「なんで僕がこんな事をなんで僕がこんな事をなんで僕がこんな事を」
「良かったわね、多分今年は魔法薬の材料に全く困らないわよ。というか貴方本当に使えるわね」
「知るか!」
私とセブルスはうんざりしながら喉に良いと言うジュースを飲んだ。
セブルスの演技力は定評がある。歌の方は下手でもいいのだ。それを想定した曲調なのだから。「ヒースクリフのご乱心にゃ」なんて、ヤケなところが出ていてとても良かった。
実際に収録してみて仕事が増えた位だ。
「にゃにゃにゃにゃにゃーにゃー。にゃっにゃっ……死にたい。にゃーにゃにゃーにゃー・……死にたい」
あれは笑いに笑った。そしたら私の笑い声も収録されてしまった。
二人とも冬なのに汗だくだ。声の収録と言うのも、存外に体力を使うものだ。
何故かドレスに着替えさせられたりしたし。
アンナは冷たく濡らしたタオルで私の汗を拭いてくれる。
セブルスは、よろりと風呂に向かった。
この後、宿題の山が待っている。私の場合はもちろん研究もある。
というか、漫画の監修が私ってどういう事だ。
ファンタジック1で売れる漫画を描ける事はわかっています、ネタも良いですから売れますって……。それは自分で売り出した方がよっぽど早いんじゃないだろうか。大ヒットしても、お金が入るのは向こうである。良い商売をしている。
まあ、私は監修をするだけで後は向こうがやるのだし、日本の文化を育てる意味でやるのだが。自伝の執筆の依頼も来ているが、ホグワーツの事が関係してくるため断った。
写真集の依頼も持ってこようとしたので、スネイプと二人でスティーブを袋叩きにする。
全く、スティーブは私をなんだと思っているのかしら。
「セブルス、明日のクリスマスイブ、一緒に買い物に行く?」
「ミアへのプレゼントもあるから、別々が良いな」
「楽しみにしているわ」
スネイプと別れ、スティーブやデザイナー、SPを引き連れて買い物に向かう。
ダイアゴン横町に、ヴォルデモートがいた。
「クリスマスイブだ。婚約者らしく、デートしようと思ってな」
スティーブが前へ出ようとして、私はそれを押さえた。
「お付きの者がついていてもいいなら、よろしくてよ。門限には帰してね」
「もちろんだ。俺様にも死食い人がついている」
ヴォルと一緒にプレゼントを買い込み、ついでに夕食に招待する。研究室に帰ると、母が誘拐されたと言う連絡が来た。
相手はナーヴギアの技術を盗んでいた組織らしく、裁判の方向性の転換に業を煮やしたというわけだ。あいつら、補償だけでなく、技術の提供まで求めていたとは知らなかった。結局私も裁判に出席する羽目になるし、裁判の連絡を受けて本当に良かった。
私は裁判の様子を思い出す。
『死亡事故が起きたのはゆゆしき事態だ。安全な装置を作る研究を促す為、ナーヴギアを安全に作る為の技術は、提供するべきだと思うがどうかね?』
『裁判長、私は、私だけは、今でも完全に安全なナーヴギアを作る事が出来ますわ。泥棒がナーヴギアを安全に作る為だけに、どうして技術を公開せねばなりませんの?』
『死者が出ているのだよ、ミアちゃん』
『それがどうかしまして? ナーヴギアの注意書きにはきちんと書いてあったはずですわ。頭をいじるのだから、それぐらいの危険は当然です。繰り返しますが、私の元でなら完全に安全な装置を作る事が出来ます。安全でないのは、私の手を加えていないナーヴギアだけですわ』
『世界の技術の発展に貢献しようとは思わないのかね? ナーヴギアの哀れな被害者が可哀想とは?』
『裁判長、貴方はこの事件の裁判を公平におこなうつもりがありますの? それはこの事件には全く関係ない事ですわ。そして、私は今でも、十分に、科学者の命たる多くの技術を無償で提供しておりますわ。どの技術を提供してどの技術を提供しないか、開発者たる私が決めます。何より、私ほど業績のある科学者に対してミアちゃんとは無礼です。あくまでも不公平な裁判を行うつもりなら、上告させて頂きますわ。私が求めるのは、完全な勝利のみであり、イギリスに自由と公平さが欠如していると言うなら、私は亡命します。どういう裁判結果になろうと、他人に命じられての技術の提供は行いませんわ』
『ミアちゃん、落ち着いて。私はただ、君の技術はもっと人の為に役立てるべきだと思うんだよ……。第一、死者が出ている……』
私は首を振った。もちろん裁判は上告し、今、もっとまともな裁判官と政府の圧力のもとで裁判中だ。
「どうします。ミア女史。向こうは、技術の提供を要求していますが」
警察庁長官の言葉に、私は事もなげに答えた。
「さっさと検挙して下さらない? それと、架空の孤児院を用意して私を引き取る用意をお願い。計画はこちらにあるわ」
ヴォルが、ほう、と声をあげる。
「ミア女史、しかし彼女は貴方の御母上ですぞ!」
「それがどうかしまして? 私は物ごころついてから自分の力で生きてきたし、それまでの世話の代償は十分に支払ったつもりよ? 正直、母の浪費は少し笑って見逃せるレベルでは無くなってきていたの。要人の集まるパーティにも出たがってきたし……。もちろん、下手に人に親権が行っても困るから、無事でも何の問題もないけれど。そういうわけで、見せしめの為にも厳しく検挙して下さる? 出来れば軍が出れば最高ね」
それを聞いて、警察長官は激しく戸惑う。
「ミア女史。クリスマスプレゼントが欲しくはないか?」
ヴォルがニヤリと笑って、私もそれに微笑み返した。
「あら。嬉しいわ。なら、私からもささやかなプレゼントを差し上げますわ」
私は小瓶を投げ渡す。
ルシウスがしつこく欲しいと言っていた悦楽の薬だ。恐らく欲しがっていたのはヴォルデモートだろう。
「私には効かないし、発狂しない様に威力は弱めているけれど、全く役に立たないって事はないでしょう?」
「ありがとう、ミア」
そして、クリスマスプレゼントには誘拐犯の生首とぐったりした母が届いた。
研究室が大騒ぎになる。警察が入ったが、迷宮入りするのは確定事項だった。
セブルス・リングハーツの所には、たくさんのプレゼントが届いていた。
セブルスは母からの贈り物のロケットを大切に身につけ、首相から送られてきた服を着る。
クリスマスは首相からパーティに招待されていた。
私も着飾り、パーティーへと向かう。
スティーブはため息をついて私を褒めたたえた。
セブルスは私を見て、ため息をついて言う。
「ミアも、喋りさえしなければ……あと人を見下すような眼をしなければ……嫌駄目だ、性格の悪さが顔に出ている」
「そこがミア女史の美しさなんじゃないか」
「二人とも、失礼な人ね」
私は軽く怒ったふりをした。
首相が笑顔で私とセブルスを褒めたたえてくれる。セブルスの背筋は、モデルの練習やあれやこれやで、もう猫背ではなくなっていた。それでも、礼儀作法の全てが身についたわけではない。首相にフォローされながら、紹介されて回る。
セブルスは健気に思えるほどによく頑張っていた。
私はと言うと……。
「ミア女史、飲み物をお持ちします」
「ミア女史、お初お目にかかります」
「これはこれは美しい、ミア女史、今日は大変だったようですね。心配しました……」
見合い会場と化していた。
イギリスの良家の、あるいは軍人の息子達が私にアピールしてくる。
だが、私も女だ。それが不快なわけではない。
私は存分に夜を楽しんだ。
次の日の新聞には、「機械の女王、夜の女王も目指す?」などと、マフィアに母を救出してもらったらしいとか、パーティーでの様子とか色々書かれていた。
気にするわけではないが、本当に油断が出来ない。
とにもかくにも、全ての予定を何とか消化して、クリスマス休暇は終わった。