「――このデジカメは、僕から粉ちゃんへのプレゼントっていうことで代金を支払っておいたよ」
「ダメなの。安いものじゃないのに悪いの」
「いいんだよ。粉ちゃんがせっかく人生を再スタートさせるのだからその重要アイテムくらいは贈らせてよ――まぁ、これからの金銭問題については話し合っておくべきだけどね」
そうやって包装を解いたばかりのデジカメを握らせてくる翔。
デザイン重視のチョイスをしたために、コストパフォーマンスがいいとはとても言えないお値段のもの。
なのになんのためらいもなく代金を支払い受け取ってくれたことには心が動かされる。
遊び半分に、玄関にすら出られない状態になるまでイタズラされていたことなんてどうでもよくなってくる……
最近の翔はちょっとだけ変わった。
これまでは放課後うちに入り浸っていたのにありえないくらい手を出してくることはなかったけど。
私のカミングアウトを受け入れてからは、積極的に触れて……揉んで舐めて噛んでくる。羞恥のあまりに気絶してしまうほどの攻勢。
……ぜ、絶対にあんなのはやりすぎているの。
そのくせして唇を奪ったりはしてくれない彼には振りまわされる。
否、――わかっているのだ。
彼に振りまわしているのではなくに『私が』振りまわしてしまっていることは自覚している。
翔は私の性癖を正確にはたぶんわかってはいない。
だから、どういったことではどういうことまで大丈夫なのかを手探りで調べて、理解してくれようとしてくれている。自分でさえ言葉にして説明できるほど把握できていない事柄なのに、翔はさりげな――さりげなくはないけど、ごくごく当たり前に向き合ってくれて、受け入れようとしてくれている。そのことは涙が出るほどに嬉しいの。
ときたま、横着をしているのか、言葉責めによって性癖をさらに上書きしようと企み、自分の植えつけた部分からコントロールしようとしている気配はあるけど……いいの。
翔になら好きなように染められたっていい。
自分のすべてを捧げられるぐらい好き。
(愛してるの、ショウくん――)
「この先、いろんなものが必要になってくると思うんだ。撮影機器だってデジカメ一つじゃ物足りない。撮影には小道具だっている。そういったものをに手に入れるにはやっぱり先立つものが要るよね。粉ちゃんとそういうことでもめ事になるとは考えていないけど、礼儀として、事前に話し合ってべきだよね。割り勘はきついけど、数割くらいならバイトしてでも支払うよ。その分はこっちにこれる時間は減るけぇ…………んぐぅ!」
目を白黒させている翔は可愛かったの。
何があったのかさっぱりわかっていない顔をしていてただ口を手で押さえている。
奇襲は成功。
「ショウくんはお金のことを気にしないでいいの」
「それは流石に男として――じゃなくって! 粉ちゃん?」
「私のこと愛してほしいの」
「熱でもあるの?」
困惑する翔を置いてけぼりに、私は一方的にすりすりしてスキンシップを図るのであった。
「つまり、甘えたいモードなんだね?」
「ようやくわかったの? 遅いの」
「いつもだったら認めないのにこんなに素直だし。可愛いからいいけど」
「へっへーなの」
あれからお姫様だっこをせがんた私はベッドに運ばれていた。
翔と抱き合っている。
服は着ていて愛撫らしいものはないけど、ただ、体温を感じているっていうだけで気持ちよくてたまらない。
178の翔に154の私はすっぽりとおさまっている。
ごろんと転がったまま横になったらこのポーズになったけどお気に入りになりそうだ。
抱きまくらにされている構図。
「胸あたっているけどいいの?」
「あててんのよ」
「使い方間違っているし」
「細かいことはいいの」
別に真正面からあててんのよをしたっていいじゃない。
「ショウくんはわたしの彼氏だからこのくらいのコミュニケーションは当然なの」
「えっ、恋人にしてくれんだ?」
「プロポーズするされる間柄なのにいまさらなの」
「告白イベント飛ばしちゃったのは惜しいんだけど……まぁ、コナちゃんと付き合えるならいっか」
翔の手が背中にかかっている髪を撫でていく。
私は肩甲骨を超えるくらいまで自慢の金髪を伸ばしているけど、指が、触れるか触れないかくらいのタッチで腰までいく。
くすぐったいのに幸福感のある、ふわふわとした感覚。
細身なのに鍛えてある胸板に顔を沈めてゆっくりと時が満ちるのを待ち――
ややして。そっと離れると、どちらからともなく顔をよせあっていた。
互いの吐息が混ざり合って消える。
「ん、んんっー」
息継ぎがよくわからなくなったけどそれでも長くできた。
正解を知らないからいろいろと試した。
何分くらい立っただろうか。
いつのまにのしかかれていたのか気付けなかった。意識したときにはもうそういう姿勢になっていて、重いともなんとも思っていなかった。
まるで夢でも見ていたかのように現実味はなくておぼろげで。
このまま無意識に任せていったらどこまでも発展していってしまいそうで――
だからこそ、あえてここでストップをかける。
そう思ったら……それだけで顔の隣に手をついている翔はそれ以上行動に移さないようにしてくれた。
なんで伝わったのか、彼はじっと私の言葉を待っている。
そのことに言葉にできない感動を覚えてうっすらと涙が滲んできた。
このまま見つめ合っていると声が震えてきそうなので私は真っ直ぐに用件を切り出した。
「ショウくん、聞いてもらいたいことがあるの」
「うん、たぶんそれは僕の聞きたかったことだと思うよ、粉ちゃん」
……話はもうちょっとだけ続くの。
【この後半、続けて粉サイドにしようと思っていたけどあまりに大変なので翔サイドに変更。】
【その女の子はどうしてそういう性癖になったか、なんて、女性の一人称で書いていくには私の筆力じゃできっこありませんでした。すみません】