宇宙を一筋の光が貫いた。
しばらくして遠くで小さな小さな光がいくつも弾けた。
それが大きな戦いの小さな狼煙だった。
厳戒態勢の中をムラサメやメビウスが突っ込んで来る。
惜しげもなく放たれたミサイルたちを俺たち4人は後方に展開していた部隊と協力し撃ち落としていく。
前線部隊は手頃な敵めがけて殺到し瞬く間に粉砕していった。
連携プレーにより死角をなくしたザフト軍の勢いは凄まじく被害を殆ど受けない。
それでも一点に集中して攻撃されたことで防衛ラインに穴が空いた。
すかさず敵の第2波が飛び込んでくる。
アストレイや105ダガーにどこからかき集めたのかウインダムまで次々に小さな点を巨大な穴にするため遮二無二に来る。
負けじとガナーザクの援護を受けたスラッシュザクが数機まとめて切り払い、グフのウィップに薙ぎ払われても引く気配もみせない。
勢いに押され、歪な形になっていく陣形。
一筋の流星のように二機のMSが飛び込んだ。
乱戦の中、まるで自分の家のように少しも減速することなく戦場を駆け抜ける。
すれ違うたびに友軍が削られていく。
――― 来たか。
<新たなMSが2体急接近中! インフィニットジャスティスとフリーダムに酷似した機体です! 担当班は至急、迎撃に向かってください!>
悲鳴のようなオペレーターの叫び声を尻目に淡々と俺達は迎撃に向かった。
『ジャスティス……ハイネか?』
『アスラン、覚悟して!』
『な、ルナマリアなのか!?』
奇襲と同時に言い放ったルナの一撃をアスランはサーベルで迎え討たされた。
ミネルバにいたころは余裕を持って避けられたルナの攻撃を切り結ばなければ対応できなくなったということだ。
『俺も忘れるなよ!』
『フリーダムにハイネだと!? 一体どうやって……っく』
大振りになったルナの隙をついて斬りかかろうとしたアスランをフリーダムの砲撃が邪魔をする。
砲門数こそ少なくなったが代わりに以前よりも敏捷性を増したハイネ使用フリーダム。
オレンジに染まる装甲を翻しライフルを構え、撃つ。
かすることなくヒラリと避け、ハイネに強襲しようとするアスランをルナが遮る。
『そこをどいてくれ! 議長は止めなくちゃいけない。わからないのか?』
『やかましい! そんなに止めたきゃ俺たちを殺してみせろよ裏切り者!!』
『……っ』
あっちは大丈夫そうだ。
それよりもこっちのほうだぜ。
目の前に悠然と佇むフリーダムを止めなくちゃならない。
既にレイはドラグーンの準備を終え、俺もアロンダイトを構えている。
対峙しているだけなのにこのプレッシャー、辛い。
『君たちはどうして議長に従うんだ。あの人の考えは世界を破滅させる、だから……』
『黙れスーパーコディネーター。貴様の存在こそが議長の考えが正しいという結果だ。そんなに否定したければ自殺でもしていろ!』
微かに動揺しているのがわかる。そんなに衝撃的なことだったのか?
『君は……なんで、それを』
『俺はラウ・ル・クルーゼと同じクローンだ。ラウの仇、なにより議長の夢を阻む貴様はここで止める!』
おーい!
レイがいきなり命令違反してどうすんのよ。
俺達の作戦目標は撃破じゃなくて抑えることだぞ。
微妙に蚊帳の外なのが拭えないのがちょっとアレだが俺も急いで戦闘に加わる。
多少の動揺はあったもののすぐさま対応し迎え撃つキラさんパネェっす。
少しでもドラグーンの操作を邪魔しようと斬りかかるが激流に身を任せる水の如く全て受け流されてしまう。
隙を見せようものならアスランのセイバーのようにダルマさんが転んだ状態になってしまう。
常に集中し続けないといけないのが凄くキツイ。
まだ30分も経ってないのに軽く息が上がってきた。
「くそったれ。なんて強さだ」
『ドラグーンはもうすぐ落とせる。頑張ってくれ』
「うぉおおおおお!」
最初っからサーベルにしときゃよかった。
懐に潜り込んでこないように騙し騙ししてきたが見切られかけてる……!
キラのドラグーンはガン無視してても怖い。
斬りかかった瞬間に後ろから……嫌な想像が頭をよぎる。
もう少し、もう少しで戦争は終わるんだ、邪魔はさせない。
『ラクスの言葉を聞けば、きっと君たちも判ってくれる!』
『ぐ……なんという精神力。だが、これで!』
「家族の仇のアンタの言葉なんて信じられるかぁ!」
ドラグーンを全てたたき落としたレイが合流してくれた。
プレッシャーが弱まったおかげで少しだけ余力ができる。
今のうちに武器をサーベルとライフルに切り替える。
レイと二人で組み立てた連携で攻める。
さっきまでの1対1の戦闘と違ってキラも迂闊に手出しできていない。
これならいけるか?
『このままじゃ……僕は……』
ガンガンいこうぜ!
押してる、間違いなく押してるよ。
なんでか知らんがキラのテンションが上がっていない。
いや、本気でやってんだろうけど全力じゃないんだろう。
俺がいつもの中二病状態になってないのに対応できてるのが証拠だ。
「いける、いけるぞ! レイ、このまま押し切るぞ」
『同時に攻撃するか?』
「確実にいこう。ただし隙を見せずに地道にだ」
油断してはいけない。
あいつはキラ・ヤマトなんだ。
味方にしたら頼もしいのに敵にすると鬱陶しいことこの上ないという存在。
まだ慌てるような時間じゃない。
『このままじゃ。ゴメン、ラクス。僕は僕の信念を破る。でも君を守れるなら構わない……君がくれたこのストライクフリーダムで守ってみせる!』
いきなり一人で恥ずかしい告白したかと思ったら動きが変わったでござる。
キレが2倍、俊敏が1,5倍、さらにはパゥワーまで上がってる。
設計上はデスティニーとレジェンドのほうがパワーは上なんですけど。
何をしたキラ・ヤマト。
「どわ!? いきなり強くなりやがった?」
『捌ききれん、まずい押し返されるぞ!』
「チックショー! ええい、諦めるなレイ、ヒッヒッフーと深呼吸すれば活路が見えるはずだ。近所のばあさんが教えてくれたおまじないだから間違いない」
『お前は何を言っているんだ? 少し落ち着け』
ッハ! 俺としたことが混乱していた。
いけない、いけない。こんなときこそヒッヒッフー。よし、落ち着いた。
いくらなんでもエンジン性能に差はないはずだ。
素材だって俺たちと変わらないはず。
残りはソフト?
だとしたらあんにゃろ、システムを書き換えたか入れ替えやがったな。
戦闘してる最中だから後者の可能性のが高いか。
どっちにしても化物と呼ぶにふさわしいチート野郎だ。
けど長くは持たないはず。
スペック以上の性能は必ず無理を生む。
そこまで我慢できれば勝手に引き上げていくはずだ。
それを信じてひたすら耐える。
命大事に本当に大事に。
どれくらい時間が経ったのか解らない。
気づけば最初と同じ構図でキラと対峙していた。
俺は肩で息するほど疲れてる。
少しでも呼吸を整えようとしていると突然、キラは身を翻しその場から去っていった。
「どうなってんだ……? しかし助かった」
『こちらもハイネたちと合流して基地に戻るぞ。そろそろ俺も限界だ』
「ああ、急いで戻ろう」
レーダーを頼りに二人を探すとすぐに見つかった。
あっちも俺たちを探してたようだ。
話もそこそこに俺達は急いで基地に戻った。
急ピッチで補給と検査をしてる格納庫のパイロット控え室。
新しいパイロットスーツに着替え、ドリンク飲んでようやく落ち着いた。
「「「「……疲れた」」」」
全員でベンチや床に寝転んで臆面もなく言い切った。
ここまでとは苦労すると思わなかった。
「アスランの野郎いきなり強くなりやがって。白いスラッシュザクが援護してくれなきゃ危なかったぞ」
「同じMSなのに出力で負けるっておかしくない?」
あっちも同じだったらしい。
ルナの不満も当然だよな。
たぶん後から開発したにしろ全体的に差はないはずなのに。
ドラグーンの操作で精神疲労がたまったレイも頭にタオルを乗せるほどだ。
俺にしたって栄養剤を点滴してもらってるし。
少し休んでリフレッシュし、さっそく戦場に戻ろうとしたらハイネとルナたちがおやっさんに呼びだされた。
俺達は先に行って待っていろとのこと。
言われたとおりに先に出る。
艦外に出る瞬間、視界の端になにか映った。
気になってそっちに顔を向けた。
なんかいる。
ミネルバの両横にでかくて白くて大きいのが……。
「どっかで見たことあるんだけど何だコレ?」
『ミーティアだ。元々フリーダムとジャスティスの補助兵装だった。しかし前大戦で二機の分とも破壊されたはずだ』
生き字引のレイさん流石です。すっかり忘れてた。
それにしてもデカイよな。常識的に考えれば機動性が最悪になりそうなもんだけど。
『見てみろ、二人が出てきた。恐らくドッキングするはずだ』
「どれどれ?」
細長い筒が飛び出してるほの真ん中にある四角い部分がガチャッとなってフリーダムとインフィニットジャスティスがそれぞれガションとくっついた。
筒の内側にあるグリップを二機が握って……お終い。
「地味じゃね?」
『単純なほうが兵器としては強いから仕方ない』
「あれ1機作るくらいならザクとかに予算を回したほうが……」
沈黙。
再びレイは口を開いた。
『あの二機はアマルフィ技師が是非ともにと少ない予算をやりくりして送ってきてくれたそうだ』
「いやー味方がパワーアップして本当によかったよな! これなら今度こそ勝てるぜ!!」
心のそこからゴメンナサイした。
『おーい、こっちは準備終わったから行こうぜー』
『二人とも私たちが牽引するから捕まって~』
ありがたく乗せてもらう。
推進剤は少しでも節約したいしね。
図体から想像できない速さで移動できるのは結構楽しい。
システムの関係上、デスティニーとレジェンドは装備できないらしくてちょっと残念。
友軍が開いた道を進んでいくと白いスラッシュザク率いる部隊がこちらに接近してきた。
『こちらジュール隊隊長、イザーク・ジュールだ。そちらの部隊と同伴してよろしいか?』
『こちら迎撃特化隊ハイネ。軍より許可は得ているか?』
『議長直々に許可は得ている。これが証明映像と通達書だ。確認を頼む』
『……照合完了した。合流を認める』
どういうこと?
『さっきの戦闘でかなり連中を削れたんで余力が出たんだよ。てなわけでウチの隊長さんが是非ともあの連中とやり合いたいと懇願したのさ』
『ディアッカ! 余計なことを言うな!』
『はいはい、すいませんね』
そんな要望を土壇場で決定しないで欲しかったです議長。
裏切り者かと思っちゃったじゃないですか。
けど戦力の増強は頼もしい。
遠くに何か見える。
白いのが2つ。あれは?
『ディアッカ、アスランとキラ・ヤマトが来たぞ。やはりミーティアを装備したか』
『イザーク隊長、そちちらの部隊と俺とでアスラン・ザラを迎え撃つ。残りはキラ・ヤマトを頼む』
「ハイネ?」
確かにそのほうが勝率は高い。でも大丈夫なのか?
『心配すんな。かつての腕きき2人もいるんだぞ。もう一人のパイロットまでは知らんがな』
『フン。シホもなかなかの腕だ。足手まといにはならん』
『てなわけなんで決定な。心配すんな。負けるような戦いはしない』
ハイネぇ……。
そこまで覚悟を決めてるなら止めるほうが失礼だな。
『仲間を信じろ。シン』
『大丈夫だって。私なんて未だにハイネにシミュレーションで負け越してんのよ』
「うん、わかった」
正真正銘、最後の戦いだ。
決着を付ける!
2つの部隊に別れ、俺とレイとルナの3人はキラと衝突した。
さっきよりも強いプレッシャーを放ってきやがる。
心配で繋げっぱなしだった通信から『愛と怒りと悲しみの!』と通信が入ったので切っておいた。
よっしゃ、これで準備よし。
どこからでもかかってきやがれ!
『シン・アスカ。君は全力で叩く!』
初球から名指しで俺狙いだよ。
怒涛のミサイルとビームの攻撃をデスティニー得意の分身殺法で避ける。
レイとルナが隙をついて落とそうと攻撃をしかけるが相手も避ける避ける。
けど3体1という状況。同時に馬鹿でかい図体だ。
キラといえど少しずつ被弾している。
レイのドラグーンの攻撃で大きくよろけたところを俺が高エネルギー砲の一撃を叩き込んだ。
とっさにミーティアを切り離しキラは脱出した。
そこにルナがミーティアの全弾を発射する。
迫るミサイルとビームの大群。
キラは優雅とよべるほど落ち着いた動きでビームに一切当たらず、しかもミサイルを避け、撃ち落とし、時に盾にして凌ぎきりやがった。
身軽になってスピードが増したストライクフリーダム。
二人に目もくれず俺だけ狙って突撃してきたし。
『君が、君さえ倒せば全部終わる!』
「ちょ、おま、話せばわか、うぉ」
『もう流出したものは止められない。だったら元を断って被害を最小限に!!!』
どうもシン・アスカです。
命がけの鬼ごっこが始まってどれくらいの時間が流れたでしょうか?
僕はまだ生きています。
訳のわからんことを叫びながら命を狙ってくるキラの対応に忙しいこのごろ、皆さんは、いかがお過ごしでしょうか。
「ぐうぅぅぉぉぉおおお。死んでたまるかコンチクショー!」
『もう後がないんだ! 敗けられないんだ!』
『援護する、急いで体制を立て直すんだ』
『コッチを無視すんじゃないわよ!』
ドラグーンの乱舞をレイが妨害し、時にはルナが身を呈して防いでくれるおかげで逃げられてる。
人間の反射神経じゃねー変態機動を見せてくれるキラ。
あんな細いMSのどこにそんな耐久性が?
「危ね! けど耐え切ったぞ」
『……逃げ切られるなんて』
再びレイの手によりドラグーンは破壊された。こっちもミーティアがやられたけどな。
廃棄したミーティアを壁にしてキラと対峙する。
観察したストライクフリーダムの残る武装はライフル二つとサーベルとバルカン。あとは胸の砲塔っぽいやつ。
俺達は俺達はなるべく近づかないようにして攻撃することにした。
あっという間にミーティアは破壊され障害物がなくなる。
でも3機で囲んで得意の空間軌道を封じることに成功してた。
千載一遇のチャンスにドラグーンも含めて一斉にライフルで攻撃。
しかし当たらない。
3体1の状況下なのに相手もよくやる。
ただいい加減に疲れてきたのか少しずつ回避するタイミングが際どくなってきた。
一気に終わらせたい気持ちを堪えてひたすらに射撃のみで押しこむ。
黙って嬲られるわけもなく、キラも二つのライフルで反撃してくる。
しかしこちらも核動力機体だ。
シールドを貫通できるわけがない。
逆に攻撃を受けなかった1体が冷静に対応するだけだ。
機会を伺ってルナと交互にアタックしかけたがダメだった。
ただアチラも警戒した様子で守る姿勢に入った。
戦闘を始めてから15分。
俺達も連戦で疲れているがキラのほうが辛いだろう。
やはり動きの精細さが欠けてきている。
そろそろ動く。合わせて俺も。
『……負けられないんだ!』
動く気配を感じ俺は中二病状態へ移行する。
視界がクリアになり周囲から得られる全ての情報をなんなく処理できる。
デスティニーの指先で生卵を壊さず持つことだってできるはず。
スラスターを最大に燃やしキラが突っ込んでくる。
負けじと俺も出力を最大まで上げた。
アロンダイトとサーベルがぶつかり合い火花が燃える。
一刀のこちらに対して相手は二刀流。
しかし一撃を各部スラスター全開でぶん回し攻撃させないようにしてやる。
おかげで腕から「ヤバいから落ち着け」とアラームで抗議が入ってくるが無視。
俺自身も加速するGに体がギシギシ言うが歯を食いしばって耐えた。
何度も打ち合う中、嫌な予感がした。
もしここで仕留められなきゃ終わる―――そんな予感。
信じて残る力を振り絞る。
変に力んだせいだろう。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ操作に余計な力が入ってしまった。
少しだけアロンダイトを振りぬく距離が伸びる。
普通なら気付かない操作ミス。
しかしキラにはばれていた。
キラがアロンダイトの峰に自分のサーベルの柄を当てた。
外から加えられた力のせいで腕が流され体制が大きく崩れる。
キラからアロンダイトは絶対に届かず、しかし一足で踏み込める距離を取られた。
「あ、死んだ」
キラの乗っている機体の胸元に光が集まるのがわかる。
ゆっくり流れる灰色の時間の中、やけに冷静になっている俺がいた。
あれはシールドごと俺をぶち抜く。
けど避けきれる距離じゃない。
体制を直すヒマもない。
詰んだ。
頭の別の部分はこの瞬間を打破できるものを探していた。
バルカンはチャージしてるビームの余波で命中しそうにない。
なにかビーム系の飛び道具はないか。
ライフル―――間に合わない。
高エネルギー砲―――間に合わない。
サーベル―――届かない。
ブーメラン―――抜けない。
―――!!
一つだけあった。
一か八かだ。
死ぬにせよ生きるにせよ試してやる。
デスティニーの右手をアロンダイトから離しシールド発生装置をキラの乗る機体の胸元に合わせる。
ストライクフリーダムの胸元にシールドを発生させる上限値を大幅に超えたエネルギーを注ぎこむ。
俺、うまくいったら神様信じる。
「頼む……」
シールド発生装置から細いビームを発射。
光る相手の胸元めがけ撃ちこんでやった。
細いビームはチャージしてるエネルギーの余波にかき消されつつ、それでもほんの少しが銃口の中に飛び込んだ。
そして。
まずキラの乗る機体の胸元から歪なビームがたくさん飛び出した。
次いで大きく爆発した。
左手に握るアロンダイトでコクピット覆った。
右手のパルマフィオキーナをかざした。
一瞬だけ掌はビームを支えられたが一瞬で紙のように突き破られた。
右腕、肩を一瞬で吹き飛ばされ、突き抜けたビームは背中のウイングユニットまで巻き込んでいく。
コクピットが激しくシェイクされ段々と意識が遠のいていく。
衝撃で霞む意識の中、誰かの声が聞こえた。
ああ、これは―――だ。
もうねむい。おきてなきゃいけないのに。おきて―――。
「っは!?」
気づくとデスティニーのコクピットの中。
慌ててレーダーで確認すると敵の反応が遥か遠くにあった。
戦闘は、終了していた。
『目を覚ましたか! 機械だと異常はないようだが大丈夫か?』
『心配させないでよバカ!』
「あつつ……。頭がどっか切れてる。うわ、ヘルメットが壊れてら」
役に立たなくなったヘルメットを脱ぎ捨てると赤い血がいくつも宙を舞う。
吸引ホースで吸い取って緊急キットの止血スプレーを頭にふりかけてやる。
消毒済みのガーゼで血をぬぐい取りながら今の状況を教えてもらった。
キラが戦闘不能になったのを見てレイとルナでトドメを刺そうとしたところに敵の部隊の一部が攻撃をしかけてきた。
手間取っている間にハイネたちから逃げ出したアスランが被弾を無視してキラを回収して逃げて行ったという。
そのまま敵は後退。
攻撃の要の一つを失ったのがよかったんだろうと言ってくれた。
しかし二度の敗戦でラクス・クラインのカリスマはかなり下がった。
大きな攻勢に出るとしても時間がかかるだろうと議長は判断。
すぐさま終戦宣言を世界に向け発表したそうだ。
ラクス・クラインたちが動けない間にデスティニープランの有用性を世界に認めさせることができれば連中が蜂起しても支持者は少なくなる。
プラントと地球圏の融和のために既にアイリーン・カナーバ議員に協力をお願いしたところ喜んで承諾してもらえたそうだ。
多少の技術の譲渡に目を瞑りとにかく、プラントの国力回復に向け動き始めるため関係者が忙しなく動いているという。
皆がまとめて教えてくれた。
「戦後処理もまだなのに気が早いなぁ」
『政治というのはそんなものだ。結局、利益という名のパイの配分をいかに多くするかでケンカするだけ。やることは子どもと一緒だ』
『いーねーレイ。猪なシンにも分かりやすい説明だ』
「誰が突撃バカだ!」
『アンタよアンタ』
お前ら。人が動けないのをいいことに好き放題いいやがって。
ルナにだけは言われたくない。
『イザークも大変だろうなぁ。隊長さんだから書類とかもたんまり来るぜ?』
『なっ、ディアッカ逃げる気か!?』
『隊長、私も手伝いますから』
『すまんシホ。後で飯でも奢らせてもらう』
あっちも苦労人かぁ。気が合うといいな。
『よーし。今日のところは帰ったらパーティーして馬鹿騒ぎして明日の昼まで寝るぞ!』
『いい考えね。せっかくだからジュール隊の皆さんもどうですか?』
『話せる女は好きだぜ。俺は賛成に1票。いいだろイザーク隊長?』
『……今日くらいは構わん。ならば俺が行きつけの店を紹介してやる。感謝するんだな』
あれよあれよと決まっていくな。
人でいっぱいのモニターの隅でレイも嬉しそうに笑っている。
「俺はおやっさんに頭を下げないといけないだろうなぁ」
デスティニーはボロボロだ。
右肩が根元からもげて背中のウイングユニットも半分しかない。
左手はアロンダイトを握ったまま戻らなくなっていた。
アロンダイトも半分から折れてしまっている。
残った手足も爆発の影響で電気系統が壊れたのか、まったく反応してくれない。
スラスターもうんともすんともいってくれない。
完璧にスクラップだ。
修理するにしても凄い時間がかかる。
俺も頭は切れてるし体中が痛い。
口の中は血の味でいっぱいだ。
それでも気分は充実していた。
初めてキラ・ヤマトと正面からぶつかって勝てたからかな。
やべ、顔がニヤける。
『何がそんなに嬉しいんだ?』
聞いてきたレイに俺はこう返した。
「勝って生きてるからに決まってるだろ」