「セブルス・リングハーツくん、パパだよ!」
首相はにこやかに笑っている!
スネイプは荷物を落とした!
私は頭を押さえた!
リリーは口元を押さえている。
「ええっと、離婚して再婚したの? 引き取ったの?」
「ごめんなさいね、セブ。でも、この方は首相だし、魔法使いに理解があるというし、セブの事をとても気に入っていると仰ってくれているの。うちにいても、セブルスが一所懸命稼いだお金をお父さんに取られるだけだし。だから、とっても悲しいけど、セブルスの幸せを考えたわ」
私が聞くと、スネイプ……いや、セブルス・リングハーツのお母さんが、セブルスを抱きしめて言う。
おいおい、スネイプじゃ無くなっちゃったよ。予想と大きく違った原作改変だ。
「でも、お母さん……」
「セブルスくん、安心してくれていい。私の家の子になったからと言って、もう会ってはいけないと言うわけではないんだよ。研究所にだって好きなだけいていいし、我が家にいつ帰ってきても構わない。でも、今日一日だけは家に来て欲しいな。君の事をもっとよく知りたいし、新しい君の部屋を紹介したい」
「でも、首相……」
「戸惑うのはわかるが、お母さん達の事は心配しなくて良いからね。補償はちゃんとするから。さあ、車に乗って。ミア女史、ではまた明日」
「は……はぁ」
リリーがセブルスに心配そうに声をかけた。
「セブ!」
「リリー……僕、ええと」
「さ、セブルスくん」
セブルスは車に乗せられる。セブルスは何度もこちらを見ている。今だ状況が良くわかっていないようだ。それはまるで売られていく子猫のようで。いや、子蝙蝠か。とにかく、さようならスネイプ。こんにちはリングハーツ。
明日、やってきたリングハーツの様子が別人のようになっていたとしても私は驚かない。最も、魔法の件があるから本当に別人に変える事は無理だろうけど。
「セブルス、大丈夫かしら……」
「私が首相と協力関係にあるうちは大丈夫よ」
私の言葉に、リリーは不安そうな顔をして言った。
「貴方って、本当にマグルにとっての例のあの人なの?」
「私が支配するのはゲームの中だけと言ったでしょ?」
「そうね、私とセブルスが駄目よと言ったら石化とかもといてくれたし、スネイプの作ったプロテゴの盾の呪文付きの指輪での護身に変えてくれたものね……。私、貴方は頭が良すぎて常識を知らないだけだと信じているわ」
「そうよ、リリー。色々教えて頂戴ね」
スネイプを使う限り、リリーとの友好関係は築いておいた方が良い。
私は笑顔でリリーを見送った。
そして研究所につくと、私は進捗を確認する作業に移った。
研究員が私の顔を見てほっとした顔をした。
「ミア女史! 一日千秋の思いでお待ちしていました。学校で心を揺らす羽目になってはならないと思い……。大変です。いくつかの訴訟が起こされています。それの内容が……ナ、ナーヴギアを使った人間が死亡したと。今、補償を行う方向で進めていますが、金額が……」
「ふざけているの? 私が不良品を作るとでも? シリアルナンバーを確認した? 分解されていないか、本当に私の作った物かチェックして。不正操作、分解、偽物。このどれかのはずよ。そもそも、今はサービス期間じゃないじゃない。訴訟はこっちが契約違反と名誉棄損でお金を取る方向で進めて」
「は?」
「現物をチェックして。必ず相手の頭皮がひっついている現物でないと駄目よ」
「あの……死者が出て……こちらがお金を取ると?」
「当然でしょ。今度から、重要案件は遠慮せずどんどん寄こしなさい。で? 他には何か?」
「ミア女史は、この危険を御存じだったのですか?」
スティーブの言葉に、呆れた思いでため息をついた。
「スティーーーーーブ。注意事項をよく読まなかったの? 本体にも大きく注意事項が書いてあるし、説明書にはしてはいけない事がびっしりかいてあって、そのいくつかに命にかかわると注意書きがしてあったはずよ。脳に直接操作するのよ? 危険は当たり前でしょう?」
「事故は一度も起こりませんでしたから、油断してしまいました」
「天才たるあたしが事故を起こすはずがないじゃない。何故私が最後にナーウギアを一つ一つチェックしていると思うの?」
「しかし、あれは設計図通りに作ってあったんだ! 金庫にあったナーヴギア修正プログラムもちゃんと流したし、女史がやっていた妙な操作もちゃんと……」
研究員の言葉に、私は手を振りおろした。SPがその研究員を拘束する。
「まあ、馬鹿なスパイが捕えられて良かったわ。でも、セキュリティ最高のはずの部屋を監視までされていたとはね」
「どうなさいます」
「そうね。訴訟で注目を集めた後、私の見えない所に行ってもらうわ。訴訟はもちろん勝ってね」
スティーブに指示を出すと、スティーブはそのニュアンスを正確に理解して、顔を蒼褪めさせ、そして言った。
「本気ですか?」
「当たり前でしょ」
「わかりました。私の皇女様。それと、もう一つ問題が」
スティーブが、ある分厚い本を出して来た。
それを私が開くと、膨大なファンタジック1の設定資料だった。
私がラフスケッチした100階分のデータ、全てが載っている。
私は頭痛がしてきて、頭を押さえる。
これをそのまま作るつもりはなかったが、ある程度は利用するつもりでいた。
事実、始まりの町は、この通りに作っている。
「……売ったの?」
「物凄い勢いで売れています。今、訴訟の準備をしています」
「盗まれたのね?」
私は本をパラパラと見た。ボスの攻略法から、罠に至るまで詳しく乗っている。
「人事部長に言って。私を何だと思っているのか。いくらなんでも警備が緩すぎるわ。言っとくけど私って軍が出て確保されてもおかしくないほどの要人なのよ。それを、それをこんな、安易に資料を盗んで……いいえ。私が悪かったわ。口先だけ私を尊重してくれるからって、全部任せきりにして研究に専念していたのが間違いね。これからの警備、人事チェックシステムは全て私が考える。これからもこんなふざけた警戒体制にするって言うなら、アメリカか日本に行くわよ」
「申し訳ありません!」
いくら機械やプログラムに何十ものブラックボックスを入れても、それを作る大人が全てを流してしまっては何の意味もない。
流していい技術は流しているし、そうでない技術に関しては詳しく教えないなりトラップを作っておくなり、それなりに対策を取っているが、技術の方でだけの対策は不十分だ。
大人だって馬鹿じゃない。技術はいずれ解析される。
前の世界でテロをやる上で、秘密保持のあれこれは学んだのだから、最初からそれを生かせばよかった。やはり精神が幼くなっているのか。いや、いい訳はやめよう。私がうかつだった。
私はチェックをいったん中止し、ナーヴギアを被り、時間を早めて警備計画を立てた。
ナーヴギアの警報装置がついて、私が目を覚ますと、鼻息を荒くした見た事もない研究員が私の足を押さえていた。
「ば、馬鹿な。ナーヴギアを使っている間は何をしても気付かなかったのに」
私は、躊躇なくナーヴギアを被せ、スイッチをオンにした。
もう一つのナーヴギアを取ってきて被り、男のナーヴギアを操作。
最高の苦痛を味わってもらいながら、記憶を検索する。こいつ、女性研究員に手を出していやがったな。ここまで警備が地に落ちたなんて思ってもいなかった。
自白するよう脅迫観念をかけて、これもSPに連行させて訴訟と旅行コースだ。
「スティーブ! SP達と私の体を護衛していて! 警備体制の構築は最優先で行うわ」
「もちろんです。私のミアに、あんな、あんな……! これからずっとそばにいますから」
「そう願うわ。全員で会議を行うから、ナーヴギアを着用して。警備の事も話すから、交代でSPもお願い」
とりあえず、全員分の記憶を検索しないと。
何? 私の亡命予告と暴行未遂の事を聞いて首相と軍のトップと警察のトップが来る?
そうね、スティーブ、イギリスのスパイの癖に私の警備に隙を作ったものね。
ちょうど良いわ。色々と注文させてもらいましょう。