「……」
『……』
ミネルバの一部、ちょうどキラを収容してた営倉があった壁面。
そこにおっきな穴が空いていた。
なんということでしょう。
狭く息苦しかった部屋が開放感あふれる空間へと変貌をとげたのです。
まさに劇的ビフォーアフター。
俺もレイも声がでない。
通信からは雑多な怒号を背景に「混乱の鎮圧に協力してくれ」とオペレーターの悲鳴のような懇願が矢継ぎ早に飛ばされる。
気を持ち直すこともできず言われたとおり二人で指示された救援先へと向かうのだった。
数時間たってようやく基地は元の静けさを取り戻した。
テロリストは一部を射殺、もしくは捕縛できたがキラにはやっぱり逃げられたそうだ。
襲撃されたのを聞いて予想はしてたけどこんな方法を取るとは思わなかった。
『ケガ人は少ないようだ。幸い、死傷者もゼロという』
「まさかルナとハイネを抑えられる連中がまだいたとは。甘く見過ぎてたな」
『不幸中の幸いは議長が本国に戻られていたことだろう。ミネルバも数日で直せるようだ』
「そっか……」
もう嫌になるな。
どこをどうすりゃこんなことに……。
今は艦へ戻るろう。
機体を整備班に任せミーティングルームに急いで飛び込む。
艦長、基地司令官、ハイネは俺たちとわかると安堵のため息を吐いた。
「申し訳ありません。任務を完遂できませんでした」
「いえ、こっちも大失態よ。気にしないでちょうだい」
下げた頭を戻すように言われ、そのとおりにする。
全員がどこか諦めた顔をしていた。
俺も似たような表情だろうな。
「まずは情報交換といきましょう」
陰鬱な空気を払うような凛とした響きで艦長は言い放った。
基地のほうのテロ騒ぎはやはりキラ奪還を目的としたものだった。
鎮圧しようとしたMSをどこからかやってきたムラサメたちと金色の知らないMSに一気に鎮圧されたという。
さらに気を取られてる隙にミネルバが爆破された。
騒動に気付いた保安部隊が駆け付けたときにはキラのいる営倉はもぬけの殻だった。
そして敵さんはものの数十分で撤退した。
最後に我が物顔で去っていくムラサメたちの先に、エターナルがいたそうだ。
「貴方達のほうも襲われということは……アークエンジェルとエターナルは仲間同士って考えたほうが自然ね」
「くそっ、やられた。どっちも陽動で本命だったのか」
「く……俺たちが早く行動していれば。申し訳ありませんでした」
「完全にやられちまったな。まさかこんな大胆な手で来るなんて……」
ホントにアスランの体に爆弾埋め込んどきゃよかったと後悔してる。
キラなんて手足の一本くらい切り落としとけばよかった。
「艦長、あんまり落ち込まないでくださいよ。シン、レイ。お前たちもだ」
「そうですとも。幸いにも迅速な対応のおかげで人的被害は極僅かでした。基地司令官としてもお礼を言わせてもらいます。あとの処理は我々に任せてゆっくり休んで英気を養ってください」
「二人ともありがとう。司令官、今日の屈辱を晴らすためにもお言葉に甘えさせていただきます。」
方針は決まった。
もう俺たちに出来ることはない。
「ではパイロット三名は自室に戻って休憩していてください。私は司令官とスケジュールを煮詰めておきます。ハイネ、アーサーに今のことを伝えておいて」
「了解しました。よし、二人とも行くぞ」
「「ハイ!」」
今回の借りはのしつけて返してやるからな。
レイと特訓しないと。
心の閻魔帳にしっかり記録しとく。
見てろよ、キラ・ヤマト。
ウタマロ祭りを開催してやるからな……。
アーサー副艦長に報告も終わり男三人で一息つく。
虚脱感が体を包んで力が出ない。
レイもハイネも俯いて言葉ひとつ話そうとしない。
「これからどうなるんだろう……」
ポツリと口から弱音が漏れた。
やることが裏目に出ると堪えるんだよなぁ。
もっと上手くやれないのかな、俺。
「どうもこうもない。ただ議長の命ずるままに動くだけだ」
「レイ?」
「お、いつになく気合入ってんな」
その言語にハイネは元気を取り戻す。
「俺達は軍人だ。軍人は上の命令を守ってればいいんじゃないか? なあ、シン」
「むろん何も考えるなということではない。命令を順守する。悩みも苦しみも後でまとめて引き取ればいいんだ」
「二人とも……なんだよ、それ」
元気出てきた。
他人から励まされるってやっぱいいよね。
「二人ともありがとう……よっしゃ、がんばるか!」
気合を入れて叫ぶと生暖かい眼差しを向けられた。
何故に?
部屋に戻りさっそくデータを開放準備。
レイとハイネはなにやら飯だとか。
おかげでのんびりとPCを弄れる。
「モザイクの大きさはこんくらいで。あと背景も消してと。OK」
動画、投下開始。
あっという間に増える視聴者数カウント。
コメントも凄まじいものに。
ちなみにこんな感じ
15:名無しの美男子:**/**/**(*) 15:10:07 ID
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
108:名無しの野獣:**/**/**(*) 18:51:22
やべ、超たまんね☆
801:A・B・E:**/**/**(*) 20:08:08
この若さでこれか……将来が楽しみだぜ。
ちなみにホモ専用のサイトです。
一仕が事終わった。
大絶賛の嵐だったのが嬉しいぜ。
まあ現実逃避もここまでにしとこう。
問題はルナだ。
どうも部屋に引きこもって出てこないらしい。
確かに妹は逃げ出すわ敵に襲われて被害出るわ。
姉としてもパイロットとしてもいいトコなかったもんな。
最後に叫んでた言葉を聞かなかったけどよかった。
聞いて返事してたらビンタ食らったかもしれないしな!
陰鬱とした気分を隠し俺はルナの部屋に来た。
手には今回の秘密兵器。
結婚生活でも荒れたときにこれを使えば大抵はなんとかなったシロモノだ。
これで大丈夫。
「ルナ?」
返事がない。ただの扉のようだ。
「ルーナー。入ーれーてーくーれー」
『シン? ……入って』
すみません、今のは聞かなかったことにしてくれない?
あ、駄目ですか……。
部屋は前に来たときと変わってなかった。
唯一、メイリンがいたベッドの上に服が散乱していたこと以外は。
俺を部屋に招き入れたルナはベッドの上に座っていた。
しばらく突っ立ってると横に座るように言われたんで座った。
「「……」」
重い空気ララバイ。
あれだよ、言いたいけれど言えない空気ってあるじゃないか?
秘密兵器の出番は早そうだ。
「ちょっとキッチン借りていい?」
「……いいけど?」
作ること15分。
あっという間にホットミルクの出来上がり。
電子レンジがあるからもっと早く作れ?
バッキャロー! 鍋で作るから美味いんだよ。
俺は誰に突っ込んでいるんだ?
疲れてんな。
できたてホヤホヤをルナに渡す。
味見したが完璧だった。
「おいしい……」
「そっか」
そして始まる沈黙。
さっきと違っていい感じだ。
「メイリンがなんで脱走したか。ずっと考えてた」
ミルクを飲み干し暫くして、ルナはポツリと話し始めた。
「私もメイリンも始めから赤服を目指してたの。でも受かったのは私だけ。それから少し距離が離れちゃってさ、最後はもうわからなくなってた」
あるある。仲が良かったのに分別付き始めると成績とかが原因で疎遠になっちゃうやつ。
コンパで同じ女狙ってケンカしてたら別のヤツに持ち帰られたときの悔しさといったら、もう……!
「もっと話をしてればよかった。そしたら別の結果になったんじゃないかなって思うの」
大して変わらんかったかもしれないぞ。
メイリンってルナと同じでダメな男を好きになるタイプだし。
あ、そうなると俺もダメ男ってことになるのか。
「だから私、メイリンと会いたい。会って話しがしたい」
じっと俺を見つめるルナ。
その目は今まで見たどれよりも真っ直ぐに透き通っている。
「相手はあのラクス・クライン率いる連中だ。ちょっとやそっとじゃ辿りつけない」
「知ってるわ。今の私じゃ歯が立たないってこともね。けど追いつけないわけじゃない……そうでしょ?」
本気だ。
ルナは心の底から勝つ気でいる。
これが若さか。
不敵な笑みに自身満々の態度。
これこそルナマリア、ルナマリアでございます。
ミネルバの嬢王様ランキング2位は伊達じゃない!
「わーったよ。これじゃ協力しないほうが悪役じゃん……ったく」
「ゴッメーン♪」
全っ然悪びれてねーじゃねーか。
こんな状態なのに楽しいと感じてる俺も同じ穴のムジナだけどな。
「じゃあさっそく練習するか! レイとハイネも読んで話し合いしようぜ」
「オッケー! じゃあさっさと着替えて集合よ!」
お手伝いします!
この言葉を飲み込んだ俺を誰か評価してくれないかなぁ。