「皆さんオハヨウゴザイマス、フィリーネちゃんでーっす」
ここは学生寮。
IS学園は全寮制なので、全学生がこの寮で暮らしている。
例外なく、私もこの寮で暮らしているのです。
そう、つまりラウラさんと同じ屋根の下で暮らしていることになるのです。
「……なのに!」
IS学園に入学してから1週間。
私はずっと……織斑先生の部屋で過ごしていました。
感想ですか? 「地獄でした」の一言です。
同学年のS・Hさん「気をしっかり持つのだぞ。何があっても挫けるな」
同学年のS・Oさん「そ、それはお気の毒に……何もせず、石像のように耐えるのですわ」
同学年のH・Rさん「想像しただけでも恐ろしいわね……」
同学年のS・Dさん「だ、大丈夫なの? こ、困った事があったら言ってね?」
と、1週間の内に随分と同情を買いました。
「けれど、それも今日まで……1週間! 私は耐えに耐え抜いてきた! そして、今のこのチャンスを掴んだのです!」
今、私はラウラさんの部屋の前で待機中。
いつもは千冬教官に叩き起こされ、そのまま学校に連行。
朝食もままならないまま、仕事を手伝わされ、そのまま教室まで連行。
そして授業。帰りも仕事を手伝わされ、日が沈む頃に帰宅し、そのまま就寝。
なんともスパルタな1週間でした。
けれど、今日に限って千冬教官は早朝に出て行ったようで、机の上に「時間通りに登校しろ」との書置きが。
「これはもう、天が与えたチャンス!」
着替えもせず、寝巻きのまま千冬教官の部屋を飛び出してここまでやってきたと言う訳です。
もちろん目的は、愛しのラウラさんに会うため!
授業中はもちろん、実習の時間も千冬教官に監視されて初日以外ラウラさんとは未だに話が出来ていないのです。
そりゃ、我慢もストレスも限界ですよ!
「いざ行かん! ヘブンへ!」
ちなみに、当然掛かっていた鍵は千冬教官の部屋にあったマスターキーであけました。
犯罪です。みなさんは、真似しないように☆
「ラウラさぁーーーーーーーん!」
「うひゃあああ!?」
扉を勢いよく開き、ベッドまで走る。
見るとベッドが二つあり、片方はもぬけの殻。
もう一方のベッドに、慌てて布団を被る人影が。
きっと愛しのラウラさんに違いない!
これはルパンダイブで飛び込むべき。
「らぁ~う~らさぁ~ん」
「いやああああああああああああああああああああ!」
どげしっ
「ふぐぅっ」
強烈な蹴り上げを食らい、薄れ逝く意識の中で金髪の美少女を見た。
あれ……ラウラさんじゃにゃい……がくっ
◇
「フィリーネ……起きろフィリーネ」
「あぁ、夢の中にまで出てきてくれるなんて、流石はラウラさん……」
「起きろと言っている!」
「ふぐっ!?」
朝の日課(一夏のベッドに潜り込む)を済ませて戻ってくると、困り果てた顔をしているルームメイトのシャルロットと気絶したフィリーネが居た。
面倒くさいので、適当に蹴りを入れて起こす。
すると、面白い具合に飛び起きるフィリーネ。
いつもこのように機敏な反応をしてくれると助かるんだが。
「ら、ら、ラウラしゃん……」
「何だ?」
「ぜ、ぜ、ぜ、全裸……!?」
「あぁ。一夏に会いに行っていたからな」
「「な、なんだってー!?」」
まぁ、今は予め用意していたバスタオルを身体に巻いているがな。
ん? 何故、シャルロットまで声を荒げているんだ?
まぁ、それよりも先ずはフィリーネに聞かなければならない事がある。
千冬教官に直接聞いてもはぐらかされてしまったし、ここ1週間はずっと忙しそうにしていた。
フィリーネを助手として連れまわすくらいだ、何かあったのだろう。
「ところでフィリーネ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「何故、IS学園に来れた? 同じ部隊から2人も留学生を出すなど、私は知らんぞ」
「あ、え、えぇと……私の『特性』をですね。ちょいと学園関係者の方にお話致しまして、特例として入れてもらいました」
「何?」
フィリーネには、他の人とは違うちょっとした特性がある。
確かに、その話をすれば学園に編入する事は可能だろう。
だが、それは同時に……
「話してしまったのか?」
「は、はいー……あ、あのもしかして、ヤバかったですか?」
「……いや、お前が良いのなら、私は何も言わん。そうだな、この学園に居れば何か変化があるかもしれん」
フィリーネと出会った時の事を思い出す。
あれは確か、教官がドイツに来て3ヶ月ほど経った頃の事だ。
『高い適正率を持つ人材が見つかった』と報告を受け、私の提案で我が部隊に引き入れようとした。
だが、最初にフィリーネとコンタクトを取ったのは牢屋の中。
そこに居たのは、膝を抱えた幼い少女だった。
「あ、あの、ラウラさん……怒ってます?」
「何?」
「そ、そのその、勝手に秘密喋って、日本まで来て……」
「いや、別にお前の特性については秘密にしているわけでは無い。お前自身の強み、メリットだ。上手く使え」
「は……はい!」
普段から明るく振舞っているフィリーネだが、自分の特性に負い目を感じている部分がある。
そう、フィリーネの特性は『極端に高い適正率』。
測定器が故障してしまうほど高い数値を出すので、暫定的にSとなっているが、実際の数値はわからない。
その事実を伝えれば、誰だろうとIS学園への入学を認めるだろう。
だが、それは同時にフィリーネに多大なる期待が掛かることになる。
それを、フィリーネは嫌っていたはずだ。
「どういう心情の変化なのかは知らないが、この学園に来たのなら相応の努力をするのだな」
「は、はい! お任せください! ラウラさんの為に頑張ります!」
「いや、私の為ではなくフィリーネ自身の為にだな……」
フィリーネは、直ぐに「他人の為」と発言する癖がある。
意図的にしているのか、もしくは自分をないがしろにしているのか。
稀に心配になる。
「……時にフィリーネ」
「はい?」
「先ほどから鼻の辺りに赤いものが見えるのだが?」
「あ、すいません、興奮して鼻血が……」
「何に興奮したんだ?」
「もちろんラウラさんの裸体に―――」
無意識に蹴りを入れて、部屋の外まで吹き飛ばす。
フィリーネは私で遊ぼうとする所があるからな。
「あ、あの……そろそろ時間が……」
「ん?」
同室のシャルロットが、遠慮がちに目覚まし時計を見せる。
見ると、時計の短針が9に近づきつつあった。
◇
遅刻ギリギリで教室に駆け込んできたラウラとシャルと軽く挨拶を交わすと、直後に千冬姉が教室に入ってくる。
千冬姉が教壇に立った頃に、教室を覗き込む人影。
1週間前にクラスメイトになった、桃色女子ことフィリーネだった。
もちろん、問答無用の出席簿アタックを食らって席についた。
「今日は授業の前に、来週から行われる授業内トーナメントについて説明する」
千冬姉はプロジェクターを下ろし、名前が羅列された表を映した。
ちなみに授業内トーナメントとは、その名の通り授業時間を利用したトーナメントだ。
説明いらなかったな。
「先ず最初に4つのグループに分け、バトルロワイヤルを行う。そこで勝ち残った者が4名、トーナメント形式で戦う」
「織斑先生、それではあまりにも専用機持ちに有利なのではありませんか?」
「良い質問だな」
箒の質問に、千冬姉はプロジェクターを指差して答える。
「バトルロワイヤルとは、何も全員が敵と言うわけではない。戦闘中、あるいは戦闘前に予め手を組んでおくことも可能だ。つまり……」
「つまり……?」
「専用機持ちは袋叩きにあう可能性があると言うことだ」
唖然としたのは、もちろん俺、セシリア、シャル、ラウラ。
そして当然の如く、この4人はそれぞれのグループに別々に振り分けられている。
これ、確実に詰みじゃないか?
あ。箒と同じグループだ。
「専用機持ちは今週中に仲間を増やしておくことだな……そうだ、エルトゥール」
「ひゃい!?」
考え事でもしていたのか、急に指名されて立ち上がる桃色女子。
訝しげな目を向ける千冬姉とくすくす笑うクラスメイトを見て、真っ赤になって縮こまった。
「放課後、第2アリーナに来い。解ったな?」
「は、はい……」
あれ? 確か、今日は第2アリーナは点検の為に使用禁止だったはずだけど……
「では、授業を始めるぞ」
色々と大事な事をさらっと伝え、千冬姉は授業を開始してしまった。
つづく