はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
『殺さなくては。殺せ、殺せ、殺すんだ!』
はぁ、はぁ。はぁ、はぁ、はぁ
『ミアの血をひく子は、いずれミアと同じ事をするぞ』
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
頭の中に響く声を、頭を振って振り払う。
安全な所まで来て、セブルスは特殊な鞄の中を見つめる。そこには、10人の赤ん坊が眠っていた。
思わず赤ん坊達を連れて逃げていたセブルスだったが、彼は途方に暮れていた。
10人の赤ん坊を抱えて、一体どうすればいい?
隠れ家に連れ込み、必死に世話をしたが、一週間持たせるのがやっとだった。
全く眠れず、セブルスは完全にダウンする。
10の泣き声が響く。泣きたいのは、セブルスの方だった。
セブルスは、疲れ果ててリングハーツ元首相の所へと行った。彼はこの事態の責任を取り、首相の座を引いていた。
「父さん……僕は、父さんの家族かな」
「何を言っているんだ、当たり前だろう。どうしたんだ、心配していたんだぞ」
「僕は、盗みを働いた……」
その言葉に、リングハーツ元首相はショックを受けた顔をするが、セブルスの肩を持ってしっかりと元気づける。
「大丈夫だ、私の息子がわけなくそんな事をするはずがない事を、私は知っている。さあ、全部話してごらん」
セブルスは、嗚咽を漏らしながら少しずつ事情を話す。
リングハーツ元首相は、大いに驚き、セブルスを慰めた。
そして、アレンと妻にも事情を話す。
「良く話してくれた……。おお、神をも恐れぬ行為だ……。心配ないよ、セブルス。私の名にかけて、子供達を守ろう。差し当たってはヴォルデモートから隠さねばな。隠れ家に口の堅い乳母を寄こそう。アメリカの事は任せておけ」
セブルスは何度も頷いた。
打ちひしがれたセブルスを更に打ちのめす事件が起こる。
ジェームズとリリーが死んだ。小さな息子を残して。そして、ヴォルデモート自身もまた滅んでしまった。
「何故、リリーとジェームズを殺した……!?」
その叫びはむなしく宙に溶け、子供達は泣くばかりだ。
子供達は悲しみにむせび泣く間すら与えてはくれなかった。
アレンとリングハーツ夫妻に支えられながら、セブルスは子育てを始めた。
とある研究室。その中心部で、ナーヴギアを嵌めた女性が眠っていた。
モニタを見ていた研究者が、声をあげる。
「おいっ見ろ! 脳波が……復活した!」
「なんだと!?」
研究所中に響く警報音。集まる研究者達と警察官。
恐れと期待、憎しみと祈りを込めた視線が女性に集まる。
ナーヴギアを外した女性を、研究者の一人が呼んだ。
「未亜博士……! 18年。18年もの間、あんたを待っていたんだ。この犯罪者め! この、この……!」
「未亜博士。1000万人のプレイヤー達を、解放してもらう。貴方なら、未亜0を止める事が出来るはずだ」
『あら。私を止めるというの? 本気で? こんな楽しい遊び、例えオリジナルにも止めさせはしないわ』
突如部屋に響く声。
「未亜0! 研究室のコンピューターを乗っ取ったな!?」
研究員が叫ぶ。
ミアは、穏やかに笑った。
「未亜0。私、貴方に話して聞かせてあげたい事がたくさんあるわ。それは後で教えてあげる。とにかく私は、魔王役でなく、勇者役を楽しむ事にするの」
『勇者? オリジナルが勇者? 一プレイヤーとして私に立ち向かうというの?』
面白そうに、未亜0が言う。
「ええ、そうよ。楽しみましょう?」
『未亜博士。その提案、飲みましょう』
「待て! プレイヤーを救うという話はどうなる!?」
「プレイヤーを救うには、ゲームクリアしかないのよ。そのゲームクリアをしてあげる」
そしてミアはナーヴギアを被る。
「未亜博士! 待て……!」
そしてミアは旅立った。