・ 7月7日 AM7:04 日本帝国 東京 帝都城
朝の日差しが降り注ぐ帝都城、武が元いた世界や電脳暦の日本では俗に皇室の人々が住まう“皇居”と呼ばれる建物の最深部。 薄暗い照明の中、背広姿の男が最重要の情報を携えある人物の元を訪れていた。
「それで、他国の状況はどうなっておりますか?」
「は。 現在異世界から来た来訪者と名乗る一団は欧州の支援を積極的に申し出ており、欧州国連軍や各国亡命政府は受け入れを準備しているとの事です」
男の報告を聞いた後、やはりそう出るかと女性はふっと息を吐く。 ヨーロッパを始めとするユーラシア大陸は、既にBETAの手中にある。 それらを一日でも取り戻したいと願う彼らの思いは痛いほど理解できる。
その為には異世界の援助だろうと何だろうとお構い無しという事か。 そこまで考えた所で、女性は次に疑問に思った事を男に話してみる。
「欧州の対応は概ね分かりました。 では米国やソビエトはどのような対応をしていますか?」
「詳細な事はこれから調べなければ分かりませんが、それぞれ交渉に乗り出そうとしているのは確かでしょうね。 先の一件もありますし・・・」
失われた国土と勢力を立て直すのに躍起なソ連と、戦後の支配を目論み戦力を拡大しつつあるアメリカ。 それぞれの思惑が錯綜する中、女性はこの国の代表として決断を迫られている。
それが本当に正しいのかどうか、彼女は目の前に居る男に助言を求めた。
「では鎧衣、我が国は・・・私はどのような決断を行えば良いと思いますか?」
「殿下、それならば・・・」
そうして日本帝国情報省課長の鎧衣左近は、日本帝国征夷大将軍である煌武院悠陽に対し、今後の事に関する助言を始めた。
7月7日:日本帝国政府、異世界に存在する日本国政府からのコンタクト受諾。
翌日 電脳暦世界:日本国政府、日本帝国への技術的支援を決定。 国連と共に先行させた自衛官4人に続き、特派員1人を派遣。
マブラヴ-壊れかけたドアの向こう-
#10 訪問
・7月10日 AM8:09 横浜基地 武の部屋
「なるほど・・・ つまりオルタネイティヴⅣ計画の内容は、君も詳しい事は知らないわけだね?」
「ええ。 最近夕呼先生に聞いてみたら『一人の子供が、人類に夢と希望を与える計画』って言ってました」
「子供? 博士の隣にくっついている、あの子が秘密兵器なのかい?」
「いや、霞はそんな大それた子じゃ・・・」
そこまでケイイチに言葉を返した時点で、武の口が急に止まる。 確かに、極東最大の国連軍基地、それに国連が計画している『オルタネイティヴⅣ』の遂行場所だというのに、なぜ霞のような少女が夕呼のそばに居るのか。 そして武が最深部で見た人間の脳髄、あれはどのような関係が有るのだろうか。 気になる事は多々あるが、今は見える範囲でそれを調べていこう。
そう思った武は、先日の一件をケイイチに問う。
「それでケイイチさん。 電脳暦世界の人達が、この世界に進出しているって言う話は本当なんですか?」
「本当の事さ。 僕らの世界の持つ技術や戦力は、向こうから見れば喉から手が出るほど欲しい物だ。 何より・・・」
「電脳暦世界の人達はそれを武器に、この世界で一旗上げようと目論んでいるからですね?」
武の言葉に、その通りだと答えたケイイチがコクリと頷く。 BETAによる侵略の危機に瀕する異世界の国々に手を差し伸べて援助を行なう事で、電脳暦世界での地位や利益を得ようというのだ。
これが以前の企業国家なら国連や1国のみに支援を集中する事も出来たかもしれない。 だが今回名乗りを上げたのはダイモン戦役の後、プラントと企業国家の支配力が弱体化した隙を狙って、再び世界中で復活した主権国家政府だ。
それぞれの国が己の私欲と野望に駆られて行動を起こす以上、この世界の日本、そしてこの横浜基地に影響を及ぼすのではないかと不安に思う武に、ケイイチが声をかける。
「安心して白銀君。 僕は本心でこの世界を救いたいと思っているし、フィルノートのクルー達も同じ気持ちで居るよ」
「そう言ってくれると、本当に心強いですよ。 ところでケイイチさん、この世界の日本にはそういう人はもう来たんですか?」
「う~ん、もう来てもいいはずなんだけどなぁ。 もしかしたら、皆には内緒で来ているのかもしれないよ?」
帝国政府からの公式発表が依然として無いことに首をかしげる武とケイイチ。 そして2人が噂する異界の日本からの使者が、帝都城に居る悠陽の元を訪れていた。
・ 同時刻 東京 帝都城 謁見の間
「時空を越え、はるばる異世界から私達を助けに来てくださった事、心より感謝いたします」
「礼には及びません。 住む時空は異なりますが、同じ日本人同士。 助け合うのは当然の事です」
蝋燭のそれを模した照明が、ぼんやりと謁見の間に居る2人を照らす。 1人は日本帝国における最高権限者である悠陽、そしてもう1人は電脳暦世界から日本帝国へ交渉にやって来た特派員少女、秋月椿。 年齢的にも外観的に大差無いが、異 世界との交渉という重大な役目を背負って、こうして自分と対等な場にいる彼女に悠陽は個人的に強い興味を抱いた。
「しかし、異世界からの使者が女性とは。 私としては、てっきり殿方が来るのかと・・・」
「異世界の日本では、適材適所の精神が徹底していますから。 それに女同士、交渉以外の話題でも話が弾むと思いませんか?」
椿の言葉に安心したのか、そうですねと答えながら悠陽が微笑む。 確かに外交でも使者が女性相手なら会話もしやすいだろうし、更に社交的な性格の場合はなおさら進展するだろう。
しかし、歴史の影に女ありと古くから言われているように、その裏ではあらゆる策を張り巡らせ、それを実行に移そうと企む、魔女のような女性も存在する。
「さて殿下、よりよい関係を築き上げる為に具体的な話を始めましょうか?」
「そうですね、では・・・」
彼女が・・・椿がそのような人物で無ければいいが。 そう悠陽は思いながら、椿との交渉を続けた。
・ AM10:16 横浜基地B19フロア 香月ラボ
「あの~夕呼先生?」
「なによ?」
「呼ばれたのは俺だけのはずじゃないんですか? 何でサギサワ大尉まで・・・?」
「いやね、VRっていう兵器の事を詳しく聞こうと思って彼も呼んだのよ。 無論、戦術機とVR両方に乗ったことがあるアンタと一緒にね」
「そうそう、この前は途中で有耶無耶になっちゃったしね」
夕呼の発言の後、部屋の奥で答えるケイイチは、これから始まる説明に必要な機材の準備を霞と共に始めている。 確かに自分もVRに関わるテクノロジーについて菫からは詳しく教わってないし、戦術機とVRという似て非なる人型兵器に乗った経験がある。
それぞれの違いについても、この2人からきっちり聞いたほうがいいだろうと武は思った。 そうしている内にケイイチと霞が準備完了し、スライド画像や映像資料を交えてケイイチが説明に入る。
「今スライドに映っている画像は、初のVRであるMBV-04Gテムジンと、同じく初めて開発された戦術機F-4ファントムのスペックと対比図です」
「どっちも第1世代機で初めて開発された機体だって言うのに、随分シルエットが違いますね」
「当たり前でしょ~? そもそも設計思想が違うんだから」
この期に及んでお前は何を言っているんだと冷たい視線を向ける夕呼に対し、武は愛想笑いで誤魔化す。 夕呼の言うとおり、同じ第1世代でもVRと戦術機でその設計概念や運用法も大きく異なる。
かたや重装甲で受け止めるという、原始的なコンセプトを持った対BETA戦初期の機体。 かたや限定戦争という見世物の戦争の為に、汎用性主体で開発された機体。
その性能は言うまでも無く、オーバーテクノロジーを元に作られたVRの方に軍配が上がる。 まあ、異世界同士の兵器を比べろというのがどだい無理な話だ。 ここで夕呼は、最初に開発された2機のVRに注目する。
「当初は今言ったテムジンに加え、その支援機であるHBV-05 ライデンの2機が基幹機種になるはずだったのよね?」
「ええ、ですがライデンの装備する対艦レーザー砲が非常に高価になってしまい、28機程度しか生産できなかったんです」
当初のVR編成においては、前衛の04テムジンと、後衛の05ライデンによる支援という図式が計画されていた。 しかしケイイチの説明どおり、予想以上に高コストになってしまったライデンは極少数しか生産できず、そのため別の支援型VRを開発せざるを得なくなってしまった。
「で、そのライデンの穴を埋める為にSAV-07 ベルグドルが開発されたんですね?」
「ああ、アンタの世界じゃ『電気冷蔵庫』とか散々な言われようだって、白銀から聞いたわよ」
「事実ですけどね・・・ ところで白銀君、何処でそんなこと覚えたの?」
そう言ってくすくすと笑う夕呼に対し、眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに眼鏡を掛けなおすケイイチに、武は菫から教わったと素直に答える。 確かにベルグドルはその上半身にミサイルといった火器や管制装置を満載た影響で、重心バランスが劣悪になってしまったのだ。
しかしテムジンの1/7という低コストということもあり、DNAの主力機であるテムジンよりも大量に生産されたのだった。 その後バランス重視の重戦闘VRであるHBV-10ドルカスが開発され、一方テムジンも偵察型のTRV-07バイパー系、格闘型のMBV-09アファームド系へと派生し、更には簡易量産型であるテン・エイティも存在する。
「F-4ファントムとF-5タイガー、これら第1世代戦術機は自身の装甲でBETAの攻撃を防ぎきるというコンセプトから開発されたわ。 それでもBETAの攻撃を防ぎきれなかったし、人類に必要なのは『盾』ではなく『剣』だった。 そこで対照的に、機動性を向上させた第2世代戦術機が開発される」
F-15 イーグルやSu-27 ジェラーブリクといった名が挙がる第2世代戦術機は、機体の軽量化や電子制御の向上による機動力の強化が特徴だ。 コクピットや各部関節、ジェネレーターといった重要な箇所に装甲を集中させ、その装甲も軽量かつ強固な物が採用されている。
そしてこの段階に入ってから、戦術機同士の戦いも視野に入れた設計がされている事だ。 BETAという共通の敵が現れてもなお人類同士の争いがされようとしている事に、武は深い悲しみと憤りを覚える。
「BETAの侵略で人類が、地球が滅びかけているのにそんなことを考えるなんて、やっぱり俺は納得できませんよ・・・」
「やっぱ人間って、つくづく欲張りな生き物よね~。 ハイヴに眠るお宝を独り占めしたいが為に、人間同士の戦争も視野に入れてるんだから。 それに人間同士の戦争なら、あんた達の方が一枚上手じゃなかったかしら?」
夕呼の言葉を聞かなかったのか、あるいはあえて無視したのか、ケイイチはその部分には触れずに第2世代VRの説明に移る。
「いよいよお出ましね、リヨンハイヴを陥落させた張本人達に・・・」
「第2世代VRの性能は、第1世代と比べて天と地の差があります。 その1つが、Vアーマーと呼ばれる防御機構です」
あのフランスでの戦いの一部始終を、夕呼は忘れる事が出来なかった。 戦術機なら容易く蒸発する出力のレーザーをまともに喰らっても、平気で戦闘を続けていたVRがいた事を。
それを実現したのが、第2世代VRが共通して装備する防御機構『Vアーマー』の存在だ。 通常はコクピット及びVコンバータの周囲に展開されているゲートフィールドを防御に転用し、実体弾や光学兵器による攻撃を無効化あるいは軽減が可能であり、これにより第2世代VRの防御力は飛躍的に高まったのだ。
「ここで重要なのはVアーマーにはいくつかの特性があることです」
「特性?」
「まず一つ目は“剥離”。 Vアーマーは無限に展開される物ではなく、被弾によって徐々にその効果が薄れていきます」
「まあ当然よね。 じゃああの時、カニみたいなVRが重光線級のレーザー照射を続けて受けていたら撃破されていたって事ね?」
更にケイイチはVアーマーが弾く事の出来ない攻撃、すなわち極端に高出力な射撃兵装、至近距離の被弾と近接戦闘が存在し、更にはアーマーを中和させる攻撃が第2世代VRに備わっている事を説明する。
「物事に絶対なんて有り得ないのは、何処の世界でも同じなんですね。 それで大尉、他の特徴は?」
「後は機体によってVアーマーの強度が違う事ですね。 あの時レーザーを防ぎ切った機体はRVR-68 ドルドレイ、最強クラスのVアーマーと装甲を持つ重突撃型VRです」
「なるほど、道理で受け止められる訳だわ・・・」
一連の話を聞き終え、夕呼はう~んと唸りながら頭を抱える。 ミサイルやナパーム等の重火器を満載した支援機、グリス・ボックや派生型のシュタイン・ボック。 装備次第で様々な状況に対応出来る第2世代型アファームド系列。
一応、ケイイチはバル系列やエンジェラン、スペシネフといった特殊機の存在を話さなかったが、それを差し引いても第2世代VRの性能は、先の戦いでフェイズ5クラスのリヨンハイヴを制圧出来たという事実で証明済みだ。
これ以上追求しても無駄だと悟った夕呼は、第3世代戦術機について話を切り出す。
「第3世代戦術機は、207訓練小隊が使っている97式高等練習機『吹雪』を始めとする最新機種よ。 第2世代機で確立した技術を導入して、性能の向上を図っているわ」
アメリカ軍のF-22ラプターや帝国軍の94式不知火、EU軍のEF-2000タイフーン、ソビエト軍のSu-47ベルクトといった第3世代戦術機は夕呼の説明どおり、第2世代で培った技術の延長線上にある戦術機だ。
制御系に光通信を用いて反応性、操縦性を向上させ、軽量強靭な新素材による装甲の導入で更なる機動性の向上と、まだまだ開発途上なもののその可能性は未知数だ。
一方でVRの第3世代機の方はというと、第2世代機のそれと比べ性能が大幅に弱体化しているとケイイチは話した。 それは新たに限定戦争の場となった火星に由来する。
「VCa8年に火星でマーズクリスタルが発見されてからは、火星でも限定戦争が行なわれるようになりました。 そこで起きたある現象に、火星で戦うVRパイロット達は悩まされる事になります」
「悩まされる?」
「マーズクリスタルによる、Vコンバータへのジャミング現象です。 それで火星では、第2世代以下のVRは機能不全や大幅な性能低下を引き起こします」
「その対策として製作されたのが、アンタ達の隊が装備している第3世代VRって訳ね?」
どうやらVクリスタルはそれぞれ固有の精神干渉波を持っているらしく、それらが地球圏で作られたVコンバータの機能を阻害するというのだ。 そこでVコンバータに阻害効果を軽減するフィルター装置を取り付け、火星の環境に合わせて新設計された一連のVRを第3世代VRとして実用化したのだ。
「後に地球でもある研究者による実験の影響でジャミング現象が発生するようになり、VRの世代交代が急速に進みます。 現在ではフィルター装置が更に発展したお陰で、第2世代以下のVRが再び稼動可能になりました」
「へぇ~、そっちの世界でも無茶な事する人間は居るのね~」
「それ、夕呼先生に言われたくないだろうな・・・」
学者先生同士の話には、あまり口出ししない方が良い。 夕呼の殺気に満ちた視線を浴びながら、武は今日また一つ賢くなったなと心の中で頷く。 と、ここで夕呼はVRに関わる重要な要素を思い出す。
「そういえば白銀、VRって何で動いてるか知ってる?」
「えっ? Vコンバーターですけど」
「それは前に聞いたわ! そうじゃなくて具体的にジェネレーターとかメインリアクターとか、もっと明確な動力源は何か聞きたいのよ!」
「それも今から説明しますよ。 社君、次のデータを持ってきてくれ」
「はい」
霞から手のひらサイズのメモリーチップを受け取り、ケイイチは画像データを表示させる。 スクリーンには第2世代型VRの代表格、テムジン707のVコンバータユニットの画像が映っていた。
「え~と、今映っているのがテムジン707のVコンバータユニットです。 オレンジ色の部分がコクピットブロック、その後ろがVコンバータ本体で構成されています」
「で、肝心の動力源は?」
「実はVRには、動力源といった装置が一切見当たらないんですよ」
「何ですって!? だったらVRはどうやって製作するのよ!」
「これを見ればよく分かりますよ」
ケイイチの操作と同時に、スクリーンに映るVコンバータが唸りを上げ、バーコードのような輪がユニットを包む。 どうやら霞がケイイチに渡したデータは一種のシミュレート映像のようで、VRが製造される過程を描いた物らしい。
そうしている内に、ユニットの周りに設計図のようなものが現れたかと思うと、それらがワイヤーフレームとなって機体のパーツを形作る。 更にそれらが実体化しパーツごとに鮮やかに彩色されたかと思うと、まるでプラモデルの様に各パーツが接続され、テムジン707という機体が完成した。
あまりに馬鹿げた、それで居て滑稽なその光景に、夕呼と武は言葉を失う。
「これが“リバース・コンバート”。 Vプロジェクト最大の成果にして、VRを製造出来る唯一の方法です」
初期開発時はCIS突入艇と呼ばれ、Vクリスタルの模造品として作られたVコンバータ。 その内部に収められているVディスクに機体の設計データを書き込み高い負荷を掛けると、その機体がVコンバータを核に実体化する現象がリバース・コンバートと呼ばれる現象だ。
コンバートする際には電脳虚数空間から材料を取り寄せてVRを具現化せしめている為、実質的な材料はVコンバータユニットを製造する分と封入するVディスクに塗布するVクリスタル質だけということになる。
最後はVコンバータおよびVRの制御用OSであるMSBS(Mind Shift Batlle System)。 人間の精神と兵器の制御系を直結するという、VRが生まれる前から理想的なシステムだ。 VRが基本的に人型のフォルムをしているのも、パイロットが自らの体の如く動かせるようにという理由に尽きる。
全ての話を聞き終えた後、夕呼は真っ白に燃え尽きたボクサーが如く、座っていた事務用のイスにもたれ掛かっていた。
「こんな魔法みたいなのがアンタ達の常識な訳? もう付いて行けないわよ・・・」
「まあ『十分に発達した技術や科学は、魔法と区別が付かない』って言葉もありますから。 それに最近の観測では、僕ら電脳暦世界以上の科学力を持った平行世界もいくつか確認されています」
ケイイチの言葉に、真っ白だった夕呼が敏感に反応する。 世界は無限に存在し、そして繋がっている、そう提唱したのは他ならぬ自分なのだから。
“この世界”では電脳暦世界の住人がたまたま訪れ関わってきたように、平行世界に於ける他の“この世界”には彼ら以上の力と知恵を持つ者達が干渉し、援助し、 あるいはBETAもろとも自分たちと敵対・・・いや、最初から武一人しか訪れていない世界があるのかもしれない。 そう解釈した夕呼は、今置かれた状況とその今後について考えるべきだと判断した。
無限に存在する確立時空の事を一々考えても、余計に脳細胞を傷めるだけだと悟ったからだ。
「そうね、今更グダグダ言っても始まらないわ。 ん・・・?」
そう夕呼が言い終えた後、司令部に接続されている内線電話のベルが鳴る。 数度の受け答えをした後、武とケイイチにこれから始まるある事について伝える。
「そろそろ例のショーが始まるみたいね。 2人とも、早く行かないと良い場面を見逃しちゃうわよ?」
「じゃあ白銀君、お言葉に甘えて行こうか」
「はい!」
夕呼に、ラボを後にする武達。 そして夕呼はケイイチから受け取った、データをまとめながら第1演習場の様子をモニターで眺める。
「さて、彼女達は何処まで頑張れるかしらね・・・」
モニターに映るUNブルーに塗られた戦術機。 それは夕呼直属の部隊であるA-01、通称『ヴァルキリーズ』の衛士達が駆る不知火だった。 横浜基地最強と噂される特殊部隊の相手、それは・・・
第10話に続く