一通り遊んで満足すると、シリウスは帰って行った。シリウスと入れ替わりに、ジェームズがログインしてくる。
要人達はスネイプを物凄い勢いでからかうジェームズに微笑ましい笑みを向けながら、政治の事など話しながら散らばって、それぞれ好き勝手な事をやり始めた。私も次の村へ行って、ひたすら魔物を狩る。私は自力で二刀流スキルを得てみせる。
「いや、素晴らしい。ミア女史は運動神経もあると見える。いや、ここでは人造人間ミアでしたか」
「お褒めに預かり光栄ですわ。それにしても、もう次の村に辿りついているとは思いませんでしたわ」
「実は皆で地図を書こうという事になりましてね。我がアメリカチームが一階のボスを倒して見せますよ」
「まあ、素敵。期間中に一階のボスを倒せたら、私の権限で商品を差し上げますわ」
「それは凄いな!」
「何が良いかしら?」
すると、アメリカの将校は私の腰に手を回し、私の手を取って言った。
「貴方が欲しい。機械の女王よ」
ゲーム越しにも伝わる真剣な瞳。
「クリスマスには殺そうとして、今日は求婚? 節操がないのね」
「貴方にはそれほどの価値がある」
「知っているわ。でもごめんなさい。私の興味はゲームだけなの」
「アメリカは貴方の為に最高の環境を用意できる」
「でしょうね。でも、価値のわかる全ての国が私にそれを差し出すわ。イギリスはその一つで、私が生まれた場所がそこだった。それだけよ。ねぇ、私は遊びにここに来ているの。無粋な話はやめにしない? ここは子供の夢の国」
「だが、そこに押し掛けるのは大人達だ。そして夢は利権で踏み荒らされる。私達がここにいるように。ミア女史、貴方はわかっておられない。100年後、人々はこの世界で暮らすようになるかもしれない。戦争もこの国で行われるかもしれない。これだけではない、貴方の残した業績はその多くが世界を塗り替える力を持っている」
「私がノーベルであり、オッペンハイマーであり、ある意味それ以上である事は理解しているわ。虹色に輝く薔薇は、人の欲望を、命を養分として美しく輝かしく咲くでしょう。私はそれが見たいのよ」
「貴方の目を楽しませる為だけに、全てを犠牲にしよう、と?」
私は微笑んだ。
「その通りよ。素敵でしょう? 私は止まらないわ。殺されようとね。話はそれだけ? なら、行くわ」
「待って下さい。難しい話はこれで終わりにしましょう。ますます貴方に惹かれました。迷宮を一緒に歩きたい」
「喜んで」
私と将校が連れ立って歩くと、スネイプがアクセスして来た。
『ミア』
『何かしら、スネイプ?』
『アナウンサーが盗み聞きしてる。全部撮られている』
『あら。失礼な人ね。スネイプも聞いていた?』
『ああ、まあ』
『そう。笑っちゃうでしょう、彼。可愛いわね。後100年で人々がこの世界に暮らすようになるかもしれないとか、戦争はここでとか』
『ああ、凄い妄想……』
『彼、本気でその程度で済むと思っているのよ?』
『……ミア?』
かすれている、訝しげな、縋るような、確かめるような声だった。
『スネイプ、いつか貴方に素敵な者を見せてあげる。死食い人になりたがっている貴方なら、きっと気にいるわ』
私は足取り軽く、見張られていると知っていて将校の手に手を絡めた。
スネイプは悲鳴を上げてくれるだろうか。信じられないと言った顔で、私を見てくれるだろうか。その時がとても楽しみだ。
翌日、ナーヴギアのテストプレイの記事が二面に乗った。一面は、機械の女王、アメリカの将校と禁断のロマンスだった。腰に手をまわされている写真や、絡められた手がズームアップされている写真が載っる新聞を私はテーブルの上に投げた。
そして私の言葉は格言となっていた。
スティーブは何故か酷く動揺していた。
「あんな年上のペド野郎と付き合うんですか、ミア女史!?」
「デートくらいはしてもいいかもね。どうせゲーム内だし」
「駄目です、駄目ですよ、ミア女史! まだ11歳じゃないですか!」
「恋に溺れるほどお子様じゃないわよ」
「僕はどっぷり溺れてるんです!」
私はきょとんとして、ついで笑った。
「貴方、11歳の女の子とデートしたいの? エッチも出来ないわよ?」
「ミア女史は、特別です。こう、咲き誇る悪の華みたいな、棘だらけで触れない所が良いんです」
「変な人」
結局私は、将校ともスティーブともデートした。ゲームの中で。
結局、シリウス達は交代で訪れ、ルシウスも毎日のように訪れた。元の持ち主とスネイプ、可哀想に……。マグルの世界では地位が高くとも、魔法使いの世界では地位が低かったのが運の尽きだ。そして、私も魔法省に色々手を借りているのが痛い所。結局、アーサー・ウィーズリーと現魔法大臣のジャックスも現れた。一日だけ視察に出る予定で、ずっと入り浸っている。ナーヴギアは数が限られているので、非常に迷惑だ。
商品なのだが、ボスを倒したチーム全員に賞金と特製グッズ、ファンタジック2の招待券、ゲーム機とソフト、私の講義開催券にした。
参加者達の目の色が変わった。
夢の国は組織的に解析され、同じアカウントごとにデザインや音楽はその専門家が、戦闘は兵士と言った具合に中の人が変わった。恥ずかしながら、同じアカウントを他者と共有するなんて思いつかなかった。体格が違うから、操作に違和感が出るし。
そして、ついに迷宮を突破し、アメリカの偵察チームがボスの間を発見し……全滅した。
「巨大な蜘蛛が、巨大な蜘蛛がっ……」
「そんなに強いのかね? PTSDが残るほど? 子供のゲームの、100階あるうちの一階のボスが?」
将校に聞かれ、私は答えた。
「軍人が混ざっていますもの、多少は補正を加えておりますわ」
「多少ってレベルじゃねーぞアレ! 俺も死んじまったじゃねーか! スニベルスの癖に笑うな!」
シリウスが文句を言う。
「見てたわ。まあ、即殺されなかっただけ大したものよ」
「ふむ……討伐チームは何人でもいいのかね」
将校の言葉に、私は答えた。
「討伐チームの定義は、ボスの間の中にいる人間すべてよ」
「ふぅむ。他国のチームと協議してみるか」
その後、ゲーム内で国連軍結成が行われた。
その将軍の座を巡って話がもめにもめ、シリウスの提案により決闘騒ぎが起き、元から剣道を修めていた日本代表が勝利したが本人を含めて全員がその勝利をスル―し、結局政治的取引によりアメリカが指揮を取る事になった。
厳密に時間を決めての討伐。
前の世界とは大分違うけど、これはこれで楽しめそうだわ。
私はクスリと笑ってナーヴギアを外し、眠りについた。
明日は、討伐である。