「さんどぉ~ぶゎっぐに~♪」
ども、シン・アスカです。
現在家族の仇である憎くき敵のフリーダムと交戦している。
嘘の情報を流して誘いだすことに成功し1体1のガチンコに持ち込めている。
この日のために数日間も缶詰になってシミュレーションで何度も対策を練りあげたおかげで正面から戦えている。
厳しい戦いだが流れは俺に傾いてる。
とは言ってもライフルを必中のタイミングで撃てば避けられ、接近戦を仕掛けたらビームサーベルの出力の差で競り負ける。
集中し続けてるせいで体力もガンガン削られて苦しくなってきた。
おまけに激しい機動のせいでインパルスのバッテリーも凄い勢いで無くなっていく。
けど相手はスタミナ無尽蔵。
なんてったって核動力ですから!
こっちなんて戦闘開始して15分たってないのにもう残量が半分近くになってるってのに。
これなんてピンチ?
『シン! キラは(ry
艦橋から通信が入ってたんで受信したら俺の心配じゃなく敵を擁護する声だったでござる。
とりあえず聞き流すことにした。
あんなアホなことに対応してる暇なんてねーよ。
戦ってるんだよコッチは!?
敵の擁護してないで助言の一つくらい寄こせ!
「このぉ!!」
本来の許容できる範囲を超えた加速と機動を繰り返し続けているインパルス。
ついに各関節部から警告を知らせるアラームが鳴だした。
このままの動きを続けたら空中分解♪
それでもフリーダムと対峙し続けるために止まるわけにはいかない。
画面には最初の不意打ちのおかげで翼の一部をもぎ取ってやったフリーダムが映っている。
機動性こそ落ちているが動きは変わらない変態じみたものだ。
必死にサーベルを振るいながら思う。
――― こんなに強かったのかキラ・ヤマト。
まるで初めて戦ったあの時のように。
戦いの流れを取られないようしつこく無謀なアタックをかけてもあっさり防がれる。
しかも手加減してるのがわかるからムカつく!
『いい加減にしてくれ! 僕たちが争う必要はないんだ!』
「オメーの返事は聞いてねぇがら!」
心配して声をかけてやるほど俺は弱いって言うのかよ。
かっぺむかつく!
にしてもインパルスの反応が思ったより鈍い!
ザコ相手だと気にならなかったってのに。
もっとカスタムしてもらうよう頼み込むべきだった。
やべ、走馬灯が見えてきやがった。
しかし何度も人生を繰り返すのも疲れる。
ホント宇宙クジラ調査にいかなけりゃこんなことには。
最初の人生は酷かった。
血反吐を吐いて念願の赤服になり新型を貰えるた。
その日は興奮して眠れなかった。
おまけに配属先は新造艦。しかも最初の任務は式典の警備。
楽勝気分で仲間と買い物に行く余裕すらあった。
しかもステラのおっぱいも揉めるという素晴らしい特典もあった。
まさに我が世の春が来た! と感じてたのに。
最後の最後でなぜかルナと付き合った。
あれは間違いだった。
吊り橋効果の結婚が長続きしないってのはマジだった。
多少はアホでも素直なほうが俺は向いていると実感したよハハハ……。
離婚した俺は軍を辞めて傷心旅行で地球に行った。
俺個人の口座はけっこうな額が貯まってたんでちょっと贅沢できた。
幸い、半年たってから建設会社に就職する。
おかげで独身貴族に返り咲くことができ幸せでした。
そんな時、アスラン経由で仕事の話が来た。
とりあえず話をしたいということなんで聞いたらとあるプロジェクトに参加して欲しいというもの。
期間も2ヶ月と短かったし金払いもよかったので引き受けてみたんだが……。
(偶然、宇宙クジラの化石を発掘しちまったよな。作り物とばかり思ってたのに実在するとは)
気がつけば映像いっぱいに映されたビームサーベル。
慌ててパイルダーオフしてなんとか避ける。
正直ギリギリでした。
この野郎殺す気満々じゃねーか。
不殺の文字をどこに捨てやがった!
走馬灯なんて有り難くないもんを懐かしがってる場合じゃない。
気合入れんと本気で殺されてしまう。
「キラ・ヤマト。テメーは俺を怒らせた」
『これで落ちないなんて』
「話を聞けよ」
自分の世界に入り浸りやがってこのナルシスト!
中ボス的な強さしかない俺なんてアウトオブ眼中ですかそうですか。
意地ってのを見せてやる。
やぁってやるぜ!
というわけで。
「こんにちは死ね!」
『え?』
インパルスに設けられたリミットをカット。
たちまち狭いコクピットの中に警報が鳴り響く。
フリーダムがサーベルを振りかざす右腕―――その肘めがけ短距離をサーベルを最速で走らせる。
限界を超えた速度で振るわれたインパルスの右腕は正確に狙い通りの場所にたどり着いた。
出力を上げたサーベルは安々とフリーダムの肘の内側を貫く。
自分の動く衝撃に耐えずインパルスの右肩が自壊する。
キラは瞬時に状況を理解したようだ。
文字通り手が足りない今が止めを刺す絶好の機会。
距離を詰めて無事な方の腕でサーベルを構えようとするが、遅い!
「やらせるかよ!」
残った左腕をフリーダムの首にしっかりとまとわりつかせてチェストフライヤー射出。
推力全開のチェストフライヤーを引き剥がすことが出来ずフリーダムは俺との距離を開いていく。
これが最後のチャンスだ。
「ソードシルエットを早く!」
『安心しろシン。もう射出は終わっている!』
頼もしい相棒の声。
レーダーで確認すると間近まで来ていた。
過去最高の完璧さで素早く合体。
覚悟完了。当方に迎撃の用意有り!
エクスカリバーを胸元に持ちフリーダム目がけて突っ走る。
「にくい~あんちくしょう~の~かおめが~けぇー」
『うわぁあ!』
チェストフライヤーを無理やり引き剥がしたフリーダムは大きく体勢を崩していた。
そして突っ込んでくる俺を見るやいなや無理な姿勢でライフルを乱射してくる。
レールガンやビーム砲が嵐のように迫りインパルスの装甲削り頭がもげる。
「たたけーTATAKE-☆叩け~」
大丈夫、インパルスはつよいこ。
これくらいヘッチャラさ。
回避も減速もしない。最初からクライマックスだ。
「ちねぃ!」
『!!』
核動力といっても所詮はPS装甲。
僅かな抵抗のあと安々と突き刺さる。
エクスカリバーはフリーダムの胸を貫通した。
『キラぁ!』
アスランが何か言ってるけど無視。
運がいいから生きてるよ。
フリーダムはビクンビクンとエレクトしてたがすぐに動きが止まった。
同時に機体の色が灰色に変化していく。
「フリーダムを倒しました」
息を整え百舌の早贄のようにフリーダムを頭上高く持ち上げる。
その瞬間。
『うぉおお!』
『やったぜ、見てるかアイ。あいつがお前の敵を取ってくれたんだぞ』
『急いで動画を上げないと』
『くそ、大穴だったか!』
みんなの歓声が応えてくれた。
ありがとう、こんなに嬉しいことはない。
だが最後、テメーはダメだ。
フリーダムを串刺しにしたまま格納庫に戻った俺を待ってたのは整列した乗組員みんなの敬礼だった。
頭に包帯を巻いり松葉杖で体を支えた痛々しい姿の人たちもいる。
本来ならベッドの上で安静にしないといけないはずなのに。
彼らは共通して目から涙を流して、けれど気丈にも震える唇を真一文字に結んでいた。
全員の視線が俺から後ろににある貫いたままのフリーダムに気付く。
驚いた顔を浮かべる人、射殺さんばかりの眼差しを向ける人たちがいるが華麗にスルー。
大事な人を殺された恨みは分かるけどまだ安全が確認できてない。
放射能漏れの事態にはならなくてもパイロットが生きている可能性がある以上、専門の人以外が近付くのは危険過ぎる。
不満だろうけど我慢してくれ。
なんてことを思っているとようやく艦橋から通信が入った。
すぐに繋ぐと珍しく満面の笑みを浮かべたタリア艦長が映った。
『シンお疲れ様。まさかフリーダムを捕獲するなんて夢にも思わなかったわ』
「レイと一緒に訓練したおかげです。アイツも褒めてやってください」
『そうね……そうするわ』
寂しげな顔を覗かせるが直ぐに元の笑顔に戻るタリア艦長。
その後ろでアスランが『恨みはらさでおくべきか』的なまなざしをワタクシめに向けております。
アンタ自分の出した被害者の目の前でも同じ顔できないのに睨むなよ。
『大金星よ。フリーダムから戦闘データを抽出できればMS開発が進む可能性が高いわ。議長からも祝辞があったから後で確認するように』
「……ありがとうございます」
それから艦橋のクルーたちから入れ替わり立ち代わりに数分間も褒めちぎった言葉を嫌になるほど貰ってやっと通信が切れた。
嬉しかったがそれ以上に疲れた。
もうアスランの視線が怖すぎ。呪われるかと思ったわ。
あと艦長、キャラじゃないテンションのあがり方にブリッジのみんなビックリしてましたよ。
あまり見せない笑顔に何人かが顔を赤らめてたし。
映像のログを取り出して議長に見せたら面白いことにならないかな。
そうだ、忘れないうちにレイと連絡を取らねば。
「レイ、いるか?」
『なにかあったか?』
「もしかするとキラ・ヤマトは生きてるかもしれない。念のため麻酔ガスを流しこんでおいてくれ」
普通は死んでると思うだろうが相手はキラ・ヤマト。
ありえんほどのしぶとさを持っている。
しかも反則級の強さまで兼ね備えるというチートっぷりである。
これだけは何度戦っても変わらなかった。
下手すればGすら超えるかもしれない。
『そこまでするなら爆弾でいいと思うが?』
ボンバーマンじゃないんだからさ。
むしろマシンガンをぶち込んだほうが効率はいいぞ?
「なるべく生きたままにしておきたい。コイツは司法で裁かれるべきだ」
『シン、お前は……わかった。すぐに手配しておこう』
言いかけていたことの予想はつく。
『家族の仇を討たないのか?』
そう言いたいんだろう。
大丈夫だレイ。
心の整理はとっくの昔に終わっちゃったんだ。
憎む気持ちも悲しい気持ちもひっくるめて制御できてしまうんだよ。
でも、何度会ってもお前はイイヤツだよな。
コクピットから降りた俺に向かって仲間たちが一斉にかけ出してきた。
そこのカワイコちゃん、できれば君から飛び込んできてください。
計画通りカワイコちゃんに抱きしめられロマン回路を滾らせることに成功した俺はブリッジへと向かった。
不思議なことに他の乗組員とすれ違うことがなかった。
艦橋はメイリンを除くいつもの愉快な仲間たちが笑顔で迎え入れてくれた。
通信であらかた話終わっていたことを改めて報告し任務完了。
さっさとシャワー浴びて休もうと考えてたらアビーに食堂へ向かえと言われてしまった。
その声に倣って他の面々も食堂へレディーゴー!とまくし立てる。
もしかしてアビーからのお誘いですか?
万が一そうならせめてシャワーだけでもお願いします!
などという我ながらアホすぎる妄想のおかげで目が覚めた。
「おいおいアビー。汗臭いんだからせめてシャワーを入ってからでだろ?」
「うーん……そのほうが時間的にもちょうどいいですね。ただし15分以内で済ませてください」
「わかりましたよーっと。ではシン・アスカ、退室します」
おざなりの敬礼でスタコラサッサと部屋に逃げ帰る。
パパっと服を脱ぎ捨ててシャワー浴びてサッパリした。
半乾きの頭を新しいタオルで拭きながら時計を見れば既に15分が経過しようとしていた。
慌てて服を着こみ扉を出た瞬間、ヨウランとヴィーノが。
「お前らなにやってんの?」
「今日のパーティーの主役を捕まえに来たんだ」
「それじゃあエスコートさせてもらいまーっす!」
そのまま二人に引っ張られ食堂へ連れてこられた。
一歩中に入ると凄く目立つ場所に『祝!フリーダム撃墜記念』と横断幕が飾られている。
大半は端に寄せられ残ったテーブルの上には美味しそうな食事が所狭しと並ぶ。
食堂から見事にパーティー会場へ変貌した部屋は既にえらい騒ぎとなってた。
主賓と書かれた名札を付けられあちこちのグループに顔を出さされる。
おまけに呼んでもいないのに脳内麻薬どぱどぱ出まくりんぐの人たちは入れ替わり立ち代わり俺に酌をしてくれた。
ろくに飯を食うヒマもない。
しかもエアコンが効かないほどの熱気に包まれているおかげで汗も出てきた。
キスをしてもらったりして役得だったけどね。
なんとか捌ききり余裕が出来たんでテーブルの料理をつまんでいく。
結構うまい。今まで食べた艦の料理の中じゃ一番かもしれない。
議長に頼み込んでキッチンシステムを豪華にしてもらったからな。
出される料理もさりげなくいい素材になってて美味かった。
酒は飲めなかったけどしょうがない。
まだアークエンジェルが付近にいる可能性がある以上、警戒を怠るわけにはいかないしな。
壁際に集まった人たちは出された料理を肴に今日の俺の映像を何度も繰り返し見てた。
複雑そうな表情を見せる人たちがなんとなく気まずくて俺はパーティーを抜けだした。
コーヒーをすする。
まずいインスタントでも気分を落ち着かせてくれる。
それにしても今日は忙しかった。
今になって眠気が襲ってくる。
頑張れマイボディ! まだ夜は始まったばかりだぞ。
仲間の痴態を見ずにして眠ってなんかいられるかよぅ。
「ここにいたのか」
その声とともにレイが部屋へ入ってきた。
両手に持っている二つの湯気のたつコーヒーカップの一つを俺に差し出した。
ついさっき飲んでいたインスタントと雲泥の差がある香りが鼻に注がれる。
「既に飲んでたようだな。せっかくだからこれも飲め」
「こんなに旨そうなコーヒーなんだから腹いっぱいだろうが飲ませてくれとお願いするよ」
笑いながら差し出されたコーヒーをさっそく一口。
……うまい。
焙煎したのをそのまま持ってきたのか。
貴重品をわざわざくれるなんて嬉しいなぁ。
「どうだ?」
「決まってるよ。こんなうまいコーヒーは初めてだ」
「気に入ったならなによりだ」
しばらく無言でコーヒをすすり合う音が部屋に響く。
コーヒーの味と香りが高ぶる神経を完全に沈めてくれた。
ちょうどお互いのコーヒカップの底が顔を出しとたところでレイが話を切り出した。
「キラ・ヤマトのことだが。打撲とムチ打ち。あとは足の単純骨折だった」
「うそだろ? 普通だったら死んでたはずだぞ?」
「事実だ。俺もこの目で見るまで虚偽報告だと思ってたくらいだ」
やっぱ生きてたか。
無傷じゃないだけマシなんだろうと割り切るか。
普通なら圧死か焼死してるはずなんだが。
「そういやキラ・ヤマトの処分はどうなるんだ? 妥当なとこだと死刑になるはずだけど」
機動兵器の無断持ち出し、戦争への無許可介入、さらに機密兵器の無断回収及び修理。さらに保持と言い出したらキリがねーな。
こっちとしても初めて捕獲できたことだし今後の憂いを取り除くためにも縄で出来たネクタイを渡して欲しいところなんだが。
「……シン、本国と通信が取れなくなった」
なん……だと?
「タリア艦長の権限で刑の執行は難しく議長に直接の判断を求めようとした矢先に起きた。調べてみると通信システムのハードとソフトの両方がやられていた」
「おいおい。つまりそれって」
「そう、スパイがいる。それもかなりの人数がいるということだ」
こんな時期からスパイ網が完成しきってるのか。
恐るべしラクス軍団。
そこまで実力あるなら政界に行けばよかったのに。
こりゃ急いで始末つけないと奪取される可能性が出てきたな。
だったら俺がこっそり撃ち殺しておくか?
……暗殺されちゃうからやめとこう。
「じゃあ尋問だけでもしとこうぜ。アイツは目を覚ましたか?」
「まだだ。医師の診察によれば明朝には確実だと言っていた」
誰も信用できん状態から困る。
医務室なんて誰が出入りしても問題ない場所だから余計に面倒だ。
とりあえず先手を打っとくか。
「今から身柄を移動しよて営倉に裸にひん剥いて拘束具で拘束しておこう」
「裸にするのはどうかと思うが……それより医師が許さん」
「フェイス権限で行動する。あとアスランには内密に処理しようぜ」
「賛成だ」
迷いもなく同意するレイ。
躊躇するそぶりすらなかった。
ホントにアスランのこと嫌いなんだな。
「じゃあ今から行動な」
「ずいぶんと急だな」
「思ったときに行動したほうがいい。他の乗組員が一箇所に集まってる今だからこそ性急に行動できる」
「そうか。では準備しながら艦長にだけ話を通しておこう。それと艦の見取り図から監禁に適切な部屋も探しておく」
「頼む」
銃と手榴弾、スモークにECCMを取り出して、と。
盗聴器の探知機も忘れちゃいけないよな。
通信で艦長と話をつけたレイがこっちにOKの合図をくれた。
「いくぞ」
「ああ」
俺達は急いで医務室に向かい、到着するなりすぐさま権限を発動し医者に黙ってもらった。
幸いなことに看護師もパーティーに参加していて部屋には医者しかなかった。
渋る医者へレイが艦長の許可と事情を何度も説明していく中、俺はキラの手足を拘束し終わった。
運良く誰ともすれ違わずレイの指示の通りに進み営倉についた。
ストレッチャーから部屋の簡易ベッドに降ろす。
足がギプスで固定されてるんで上半身だけ裸にして拘束具をつける。
さらに足には電子式とアナログ式の手錠4つで固定して終了。
あとはさるぐつわを噛ませて……。
最後の写真を取るのを忘れちゃいかんな。
レイに扉の前で監視してもらっている間に済ませるか。
ひん剥いて写真を何枚も取っていく。
裸のやつも撮っといたから安心してくれ。
下半身だけ裸にしてはい、チーズ!
しかし毎度のことだがキラのウタマロにはビビる。
急いでネットに晒す準備をせねば。