「えー、今日は皆さんに新しい転校生を紹介します」
はて、この光景にはデジャブを感じざるを得ない。
教壇の上に立つ山田先生も、この台詞を言うのに違和感を覚えているように見えた。
と言うか、山田先生はまたフラフラしている。
あぁあれか。この後の部屋割りの編成作業を憂いてのことか。ご愁傷様です。
「では、入ってください」
「はぁい!」
元気の良い声が、廊下から聞こえてきた。
バシュっという音と共に、教室の中に桃色の髪の女子生徒が入ってくる。
おぉ、今度はちゃんとした女子だ。
いや、桃色の髪の毛をした女子を見て『ちゃんとした女子』だと言う感想を言う男は世界広しと言えども俺くらいだろうが。
それでも、男装した女子や眼帯をした女子に比べれば、『ちゃんとした女子』と言えないことも無いと思う。
「なっ―――」
背後から聞こえて声に反応して振り返ると、そこには例の眼帯をした女子ことラウラが桃色の髪の毛の女子を見てその片方しか出ていない目を見開いている。
知り合いなのだろうか。
とか思っている間に、桃色女子(勝手に命名)は教壇に立っていた。
「では、自己紹介してください」
「はい! フィリーネ・エルトゥールです! 好きなモノはラウラさん、嫌いじゃないモノはラウラさん、得意科目はIS整備、苦手科目はIS実習、将来の夢はラウラさんのお嫁さんです!」
唖然。
なんなんだ、今のは?
良く聞き知った名前が多分に含まれていた気がするが、気のせい……では無いだろうな。
振り返ると、ラウラは「私は何も知らない」と言いたげな表情であらぬ方向を見つめていた。
が、頬に伝う冷や汗が、珍しくラウラが焦っていることを表していた。
「え、えぇーと……で、ではフィリーネさん、空いている席にお座りくださ……」
「きゃあああああああああああああああああ――――――――――――――――――――――っ!!!」
ソニックウェーブと言う奴だろうか。
ん? これもデジャブだな。
まぁ、そのデジャブ通り、歓喜の叫びがクラス全体を包んだ。
一瞬発動が遅れたのは、やはり先ほどのフィリーネの自己紹介が原因だろう。
「百合よ! 百合女の登場よ!」
「まさか、ラウラさんを追ってドイツから!?」
「織斑君とあの子でラウラさんを取り合うのかしら!?」
俺が何かすることを前提として話が進められているように聞こえるが、声と声が重なり合って何を言っているのか全く聞き取れない。
ちなみに、この場を収める役目を持っている千冬姉は職員会議が長引いているらしく、まだここに居ない。
困ったぞ、早く来てくれないと山田先生だけではこの場を収集することは不可能だ。
「み、皆さん、落ち着いてください~! はうぅ、織斑先生ぃ~」
あぁ、もう諦めた。山田先生、最近だらしねぇな。
いや、このクラスの女子の勢いが凄まじすぎるのか?
と言うか、何でまたこのクラスに転校生入れたんだ。
分散させろって。
「……あ」
「ん?」
ふと、桃色女子と目が合う。
とてつもなく嫌な予感がしたが、最初から決め付けるのは良くないよな。
流石に、また殴られそうになったら避けるくらいの準備はしよう。
「貴方が織斑一夏ですね?」
「あぁ、そうだ」
「じゃあ死んでください☆」
「は?」
次の瞬間、目の前に銀色の物体があらわれた。
脳内データベースと照合すると、これはデザートイーグルと言う奴じゃないか?
凄いな、片手で構えてる。
片手撃ちって、随分と訓練しないと辛いんじゃ無いのか?
……ってチョット待て。その銃口が俺に向いているんだが?
「うおぉ!?」
「あ、動いたら駄目ですよー」
慌てて飛びのいた俺に、また照準を合わせなおそうとするフィリーネ。
その間に、慌てて走ってきたラウラが立ちふさがる。
「何をしているフィリーネ!」
「あぁん、ラウラさぁん!」
フィリーネはラウラの姿を確認すると、突然抱きついた。
何が起こったのか把握できていないラウラ。
次の瞬間、顔を真っ赤にして膝を突き上げた。
はて、女同士抱きついたくらいで赤くなるのか?
あぁ、きっと怒りで赤くなったんだろう。
「ふぐっ!?」
「馬鹿者、離れろフィリーネ!」
離れると言うより、倒れるフィリーネ。鳩尾に入ったのだろうか、死にそうな表情をしている。
その騒動で、教室内の騒動は収まっていた。
代わりに、いきなり暴力を振るった(ように見える)ラウラに一斉に視線が集中する。
その視線に耐えられなくなったか、ラウラは少し焦った風にフィリーネが手放したデザートイーグルを拾い上げる。
「全く、学園内に銃器を持ち込むなど……ん?」
ラウラはデザートイーグルを持ち上げて、何かに気がついたようだった。
無造作に天井に銃口を向け、トリガーを引いた。
パァン、と言う音と共に出てきたのは色とりどりの紙ふぶきと国旗のついた紐だった。
あちゃあ、と言う表情で半身を起こしているフィリーネに、ラウラは問いかける。
「……これはどういうことだ、フィリーネ」
「い、いやぁ……お茶目ってことで☆」
「ふんっ」
「う゛っ」
ラウラの爪先が、正確にフィリーネの鳩尾を突き刺す。
鈍い音と痛そうな声に重なって、朝のホームルーム終了のチャイムが鳴り響いた。
◇
目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。
自分が寝ているベッドと、それを外部から隠すように視界に広がる白いカーテンの様子から、保健室に居るのだということはわかった。
「……どのくらい寝てたのかにゃ?」
「1時間だ」
「あ、千冬教官」
カーテンを開けて入ってきたのは、以前ドイツでお世話になった教官、千冬教官だった。
黒のスーツがキマっている。うへへ、そそりますのぅ。
「織斑先生と呼べ、馬鹿者が」
「ふぎっ!?」
右手に持っていた出席簿の角が、脳天を直撃。
出席簿と言う武器を最大限生かした攻撃に、予想外のダメージ。
流石です、織斑先生。
「いきなり教室で騒ぎを起こし、場を乱すだけ乱して気絶して私の授業を受けないとはいい度胸だな」
「千冬きょ……織斑先生も知ってるでしょ? 私はISの知識は完っ璧! もう私に座学は必要無いにゃ」
「……まぁ、知識だけはな」
「たはー、手痛いお言葉」
「次の授業は実習だ。お前は特別に私が見てやろう」
「マジですか!? いやー、持つべき物は美人教師ですなぁ、うへへへへ」
「あぁ、感謝しろ」
……ん? 何か千冬教官の目を見ていたら、背筋に寒気が……
「あ、えーと、やっぱり皆と同じメニューでもいいかなー……なんて」
「遠慮するな」
遠慮するな → 断れると思うな → どうあがいても絶望
「……優しくしてね?」
「安心しろ、手取り足取り教えてやる」
あれれ、ぜんぜん嬉しく無いんですが。
つづく