ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第六話「ふむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。美人だったもので、なんの疑いもせず秘書に採用してしまった」――魔法学院の学院長室にて、任務を達成して帰還した四人の報告を聞いたオスマンが、重々しい口調でふざけた発言をした。「一体、何処で採用されたんですか?」 隣に控えていたコルベールが呆れ口調で尋ねる。「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」「……で?」――コルベールが無表情で先を促す。オスマンは照れたように告白を続ける。「おほん。それでも怒らないので「秘書にならないか?」と言ってしまった」「……なんで?」 その場にいた全員がオスマンを白い目で見始めていた。理解に苦しむと言った口調でコルベールが全員の総意を口にする。「――カァーッ!!」――何を思ったか、いきなりオスマンが凄まじい迫力で怒鳴った。が――「……」(ジロッ)「うっ……! あ、あ~……こほん」 カインの更に桁違いの威圧感に気圧され、オスマンは冷や汗を流しながら誤魔化すように咳払いをする。「おまけに魔法が使えると言うもんでな」「死んだ方が良いのでは?」 コルベールが呟くと同時に、全員が「うん、うん」と頷く。「今にして思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない! 居酒屋でくつろぐ私の前に何度もやって来て、愛想良く酒を勧める。魔法学院学院長は男前で痺れます、等と何度も媚を売り売り言いおって……。終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる? とか思うじゃろ? なあ? ねえ?」 オスマンの必死の言い訳を聞くうちに、何故かコルベールの顔色が悪くなっていった。そして――「そ、そうですな! 美人はそれだけで、いけない魔法使いですな!」「その通りじゃ! 君は上手い事を言うな! コルベール君!」――何を思ったか、オスマンの言い訳を肯定するような事を言い出し、オスマンと同調して頷き合う。何か後ろめたいことがあるのだと、自ら公言しているようなものだ。 結果的に、ルイズ達四人は、コルベールにも冷ややかな視線を向けるようになった。 彼女達の冷たい視線に気づいたオスマンは、また誤魔化すように咳払いをすると、真面目な表情でルイズ達に向き直る。「さてと、君達はよくぞフーケを捕え、『賢者の杖』を取り戻して来た。フーケは、城の衛士に引き渡した。そして『賢者の杖』は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」 オスマンの褒め言葉に、ルイズとキュルケはどこか誇らしげに胸を張る。「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。ミス・タバサは、既に『シュヴァリエ』の爵位を持っておるから、精霊勲章の授与を申請しておいた」「本当ですか!?」 キュルケが驚いた声を上げた。オスマンは笑顔で頷く。「本当じゃ。良いのじゃ、君達は、そのぐらいの事をしたんじゃから」 オスマンの言葉に、ルイズ達はそれぞれ喜びの笑顔を浮かべる。 そこで、ルイズはふと浮かない顔をしているカインに気が付き、オスマンに尋ねた。「……オールド・オスマン。カインには、何も無いんですか?」 ルイズの問いに、オスマンもすまなさそうな表情になる。「……残念ながら、彼は貴族ではないからのぅ……」 視線を向けられたカインは、首を横に振る。「気遣いは無用だ。俺は、恩賞などに興味はない」 カインの言葉に安心し、オスマンは頷き手を打って、全員の視線を集める。「さて、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『賢者の杖』も戻ってきたし、予定通り執り行う」「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」 キュルケは瞳を輝かせる。「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意して来たまえ。精々、着飾るのじゃぞ」 ルイズ達三人は、一礼すると扉に向かう。だが、カインはその場を動こうとしない。ルイズも立ち止まり、振り返る。 それに気付き、カインが僅かに振り向く。「先に行け。俺は、オスマン殿に尋ねたいことがある」 ルイズは心配そうな表情で見つめていたが、カインの言葉に頷き、学院長室を後にした。 それを確認して、カインがオスマンに向き直る。「……して、ワシに尋ねたいこととは、何じゃね? 爵位を授けられん代わりと言ってはなんじゃが、ワシに答えられる事ならば、可能な限り答えよう」 カインは、一呼吸置いてから尋ねたかった事を口に出した――。「――あの『賢者の杖』と呼ばれている杖は、どういった経緯でここの宝物庫に収められたのか、聞かせて頂きたい」 コルベールは不思議そうな表情で首を傾げ、オスマンに視線を向ける。それを受け、オスマンは重々しく口を開いた。「……あれは、ワシの命を救ってくれた恩人の遺品なのじゃ」 遺品――この言葉で、持ち主が既に死亡していることが分かる。オスマンは、当時を思い出しているのか、その表情は暗く、哀しみが混じっている。「……三十年前の事じゃ。森を散策していたワシは、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『賢者の杖』の持ち主じゃ。彼は、見た事もない強力な魔法を操り、ワイバーンを倒すと、その場にばったりと倒れおった。酷い怪我をしていたのじゃ。ワシは彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、その甲斐もなく……」「……死んだ、か」 オスマンは目を閉じて、頷く。「ワシは、彼を手厚く埋葬し、彼が持っていた杖を、彼への敬意を込めて『賢者の杖』と名付け、宝物庫にしまい込んだ。恩人の形見としてな……」 その恩人を想い、オスマンは遠い目で虚空を見つめた。「彼はベッドの上で、死ぬ間際までうわ言のように繰り返しておった。『ここはどこだ。ミシディアに帰らなければ』とな……」「ミシディア……。やはりそうか……」 カインは自分の想像がある意味的中していたことを知り、呟く。それを聞いたオスマンがカインに視線を向ける。「やはり、とはどういう事じゃ?」「ミシディアは、俺の元いた世界に存在する魔道士達の街の名だ。その男は、恐らくそこの魔道士だったんだろう」 カインの言葉に、オスマンとコルベールは驚き、顔を見合わせる。「ちなみに、『賢者の杖』の本来の名は『ミスリルのつえ』と言う」 この杖は“ミスリルの村”という小人族・ブタ族・カエル族が暮らす村で、彼らがミスリル銀を加工して作る武器の一つで、特定の状態異常を正常に戻す魔法が封じ込められている。ちなみに、現在カインが装備している防具もそこで作られた品である。 使い方は基本的に、ただ念じれば良いだけだ。しかし、封じ込められた魔法は、効果がなければ何も起こらない。恐らくフーケは、手近な物で試してみてたが、使用出来た事に気付いていなかったのだろう。――カインの説明を受け、コルベールが興味深げに瞳を輝かせる。「ほう、この杖は全てミスリル銀で出来ているのですか! 随分と贅沢な杖ですなぁ。しかも、そのような魔法が込められているとは。ふ~む……」 コルベールは“ミスリルのつえ”を手に取り、様々な角度から観察している。研究者としての血が騒いでしまった様だ。 対してオスマンは、杖よりも、自分の恩人のことがわかったことに、僅かながら喜びを感じている様子だった。「……そうじゃったか。彼は、おぬしと同じ世界からやってきた者じゃったか」「ああ。……その男も、誰かによってこちらの世界に召喚されたのだろうか?」「それはわからん。どのような方法で彼がこちらの世界にやって来たのか、最後までわからんかった」「……そうか。手がかりには、ならなかったか……」 オスマンの回答に、カインは僅かながら落胆する。しかし同時に、元の世界とハルケギニアには何かしらの繋がりがあるという可能性は高くなった。――まだ、諦めるのは早い。カインは気持ちを切り替えて、次の質問に映る。「もう一つ聞きたい。『ガンダールヴ』とは、何だ?」――その言葉にオスマンの表情が厳しくなり、夢中で杖を観察していたコルベールも振り返った。 カインは左手の“ミスリルのこて”を外し、二人にルーンを見せる。「フーケが俺をそう呼んでいた。それに、以前から気になっていた。ギーシュとか言った小僧と戦った時、そして、フーケと戦った時もそうだった。武器を手に取り、闘争本能が高ぶると、左手が光り、身体能力が高まる。それに武器の特性が頭に流れ込んでくるような妙な感覚も覚えた。……あんた達なら、何か知っているんじゃないか?」 オスマンは俯き、しばし悩んだが、やがて意を決したように顔を上げた。「……おぬしのその左手のルーンは『ガンダールヴ』のルーン。伝説の使い魔の印じゃ」「……伝説の使い魔?」 オスマンは頷く。「うむ。古い文献には『ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし主を守った』とある。恐らく、先程おぬしが言った“妙な感覚”はそれに依るものじゃろう」 カインは、自分の左手の甲を見つめながら呟く。「……何故、俺がその『ガンダールヴ』とやらになった?」「わからん」――オスマンはきっぱりと答えた。カインは、溜め息を吐く。「結局、何もわからん……という訳か」「すまんのう。ただ、もしかしたら、おぬしがこのハルケギニアに来た事と、その『ガンダールヴ』の印は、何か関係があるのかも知れん」 オスマンが言った事は、カインにとって何の参考にもならないことだった。わかったのは、自分が伝説とされた使い魔『ガンダールヴ』になったこと。戦いの際に感じた、あの感覚がそれに因るものだったこと……それだけだった。「責任を持って帰る方法を探す、等と言った矢先に力になれんで、すまんのう。だが、これだけは言っておく。ワシらはおぬしの味方じゃ。『ガンダールヴ』よ」「――俺の名は“カイン・ハイウインド”だ。それ以外の何者でもない」 カインの言葉に、オスマンは「はっ」と自分の失言に気が付き、頭を下げる。「……重ね重ねすまんのう。そうじゃった……。カイン君、よくぞ恩人の杖を取り戻してくれた。改めて礼を言わせておくれ」 カインは「ああ……」と短く答えるだけだった。「引き続き、ワシとミスタ・コルベールでおぬしが故郷に戻れるよう調べを進めよう」 オスマンの言葉に、コルベールも強く意志を込めて頷く。「礼を言う。オスマン殿、コルベール……」「うむ……じゃが、何もわからなくても、どうか恨まんでくれ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。何なら、嫁さんも探してやる」「――結構だ」 その場の空気を和らげるように、オスマンは軽口を叩く。そして彼の目論見通り、その場の緊張感は和らいだ。 それを見て、オスマンは机の引出しから小さな袋を取り出し、カインの元に歩み寄った。「これは僅かじゃが、心ばかりのお礼じゃ。受け取ってくれ……」 オスマンはそう言って、カインにその袋を渡した。中を見てみると、エキュー金貨が百枚近く入っていた。「――っ! オスマン殿、これは……」「……」 オスマンは、皆まで言うなとカインの言葉を手で遮り、「受け取ってくれ」と笑って見せる。 カインは、オスマンの意を汲み取り、それを受け取ることにした。そして、もう一度軽く頭を下げ、学院長室を後にした……。 その夜…… アルヴィーズの食堂の上の階にあるホールでは“フリッグの舞踏会”が催され、着飾った生徒達や教師達で賑わっている。会場には、豪華に盛り付けられた料理がテーブルに並べられ、高級なワインが何本も用意されていた。参加している者達は、一様に楽しげである。――そんな中、カインは一人、バルコニーの枠に腰かけ双月を眺めていた。 傍の枠には、シエスタが気を利かせて持って来てくれた肉料理の皿とワインの瓶が置いてある。それで、舞踏会が始まってからずっと手酌で飲んでいた。 カインは元々、宴の類はあまり好きではない。舞踏会の様な騒がしい雰囲気は性に合わず、こうして一人で静かに過ごしていたのだ。「――どうしたい、相棒? 折角の舞踏会だってのに、黄昏ちまって」――否、一人ではなかった。傍らにお喋り好きのインテリジェンスソードのデルフリンガーが立て掛けられていた。「ああいった雰囲気はあまり好きじゃない……」 そう答えて会場に目を向ければ、綺麗なドレスに身を包んだキュルケがいた。彼女はパーティが始まる前に、踊りに誘ってきたのだが、カインはそれを丁重に断った。その時は、渋々引き下がっていったが、今は大勢の男達に囲まれ談笑している。テーブルでは、黒を基調としたパーティドレスを着たタバサが、盛り付けられた豪華な料理を相手に格闘している。彼女も先程、カインに分厚いロースト肉が乗った皿を渡しに来た。人との関わりを避けていた彼女にしては、珍しい行動だった。――各々、この舞踏会を満喫している。カインは壁に寄り掛かりながら、彼女達を見て微笑する。 そして双月に視線を戻し、グラスのワインを飲み干した――その時だった。『ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~り~~~~!』 門に控えた衛兵がルイズの到着を告げると、ホールの扉が開き、ルイズが姿を現した。「ほう……」 その声に視線を移したカインは、素直に感嘆の声を漏らす。白に近い薄い桃色の清楚なパーティドレスを身に纏うルイズには、普段とは違う、気品を感じさせる。 その美貌に驚いた周囲の男達が、さかんにダンスを申し込んできたが、ルイズはバルコニーに一人で佇むカインに気付くと、彼らの誘いを全て断わって、カインの元に近寄った。「楽しんでるかしら?」「それなりにな」 手に持っていたワイングラスを掲げて、カインは答える。「おお、馬子にも衣装じゃねえか」「うるさいわね」 デルフリンガーが冷やかすように言うと、ルイズは彼を睨みつける。その様子を見て、カインは僅かに笑い、再び双月に目をやりながら尋ねた。「お前は、踊らないのか?」 カインが示した方を見れば、会場では、貴族達が優雅にダンスを踊り始めていた。ルイズは、それをチラリと見る。「相手がいないのよ」「随分、誘われていたようだが?」 ルイズは答えず、少し頬を染めながら、カインに向かって手を差し出す。「……?」「お、踊ってあげても、良くってよ」 ルイズの遠まわしのダンスの誘いに、カインは苦笑する。「生憎、俺はダンスの経験も心得も無くてな」「そ、そう……。そ、それなら! わ、私がリードしてあげても良いわよ……?」 無理やりな言い回しで、食い下がるルイズを見て、カインは苦笑しながらその手を取った。「あ……」「ステップも知らぬ無骨者でよろしければ、お相手しよう」 カインの言葉に、ルイズの表情が明るくなる。――だが、ふと気が付いたことを口にした。「ねえ、こんな時ぐらい、その兜を外したら?」「――!」 ルイズの何気ない言葉に、カインは息を飲む。しかし――「……そう、だな……」 僅かな沈黙を持って、カインは決心した。そして、両手で兜に手を掛ける。「…………」――彼が、その兜で自らの顔を隠すようになったのは、もう何年も前の事……。 ある女性に特別な想いを抱いた。……そして、すぐにその女性の心が求めていた人物を……その人物が、長年の親友でありライバルである男だと知った。 その時――自らの暗く、醜い感情を自覚した。――それは、『嫉妬』……そして、『憎悪』……。 彼は、そんな感情を親友に抱いた自分を恥じた。 誰かに……二人に、それを悟られる事を……自分の醜さを知られる事を恐れた。 だから、表情を隠すためにこの形の兜をかぶり、人前では外さなくなった。 いつの間にか、それが当たり前になってしまっていた……。その事すら忘れてしまっていた。――だが……もう良いだろう。いつまでも、この仮面に頼っていてはいけない。乗り越えなくてならない。 邪悪なる心は消えはしない……。どんな者でも、聖なる心と邪悪なる心を持っている かつて、ある月の民が言った言葉―― しかし、邪悪な心がある限り、聖なる心もまた存在する 一歩、踏み出してみよう。向き合ってみよう――己の中の邪悪な心に……。 ゆっくりと兜が外され、カインの素顔が露わになる――。「――っ!」――ルイズは息を飲んだ。今まで見た事の無かった……そして今、初めて見た、彼の素顔に。 青く澄んだ瞳、後ろで纏められた金色の髪――美しく、そして凛々しい“カイン・ハイウインド”という男の素顔が、そこにあった。「…………」 ルイズの頬は赤く染まっている。だが、その顔から目が離せずにいた。カインは、当人は否定するだろうが、正しく“美男子”である。 ギーシュの様な、ただ顔立ちが整っているだけとは違う。その顔には、確かな“頼もしさ”がある。瞳一つ取ってみても、男らしい力強さがあるのだ。 ルイズでなくても、女であれば誰もが見惚れることだろう。――惜しむべきは……当のカイン本人が全く無自覚なことであろう。「……どうした? ルイズ」 ぼーっとした表情で自分を見つめているルイズに、カインは首を傾げながら声を掛ける。その声に、我に返ったルイズは慌てながら、顔を逸らした。「――な、なななっ、なんでもないわ! さ、さっさと行くわよっ!!」 自分の手を掴んで、引っ張りながら先を行くルイズの様子に、カインは苦笑しながらもついて行く。 会場の中央に躍り出た、奇妙なペアが周囲の者の視線を集めた。そして、音楽に合わせてダンスが始める。 カインは、確かにダンスの心得は無い。だが、公爵令嬢としてダンスの英才教育を受けてきたルイズのリードもあって、二人の踊りは中々様になっていた。しかも、鎧姿の美青年と小柄で可憐な少女という奇妙な組み合わせもあって、それは自然と周りの目を集めた。そして主に女性はカインを、男性はルイズを見て溜め息を吐く。「ねえ、カイン」「なんだ?」 そんな周囲の視線を余所に、カインとルイズは踊りながら会話を交わしていた。ルイズは、僅かに表情を暗くして口を開く。「……帰りたい?」 僅かに俯きながら、そう尋ねてくるルイズにカインは本心を語る。「まあな。しかし、今はその方法がない。見当もつかん。もうしばらくは、ここで生活することになるだろう」「……そうよね……」 カインの返答を聞き、ルイズはそう呟き、しばし口を閉ざす。そして、ぽっと頬を赤くし、しばらくモジモジしていたが、意を決したようにカインを正面から見つめて、口を開いた。「……ありがとう」 カインは突然の感謝の言葉に、それが何に対してなのか分からなかった。それを表情から読み取ったルイズは、赤い顔のまま恥ずかしそうに目を逸らす。「……その……、フーケのゴーレムに、潰されそうになった時、助けてくれたじゃない」 ルイズの呟くような声に、カインは「そんなことか……」と微笑する。ルイズはそれを見て、不貞腐れるように頬を脹らます。「な、何が可笑しいのよ?」「いや、何……。まだ気にしていたのか、と思ってな」「き、気になんか……してないわよっ」 プイっと顔を逸らすルイズ。その様子にカインは、微笑を湛える。「俺は、当然のことをしたまでだ。助けられる命を見殺しにするのは、竜騎士の名に恥じる行いだ。それに……」「……?」 言葉を切ったカインに、ルイズが顔を戻して見つめた。それを見て、カインは再び微笑する。「……俺は、お前の“使い魔”なのだろう? ならば、お前を護るのは、当然のことだ」「おでれーた! 相棒はホントにてーした奴だぜ! 主人のダンスのお相手を務める使い魔なんて、初めて見たぜ!」――その夜の舞踏会の光景……そこで踊る二人を眺めながら驚きの声を上げるデルフリンガーの横で、双月に照らされた竜の兜が静かな輝きを湛えていた……。続く……かも