初めての箒の授業の時、私はスネイプとリリーを誘った。
三人で箒の練習をしていると、ジェームズがちょっかいを掛けてくる。
「のろまだな、スニベルス! まるで蝙蝠みたいにふらふらしているじゃないか!」
スネイプが杖を振りあげようとするのを、私は止めた。
「ああいうのとは関わらない方がいいわよ。どうせ私達はスリザリンに入ったのだから、真正面からぶつかるような馬鹿な事をしては駄目」
スネイプはしぶしぶと頷き、私達は箒で飛ぶ事を続行した。
ジェームズがからかい、私がスネイプを止める事はよくあった。
また、私達はいつも一緒に勉強した。
最初にグリフィンドールを選んでいたスネイプは、原作より更に孤立していたので、近づくのは簡単だった。
スネイプにパソコンの使い方を教えるようにもなっていた。
レイブンクローの先輩に、ダモクレスがいたのでスネイプをむりやり引っ張って勉強を教えてもらいに行った。
ダモクレスは後に脱狼薬を開発する。つきあっておいて損はないと思ったのだ。
スネイプは、ダモクレスの魔法薬学の知識に感服し、また、ダモクラスも最初はスネイプを気味悪がっていたが、学ぶ意欲は認めてくれた。
私とスネイプの時間は勉強と仕事で染め上げられ、それなりに忙しく過ごしていた。
そして、クリスマスを目前にした日、私はもう一度スネイプを誘った。
「スネイプ、クリスマスは研究室に来て仕事を手伝ってくれない? クリスマスイブには買い物もして、クリスマス当日にはリリーとペチュニアとダモクレスも誘いましょ!」
「マグルなんか! 学校に残った方がよっぽど楽しい……」
「あら。それは当然でしょ。私は仕事を手伝って欲しいとお願いしているんだから。お金になるわよ? 親友にプレゼントを送るって、きっと素敵よ」
スネイプはそれを聞いて渋々頷いた。私の梟を使って、手紙を送る。
「全く、パソコンの使い方に魔法薬学に普段の授業に闇の魔術に、頭がパンクしそうだ……」
ブツブツ言うスネイプに、私は笑った。
「私もよ」
その後、親の承諾を得させてから、私はスネイプに雇用契約書にサインをさせた。
これでクリスマス休暇の間、スネイプは私の物。ふはは、騙されおったな?
四分の三番線につくと、スネイプのお母さんは私を迎えに来たスティーブとSPに深々と頭を下げた。
「手紙で聞いてはいましたが、ミア女史が友達を連れてくるなんて、少し驚きました」
「あら、彼はモデルよ。ファンタジックで作るポーションを一手に引き受ける役。徹底的に磨き上げさせて頂戴。彼独特の雰囲気を消さないようにね」
「モデル? どういう事だ?」
「こちらへどうぞ」
それには答えず。スティーブは私とスネイプを車へと案内する。
車で眠りこむ事30分。ようやく研究所につき、いくつものセキュリティチェックを受ける。スネイプに良く言い含めて杖を取り上げ、風呂へと送った。
美容師、スタイリスト、ゲームデザイナーを呼び、スネイプは着替えをしてはデータを取られる。
「クリスマスの衣装にも使うんだから、それらしくしてよ。ファンタジックにね。……あら、良いじゃない。服に着られている感じがイメージぴったりよ」
ようやく候補がいくつか決まると、私はナーヴギアをスネイプにかぶせた。
「な、なんだこれは!」
「スイッチオン」
スネイプの体がガクッと崩れおちる。その体をスティーブに運んでもらい、私もナーヴギアを被った。
私の目の前には、大きな町の広場があった。
それは随分と閑散としている。そこでスネイプがへたり込んでいた。
私達二人とも、非常に簡素な服とそっけない剣を持っている。
「ちょっと、あんまり進んでいないじゃない」
「ななな、なんだこれは! マグルが移動の術を使った?」
「違うわよ、私達の体は今もあそこに横たえられているわ。あれはそうね、わかりやすく言えば夢を見せる装置なの」
「夢?」
「そうよ。これはさしずめ剣士になる夢ね。モンスターはもう出来ているの!?」
すると、私の頭の中に、出来ていますと返答が来た。
「じゃ、スネイプ。観光しましょ」
私が真っ直ぐに外に向かうと、スネイプも遅れてついてくる。
「今回、スネイプに頼みたい事は、このゲームのイメージキャラクターになる事よ」
「イメージキャラクター?」
「そう、剣の国アインクラッドが魔物に占領されてしまった。しかし、アインクラッドには秘密兵器、人造人間が用意されていた。それを起動させる為、空を飛べる妖精族は外から最下層に回り込む。最上層町から端まで。最下層の端から町までの旅で、一人、また一人と妖精族は命を落として行く。生き残ったのは、異端と言われた蝙蝠の羽を持つ……そうね、名前はヒースクリフがいいわ……男の子だった。男の子は羽を失いながらも、町に辿りつき、人造人間を目覚めさせる。そして、冒険は始まる……。そのヒースクリフが貴方よ! その後、魔法薬を作ってプレイヤーを助けるの」
「よくわからないが……物語の登場人物の一人になるのか?」
「そうよ!」
そこまで話した所で、草原についた。魔物を見て、スネイプはじりじりと下がった。
「最初はスライムね」
私は剣を振るう。
「あ、おい! 危ないぞ!」
「ここは夢の中だって言ったでしょ!?」
スライムと戦って私が苦戦し始めるとスネイプが加わった。
私達はこの後、スライムを10匹、凶暴兎を5匹倒し、アイテムの肉を手に入れた。
アイテム欄を探ると、マッチがあったのでそれで火を起こして肉を食べる。
本物の肉には比べられないが、まあ食べられる味だった。
そこで、頭の中で声がする。
「では、次のデザイナーズランドに向かって下さい」
そこで、私とスネイプは移動した。
ついたのはへんてこな町だった。水路やトロッコが走り、大樹からは梯子がぶら下がっており、その木の上に家がある。
そして雑多な人々が町を行きかう。
いかにも、思う存分好き勝手やりましたという感じだった。
私とスネイプはそこをゆっくりと観光した。
悔しいけど、楽しい事は確かだった。
観光の階層として置いてやってもいいだろう。
クリスマスの時もこれでいいかもしれない。
「どうですか、楽しかったでしょう? じゃあ、現実世界に……」
「待ってよ、最後の一つの世界がまだよ」
「え……い、いいじゃないですか、これだけ出来ていれば」
「最後の世界に連れて行きなさい」
私は命令口調で言った。私とスネイプの体が移動する。そこは研究室そっくりの場所だった。
「すみません、ミア女史。ナーヴギアを解析していて、時間圧縮機能を見つけたので、ここで皆で作業していました……」
「もう。時間圧縮はもう少ししたら教えるつもりだったのに。でも、脳に負荷がかかるから乱用は駄目よ?」
「わかりました、ミア女史」
私とスティーブの掛け合いに、スネイプは目を丸くする。
「時間圧縮ってどういう事だ?」
「一時間に一日分の夢を見る事よ」
「もしかして、ナーヴギアを開発したのは……」
「あら、言ってなかったかしら? 私が開発したの。ホグワーツの学費は、私が自分で払っているわ」
スネイプは目を丸くした。
「ミ、ミアに出来るんだから、僕もこの年で働く事が出来るかな……」
「だから、今から働くんだってば。雇われるのが嫌なら、魔法薬学分野でトライしてみる? ダモクレスと共同研究でもして。脱狼薬でも作ったら一躍有名人になれるかもよ。スネイプなら出来るわよ」
「脱狼薬か……面白いテーマだな」
スネイプはもっともらしく頷いてみせたが、背伸びをしている事は明らかだった。
私達が現実世界に戻ると、もう夜になっていて、私のお腹がなった。
「ミア女史、食事を取っておきました、どうぞ召し上がってください」
「あら、助かるわ。食べましょ、スネイプ」
食事を二人で取る。
「それで、他のモデルは決めてあるのよね?」
「梟で頻繁に打ち合わせをしていましたからね。最上階シーンに使う場所と魔物も数種類、しっかり作ってあります。ゲームは開発中の物で、実物と変わる事がありますって注意書きは必須ですが……。まあ、ナーヴギアの真髄は世界初のダイブ・イン機能であってゲームデザインじゃないから大したことはないですよ! 明日からでもCMを取れます!」
「随分問題のある発言ね……なら明日から取って頂戴。それから、あのクリスマスのプレゼントを一気に開けてみたような世界はどこかでは使ってあげるけど、人造人間が眠る設定の1階層では使えない。私の世界のクオリティを上げて。一晩でやりなさい」
「ええっ駄目ですか、あの世界。あんなに楽しいのに」
「クリスマスではそっちの世界を案内するわ。そうね、観光の階は11階辺りがいいかしら?」
「ようするに最下層でしょう? そこに変人達を閉じ込めておくって設定じゃ駄目ですか? 人造人間はそこの人間が開発したもので。皆、あの世界を乗り気で作ってるんです。今更変えられませんよ」
「始まりの町はシンプルが良いわ。あれじゃ迷っちゃうわよ。どこかで使うとは言っているでしょ? そもそも、あの世界はファンタジックと言うよりはファンタジーそのものだわ」
「ミア女史……」
その部屋中の研究員たちに縋るような目で見られ、私はため息を吐いた。
口で勝てないとなったらそれか。
「仕方ないわね。ファンタジック1はいわば試作品だし……いいわ。その代り、これ以降の勝手は許さないから」
その言葉に、研究員たちは喜びに沸いた。しかし、ゲームの難度は格段に上がりそうである。私が虐殺をするゲームでは、絶対にフェアにする。
さあ、どの世界で虐殺をしよう。魔法は絶対に使える世界が良い。次に作るのはアルヴヘイム……妖精の世界と決まっている。問題はそこで行うか、ホグワーツの経験を生かしたウィザーズで行うか、あるいはその次に作る全く新しいゲームで行うかだ。
まあ、それはまだ先の話だ。