写真を撮り終えたら服を綺麗に戻してあげた。
あの姿で放置してたら可愛そうだからね。
俺ってば優しすぎるな。
拘束して気付けしてやる。
始めはボーッとしてたがすぐに状況を理解し自分の体を確かめた。
しっかり服を着ているんで安心したのか安堵の溜息を漏らす。
が、俺の右手のカメラを見た瞬間、動きが凍った。
「もう終わりましたんでお疲れ様でした」
「キラ・ヤマト……生きろ」
俺の言葉に続きなぜかレイがキラを励まして部屋を出た。
不思議なこともあるもんだ。憎んでた相手を憐れむほどの何かを感じたんだろうな。
それよか結構な時間がたっちまった。
写真も加工したいしルナとも会って誤解を徳用に説得しないといけない。
データの保管から先にするか。
まずは部屋に戻るとしよう。
「あ、そうだ。アスランに伝言あるなら……ん?」
言伝でも預かろうと親切に声をかけたのに反応がない。
振り返ってみれば真っ白に燃え尽きたキラがいた。
せっかくなんで写真に撮っといた。
今回はマジ珍光景が見られてて楽しいぜ。
「本当におもしろかったな~」
「シン……なかなかにエゲツないことをするな」
「ゲリラ兵の虐待は禁止されてないからな!」
「そ、そうか」
レイとさっきの出来事を反芻しながら会話する。
時々、達観した眼差しで遠くを見つめるがどうしたんだろう?
まあ重要なことなら俺に教えてくれるだろうからいいや。
<緊急事態! 先ほどアスラン・ザラ並びにメイリン・ホークが脱走した! 至急、MSパイロットは脱走兵を撃破せよ!>
このタイミングで脱走!?
「んな馬鹿な。いくらなんでも逃げ切れないだろ」
「シン、格納庫に急ぐぞ!」
議長はちゃんと生かしてあげようとしてたのに裏切りやがったのか。
やっぱ爆弾を埋め込んどきゃよかった。
既に格納庫にルナとハイネは到着していた。
艦長に何度もメイリンの脱走の事実を尋ねるルナ。
みかねたハイネが近くにあった椅子に無理やり座らせる。
「ハイネ」
「シンか……。話は聞いているな?」
「本当に脱走したんですか?」
「そうだ。バビを強奪し海洋に向かった。メイリンが手引きしたという証言もある」
「……違います。あの子は、妹はそんなことするわけないです」
「ルナ……」
「そうでしょ? こんなの嘘よ。ねえシン、嘘だと言ってよぉ……」
ルナは泣き出した。
大粒の雫が顔を覆った掌からこぼれ落ちていく。
「ルナマリア、お前は休め。ハイネ、俺とシンで二人を追います」
「お前たちのMSならバッテリーの心配がないしな。頼んだぞ」
「「はい!」」
ルナの頭をすこしだけ撫で、その場から逃げるようにデスティニーのコクピットに飛び込んだ。
ハッチが閉まる寸前、ルナが何かを叫んだ。
俺は聞かなかった。
ライフルとビームサーベルだけを手にデスティニーは空を駆ける。
レジェンドはスピードに付いてこれず次第に後方に流れていく。
『シン、先行して足止めを頼む』
「了解」
武装を極限まで削り落とし、かつ核動力を積んでいるデスティニーの全速。
シートに押し付けられ息が詰まる。それでも速度は落とさない。
空気抵抗すら強引にかき分けて衝撃波が海を割る。
そして。
「見つけた」
やっとレーダーにキャッチした。
飛行形態のバビはなかなかに速いがデスティニーに敵うわけがない。
これがインフィニットジャスティスなら逃げ切られていただろう。
セキュリティ機能があってよかった。
「アスラン・ザラ、メイリン・ホークに告ぐ。貴官らには脱走とMS強奪の嫌疑がかかっている。速やかに武装を解除し投降せよ」
『シンか……!』
「アスランなんて馬鹿なことをしたんですか。いまなら罪も軽いから弁護できます。だから投降してください」
『あのままだとキラは処刑される。助けを呼ばなきゃいけないと思ったんだ……親友として見過ごせなかった!』
「な……!? そんなことで、そんなことでみんなの信頼を裏切ったんですか!」
自分の婚約者を寝取られといてそりゃねーよ。
普通なら殴り飛ばしとるわ!
てかアンタ、俺がメイリンを寝とったらマジギレして殺しにきたぞ。
カガリのときなんて誤射を装って後ろからズドンだったし。
「兵士が私情を持ち出して、しかも脱走までして。アナタはザフトの兵士なんです! そんなのは辞表を出してからやってください!」
辞表を出した時点で監禁したけどね。
死ぬよりマシだから勘弁を。
『無理だ。ミーアから議長が俺を排除しようとしていると知らせを受けた。あのままミネルバにいなくても俺は、きっと』
えー? それはないって。
せっかくキラがいるんだよ?
キラを餌にしてやればスランを上手く使い回せるのに殺さないって。
減刑の文字をチラつかせてやればアスランはホイホイノンケでも食っちまったでしょ?
てかミーアって誰だっけ?
厄介なこと教えやがって。訴えてやる!
「無理やりでも連れていきます!」
『シン!』
ビームライフルの威力を最低値にセットして。
そ~れ逃げ惑え~。
バビのくせに避けるアスラン。
しかし運動性能と機体の差で次第に当たる数が増えていく。
ダメージは少ないとはいえ徐々に飛行速度が鈍ってきた。
30発ほど当ててやると反転、こっちに反撃してくる。
まあ無駄なんですけどね。
『っく! 当たらない……?』
「目標をセンターに入れてスイッチ。目標をセンターに入れてスイッチ……」
絶対に近きたくないでござる。
平気で自爆考えるアスランのことだ。
必ずなにかしら俺に取ってアウトなことをしてくる。
『シンやめろ! 踊らされている! お前も!』
は?
『議長やレイの言うことは確かに正しく心地よく聞こえるかもしれない! だが彼等の言葉は、やがて世界の全てを殺す!』
「ごめん。ちょっと意味がわからない」
天才の思考はA→Dと結論づける。B、Dの過程を説明してくれないので凡人には理解出来ない。
という話だけどこれは天才でもわからないと思う。
『俺はそれを……』
『シン聞くな!!』
ここで追いついたレイの待ったコール!
止めちゃらめぇ!
せっかく思考回路はショート寸前だったアスランの頭の中が復活しちゃう!
「解らないけど分かりました。じゃあメイリンだけでも返してもらえます? ルナめっちゃ泣いていたんですよ。アスランが無理やり連れ出したってことにしとけば」
『嫌よ! 私もアスランさんと行くわ!』
『メイリン?』
『私もアスランさんを信じる!』
これだから女ってやつは……!
すっげーイライラする。
『もうダメだ。撃墜するしかない』
レイから無慈悲な提案が来ちゃった。
……どうしよう?
一応、最終勧告だけはしておこう。
「これが最後です。投降してください」
問いかけに答えず反撃を続けるアスラン。
こっちもライフルで牽制しながら攻撃を避ける。
秘匿回線でレイに指示を出し、ライフルからサーベルに武装を切り替えてバビに斬りかかる。
斬りつけてもかすることしかできず致命傷を与えられない。
スペック的に考えて不可能な機動を見せるバビ、怖すぎる。
バビはショットガンでこちらの空間を削りライフルで移動先を誘導してくる。
俺は承知の上で誘導されてやるとバビの胸部の発射口が光を放った。
「無駄だ!」
『なに!?』
ビームシールドで受け止める。
バビ程度の威力じゃ減衰させることも不可能だ。
しかもそれを撃ってる間、バビは動くことが出来ない。
だから。
「レイ!」
『まかせろ』
デスティニーの後ろからレジェンドが飛び出しすれ違いざまにバビの右手を切り落とす。
そのまま通り過ぎバビの背後に周り、180度反転してから背中のドラグーンで左腕と両足をぶち抜いた。
手足が爆発したショックで回路に異常が起きたのかバビの攻撃が止んだ。
俺はトドメに頭部をサーベルで切り落とし胸部ビーム砲も軽く斬りつけて使用不可能にした。
背中のミサイルは近づいたレジェンドが翼ごと切り落とす。
「もう逃げられません。強制的に連れていきます」
『……』
レイは不満そうにしている。
気持ちはわかる。
けど今回はアスランのためじゃないから我慢してほしい。
『……頼む。メイリンだけは助けてやってくれ』
「少なくともそのつもりです。ただアスランは……難しいでしょう』
『なんでよ! なんでアスランさんがこんな目に会うのよ!』
「『メイリン?』」
静かだったいきなりメイリンが突然、大声をあげた。
画面越しにこっちを睨んでくる、うお怖っ。
努めて顔に出さないで淡々と応じることにしよう。
フッ。スタッフコールセンターでの経験がここでも生きるぜ。
『お姉ちゃんに言われたんでしょ? 卑怯よ! アスランさんが欲しいからってこんな手を使うなんて』
……あ? お前なにいってんの?
「ふざけんな! ルナが嫉妬したからこんな手を使った? 思い上がりもいい加減にしろ!!」
『ヒッ?!』
ヤベ。ビビってる。けどこれは許せん。
「本気で、本気で心配してたんだぞ! あんなに泣きじゃくって……艦長に何度も間違いだって進言してたってのに。どうしてそんなことを言えるんだよ!」
嫉妬なのか、それとも劣等感か。
メイリンがルナにいろんな意味でコンプレックスを持ってる話は聞いたことはあった。
けどこんな風にルナに対して考えてたことはなかったってのに……。
『話の途中で悪いね。ちょっと邪魔させてもらうよ』
誰だ? いや、それよりもセンサーに高熱源反応!?
胴体と飛行ユニットだけになったバビを引っ張ってその場を離脱する。
数瞬後、さっきまでいた場所を白い光が通りすぎていった。
電磁波でレーダーが乱れた……!
『これは……ローエングリン! アークエンジェルだ!』
「いつの間に。下からも来るぞ!」
海面ぎりぎりから急上昇して現れたムラサメたちがいっせいにミサイルを撃ってくる。
荷物のせいで避けるのが難しい俺とレイは必死に撃ち落としていく。
その隙にアークエンジェルは戦艦とは思えない瞬発力でこっちに急接近。
あらゆる武装を使ってムラサメ部隊を援護してきた。
ただでさえお荷物を抱えているってのに。クソッ!
「逃げるぞ、殿はまかせろ」
『シン!? この数では……』
「荷物を抱えたままじゃどのみち共倒れだ。それにデスティニーの機動性なら逃げ切れる自身はある!」
そうとも。武装が少ない代わりに圧倒的な速さがあるんだ。
ストライクフリーダムだって追い抜ける今のデスティニーに追いつけるやつなんてそうそういない。
『逃げるのは構わないがね。できれば君たちが手にしてる僕らの友人らを返してからにしてらもうか』
このの声、聞き覚えがあるぞ。
確か名前は。
「バルトフェルドか!」
『大正解だ!』
さっきのムラサメ部隊にいなかった。
なら更に上空か?
急いでミラージュコロイドを散布。
さらにビームシールドで頭上を覆う。
いくつかの射線が目の前を通り過ぎ、一発がシールドに命中した。
姿勢制御と共に上空めがけて遮二無二にライフルを撃ち返す。
手応えはあったが防がれたか。
かまわずライフルの連射を続けると太陽から一機のMSが飛び出してきた。
『いつぞや以来だねぇ、エースパイロット君。今度こそ目的を果たさせてもらう!』
それは朱色に塗り替えられたガイアだった。
まさかガイアで来るとは思わなかった。
けど地上戦用のMSで空中戦を挑んでくるとはな。
「正直、驚いたよ。けどガイアで俺達に勝てると思ってるのか?」
『もちろん……と言いたいところだが厳しいね。宇宙でならやってみせられるんだが』
気をそらそうと話しかけるが無駄か。
ゆっくりとシールドを構えて包囲してくるムラサメたち。
シンちゃん大ピンチ☆
『けど、こうやって多勢に無勢なら引き分けくらいはいけそうだしね』
「……」
『シン、どうする?』
「レイ……」
逃げたいってのが本音だ。
勝てないとは言わないが被害が大きすぎる。
武装が最低限のデスティニーじゃなければ、いや、それでも厳しいか。
『そこでだ! 君たちが保護してるアスランをこっちに返してくれれば見逃そう。僕たちはすぐに家に帰るよ』
「『な!?』」
キラの保護よりアスランを優先した?
んなアホな。
戦力と精神の支えとしてキラのほうを選ぶのが今までのやりかたのはず。
何が何だかわからない……。
「話に乗るか?」
『議長の命令はアスランの捕獲もしくは撃墜だった。ここで撃墜してしまえば』
「しかし渡さないと戦闘になる。この数だと俺たちを無視して基地に行かれる場合も」
『その可能性もあるか……』
迷う。非常に難しい。
議長の命令の優先か、はたまた安全性の確保か。
幸い、インフィニットジャスティスはこっちにある。
戦力の低下は最低限ですむと思えば。
『相談はすんだかな? そろそろ結論を願おうか』
ガイアはライフルをこっちに向けた。
倣って他のムラサメも構える。
「いいだろう。アスランは渡そう」
『……シン』
「レイ、悔しいだろうが我慢してくれ。このまま相手が引いてくれると約束させれば基地に被害は及ばない」
『だが保証はない』
ですよねー。
けど実際問題、選択肢があってないようなもんだからな。
諦めるしかないんですよねコレ。
「なんにせよアスランたちが邪魔なのは事実だ。仮に約束を破ってもアスランを狙って落とせばいい」
『そうする……しかないか』
「ごめん」
『いや、今回はしかたない』
俺は武装を仕舞いVPSを解除した。
レイも続く。
『そうこなくっちゃ。なぁに、僕は約束を守るタチさ。誰にもそれは破らせないから安心して欲しい』
陽気な声と共にガイアは近づいてレイからバビを受け取った。
まったくの無警戒だがなぜか落とす気にはなれない。
勘だけどコイツは約束を守る。
『ありがとう。聡明な決断に感謝する』
「ただ乗組員の一人がアスランと同乗している。彼女だけは連れ帰りたい」
『ふむ? 僕は一緒に来てもらっても一向にかまわないが。さきほど傍受させてもらった様子だとそんな感じだったしね』
どうやって傍受してたんだよ!
おかしいだろ。
まさか水中用MSを使ってたとか?
ありえないと言えないのが怖い。
「一応のケジメだ」
『わかったよ。ただ手短に頼むよ』
こっちも無理だとは思うけどやっておかないと後々問題になりそうなんだよ。
敵さんの希望通り手短にいくか。
「アスラン、話は聞いてましたね?」
『ああ。それでメイリンだが』
『私はアスランさんと行くって決めてるわ。だから、ごめん』
「そっか……」
ルナは泣くだろな。
俺もメイリンを殺さないといけなくなった。
気が重い。
『シン。こんなの言えた義理じゃないけどお姉ちゃんに伝言があるの』
「最後だから言ってみな」
『お姉ちゃん、ごめんなさい。ありがとう、心配しないで……って伝えて』
「わかった、伝えとく」
それだけ言いうとメイリンは通信を閉じた。
ある意味で元凶のアスランよ、メイリンを励ますくらいの甲斐性を見せて欲しかった。
気をとりなおして。
バルトフェルドにOKと伝える。
すると変なことを聞いてきた。
『最後に君たちの名前を教えて貰えるかい?』
「なんでそんなこと」
『ちょっと気になっただけさ。嫌なら構わないよ」
「別にいいけど。俺はシン・アスカだ」
『……レイ・ザ・バレル』
『確かに覚えたよ。ではさらばだ!』
背中を晒して悠々とアークエンジェルへ向かう。
ある程度ガイアが進んだのを確認し、急いで反転。基地へ機体を進める。
ムラサメ部隊の一部が追いかけようとしたがすぐに停止しアークエンジェルに戻り始める。
『どうやら約束は守るようだな』
「ああ。とにかく急いで基地に戻って知らせよう」
並走し警戒しながら移動する。
暫くして危険が少ないと判断し最大速度に設定しなおした。
再びレイを置いて先行すると基地が見えてきた。
だが様子がおかしい。
「こちらミネルバ所属MSパイロット、シン・アスカです。応答願います」
『こちら管制官。基地は先ほどテロリストに襲撃された。被害は軽微なれど貴官の所属する艦にダメージ有りとの報告』
「……! こちらシン・アスカ。了解した」
テロリスト? ミネルバに被害?
馬鹿な、アスラン奪取で動いた連中とさっきやりあったばかりだぞ。