俺は服に対してあまりセンスがない。
基本的に服屋の店員にコーディネートしてもらったのを纏めて買っている。
さらに着こなし方もメモさせてもらっている。
そのメモのとおりに服を着こなして準備は完了した。
副業で肥えた財布と携帯も持ったしいつでも出れる。
約束の時間まで30分前。
そろそろ待ち合わせの場所に用意してもらった車で移動する。
着いた門の前にはルナがいた。
何度も時計で時間を確認したが約束の時間までまだ25分もある。
早すぎじゃね?
そわそわと落ち着かない様子で時計と冊子を交互ににらめっこしてるのが可愛い。
「ずいぶん早いな~」
「そう? 30分前行動は基本よ」
なんでもなさそうに言う割に服は気合入ってますね。
スカートの丈もさらに短くなってるような。
瑞々しい白い肌に映える黒のニーソックス。
いい仕事してますねぇ~。
「それより早く行きましょう。食事の前にショッピングよ!」
「おい引っ張るなよ」
運転席に押し込むな。
暗いより明るいほうがデートも楽しいけど浮かれすぎ。
クスリでもキメたか?
横目でのぞき見ても鼻歌を歌い出しそうなくらいご機嫌なのが顔に出てる。
う~ん。特に親しくした覚えはないはずだが。
汗で透けたシャツを盗撮とか。
靴に仕掛けた隠しカメラにパンツを収めたとか。
格闘訓練にかこつけてあちこち触りまくったとか。
愚痴に付き合うかわりに体を舐め回すように眺めたとか。
碌なことはしてないはずなんだが。
傍目から見れば難しい顔をする男とやたらハイになってる女の怪しい二人組。
道行く人が怯えた顔でこっちを見てることに最後まで気付くことはなかった。
地図に指示してある場所に車を預けてショッピングへ。
おもったより町は繁盛してるらしく商店がたくさん並び活気にあふれてる。
さっそく最寄のよさげなファッションショップへ突撃するルナ。
苦笑いして俺もあとに続く。
いきなりランジェリーコーナーから買うのかよ。
どうてみても罰ゲームです。本当にありがとうございました。
「シ~~ン。これなんてどう?」
真っ赤に燃えた太陽のブラを胸元にもってくるな。
俺はむしろ前に見せてくれたようなピンク系のほうが。
こら、ストライプの上下とか反則だろ。
お前どこで勉強した?
「大胆な彼女ですね? 活発そうなので逆に大人しい感じの服もいいですよ」
店員め。
連れてる女が彼女かどうかなんぞ関係なく男が貢ぎそうな匂いを嗅ぎつけたな。
ぜひお願いします。
もういくらでもつられちゃう。
お嬢様プレイを所望しても断られまくったんだもん
奮発しますんで見事なコーディネートに期待させてください!
「おまかせあれオホホホ!」
「え? なんです、ちょ、どこ連れて行くんですか!」
「服を見繕ってくれるってさ」
「さー行きましょうね~。大丈夫よ彼氏さんが気に入るようバッチリおめかししてあげるわオホホホ!!」
面白そうだと暇そうな店員も寄ってきた。
助けを縋るまなざしを向けてくるルナ。
いと萌ゆるナリ。
「ルナ」
「シン、助け……」
「グッドラック」
「いやぁー!?」
今のうち金を下ろしに行こう。
20万あれば足りるだろ。
「ブラボー! おお…… ブラボー!!」
様変わりしたルナを見た瞬間に叫んでた。
イイ、実にいい。ウィッグでも長髪を見るのは初めてだ。
照れた上目遣いとか指で髪をいじる仕草とか。
パイロット家業で体が締まってるおかげで華奢な感じがしてたまらない。
「店員さんたち。ありがとうございました!」
「こちらこそ楽しませていただきました」
さりげなく渡された領収書は8万だった。
思ったよか安かったな。
レジでニコニコ現金一括払いして元々着てた服が入った袋を受け取る。
なんか店員たちから色々アドバイスを言われては顔を赤くして戸惑ルナの姿。支払いをしてくれた最初の店員さんが手に持ったデジカメでその姿を映してた。
迷うこと無く札を数枚手渡し買い取る。
「今日のことは忘れません」
「たくさん買い物して頂きまして誠にありがとうございました。これは支配人からのメッセージです。お受け取り下さい」
カードには買い物してくれたことへの感謝と支配人のサイン。そしてレストランの名前。
「これって?」
聞くとデートしているカップルの男に支配人が渡すそうだ。
レストランのオーナーは古くからの友人でこのカードを見せれば融通が聞くという。
「ここってネットや雑誌に絶対載せないお店なんです。関係者か紹介がないと入れないんです。いい機会でなので行かれてみてはどうでしょう?」
ここまで押してくるということはハズレはないか。
金も余ってるし行くことにしよう。
「じゃあ連絡をしといてください。今からすぐ行きます」
「かしこまりました」
まだ店員に弄られてたのか。
そろそろ解放してあげてください。
「ルナ~! そろそろ飯に行こうぜ」
「いいけど着替えたいから袋渡して」
「似合ってるよ? 着替える必要ないって」
「恥ずかしいのよ! それに私のキャラじゃないし……」
「ルナ。君は実にバカだなぁ」
殴るなよ。
店員さんたちが驚いてるだろ。
肩口から覗いてたブラは白か。細かいレースが眩しいぜ。
「ここに知り合いは誰もいないんだぜ。いつもと違ったことしたって気にするな。俺は気にしない」
「あんたって本当に鈍感よねぇ。悩んでた私がバカみたいじゃない」
いつもの調子に戻ってきたな。
これでこそルナマリア・ホーク。
「エスコートをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「喜んで」
差し出された手に口づけをする。
ニヤニヤする店員たち。
そしてルナ。いくら知り合いがいないからといって油断は禁物だ。
横からビデオ録画してた店員さんもいるんだぜ?
あとでデータくださいね?
楽しい時間も終わって最高の気分で基地に戻ってきた。
真に遺憾だがルナは服を着替えてしまった。
ウィッグを外し忘れてるあたりがルナらしい。
「さすがに知り合いの前だと恥ずかしい」
お前は俺を萌え殺す気か!
滞り無く基地に帰ってきた。
多少の金はかかったけど楽しかったな。
車を預けルナと歩いてミネルバに戻る。
みんなへのお土産もバッチリ買ったし貴重なデータも手に入った。
こんなに嬉しいことはない。
さっそくレイから配ろうと考えてたらアスランが俺に近付いて来た。
その後方からレイが慌てて駆け寄ってくる。
「二人ともちょうどよかった。これお土産です」
「お前ってやつは!」
「ありがとうございますっ!?」
アスランに殴られた。
めっちゃ痛い。
「ちょっと大丈夫? アスラン、いきなり殴るなんて、どういうつもりなんです」
「ルナマリアどいてくれ」
「今のアスランはおかしいです!」
激昂するルナを宥めてアスランと対峙する。
「怒り心頭なり」と少々逝っちゃってる目のアスラン。
そんなアスランから庇うようにルナは俺の頭を抱き抱えた。
目の前におっぱいがいっぱいだ。
なんという柔らかさ。いい匂いもする。
理想郷はここにあったのか。
しかし女に守られてばっかなのは俺の沽券にかかわる。
非常に残念だがルナの胸の中から脱出しアスランと対峙した。
「殴ったのはキラ・ヤマトを討ったからですか? アスランだってコテンパンにやられて悔しいはずでしょう?」
「……俺は、キラに討たれたことは気にしてなんかいない。お前が戦おうとしなかったキラを無理やり倒したのが許せないだけだ!」
なんでやねん!
仮にもフェイスが手も足も出ずに撃墜されたなんて憤死モンだぞ。
普通だったら俺に感謝とか憎まれ口とか叩くかも知れないけど。
一方的に殴られるいわれなんてねーよ。
レイが俺とアスランの間に割り込んできた。
おでこにはうっすらと青筋が。
切れかけてますね。
「アスランいい加減にしてください。それ以上シンに暴行を加えるなら拘束させてもらいます」
「キラは…お前を殺そうとはしていなかった!いつだってあいつはそんなこと!」
コクピットを狙われたの見てなかったんかい!
もう少しで体がバラバラになってたよ。
「キラもアークエンジェルも敵じゃないんだ!」
「「「その理屈はおかしい」」」
俺とルナとレイ、三人はアスランのその言語に突っ込んでしまう。
「以前に攻撃受けたわけですし。どう考えても敵ですよ」
「ちょっとレイ。アスランどうしちゃったの?」
「わからん。念のため精密検査をうけてもらおう」
ヒソヒソと頭を近づけて話す俺たちを尻目にアスランは頷いて震えております。
もしかして爆発する?
「アスラン。言いたいことがあるなら別室に行きましょう。ここは人の目がありすぎる」
現在進行形で注目の的である。
そこの外野ども、俺がアスランからルナを寝とったとか根拠のないこというな。
昔にメイリンを寝とったことはあるが今はやってない!
それに寝取りキラーは営倉にいるじゃないか。
ふてくされるアスランを宥める。ちゃんと状況を理解させる。
両方しなくちゃならないのが辛い所だよ。
覚悟はいいか。俺はできている。
『報告。パイロットのシン・アスカ、レイ・ザ・バレル、アスラン・ザラの三名は至急、基地司令室に急行してください。繰り返します……』
出鼻くじかれた。