Stage2 ~閃光の女王~ 麦野沈利
Stage2 〜銀舞い散る森~
魔法の森の外れに煌びやかな場所がある
空気中の魔力によって光が舞う幻想の光景
それは、自然が生み出した一つの芸術だった
「さて、こんな所まで来ちゃったけど」
銀の森。
魔法の森の外れにあるここは、霧では無く銀に覆われている。
煌びやに光る、魔力の結晶。
その輝きは宝石のようで、しかし手には触れられない、遠き幻想。
偶にこの光景を見るために訪れに来る者が居るほど、この空間は美しいが霊夢はあまり嬉しくは無かった。
魔力を肌で感じ取れるため、纏わり付く感覚が鬱陶しいのもある。
が、問題はそこでは無く、
「この先に何か居そうね」
自分の勘が、またもや面倒そうなことになると警告したからだ。
しかも揉め事を感知する勘だが、異変を解決するためには此方へ行けと警告している。
つまりは、面倒だがなんとかしなければならないということ。
「あら、何かってのは酷いんじゃない?」
森の中を縫うように飛んでいた彼女にかけられた、女性の声。
一拍おかず、声の持ち主は霊夢の前に瞬時に現れた。
膝を曲げゆっくり着地するその姿はまるで何処かの貴人のようだが、本質は全く別だと霊夢は知っている。
噂でしか聞いたことは無かった。
茶色の少しカールした長髪。
透き通る茶色の瞳。
整った美貌。
黄色の洋風ドレスに、黒いハイヒールと呼ばれる靴。
それらが噂の全てと合致した。
~閃光の女王~ 麦野沈利(むぎのしずり)
出会ったら絶対に怒らせるな、普通に接しろと言われている、極一部に対して危険度最大級の人間。
何でも怒れば性格が変わり、森を一つ地図から消したこともあるとか。
霊夢としては、自分もそれくらい出来るので怖くは無いが、面倒なのはごめんだ。
「一体何のよう?私今忙しいのよおばさん」
「…………いきなりねぇ。これはたっぷりイジメがいがありそうだ」
しかし、何故か突然麦野の雰囲気が変わる。
僅かに口調も変化していた。
思わず首を傾げる霊夢。さっぱり起こる理由が分からない。
「私なんか言った?」
「しかも自覚無し、と。これは根本的に"お話"しなきゃなぁぁぁ……」
……だめか。
彼女はそう悟った。
この後霊夢がどんな言動を放とうが、目の前の女性は確実に自分に挑んで来る。
既にカードを一枚取り出し、此方へ向けていることからもそれは伺えた。
なので霊夢は諦め、お払い棒を左手に持ち、問いかける。
「"お話"はやっぱりお茶を交えるべきだと思うのよ」
「そう?お茶は用意出来ないけど和菓子くらいは用意出来るわよ。目が眩むくらいの」
和菓子、ねぇ……と彼女は呟き、嘆息をつく。
「甘ければいいんだけどね」
その言葉に、麦野は凶悪な、鬼人の如き笑みを浮かべ、
「残念……文字通り死ぬ程苦くて苦しいから」
「……苦いのはお茶だけで充分なんだけど」
さて、"お話"の始まりは最初の一撃から。
全く甘く無い一撃から始まる。
楽しい楽しい、弾幕ごっこが始まる。
ボンッ、と木々を突き破り、空中に出現する人影が二つ。
太陽の元でも銀が舞うひんやりした、木々の上空の空間に、二人は同時に飛び出した。
「光線「メルトダウナー」!」
先手必勝とばかりに、麦野の左手から目を瞑りたくなる閃光が溢れ出した。
それは大気を、大気に含む魔力をも焼き、熱を発している。
名称と似たような力を使う知り合いの経験から、霊夢は真上へと飛ぶ。
瞬間、霊夢の居た場所を光が突き抜けた。
「っと」
ズアアアアアアアアアアッ!!という、怖気を誘う轟音。
耳に入れつつ、彼女は光を見る。
麦野から放たれた光線は一本。
だが、その一本がとんでもなく巨大だ。
霊夢の身長の三倍は太く、魔法の森を衝撃波でなぎ倒し、遥か遠くまで突き抜けていた。
怖るべき威力。
単純な破壊力なら、幻想郷においてもトップクラスだろう。
「チッ!」
あからさまな舌打ちを聞き、霊夢は視線を光線から光線を放った当人へと戻す。
位置的に下方となった麦野の表情に浮かんでいるのは、外したという苛立ちのみ。
大きな舌打ちといい、表情の豹変といい、やはり激情すると性格が変わるというのは真実のようだ。
「その程度?」
「言ってくれんじゃねぇかクソガキ……!」
だからこそ、霊夢はあえて挑発する。
雑魚弾幕など要らない。
早くスペルを使え、全て打ち破るから、と。
「後悔すんじゃねぇぞ!?閃光「シリコンバーン」!」
次に起こったのは、小さな物だった。
極小の、光の玉。
それが此方に狙いを定める彼女の指先に浮かんでいる。
余裕の態度で見下ろす霊夢へ、光の玉はゆっくり縮み……
弾けた。
「!?」
閃光が、煌く。
細い光の筋が飛んだと思った時には、既に二本に分かれていて、更に二本が四本、四本が八本、八本が十六本と枝分かれしてゆき、霊夢の元へ届く頃には二百を越していた。
そして届く直前で更に倍になり、四百を越す。
細いレーザーの、束。
「っ」
「どうしたどうしたァ!?まだ一発だぞォ!」
シュパァァァァァァッ!!と、連続した切り裂く音を耳に響かせ、なんとか霊夢は筋の間を縫って躱す。
まるで幾重にも枝分かれした滝のようだが、まだ一発なのだ。
次は三つ。
麦野の前に、霊夢へと向けて光が浮かぶ。
先程の三倍の光の筋が、彼女を襲った。
視界を覆い尽くす程の閃光は、遠目で見ると巨大な一本に見えるが、本当は幾重にも分かれた閃光。
「もう死んじまった、てかァ?博麗の巫女さんよォ!」
次々弾幕を形成し、放ちながら麦野は感情のままに叫ぶ。
もはや空間は光によって目視が難しい程明るく、膨大な熱量が辺り一帯に旋風を起こす。
ゴウゴウ吹き荒れる風の中、麦野は凶悪な笑みを浮かべつつ、更に追加の弾幕を形成する。
「オラァ!次は十発
「さすがにそれは遠慮しとくわ」
何かが空を飛び、
麦野の顔面横から、爆発が起きた。
「ガッ!?」
彼女は衝撃で意識が吹き飛びそうになりながらも、堪える。
しかしスペルは中断されたため、空間に響いていた轟音と閃光は突如として消えた。
攻撃を受けたと分かったのは、爆発の残照たる霊力を感じ取ったからだろう。
爆風によって乱れた髪を強引に整え、其方を見る。
「今ので勝ちだと思ったんだけど、面倒ね」
爆発を炸裂させた犯人、霊夢がそこに居た。
余裕の態度と言動を、全く崩すこと無く。
上空に居た筈なのに今は麦野と同じ高さに居る。
ということは、あの光の束を躱しきったのだろう。
しかしその体に、傷は無い。
顔を労わるように抑えつつ、彼女は憤怒の色を強くした。
「舐めやがって……舐めやがって舐めやがってェェェッ!!」
「お菓子じゃないんだから舐めないわよ」
霊夢の何気ない一言が、更に麦野の怒りに火を注ぐ。
彼女が見守る中、麦野はカードを掲げ、吠えた。
空間に響く、絶叫。
「永光「サテライト」!!」
答えるように、ブンッ、と光の球体が出現した。
但し、出現場所は二人が浮かぶ空間の、更に上空。
大中小の個々によって全く大きさの違う光球は、ランダムで宙をグルグル動き回って居る。
「消し飛べ!」
吐き捨てるように麦野が叫んだ瞬間、光球が"光"を吹いた。
空気をぶった斬る、恐ろしい紅色の光線。
光球自体が、術を放つための砲台だったのだ。
地上へ、正確には浮かんで居る霊夢を中心とした地点に、豪雨のごとく光は降り注ぐ。
大地が爆音を立てながら刳れ、地盤と木々が悲鳴を上げながら消し飛ぶ。
「ハハハハハハハハッッ!」
自らの前に降り注ぐ、光の雨を見て、麦野は笑っていた。
圧倒的な破壊の力。
それを気に食わない相手に叩き込むという、歓喜の感情。
「どうだ!これが私の力だ!思い知ったかクソガキィ!」
感情の思うがままに、彼女は更に出力を上げる。
一層轟音が強まり、更に麦野は高笑いしようと──
「えぇ、よーく分かったわ」
──した所で、幻聴を聞いた。
いや、幻聴では、無い。
光の雨の合間。
僅かに音が途切れた瞬間に、今の声は場に響いた。
博麗霊夢の声が。
「だから、もうお終い!」
彼女は、光の中に居た。
秒間四百を越す破壊の豪雨の中、霊夢は弾幕を躱し続けたのだ。
頭上から降り注ぐ、一発でも喰らえば終わりの攻撃を。
今も、躱しながら攻撃の準備を整えていた。
「なっ」
その余りにも常人を逸脱した実力に、麦野が何かを言おうとした所で、
光の雨の合間から、札と針の嵐が彼女へ殺到し、直撃し、大爆発を引き起こす。
黒煙を体から僅かに放ちながら、彼女は力の抜けた体で、大地に墜落して行った。
(──ふぅ)
霊夢はその姿を見下ろし、肺に溜まった空気を吐き出す。
スペルが解除され、光の雨が止む。
それを確認して、霊夢は自分の真下の大地を見やる。
光線によって森はもはや跡形も無く、円形場に破壊の跡が刻まれていた。
暫く、この地面には雑草も生えないだろう。
「全く、やり過ぎよ。しかも──」
破壊の跡を見てため息を吐く霊夢。
人里の人間に何か言われないだろうか、と自分勝手な心配をしつつ、
「まだ、終わってないし」
ゴバッ!
効果音で表すなら、そんな音。
森から、相手が墜落した場所から閃光が立ち昇る。
正に、閃光と呼ぶに相応しいその光は、
龍の滝上りのように、グィ、と上昇した。
はっ?と、霊夢が首を傾げる前に、
「「イリュージョン・ザ・サン」」
突然、太陽が生まれた。
巨大な、巨大な光の塊。
物理的に、空間的に相手を焼き尽くす光が逆巻きて球を作り出す。
神々しささえ感じる程の、破壊の化身。
一目で霊夢は、太陽のような球体の中心に麦野が居ると把握した。
(……自分は光線の壁に守られて、相手には)
太陽から、紅い閃光が周囲に放たれる。
完全に無差別で無慈悲な、必殺の嵐。
轟音を立て、空気をブチ抜きながら辺りにばら撒かれたのは当然、霊夢にも迫る。
一発でも受けたらヤバイ光を次々、霊夢は軽く躱す。
動きに恐怖は見えなかった。
眼前に迫った腕くらいの光線を、首をそらして躱しながら、
「適当に大火力で攻める、と!」
足元を貫こうとした光線には札をぶつけ、相殺。
爆発によって黒煙が生まれるが、すぐ光によって切り開かれた。
「だけど……」
巨大な光の塊が霊夢の真っ正面から迫る。
遊撃であろう、光の弾幕を放ちながら迫ってくる。
太陽が直に迫ってくる威圧感。
しかし、霊夢は余裕を崩さない。
普段の暢気さもあったが、とある確信があったからだ。
「……そろそろ限界でしょ」
弾幕をひらりひらりと躱しながら、彼女は一枚のカードを取り出して、言葉を一つ。
スペルの宣言。己の奥義の名前を、小さく唇を動かして。
「霊符「夢想封印 集」」
カードが弾けた。
内側に秘められし力を発動させ、現実に具現化する。
七色の巨大な光球が霊夢の周りを一回まわったかと思った時には、
遊撃の弾幕を掻き消し、光と太陽が衝突していた。
空間に音と衝撃が響き、辺りが一瞬、嵐に包まれる。
耳を壊すような轟音と、吹き荒れる風の中、
「……クソ、が」
息も荒く、麦野が生身の姿で空に浮いていた。
太陽を形成していた光は何処へと消え去り、後には太陽の光と風が吹くだけ。
殺人光線は、もう跡形も無かった。
「やっぱり、力を出し尽くすタイプのスペルか」
偶に、そんなスペルがある。
後の事を考えず、全力で相手を葬り去るための一撃必殺のスペルが。
しかし後を考えていないため、一度でも破られると、こうなる。
「チッ……次は……」
むしろ、破られて尚浮かんでいられた彼女は、ある意味異常だ。
やがて体力を本当に全部使いきった麦野は目を閉じ、ゆっくり墜落してゆく。
ボロボロの、環境が破壊されつくされた元森に落ちて行く彼女を見て、霊夢はふと思った。
にっこりと笑って、一言。
「やっぱり、甘い方がいいわね」
少女祈祷中……
設定
~閃光の女王~
名前・麦野沈利
種族・人間
能力・「光線を使う程度の能力」
魔法の森の外れに住む女性。
見た目の姿が大変麗しく、彼女の影を追う男性は少なくない。
性格は普段は冷静で落ち着いた雰囲気だが、戦闘中や怒り狂った時に恐ろしいまでに豹変する。
主な目撃情報は魔法の森近くと人里だが、幻想郷を放浪することもある。
普段は妖怪退治で生計を立てているらしい(※1)。
交友関係は少ないが、幾人かと仲が悪い(※2)らしく、よって全体的にあまり友好度は高いとは言えない。
普段は冷静で落ち着いており、冷酷でもある。怒らせたら、命の保障は無い。
が、此方から何らかの粗相をしでかさなければ怒ることは無いので(※3)余り問題は無いと言える。
会ったら普通に接するのが一番である。
彼女の能力は「光線を使う程度の能力」と名前の通り。
光線を撃てるという、先天的才能が無くても出来る技能だが、彼女の場合威力が桁違い(※4)である。
光線を回転させて盾のようにしたり、僅かだが曲げることも可能らしい。
単純な戦闘力で見ると、とてつもなく恐ろしい能力である。
※1
護衛の仕事はしない。本人曰く「誰かを守るのは苦手」とのこと
※2
主に風見幽香や八雲紫など。いずれも、弾幕ごっこに負けた恨み。
※3
怒らせても、直ぐに謝れば許してもらえることもある。常識はあるほうだ。
※4
森を一つ、地図から消したという話もある。
スペルカード集
光線「メルトダウナー」
光線「シリコンバーン」
永光「サテライト」
光符「メルトダウン」
光線「クリスタルレーザー」
永光「サイエンスサクリファイス」
紅光「血の涙」
死光「キリリングダウナー」
偽光「マスタースパーク」
死光「スパイラルバースト」
光線「パラサイトレイ」
願光「明日の光」
神光「エターナルオブダウナー」
「イリュージョン・ザ・サン」
合計14枚