突然ですが電波です。
冗談じゃなくて。
全世界に向けて議長がロゴスのトップを捕らえたことを映像配信でお届けしてた。
とても悔しそうなジブリールを背景に粛々と今後のプランを発表していくドヤ顔議長。
言ってる中身を平たく纏めるとロゴス系列の企業の情報開示に始まって補償金、共有施設での優先権などなど、これまで地球圏にシェアを独占されていた部門にプラントも食い込んでいくということ。
それとデスティニープラン。
なんでも遺伝子を調べて適合する職業を斡旋するものらしい。
強制力があるのか知らないけどありがたい。
将来に悩んだらそれに就職しやすくしてくれるってことですよね?
貧乏時代を知ってる身としては将来が保証されてるんで大歓迎です!
しかしここで待ったをかけるヤツラがいた。
そう、ラクス率いる謎の軍団だ。
……もうテロリストでいいよね。
いきなり胸のボリュームが激しく落ち込んだラクスを見て「パッド何枚も落ちてますよ!」と叫ぶアホがいるほどの衝撃だった。
<私が本物のラクス・クラインです>
議長の横にいるラクス(巨乳)が激しくうろたえていた。
つまり本当に本物は現在進行形で喋りまくってるほう(並乳)ってこと?
それじゃあ今まで広報活動してきたのは偽物でFA?
スタイルの良さ的に俺は偽物のほうがいいや。
なぜか議長と電波ジャックしての討論大会が始まった。
その隙に発信源を探ろうとするがうまくいかない。
普通はすぐに居場所がバレるはずだけどな。
結局、発信源が特定できないまま討論は不思議なことにラクスが勝利宣言っぽいのをして終わった。
あまりの流れにぽかーんと開いた口がふさがらない。
話を投げっぱなしに帰らないでくれよ。
あと動揺してる兵士。お前らいい加減にしろ。
どう考えてもザフトの軍人である以上、議長の発言が正論に決まってる。
「自分の国の代表を信じない兵士……大過ぎだろ」
「詭弁に惑わされる者がこれほどとは……」
レイと二人で机に突っ伏してしまった。
はあ。明日は月にいかなきゃならないのにこんな調子で大丈夫か?
「もう帰って休もうぜ。機体の調子もみなくちゃいけないし」
「レジェンドもようやく本領を発揮できる。仮にキラ・ヤマトたちが攻めてきても負けはしない」
「頼りにしてるぜ」
またまたテンションの上がったレイ。
楽できるからいいんだけどね。
月にあるレクイエムという兵器もジブリールという人質のおかげで無事に摘発に成功した。
かわりに他の組織と取引があったが概ね平和に終了した。
大きな戦争も一段落。残るはテロリストの掃討。
大事の前の小事を片付けるためにもザフト全軍に向けて休暇が入った。
5日もくれるなんて。議長ったら太っ腹なんだから……んもう!
てなわけでミネルバにも待望の休暇がやってきた。
今回ばかりは全乗組員が休み。
ルナは実家へこれまでの経緯を話に。
レイはタリア艦長と食事へ。
ヴィーノとヨウランも実家で積みゲーを消化しに。
おやっさんは家族に会いに。
ハイネも家族やバンド仲間と楽しく過ごすようだ。
そして俺は一人である。
レイ、ルナ、ハイネに誘われたが邪魔するのもなんなので遠慮しといた。
初日は有名なレストラン巡りをしたが3軒目で飽きた。
帰る途中、目についた食堂で食べた飯のほうが落ち舌にあった。
貧乏性な真実を知り、帰ってふて寝した。
次の日、朝早くに目が覚める。
いつもどおりに厳しい訓練していつも通りに食堂で飯を食ってふと我に返る。
――― 休暇中じゃん!
かといってショッピングするにしてもなぁ。
グダグダとシミュレーターやって終了。
残り3日。
今日こそはとPCのデータをいじることにした。
まず先日に貯めていたキラさんの写真をネットに流出。
顔は隠してるが本人を知る人が見ればバレる程度のモザイクである。
元のファイルをコピーしたディスクを作る。
これはとある知り合いに渡すのだ。
イイ収入源なので小分けしたのを数枚用意してみました。
全ての作業が終わった。
最後にPCに機動パスを5重に設定。
さらに一度でも間違えると24時間機動しないようセット。
最後に起動した日から60日がたったら自壊するようにして完了。
いい仕事したぜ。
部屋から出て、指定されたボックスにディスクを一枚放りこんで、かわりに封筒を抜き取る。
中身はお札が数枚入ってた。
臨時収入の使い道を考えてたらアーサー副艦長を発見。
なにやら黄昏てる。
「アーサーさん、どうしたんです?」
「ああ、シンか。実はな……」
3分も話してもらってなんですが簡単に言えば彼女に振られたと。
遠距離恋愛に長期の音信不通が原因?
俺的には他に男が出来たからっぽいですよ。
「そうかな。でも……」
「あくまでも推測ですよ? それよりもそんな調子で大丈夫なんですか?」
「もちろんだ。残りの休みの内に立ち直るよ」
力のない笑顔で言われても。
しかたない。
「ところで貯金してます?」
「突然なにを……」
「お金に余裕あるんならいい場所紹介しますよ?」
「いい場所? 変なところじゃないだろうな」
心配しすぎですよ。
大丈夫、シン・アスカ嘘つかない。
「ちょっと待ってくださいね……ほいっと」
手帳に住所と金額、そして俺のサインを入れ渡す。
「これは?」
「この住所に行って今の紙を見せれば入れるお店です。カードより現金のほうがいいですよ。額は最低でもその金額を持って行ってください」
行くも行かないもアーサー副艦長しだいですが。
いけばいい夢みれますよ。
「じゃ、俺はこれで」
「お、おい」
引き止める声を無視した。
すっかりやることも暇つぶしもなくなった。
気晴らしに外に出て中華料理を食べる。
大衆食堂って美味いよね……。
そんなこんなで今日も終了。
あと2日。
この日は俺に客人が来てるというので会ってみることにした。
プラントにろくな知り合いはいないはずだが……。
案内された部屋にはすでに待ち人がきてた。
車椅子に乗った男性とそれを後ろから支える女性。
緑髪というなかなか珍しい色。
しかし会ったことないはずだが。
「はじめまして。私の名はユーリ・アマルフィという」
「私はロミナ・アマルフィです」
いかにも上流階級っぽい二人がする挨拶はとっても優雅に感じてしまう。
場違いっぽくて超居づらい。
「実は君にぜひともお礼がいいたくてね。知人に無理を言って会談させてもらったんだよ」
「お礼、ですか? 失礼ですけど初対面ですよね?」
「ああ。もちろんいい大人がこんなことをするのもどうかと悩んだがね。けれど会えてよかったよ」
「はぁ……?」
すごく優しい眼差しを向けられても困る。
もしかして新手の詐欺?
と、いきなり二人が同時に頭を下げた。
何事!?
「君が息子の敵を討ってくれて本当にありがとう。おかげで前に進むことが出来た」
「自暴自棄だった私たち夫婦が立ち直る大きな切っ掛けになりました。心からお礼を言わせてもらいます」
おおうビックリした。
なんだ、ただお礼を言いに来ただけか。
手紙とかでも充分だったのに。
ちょっと引いてる俺に気づかず二人は次々と言葉を継ぎ足していく。
微妙に堅苦しい言い方だけどなんとか聴き解くとキラ・ヤマトが息子さんの敵だったそうで、俺が完膚なきまでに叩き伏せ、かつ捕虜にまでしてくれたのが嬉しかったそうな。
さらにアスランに対しても似たようなこと言われちゃった。
「フリーダムとジャスティス。どちらも国家防衛のために、息子のために私が作り上げたMSだった。が、息子の敵に掻っ攫っていかれ、しかも息子の親友だと思っていたアスラン君にまで裏切られて……」
ヘビィだぜ。
あいつらって碌なことしてねーな。
俺だったら自殺したかもしれん。
「夫は目標を失い呆然とした日々を過ごしてました。でもシン・アスカ君が開発中の機体にあれこれと注文をつけたおかげで現場から復帰の声があがったんです。そしたら技術者魂ですか? それに火がついてしだいに元気になっていきました」
嬉しそうに語るアマルフィ婦人。よくみれば頬はやつれ髪も傷んでる。けど顔は生気があふれんばかりに輝いている。
「つい最近まで飲まず食わずでデスティニーを改修していたものでね。終わった途端に病院に運ばれて最近がやっと退院できたんだよ」
言葉の暴力反対。
地味に心に突き刺さります!
「その甲斐あったようだね。現場の技術者からは『思ったより整備しやすい』と太鼓判をもらえたよ」
よかった。本当にいい事があってよかった。
じゃなきゃ単なる我儘で入院させていた。
1時間ほどの短い時間だったけどアマルフィ夫妻は満足して帰っていった。
あの人達に悪いけど、いいヒマ潰しになって助かった。
玄関まで見送った後、なんとなくデスティニーのメンテをすることにした。
シミュレーションと実戦データの齟齬を無くし処理能力を上げるためいらない部分がないか探していく。
改修しただけあって無駄というものが殆ど無い。
僅かばかり出てくるバグを解消して作業は1時間足らずで終わってしまった。
「やべ、超ヒマで困りんぐ」
適当にワゴンゲームでも買ってみるか。
そうと決めたらさっさと行動。
外着に着替えて財布と携帯を手に外に出た。
ザフトの街並みは綺麗だ。
計算されつくした区画は商業地区と住宅地区などを区別しつつ境目が薄れるように気を使われてる。
ただオーブとか地球の都市と違って味気ない部分もある。
人口が増えづらいのもあって人もなんとなく少なく感じる。
30分さまよってやっとゲーム屋を見つけられた。
意気揚々と店内に入る。
さーてなんかいい商品は……。
絶望した! 品揃えの無さに絶望した!!
知育ゲームばっかじゃねーか!
マジふざけんなよコラ。
オススメ音楽がクラシックとラクスのCDしかないって……あ、ハイネもあった。
とにかくやりたいゲームがない。
だったらとレンタル屋に向かう。
ここだったらいくならんでもさっきのような……。
ま た か。
もう上品な商品はいらないって。
勘弁して下さい。
お下劣なものとかないんですか?
え、ある?
高校生向けポルノとかいい加減にしろ!
肝心な部分が服で隠れてるし。
なんだよ、そっち方面も上品なのかよ。
どおりで俺の地球で得た知識を披露すると引かれることが多かったわけだ。
ムッツリは紳士ですかそうですか。
そりゃアスランはモテますな。
こんなことならもっと早く事情を把握すべきだった。
結局、街中を爆走した2時間は無駄に終わってしまったし。
仕方ない、軽く飯と酒を飲んで帰ってネットでもしよ。
目についたバーに俺は入ることにした。
なかなかイイ雰囲だ。
ちょっと雑然としているところがまたいい。
夕方のせいか客は俺だけみたいで店内はがらりとしていた。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「はい。がっちり食べられる物と食後に軽い酒をお願いします」
「身分証を拝見してもよろしいでしょうか?」
「えっと……どうぞ」
ちゃんと飲酒できる年齢だと確認すると人懐っこい笑顔を浮かべマスターは奥の席に案内してくれた。
たっぷりの具が入ったパスタと温かいスープ。
うめぇ。
こんなに食べても太らない。
若さと訓練って素敵。
ふう。
一気に食ってしまった。
上品とは無縁の俺にはお似合いだ。
しかしいい感じのバーだよなぁ。
この薄暗い感じにほのかに聞こえる音楽が気分を落ち着けてくれる。
今後も機会があれば使わせてもらおう。
「そういや開店時間がやけに早いんですが。いつもこんな時間に?」
「いいえ。本日は常連さんたちにコンサートをさせて欲しいと頼まれたんです。忙しい人たちですし最近は客足も遠のいてますから了承したんですよ」
「へぇ~。よかったら俺も聞かせてもらっていいですかね?」
「う~ん……彼らも身内だけでしたいらしいので難しいですかね」
「そうですか、残念です」
「お、噂をすれば」
バーの重いドアがゆっくり開く。
そこにいたのは。
「お、シンじゃないか?」
「ハイネ?」
オレンジ髪をきらめかせギターケースを肩に引っさげたハイネだった。
そしてケースにはやっぱりミク。もう定番だな。
「おいおいおい。なんでシークレットライブなのにお前がいるんだよ? そうか! お前もついに俺たちのすばらしさを理解してくれたんだな!!」
「ちょ、おま」
「いいってことよ。今夜は楽しんでいってくれ!」
「いやーうれしいな!」とはしゃぐハイネを止められない俺の弱さが憎らしい!
チクショウ……とってもチクショウ!
「マスター! 酒のおかわり。今度は強いヤツで!」
「かしこまりました」
もう諦めよう。
飲んで飲んで……飲んでやる。
酔えない。
いくら飲んでも今夜ばかりは酔えそうにない。
あの後に仲間と合流したハイネは俺の紹介をしてくれた。
なかなか気のいい人たちだ。
ただし初音ミクがいる。
世の中ってなんだろう?
哲学っぽい思考で逃げようとしてたらお客さんが入ってきた。
レイとタリア艦長。さらには議長。
なしてこのような場末のバーにいらっしゃったんデスカ?
嬉しそうに俺のところに来るレイ。
俺も会えて嬉しいよ。でも頬を染めるな。
三人ともちょっと酔ってるみたいだ。
ハイネたちも慌てて挨拶してた。
議長はコンサートのことを聞くと同席したいと言い出す。
断れるわけもなくOKを出す。
緊張で味がわからなくなった酒を水飲みラッキーバードの如く流しこみ議長たちのホスト役をこなすことになっていた。
奢りなのは嬉しいんですがマジ勘弁してください。
漫画話で盛り上がりもうすぐ始まるとき、さらに客が。
「あれ? シンと……ぎ、議長!?」
ルナとご家族のご登場です。
少々酒に寄ってテンション上げ上げな議長から相席を勧められ緊張した面持ちで座るホーク一家。
その際にルナが俺の横に座ったもんだから親父さんから睨まれること火のごとし。
違います! 僕たちはただの同僚です! と叫べたらどんなにいいことだか。
いつの間にやら大勢になった観客でもハイネたちは嫌な顔をせず、むしろ嬉々として演奏を始めた。
「からーみあーうーねーつーのー!」
凄く……巧いです。
歌手でデビューしてるのもあるけどパフォーマンスも最高!
俺、ちゃんと貰ったCDを聞くことにするよ!
生だとここまで違うもんなのか。
他の人たちも見入ちゃってる。
曲が終わると盛大な拍手が鳴り響いた。
水で喉を潤し、続いて歌う。
「しってなおもうたいつづくとわのいのち」
ああ……初音ミクね。
ボルテージが上がるバーの中、俺だけ微妙にテンションが下がってしまった。
楽しい楽しい休暇が終わってしまった。
二日酔いで貴重な1日をつぶしたのは忘れよう。
各国と交渉団によるデスティニープランの実行許可は受諾と条件付き受け入れの国が殆どだったそうだ。大成功といっていい結果だろう。
オーブを筆頭に数カ国が首を縦に振らないらしい。
ユウナが代表でもカガリの影響を受けた官僚が同意してくれなかったとか。しかもアークエンジェル組とジャンク屋連合に影響力のあるマルキオ導師が後ろにいるらしい。
何かを決心した表情のレイが俺に教えてくれた。
「もうすぐ議長の考える世界が実現する一歩が始まる……。ザフト自体も念願の平等条約が結ばれる可能性があるんだ。俺は議長の未来を叶えるための礎になる」
Hey Hey Hey……フォー!
そんな重大な決心を俺に話すのは……なぜ?
「俺の寿命は長くない。俺は生まれつきテロメアが短くて老化が早いんだ。薬で抑えていても限界がある」
「嘘だろ。だって、もうすぐなんだぞ。そこまで生きられるなら、戦争が終われば治療を探せる。そうすれば長生きできる方法もきっと!」
未来ではレイのような患者を救える治療法が確立されてたんだ。発表者の名前は覚えてるからそいつらに金をばらまいてやればきっと上手くいく。
「俺は、クローンだ。これは宿命なんだ」
「……諦めんなよ!
諦めんなよ、お前!
どうしてそこでやめるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ!
ダメダメダメ! 諦めたら周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!
あともうちょっとのところなんだから!」
「シン?」
面倒くさくて言った。
後悔はしていない。
「悩みを言ってくれたのは嬉しい。希望を教えてくれたのも嬉しい。けどお前がそれを諦めたらどうすんだよ。投げっぱなしはやめてくれよ」
まだ望みはあるはずなんだ。
あと1戦やらかして、そいつに勝てば全て手に入るんだぞ。
アークエンジェルの連中から金をふんだくって治療費に当ててやるさ。
「みんなでブリーフィングするぞ!」
「今からか?」
「どうせ襲われるってわかってんだ。早めに準備しとくに限る」
てなわけで。
第58回パイロットだよ全員集合!
が始まった。
ミネルバと同伴する艦隊のパイロットの皆さんと連携プレーをしようと持ちかけてみた。
鼻で笑われた。
仕方ないんでシュミレーターでミネルバ組vsその他で叩きのめし言う事を聞かせる。
騒ぎを聞きつけた白服が途中で乱入したが問答無用で落としてやった。
プライドを木っ端微塵にされた人たちは死んだ魚のような目で各自の艦隊に戻っていきました。
「レイ、ドラグーンで同士うちを誘うなんてやり過ぎだぞ」
「ルナマリアのサーベルごと両断していたのが原因では?」
「ハイネが調子にのってブーメランだけで戦うからよ」
「シンが一方的に狙撃してたのが間違いだったんじゃね?」