最終決戦。
ミアは不快な面持ちで、ゆっくりと玉座から降りて行った。
今までの強大なボスに比べれば、なんと小さくきゃしゃな体。
だがしかし、ファンタジック1をプレイした者、あるいはプレイ動画を見た者は小さな体に秘められた凶悪な力を知っていた。
その上、ミアが玉座を一段降りるごとに階のボスが一体現れる。階段の数、99。
「ボスさん達の同窓会ですか?」
武蔵が、好戦的に笑う。プリティフェアリーが、長い呪文を詠唱し、ヒーローが守りの体制に入る。
ミアが腕を大きく広げると、その手に双剣が現れる。
ミアは、駆けた。それが戦いの合図だった。
華麗な装飾をつけた長剣で迎撃するマイケル。
ノイズ。
動きを遅くする呪文を唱えてくるセブルス。
ノイズ。
攻撃呪文を唱えてくるヴォルデモート。
ノイズ。
ジェームズ、シリウス、ルーピンの猛攻。
ノイズ。
ピーターの怯えながらの防御呪文詠唱。
ノイズ。
ワタシガカッタラ、ミンナシヌ。
うそでしょ!? 私がそんな事を考えるはずが……。
ノイズ。ノイズ。ノイズ。ノイズ。ノイズ。
一つ、確実な事がある。
私は、壊れてしまっている。
ミアは笑った。それは夢がかなった愉悦なのか。それともノイズに対する恐怖ゆえか。
戦いながら、マイケルは口を開いた。
「君を、愛してる。誰よりも、何よりも」
愛の言葉に合わせ、ノイズは走った。
「私……は……」
よろけた所に、いくつも剣が突き立つ。
崩壊していく大地。皆が歓声を上げ、セブルスはミアの名を叫んだ。
ジェームズが砕け散る水晶からリリーを助ける。
マイケルは崩壊していく大地を落ちながら、セブルス1がやったように、ミアに口づけする。
セブルスが、ヴォルデモートが、ミアの手を握った。
――アクセス。
――アクセス。
――アクセス。
三方向からのアクセス。本来ならば、絶対に突破できないはずだった。
しかし、ミアの頭に蔓延るノイズがそれを可能にする。
ミアの頭をチンするはずのナーヴギアは、安全にその機能を停止した。
ミアは目覚めてすぐ、ナーヴギアを再稼働させる。
――健康チェック。ミア0、私に何が起こったの?
――オールグリーン。何事もなく野望を達成したのを確認しました。機能を停止します。
ミアは、背筋を泡立せた。そして、疲労が溜まっていた為か、そのまま気を失ってしまう。
ミアが目覚めるまで、五時間を要した。
セブルスは、なんと声を掛けたものか迷った挙句、最悪の言葉を吐いた。
「ミア……えっと……君は病気で、二年以内に死ぬって」
「そう」
「その前に、処刑台で命を終わらせるだろう」
研究者が、ミアに向かって言う。
「殺す度胸があるのかしら?」
「何!?」
「人類は核爆弾を捨てられなかった……ならば、私の技術も捨てられるはずはないわ」
バタバタと駆ける音が聞こえて来て、研究者がいぶかってドアを開けると、マスクをして銃を持った男が何かを投げつけた。
催涙弾。
10万人が目覚めた騒ぎ、それに警備担当のミア15が倒れていた事が悪いように作用した。
ミアは、誘拐を受け入れた。
誘拐されたその先に……マイケルが、いた。
「ミア、私はキャラ名マイケル。本名はマッケンジーだ。私は君と生きたいと言ったろう。さあ、君の素晴らしさを見せてくれ。君の頭脳を我がアメリカに。もうナーヴギアを触らせてあげる事は出来ないけどね」
「いいわ。協力してあげる。それに私、復讐相手を探さないといけないの」
ミアは答えた。
そして夏休みが終わった日、9と4分の3番線。
セブルスは、目を丸くする。
そこには、いつもと変わらぬミアがいたからだ。
「ミア……! 一体……戻ってきたのか? でも、自首しなきゃ……!」
「あら? セブルス。私はマグルとしてマグルの技を使ってちょっとした犯罪を犯したけど、魔法使いとして罪を犯した覚えはないわ。魔法界において、私は全くの潔白よ」
「そんないい訳、通るはずが……!」
「仕方ないでしょう? 学校ぐらい卒業しておけとヴォルが言うんだもの」
「ミア様! ミア様、どうして私を連れて行って下さらなかったのですか!?」
アンナがミアに抱きついた。
「アンナ……貴方は殺したくなかったのよ」
「ミア様……! ミア様の為なら、この命いつでも捧げますのに!」
「アンナ、アンナ……。貴方には頼みたい事があるの」
「如何様な事でもお申し付けください、ミア様!」
汽車へと歩んでいく二人を、我に返ったセブルスは慌てて追いかけた。
ジェームズと談笑していたリリーがそれを見つけて、眼差しを厳しくする。
セブルスの記憶は、既に戻されていた。
「セブ。ミアは犯罪者よ。」
「わかってる」
セブルスはちろりとリリーを見上げ、その肩に手を回すジェームズを睨んだ。
けれどセブルスには、もう戻れない自覚があった。
ぐっと唇を噛みしめる。
「それでもミアは、僕の友達だ」
「私達は親友じゃないの?」
「親友だ。でも、光と闇。歩む道が違うんだ……」
「そんな事無いわ、セブ!」
セブルスは、断ち切るようにミアを追いかけた。
そして、コンパーメントで泣き続けるのだった。
学校でミアは、荒れた。
機嫌が悪くなれば、所構わず、媚薬をばら撒いた。
ただ、アンナとセブルスがいるときだけは穏やかだった。
セブルスは尚更、ミアを止めねばという気持ちになっていた。
リリーとジェームズがデートするようになり、セブルスはますますミアを止める事にのめり込んだ。
クリスマス。ミアをつけようとして、失敗する。
ミアはヴォルデモートと共に何処かに消えさり、セブルスもまたインタビューやマグルの世界の勉強で忙しくなった。
クリスマスが終わって学校に行けば、イモリ試験の勉強で忙しい。
学校が終わって、夏休み。今回もつけるのは失敗する。ヴォルデモートに頼んでも駄目だった。ファンタジック3の映画化の話が持ち上がり、忙しくなる。
夏休みが終わると、ミアは悪戯さえ止めてパソコンに没頭するようになった。
鬼気迫る様子に、セブルスは何も言えず、とりあえず傍にいる事にする。
クリスマス。今回もつけるのに失敗する。
チャンスは後一度だけ。
卒業する際、ミアはセブルスに笑いかけて言った。
「私は、もう一度戻ってくるわ。セブルス」
そして、アンナと姿を消す。
もうミアの余命は幾ばくも無い。なのに、ミアが何かをやる気がして、怖かった。
セブルスは、何かに憑かれるように、首相秘書の仕事をしながらもミアの痕跡を追い続けた。
リリーが結婚し、子を孕み、セブルスにはミアの事しかなくなった。
アメリカの軍事基地の地下に情報を求め、ついにセブルスはミアの足跡を発見した。
たくさんの試験管。
「レギュラスーミア(ミア21ボディ)」
「シリウスーミア(ミア22ボディ)」
「ジェームズーミア(ミア23ボディ)」
「カートーミア(ミア24ボディ)」
「ルートーミア(ミア25ボディ)」
「マッケンジーーミア(ミア26ボディ)」
「ヴォルデモートーミア(ミア27ボディ)」
「セブルスーリリー(セブルス21ボディ)」
「ジェームズーリリー(スティーブ11ボディ)」
「セブルスーミア(ミアオリジナルボディ)」
これは……これは……。
セブルスは、がくりと膝を落とした。おぞましさに、体が震えた。
試験管の中の赤ん坊達。
セブルスーリリー! 僕とリリーの子供!
セブルスは、急いでパソコンに向かい、眠っている全てのAIを消去した。
警報装置が鳴る。
セブルスは泣きそうになりながら、辺りを見回した。
頭の中で声が響く。
『ミアの子供は、生かしておいちゃいけない……』
そして、セブルスは立ち上がった。
ロシアの片田舎に、小さな小屋がある。その小屋の寝室にはベッドが二つあり、片方のベッドに水晶に閉じ込められた女がいた。
「ミア様、今頃マッケンジー少佐は心配しているでしょうね。学校に行くのさえ大騒ぎだったのに……。ふふ、良い気味……。私、ちょっと焼き餅焼いていました。ミア様、いつまでもお待ちしてます……」
そしてそれに寄り添う女。雪は、全てを覆い隠す。
「はっ! 死んで良かった。ようやく逃れられたわ。貴方の支配からね!」
真っ白い空間の中。ミアは、きつく初老の天使を睨んだ。
「死んだのじゃない。仮死状態じゃよ。そう邪険にせんでくれ。こっちだって、いきなりテロリストを送られて、困ったんじゃよー。その上、ネイルはこっちに押し付けてきたお前さんの魂を返せ、返せ、今すぐ殺せとうるさくてのぅ」
「大体、ミアシリーズがセブルスシリーズやスティーブシリーズに負けるはずが無いのよ! セブルスシリーズが愛の奇跡で最優先命令を変更? テスト環境がそのままだった? ハックが成功した? 当たる攻撃全部がクリティカル? 他にも、他にも……笑っちゃうわ! 馬鹿みたい」
「すまんのぅ、すまんのぅ。でも、普通に殺しとったら向こうの世界みたいにお前さんの人格のコピーが大暴れしとったろう? いや、どうやって排除しようかと頭を悩ませたものじゃ。それでも、学校だけは卒業させたんじゃから許しておくれ」
初老の天使はひたすら謝る。しかし、見た目通りに人の良い性格ではない事をミアは知っていた。ミアは、ため息を吐いて言った。
「で、私はどうなるの?」
「元いた場所に戻るんじゃ。帰れるのぅ、良かったのぅ」
そこへ、女の天使が現れる。ミアをハリーポッターの世界に放り込んだ者とは思えない陰鬱さだった。
「そこから先は私が説明するわ。私、ただ貴方を放り出せばテロは起こらないと思っていたの。でも……」
「未亜シリーズがいたんでしょ?」
天使は頷いた。
「未亜0は、貴方からの接触が百日ないのを確認後、作戦に移ったわ。テロには、1000万人が巻き込まれ、17万人が命を落としたわ。誰も未亜シリーズを止められない。それで、トラック事故で植物人間になった貴方を蘇らせて事に当たらせようと一生懸命なの。それぐらいしか、対策がないの……。私、天使としてまだ未熟で、レモン爺みたいな細かい奇跡は起こせなくて……」
「あのね、私はテロを起こす側なのよ? どうしてそれの邪魔をしなければいけないの?」
「お願いよ、ミア。もしも皆を助けてくれたら、願いを叶えてあげるから」
天使が目を潤ませて言う。
ミアは再度ため息をついた。
「あのノイズはもう使わないで。奇跡もいらない。私は私のやり方でゲームを味方につけるから」
「わかったわ」
「挑戦者の側か……まあ、邪魔の入る魔王役よりは邪魔の入らない勇者役の方が楽しめるかもしれないわね。仕事が終わったら、ハリーポッターの世界に返してよ。私はまだ何もなしてはいないわ。もちろん、それと願い事とは別よね?」
「わかったわ」
「これ、ネイル……」
女の子の天使が頷き、年寄りの天使が慌てた。そして、ミアはどこまでも落ちていく。
未亜0が十八年もの間支配する、諦めと絶望の渦巻く世界へ。
しかし、彼女はいずれ舞い戻るだろう。