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No.21387の一覧
[0] 【一発ネタ】味噌汁女の脱獄計画[かんたろー](2010/09/04 04:45)
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[21387] 【一発ネタ】味噌汁女の脱獄計画
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:423dceb7
Date: 2010/09/04 04:45
 最初は軽い気持ちだった。
 いや、むしろ悪戯感覚だった。ウケ狙い的な部分が大半だった。それが失敗だった。


 私、渡辺希美子は二十二歳にもなって万引きをした。
 再度言うが、軽い気持ちの悪戯。あれよ、中学生がタバコを買って公園で吸うみたいな。吸ったこともないくせに「俺金ピ(ピースという名前のタバコ。すっごいキツイ)好き。ちょーお気に」とか言い出すみたいな。


 しかし、中途半端に道徳心の高かった私はポケットに商品を突っ込んだまま店を出て、そのまま入り口で待っていた。心の中で「私を捕まえて!」と叫びながら。十五分くらい立ちっ放しだった。
 ポケットから盗んだ商品を中の店員に見えるように取り出した。誰も気付かない。三十分経った。私は店員に怒鳴りたい気分になった。「私という万引き犯がいるのに何故お前は廃棄の選別をしているのだ!」と。
 四十分経過。いよいよ意地になってきた。おいそこのロン毛、店内に客がいないからってカウンターでラブプラスやってんじゃねえ。


 結局、私が捕まったのは外に出て一時間が過ぎた頃だった。私に声を掛けてきた店員にマイクタイソンばりの右ストレートを叩き込んだときの私の顔はきっと恍惚としていただろう。


 コンビニの事務室に連れて行かれた後「次やったら警察に連絡するぞ!」という流れにはならず、普通に警察を呼ばれた。暴行罪だとかなんとか。
 二人の警官に両腕を捕まれて歩いていく私を見て店員は「ざまあみろ!」と嘲り笑っていた。今に見てろよ。


 パトカーの中で話を聞かせろと言われたので、私は正直に話すことにした。


「私はきっと、誰かに叱られたかったんです……」


 ここでM発言。警官はなにやら勘違いしたようで「それが、若いってことさ」と遠くを見るような目で私を諭してきた。
 話す内容もさながら、口を開くたびに漂うビールの臭いが不快で私は迷わずその警官をどついてしまった。私の留置場行きが決まった瞬間である。


 反省しろ! と言われながら留置場に入れられた。一日で出られるらしいが冗談ではない。私は断固反対だと暴れた。備え付けのベッドを倒して壊し、ドアを壊れたベッドの部品でがんがん叩いた。「止めろー!」と駆けつけてきた警官にベッドの部品を投げる。額に当たり警官の額から血が流れる。私の刑務所行きが決まった世紀の瞬間である。


 私の刑務所行きが決まったとき、母は泣いていた。父も泣いていた。妹は笑っていた。復讐とは正当な理由があってこそのものだという。ならば、私は彼奴を復讐の対象としてもなんら不具合はないのだ。


 刑期は一週間だった。有り得ない。花の女子大生の私が一週間も刑務所に入れられにゃあならんのかと。
 私は脱獄を決意した。看守を殴り倒して鍵を奪い刑務所を出る。実にシンプルな計画。私の作戦に穴は無い。早速決行しよう。


 結論から言えば、失敗した。
 大の男に女の私が後ろから殴ったところで倒れるはずは無かったのだ。
 この結果、一週間の刑期が延びた。実に悔やまれる、何故私はあの時フォークを持って襲撃しなかったのかと。


 それから私は様々な脱獄方法を思案し、実行に移した。何度も、何度も、捕まっては考えて、看守を実力排除しようとして失敗して。
 八回目の襲撃の際に堪忍袋の緒が切れた看守にジャンプアッパーを叩き込まれたのは苦い思い出である。






「……さて、私はどうすればいいのだ」


 そんな事が積もり積もって、いつのまにか私の刑期は膨れ上がり、一年以上の服役が決定されていた。
 ちなみに私が捕まってからすでに一ヶ月が過ぎている。大人しくしていればとうに私はお日様の下に出られていたことだろう。急がば回れとはこのことか。


「……いいわ、やってやろうじゃない。私、渡辺希美子のプリズンブレイクショーを見せてやる!」


 右手を暗い天井に突き出し誓いの叫びを放つ。これは目標とか誓いとか宣誓とか、そんなものではない。私が脱獄するというのは決定事項なのだから!


「見てなさい、世間の馬鹿ども! 脱獄はドラマの中だけの話じゃないって、証明してやるから!」




 服役三十二日目。
 とうとう実力行使以外で脱獄する方法を考えた。いや、思い出したというべきだろう。
 昔、何かのテレビ番組で見たことがある。名前は忘れたが、ある服役囚が脱獄した方法……それは味噌汁を鉄格子に掛けて腐食させ、看守にばれないように折る、というものだ。


 が、ここで問題が生じる。ほかの刑務所は知らないが、私のいるこの刑務所は食事を各々の部屋で取るのではなく、刑務所内の食堂で食事を行うのだ。
 どうしようかと考えた末、私は一計を案じた。


「ずっと口に含んでいればいいのよ」


 午後、昼食の時間になり私は早速その方法を実践することにした。白飯、焼き魚、沢庵を食べ終わり残った味噌汁を口いっぱいに溜め込む。リスみたいな頬の私を周りの服役囚がいぶかしむ、ふん。妙な奴と思って馬鹿にしてるんでしょう? 勝手にしなさい、私は貴方達凡人とは違うのよ。


 昼食を終えて部屋に帰るよう看守が命令する。勝った、私は近日中にこの臭い刑務所から出て行ってやる!
 初日の作戦は成功した。部屋の窓についた鉄格子に口の中の味噌汁を吹きかける。三日くらいで腐食するのかな? 私はワクワクしていた。


 服役四十日目。
 どうやら私は思い違いをしていたようだ。鉄格子は味噌汁を浴びた程度では中々腐らないらしい。毎日毎日遠足前夜のようにワクワクしながら寝ていたのに、ガッカリだ。


 とはいえ、継続は力なり。まだまだ、この程度では計画が頓挫したとは言えない。いつものように口に味噌汁を含み自分の部屋に戻る。
 ……ただ、この日は思いもよらない出来事が私を待っていたのだ。
 それは、部屋に帰る途中の服役囚の会話。


「なあ、昔ラモスが出てたお茶漬けのCMってどんなだっけ?」

「日本人は! お茶漬けやろがい!」


 想像以上に服役囚Bのラモスの物真似が上手かったので、ツボに入った私は口に含んだ味噌汁をぶっ放していた。
 その日以来、私のあだ名は『味噌汁女』になった。


 服役百日目。
 今日は服役囚を集めてのビデオ鑑賞があった。その日の映画はカンフーハッスルだった。イマイチ選考理由が分からない。
 看守の一人が次はどんなものが見たいか聞いてきたので迷わず「ショーシャンクの空に」と答えたら、ガン無視だった。名作なんだぞう。
 ちなみに、勿論鉄格子は壊れない。挫けそうだ。


 服役百五十日目。
 今日は素晴らしい日だった。何故なら、窓に付けられた鉄格子のうち一つが取れたからだ。どうやら、元々酸化が進んで取れそうなものだったらしい。この分なら、後三ヶ月、いや二ヶ月で残りの鉄格子も外れるかもしれない。あまりの喜びに涙が浮かぶ。
 夕食の時間、テンションが上がりすぎて私は食事中にエーデルワイスを歌ってしまった。気付けば私は近くの服役囚と肩を組んで大声で歌っていた。他の服役囚達も混ざり、食堂は音楽会のようになってしまった。


「なんだかよく分からんが、良い事でもあったのか渡辺?」


 楽しそうに歌う服役囚を微笑みながら見ていた看守が、私に声を掛けた。いつも私が襲撃をかけていた看守だ。私の顎に拳をくれたことは忘れないが、今だけは笑顔で応対してやろう。


「はい! 聖母マリアが降臨なさったような気分です!」


「そうか、最近は大人しくしているようだし、この調子ならお前も外に出られる日が近いな!」


 あんたが思ってるよりもずっと近い日だよ、とは言わない。私が喜んでいる理由も知らず笑っている看守が酷く滑稽だった。


 服役百九十日目。
 この日、確かに世界が輝いた。たとえ、私の心象風景内のことであったとしても。何故なら……


「取れたーー!!」


 そう、残る二つの鉄格子がボキボキと一度に外れたのだ!
 私はすでに頭の中で外に出たときの行動を思い描いていた。自伝でも書こうかな? 出だしはこうだ、『希美子は決意した。必ずやあの光り輝く世界へ飛び立とうと』


「タイトルは何にしよう? 希美子のドキドキ! 脱獄大作戦! ポロリもあるよでいこうかしら? 何はともあれ……取れたー!! ヒャッホーイ!」


 まあ、こんな風に取れた取れたと騒いでいたら看守の連中が来るのは当然の帰結であって。
 私は急遽部屋を変えられることになった。新しい鉄格子を入れるまで私の部屋には入れないようにするらしい。うふっ、やっちゃった!


「渡辺、大声で俺達に知らせてくれたんだな、ここに来たてのお前なら鉄格子の取れた窓から逃げ出そうとしていただろうに……なんか俺……感動しちまったよ」


 涙目になりながら私に握手を求めてくる看守。本当に私が改心したと思っているようだ。
 ふざけろ! お前が無駄に仕事してるから私が脱獄出来ないんじゃないか! 埋まれ!


 服役二百二十日目。
 この日私は元いた自分の部屋に戻ることになった。……また初めから鉄格子を腐食させる作業をしなければならないのか……それも、今度は新品の鉄格子を。
 いっその事普通に刑期を全うしてここから出て行こうかな、と軟弱な考えが生まれる。私は頬っぺたに平手打ちをしてその考えを追い出す。
 一度やると決めたならそれは完遂しなければならない! なにより、私はそんな形で刑務所を出て、それで幸せなのか!? 違うだろうが渡辺希美子!


「一からのスタート? それが何よ! 私の味噌汁はどんな物でも腐らせるのよ! 鉄如きで私の脱獄を遮れると夢にも思わないことね!」



 服役二百六十日目。
 隣の部屋にいた服役囚がシャバに出るらしい。妬ましいやら羨ましいやら羨ましい。
 代わりに女がその部屋に入ることになった。
 年は私の一つ下、二十だった。ああ、そういえば私もう二十二だっけ、じゃあ二つ下か。
 朝食時にその女の子は私の向かいの席に座り話しかけてきた。声のトーンは低く、注意しなければ周りの雑音で聞こえなくなりそうだった。


「渡辺さん……貴方は、私と同じ臭いがする」


 開口一番頭のおかしなことを言う。最近の二十歳はこんな事を言うのか。これだから平成生まれは怖いのだ。


「渡辺さん……貴方、脱獄を企ててるわね?」


「……!」


 いきなりな言葉に私は心臓が飛び出るかと思った。本当に出たらどうしてくれる。ちゃんと戻してくれるのか。


「私は……私は、必ずここから出てやる、必ず……」


 必ず、必ず……と食事に手を付けず呟いている彼女が怖くて、私はパンと牛乳を口に詰め込みすぐに食堂を出た。


「……サイコさんっているんだなあ……」


 私の呟きを聞きつけた服役囚の男が「ご同類でも見つけたか?」と言ってきたので踵で爪先を踏んでやった。純情可憐な私に何を言う。


 服役二百九十日目。
 サイコな女の子の名前だが、篠原真紀と言うらしい。彼女は人間二人を殺害してここに来た凶悪犯とのこと。何でそんな奴と万引き犯の私が同じところに入れられなければならんのか? 日本は腐ってる。


「渡辺、あの篠原にはあまり近づくなよ。あいつは何かやらかしそうな雰囲気が出てるからな」


 私がこの刑務所に入ってから縁のある看守がそんな忠告をくれた。


「あの、何であんな凶悪犯がここにいるんですか? 部屋に閉じ込めておいたりとかしないんですか?」


「……胸糞悪い話さ。仕事名は言えんが、篠原の両親が偉い人間でな。流石に捕まりはしたが、出来うる限りの扱いをしなけりゃならんのさ」


 確かに胸糞悪い。そういう揉み消しだか圧力だかは現実の話とは思っていなかったのだが、あるもんなんだなあ。
 篠原真紀は、この刑務所において明らかに異質だった。食事の後、部屋が隣なので彼女と一緒に帰るのだが、いつもブツブツ暗い声で呟いているのが薄気味悪い。これは早いところ脱獄しないとストレスが溜まって噴火しそうだ。


 服役三百三十六日目。
 とうとう篠原が狂った。
 昼食時間いつも通り味噌汁を口に含んでいると篠原は食器の箸を看守の原に突き刺して警棒と鍵束を奪い逃走した。
 昔の私と似たようなことをしやがって。この猿真似女! と思い私は篠原の後を追った。……味噌汁を含んだままなので呼吸しづらい!
 追いかける私を見て篠原が驚いた顔で「ついてくるな!」と叫んだが、私はお構いなしに彼女との距離を縮める。
 ようやく手が届くくらいの位置に辿り着くと、篠原が振り返って看守から奪った警棒で私を殴ろうとする。
 追いかけてきといてなんだが、殴られると思ってなかった私はビックリして味噌汁を噴出してしまった。ああ……味噌汁は御代わりできないのに……


「ぎゃあ!!」


 偶然私の吹いた味噌汁が篠原の目に入り、篠原は警棒を落として悶絶する。……これは、チャンスなのか?


「……せい!」


 篠原の鳩尾に正拳突きを当てて、鍵束を取り上げる。これで、これで私は自由になれる!


「わ、渡辺ー!」


「……まあね、そうなるよね。いいわよ私は自分の道を行くから」


 後ろから聞こえた看守の声に今築かれた脱獄計画が終わった。スピード更新ね!


 お腹を押さえて現れた看守に礼を言われて、私は他の看守に連れられて自分の部屋に戻った。
 ままならないのが世の中だ、とはよく言ったものだわ。まったく。



 服役三百六十七日目。
 もう私がここにきてから一年以上経つわけね、もう自分の部屋がどんなだったか覚えてないわ。私のパソコンがVistaだったことは覚えてるけど。使えなかったから。


 なんだかやるせなくなって自分のベッドに顔を突っ込んでうーうー、とうなる。これ人から見られたら恥ずかしい、などとは思わない。
 この時間は看守の見回りの時間ではないのだ。一年いればここのサイクルを知ることなど造作も無い。


「……もっと効率的に味噌汁を運ぶ方法は無いかしらね」


 そう考えるのには、最近服役囚達の間である遊びが流行っていることが原因である。
 服役囚の間で私が昼食と夕食で味噌汁を口に含んでいるのは周知の事実となっている。その為、私を笑わせて味噌汁を噴出させようとしてくる輩が増えてきたのだ。
 この前は不覚にも「ボンバルディア!」と叫ばれて笑ってしまった。古いんだよネタが。
 笑わせようとする遊びに便乗する人間が増えに増えて、今では食事の時私の近くに座る人間は全員笑いの刺客と化した。一番腹が立つのは看守もその遊びに加わっていることだ。あの男、最近では外から小道具を持ってきてまで笑わせようとしてくる。リオのカーニバルの衣装で現れた時なんかは笑うよりも愕然として味噌汁を溢してしまった。やんちゃとかそういうレベルじゃない。


「この一週間一回も部屋まで味噌汁持ってきてない……ふええ……」


 まさか味噌汁を口内で運ぶことが出来ないから泣くなんてことがあるとは思わなかった。
 枕に顔を押し付けてさめざめと泣く。こんなに泣いたのはアルマゲドンを見て以来だ……


 二十分程泣いて、私はベッドから立ち上がった。よし、もう大丈夫。もう泣かない。今度泣くときは私が脱獄した時だ!


「にしても、このペースじゃ外せるようになるまで随分かかりそうね……」


 窓の鉄格子を触りながら独りごちる。錆らしきものが出てきてはいるが、力を加えても揺れず、しっかりと壁に突き刺さっている。当分外れるどころかぐらつきそうもない。


 とここで、私に名案が浮かんだ。確か味噌汁が鉄格子を酸化させるのは塩分が含まれているからだと聞いたことがある。というか常識だ。
 なら、味噌汁に塩を大量にぶち込んでから口に含んでみればいいんじゃないか?そうすれば酸化も早まるだろう。


「……くっくっ、私はなんて頭が良いの? 自分の頭脳に、閃きに、アイデアに驚いて卒倒しそうだわ!」


 我天啓を得たり! 早速実行するわ!
 味噌汁運搬の妨害阻止の案は浮かばなかったが、計画の加速方を編み出した私にはそんなものは些事であった。


 その日の夕食に備え付けの塩を全部入れる。これなら鉄格子なんて一昼夜で腐らせそうね。これはもう味噌汁ではなく塩酸と言っても過言ではないわ。


 いつも通り椀を傾けて口に含む。……あ、駄目だこれ。
 誰かに笑わされる間もなく口に入れた瞬間ぶちまける。これは辛い、とてもじゃないが口に入れて運ぶなんて出来るわけが無い。
 げほげほと咳き込む私に周りの服役囚達が


「何だよ、折角とっておきのネタを考えてきたのにさ」

「俺なんかベジータの物まね練習したんだぜ」

「味噌汁女ー、いくらいつもの味噌汁に飽きたからって塩入れすぎだろ? 新しい味を開拓したかったのか?」


 と心配なんて殊勝なものが一欠けらも無いコメントをくれた。お前らもう日常に帰れよ、それだけネタを披露したいならNSCとかに行けば良いじゃない。


 絶望の海に沈みそうになった私はさらに閃いた。服の中に塩を隠して、味噌汁を鉄格子に掛けた後ふり掛ければいいんじゃないか、と。


 その日はとりあえず水を口に含んで鉄格子に吹きかけて、隠し持っていた塩を付ける。腐れ腐れ、どんどん腐れ!


「明日からこの方法でいくか……私が日の目を見る日も近い、近いわ!」


 夜中に高笑いを上げた私を看守が怒鳴るまで、私は約束された勝利に酔いしれていた……


 服役三百八十三日目。


「……とうとう、やったのね。私」


 今、私は刑務所の外に出ている。上を見れば太陽が燦々と輝いている。風が私の体を通り抜けている!
 下を見れば地面がある、雑草が生えている! ああ、なんて世界は優しいのだろう!
 私は、私はついに脱獄に成功したのだ!


「フフフ、悔しいでしょうねあの看守! まさか私が! この私が外に出られるなんて思いもしなかったんでしょう!? 馬鹿が! 愚民め! 渡辺希美子の頭脳と根性を甘く見たのがそもそもの間違いなのよ!」


 思えばここまで長かった。刑務所にいる女ということで男達に襲われるのでは? と危惧したのに味噌汁女とあだ名を付けられたせいでそんなことは全然無かった。ぶっちゃけ女のプライドは塵と消えた。
 もしかしたら私のことが好きなんだろうかと思ってた看守に普通に彼女がいたことでラブコメ展開は露となった。
 最後のほうはこのまま刑務所暮らしも悪くないかなとか思いだしたけど……私はやりきったのだ!


「これが、プリズンブレイクというものか……! うぉー!」


 歓喜の雄叫び、私のそれは遠く遠く、きっと刑務所の中にも響いているだろう。


「おい渡辺。これお前の給料だ」


「あ、どうも」


 知らなかったのだが、刑務所内で働いた分は時給としては低いが給料として渡されるらしい。長い間社会に出れずにいたのだから、少しは金を持ったほうが良いだろうという配慮だ。
 私は看守から札束の入った袋を受け取る。時給が低いといっても一年以上みっちり働いた分だから、結構入ってるもんなのね。


「しかし、良かったな渡辺。今日でお前も出所か。何だか寂しいなあ」


「あ、看守さん。出所じゃないです、脱獄したんです私」


「何言ってるんだよ、お前は立派に刑期を終えたじゃないか」


「脱獄です。誰がなんと言おうと私は脱獄したんです」


 看守さんは怪訝そうな表情を顔に張り付かせて、私を見る。
 私はそれに笑顔で返して、刑務所から離れていく。


これからどうしようか? 脱獄記念に本でも出版しようかしら。ああ、よく考えたら追われる身で本なんか出せるわけ無いわよね、いけない、てへっ。


 季節は夏。入道雲が山のような形を作り、蝉が合掌している。


「やあ、実に良い脱獄日和ね!」


 きっと私の現実逃避は、家に帰って妹を殴るまで終わらない。











 あとがき
 完全に悪ふざけですね。
 この作品は違う小説のデータが吹っ飛んだので、発狂して書きました。
 リアリティも構成も内容も落ちもまったく考えずに書きましたので、もう頭の悪さ全快です。気分を悪くさせること請け合いですね、ごめんなさい。
 それでは、ここまで読んでくれてありがとうございました。
 全ての読者様に感謝を。





 感想掲示板にてご指摘されましたので、追記を。
 味噌汁をかけて腐食させるのは鉄格子ではなく手錠だったようです。
 これはあくまでフィクションとしてお楽しみ下さい。
 ご指摘、ありがとうございました。


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