに異なる。
そして雅で穏やかな性格だった椿に対し、目の前にいる桜花は将軍である悠陽に対してもハッキリと自分の主張を通す性格のようだ。 まるでコインの裏表のような違和感に戸惑いながらも、悠陽は己の責務を全うするため桜花の問いに答える。
「私が不甲斐ないばかりにあなた方を、このような争いに巻き込ませてしまった事には本当に申し訳なく思っています。
ですが私も鎧衣と同じく、己に課せられた使命を成し遂げなければなりません。 花月さん、この私に力を貸してくれますか?」
戦場に自らの身を晒すことで、沙霧ら決起軍を説得する。 それが今の悠陽に課せられた指名。 人類同士の愚かな争いを止め、仇成すBETAに立ち向かう為に。 それを聞いた桜花は、胸の支えが取れたかのように、ほっと息を吐く。
「それを聞いて安心したわ、疑いながら護衛するのは不快以外の何者でもないですから」
そう言って微笑む桜花を見て、緊張の糸が解れた悠陽が微笑むのを切っ掛けに、テント内が笑いに包まれる。
「そうと決まれば話は早いね。 では、殿下をよろしく頼むよ」
「「「はいっ!」」」
そして左近の一言を合図に、悠陽護送作戦の火蓋は切って落とされた。
・ PM20:04 箱根関所
「すみません。 戦術機は本来一人乗りだから、こうでもしないと殿下を乗せられないんです」
「構いません白銀、今の私は荷物と同じ。 気遣う必要はありません」
そう悠陽に言われながら、武は緊張した面持ちで彼女を固定しているハーネスの締め付けを調整する。 仮にも一国家の最高権力者・・・所謂ボス、首領と呼ばれるべき人物を吹雪の管制ユニットに同乗させているのだ。
いくら本人から気遣いなど不要と言われてもどだい無理な話だと、武は心の中で突っ込みを入れる。 締め過ぎず緩め過ぎずと四苦八苦している内に、まりもから声がかかる。
「どうだ白銀、殿下の様子はどうだ?」
「はい。 今、酔い止めの薬を飲んでいただいているところです」
強化装備も着ていない悠陽にとって、跳躍するだけでも体に負担が掛かる。 加えて戦術機は恐ろしく乗り心地の悪い乗り物だ。 効果が有るかどうかはわからないが、酔い止めの薬を飲んで置いた方が足しに成ると思い、武は悠陽に酔い止めを渡したのだった。
一通り服用が終わったところで、今後の予定についてのブリーフィングをメンバー全員で行う。
「厚木基地の救援が一段楽して、現在フィルノートは沿岸部を移動中だよ」
「じゃあ、俺達はそこまで移動する必要がありますね」
武の言葉に、網膜ウインドウに映るケイイチが頷く。 事情を把握したフィルノート艦長のシュバルツは、厚木は菫達に任せて悠陽の収容を快く引き受けた。 無論横浜基地にもこの事が伝えられ、夕呼の自信満々な説得により臨時政府は悠陽のフィルノート収容を承諾したという。
「(以外にアッサリ決まったな。 やっぱり夕呼先生が絡んでいるのか・・・?)」
クーデターの魔の手から悠陽を救出し、この世界の人々に対し自分達が味方だと言う事を改めて提示する。 それが夕呼やシュバルツの狙いであり、アメリカやオルタネイティヴ5派を牽制する意味もあるのだろう。
それにしてもこの短時間でそれだけの仕事をこなす夕呼に、武はつくづく感心していた。
「そうなると白銀機を護衛しながら、母艦が指定するポイントに移動する。 この流れであっていますか?」
「大正解だよ榊君。 そして追撃してくるクーデター部隊は、出来るだけ相手にしないでね」
「『彼らに集中するあまり、タケ・・・白銀中尉の護衛に専念出来なくなる』という事ですか?」
続いて質問してくる冥夜にも、ケイイチは正解だよと微笑みを返す。 作戦の流れを皆で確かめ合い、自分の役割と目的を頭に叩き込む。 そうする事で単独行動に陥った場合でも、自分を見失わずに任務を続けることが出来るという菫の教えを、武はこのブリーフィングで実践していた。
続いてまりもが、各々のポジションについて冥夜達に説明をする。
「作戦開始以降は、白銀機を中心に円周防御で行動。 榊は白銀の後ろに追随して索敵と電子戦を担当だ」
「はい!」
「御剣と彩峰は前方側面を、珠瀬と鎧衣は後方側面を担当しろ」
「「了解」」
「「了解っ!」」
そしてまりも機は白銀機の前に位置し、彼の補佐と陣頭指揮を行う。 フィルノートまで送り届けるまで確実に自分を守ってくれる、的確なポジション配置だと武は感心する。
「僕は皆の上空を飛んで情報管制、苗村君達は各ポジションのサポートでどうだい?」
「それは賛成だけど、誰がどこのサポートをするんだ?」
「じゃあ、私からリクエスト良いですか?」
ケイイチが出した提案に、誰よりも早く飛び付いたのは壬姫だった。 今回の出撃において誰よりも不安な面持ちでいた彼女だけに、孝弘達のサポートを何より欲しているのだろう。
断られたら即泣き出しそうな目をしている壬姫に、美雪が声をかける。
「じゃあ、鎧衣さんと珠瀬さんのサポートは私がやるわ。 2人でデータリンクを行えば、狙撃精度も上がりそうだしね」
「あっ、ありがとうございます!」
美雪が後方のサポートに事に、壬姫は素直に感謝の言葉を述べる。 珠瀬機には87式支援突撃砲を改造した電磁速射砲を装備しており、加えて頭部ユニットには狙撃用の高精度スコープを搭載している。 彼女達の狙撃があれば、簡単に近づくことは出来ないはずだ。
後ろの守りが決まったことをきっかけに、佑哉が慧を担当し、桜花は冥夜を、そして孝弘は千鶴と武のサポートをする事が足早に決まる。 そして出発直前、武が皆に向けて訓示を述べる。
「皆! 殿下をフィルノートに送り届けて、誰一人欠けることなく横浜基地へ・・・皆で柊町に帰ろう!」
『了解!』
気合のこもった全員の復唱とともに、7機の戦術機と5機のVRが伊豆を目指して発進した。