「こ、こんな事をしてタダで済むと思っているのか!」
「私、忘却呪文を最近覚えたばかりなのよ。スクイプさん」
私はニコリと笑い返し、縛りあげられたフィルチは顔を青ざめさせた。
ダモクレスとリリー、セブルスは心配そうな目で私を見つめ、アンナは陶酔の目で私を見つめた。
カートとルートもレギュラスも無理やりついてきている。
私は機嫌よく歌いながら、緑色に発光する大鍋のスープを掻き混ぜた。
「哀れなスクイプ♪ 愚かなスクイプ♪ 貴方はここで死ぬでしょう♪」
スクイプが、一層顔を蒼褪めさせて暴れた。
「そして生まれる♪ 輝かしい命♪ 貴方の全ては私の物♪」
「ねぇスクイプさん♪ 私と破れぬ誓いを結びなさい♪ 貴方は私に忠誠を誓い、私は貴方に魔力を授ける。簡単でしょう♪ 簡単でしょう♪ さもなくば……♪」
「決めて♪ 決めて♪ 今決めて♪ 今よ!」
私は歌い終わり、カップの中に大鍋の中に入ったスープを注ぐ。
そして、フィルチに腕を差し出した。
「こんな……事は、許されない!」
セブルスが、仲介人として杖を手にした。
「貴方は魔力がいらないの?」
フィルチの心が激しく揺れるのが手に取るようにわかった。
縛られた縄を解くと、フィルチは恐る恐る手を差し出す。
「フィルチ、魔力と引き換えに、私に忠誠を誓う事を誓う?」
「誓おう。どうせそれしかないのだろう。レイドルグ! ただし、魔力を得られなかった暁にはお前は退学だ!」
そして赤い光が私とフィルチの手を繋ぐ。
私は微笑み、ゴブレットを差し出した、フィルチはそれを一息に飲む……。
そして、私は杖を構えた。
「ジーンラクサス! 遺伝子よ、改変せよ!」
青い光がフィルチを包む。途端、フィルチは苦しみ出した。リリーは急いで駆けよる。
「大丈夫なの!? ねえ、本当に大丈夫なの!?」
「落ち着きなさいよ、リリー。そこのベッドにフィルチを横たえなさい」
一時間もすると、フィルチの苦しみは去ったようだった。まだまだ、改良の余地がありそうだ。
フィルチが目を覚ますと、私は箒を地面に転がした。
「立って、フィルチ。アップと言うのよ」
フィルチは、よろよろと立ち上がり、アップと言う。
箒は勢いよく飛びあがり、フィルチの手を強かに打った。
「魔法力が……魔法力が!」
フィルチは呆然と声を出す。
「貴方は休暇を貰って、オリバンダーの店に行く事が必要よ。それに、一年生の教科書を買う事も」
フィルチは、涙を流し始めた。静かに、箒を抱きしめて泣き始める。
「父が魔法使いなら、これで魔法力を与えられるわ。実験は終わった。行きましょう」
「母が魔法使いの場合は?」
セブルスの質問に、私は答える。
「その時はまた、別の薬と呪文が必要になるわ。もちろん、開発済みよ」
「凄い、凄いです、ミア様! さすがはミア様です」
「セブルス、脱狼薬の開発を急ごう」
悔しそうにダモクレスが言うのが、心地よかった。
その後、フィルチが張り切って呪文の練習を始めた為、フィルチがスクイプだった事と私がそれを癒した事は周知の事実となり、レティクスの手の物がインタビューに来たので快く答えてやる。
その後、それは新聞に乗り、それでレティクスの新聞、「皇女の道化」は一躍有名となった。当然、私の所にも相談の手紙がどっと押し寄せる。
その中に、有力者の息子がいたらしい。
私は、放課後にスクイプ達の治療をする事を許された。
治療費は、取らない。要求するのは、破れぬ誓いそれ一つである。
それは、あまりにも高額な治療費だった。
それでも魔法とは抗いがたい魅力があるものらしい。
私は、週に一人の割合で、魔法使いの治療を行った。
私が仲間集めを開始すると、レギュラスが入ってきた。
どうみてもスパイだが、まあ良いだろう。
マグルを中心に、私の派閥は大きくなっていった。
これだけ多ければ、一人が狙われると言った事はないだろう。
私はクリスマスのパーティに、彼らを誘う事を約束する。
この頃、大学の通信教育を卒業した。
さすがの私でも苦労したが、でもこれでファンタジック3の開発に専念できる。
もちろん、呪文の練習も欠かさず行っている。
つまらない事に、リリーとセブルスが守護霊を出せるようになった。
お揃いの小鳥である。
狩って食べたいわねと言ったら、全力で守護霊を保護された。そう簡単に信じないで欲しい。
そして、私達はクリスマス休暇に、家に帰った。
ナーヴギアの組み立て、技術の受け渡し、更なる遺伝学の研究。
それらを行っていると、矢のように時間が過ぎていく。
セブルスとアンナはそれを手伝いながら、勉強の日々だ。
そして、クリスマスの日は早々に訪れた。
大きな液晶画面に、表示されるファンタジック2の冒険の様子。
誰でも遊べるように、中央に置いてある十のナーヴギア。
そこに子供が並んでいるのを、ホグワーツの生徒達が可哀想な者を見る目に若干羨みが混じった目で見つめていた。
まあ、危険性を知ってなお遊ぼうと言う気概は無いか。
ここでファンタジック2の説明をしよう。
ファンタジック2では、いくつもの部族にわかれている。
ソードアートオンラインと違い、使えるのは魔法だけだ。
ただし、妖精界には伝説があった。
世界樹を伝ってアインクラッドへと行けば、上級妖精になって、新たなる力が手に入ると。
それには、アルヴヘイムとアインクラッドの書物の両方を合わせなくてはいけないらしい。
そして、我こそは上級妖精にならんと、各種部族が競ってアインクラッドへの道を競って開こうとしているのだ……。
ちなみに、ファンタジック2では自分で種族を選べない。
組分け帽子式で、ナーヴギアがその対象を選ぶ。
そこまで考えて私は、セブルスが並んでいるのを見た。
「そういえば、ファンタジック1でも2でも僕自身が遊んだ事がないと思って」
「そう。そういえば、私もそうね。パーティの時間中、ちょっと一緒に冒険してみる?」
「私も行くわ、セブ」
リリーが言い、ペチュニアが胸を張って案内してあげると言った。
「リリーとペチュニアじゃ、所属種族が違うじゃない。一緒に行動出来ないわ。残念だけど、リリーに案内してもらうわね。アンナ、貴方は体の護衛をお願い」
「はい、ミア様!」
私は、アンナはファンタジック2で良く遊んでいたのを知っていたのだ。
そして、私達はファンタジック2の世界に入り込む。
シルフィードの一族だった。この一族は、風のように自由で、素早い。
その代り力がないが、そこそこ使える一族だ。
「じゃあ、まず、空の飛び方を説明するわね……」
リリーが言う。そして、しばらくして飛び方を覚えたセブルス共に、私達は美しい夜の妖精界を飛びまわった。
リリーは、あまり外見を変えてはいなかった。
シルフとしてのリリーの姿に、セブルスは目が釘付けである。
その後、軽く魔物退治をして、食事にした。
「見て! セブ、ミア。ここの食事がおいしいの!」
裏路地に入った小さな屋台。ここも確か、レアな店だ。
私達は、いそいそと串焼きを買って食べた。
「味覚がより鋭敏になっているな」
セブルスが驚いた顔で言う。
「そうね。スタッフも大分腕が上がったようね」
私も軽く驚きながら、食事をする。肉汁がしみ出すこの感覚は、前の世界でも味わった事がないと言えば、どれほどの凄さかわかるだろうか。
「GM! 見てる?」
「はい、いかがなされました、ミア女史!」
「ここの串焼きをプログラミングしたのは誰? 素晴らしいわ」
「スティーブです、ミア女史」
その言葉に、私は目を見開いた。彼は、今この瞬間、私の野望に必要不可欠な人物となった。
ずっとこの世界にいる事になるのだから、食事の向上は必須だ。
スティーブのコピーをぜひとりたいが、彼はイギリス政府のものだ。私に従わない可能性もある。大人の人格は適応力もないし、その辺りの調整にはかなり時間が掛かるだろうから、後回しにしようと私は決めた。
十分に楽しんだ後、ナーヴギアから出る。
その後でも、パーティを楽しむ時間は十分にあった。