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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」
Name: スパイク◆b698d85d ID:519a7d14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/03 09:29
 腰程まである色素の薄い頭髪に、線の細い眼鏡。まるで何かの衣装かと思うようなゴスロリファッション――忘れたくても忘れられない。全身から冷や汗が吹き出すのを、明日菜は感じた。

「あっ……あん、た」
「ああ――思い出しました。あの時の“坂本龍馬”はんですな? その節はどうも――ご迷惑をお掛けいたしました」

 にこやかに手を振るその少女に、明日菜は動けない。
 月詠――そう名乗っていた、天ヶ崎千草の手先だった少女。しかし彼女は、主である天ヶ崎千草や、先程言葉を交わしていた犬上小太郎とは、明らかに違う人間。
 一言で言うなら、人間として大事なものが、切れているとでも言うべきか。あの時シネマ村で、シロの助けが一瞬遅ければ、明日菜は彼女の“気まぐれ”によって、首を斬り落とされていた。
 そんな相手が――何故、ここにいる?

「明日菜殿、どうか――お主」

 奥から顔を出したシロもまた、一瞬で体を緊張させる。

「……何故お主がここに? よもや拙者への意趣返しと言うわけでも御座らぬであろうが」
「ご冗談を。ウチはもう、そんなつもりはありませんえ?」

 対して少女――月詠の表情は、緩い。もともと見た目には可憐な少女である。だが、油断は出来ない。小太郎とは違い、彼女は本物の戦闘狂だ。戦いに取り憑かれ、精神が完全に壊れてしまった者。
 強い者との戦い――それも命の遣り取りに快感を見いだす、異常者である。そんな彼女に、明日菜は――

「遅いお帰りね。何処で道草を食っていたの?」
「ちょっ……お、奥さんっ!?」

 腰に手を当てた新田夫人が、警戒する様子もなく彼女に近づいた。身長差から見下ろされるような格好になった月詠は、上目遣いに彼女を見上げる。

「人聞きの悪い。道草なんて食ってませんよ――ああ、これが世に言う嫁いびり、言う奴なんやろか……」
「しな作ったって可愛くも何ともないわよ。今主人の教え子に台所手伝って貰ってるから、あんたもそっちに加わりなさい」
「……教え子? 人狼のお姉さんが、ですか?」
「……いかにも、拙者、新田教諭の教え子で御座るが」
「あれまあ――何というか、世間は狭いですなあ。まさかこんな形で人狼のお姉さんと再会することになるなんて」

 相変わらずにこやかな微笑みを顔に貼り付けたまま、彼女は言う。
 それを見た新田夫人の眉が、小さく動いた。

「――あなた達、こいつの知り合い?」
「知り合いというか――何と言いますか」
「深い深い間柄どすえ」
「せいぜいが“不快”な仲で御座るよ」

 シロは首を横に振り、言う。

「それで、まだ返答を聞いておらぬが? 何故お主が、この麻帆良に居るので御座るか?」
「何故と言われましても――運命と言う奴でっしゃろか」
「真面目に応えよ」
「ウチとしては十分真面目なつもりなんですが……まあ、アレですわ。犬上君と同じで、暁光寺はんのつてで、こちらのお宅に保護観察処分と言う奴で」
「お主がか?」
「意地を張っても仕方ありませんし、張る理由もありませんしなあ」
「……ま、何でも結構で御座るよ。あの時のように、拙者らに刃を向ける事が無ければ」

 シロの言葉に、明日菜の喉が鳴る。全く、火鉢の側で火薬遊びをするようなものだ。そんな緊張感が、この空気にはある。

「その事を気にしよりましたん? それこそ犬上君と同じやないの。ウチにはもう、お姉さんと戦う理由がありませんよ?」
「は――何を抜かすか。あの時の拙者に向けられた粘つくような殺気、早々に忘れられぬものでは御座らぬよ?」
「ああ――そのことですか」

 何せ彼女は言った。自分は殺し合いが好きなのだと。美しい相手と命を賭けて戦うことが何よりも好きなのだと。シロや刹那に向けられていた視線を、明日菜は覚えている。全身にからみつくようなあれは、今日絡んできた不良達の、劣情に駆られた視線よりもずっと、気持ち悪くて恐ろしかった。
 そんな明日菜とシロの視線を受け、月詠は――

「ごめんなさい人狼のお姉さん――京都ではお姉さんに愛の言葉を呟きましたけど――あれは、間違いやった」
「は?」

 深々と、シロに向かって頭を下げる。
 当然シロは意味がわからず立ちつくし、明日菜もそれは同様である。
 だが何故だろうか、そんな月詠の後ろ姿を見て、彼女は思った。これは、何だか――

「あれからウチは、真実の愛に目覚めたんです。せやから――思わせぶりな事を言うてもうて、ホンマにごめんなさい。せやけどウチ、お姉さんの事はもう」
「……いや、お主一体、何を言っているので御座るか?」

 何だか――そう思った明日菜は、思わずぽつりと呟いた。

「え……シロちゃん、フラれたの?」
「どっ……どこをどう解釈すればそうなるので御座るか明日菜殿!? 拙者はそっちの気は御座らんと言うか常日頃から横島先生一筋であると申しておるが!?」
「あ、いや……それはわかってるんだけど、何か今のそいつとシロちゃん見てると、そんな言葉が浮かんだ」
「明日菜殿は拙者を一体何だと!?」
「お姉さん……お姉さんの気持ちは、重々わかります。罵ってもろうても、結構です。せやけどウチは、もう、自分の気持ちに嘘がつけへんのです」
「だからお主も何を寝ぼけた――」
「ところでご主人様は何処ですか?」
「聞くでござるよお主!? 一体何が――ご主人様?」

 普通に生活していたのではまず聞き慣れない言葉――何処か趣味生の強い店にでも行けば話は別かも知れないが――に、思わず顔を真っ赤にして、もはや油断も何も無しに月詠に掴みかかろうとしていたシロは、動きを止める。
 そんな彼女に構うことなく、月詠は辺りを見回し――ふと、何かに気がついたように、持っていた買い物籠をテーブルの上に置く。

「お風呂場で汗を流しとる所ですな? こうしちゃいられませんえ、さっそくウチもご一緒して、お背中を――」
「ちょっと待てやそこの小娘」

 新田夫人が、月詠の襟首を引っ掴む。首に布地が食い込んだ彼女は、咳き込みながら涙目になりつつ、彼女を振り返る。

「何ですの」
「どうもうこうもあるか。あんた今何をしようとした」
「せやから湯浴みにご一緒して、お背中をお流ししようかと」
「寝言は寝て言え」
「こんな事冗談で言えますかいな。そんなかりかりしとらんと――小じわが増えますえ?」
「余程命が要らないと見えるわね小娘」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください奥さん!?」

 もはや火鉢の側でダイナマイトという騒ぎではない。原子炉の制御棒のクレーンゲームである。明日菜は慌てて止めに入ろうとして――指先に力が入らない事に気がつく。
 殺されかけたことへの、恐怖。普通の女子中学生ならまず体感する事のない、その度を超した負の感情が、明日菜の体を縛り付ける。顔から血の気が引くのがわかる。胸焼けに似た、吐き気のような感覚までもが――

「その辺りにするで御座るよ、お二方」

 そんな中に、ごく自然に、シロは割って入った。

「月詠――と言ったか。お主のことは後で嫌でも聞かせて貰うで御座るが、ここで睨み合っても良いことなど何もない。丁度拙者らが待っておった豆腐を買ってきてくれたので御座ろう?」
「……まあ、そうですなあ。腹が減ってはなんとやらと言いますし――ほならウチは、買い物籠を置いて参りますえ」

 そう言って、踵を返した月詠は、暖簾の向こうに消えていく。
 その後ろ姿を見遣って――シロは、明日菜に言った。

「……大丈夫で御座るか?」
「あ……あ、う、うん……平気」
「奴の真意は未だ知れぬが、保護観察という話が本当なら、ここで馬鹿な行動には出るまいよ。少なくとも、先程の遣り取りで、彼女からは殺気を感じなんだ」
「……あの、シロちゃん――私」
「普通の中学生なら、それが当然の反応で御座るよ。何――あれは確かに嫌な記憶ではあるが、たとえば交通事故にあったとて人は死ぬ。トラックに轢かれ掛けて命拾いをしたとでも思えば、割り切れる」
「……」
「安心されよ。拙者の目の黒いうちは、拙者の大事な親友――あのような輩には、指一本触れさせぬで御座るよ」

 心の底が凍り付くような、冷たい感覚はまだ消えない。だが、シロの笑顔は、明日菜の心を、ほんの少しだけ温めてくれた。だから、彼女も――まだ、ちゃんと笑えている自信はないが、シロに笑い返す。

「ん……お願い。私何だかんだ言って、ただの女の子だから。友達にこういう事言うのも何だけど――横島さんの次くらいでいいから、助けてくれたら、嬉しいな」
「愚問で御座るよ。拙者――」

「うぉおおっ!? つっ――月詠!? お前は一体、何をしているっ!?」
「おわあああああ――何考えとるんや月詠の姉ちゃん!? 男子入浴中やっ! 俺かておるんやでっ!?」
「ウチはご主人様のお背中を流しに――犬上君もそない騒がんでもええやないの。ウチは犬上君がおっても気にせえへんで?」
「俺は気にするわいっ! ええから向こう向けやっ! ほんでちっとは隠さんかいっ!」
「結局てめえは諦めねえのかこの色ボケ小娘が――良い度胸だ表に出ろ二度とそんな気起こらねえようにしてやっからよお!!」
「お前も落ち着け口調がいろいろと昔に戻っている――とにかくこの子を引っ張り出して――まとわりつくなあああ!!」
「うふふ――赤くなってもうて、ほんに、かわいらしわあ……」
「――てめえマジ殺す」

 風呂場の方から響いてきた喧噪に、明日菜とシロは顔を見合わせる。

「……ねえシロちゃん、ホントに一体、何が起きてるの?」
「……それは拙者に問われても。どう思うで御座るか、麻帆良のパパラッチを自称しながら我関せずを決め込んでいる和美殿」
「やめてよシロちゃんそのキラーパス。あたしだってさすがに首突っ込みたくない場面だってあるわよ――具体的にはこういう時とか」




「せやからウチは、真実の愛に目覚めたんよ」
「順を追って話すで御座るよ」

 体にバスタオルを巻いて――というよりもバスタオルに簀巻きにされたような格好で、新田夫人に首根っこを引っ掴まれた月詠が言ったのが、それである。むろんそれに対するシロの返答は、もっともなものだと言うべきだろう。

「お恥ずかしいですけど、ウチは京都の古流剣術――神鳴流を修めた人間の中でも異端視されとりました」
「あれだけの危険思想の持ち主なのだから、当然で御座るな」

 神鳴流は本来、人間の世界の裏に蠢く魑魅魍魎――人智の及ばない存在から、人々を守るために編み出された、超人の剣術である。達人ともなれば雷の如き速さで大地を駆け抜け、その刀の一振りは、巨大な鬼をも一撃の下に斬り捨てる。
 そして月詠という少女は――その強さに魂を捕らわれてしまった人間であった。

「刀を振り回して鬼退治なんて、言い方は悪いけどただの作業ですわ。せやけど、人間同士の戦いは違う。負ければ死ぬ、極限の戦い――研ぎ澄まされた技と、鍛え上げた体、戦士としての直感、相手を出し抜く極限の思考――そのぶつかり合いの、何と美しい事」

 その命の遣り取りは、何よりも美しい。そして自分が勝利を収めるその瞬間――相手の命を刈り取る必殺の一撃を繰り出すその瞬間の快感と言ったら、言葉には出来ない。それが自分を戦いに駆り立てるのだと、月詠は言った。
 明日菜は、自分の拳に力が入るのを感じた。こいつは――間違いなく、狂っている。
 何をして人として正しいか間違っているかなど、所詮流動的な尺度である。高らかにそう言うことが言えるほど、自分が偉いとも思わない。けれど、理屈などどうでも良い。こいつは確かに、間違いなく、完全に狂っている。明日菜は、そう思った。

「お主の言うこと、理屈としてはそう言うこともあるかも知れぬ。以前にお主が言うておった、日本刀がただの武器でありながら、こうも美しいのはかくなる故と」

 刀は、人殺しのために存在する刃物である。どれだけお題目を唱えたところで、その事実から逃れられるわけではない。
 しかし――今更それを念仏のように繰り返す理由も、また存在しない。

「左様――刀を美しいと思うことが、悪いわけではない。そこに人を斬る事を結びつけないことが生ぬるいならば、それはそれで良いでは御座らぬか。今更それを恥じようとは思わぬし――お主の考えを、拙者は胸を張って否定するで御座るよ」
「人狼のお姉さんなら、まあそう言うと思っとりましたわ」

 あくまで軽い物言いに、シロの眉が小さく動く。
 だが――月詠は、すぐに首を横に振った。

「でもま、今はもう、そう言うことはどうでもええんよ」
「……?」
「せやかて――命を奪い合う戦いやない。相手を守り、育て、時に諫め――そう言う戦いがこの世の中にはあって、それがあない美しいものやなんて……ウチ、知らんかったもん」

 うっとりとした顔で言う月詠に、明日菜もシロも、首を傾げるしかない。

「……そこの悪ガキと同じやり方が、思いっきり裏目に出たのよ」

 解答をもたらしたのは、疲れたような顔で呟いた新田夫人だった。
 実のところ、小太郎がこちらに来たのは手続きの都合で今日――たまたま明日菜達に出くわしたのがその帰りであるらしいが、彼女、月詠がこちらに来たのは、それより一週間早かった。
 しかしそれでも一週間である。あの狂った少女をただの一週間で、何がこうまで変えたのか?
 それは、彼女がこちらにやってきた日にまで遡る。
 小太郎とは違い、月詠は自分のことを、暁光寺ら京都府警には一切語ろうとしなかった。もとい、今も自分の出自に関しては口を開いていない。そんな彼女を小太郎と同列に扱って新田の下に送るには、暁光寺も難色を示したと言う。
 それは刑事としての直感だろうか。彼女が――不良娘などと言うには生ぬるい「危険人物」であることを、見抜いたのは。
だが結局、そちらについても論拠があるわけではないのだ。果たして月詠は新田に引き取られる事が決まり――その段になって、彼女は何も変わっては居なかった。人を斬る事に快楽を見いだす“狂人”のままだった。

「何となく想像は付いたでござるが――」
「いくら新田先生にメタメタにやられたからって、これだけイカレた奴がそう簡単に変わるもんかしら? いや――今もまともになったって訳じゃないけどさ」
「まあ、ウチかて変われば変わるもんやと自分でも思いますえ? せやけど、こればっかりは、それを自分の事として経験したウチ自身やないとわかりませんよ。まあ、今日めでたく同じような目に遭った犬上君なら、少しはわかるかも知れませんけど」
「妙な目線を向けるんやないわ。多少思うところはあったにせよ、自分が月詠の姉ちゃんの同類とは思いとうない」

 バスタオルで頭を拭きながら、げんなりと言う小太郎。言葉通り、彼としては色々思うところがあるのだろう。
 ともかくその“狂人”は、その日新田に完全に敗北した。獲物が真剣でなく木刀だったとはいえ、それは考慮する必要はないだろう。それでも当たり所が悪ければ人は死ぬし、「獲物を選ばず」と言われる神鳴流に、素手で挑んで相手に音を上げさせる事実に比すれば、些細なことである。

「ウチはあの時打ちのめされて――多分、一度死んだんやと思う。剣士としての、狂人、月詠としてのウチは――あの時に」

 頬を染め――小さく笑みを浮かべて、月詠は言う。
 顔だけ見れば見惚れるほどに可憐だが、格好のせいで台無しである事は、この際言うまい。

「そんな、骸になってもうた――からっぽのウチに、ご主人様は教えてくれたんよ。ウチらが持つ力の意味を――この世で生きていくことの、素晴らしさを」
「えらく持ち上げてくれるが、それは結局一時の感傷に過ぎんよ。私はそれほど大層な事を言った覚えはないし、今日の犬上との事にしても、私の自分勝手と言い換えても良い。決して褒められたやり方では――」
「はいはいはいはい。あなたは黙って引っ込んでいてくださいな。これ以上話をややこしくしないでください。ね? ねっ!?」

 夫人に引きずられていく新田を、それでもうっとりとした視線で見送って――月詠は言う。

「人狼のお姉さんは、京都でウチに言いはったよね? 自分には「先生」言う人との間に子供を作るて言う――大事な努めがあるて」
「……シロちゃん……」
「シロちゃんなら納得って気もするけど――ねえ、それ横島さんが聞いたら、さすがにヒクんじゃない?」

 生暖かい目線を向けられたシロがわたわたと慌て、小太郎が心底疲れたような溜め息を吐き――そんな様子を見遣りつつ、月詠は言う。

「ウチは人狼のお姉さんが言うこと――今なら、わかりますえ?」
「……いやシロちゃん、そこで“我が意を得たり”みたいな顔しないでよ。さすがに私だってまだ、こいつへの警戒やめたわけじゃないよ?」
「お姉さん方には、わかりませんの?」

 相手が相手であるということも忘れて胸を張るシロはともかくとして――明日菜と和美は、顔を見合わせる。
 突き詰めれば好きな相手が居るのであれば、シロの言葉は一つの夢の形なのかも知れない。けれどいくら何でも、それは色々と駆け足が過ぎると言うものである。

「別にそれが全部やありまへん。ウチらには皆、ウチらの夢があって、幸せがあって――そう言うモンがあるんや。誰でもそういう心の中のキラキラした宝物みたいなものを大事にして、毎日を生きとる――そうやって生きてる人間言うんは、自然と輝くものなんよ」
「……あんたが言うと説得力無いわね。この間のあんたは、その「キラキラ」をぶち壊すのが大好きだって、そういう感じだったじゃないの」
「せやから、それが間違いなんよ。ウチは、人間が――少なくともウチらみたいな人間が一番輝くんは、生きるか死ぬかの戦いの中やとそう思っとった。せやなかったら、ウチやご主人様みたいな力は、ただの人間には過ぎたもんや」

 せやけど、と、彼女は言う。

「自分一人には持て余す力でも、誰かを守れるとなれば話は別や。世の中は無限に広うて、どれだけ力があっても足りへん。よう、過ぎた力は人を惑わせるとか言うけれども――誰かを守ろう思たら、そんなことはあらへん」
「……」
「そうやって、頑張って、守りたい思うて守った「キラキラ」は、いつかまた花を咲かせるんや。ウチはそうやって、みんなの花を咲かせて回る。もしかしたら、ウチに助けられた誰かも、また誰かを助ける事になるかも知れへん。そしたら、そしたら何時か世界は、お花で一杯になるんやないの? それは――自分が一人で、誰かを潰して気持ちようなるよりも、ずっとずっと幸せな事やと、ウチは、気づいたんよ」

 ああ、と、明日菜は気がつく。
 彼女はやはり、何処か壊れているのだろう。結局彼女の物差しは、自分がどれだけ幸せでいられるか――その一点に集約する。今の彼女の言にしても、聞こえは良いがただの身勝手だ。
 けれど――そんな壊れて居るほどに純粋で単純な彼女だから――あっさりと「それ」が出来る。
 少なくとも自分には、そんな馬鹿げたこと、と、鼻で笑ってしまう事を、心の底から信じることが出来る。
 あっけにとられているような顔をしているシロと和美を見遣り、何やら頭を抱えている小太郎に視線が移り――明日菜は、思う。自分は、何処までも、普通の少女なのだろうと。そう思ってしまうと、先程までの話とは何の関係も無いはずなのに、憧れた背中が酷く遠いものに感じてしまう。

「……まあ、それはそれで結構な事で御座る」

 明日菜が、言いようのない感覚にとらわれている事など知るよしもなく、シロは腕を組んで、月詠に言う。

「しかし、それではお主が新田先生をそうまで慕う理由にはならぬ気がするが?」
「何言うてますのお姉さん。ご主人様はウチに、こんなに素晴らしい事を教えてくれはったんやで?」
「恩を返すために自分を捧げようと言うのならやめておくべきで御座るよ。新田先生はそういうやり方を喜ぶお人では御座らぬ」
「ううん、そう言うんやないよ。ウチは、ウチがそうしたいからそうしとるだけや。お姉さんかて、理由があって“先生”の子供が欲しいわけや無いんやろ?」
「う……そ、それはもちろん、そうで御座るが――」
「あかん、その辺にしとけや犬塚。殴り合いならともかく、頭がアレな人間相手に、お前みたいな奴の問答が通用するとは思えんわ」
「それはちょっと失礼やないの犬上君。ウチはやな――」

 目の前のやりとりが、何だか壁を一つ隔てた向こうの世界の事であるように、明日菜には感じられた。




 誰かの話し声が聞こえた気がして、明日菜は目を覚ました。
 徐々に覚醒していく意識の中で、ここは何処だっただろうかと考える。見慣れない天井、壁、押し入れの引き戸――そうだ、ここは新田教諭の家の客間である。
 首を横に向ければ、並んだ布団の上で、シロと和美が小さく寝息を立てている。その向こうには、誰の手によってとは言わないが、ロープと布団で作られたボンレスハムのような物体――もとい、月詠である。果たしてあれで眠れるのものか。普通の人間ならば窒息していてもおかしくはないが――結局明日菜は寝ぼけたせいにして、深く考えるのをやめた。

(――何だろ)

 体を起こす。少し暑さを感じるせいもあって、もう一度布団に戻ろうとは思わなかった。客人用に用意してあったと言う浴衣の襟元を整えて、明日菜は立ち上がる。とりあえず、目が覚めて感じた尿意を解消しておこうと思った。
 左隣に寝ていた木乃香を起こさないようにして、廊下に出る。用を足してから余計に目が覚め、さてどうしようかと考えたところで、先程は気がつかなかった事に気がつく。
 自分たちが寝ていた客間――その向かいにある部屋の扉が、少し開いている。
 あの部屋では確か、ネギと小太郎が寝ていた筈である。千客万来となった新田邸――ネギ達がここを訪れたときの驚きようは、敢えて割愛するが――果たして新田夫人の薦めで、皆でこの家に一晩厄介になることにはなったが、寝る場所と布団の確保にも一苦労だった。結局一番小柄なあげはは、新田夫人と同じ布団にくるまっているはずだ。
 覗き込もうとも思わなかったが――何となく見えた部屋の中には、二組布団が敷かれている。その奥の方、タオルケットをはだけて寝こけているのは小太郎だ。
 その手前の布団には、誰もいない。

「……ネギ?」

 見れば、小太郎の更に向こう側、縁側の方に抜ける窓がある。風通しを良くするために、今は網戸になっているその向こう側に、小さな背中が見えた。
 明日菜は何気なく、そちらに足を向けてみる。寝相の悪い小太郎を蹴飛ばさないようにと思っていたら、もう少しで枕元に丸まっていたカモを踏みつぶすところだった。内心でほっと息を吐き、彼女は網戸の前に立つ。

「ええ――はい」

 小さく、話し声が聞こえる。どうやら彼は、誰かと電話で話しているらしい。右手には、京都で買った土産物のストラップが付いた携帯電話。存外、彼女はそれを見た記憶が少ない。電話をするよりまえにまず魔法で連絡を取ろうとするようなイメージが、目の前の少年にはあった。

「――大丈夫です。今週中には必要な区切りまで進みましたから――ええ、はい――これでどうにか落ち着きそうです。さすがに、のどかさんにテストの準備を手伝って貰うわけにはいきませんでしたから」

 相手はどうやら、彼の教え子であり――“従者”でもある、あの物静かで恥ずかしがり屋な少女らしい。と言っても修学旅行からこちら、彼女は変わったと言うべきだろう。
 常に顔を覆うような髪型が、明るく開放的なものに変わったのを皮切りに――何となく、彼女は以前より明るくなったように思う。
 むろん、前が暗かった、と言うわけでもない。ただ、引っ込み思案で恥ずかしがり屋だったその性格が、随分快活な物になったように感じられるのだ。
 人の機微などに疎い明日菜でさえそう思うのだから、クラスメイトとてきっと同じ事を考えているのだろう。そして、彼女をそういう風に変えたのは、きっと目の前の少年であるに違いない。

「いえ、そういうわけでは――……のどかさんも、夜更かしは駄目ですよ? ――僕が言うと説得力がない――いえ、今日はその色々あって、目が冴えてしまったというかその――い、いえ、そういうわけじゃないんですが――」

 ネギの声は、明るい。
 何となく、出会ったすぐの頃を思い起こさせるような声だ。出会ってすぐの――思い出すとその後頭部を蹴飛ばしたくなってくるので、明日菜は努めてそれを忘れることにした。

(ま……一時期こいつ、相当参ってたみたいだもんね。立ち直れたって言うなら、それもまあ、よし、か)

 電話に夢中になっているのだろう彼は、明日菜の事に気がついていない。まるで日本人がするように、電話を耳に当ててお辞儀をする姿に、自然、彼女の口に苦笑が浮かぶ。

「はい――はい。それじゃ、また月曜日に。おやすみなさい――っ、の、のどかさんっ!? も、もう――あまりからかわないでください! それじゃ、もう、切りますからねっ!」

 妙に慌てたような仕草で電話を切るネギ。一体電話の向こうの少女に、何を言われたというのだろうか? 明日菜は腰に手を当て――そして、言った。

「この不良教師。いつのまに本屋ちゃんとそんなに仲良しになったのよ?」
「わあっ!? あ、明日菜さんっ!? いつの間に!?」

 面白いくらいに肩を跳ね上げて、ネギはそのまま縁側から落ちそうになる。明日菜は無意識に彼の手から離れた携帯電話を空中で受け止め――反対の手でネギの細い腕を掴み、部屋の中に引き上げる。

「そのリアクションは何よ。教師と生徒がイケナイ話してたって、朝倉に告げ口するわよ?」
「ち、違いますっ!! そんな――ちょっと、ちょっと目が冴えてしまって――何気なく携帯を見たら、のどかさんからのメールが来ているのに気がついてっ!」
「ふうん――あんたいつの間に、あの子を“ファースト・ネーム”で呼ぶようになったわけ?」
「――ッ!!」

 自分でも、そんな自覚は無かったのだろう。ネギは思わず、口元に手を当てる。
 明日菜はそんな彼にじっとりとした目線を向けつつ――自分も浴衣の裾を抑えながら、縁側に座る。

「で、どうなの?」
「な、何が――ですか?」
「とぼけんじゃないわよ。あんた――あの子の事、好きなの?」
「いっ……いや、のどかさんはその――僕の“魔法使いの従者”ですし、成り行きでそうなったとは言え、僕は、あの――いや、だからと言って彼女が嫌いだとか、義務感だけで主従関係を続けようとか、そう言うのではなくてですね!?」
「私に言い訳してどうすんのよ」

 わたわたと手を振り回すネギを、片手であしらいながら、明日菜は言う。

「そこで寝てる小動物の話じゃ、今時“魔法使いの従者”って、恋人探しの口実に使われるくらいなんでしょう?」
「それはあくまでそう言うこともある、と言うことです! 魔法使いと従者は、強い絆で結ばれるものですから、異性に対してそれを頼むと言うことはですね!?」
「わかったからあんまり騒ぎなさんな。みんなが起きてきても知らないわよ?」

 そこでネギはまた、ビデオの巻き戻しのような動きで口を覆う。
 全くこいつは、こういうところでは何も変わらないと、明日菜は思う。

「……やっぱりあんたは、そう言う方が良いわ」
「あ……その――明日菜さんと木乃香さんには、迷惑を掛けたと、思っています」

 自覚はあるのだろう。自分が一時期、負のオーラを振りまいていたと言う自覚は。けれど見方を変えれば、それだけかつての自分を客観視できている、と言うことでもある。
 それも当然か、と、明日菜は思う。彼が自分たちの所にやってきてから、色々な事があった。出会ってすぐに魔法使いである事を知らされ、クラスを巻き込んだテストの時の大騒ぎ。
 進級したかと思いきや、すぐに“悪の魔法使い”であったエヴァンジェリンと大喧嘩をやらかし、相坂さよの一件を通じて魔法使いという生き方に対して酷く悩み――そして京都への修学旅行で、彼は吹っ切れた。
 彼はそんな毎日を、乗り越えてきた。この数ヶ月を、振り返る事が出来る場所にやって来たのだ。

「……何か、あんたが遠く見える」
「明日菜さん?」

 翻って、自分はどうだ。
 色々と考えさせられる事はあった。ネギを通じて、知らなかった世界を目の当たりにした、自分には。
 けれど――その世界を見て、自分はどうなった?
 確かに、色々と考えた。考えはしたけれど、それが今の自分に結びつくだろうか?
 自分は、和美や木乃香のように、事件の当事者にはなっていない。ただ、それを傍観していただけだ。シロや楓、のどかのように、自分から事件に深く首を突っ込もうとさえしなかった。
 むろん、ネギのせいで巻き起こる、魔法云々関係の大騒ぎは、自分には本来関係のない物だ。そもそも、彼を自分の所に押しつけられたという事実だけでも、十分すぎるかも知れない。
 けれど――いつの間にか自分は彼の、彼女たちの背中を追っている。そんな気が、する。

「……何か、困ったことでもあるんですか?」
「別に――ただの気まぐれ。私もたまには、そういう柄にも無いことを考えたりするのよ」

 そう言って明日菜は首を横に振る。

「何でこんな急に、こんな風に思ったのかは、私にもわからない」

 だが何にせよ、と、彼女は思う。
 自分は、変わりたいのか? 身の回りにいる皆のように――明らかに、今までの自分とは違う何かに、なりたいのか?
 そうではない。きっと今は、嵐のように移りゆく日常を前にして、焦っているだけなのだろう。
 ネギは変わった。自分の友人達も変わった。ならば自分は、今のままで居ても良いのだろうか? そんな風に思うのだ。
 実際のところ、自分の周りが変化することは、自分にとっては関係のないことだ。影響を受けねばならない理由など、どこにもない。
 夜風を受けた彼女の亜麻色の髪が、ふわりと流れる。

「気まぐれついでに――ねえ、私、仮契約って奴してあげようか? あんたと」

 ネギは、その言葉に固まった。

「そうしたら、私はもう少し、あんたの役に立てるかも知れない。そうしたら――あんたにとっても、悪い話じゃないでしょう?」

 かつてカモは、そうすれば明日菜は“戦力”になれると、そう言った。
 魔法使いによって資質を底上げされ、専用の武器を与えられ――嫌でも、ただの中学生だった自分とは違う何かになる。そうすれば――そんな風にして微笑む明日菜に、ネギは言った。

「僕には――少なくとも今の僕にはのどかさんが居ます。明日菜さんの気持ちは、たとえ気まぐれだろうが何だろうが嬉しいけれど、その必要は、ありません」
「……」
「明日菜さん」

 ネギは言った。

「僕は、明日菜さんにとても迷惑を掛けてきました。謝っても、許して貰えるとは思いません。明日菜さんにとって、ハッキリ言えば僕は、嫌な奴だろうと思います」
「あんたね……それじゃ私が悪者みたいじゃないの。言ったでしょ? 本当にあんたのことが嫌いなら、とっくの昔に部屋から追い出してるって」
「だから僕がこういう事を言う資格は無いのかも知れませんが」
「だから聞けって」
「先生として――明日菜さんの悩みを、僕は聞きたい」
「――」

 僕は、と、ネギは続けた。

「僕は明日菜さんにとって、頼りない先生だと思います。でも、先生なんです。その事実が存在する限り――僕は、明日菜さんを、助けたい。結果としていつも僕が助けられている。けれどそれでも、手を伸ばしたい」
「……ネギ」
「大きなお世話だって、明日菜さんは言うでしょう。けれど、僕は――何度でも、向かい合います。先生、だから。今度は、今度こそは――それは嘘じゃ、ない」

 エヴァンジェリンと「喧嘩」をしたとき――結局ネギは、逃げてしまったのだろう。
 形としては、立ち向かった。けれど。それは立ち向かうという形を取れば「逃げていない」と証明が出来るから。そんな理由だったに違いない。
 何せ中身が空っぽだったのだから。そんな自分があの時エヴァンジェリンに何が言えたのだと、ネギは言った。

「……ネギ、私――本当に、そんなに大層な悩みを抱えてる訳じゃないのよ?」
「なら、なおのことじゃないですか。どうでも良いくらいの悩みならきっと、どうでも良いような担任にぶちまけたって、悪くはないと思います」
「……」
「さあ、遠慮せずに」

 ネギはそう言って、大仰に胸を張ってみせる。
 その様子に目を丸くする明日菜だったが――何だか、何処からともなく笑いがこみ上げてきた。口元に手を当て、こぼれる笑いを押し殺す。

「――くっ……くくっ……ああ、もう……何だかなあ」
「?」

 しばしの間、笑いを堪えていた明日菜だったが――ややあって、笑いすぎて目元にたまった涙を指で拭いながら、ネギに言った。

「ねえ、ネギ――この間の進路相談の事なんだけど」
「あ、はい……明日菜さんは確か、麻帆良の本校高等部に進学希望でしたよね? いくらなんでもそれが無理だとは思いませんが」
「それどういう意味だおい」
「い、いえ――他意はありませんよ!?」
「……まあ、いいや。ね、私――何となく今、自分のやってみたいことが見えた気がする。随分遅くなっちゃったけど――進路相談、乗ってくれる?」

 ネギは驚いたように、明日菜の顔を見た。
 しかし、すぐにしっかりと頷いた彼に、明日菜は、口を開く。

「決めた――私、学校の先生に、なりたい」

 そして少女達の日常は――少しずつ、変わっていく。
 彼女たちが大人に近づくのと、歩みを揃えながら。










いつから新田先生が普通の人だと勘違いしていた? ――最初からそうは思っていなかったというあなた、大正解。
とはいえ、彼は結局「普通の人」だと、僕は思ってます。かれはただの教師であり、強かろうが弱かろうが、それが教師としての彼に何か関係があるわけではありませんし。

翻ってうちの明日菜さんは本当にどこまでも普通の女の子。
修学旅行編が終わってまだアーティファクトを持っていない彼女というのも、ネギまSSでは割と珍しい気はします。

そして前回の投稿から半年程度。
その間に書いたオリジナル小説を、今度投下してみようと思います。


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