「……」
「……」
「……」
シン・アスカです。突然ですが現場の空気が最悪です。
一番年長者で実力派のアスランがふて腐れてます。
同僚のレイまで露骨に不機嫌丸出しです。
どうしたらいいのでしょうか?
議長なんて顔が引き攣ってるんだぞ。
せっかくの新型のお披露目なんだからテンション上げていこうぜ。
「す、凄いですね! これが新型ですか」
「そ、そうだ。ZGMF-X42Sを元に再設計された機体ZGMF-43S。通称デスティニーだ」
おお、俺の意見を取り入れてくたんだ。
睡眠時間削って嘆願書を送りまくったかいがあった。
それにしても
見た目はいつもと一緒ですね。
特別に変わった感じはしないんですが。
「動力部の見直しから始まり部品や武装を一部ザクなどの主力MSと共通化したそうだ。そのため整備性も上がり武装もパイロットの裁量で選択しやすくなっているんだよ」
想像よりも便利になってて感動した。
これでおやっさんに泣かれずにすみます。
いっつもディスティニーで戦ったあと整備性が最悪だと愚痴られまくって肩身が狭かったんです。
「こちらはZGMF-X19Aインフィニットジャスティス。アスラン、君の後継機だ」
相変わらず「トサカに来たぜー!」と叫びたくなるフォルムの機体。
格闘機なのに当たり判定が多いとはいかに。
使いやすいがリフレクターを取り外すのは微妙だった。
たまに撃墜されたし。
機動力ガタ落ちしたあとは空からフルボッコされて惨敗したときもあったなぁ。
あんときはシュミレーターだったことに感謝した。
「レイ。君のMSであるZGMF-X666Sレジェンドはシンのディスティニーとの連携も視野に入れて開発したMSだ」
感慨に浸ってたら話が進んでいたでござる。
いつのまにやらアスランとレイは真剣に話を聞いている。
俺の心配を返して!
「ディスティニーが奇襲をかけジャスティスが斬り込む。二機の隙をなくすためレジェンドが遠距離から援護する。これが理想とするポジションだ」
見事などや顔です議長。
前大戦じゃフリーダムとジャスティスがパクられて少数精鋭のチームワークできなかったらしい。
やっと実現できるんでテンション上がってるんだろうな。
「私は反対です」
レイー!?
いきなりどうしたんだ。
まさかの反抗期か。
中二病はとっくの昔に二人で乗り越えたじゃないか。
「理由を聞かせてくれないか?」
ちらりと横目で視線が来た。
俺も参加しろってんですか。
勘弁して下さい。
「アスランは過去に脱走経験があります。復帰し任務に誠実に対応してたならば私もこのようなことは言い出しません」
迂遠に「お前の信頼ねぇがら!」と言いたいわけだな。
確かにほぼ無抵抗でセイバーをダルマにされて落とされる。
なぜか敵であるテロリストを庇う。
今までが優遇されすぎてたってわけですよ。
わかったかそこの脱走兵。
「ふむ。ではシンとしてはどうしたい? こちらとしてはせっかくの機会を無碍にしたくないのだが」
はーい。無茶振りきましたー。
どっちの意見をとっても角がたつじゃないですか。
「俺としても。残念ですがレイに同意です。信用はできても信頼ができません」
ちょっと驚いた議長。
アスランは地味に傷ついてる。
アンタいきなり人を殴りつけたでしょうが。
これでも大分優しくしてんですよ。
簡単に落ち込まないでください。
だいたい仲の良い友達のほうを取るのは当然じゃないですか。
俺よかキラを擁護してたからこれでお相子です。
再びの沈黙が訪れた。
心なしかインフィニットジャスティスが泣いてるように見える。
なんとか議長の必死のフォローのかいあってレイは渋々、本当に渋々アスランの機体の受領を受け入れた。
本っっっ当に嫌そうだった。
アスランもいいとこあるよ。
結構面倒見がいい、冷静になりきれない、何を言っているかわからない、赤服のTOPだったから技能はいける。
ほら、こんなに沢山あるじゃないか。
あまりにも嫌がるのでインフィニットジャスティスの起動キーはレイに預けられた。
アスランに渡されたのはサブである。
仮に戦闘中に裏切り行為があった場合、特定のシグナルを出すことですぐに起動停止するらしい。
追い打ちにレイが近くにいないとインフィニットジャスティスを機動すらできなくなった。
これらのシステムは昔、フリーダムとジャスティスが奪われた教訓のたまものだそうだ。
と議長はこっそり俺にだけ教えてくれた。
……お疲れ様です。
話も終わり二人はミネルバにもどっていった。
なぜか俺だけ議長に呼び止められお茶会をしてる不思議!
「君にはお礼を言わなければならない」
「え?」
さっきの殺伐とした状況を作り出した原因の一人にですか?
議長、あなた疲れてますよ。
とは言わないのが俺クオリティ。
「私が知っているレイは人見知りしてたんだよ。アカデミーに入学したときも他人とは境界線をきっちり分けてた」
「あのレイがですか」
「そうだ。だが君と出会い生活を共にしていくにつれ我儘も言い出すようになってね。保護者としてこれほど嬉しいこともない」
最後に炎の中、議長の手を握りながら「お父さん!」と叫んでたのは光景。今でも記憶に焼き付いてます。
間違いなく議長はレイのお父さんです。
「だが今回のような事は予想外すぎた。よほど鬱憤が溜まっていたんだろうね……」
事件は現場で起きてるんです。
そりゃストレスもウナギ登りってもんです。
特にキラを捕縛しちゃったからなぁ。
警備のやり取りで疲れてもいましたからね。
「いえ、今回のケースは正当な理由があります。レイは正しいと思います」
「そう言ってもらえると助かる。しかしこうなるとアスランの籍をミネルバに置いておくのも心配だ。かといって本国に返すのもなかなか難しい」
眉間にシワを寄せてウンウン唸り出す議長。
アスランの処遇かぁ。
たいていキラのほうに転がり落ちますんでこのままだと確実に裏切られますです、はい。
綺麗サッパリ切り捨てるのが一番ですよ。
しかしだ。
なまじパイロット技能と頭が切れるもんだから敵に回すと面倒くさいことこの上ない。
「体に爆弾でも埋め込んどきます? ミネルバから10キロ離れたらボンッ……みたいなのでどうでしょう?」
「人道的観点から認められないよ。だが首輪をつけるという案はいいね」
「首輪に人手を割くくらいなら監禁しとくのも手ですよ。もしくは連合側の国に預けるのは?」
「……たまに君の考えからテロリストのような印象を受けるね」
「そうですか? 昔の国はけっこう似たようなことやってました」
自白剤で人格破壊はデフォルトだったみたいです。
あーだこーだと1時間話したが結論は出なかった。
結局は現状維持で収まるみたいだ。
ただ人員が少ないので何人かパイロットを送ってくれるという。
やっと寝不足の日々から開放される。
「議長。その人員って誰なんですか?」
「うん? 君もよく知ってる人物だよ」
胡散くさい笑顔をありがとうございました。