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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の七十八 俺と更に。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:c0889e7d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/18 00:46
俺と鬼と賽の河原と。生生世世







「え? ほらあれだ、筋肉痛なんだよ。婆ぶっ放して戦闘したりしててな。まあ嘘だが」


 閻魔との電話中、不意に玄関の呼び鈴が鳴る。


「すまん、来客だ」


 適当にあしらって、俺は携帯を閉じ、玄関へと向かった。

 一体誰だこの野郎。


「どちらさんだ?」


 扉を開けながら、俺は問う。


「甘酒はござらんか?」


 ああ、こいつは――。


「甘酒は……、ござらんか?」


 ――甘酒婆だ。


「……またババアかっ!」













其の七十八 俺と更に。











「……」

「甘酒はござらんか」


 俺は無言でババアと睨みあう。


「なぜ、何も仰られぬのか」


 ババアは問うが、甘酒の有る無しを答えるわけがないのだ。


「じゃあ、仮に。あるって言ったらどうなる」

「熱病に罹る」


 しれっと婆さんは言った。

 よくもまあ、いけしゃあしゃあと。


「なら、ないって言ったら――?」


 俺は問う。

 ババアは答える。


「熱病に掛かる」

「ほらな!!」


 性質が悪いったらないぜ、このババア。どちらにせよ病気確定じゃないかよ。


「答えてくださらんか」

「答えない」

「答えるまでここを動きませぬ!」

「ありますん!!」

「どっち!」

「知りますん!!」

「なんでしょうそれは!」

「わかりますん!!」


 はあはあと肩で息をする俺とババア。

 一進一退の攻防だ。


「仕方がありませぬな」


 ババアは言う。


「このままでは埒が明かぬと言うもの」


 ついに諦めたか。


「私もまた、熱病はやりすぎだと思っていた頃ゆえ、少々レベルを下げて……」


 あ、駄目ですか、譲歩ですか。


「私が貴方を暖めましょう!」

「うわいらない」

「さあ! 甘酒はござらんか!!」

「要らん!」

「そう言わず! さあ! さあさあさあ!! 私と恋の熱病に罹りましょう!!」

「上手いこと言ったつもりか!!」

「内心会心の出来だと思った!!」

「ねーよ!」

「傷つく!」


 ばっと両手を広げて迫ってくるババア。どうやって回避する……?

 もうあれか? ボグシャアしかないのか? 逮捕覚悟で。

 やるしかないか? いっちまうか?

 ……まあいいや、サァ逝くか。

 無造作に振り上がる拳。

 マジでやっちまうぜ、ってその瞬間。

 俺とババアの間に人影が割って入った。


「何をやってるんじゃお主らは……」


 その残念なTシャツと、赤銅色の金髪は……。

 魃じゃないか。


「今まさにこの男が私に熱を上げようとしている所よ! 小娘!!」

「はっはぁ、嘘だぜ。間違いなく」


 無駄に勢いづいたババアに向かって、魃は溜息を吐いた。


「要らぬわ。帰って貰えるかの?」


 おお、心強いぜ。

 今となっては、白いTシャツに描かれた、豪快な筆文字の『ノーセンキュー』が眩しい。


「ぬぬぬぅ……、小娘。何の権利があって……」


 食い下がるババアに、きっぱりと魃は言った。


「間に合っておる」


 彼女は俺の手を握り、ババアを見る。


「この男に熱を与えるのは、……妾だけでよい」









「くっ……、ここは引き下がろう、小娘。しかし、私を退けても第二第三のババアがお前たちの前に現れることだろう……、ゆめゆめ忘れるな!!」

「もう俺の知ってる婆の範疇じゃねぇ……」









「……ふう、助かったぜ。流石に二日連続でババアに襲われるとは思わなんだ」

「いや、よい……」


 この薬師、義理は果たす。ということで、家に上げてお茶も出す。


「……のう、薬師」


 隣に俺も座ると、魃は声を上げた。

 俺は、すぐ隣の魃を見る。


「なんだ?」


 おずおずと、魃は聞いた。


「暑く、……ないかの?」

「どういうこった?」

「どうも、力が回復し始めてるようなのじゃ」

「なるほどな」


 確かに、言われてみれば。

 温度が上昇したわけではないが、範囲が広がった気がする。

 今までは魃が温かいだけで、周りに影響はなかった。

 しかし、今。周囲六尺七尺くらいは影響下にある気がする。


「そうみたいだな。見たとこ」

「そうか……」


 諦めたように、魃は笑った。


「ま、仕方ないのう。分かっていたことじゃ」


 悔いは無いとばかりに微笑む。


「のう、暑くはないか? 無理に近くにいる必要はないぞ?」


 そして、気遣うように口にした。


「また倒れさせるのは御免と言う物じゃ」


 俺は、そんな魃に声を掛ける。


「おい、魃さんよ。ちょいといいか?」

「なんじゃ」


 魃がこちらを向く。

 その瞬間、俺は膝立ちになり、魃を抱きしめた。

 暴れる魃を、無視して俺はその状態を続ける。


「なにを……、するんじゃ」

「いや、お前さん。俺がどんなのか分かってねーな、と」


 俺が離さない事が分かると、魃は諦めたらしく抵抗をやめ、拗ねたような声を上げた。


「お主なんてあれじゃろ。ぐうたらで、残念で、鈍くて、ぐうたらで、馬鹿じゃ」

「……言い返せん」

「あと面倒臭がり」

「ぐう」


 ぐうの音だけ出た俺に、魃は腕の中、首を傾げる。


「分からんのは、その割にこうして妾に触れようとしてくることじゃ。暑くて、面倒じゃろうに」


 そんな魃を、俺は鼻で笑った。


「分かってないな、魃さんよ」

「ぬ、ムカつくのう、その顔」


 むっとする魃に、更なる笑顔を俺は返す。


「俺は人の嫌がることをするのが大好きなんだよ」

「……ばーか」


 馬鹿とはなんだ。




















 結局、『離れろ、ばか』の一言で俺は魃から離れることにした。

 何故か、右手だけ離してくれなかったが。


「何でだ」

「……察しろ、ばか」


 馬鹿馬鹿と、俺はそんなに馬鹿じゃない、と反論したいところだが、とりあえず。

 察した気分になってみるとしよう。

 黙って隣にいることにする。


「ところで、じゃな。シュークリーム、食べるかの?」


 唐突に、魃は机の上に箱を載せた。

 よく見る店の名が刻まれている。


「……今日は覚醒必殺技とやらはとびださぬ、よな?」


 魃が半眼を向けてきた。

 失礼な奴だ。そんなことするはずないだろうに。


「安心しろ、テンションゲージ半分以下だから。まあ、右、下、右下、HSからの叩き落しが出なければ大丈夫だろう」

「はあ……」


 まあ、流石に俺も飛び上がりながらシュークリームを打ち上げて地面に叩きつける真似はしたくない。


「今日はチョコとカスタードがあるんじゃが、どちらがよい?」

「カスタード」


 なんとなくで俺は答える。

 手渡されるシュークリームを俺は噛む。

 まことに幸いなことに、意趣返しとばかりにカスタードがマスタードになっていることもなく、甘い。

 地面に置かれた手は触れ合ったまま、魃もまたシュークリームを食べる。

 しばし無言。

 そして、一つ目を食べ終わった辺りで、魃が呟いた。


「そう言えば、チョコレートは一つしかなかったの。妾ので最後じゃ」

「なに、しまった。やられた」


 謀られた。カスタード三つにチョコ一つってどんだけつりあい取れてないんだよ。

 そう思って、魃を見たら、彼女は口を尖らせた。


「仕方ないじゃろう。一つしか売ってなかったんじゃから」

「くっ、仕方ないとはいえ、口惜しい。吐け」

「無理を言うでないわ。阿呆」


 ちくしょう、別にそんなに食べたかったわけでもないのに損した気分だ。

 思わず、つんつんと、魃の頬を恨めしそうにつつく。


「やめんか」


 やめない。


「やめんか」


 続行。


「やめんか……」


 それでも俺は頬をつつくのをやめない。


「そんなに、食べたかったのかの……?」

「食えないとなると酷くもったいないことした気分になるぜ」


 すると、魃は唐突に頬を赤くして、俺を見上げた。


「もしかすると、その。口の中に……、残っとるかもしれんぞ……?」

「……」

「……」


 無言。


「なっ、なにか言わんか!」

「いや……。恥ずかしいなら言わなきゃいいのにな」

「うるさい! うるさい馬鹿!」

「俺が、よし、じゃあ口の中の舐め取るって言ったらどうするんだよ」

「そのっ……、ときは、責任取ってもらう……?」


 なんで疑問系なんだ。

 しかし、責任ね。責任とってやんなきゃなぁ。いい加減、なんもかんも決着付けてやらにゃあなるまい。

 結界と呼べる代物かは微妙だが、理論は完成、後は実践あるのみだが、準備が足らない。

 これでもババアと遊び呆けていたわけではない。


「ま、安心しろよ。そこそこ取ってやるから」

「と、取ってくれるのかの……? でも、そこそこ?」

「そう、そこそこ」


 なんてすばらしい感動的な俺の言葉。

 しかし、向けられたのは半眼と溜息だった。


「はあ……、お主という奴は。まあ、そうじゃったの。のう薬師」


 まったく、人がせっかくやる気出して頑張ると言ったのに、その態度は些かやる気が下がるぞ。


「なんだよ」

「頑張らなくてもよいぞ?」

「いきなりなんだってんだ」

「無理して妾に付き合うこともない」


 またそれか。

 俺は溜息を吐いて、分かってないな、と言おうとしたら。


「そう言ったら頑張ってくれるんじゃろ? 妾のために」


 先に、魃が人懐っこく笑って言った。


「わかってんじゃねーかよ」


 俺も、思わず笑い返す。


「のう、薬師。寄るな、一生顔も見たくない」

「そうか」

「だから、嫌がる妾のずっと傍にいて……?」


 見上げる魃に、俺はふん、と鼻で笑った。


「任せろ。人の嫌がることは大の得意だ」

「……薬師」

「ん?」


 魃が、不意に俺に顔を寄せる。

 至近距離に迫る顔。

 彼女は言った。


「妾と、熱、上げてみるかの……?」


 熱っぽく、妖しく。

 俺はぽかんと固まって、魃も止まっていた。

 そして、最終的に。


「恥ずかしい!!」

「オウッ」


 思い切り平手打ちの刑に処された。


















 おまけと言うかオチ。


「なんかよく分からんが、機嫌直せよ」

「別に機嫌悪くなどないわ」

「うっそでー。ならなんで部屋の隅で体育座りなんだよ」


 薬師に背を向けて、体育座りの魃。

 よほどの不機嫌らしい。と、薬師は踏んでいたが、そうでもなく。


「うるさい。恥ずかしくてまともに顔も見れんだけじゃ、ばか……」


 うるさい、の後の台詞はぼそぼそと。薬師に届いたのか届いていないのか。


「まったく。まあ、いいか」


 どことなく、背にかかる声が心地よい。

 まあ、結局の所。

 笑っても拗ねても、今この現状が心地よいわけだが。

 馬鹿らしくなって、魃は振り向いた。

 不意打ち気味に彼女は薬師に抱きつく。

 ああ、いっそこの際キスでもしてしまおうか、それとも愛の告白の一つでもしてしまえばいいのか。

 照れくさくて、魃は薬師の胸に顔を埋めた。

 いやに甘くて、熱い状況。

 だったのだが。

 そんな状況を邪魔したのは。


「甘酒はござらんか」


 また、ババアかと。


「ぬふふぅ、しかし、小娘には熱病は必要ないようだが、男には必要なんじゃないかい?」


 にやにやと笑う婆。黙る魃。


「……」


 魃が再起動する。


「薬師。実際、甘酒はあるのかの?」

「ん、缶のやつがあった気がするが」


 その言葉に応え、魃は冷蔵庫から甘酒を取り出した。

 そして、戻ってくるなり、それを開ける。

 最後に。


「よく味わうがいいわ!!」


 自身の能力で沸騰したそれを甘酒婆の頭上で逆さに。


「アッーー!!」

「はいだらー!!」

「わはー、魃さんマジ鬼畜」





















―――
何故二度連続でババアネタなのか。それは私のネタのメモの仕業。
テキストファイルに実際にメモされていた内容がこちら。


ターボ婆ちゃんとブーメラン婆でSBA(スタイリッシュババアアクション)


甘酒婆


ボールを友達にする能力


殺意のある宇宙人


朝起きたら薬師の右手がドライヤーに


……意味分からんです。マジで。本気で意味分からないから上から消化しようかな、と。
いや、多分次は普通に攻めます。



そして、完全に余談ですが、十五日にリボルテックのジェフティを購入してきたせいでロボアクションがしたくなる病。


ついでに、突貫で大天狗奇譚とか書いてました。
今から更新してきます。









返信


センター様

笑っていただければこれ幸い。
久々に完全ネタに走った気がします。
発作です。
多分間違いなく。


ズトラ様

コメディを描いた時ほど、笑えるかどうか心配なときはないです。
コメントが来てやっと一安心。
もういっそ己にしか趣味あわねぇってレベルの産廃なら逆にいいんですけど。
もう一種の開き直りが発動して。


黒茶色様

次出たら魔のババアトライアングルアタックですかね。足売りババアを加えて。
ババアババアドライブから、ババアババアババアドライブにジョグレス進化です。
しかし、これだけババアババア言ってたらババアがゲシュタルト崩壊しそうですババア。
果たしてこの四行で何回ババアと書いたやら。


リーク様

あちこちで大人気ですよ。ターボ婆ちゃんその他。
走る婆に飛ぶ婆、バスケする婆に卵投げる婆まで。多様性と一貫した婆が売りです。
ついでに「世界各国の妖怪、どれが最強か比べてみた」で調べるとちょっと幸せになれるかも
四次元婆とか地味に怖いですし。いつの日かアトミックババァとか出てこないか不安です。


奇々怪々様

どうしてこうなったかは、私にも皆目見当もつかない。不思議。
いやしかし、意気投合して思わず結婚したら見事な熟年カップル。お似合いですよ。
ツインババアはいがみ合ってたはずですが、結局双方ツンデレ的ライバルな二人だったらしく、いざとなったら手を組むタイプだった模様。
とりあえず、土壇場婆の萎え具合は以上だと思います。


通りすがり六世様

唐突なババア展開。まあ、そんな日もあります。多分、あるんです。
しかし、初対面の婆にすらいじられる美沙希ちゃんはまさに見事なドM体質。
次出てきたら、奴ら三段進化とか遂げてそうで怖いです。亜光速婆とか、そんな感じの。
とりあえず、自分ですら突っ込み切れるか定かじゃないです。どれくらいありますかね、突っ込みどころ。


春都様

SBAのところが一番書きたかった。ババアスタイリッシュアクション。
ただ、誰も順を追って、ババアとの物語なんて読みたくないと思ったんです。
故の超展開。誰も薬師と婆が少しづつ心通わせて手を取り合うところなんて見たくないんだぜーッ!!
次回くらいには清涼剤を入れたいと思ってます。はい。


SEVEN様

こいつら……、動くぞ!! そんな婆たちの宴。早く終われ。速攻で終われ。
しかし、棺桶婆とか、マジ凶悪です。車の運転手をつかみ出して棺桶にぶっこんでそのまま焼却場です。マジ鬼畜。
それにしても、美沙希ちゃんはババアといえるのかどうか。ババアの年齢を余裕でブーストしてますので、ロリ化石……?
そして、もしかすると、あのツインババアこそ、発生して間もない可能性すらある、斬新なロリババアかもしれない。なにそのホラー。









最後に。

流石に次はババアじゃないよ!


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