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No.2970の一覧
[0] 【完結】マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-(マブラヴ+電脳戦機バーチャロン)[麦穂](2016/03/20 10:18)
[1] 第1話-出会い-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[2] 第1.5話-教練-[麦穂](2016/01/02 14:54)
[3] 第2話-挑戦-[麦穂](2010/01/28 10:59)
[4] 第3話-疾風-[麦穂](2010/01/28 11:51)
[5] 第4話-異変-[麦穂](2010/01/28 12:09)
[6] 第5話-来訪-[麦穂](2010/01/28 11:22)
[7] 第6話-反撃-[麦穂](2010/01/28 14:03)
[8] 第7話-変革-[麦穂](2010/01/28 14:56)
[9] 第8話-開発-[麦穂](2010/01/28 15:00)
[10] 第9話-攪拌-[麦穂](2010/01/28 18:45)
[11] 第10話-訪問-[麦穂](2010/01/28 15:09)
[12] 第11話-疾駆-[麦穂](2010/01/28 18:49)
[13] 第12話-懐疑-[麦穂](2010/01/28 21:08)
[14] 第13話-配属-[麦穂](2010/01/28 21:11)
[15] 第14話-反乱-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[16] 第15話-親縁-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[17] 第16話-炎談-[麦穂](2009/12/25 22:28)
[18] 第17話-信念-[麦穂](2009/12/25 22:29)
[19] 第17.5話-幕間-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[20] 第18話-往還-[麦穂](2009/12/25 22:31)
[21] 第19話-密航者-[麦穂](2009/12/25 22:32)
[22] 第20話-雷翼-[麦穂](2015/09/22 22:24)
[23] 第21話-錯綜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[24] 第22話-交差-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[25] 第23話-前夜-[麦穂](2009/12/25 22:33)
[26] 第24話-安息-[麦穂](2010/01/01 23:35)
[27] 第25話-精錬-[麦穂](2010/01/28 21:09)
[28] 第26話-銑鉄作戦(前夜編)-[麦穂](2021/10/30 20:51)
[29] 第27話-銑鉄作戦(前編)-[麦穂](2010/02/01 13:59)
[30] 第28話-銑鉄作戦(後編)-[麦穂](2010/02/03 14:46)
[31] 第28.5話-証人-[麦穂](2010/02/11 11:37)
[32] 第29話-同郷-[麦穂](2010/02/21 00:22)
[33] 第30話-日食(第一夜)-[麦穂](2010/03/12 10:55)
[34] 第31話-日食(第二夜)-[麦穂](2010/03/19 18:48)
[35] 第32話-日食(第三夜)-[麦穂](2010/03/28 16:02)
[36] 第33話-日食(第四夜)-[麦穂](2010/04/12 19:01)
[37] 第34話-日食(第五夜)-[麦穂](2010/04/30 07:41)
[38] 第35話-乾坤-[麦穂](2010/06/19 18:39)
[39] 第36話-神威-[麦穂](2010/08/07 15:06)
[40] 第37話-演者-[麦穂](2010/10/08 22:31)
[41] 第38話-流動-[麦穂](2011/06/22 21:18)
[42] 第39話-急転-[麦穂](2011/08/06 16:59)
[43] 第40話-激突-[麦穂](2011/09/13 00:08)
[44] 第41話-境壊-[麦穂](2011/09/29 13:41)
[45] 第42話-運命-[麦穂](2013/12/31 20:51)
[46] 最終話-終結-[麦穂](2013/12/01 02:33)
[47] あとがき[麦穂](2011/10/06 01:21)
[48] DayAfter#1[麦穂](2019/06/01 08:27)
[49] DayAfter#2[麦穂](2019/06/01 08:28)
[51] 人物集/用語集[麦穂](2013/12/01 01:49)
[52] メカニック設定[麦穂](2013/04/12 22:27)
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[2970] 第11話-疾駆-
Name: 麦穂◆4220ee66 ID:a9ffd79a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/28 18:49
・ 2001年7月14日 AM10:45 横浜基地 第1演習場


『ヴァルキリーマムより各機、作戦開始』
「ヴァルキリー1了解。 さて、向こうはどう出るかな・・・?」

 司令部からオペレータを行っている涼宮遥の報告に特務部隊A-01、通称『伊隅ヴァルキリーズ』のリーダーである伊隅みちるが返答する。 既に各メンバーは所定のポイントで待機しており、後は作戦開始の合図とみちるの号令を待つだけだった。
 先鋒を務めるヴァルキリーズの2番手、速瀬水月がみちるに声をかける。

「大尉、なぜ直ぐに移動しないのですか?」
「相手は戦術機とは次元が違う人型兵器だ。 速瀬、いつもの様に突っ込んだら、直ぐにやられるかもしれないぞ」
「あはは、そりゃ~そうですよね」

 余りにも分かりきった事をみちるに指摘され、眉間に軽くしわを寄せている彼女に対し愛想笑いを浮かべる水月。 その時、レーダーに反応。 どうやら相手も動き始めたようだ。  みちるや速瀬の目付きが、勇猛な戦乙女のそれへと変わる。

「宗像は私と来い! 速瀬は威力偵察、ついでに敵を誘い込め。 だが私が指示するまで撃つなよ?」
「ヴァルキリー2了解!」「ヴァルキリー3了解!」
「風間は後方で狙撃体勢、威力偵察中は私と宗像の支援を優先しろ」
「ヴァルキリー4了解」

 みちる機の隣に立つ不知火に乗る宗像美冴、そして彼女達より少し後ろに居る風間梼子が返答したのを合図に、みちるが号令を放つ。

「では始めようか、全機続け!」

 肩に描かれたUNの文字が眩しく輝く蒼の不知火4機が、朽ち果てたビル街に飛び込んでいった・・・


マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#11 疾駆


「センサーに感有り。 皆、来るよ!」
「花月は一撃離脱で先行! 佑哉は花月のカバーだ!」
「リーフ4了解!」「リーフ3了解~!」

 美雪からの索敵報告が出ると同時に、リーダーの孝弘は矢継ぎ早に指示を出す。 だが、先行する佑哉のVR、震電と桜花の御巫の動きはVRのそれと疑うほど遅い。 苦渋の表情を浮かべる孝弘。 それもそのはず、彼ら『リーフ・ストライカーズ』が乗るVR全ての機体に、ケイイチによってリミッターが課せられているのだ。
 圧倒的なVRの性能を見せ付けて、この世界の人類にこれ以上余計な刺激を与えないという配慮による物だ。 そしてリミッターの度合いは、自分たちの相手であるヴァルキリーズ、彼女たちが乗る不知火と同じ第3世代戦術機と同レベルの機動性に制限されている。

「(まったく、ケイイチ君も無理難題を仰る・・・)」

 自分達の乗っているVRが、他世界にとって見ればそれほどすごい物なのかと全員が痛感する。 例えるなら、旧世紀に放映していたスポ根アニメの特訓において、筋力養成ギプスを付けられているような感じだろうか。
 余計な考えを巡らせている内に、先行した2人が水月の不知火と遂に接触する。

「ゲッ! 2人掛りなんて聞いてないわよ!」

 そう愚痴を漏らしながら87式突撃砲を構える水月ではあったが、みちるからの命令を思い出してトリガーを引こうとした指を戻す。 攻撃が出来ない以上、このまま突っ込んでも意味が無い。
 水月は目の前にある交差点を起点として、『尻尾巻いて戻る』という選択肢を選ぶ。

「あいつ逃げるぞ、追撃するか?」
「待って、どうせ追いかけても後続が待ち伏せしてるだけだわ。 ここは・・・」
「あっ・・・おい!」

 ここで桜花の御巫が派手に噴射跳躍。 御巫は空高く舞い上がり、粘土細工にも見えるビルが眼下を軽く望む場所にまで上っている。 自ら存在をアピールするとは、何を考えているんだろうと佑哉が思ったその時、36ミリチェーンガンの心地良い発砲音が聞こえてくる。

「(来たっ・・・!)」

 ペイント弾が飛来してきた時には、桜花は既に回避行動を行なっていた。 だがリミッターが設定されている故の加速の遅さに、彼女は内心舌打ちをする。 直撃コースを通る弾は予め構えていた薙刀で弾き飛ばし、御巫は再び廃ビルの森へと消えていった。

「外されましたか・・・ それにしても凄いですね、近接兵装で我々の射撃を弾くとは」
「感心している場合じゃないぞ、直ぐに移動だ宗像。 もたもたしていると、奴の仲間が私と貴様を狩りにやって来るぞ」

 まさか自分を囮に使って、自分と宗像の位置を知らせるとは。 次の合流ポイントへ移動しながら、みちるは彼らの大胆な行動に宗像とは違った度合いで感心していた。 百発百中の命中率を誇る光線属種が存在するかもしれない対BETA戦では、高高度の跳躍は自殺行為に等しい。 それ故に衛士たちは、跳躍による回避や機動を極端に嫌う傾向にあり、それは対人戦闘においても同じだ。
 しかしそういった概念が無い電脳暦世界の人間なら、そのような事はお構い無しに跳躍を始めとする空中機動を兵器で行なえる。 先日行なわれた207訓練小隊に対する武が行なったレクチャーを見ても、彼の動きは空中機動を含めて自分が知りえない摩訶不思議なものだった。 アレを全ての衛士が行なえたら、人類はBETAの魔の手を緩める・・・いや、逆に打ち勝つ事も出来るかもしれない。
 そんな淡い希望が出来た彼女の網膜ディスプレイに、同じく合流ポイントに移動中である水月の顔が映る。

「速瀬か!? 丁度いい、予定を早めて奴らを迎え撃つ。 いいな!」
「了解! 大尉と宗像で3対2、十分ですよ!」

 やる気満々な水月の声を聞いて、みちるはフッと鼻で笑いながら、本格的に相手チームと戦闘を行なうと決意する。 3機の不知火が集結しつつある事に気付いた佑哉は、セーフティを演習モードに切り替えながら桜花に問う。

「今度は集まり始めてるぜ、今度こそ仕掛けるか?」
「勿論! 時間を稼いでいる間に、苗村君達が来てくれるわ!」

 双方合意の上、突撃を開始する2人。 桜花は水月に、佑哉は宗像とそれぞれの不知火に標的を定め、残るみちる機には目も暮れず街路を突っ込んでくる。

「速瀬、宗像! どうやら奴らの獲物は貴様たちのようだ。 来るぞ!!」

 みちるがそう叫んだ瞬間、佑哉の震電は装備する75ミリ重突撃砲を発砲。 桜花の御巫は薙刀を突き立て更に加速。 それぞれの標的である水月と宗像目掛けて襲い掛かる。
 それに対し宗像は射撃で、水月は長刀を選択装備し対抗。 双方の火線が路地伝いに交わり、長刀と薙刀の刃が重なり鋭い火花を散らす。 唯一マークを逃れたみちるが後方の風間の元へと戻ろうと思った瞬間、彼女の叫びとロックオン警報がコクピット内に響いた。

「大尉! 危ない!」

 乱戦中に飛来し、みちる機を掠めた演習出力の荷電粒子ビーム弾。 それらはビルの路地という路地を抜けた先、その奥から美雪が駆る八雲から放たれた物だった。
 すかさず風間が狙撃で応戦、そして残るのは、目の前にいる孝弘の叢雲のみ。 近接戦闘モードに変形した可変ランチャーの切っ先を向ける新緑の機体、それに乗る孝弘がみちるに声をかける。
「さあ隊長さん、俺達も始めようぜ!」
「いいだろう。 我らヴァルキリーズと戦術機の強さ、とくと味わうんだな!!」

ENTRY TEAM:UN SpecialTeam A-01 VS JSDF VR AggressorTeam
BATTLE STAGE:YOKOHAMABASE No.1 exercise field

GET READY・・・?


・ 演習開始5分前 横浜基地 屋上


「こんな屋上に呼び出すなんて、白銀准尉は何を考えているのかしら・・・?」
「分からぬ。 だがあの人の事だ、何か考えがあるのだろう」

武が居た“元の世界”では学校の校舎となっていた建物の屋上に、207訓練小隊のAB分隊双方のメンバー全員が集まっている。 突然武からの放送でこんな所に集められて、不可解な彼の言動に榊は不満を露わにする。
 冥夜は一応の答えを返して見せるが、やはり榊の言うとおり武がどのような理由で自分らを此処へ呼び出したのか皆目見当が付かなかった。 すると、メンバー中一番野生のカンに優れた美琴が、屋上に流れる空気の異変に気付く。

「ねえ壬姫さん、どうも変じゃない?」
「ん~、もう直ぐ夏ですからね~。 熱いはずですよ~」
「そうじゃなくて~! 何かこう、空気というか臭いというか・・・」
「どうしたのだ鎧衣、私には何も・・・っ!?」

美琴の言葉に触発されるように、冥夜もこの横浜基地に漂う異変に気付く。 そして一足遅れて聞こえてくる、戦術機の跳躍ユニットが奏でる爆音と異質な駆動音が辺りに響き渡った。
 彼女がその方向へ振り向いた時、既に他のメンバー達はフェンスにへばりつく様に第1演習場を眺めていた。 始めて見る戦術機とVRの戦闘機動に高原と麻倉コンビが思わず声を上げる。

「あれが、一人前の衛士の動きなんだ・・・」 「私達も、いつか必ず・・・!」

2人が目撃したのは先行する水月機だった、続けて柏木と築地が展開を始めるリーフ・ストライカーズのVRを目撃する。

「おっ、アッチも動き出したみたいだよ」 「茜ちゃん茜ちゃん! あの戦術機、緑に青色、一番先はピンク色だよ~!」
「わかった! わかったから落ち着いて多恵~!」

自衛隊標準カラーの緑色をした、孝弘と美雪の叢雲と八雲。 藍色をした佑哉の震電に、兵器らしからぬ桜色が色塗られた桜花の御巫。 興奮のあまり飛び掛る築地を押さえながら、茜はなんとかしてくれとアイコンタクト。 それに気付いた慧が『・・・了承』と小さく答えた後、築地をわきの下から抱えて捕まえる。
 そして始まる模擬戦闘、演習場を疾駆する戦術機とVR、相容れぬ2つの機動兵器が見せる流麗な戦術機動に、一同は驚きと感動を覚える。 そして徐々にエキサイトしていく彼女たちの前に、皆を此処へ導いた武とケイイチが姿を現す。

「やあ、早速模擬戦に見取れちゃってたみたいだね」
「待たせて悪かったな、皆」
「白銀准尉!? それに、サギサワ大尉も!?」

突然の来訪に最初に気付き、千鶴は慌てて敬礼しようとする。 しかし、そうしていたら良い所を見逃してしまうとケイイチはそれを咎めた。 一秒でも長く、自分達にあの戦いを見せたいのだろうと思い、彼女は再び演習場を見やる。
 振り向いた次の瞬間、空中高く舞い、みちる達による下からの砲撃を回避する御巫の姿が見えた。 皆がおおっ!っと、さらに歓声を上げる。
「凄ぇだろ? どっちも光線級がいるBETAとの戦いじゃあ、絶対出来ない機動をしているんだ」
「だけど、あの自由自在な動きをすべての衛士達が行うことが出来たら・・・」
「戦場で生き延びる確立が、飛躍的に高まる・・・?」

紡ぐように言う茜の答えに、静かに頷く武とケイイチ。 『回避できない』や『立ち回れない』といったケースでは、相手の行動や周囲の状況に対して行動する選択肢が存在しないという事だ。 逆に自機の挙動や行動の制限をなくしてしまえば、それだけ危機から逃れる確立が高まる。
 そして一人前の衛士は、それらの行動を何時何所で行うかを瞬間的に判断し、実行するセンスとスキルが求められるのだ。

「そしてそれを戦術機で実現できるOSを、ここにいる皆で作っているんだ」
「えっ?」 「じゃあ私達って・・・」
「そう、すでに君達は、次世代OSのテストパイロットになっているって事さ。 これが全世界の戦術機や衛士たちに広まれば・・・想像は付くよね?」

 そうなれば自分達は、人類の勝利という夢を実現できる発明品を作るかもしれない。 近接戦闘に入った8機の戦術機とVRを見ながら、207のうら若き乙女達は皆、胸のときめきを止められずにはいられなかった。


・ AM11:04 日本帝国 帝都城 謁見の間


「・・・王手のようですね」
「っ! ぐぬぅ・・・!」

 悠陽の声にハッとし、椿は将棋盤に置かれた自軍の駒を見ながら唸る。 5回、それは椿が悠陽との将棋で負けた回数だった。 自分の出方を柔軟な思考で読んでいるのか、それとも将軍という人を導く立場にあるように、他人をコントロールする力でも備わっているのだろうか? だが今も徐々に彼女に追い詰められ、黒星が6つ目になろうとしているのは紛れも無い事実だ。
 打てば打つほど悠陽に追い詰められる。 椿は足掻く様に彼女から取った持ち駒も使ったが、それらもすべて悠陽に取り返されてしまった。
 そして王将以外の駒を動かした瞬間、椿は見た。 勝利を確信して黒く微笑む、悠陽の姿を・・・

「これで詰み、のようですね。 椿さん?」
「・・・参りました」

この期に及んで負けを認めない女ではない。 悠陽の勝利宣言に、椿は素直に深々と頭を下げた。


「あ~っ悔しい! 向こうの世界に帰るまでに絶対殿下を負かしてやるんだから~!」
「仕方ないですよ。 殿下はそうしたことに関しては無敵の強さを誇るそうですから」

 帝都城の一角に用意された仮住まいにて、椿は世話役である斯衛軍少尉、七瀬凛に先ほど行った悠陽との将棋の勝負について愚痴をもらす。 そして七瀬からその強さの秘密を聞くと、椿は余計に悔しさを露にした。

「何それ!? じゃあ私は殿下に勝負を挑んだ時点で負けだったって事!? あ~! 森○将棋で鍛えていたと思っていたのに~!」

 『ゲームの思考と、人間の思考を同じにするなよ』と誰もが思うところだが、この世界ではコンピュータゲームという概念が無いため、凛はただ椿の愚痴に愛想笑いを浮かべるしかなかった。 すると、ふすまの向こうから男の声が聞こえて来る。
 誰かと思って凛が確認すると背広姿の男、鎧衣左近の姿があった。

「急に失礼するよ、秋月椿さん」
「七瀬さん、あなたは外で待っていて」
「はい・・・」

 見張りとして凛を外へ生かせた後、部屋には鎧衣と椿の2人だけとなる。 彼がもし自分を狙って来た刺客だとしたら、とっくにふすま越しに銃で狙うなりしているだろう。
 それに、先ほど彼の顔を見た凛の反応も気になる。 もしかしたら彼は帝国政府の重役なのかもしれないと椿が思う中、鎧衣のほうから話を始める。

「どうだい、この世界の居心地は。 殿下との会談もあるし、中々骨が折れるだろう?」
「いえ、そうでもありません。 私達のいる日本で無くなってしまった物が、ここには当たり前のようにありますから」

 大和魂といった概念が、すっかり過去の物になってしまった電脳暦の日本。 対してそれらがごく普通に存在し、人々の中に生きているこの世界の日本。 どちらも同じ“日本”だというのに、時空の隔たりと歩んできた歴史とでこうも違ってくるのかと彼女は痛感する。
 元々古風な家柄で生まれ育ってきた椿だったが、屋敷から一歩外へ出るとコンクリートジャングルと化した東京の街。 それこそ武が居た“元の世界”と変わらない、いたって平穏な世界が彼女の暮らす日本なのだ。
 この世界に足を踏み入れた最初は堅苦しい雰囲気やギャップに戸惑ったものの、椿が直ぐに順応できたのはそうした理由があったからだ。 それを椿から聞くと、左近は軽く笑って答える。

「ははは、慣れというのは怖い物だね。 それよりここの斯衛軍に置いてあった見慣れぬ機体、あれは君の物かな?」
「ええ。 既に帝国政府の許可は貰っていますし、自分の身は自分で守るよう心がけていますから」

 左近が帝都城に駐留する斯衛軍ハンガーで見た、赤い武御雷に似た謎の戦術機。 それは日本政府が椿の護身用として彼女と共に送り込んだ第4世代VR、RGV-00 『菊一零式』。 横浜基地にいる桜花が乗るVR『御巫』の原型機であり、こちら側の日本製戦術機、特に斯衛軍専用機である『武御雷』と同じく近接戦闘能力と機動性重視のコンセプトで開発されている。
 既に帝国政府より向こう側の世界の人型兵器を預かるという話を聞いていた左近は、あえてこの話に触れない事にした。 そして、椿に会いに来た最大の理由である1つの話題を持ち出す。

「ところで秋月さん。 シロガネタケルという男を知っているかね?」
「勿論知っていますよ。 私がここに来る理由になった、異世界の旅人の事ですね?」

 武の存在については椿も十分に認知しており、彼が電脳暦世界に来たお陰で自分が交渉役として異世界の日本へ赴く羽目になった原因を作った男だ。
 しかも最初に彼を保護したのは国連で働く親戚の菫であり、彼女が武を可愛がっているという噂を聞いた時には、驚きの余り口に含んでいた茶を噴き出してしまったほどだ。 どうして左近が武に興味を抱くのか椿は疑問に思ったが、そんな彼女を尻目に左近は話を続ける。

「何でそんなことを聞くのか、という顔をしているね? 実は彼についていろいろと嗅ぎ回っている輩がいるようなんだ」
「それは・・・どういう事です?」
「そうだな・・・君達の言葉で言えば、この世界にも『白銀武』という人物は存在する。 いや、存在していたというのが正しいかな?」

 その言葉を聞いて、椿はハッっとした表情を浮かべる。 左近の言葉通りなら、この世界に存在していた白銀武は、何らかの理由で既に死んでいるという事だ。 そして自分らと同伴してきた白銀武は、鳴り物入りに横浜基地でよろしくやっているというではないか。
 一連の出来事もあり、平行世界という概念に気付く人間も多くなってきたが、まだそれを認めない人々もいる。 特に厳格な風潮となっている日本帝国の場合、大多数が認めない側になっているだろう。 それ故に、横浜にいる武の存在に気付き、彼について色々と詮索してくる者もいるはずだ。

「要するに詮索している連中を私の口で説得して、納得させればいいんですか?」
「出来ればそうして貰うと有り難い。 その人物の特定は済んでいるから、最悪シロガネタケルにこの事を知らせて彼自身が対応してもらう」
「横浜へ余計な面倒を持ち込んでもらう前に、ここで片付けておきましょう。 それで鎧衣さん、その人物は?」

俄然やる気になってきた椿を見て、本当に商社マンに転職しようか考える左近。 そして呼び戻した凛を含めて、3人の秘密会議が始まった。


・ 同時刻 横浜基地 第1演習場


『ヴァルキリー2、被弾。 管制部直撃により、大破と認定』
「(なっ・・・!? 速瀬真っ先にやられたとは・・・!)」

 突如舞い込んだ遥からの通信に、みちるは己が耳を疑うとともに周囲の状況を改めて把握する。 あのまま水月は桜花が駆る御巫と近接戦闘にもつれ込んだ挙句、薙刀で袈裟斬りにされたようだ。
 速瀬も切り込む直前まで撃ち込んではいたのだが、依然として敵機には射撃によるダメージ判定は無かった。 恐らく彼女の機体の至る部分に装着されている増加装甲が十分に機能しているためだろう。
 みちるは3対4の状況になったにもかかわらず、落ち着いた口調で後方の梼子と連絡を取る。

「風間、聞こえるか?」
「何でしょうか、大尉」
「速瀬を仕留めた敵を集中的に狙え。 どうやら奴は加速時に若干のラグがあるようだ」
「ヴァルキリー4了解! ヴァルキリー3と連携して仕留めます!」

 ラグがあると言う事は、パイロット側が攻撃に気付いても回避にコンマ数秒たりとも隙が出来る。 そこを自分の狙撃で撃てというみちるの真意に気付いた梼子は、復唱の後早速行動に移す。
 つい先刻までは自分も、相手チーム最後尾にいる美雪を牽制していたが今は後回しだ。 ビル街を縫うように移動した梼子は御巫を補足。 美冴になった事を確認した後、梼子は悟られぬよう物陰から照準を定める。

「桜花! 狙撃来るぞ!!」
「っ!?」

 佑哉の怒鳴り声を聞いた桜花は、そこで初めて自分が梼子に銃口を向けられている事に気付く。 VR2機相手でも臆さない美冴と自分の機体の重さに苛立っていたせいで、梼子の存在など微塵も感じていなかったせいだ。
 回避しようとする桜花だったが美冴の的確な射撃で妨害され、思うように加速が出来ない。 そして彼女が次に見たのは、梼子機が装備する支援突撃砲の銃口から輝くマズルフラッシュだった。


・ PM12:04 横浜基地


「いやはや、まさか決着付かず引き分けとは・・・」
「リミッター付与のせいで機体性能はほぼ同じ、後はパイロットの熟練度で勝敗が決まるから仕方ないわ」

 昼食を終え、午前中に行なわれた模擬戦の結果について話す桜花と佑哉。 その向かいには孝弘と美雪が座り、追加で何を食べるでもなく2人の話を聞いている。
 佑哉と桜花の言うとおり、ヴァルキリーズとの市街地模擬戦は制限時間切れによる引き分けに終わった。 損害はヴァルキリーズ側には水月、リーフ・ストライカーズ側には桜花と良チーム1機ずつと、正に痛み分けといえる状況だった。
 VRという異質な兵器に臆することなく、自分達に挑んだヴァルキリーズのパイロット達はどのような人物なのか。 そう孝弘が思案していたその時、みちるが彼らの元に訪れる。

「失礼だが、『リーフ・ストライカーズ』という部隊員を探しているのだが・・・」
「えっ? それって俺達の部隊名ですけど」
「そうか、君らが私達と模擬戦を行なった相手か。 私は特殊部隊A-01隊長の伊隅みちるだ。 よろしく頼む」

 駄目元で探しに来た早々、一発目で当たりを引くと言う事態に、みちるは何か運命じみた物を感じる。 彼ら4人から、異世界にまつわる様々な話を聞く事が出来た後、今回の模擬戦で彼らの機体にリミッターを掛けられていた事実を、みちるは始めて知る事になる。

「なるほど。 VR本来のスペックを相手にしていたら、私達は文字通り瞬殺だった訳か・・・」
「はい。 リミッターが付けられていたのは俺達にも内緒だったみたいで、立ち回りに苦労しました」
「しかし制限されていると言う割に、中々の立ち回りだったな。 流石異世界のエースと言った所か?」

 デタラメと言うべきVRの性能を戦術機と同じレベルにまで封じられ、尚且つそれらを知らされないまま模擬戦を行ない互角の戦いを演じて見せた孝弘達に、みちるは感心する。

「そうですね。 VRは一部の機体を除いて長距離飛行が出来ないので、少し羨ましかったですよ。 だったら・・・」
「『その自由度の高い動作を、戦術機の操作系に組み込んだらどうだ?』と言いたいんだろう?」

 やはり彼らも同じ事を考えていたのだな、自分が言った答えに驚く孝弘達を前にみちるは彼らも素その筋では同類と認めざるを得ない。

「その通りです。 既に『XM1』と名付けられた次世代OSが、207訓練小隊でテストを行なっているそうです。 開発指揮は香月博士と・・・」
「白銀武だろう? 噂は聞いている」

 流石は特殊部隊の隊長だと思いながら、満ちるに頷き答える孝弘。 対する彼女も、夕呼と共に次世代OS開発に勤しんでいる武に興味を抱いていた。 従来のOSでも同世代機を圧倒する動きを見せ、完成した次世代OSを搭載した物に乗ったらどのような超絶機動を見せてくれるのかと、みちるは気になって仕方が無かったからだ。
 もうすこし彼らと話したい事もあったが、自由な時間が残り少ない事にみちるは気付く。

「すまない、そろそろ時間だ。 私も色々やる事があるからな、これで失礼する」
「そうですか。 本来は俺達の方から出向く筈だったのに、お手数かけてすみません」

 4人と敬礼を交わし、みちるはそのまま食堂を後にする。 模擬戦の雰囲気と特殊部隊の所属から、みちる達ヴァルキリーズがこれまで数多くの困難な任務を遂行してきた事は直ぐに想像付く。
 では自分達はどうなのだろうか? ダイモン戦役後に再編された世界各国の軍隊。 ご多分に漏れず日本でも防衛力を測るために、適性の高い国民をVRパイロットとして採用する計画が実行された。
 そうした中で孝弘達は自衛隊にスカウトされ、厳しい訓練と課題を4人の絆と力をあわせて乗り越え、こうして異世界の地で任務を行なっている。 MARZやプラント主導による審判が介入してから、『人間同士が殺し合う』という嘗ての限定戦争のスタイルは消失し、スポーツ競技としての道を歩み始める。
 そうした背景があったために、孝弘達はこれまで一度も『殺し合いをする場所』という意味での戦場に立った事は無い。 仮にこの世界の人類と敵同士になり、みちるを始めとする横浜基地の皆を、果たして自分は撃つ事が出来るのだろうか?

「(俺も、青臭いガキの一人なのか・・・?)」

 焦点の定まらない瞳で孝弘は、合成緑茶が注がれた湯飲みの水面を見る。 自分自身に出した問いの答えは、まだ見付かっていない。

12話に続く


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