Stage5 ~深淵の洞窟~
真っ暗闇の世界に光は無く
人生の先行きを示すかのように
絶望の象徴たる闇が溢れ返っている
「あー、面倒ね」
霊夢の声が洞窟内にキィィィン、と高く木霊する。
彼女は苛つきが多少込められた、不機嫌な声音で愚痴を零していた。
巨大な洞窟内。
岩場に存在した入り口から飛び込んだのも束の間、早々に霊夢は外に出たくなった。
広さは問題無い。
地底なのかと疑いたくなる程、洞窟内は広かった。
しかし、暗い。全く明かりが無い。
地底と違って光苔の一つも無かったのだ。
そのため、霊夢は飛びながら霊力による明かりを灯さなければならなかった。そうしなければ、飛ぶどころか歩くことさえままならない。
「……って、あれ?」
が、一際大きな空間に飛び出した瞬間、霊夢の目に映ったのは炎だった。
炎、といっても灼熱の火の海が広がっていた訳ではない。
かがり火。
空洞の壁に、ロウソクや松の枝が幾つも取り付けられていて、全てに真っ赤な火が灯っている。
暗闇の世界は火のお陰で、光の広間を浮かび上がらせていた。
「……」
広い、広間だった。
端から端まで㎞単位の長さがあり、天井は高過ぎて見えない。
天然の洞窟には似合わない人工的な光景だが、少し青みがかかった岩盤が天然の光景を連想させ、妙なミスマッチを描き出している。
そこに、一人の男が霊夢に背を向けて立っていた。
男、というよりは少年と言ってもいい風貌。
炎の赤に照らされる髪は銀の光を放ち、体は全て黒い服に覆われている。
靴でさえ、黒。
なのに、隙間から見える肌はとにかく白い。
雪のように白く、触れただけで壊れてしまいそうな線の細さが見える。
普通の洞窟なら、旅人だとすますことも出来ただろう。
しかし、ここはあの番人に守られた洞窟。
普通の旅人が、ここに居る訳が無い。
「……あんたがこの異変の犯人?」
霊夢の声が、彼女が思った以上に響く。
「あァ?」
他人が居ることに、漸く気が付いたのか。
彼は、霊夢へ振り向いた。
真紅の眼光を、殺気に光らせ。
~最強の存在~ 一方通行(アクセラレータ)
霊夢は思う。
(今までとは、違う)
博麗の巫女になって以来、最大の警報を頭が鳴らしていた。
この目の前の存在は、レベルが違う。
今まで数々の存在と、彼女は戦って来た。
妖怪、妖精、魔法使い、吸血鬼、幽霊、宇宙人、閻魔、死神、巫女、神、覚り妖怪、スキマ妖怪、天人、更には月人まで。
幻想郷において実力を持つ者達の殆ど戦い、勝ったり負けたりして来た。
しかし、それらのどれにも感じなかった得体の知れない力を、霊夢は今、感じ取っている。
「オイオイ……まさかあのメルヘン野郎、負けやがったのか」
「と、いうことは貴方が異変を起こした犯人ね」
「ンな訳ねェだろボケ。何が悲しくてンな無駄なことしなくちゃなンねェンだよ」
きょとん、となって、首を傾げる。
言葉から嘘は感じ取れない。
それどころか、逆に迷惑しているという気持ちが伝わって来た。
「本当に?」
「そうだって言ってンだろ。つゥか、今からその馬鹿をブン殴りに行くとこだボケ」
……暴言にイラッときつつ、彼女は更に問い詰める。
「だったら誰よ。私は早くお茶を飲みたいのよ」
「さっさと家に帰って飲ンでろォ」
「そうするわ。異変を解決してからね」
引き下がらない霊夢。
彼女の性質を理解したのか、一方通行はハァ、と息を吐く。
「メンドクセェ、こっちは忙しいンだ。死ンでも文句言うンじゃねェぞ」
「死んだら口は動かないわよ。死人に口無しって知らない?」
霊夢の周りに、霊力が集束し始めた。
それに伴い、空気の渦が生まれて行く。
洞窟に響き渡る、轟風による騒音。
対して一方通行は、特に何もしない。
ただ黙ってポケットに両手を突っ込み、殺気を充満させるだけ。
殺気は重く深く、吐き気がするような気分の悪さを与えて来る。
しかし霊夢の表情が、姿が揺らぐことは無い。
「地獄までの一方通行だ。超特急で送り届けてやる」
「分かった、逆走すればいいのね」
空間は限界に達して、弾ける。
膨大な人外の力は響き渡り、ぶつかり合う。
楽しい楽しい、弾幕ごっこの合図。
声が一つ。
「奇術「ミスティックレイター」」
いきなりだった。
開始一秒と経たずに、スペル発動。
どうやら本当に、彼は急いでいるらしい。
そう考えつつ、霊夢は地を蹴って飛び上がり、距離を取る。
高い高い洞窟の空間に浮かんだ彼女は、一方通行の手元を見た。
スペルカードが握られていた手に集まる光は、黒。
黒い、弾幕。
華やかさも求められる弾幕ごっこにおいては、珍しい色だった。
黒い魔力の塊が彼の右手から解き放たれる。
レーザーの様に伸びたそれは、一気に空中を駆け巡った。
キュンッ!と、響く音。
「んむ」
対して霊夢は一気に反転。
一方通行に接近する。
そして目の前に壁のように迫ったレーザーを紙一重で躱した。
迷い無い、サラリとした超人技。
彼はその姿を見て、
「曲がれ」
パチン、と指を鳴らした。
「っ!」
瞬間、レーザーが曲がった。
それも十に分裂し、直角に曲がって行く。
普通、弾幕というのは大概が緩やかなカーブを描いて曲がるが、これは完全な九十度に曲がって空間を駆け巡っていた。
空間に、黒いレーザーによる網が出来て行く。
予測不可能、更には普通に無いレーザーの軌道。
霊夢は一方通行への接近を止め、身を翻して背後からのレーザーを躱す。
「なるほど」
確かに、一部には美しいと言われそうな弾幕だ。
だけど、霊夢には綺麗だと思えない。
故に、
「はぁぁっ!」
札を纏めて投げつけた。
十枚程ボールのように纏められた札の塊は、超高速を持ってして今だに地面に足を付けている一方通行に、
たやすく、直撃した。
トゴォォォンッ!!と、轟音が洞窟を揺らす。
(……?)
周囲を翔ていたレーザーが消えて行くのを見つつ、高い天井へと立ち昇る白煙の元を見下ろす。
おかしい。
今の一撃は、躱せた筈だ。
だとすれば、躱す必要が無いのか──
「……メンドクセェなァ、クソったれ!」
そして、予感は正しかった。
突如として暴風が吹きすさび、白煙のカーテンが消し飛ぶ。
現れたのは、全くの無傷たる少年。
「バリア?」
そう考えて、だとすればどれくらいの強度なのかと予想する。
だが、相手は待ってくれない。
「幻葬「夜闇の幻影殺戮鬼」!」
ユラリ、と。
霊夢の周りに、弾幕が出現した。
幻影のように、夢幻のように。
「──」
突然の現象に、彼女は直ぐに対応した。
自分に向かって迫る小さな白い光弾を、お払い棒で強制的に叩き落とす。
その間に黒い光線が駆け巡り、結界で一本だけ弾くことにより、自分が躱せる空間を生み出す。
正に神業。
超人の域の力だ。
それを見て、
「ハッ、中々やンじゃねェか。どォりでアイツ等が負ける訳だ!」
下方からの、賞賛と苛立ちが混じった声。
霊夢の鮮やかな手並みに、これ以上スペルを続けても意味が無いと悟ったのだろう。
一方通行の一言と共に、スペルが消え、違うスペルが再度、発動する。
「幻世「アクセル・ワールド」!」
怒涛の攻めだった。
本当の意味で休む間も無い、攻めの連続。
霊夢はしかし、怯まない。
スペルの内容を見極め、飛ぶ。
今度のスペルは変速的だった。
そう、変速。
赤いレーザーが駆け抜けたと思えば、一つ一つの到達速度が全く違う。
神速の早さで迫るのもあれば、亀のように遅いものもある。
しかも、途中でスピードが変わるのだ。
フェイントがここまで明らかに込められたものも珍しい、と彼女は考えながら、僅かな赤色の隙間を潜り抜け、札で誘爆させ、体をレーザーの範囲から脱出させる。
今まで一方通行のこのスペルを受けた誰よりも早い速度で。
余裕を無くさず、彼女は飛ぶ。
鳥のように、蝶のように。
一方通行の口から、僅かな苛立ちの吐息が零れた。
「霊符「夢想封印」!」
そして、反撃。
七つの光球は出現と同時に下方に、開始から一本も動いていない一方通行へと迫る。
縦に七つ並び、さながら龍のごとく。
「チッ」
そこで霊夢は、一方通行の行動を一つ残らず見ていた。
そのために、態々光球のスピードをズラして飛び込ませたのだから。
まず一つ目を、一方通行は右手を当てて"反らした"。
まるで右手によって、光球が操作されたかのように。
光球があらぬ方向へ飛んで行くのにも構わず、続けてやって来た光球に対し、
「方符「ストレートジャック」!」
新たなスペルを放つ。
紅いレーザー群は姿を消し、代わりに一方通行の周りに光が出現した。
小さな小さな光球。
ビー玉ぐらいの白い球体。
それが、真っ直ぐレーザーとして放たれる。
普通のレーザーが大砲なら、これは機関銃だ。
空気を焼く効果音が連続して鳴り響き、レーザーは七色の光球を貫き、爆発させる。
膨大な熱量が一方通行の体を叩くが、彼に堪えた様子は無く。
「うぜェ!」
右手を、背後に振るった。
音も無く弾かれる、最後の光球。
七つのうち一つだけ、一方通行の背後から回っていたのだ。
そういう風に弾幕を操作出来る霊夢も異常だが、それに反応出来る一方通行も異常だ。
二人共、常識という言葉が馬鹿に見える行為を、やすやすとやってのける。
爆煙と白煙と砂埃が立ち昇り、視界がきかない中、一方通行は更にスペルを発動させる。
「幻符「インディグネイション」」
──幻想の象徴たる、黒い光の剣が出現した。
クルクルと、途轍も無い力を込められた光の剣は舞う。
自分の周りを舞うその剣に、彼は命令を与えようとして、
「っ!?」
白煙の先に、彼女が居ないと気が付いた。
一瞬、完全に一方通行の思考が停止する。
(一体、何処に)
「そんなにどんどんスペルを使わないの。勿体無い。スペルってのはね──」
後ろ。
一方通行が振り向く前に、
「──こういう風に使うのよ。宝具「陰陽鬼神玉」」
スペルカードを構えていた霊夢の左手から、巨大な陰陽玉が発射された。
全長十メートル以上ありそうな、巨大な砲弾。
ゴバッ!!と、砂埃ごと大地を抉り取り、砲弾は一方通行に直撃
して何故か上空へと吹き飛んだ。
霊夢は何もしていない。
なのに、まるで陰陽玉が自ら天を目指したかのような、異常な程自然な動きだった。
「……アンタの手に触れられたらアウトみたいね」
「クソったれが……」
陰陽玉が衝突する寸前、一方通行は自分の弾幕を利用して衝突までの時間を僅かにながら稼いだ。
自分の弾幕が消される前に彼は陰陽玉に向き直り、左手を叩きつける。
直後に、陰陽玉は上へと飛んだ。
其処までが、霊夢が見た全てである。
対して、自分の絶対的な防御について指摘された一方通行は顔を下に向けている。
表情は、見えない。
「……あァ、メンドクセェ。メンドクセェメンドクセェ」
覇気の無い、やる気零の声。
先程までの戦いが嘘のように、彼の言葉に力が無い。
「……」
霊夢は、
「本気出すの面倒だなァ、オイ」
後ろに、全力で飛んだ。
が、気がつけば一方通行は距離を詰めており、足を振りかぶっていた。
異常なスピードに、驚く暇は無い。
結界を、瞬時に張る。
細い足から繰り出されたとは思えない威力の衝撃が、結界を襲った。
(しまっ、壊れ……っ!)
ビキリッ!と、嫌な音が一つ。
見ると、結界にはヒビが。
自分の結界にヒビが入るという、久しい危機に霊夢は叫ぶ。
「夢符「二重結界」!」
重々しい霊力の響きと共に、結界が出現。
流石にこれは突き破れないのか、結界に衝突した自分の足を見て、
笑う、一方通行。
「吹き飛びやがれ」
「っ!」
霊夢は、吹き飛んだ。
張った結界ごと。
ボールのように、宙を飛ぶ。
結界ごと吹き飛ばすなど馬鹿げた話以前に、一体どうやったら出来るのか。
「──っ、と!」
壁にぶつかる直前に、霊夢は結界を解き、壁に着地する。
多少、壁からひび割れた音が鳴るが、気にする余裕は無い。
「方向「プラズマハンマー」」
灼熱の塊が、一つ。
見上げた先には、更に高く飛んだ一方通行が居た。
その白い手に、巨大な死の光球を持って。
先程の陰陽玉に勝る大きさの光球は、まだ距離がある霊夢にさえ感じる熱波を放っている。
そんな物が今、霊夢に叩きつけられようとしていた。
「──」
一拍置かず、衝突。
壁にぶつかった光球はしかし、炸裂しない。
熱量を持ってして壁を溶かし、滑らかなクレーターを生み出し続けた。
ジュワァァァァァァァァッ!!と、油が弾ける音とともに水蒸気などの煙が生まれ、空間を満たす。
遅れて、暴風が全てを巻き込み、吹き荒れた。
惨劇という言葉がしっくりと合う、光景。
「……ようやく終わったか」
惨劇を生み出した、宙に浮かぶ一方通行の口から零れたのは、そんな言葉。
死んだかもしれないが、そんなことは彼の知るところでは無い。
「随分と無駄使いしちまったしなァ」
消費スペル数六枚。
時間を幾分か縮められたのかもしれないが、最後のスペル以外はみな無駄撃ちだったのを考えると、やはり勿体無い。
というよりも、あんなに次々と鮮やかに躱されるなどとは思わなかった。
「クソ、焦ってたか……」
そうだ。
彼は焦っている。
この後、アレと戦わなければならないのだから。
故に、あんな風な泥沼の戦いを──
「はっ!」
背中側からの衝撃が、彼を襲った。
(あ、ぎっ!?)
背後からの、強襲。
一体誰なのかと、吹き飛びながら視線を動かす。
自分が居た場所に浮かぶのは、紅と白の服に身を包んだ、空飛ぶ巫女。
彼女はしてやったという表情で、笑っていた。
何が起きたのか理解しても、時は既に遅く、
意識が、闇に落ちて行く。
体も、大地へと落ちて行く。
「やっと一発通ったわね」
霊夢はそう感想を漏らす。
彼女はあの巨大な光球を喰らってはいなかった。
己の特技の一つたる空間移動を利用して、一方通行の背後へと飛んだのだ。
そして全力で飛び蹴りを見舞ってやった。
疲れるのでもう二度としたくない、と彼女は思いつつ、
「それにしても……」
疑問を呟く。
得体のしれない敵だと思う。
スペルを連発するのは、まぁいい。
異変で焦っていたという理由があるからだ。
だが、勘が伝えてくる危険。
霊夢は勘に従い、蹴りの際にも間に結界を挟んでいた。
触れると、不味いと勘が言っていたから。
「本気を出して無かったのね」
ハァ、とため息を一つ。
霊夢が顔を上げ、呟いた瞬間、
一方通行が、眼前に出現した。
落下していた、彼が。
完全な一撃を見舞ってやった、彼が。
紅い血のような瞳を見開き、表情を悪魔のように歪めて。
その背中には、一対の黒い翼。
翼から感じられるのは爆発的な感情の波動と、周りにある力全てを融合させたような歪な力の雰囲気。
ギチギチと、悲鳴を上げる黒い翼が横薙ぎに振るわれた。
「さっきまでのスペルは、これを温存するためね」
「──」
悪魔の一撃に、霊夢は普段の陽気な雰囲気を消さなかった。
ただのスペル合戦が、漸く終わったからだ。
これから始まるのが、本当の意味での弾幕ごっこ。
ギッガガガガガガッ!!という、轟音。
翼は巨大になり、遥か後方の壁を削り取りながら迫る。
霊夢はクルリ、と横回転。翼を受け流すように、無駄なく躱した。
針と札を構え、腕を振りかぶる。
「「アクセラレイター」」
そんな声とともに、羽が舞う。
黒曜石のように刺々しかった翼から羽が落ちる。
欠片は何故か、普通の羽へと変化して宙を舞い、
黒い光線となって空気を裂く。
早さが違い、直角に、緩やかに曲がる異世界のよう光線の嵐を、霊夢は躱す。
首をずらして躱して、直ぐに曲がって頭部に迫ってもお払い棒を挟んで防いでいた。
そんなこと異常なことをしながら、霊夢は一点を見つめ、上へと光線を避けて飛ぶ。
「──ォォオオオオオオオオオッッ!!」
翼が再度、振るわれた。
轟!という、空気の悲鳴とともに、光線の嵐ごと空間を裂く一撃。
光線の残りかすが、空中に散る様は粉雪のよう。
黒い雪など、誰の為にあるのか分からないが。
「痛ぅ……やるわね」
そして、宙に佇む霊夢は躱しきれて無かった。
僅かに、足元から血が流れる。
足の脹脛に掠ったのだ。
掠ったとはいえ、霊夢が一撃を貰う。
それだけ、一方通行の力は凄まじいということ。
「一体どんな能力なんだか……」
さてどうしようか、と霊夢は呑気に一言。
こうなった以上、この力をねじ伏せるしか無い訳だが……
「……アレ、使うしかないかぁ」
彼女は、本当の切り札を使用する。
気が進まないと、ぼやきながら。
「「夢想天生」」
霊夢が、消えた。
「!?」
本能のままに──一種の暴走状態に陥りながらも戦っていた一方通行が見たのは、敵が消える光景。
彼の能力を使えば、敵を見つけるのは簡単だ。
霊力、魔力などの向きを辿ればいい。
間違い無く、辿れる筈だ。
アレでさえ、この能力を使えば見つけれるのだから。
だが、感じない。何も、感じない。
姿が見えない、とか。
空間移動をした、とか。
そんなことでは無く、ただ、消えた。
まるで、世界という器から解き放たれたかのように。
(小細工を……っ!)
ギリリッ、と、歯軋りの奇怪な音が鳴り、
「ァァアアッ!」
翼が縦に振られる。
岩盤が抉れ、噴煙が巻き起こった。
其処に居るというのは、分かる。
ぼんやりとだが、其処に居る。
攻撃も干渉も、何も出来ないのに。
ズラリ、と。
空中に展開されるのは、千を越す茜色の札。
それらが、一気に一方通行へと迫る。
恐ろしげな、弾幕の壁。
「ラァァッ!!」
翼が振るわれるが、それでも全ての札を消すのは無理だ。
水を刀切ろうとするようなもの。
半分程は異常な追尾機能によって、一方通行の体へ迫る。
「ッ!」
右手で払う。
左手で払う。
手に触れた札は、何故か見当違いな方向へと飛んでゆき、誘爆してしまう。
払う、払う、払う、払う。
とにかく、彼は自分の体に触れさせ無いよう、手で全てを払う。
「ラストォ!!」
最後の一枚。
顔面に迫った札を掴み、投げ捨てる。
どうだ、と言わんばかりに彼は前を見て、
「もらった」
霊夢が、腕を振りかぶって浮かんでいた。
「──」
何時の間に、とか。何故、とか。
呟く暇など、博麗の巫女は与えない。
袖が揺れ動き、真っ直ぐに腕が振られた。
振られ手からは、今日一番の早さで投擲された針。
翼は間に合わない。手も間に合わない。
完全に、直撃した。
のだが。
「っ!?」
バシッ!と、反射的に霊夢はつかみ取る。
つかみ取ったのは、針。
今し方、自分が放った針だ。
(戻って、来た?)
なんとなく予想。
何らかの力で反射された。
しかし、何かの壁に当たって反射されたにしては余りにも帰ってくるスピードが早過ぎた。
(もう!一体何なの!?)
未知の力に苛立ち、とにかく動こうとした所で。
「……負けだ」
フッ、と。
翼が消えた。
音も無く翼は空気に溶けて消え、洞窟内は無音の空間へと戻る。
破壊の面影が残るとはいえ、ここは、戦場では無くなった。
突然の降参に、首を傾げる霊夢。
誰もがするように、彼女は言葉を投げかけた。
「……私、アンタに一撃しか喰らわせてないんだけど」
「うるせェ。俺が負けだって言ってンだよ。こっちにもプライドってのがあるくらい分かンだろォが」
戦闘中からは想像出来ない程のローテンション。
霊夢はもやもやした何かが心に溜まるのを感じて、だが異変のこともあるので、それ以上何も言わなかった。
「……じゃあ行かせてもらうわよ」
「アイツが何を考えてるのかサッパリ分からねェが、オマエならなンとかなるかもな」
適当に返す、一方通行。
どうやら、本当に彼は霊夢に異変解決を任せたようだった。
その姿は、何処か吹っ切れている。
納得行かないが、仕方無い。
ため息を吐き出して、彼女は空を飛ぶ。
「因みに、アイツってどんな奴?」
霊夢は洞窟の更に奥へとフワフワ飛んでゆきつつ、ふと尋ねた。
対して反対側の出口へと向かっていた一方通行は、たった一言で質問に答えを返す。
重く、されど軽く。
「化物」
少女祈祷中……
設定
~最強の存在~
名前・一方通行
種族・人間
能力・「あらゆる力の向きを操作する程度の能力」
御坂美琴などと同じ(※1)、番人の一人。
性格は普段は冷静低血圧、戦いの中などでは恐ろしいまでに怖い。
御坂美琴に付き合ってでしか、家から出たことは無かったようだが、異変後からは偶に各地で見られるようになる。
外見から滲む雰囲気は恐ろしく、彼の口からは簡単に殺人予告が飛び出す。
が、彼の本質は善人とのことで(※2)一部の者達からは好意を向けられている。
全体的に見れば友好度は低いとはいえ、彼の本質を見極めたり助けられたり(※3)した者達からの好意は、決して小さな物では無い。
ただ、過去に何かあったのか人と触れ合うことを拒んでいる風である(※4)
彼に敵対すればまず勝ち目は無い。
余程の強者であっても、彼を倒すのは恐らく不可能である(※5)。
ただ彼は弱い者を虐殺したりなどはせず、必要の無い戦いは行わない。
逆に、人妖共に助けることもあるようだ。
ただし、彼の大切な者達に手を出した場合、その者は地獄よりも恐ろしいものを味わうだろう。
彼の能力は「あらゆる力の向きを操作する程度の能力」であり、史上最強の能力と言っても過言ではない。
自分の体に触れる、この世の全ての力を操ることが出来るというのは、彼は全ての物理的魔術的な干渉を跳ねのけることが出来るということであり、その気になれば体に触れるだけで血の流れを操作し、殺すことも可能。
また、龍脈や結界などの力の向きも自由に操作でき、どんな力を持ってしても彼に傷を負わせることは出来ないと言われている(※6)。
『反射の膜』という、自動で彼が望んだ物を反射する力もあり、彼に不意打ちは無駄である。
ただ、弾幕ごっこにおいては「卑怯」ということで、反射を解除している。能力自体は使用しているようだ。
反射の役割は、普段は有害な物、時々人の声まで反射している(※7)。
また、時折彼の背から生える翼は彼の能力を利用して作られた「力の集合体」とのこと。
※1
同居しているらしい。
※2
閻魔からの情報である。まず間違い無いだろう。
※3
悪党の美学、らしい。
※4
十六夜咲夜と雰囲気が似ていることから何らの関係、もしくは似たような過去があるのでは無いかと思われる。
※5
隙間妖怪や神、月人や龍神でも勝てないのでは無いか。
※6
境界操作や閻魔の裁き、ありとあらゆる様々な物がきかない。閻魔は魂を裁く際、大丈夫なのかと心配している。
※7
「あ、あの人は私が近くで言ってるのにっ、近く、近くですよっ!?なのに無視してぇ……!」などと閻魔が錯乱する程、声の反射は完璧である。
スペルカード集
奇術「ミスティックレイター」
幻葬「夜闇の幻影殺戮鬼」
幻世「アクセル・ワールド」
方符「ストレートジャック」
幻符「インディグネイション」
方向「プラズマハンマー」
空虚「エンドディスティ二ー」
方符「アクセルシューティング」
銀符「ハンドブレイクスプリング」
方符「パーソナルリアリティ」
傷魂「リアルピッシア」
幻符「マリアッチリバイバル」
方向「ウィングプロテス」
光速「P. スピード」
銀符「バウンガルレイト」
奇術「ミステリーカード」
「アクセラレイター」
合計17枚