それは魔物が溢れる広間での事だった。
「ヒースクリフ! 避けろ!」
しかしヒースクリフはその場で立ち止り、カブトムシを取り出して齧り始めた。
物凄く嫌な顔である。
「ぎゃー! 食事の時間が来た! つーか誰だよ、カブトムシの貢物なんかした奴は! 防御が1しか上がらないし、ヒースクリフのテンション下がるだろうが!」
「魔物第二弾キター!」
「ちょwwこれなんて無理ゲwwwww」
「皆、ヒースクリフを守るんだ! 誰かテストプレイであった見たく、ヒースクリフを担いで走れ!」
「無理無理! 力どれだけ必要なんだよ」
「ちょw 皆、オワタwwwww」
「なんだ、どうした!」
「ボス、復活してるwww」
「何―――――――――!?」
「まさか、一定時間立つとボスが復活するトラップとか!?」
「マジかよ、嘘だろ……撤退! 撤退! だぁぁ! ヒースクリフの撤退指示ってどーやんの!?」
「えーと、マニュアルマニュアル……ヒースクリフを誘った討伐軍のリーダーの指示! どの討伐軍かは人数とレベルを掛けた数の多い順!」
「え、計算が必要なのか!? えーとえーと」
「ああっ 下がれ、ヒースクリフ!」
魔物の一撃が、ヒースクリフを襲った。ヒースクリフは思わず竦み上がり、動けない。
そして……。
ハロウィンの日の朝食の時間、梟が私の席にやってきた。
「あら、暴動? 10階まで行って全てリセットした? あら、まぁ……」
「当然の反応な気がするな。あのモンスターが10匹なのだから」
「まぁねぇ。テストプレイの時よりは強さを落としているはずだけど。仕方ないわ。ミア1に許可を出してレベルやアイテムのデータを復活させましょう。ただし、一階まで戻されるのは変えないわ」
私はその場で手紙を書いて梟を飛ばせる。
「そうだ、セブルス。今日は鼻血ヌルヌルヌガーを買い込む予定よ。これで片っ端からスクイブやマグルや魔法使いの血を採取するの。一緒に買い物付き合ってくれない? これは悪い事じゃないから、大丈夫よ」
「……ふぅ。どうせ嫌だと言っても連れていくんだろう」
「もちろんよ。クリスマスには遺伝子工学の勉強をするわ」
「僕もやる事になるんだろうな……。ちょっと待ってくれ。リリーを呼んでくる」
しばらくして、リリーが現れた。
「あまりセブに心労を掛けないでくれる? 鼻血ヌルヌルヌガーを何に使うの?」
「それはお楽しみよ。絶対いい事だから、それは保証する」
リリーは胡散臭げに私を見た後、ため息をついた。
「まあ、いいわ。私も付き合ってあげる。見張りがいた方が良いだろうしね!」
私達はホグズミードを存分に楽しんだ。
そして、鼻血ヌルヌルヌガーをしこたま手に入れた私は、死食い人達を使ってあらゆる人間の鼻血を集めた。
そしてクリスマス休暇。私は遺伝子工学研究所にて魔法使い達の遺伝子を見ていた。
「ふむふむ……いけるかもしれないわ。足りない技術は魔法でどうにかすればいいのよ」
「目的の物は見つかりましたか?」
戦々恐々とした様子で、遺伝子工学者達は言う。ミア女史の噂は聞いている。
ミア女史が本気を出せば、自分達の研究が全て無用の長物となってしまうかもしれない。
そこに彼らは怯えていた。
「ああ、ある性質を持った人を意図的に作りたいと思って。ヒントは見つけたわ」
「ある性質を持った人を……作る!?」
「実際には作りかえる、ね。要するに遺伝子治療の一種よ。ああ、病気の類では一切ないわ。些細な事を自慢するムカつく子がいてね。その些細な長所を、皆が持てたらもうそんな事は言えないと思って」
「それは……遺伝的疾患の治療にも繋がる、凄い研究ですよ!」
「それは貴方達の仕事よ。私は些細な長所を埋め込みたいだけで、決して病を治そうなんて考えてない、いわば趣味に過ぎないわ。貴方達のテリトリーは侵さないから安心して」
そして私はノートにサラサラと発見した事をメモして、閉じた。
スクイプであるフィルチの家族構成は調べてある。彼は以外にも純血の魔法使いの血筋だ。実験体としてはちょうど良かった。スクイプだから、捕まえるのも造作がないだろう……。
遺伝子の勉強を終えると、ナーヴギアの追加発注分の仕上げ。
何故か大人気の上続いてしまった、「ミア女史の平穏なる日常」のアニメの監修と、イギリス版の翻訳の監修。宿題も忘れてはいけない。
珍しく、その間のスネイプは休暇をもらっていた。幾年ぶりかの自由である。
本当のお母さんの所によって、今の家ではお兄さんにマグルの勉強を見てもらったり、首相としての仕事を見学したりするそうだ。
それらをファンタジック1をモニタしながらその作業を進めていると、あっという間にクリスマスとなった。
クリスマスのパーティは、首相に招待されていた。
私はドレスアップしてパーティへと向かった。
セブルスが、幾人かの女の子に迫られて困っていた。
「何やっているのよ。ごめんね、この子好きな子いるから」
「助かった、ミア。穢れた血の女の子は大胆なんだな」
「何度も言うけど、貴方、自分も穢れた血が半分混じってるってわかってる? それと、当たり前でしょ。貴方は首相の子供。もう要人の一人なのよ。まさか、貴方自身がもてるんだとは思ってないわよね?」
「そ、そんなこと……ないぞ」
セブルスは顔を赤くして呟く。
これは勘違いしていたな。私はセブルスを小突いた。
セブルスを連れて、一通り挨拶を交わした私は、首相にもう一度挨拶に行った。
「首相、そろそろお暇していいかしら。セブルスも一緒に。今日は15階のクリスマス攻略があるの。それに、セブルスにはまた仕事を手伝ってもらわなきゃ」
首相は、ニコニコ笑顔で言う。
「ああ、行っておいで。寂しくなるが、一所懸命勉強してくるんだよ。私はこんなに優秀な子を持って誇らしいよ」
セブルスはもごもごと何事か呟いて、ぺこんと頭を下げる。
そして私達は研究室に戻った。
15階では、止めをヒースクリフが刺さねばボスはいつまでたっても倒せない。
その代り、ボスの門は妖精を示す紋章があって、ヒースクリフが触れないと開かない仕組みになっているし、そのドアを見たミア1がそれらしい事を言う。そして、ヒースクリフに聞けば紋章は自分でしか解除できないと教えてくれる。
さて、ヒースクリフにしか開けない事は10日ほどで気付いたが、今度はどうだろうか?
注意深く見ていれば、弱いはずのヒースクリフの攻撃が効きすぎるほど効く事に気づくはずだ。
『ちょwwwボスがいつまでたっても倒せないんですけど!』
『HPが残りコンマ1から減らねーーーーー!』
『ちくしょう、こんなの攻略本になかったぞ!』
『何かないか、何か! 見逃している事はなかったか!?』
『ヒースクリフを守れー!』
全く気付いていなかった。
ヒースクリフが、皆に守られながら攻撃をする。
パニックに陥ったメンバーは、誰もそれに気付いていなかった。
ボスがポリゴンの欠片となって美しく散る。
『ちょwww相談している内にボス死んだwww』
『ヒースクリフさん、何事もなく次の階に行く準備をしないでwww』
『くっそボスが倒れる瞬間見逃したw』
『誰かスクショ取ってたー?』
『取ってる取ってる。ボス戦は毎回ビデオで撮ってる』
私はため息をついた。拍子抜けだが、これで私のクリスマス休暇は終わりだ。
その後は、いつも通り教科書を全てデータ化してパソコンの中に入れ、勉強をして休暇を過ごした。