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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第12話-懐疑-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/28 21:08
・ 7月31日 AM9:47 横浜基地 シミュレータルーム


「チェックポイント2、クリア。 マイナス0.2セカンド」

 レシーバーから聞こえるピアティフ中尉のアナウンスに、シミュレータ筐体の中にいるまりもは思わず口元を緩ませる。 網膜ディスプレイには仮想空間に作られた市街地フィールドが広がり、その至る所に数多くの球体・・・練習用の標的機(ドローン)が浮かぶ。
 そしてドローンの攻撃圏内にまりも機が入ったかと思うと、先ほどまでフワフワ浮いていたドローン達が一斉に襲い掛かってくる。 あるドローンは馬鹿正直に銃撃を浴びせかけ、あるドローンは徒党を組んで体当たりを行なう。

「やはり的は的だな、単調すぎてつまらん!」

 そう吐き捨て、ドローンの群れに突っ込むまりも機。 突貫するドローンはフルオート改造型の支援突撃砲で撃墜し、銃撃に対しては急加速と制動を駆使した小刻みな機動で回避。 それを繰り返しているうちに、周囲のドローンはあらかた片付けた。
 索敵を行ないながら前進するまりもの顔に、脂汗がにじみ出ていた。

「(反応が過敏すぎる。 本当にこいつは第1世代機か!?)」

 一見すると撃震とよく似た、第1世代戦術機特有の鈍重なシルエットを持つまりもの機体。 だが機体各所や頭部に“尖り”が入ったデザインをしており、腰部に装着されたプラズマジェットエンジンが、第1世代機とは思えない機動性をその機体に与えている。
 F-4JE2 『銀鶏(ぎんけい)』。 それがシミュレータの中でまりもが操る戦術機の名前だ。 人類初の戦術機F-4『ファントム』、その帝国斯衛軍仕様である『瑞鶴』に、電脳暦世界の技術を融合した初めての戦術機でもある。
 とはいえ銀鶏はシミュレータ内のみ存在する機体であり、現役時代から乗り親しんだ撃震との性能差に、まりもは跳躍ユニットと機体動作の敏感さを手懐けるだけで手一杯の状態だ。 そんな最中、ピアティフとは別にケイイチがまりもに向ってアナウンスする。

「ドローンとのお遊びはここまで。 次はこれを相手してもらうよ、神宮司軍曹」
「了解。 っ、これは・・・!」

 周りに居たドローン達が突然消え失せたかと思うと、新たに2機の敵影がレーダーに映し出される。 赤く輝く光点の隣に表示される形式番号を見た瞬間、まりもは息を飲む。 ケイイチが転送した2機の機体、それは戦術機ではなくVRだったからだ。
SAV-07-D ベルグドルとMBV-04-10/80 テン・エイティ。 かつてのDNAにおいて普及していた第1世代VRであり、それぞれライデンとテムジンの簡易量産型と言うべき機体である。 この間行なわれた市街地模擬戦のようにリミッターを付与していると思うが、それでも戦術機である銀鶴で相手になるのか、まりもは一抹の不安を感じていた。
 テン・エイティが銀鶏と距離を詰め、後方のベルグドルはそれを援護する為にナパームボムを投擲し、右手に持つグレネードガンを連射して来る。

「(典型的なフォーメーション、なら付け入る隙はある!)」

 まりもはナパームの爆炎とグレネードの弾幕を掻い潜りながら突撃砲を乱射、後方にいるベルグドルにこれ以上射撃をさせまいとする。 ここで接近してくるテン・エイティがボムを投げつけ、弾丸を相殺することでベルグドルを援護する。
 そして近接レンジに入ったテン・エイティは、右手のビームガンにビームソードを形成し、銀鶏の機体に斬りかかろうとする。

「ちっ!」

 まりもは装備兵装から短刀を選択、右肘のナイフシースから取り出しそれを左手に構える。 勢いに任せ、ビームソードを振り下ろすテン・エイティ。 そして互いの刃が交わった瞬間、ビームの超高温によって短刀に施された対ビームコーティング剤がプラズマ化し、辺りには閃光に包まれる。

「(このままでは後方の奴に狙い撃ちにされる、どうすれば・・・!)」

この状態もそう長くは持たないと悟ったまりもは、何か打つ手は無いのかと模索する。 すると、火器管制コンソールに見知らぬ言葉があった。

「オーバー、ウエポン・・・?」

 コンソールの片隅に書かれた文字を、まりもはつぶやくように読み上げる。 この機体に装備された機能なのだろうか?それとも兵装なのだろうか? 得体の知れない存在がこの機体に宿っているということに不安を覚える彼女だったが、今はそのような考えをしていられない。
 視線でコンソールを操作し、まりもはその機能を発動させる。

「えっ・・・?」

 一瞬何が起こったか、まりもは理解するまでに数秒の時間を要した。 銀鶏が握っていた短刀の刃から光が溢れ、テン・エイティのソードを互角に受け止めているではないか。 どういったカラクリかは知らないが、チャンスは今しかない。
 光り輝く短刀で敵機のソードを払い、反動でよろめくテン・エイティの首筋に一気に突き立てる。
 おそらくコクピットブロックにまで貫通したのだろう、数秒もがいた後にテン・エイティの機体はその機能を停止。 シミュレータ内とはいえ始めて戦術機でVRを撃破したことに、まりもは驚きを隠せなかった。
 残りは後方に居るベルグドルただ1機。 相方が撃破されたと知るや、両肩の大型ランチャーからミサイルを放ってくる。

「電気冷蔵庫風情が・・・」

 ベルグドルは機動性もそれほど良くは無く、近接攻撃方法は殴り合いをする以外無いに等しい。 何より頭部の火器管制ユニットと、両肩にミサイルランチャーを担いでいるのでとても安定性が悪い。
 このため常に集団で行動して火力で圧倒する他、テムジン等のMBVの支援役として後方にいる必要があるが、今回は運が悪かった。 跳躍ユニットのノズルからプラズマ化した推進剤を噴出させながら、まりもの銀鶏がベルグドルに迫る。

「私の道を阻むな!」

 袈裟斬りにされたベルグドルが、断末魔の火花を散らしながら仮想空間の地に伏した。

マブラヴ ~壊れかけたドアの向こう~
#12 懐疑


「お疲れ様~。 いいデータが取れたよ軍曹~」
「(間違いない。 彼は夕呼と同じだわ・・・)」

 シミュレータプログラムを終えて筐体から降りるまりもに、ケイイチが満面の笑みを浮かべながら近付く。 対して先ほどからのシミュレータ漬けで疲労の色が隠せないでいる彼女は、彼の無邪気な笑顔を見て溜息を付いた。
 他人をホイホイと使い倒すケイイチの言動と性格に、ふと腐れ縁である夕呼の高笑いする様がまりもの脳裏を過ぎる。

「さて大尉、あの戦術機について色々教えてもらいましょうか?」
「わかりました。 種明かしとかはもっと後にしようと思いましたが・・・」

 これ以上機嫌を損ねて協力を拒否されては困ると思ったのか、ケイイチはまりもにシミュレータの機体について話し出す。
銀鶴は他の戦術機には無い、特殊な機能と装備を2つ持ち合わせている。 1つは開発中の次世代OS『XM1』と、跳躍ユニットの換装による機動性の向上と操縦性の柔軟さ。 そしてもう一つが、『オーバー・ウエポン』と呼ばれる特殊攻撃能力だ。
 通常、戦術機に搭載されている跳躍ユニットは、短距離の加速にはロケットエンジンを、長距離の跳躍・飛行にはジェットエンジンを用いるハイブリット方式だ。 この場合、速度が変化した時に動作させるエンジンの切り替えラグが生じてしまう。
 そこで銀鶏では、そうしたラグを無くすために噴射速度やタイミングを自由に調節出来る電気推進ユニット、俗にアークジェットやプラズマジェットエンジンと言われる推進装置に換装されているのだ。
 吸入した空気と水素を混合した所に放電する事でプラズマ化させ、それをノズルから噴出させることで推進力を得るという仕組みだ。

「元々宇宙機用の推進システムなんですが、僕らの世界ではジェットエンジンのノウハウを加えた大気圏内用の物も実用化されているんですよ」
「元は宇宙用? ならユニットを換装すれば、戦術機は宇宙でも運用が出来るのですか?」
「将来的にはそうなりますね。 といっても当面は、地球上での戦いがメインになりますが」

 航空宇宙に関わる技術でも、異世界ではそこまでのレベルに達しているのかと痛感するまりも。 そして彼女は銀鶏に関わるもう一つの要素についてケイイチに質問する。

「サギサワ大尉、『オーバー・ウエポン』とはどのようなシステムですか?」
「平たく言えば『火事場の馬鹿力』を、戦術機で再現してみたって感じです」
「はあ、馬鹿力・・・ですか?」

 人差し指をこめかみに押し当てて考え込むまりもに、ケイイチは更に説明を行なう。 戦術機の動力源は燃料電池ユニット、水素と酸素を化学反応させ電気エネルギーを取り出す装置だ。
 それらの反応を強制的に促進させ、その時に発生したエネルギーで武装を強化させるシステムが『オーバー・ウエポン(OW)』であるとケイイチは話した。

「実際に軍曹がシミュレータで使ったナイフもそうですが、支援突撃砲もOW発動中はリニアガンになって威力が増します」
「確かに、支援突撃砲とは違う銃身の形状でしたね」
「ただし、対応した武装を装備しないとその能力を発揮できないのと、専用の動力ユニットへの換装や使用時の負荷の高さからあまり乱用できないのが難点ですけどね」
「それでも今の人類には必要な力です。 この機体も、あの子達が作るOSも・・・」

 必ず207の少女達を一人前の衛士に育てる、モニターに映る銀鶏の機体を眺めるながら、まりもは嘗ての戦友達に思いを馳せていた。


・ AM10:37 横浜基地 戦術機ハンガー


「うわぁ~! ボク達の吹雪、さっそく改造作業が始まってるよ!」
「私の吹雪は長刀が最大3本装備可能、榊の吹雪は索敵と情報処理重視か・・・」
「当然ね、私達のそれぞれの技能を元に改造されているのだから」
「・・・榊が地獄耳になった」

 そうボソリと小言で呟く慧に気付き、千鶴は彼女に向って物凄い形相で禍々しい念を注ぐ。 ハンガーでは冥夜達207B分隊が駆る吹雪各機の改造作業が着々と行なわれ、彼女達は着座調整や細かいコンディションの注文に訪れているのだ。
 開発中の新OS『XM1』の能力も相まって、機体性能は通常機より最大40%向上すると夕呼から聞かされた彼女達は驚愕した。
 そしてもうすぐ、その機体を自分の手で動かせる。 そう思うと武でなくてもワクワクしてくるものだ。 そんな彼女達の元に、作業に立ち会うためにハンガーを訪れた武とケイイチが現れる。

「約束の時間じゃないのにもう来てるなんて、やっぱり吹雪の事が気になるか?」
「じゃあ白銀君、僕は現場監督してくるから後はよろしくね」

 そういい残し整備スタッフの元へ向うケイイチ、残った武は冥夜達に今後のスケジュールについて話し始めた。

「さて、お前ら207B分隊の吹雪が、搭乗する衛士それぞれの技能に基づいて改造される事は知っているはずだな?」
『はい!』

 武の問いに、はっきりとした返事を返すB分隊の少女たち。 武の言うとおり、衛士それぞれの技能を生かした装備が、ケイイチの指示の元取り付けられている最中だ。

-チームを取りまとめる千鶴機は、センサー類を満載した頭部ユニットとシールドにもなるレドーム。
-長刀による近接戦闘を得意とする冥夜機には、左腕に長刀を収納できる大型シース。
-肉弾戦を得意とする慧機には、関節部の強化と腕部内蔵型ビームソード。
-状況判断と行動に優れる美琴機には、機体各所にワイヤーアンカーとマチェット。
-天才的な狙撃技能を持つ壬姫機には、高精度のFCSと頭部の狙撃スコープ。

 それぞれの得意とする戦法や距離に会わせた装備やセッティングをまりもや武が考案し、ケイイチに夕呼が武器の設計を担当し、それが現実の物となってハンガーで形作られている最中だ。

「ただ改造した場合、各機体の癖や弱点が一段と強く出ることになる。 つまり・・・」
「更に、衛士同士の連携が求められるわけですね?」
「ああ。 だから今後の訓練は一層厳しくなるぞ、覚悟しておけよ?」

 武の忠告に、力強く答える壬姫。 改造にあたってB分隊が選ばれた理由、それは単に性能強化だけではなく、武が言った部隊連携の向上も狙っているのだ。
 B分隊の連携度はA分隊のそれに及ばない。 だが前の説教タイムの影響で改善はしているし、今回の改造吹雪が更なる促進となるだろうと武は期待しているのだ。

「そういえば御剣、ハンガーの一番奥の機体。 アレには乗らないのか?」

 そう武に言われ、冥夜は陰気な面持ちでハンガーの奥を見る。 そこには紫の光沢が鈍く輝く、異形の戦術機が鎮座していた。
 タイプ00R、 零式戦術歩行戦闘機『武御雷』。 帝国軍と独立し、将軍家の護衛を担う斯衛軍が運用する特別仕様機。 その近接攻撃能力と機動力は、他国のそれを圧倒する性能を持つ。 そんな希少価値の高い機体が、国連軍基地に搬送されたのか。 何を隠そうこの武御雷、冥夜のために送られてきたというのだ。
 だが当の本人はそれに乗る事を拒み、改造した吹雪に搭乗する事を選んだ。 訓練生なのだからそうした計らいは要らないのかと武が考えている最中、孝弘達『リーフ・ストライカーズ』の面々がハンガーを訪れる。

「やっぱりハンガーはどこの世界も変わらないな。 ケイイチ君が居座る訳だ」
「白銀君、作業は進んでる?」
「サギサワ大尉からは形だけでも付けておくと。 今日中には、皆に調整作業を行なってもらいます」

 珍しそうに改造中の吹雪を眺める孝弘と、美雪へ今後の予定を話す武。 するとそんな彼らを他所に、佑哉が武御雷の存在に気付いた。

「おっ、ハンガーの奥にケイイチさんの資料に載ってた戦術機があるぜ。 確か名前は・・・ブライシン?」

 それを口にした瞬間、佑哉のみぞおちに拳がめり込む。 打ち込んだ瞬間に衝撃波らしき何かが見えるほどのそれを放ったのは、鬼のような形相をしている桜花その人だった。

「アンタねぇ・・・資料にローマ字で読みがな付いてたでしょうが! それ読まないで、何勝手に名前付けてんの? 馬鹿なの?アホなの?
 私の実家が神社なの知ってて言ってるでしょ!? もしかして喧嘩売ってるの!?」

 物凄い剣幕で怒涛の問い詰めを行なう桜花。 その後佑哉は生気の無い表情をしながら、ふらふらした足取りでハンガーから出て行ってしまった。 それでも収まらないのか、桜花はハンガーの隅でホワイトボードを無理やり持ってくると、おもむろに武達に説明を始めた。

「いい!? 武御雷は『建御雷之男神(たけみかづちのかみ)』とも書く日本神話の神様で、雷や武神として茨城県にある鹿島神宮で祀られているの。 他にも・・・」

 他の神話の神との関係図をホワイトボードに書き綴りながら、熱く日本神話について話し続ける桜花に武達は圧倒された。
 しかし調整の時間だとケイイチに呼ばれ、武は恐る恐る声をかける。

「あの~花月さん? そろそろ皆調整に行かなきゃ行けないので、そのへんで・・・」
「あ・・・ ごめんごめん、ついムキになっちゃって。 さあ皆、早く調整作業に行かないと! ねっ!」

 武の呼びかけで我が帰ったのか、赤面しながらB分隊の皆を急かす桜花。 余りの彼女のテンパ具合に孝弘と美雪の二人が声に出さず笑い、冥夜達B分隊の皆も笑いながら、ケイイチの元へ句かって行く。

「(結局、今回も放置みたいだな。 お前・・・)」

ハンガーの天窓から差し込む光できらめく武御雷を眺めながら、武は調整作業を見守っていた。


「今日は調整作業ご苦労だった。 明日は早速実機を動かしてみるらしいので、頑張ってくれ」
『ありがとう御座いました!』

 武の解散の号令と共に、ハンガーを後にするB分隊の少女たち。 既に夕方5時、作業を終えたケイイチや孝弘達もハンガーを去っており、残っているのは武一人だ。
 それぞれの個性に合わせた改造と調整作業を終えた吹雪達を見上げる武の元に、どういう訳なのかハンガーへ戻って来てしまった冥夜が姿を見せる。

「まだハンガーにおられたのですか? 白銀准尉」
「ああ、それにもう5時を回ったし営業時間外だ。 俺のことは呼び捨てでもいいんだぞ?」
「いえ、一応上官ですから。 それより、私の戦術機の事でお話が・・・」
「さっき調整した吹雪に乗るって言いたいんだろ?分かってるよ。 吹雪は人数分搬入してあるし、武御雷に乗ろうがお前の自由だ」

 もう、俺のことをタケルとは読んでくれないのか。 いや、冥夜に限らずクラスメイトだった207招待の皆は自分の事を上官として見てくれている。
 それはそれで嬉しいのだが、武が望んでいたのはもっとありふれた事を笑って話せる対等な関係だ。 あの頃に戻る事は出来ないのか。 寂しさに暮れている武の耳に、また別の声が聞こえてくる。

「遅くなって申し訳御座いません、冥夜様」
「(この声は、まさか・・・!)」
「月詠・・・中尉」

 声がした方向へ武と冥夜の2人が振り向くと、そこには赤い斯衛の装束を着た一人の女性-月詠真那の姿。 そして後ろには彼女の部下である白の斯衛装束を着た神代巽、巴雪乃、戎美凪の3人が立っていた。
 彼女たち4人は“元の世界”では冥夜の身の回りを世話するメイドとして、“前の世界”でも今の状況のようにそれなりの主従関係があるのだという事が見て取れた。

「中尉、私達にどのような用件ですか?」
「冥夜様、斯衛の者はいかなる階級であろうとも、将軍家縁の方々に仕える身。 ですからそのような言葉遣いはお止めください」
「そうです冥夜様!」 「私達は!」 「武御雷搬入の事をお伝えしようとここに来ました!」

 冥夜が会いたくなかったのかそれとも運気が悪かったのか、どうやら月詠達は武御雷搬入後今まで一度も彼女に遭遇した事が無いらしい。
 そして既に吹雪に乗ることを決意した冥夜は、彼女らの説得に耳を貸そうとはしなかった。

「直ぐに搬出いたせ、訓練生の身では改造された吹雪でも荷が重過ぎる。 ましてやあの武御雷では・・・」
「しかし・・・! あの機体は冥夜様の為に送られた物、それを考えた方がどのようなお方か、冥夜様自身が一番良く知っているはずです」

 そう月詠に言われ、冥夜は苦い表情のまま唇を噛み締める。 なにか場を和ませる方法は無いかと武が考えていると、月詠が殺気を放ちながらこちらに近付いてきた。
 冥夜が割って入ろうとするも、神代達によって行く手を阻まれる。

「あ、今度は俺に用ですか? 月詠中尉」
「口を開いて良いと言った覚えは無いが? 白銀武」

 月詠に自分の名を言われた時点で、こりゃあパターン入ったなと武は悟る。 どうやらこの世界の白銀武も死んでいるらしく、それなのに自分がこの横浜基地にいるという事実に、月詠が不振がるのも無理は無い。
 今回も『死人が何故ここにいる』と追求されるかと思っていた武だったが、全く見当違いの言葉が彼の耳に入ってくる。

「事情は情報省の者から聞かされている。 貴様は私の範疇では理解できない場所、異界から来たそうだな?」
「はい、ですから俺はこの世界の俺・・・白銀武ではありません」
「どうやら本当らしいな、だが私は貴様を完全に信用した訳ではない。 それを忘れるな」

 月詠の忠告に、最低限の返事を返す武。 どちらかというとカタブツな彼女に、これ以上の言い訳は入らないと判断した為だ。
 それにさっきから神代達・・・通称3バカに囲まれながらこちらの様子を伺っている冥夜を、何時までも心配させるわけには行かない。

「だが冥夜様は貴様に強い信頼を置いているみたいだ、それだけは裏切ってくれるな」
「はい」

 それだけ言うと月詠は神代達を連れてハンガーから去り、拘束を解かれた冥夜が武の下へと駆け寄る。

「大丈夫でしたか准尉!?」
「心配しなくても、特に何もされては居ないさ。 ただ・・・」
「ただ・・・?」
「お前も知っているだろう? 俺がこの世界の人間ではない事、月詠中尉はそれを良く思ってないみたいだ」

 その言葉を聞いて、冥夜はハッとする。 自分達を指導していく中で、冥夜は白銀から放たれる何か後ろめたい気を常に感じていた。 もしかしたら彼は別の世界で、そこに存在している自分たちと知り合っていたのかもしれない。 それを確かめるべく、冥夜は駄目元で問いかけてみる。

「准尉、良かったら話してくれませんか?」
「良いだろう、お前にだけは話してやる」

 そうして武は、これまで自分が経験してきた事を冥夜に話した。 元の世界の暮らし。 異世界への転移。 そこで培ってきた軍隊経験。 人類の敗北と別れ。 そして電脳暦世界への転移とこの世界への来訪。
 全てを語り終えた武の目に、うっすらと目に涙を浮かべていた事に冥夜は気付いた。

「そうだったのですか。 前の世界で、訓練生として私達と共に、神宮司教官の下で・・・」
「ああ。 だからこうして上官として皆や神宮司軍曹と接する時、凄く違和感があったんだ」
「だから、あの時も私にあのような事を・・・」

 冥夜は月詠が来る直前、ハンガーで交わした武との会話を思い出す。 彼の言動も態度も、訓練以外は同等に接して欲しいという願いが込められていたのだと気付いた。 それを気づけなかった自分はとてつもない愚か者だ、そう心の中で冥夜は自分を責めた。

「だから冥夜、この世界を救うためにも力を貸してくれないか?」
「はっ、是非に及ばず!」

 だが彼の思いに答えるためにも奮闘せねば、そう決意した凛々しく返事をする冥夜。 そして武も、彼女達が任官するまでこのままの態度を続けようと誓った。 任官して正規兵となれば階級は少尉となり、そうなれば准尉である自分とは階級が1つ上だ。
 そうなれば対等とは行かないまでも、嘗ての関係を築けるだろうと武は思った。 そして冥夜も他のメンバーと合流する為にハンガーを後にし、再び武一人が残った。

「(待ってろよ純夏。 どんな事が待ち受けていようと、俺はお前に会いに行ってやる!)」

 濃紫の武御雷を前に、新たなステップへ向けて決意を改める武。 月詠に介入した人物とは誰か? この世界の純夏の行方は? オルタネイティヴⅣの真相とは?
 武の周りに様々な謎を残しながらも、207訓練小隊の任官の時は確実に迫っていた・・・


第13話に続く・・・


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